暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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人って用意されてるものがあると、楽したくて乗っちゃいがちですよね。それにどんな落とし穴があるかも考えないで……
今回はその辺のお話。

今回はそこまで原作から乖離してない内容です。


34話 ビジョンの時間

 殺せんせーがマッハを駆使してE組専用のプールを作ってくれたおかげで、机に伏せたりだれて動けなくなっていた過酷な夏のE組生活でも楽しみが生まれ、元のように勉強に取り組める生徒が増えてきた。

 体育の時はもちろん、殺せんせーが監視してない時、体育以外の長い休み時間や放課後にプールで涼んでから、泳いでから家に帰る生徒もチラホラいるようで。陽菜乃ちゃんなんかはすでに生き物の集まる観察地点として意気揚々と虫かご持って裏山に入っていく時もあるくらいだ。他の人だと、元水泳部のメグちゃんなんかは、毎日のように水泳道具を持ってきて、放課後に泳いでいるみたい。

 

「今日は水着持ってきたー?」

 

「おう!母さんにE組でもプールに何度も入れるのねーとか言われたけど、ちゃんと歩いてプールに行けば許可出てるっていえば準備手伝ってくれるから!」

 

「間違いないな!ちゃんと歩いて、E組専用プールに行ってるわけだしな!」

 

 家族に暗殺のことは内緒にしなくちゃいけないから、『E組は劣悪な環境』だとしか思っていない家族に上手く言い訳してる人もいるみたい。何人かはすぐ帰っちゃう人もいるけど……みんな、新たな環境に適応して楽しんでるんだ。

 それだけじゃない……これまで殺せんせーとE組の教室で一緒に生活してきて、少しずつ見つけてきた弱点……今まではどれも決定打にするには足りないものばかりだったけど、ついに見つけたんだ。暗殺成功の足がかりになり得るもの……それこそが、殺せんせーは【泳げない】というものだった。

 

 メグちゃんとカエデちゃん、渚くんが殺せんせーに隠れて暗殺のための準備をしていた時に、ひょんなことから殺せんせー本人が【水を含むとほとんど身動きが取れなくなる】という最大の弱点だと告白してくれたらしい……自分の命を脅かすものだっていうのに、ちゃんと向き合えばそういうことまで教えてくれちゃうの、なんか殺せんせーらしいよね。

 なんにせよ、これを暗殺にうまく組み込めば、なかなか決定打を与えられなかった殺せんせー相手でも、勝てるかもしれない。

 

 この情報がクラスに広がると、プールを本格的に使える長い夏の間……やろうと思えば冬でもいいけど、誰も凍るような水に入りたくはないだろうからやっぱり夏の間にどう仕掛けようかという話題が上がって当然。

 ……なんだけど、私にはE組の中で数人、様子がおかしい人たちがいるように感じていた。

 

「……はぁ」

 

「……寺坂くん、どうかしたの……?」

 

「……はぁ?」

 

「なんか、最近イライラしてるっていうか焦ってるというか……いつも、居心地が悪そう……」

 

「……何でもねーよ……」

 

 その筆頭は寺坂くん……彼以外にも村松くんや吉田くん、綺羅々ちゃんも様子がおかしいといえばおかしいのだけど、最近一緒にいない時の3人はクラスを観察するように見ているのをよく見かける。まだ、様子見していたり我関せず感が強いだけで、そこまで気になるような様子じゃない。

 だけど唯一、その3人のリーダー格な寺坂くんは、最近は特にほとんど一人でつまらなさそうに席に座っているか、サボって教室にも学校にもどこにもいないか、のどちらかばかりだ。今もいつもと変わらないながら私が話しかければ返事をしてくれるけど……雰囲気にイラつきというか、だるさというか……そんな負の感情が込められているような気がしてならない。

 

「アミサ、そんなのほっといてこっちおいで」

 

「そんなのって、もう……じゃあ寺坂くん、また、後でね」

 

「……フン」

 

 だからかな……今じゃ寺坂くんは少しクラスから浮いていて、進んで話しかけに行く人や絡みに行く人を、私はほとんど見たことがない……ハッキリ言ってよく一緒にいる村松くんたちの3人や私、磯貝くんだけじゃないかってくらいだ。からかったり煽ったりしてるカルマはとりあえず別枠ってことにしておく。

 カルマに呼ばれて一言声をかけると、彼は私を片手で追い払うようにして手を振り、また怠そうに教室を眺め始めた。

 

 寺坂くんの席から離れて自分の席に戻ると、私を呼び戻した彼は隣でプールバックの準備をしながら結構大きな水鉄砲をいじっている最中だった。

 

「全く……アミサって臆病なのか度胸あるのか時々わかんなくなるよね」

 

「私、怖がりな自覚はあるけど、寺坂くんは怖い人じゃないもん。ちゃんといつでも本心から思ったことを話してるから」

 

「それ、嘘つけないって言ってるようなもんだよね」

 

「……絶対、嘘つきよりよくない?」

 

「……かもね。そういう奴って扱いやすいからさ」

 

「また悪いこと考えてるー……わぁ、カルマ、今日はそれ持ってきたの?」

 

「単純って言ってんの。……あ、これ?うん、射撃の訓練にもなるし……攻撃じゃないからあのタコも油断するんじゃね?」

 

 ……E組でも、みんなは「寺坂くんは怖い」、「危ない」、「乱暴者だ」っていう。だけど、E組に来てからしか交流したことの無い私にとっては、彼に対してそんなことをあまり考えたことがないし感じたこともない。

 ……確かに言動に乱暴な所はあると思うけど……でも、話しかけたら返してくれるし、意外と周りをよく見て聞いているし、彼の話す言葉の中には温度が含まれていると思うから。そんな自分の存在で行動力で魅せる彼だから、村松くん、吉田くん、綺羅々ちゃんは寺坂くんと一緒に行動することもあるんだろうし……温度の含まれない、上辺だけの言葉を並べている人の方が、私にとってはよっぽど怖い。

 

「あ、プールといえば……朝ね、教員室に行った時にイリーナ先生とお話したんだけどね、『あんた達ガキどもばっかり涼んでんじゃないわよ!私のセクシーな水着で悩殺してやるわ……!』だって。なんかよく分かんないけどすっごく燃えてた」

 

「悩殺って……ビッチ先生、そのガキどもに見せてどうすんだよ」

 

「なんで?」

 

「あー……ビッチ先生が俺等のことをガキっていうなら、ビッチ先生が悩殺対象にしたいヤツの年齢じゃないってことでしょ。それに俺等からしたら普段から痴女なの知れ渡ってんだから意味ないって」

 

「んー……そうなの?」

 

「そうでしょ。……ま、男子の中で異性として気になってる女子が学校指定の水着以外を着てくる、とかなれば話は別かもしれないけ

「おい、皆来てくれ!プールが大変だぞ!!」

ど……って……は?」

 

「……カルマ、行ってみようよ」

 

「……そうだね、行こうか」

 

 休み時間の間にプールへ行っていたのだろう、岡島くんがかなり慌てた様子で教室に飛び込んできた。プールが大変って……詳しく知りたくてもそれだけ言ってまた外へ駆け出していってしまったから何があったのか、まったく分からない。直接見に行って確かめるしかない、かな。

 教室でプールに行く準備をしていた他のみんなもその声を聞いてバラバラと向かい出し、私たちも足を向ける。……教室を出る直前に中を振り返った時、目が合った寺坂くんが、ニヤリと笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を持ってきた岡島くんの先導で裏山を走り、プールにつくと……あのきれいな設備が形もないくらいにめちゃくちゃに荒らされていた。

 コースロープは切られ、休憩スペースの椅子や飛び込み台が壊されて水の上に浮かび、空き缶や雑誌などのゴミも捨てられている。幸い水だけは途切れることなく流れ続けているから濁ったり少なかったりしてなくてキレイだけど……

 

 ……ここは中学校の私有地とはいえE組……本校舎よりはセキュリティがしっかりしてない場所だから、誰かが入ってきて荒らした、とも考えられるけど……昨日までなんともなくて普通だったのに一晩でここまで荒れるものだろうか。

 

「……ひでぇ、メチャメチャじゃねーか」

 

「ビッチ先生がセクシー水着を披露する機会を逃して呆然としてる……」

 

「ゴミまで捨てて……ひどい。誰がこんなこと……」

 

「あーあー、こりゃ大変だなぁ」

 

「ま、いーんじゃね?プールとかめんどいし」

 

 プールを荒らされたことに憤るみんなの中で、あとから追いかけてきてニヤニヤとその様子を見ながら嗤っている寺坂くん、吉田くん、村松くんの3人……あれ?……寺坂くんはともかく、あとの2人はなんだかぎこちないというか……微妙な顔をしているというか。

 渚くんもそれが気になったのか彼らの方を見ている……寺坂くんたちを疑ってるのかな。でも、寺坂くんはそんな考えをくだらないと言い切ってるし、その会話を聞いていたらしい殺せんせーが一瞬でプールを修理したために犯人探しは有耶無耶になって分からないまま、終わった。

 

 他のみんなは何事もなくプールできそうでよかったとばかりにおしゃべりしながら教室に戻り始めている。さて戻ろうかとなった時には自然といつも通りの私、カルマ、渚くん、杉野くんの4人で集まったけど、話題はやっぱり先程の3人のことで……

 

「寺坂の様子が変?」

 

「……うーん……元々あの3人は勉強も暗殺も積極的な方じゃなかったけど……特に彼がイラ立ってるっていうか……プールを壊した主犯は多分寺坂君だし」

 

「え、寺坂くんは違うっていってたし、村松くんが言ってた通りプール入りたくないだけじゃなかったの……?」

 

「真尾、お前マジで人が好いな……まぁ放っとけよ。いじめっ子で通してきたあいつ的には面白くねーんだろ」

 

「殺していい教室なんて、楽しまない方がもったいないと思うけどね〜……よし、今なら油断してるかな……っと!」

 

「にゅやっ!?か、カルマ君いきなり何するんですか!?」

 

「……持ってきてたんだ、水鉄砲……」

 

 蝉の鳴く私たちの夏。もやもやする気持ちが無くならないまま今日も楽しくプール遊び……だけど、E組専用のプールが火種となって起きた事件は、これだけで終わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プールの事件があったその日の昼休み。みんながお昼ご飯を食べ終わって残りの時間を好きに過ごし始めた頃、殺せんせーが教室に廃材を大量に持ってきて何かを作り始めた。

 何やってるのか聞いてみたら、プールを作った時とさっきプールを直した時に出た廃材がもったいないし、せっかくだから作りたいものがあるんだって。

 

 できてからのお楽しみですよ〜って、鼻歌を歌いながらマッハで作る部分と丁寧に磨く部分とがあるせいか、教室に残っていた生徒たちはなにをやってるのかと興味津々……輪郭ができ始めると何かに気づいたのか、吉田くんの目が光った気がする。

 

「ふぃー……できました!」

 

「うお……!ま、マジかよ殺せんせー!!これ、前に俺と話してたバイクじゃねーか!すげぇ、本物みてーだ……!!」

 

 吉田くんが触ってみたり角度を変えて眺めていたりと大興奮で殺せんせーを賞賛している。……確か、吉田くんの実家がバイクの販売店なんだって寿美鈴おかーさんが教えてくれたはず……それだけバイクが好きなんだろうなぁ……すごく目がキラキラしてる。

 興奮した様に話す吉田くんと殺せんせーが特に盛り上がる中、今まで外にいたらしい寺坂くんが教室の扉を開けて、その様子を見た瞬間に固まっていた。

 

「……何してんだよ、吉田」

 

「あ、寺坂……いやぁ、この前こいつとバイクの話で盛り上がっちまってよ、うちの学校こういうのに興味あるやついねーから……」

 

「先生は大人な上に漢字の『漢』と書いて(おとこ)の中の(おとこ)……この手の趣味もひととおり齧ってます。……しかもこのバイク、最高時速300km出るんですって。先生一度本物に乗ってみたいモンです」

 

「アホか、抱き抱えて飛んだ方が速えだろ!」

 

 私たちにとっては当たり前のことを言って吉田くんにツッコまれる殺せんせー。殺せんせーの出せる速度はマッハ20……マッハ1でたしか秒速340m……それの20倍で、kmに直すから秒速6.8km……時速換算すると2万4480km。つまり、バイクの最高速度である時速300kmの約82倍。吉田くんの言うことがその通りすぎる……

 だけど修学旅行にみんなと一緒に行くことを楽しみにしていたり、メヘンディアートをやってもらったときに刺青を入れてみたいと言っていたり、みんなと何かをすることそのものを楽しみたい殺せんせーからしたら、本物のバイクに乗ってみたいって言う気持ちも分かる気がする。

 

 そのやりとりを聞いていたみんなが思わず笑い出した、時……何が気に入らなかったのかな……

 

 ───バキィッ!!

 

「にゅやーッ!!!?」

 

 無言で木造バイクに近づいた寺坂くんが、思い切り木造バイクを蹴り倒して、殺せんせーを泣かせてしまった。

 

「ちょっと寺坂!なんてことすんだよ!!」

 

「謝ってやんなよ、大人な上に漢字の漢と書いて(おとこ)の中の(おとこ)の殺せんせーが泣いてるよ!?」

 

 この短い昼休みの時間を使って、結構頑張った力作だったから……それを見ていたみんなが一緒になって寺坂くんを責める。

 

 寺坂くんは余計に苛立たしげに机の中に手を突っ込んで何かを取り出した。

 

「テメーら虫みたいにブンブンうるせぇなぁ……駆除してやるよ!」

 

 そう言って寺坂くんが教室の床に叩きつけたものは……スプレー缶!?普通に使わないでそんなことをしたら……!

 

 案の定床に叩きつけられた瞬間にそれは破裂し、中身が吹き出し、煙が教室中に充満する。スプレー独特の匂いが溢れて、私も近くにいたし避けようもなく吸い込んじゃったのだけど、……おかしいな、なんでだろ……この手のスプレーだったら影響ありそうなのに、目も、喉も痛くない……あまり刺激がないように感じる。

 誰かが言った『殺虫剤』という言葉を寺坂くんは否定しなかった……もし本当に殺虫剤だというなら、人が吸い込んだら害があってもおかしくないはずなのに。

 

「……へーき?」

 

「……うん、煙たいけど、あんまり痛いとかの刺激がないから……」

 

 一応カーディガンの袖で口元を覆いながら寺坂くんの方を見ていると、同じように口を覆いながらカルマが隣に近づいてきて心配そうに声をかけてきた。

 

「寺坂君!ヤンチャするにも限度ってものが……

「触んじゃねーよモンスター……気持ちわりーんだよ、テメーも、モンスターに操られて仲良しこよしのE組(テメーら)も!」」

 

 顔を真っ赤にして叱る殺せんせーが寺坂くんの肩に触手を置くけど、彼はそれを払い除けて言った……殺せんせーだけじゃなく、私たちみんなが『気持ち悪い』って。それを聞いてみんなの雰囲気が一気に悪くなり、彼に対して不満の感情が向けられているのが分かる。

 

 ……クラスのみんなで仲良くすることの何が、寺坂くんは嫌なんだろう……殺せんせーが気持ち悪い、その殺せんせーと関わることで繋がった私たちが気持ち悪い……じゃあ、殺せんせーが来る前だったら……?

 

「……寺坂くんは、変わったのが嫌なの……?」

 

「……っ!……チッ」

 

「ていうかさぁ……何がそんなに嫌なのかねぇ。気に入らないなら殺しゃいいじゃん。せっかくそれが許可されてる教室なのに」

 

 ポツリと出た、私の言葉に寺坂くんは一瞬目を開く反応を見せたけど、すぐに舌打ちをして顔を逸らしてしまった。誰も何も言わない中、呟いた私の声は思ったより響いていて何人かが「え、」というような反応を見せた、気がする。

 

 そしてほとんど間を置かずにすかさずカルマが煽る……そう、気に入らないなら殺ればいい。殺ればいいけど1人ではどうにもならない、それを学んだからみんなは協力しようとしているんだから……でも、

 

「っ、何だカルマ……テメー俺に喧嘩売ってんのか?上等だよ、だいたいテメーは最初から……───ッ!?」

 

「ダメだってば寺坂ぁ……ケンカするなら口より先に手ぇ出さなきゃ……」

 

「ッ!?……放せ!くだらねー……!」

 

 ……寺坂くんは、そんな気持ちにはなれないのかな……。カルマが寺坂くんの口を掴んで物理的に黙らせた……話すよりも手を出せ……気に入らないなら殺せばいいという言葉をそのまま喧嘩に表してみせていたけど、寺坂くんはその手を振り払って教室から出ていってしまった。

 

「けっ、なんなんだよアイツ……」

 

「一緒に平和にやれないもんかな……」

 

「……、……」

 

「……また、なんか気になることでもあんの?」

 

「あ、えと、寺坂くんが、こんなにタイミングよく殺虫剤なんて持ってたんだなーって……なんにも迷わないで机の中漁ってたから……」

 

「あー……でも、E組って虫だらけな環境ではあるから持ってても不思議じゃないんじゃない?」

 

「……まぁ確かに寺坂がってのは気になるけど、……結構このE組のヤツら自由に色々教室へ持ち込んでるからなー。ありえなくないんだよね」

 

「その筆頭が言うなよカルマ。そのでけぇ水鉄砲しかり、ゲームしかり」

 

「グラビア雑誌+エロ本を堂々持ち込んでるやつに言われたかないね」

 

「あ、私優月ちゃんが毎週ジャンプ買って持ってきてるの知ってるよー!」

 

「だって発売日に買わなきゃ!売り切れるとか嫌じゃん?そういう陽菜乃ちゃんだって虫かご置いてたりするでしょ?」

 

「菅谷のメヘンディアートも大概だったぞ?しかも落としてビッチ先生が踏み付けるほど」

 

「そんなこと言ったら奥田とか毒薬持ち込んでたんだぞ?俺のなんて趣味の延長でしかないだろ」

 

「も、もう持ち込んでませんよっ!煙幕くらいしか!」

 

「持ち込んでるじゃん;」

 

 ちょっとした疑問からみんなの持ち物事情で盛り上がるE組……こう思うと、学校に持ってきちゃダメってよく言われそうなもの、みんな結構持ち込んでるんだね……まぁ、みんなそれぞれ特有の暗殺道具を持ち込んでるようなものか。関係ないのもありそうだけど。

 そんな話が脱線しながら盛り上がる中、寺坂くんと交流を持ち続けていて、悔しそうに話していた磯貝くんが思い出したように私の近くへ来た。

 

「……なあ真尾……、だいぶ話を戻すけど、さっきの言葉の意味って聞いてもいいか?『変わったのが嫌』って……」

 

「……え、思ったから言っただけ、なんだけど……」

 

「真尾って俺等と違った視点で見て、違った思いを持ってるだろ?それが俺等だけじゃ気づけないことだったり、結構的をえてたりすることも多いからな。寺坂も微妙に反応してたし……一意見でいい、聞かせてくれないか?」

 

「…………う、うん」

 

 磯貝くんに問われて、周りで寺坂くんに文句を言ってる人が多い中……私は文句も怒りもせずに違う疑問をぶつけた。周りをよく見てみんなをまとめる視点のある磯貝くんも、私の一言に対する寺坂くんの様子に気づいていたみたい、だ。

 うまく説明できるかは分からないけど、私はそう思った理由を話していく。

 

「……渚くんから教えてもらったんだけど、E組って普通の進級と違って転級扱いだから、2年生の3月からここでの授業が始まってるん、だよね?私とカルマは4月からE組(ここ)に来た、だからE組の始まった3月から大体1ヶ月くらいの間に、何があったのかは分からない」

 

「それは、そう、だよな」

 

「……さっき寺坂くんは、『殺せんせーが気持ち悪い』『殺せんせーの影響を受けてるE組の人達みんなが気持ち悪い』って言ったんだよ。4月に私がここへ来た時にはもう殺せんせーがいて、まだ殺せんせーがみんなにそれほど影響を与えてない時期だった。それでも、話に聞いてたE組とは全然環境が違って……ということは、殺せんせーがいる時点でE組は変わってるってこと、だよね?」

 

「まぁ、理事長が介入してきて色々小細工を弄して堕とそうとしてるくらいだから、変わってるだろうな」

 

「そもそも劣悪な環境のはずなのにプールあるしな、今」

 

「校庭だって草だらけだったのに殺せんせーのおかげで普通に整備されたグラウンドだよな」

 

 殺せんせーを暗殺する、そんな大きな依頼をE組のクラス全体で取り組む目的にする。……E組に来たことで落ちこぼれのレッテルを貼られたみんなはきっと、絶望して目的もないまま過ごすはずだった。E組という場所と価値が、みんなに突然与えられた目的のおかげで、最初と大きく違う環境になったのは間違いないだろう。

 加えて淡々と落ちこぼれの1年を過ごす予定が、中間では学力成績トップ層をたたき出した上に平均点を底上げし、球技大会では男女ともに選抜チームをやっつけて……これで変わってないとは言えない。

 

「それより前のことは分かんないけど……殺せんせーが、……殺せんせーによって繋がった私たちが嫌だってことは、そうじゃなかった時……前と同じように、戻りたいのかなって……」

 

「…………前って、」

 

「……私は本校舎にいた時は周りを全然見てなかったから、寺坂くんが前、どうだったかとか、どんな人だったかなんて知らない……どう過ごしてたかなんて、わからないもん。どの前に戻りたいかは、分からないよ」

 

「……寺坂はここと同じように、乱暴者で孤立してたよ」

 

「そうそう、典型的なガキ大将って感じでさ、いわゆるいじめっ子ってやつ?」

 

「じゃあ、やっぱりその寺坂くんは、私の知らない人だ。……私が知ってるのはE組で、話しかければちゃんと返してくれる、反応してくれる寺坂くんだけだから……。もしかしたら寺坂くんは、みんなと同じ方を向きたくなくて孤立した今じゃなくて、みんなと同じように目的もなく何も考えなくていい前の方がよかったのかな、なんて……」

 

「「「…………」」」

 

「……あの、よく知らない私の考えだからね?全部そうとか思わないでね……?」

 

「いや、新しい視点だったから驚いただけだよ。ありがとう」

 

「う、うん……」

 

 誰も拾わないで放置されているスプレー缶を拾う……焦りと苛立ちで、孤立している寺坂くん……なんとか、どんな形でもいいから馴染んでくれるといいのに。早く、彼も含めてE組の日常、になるといいのに。

 

 出ていった寺坂くんはその日はもう、帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寺坂side

 

 地球の危機とか、暗殺のための自分磨きとか。

 

 ……落ちこぼれからの脱出とか。

 

 正直なところどーでもいい。

 

 その日その日を楽して適当に生きたいだけだ。

 

 だから、俺は……

 

「ご苦労様。プールの破壊、薬剤散布、薬剤混入……君のおかげで効率よく準備が出来た。はい、報酬の10万円。また次も頼むよ」

 

 ……ふん、楽して稼げる……こっちの方が居心地がいいな……

 

「なにせあのタコは鼻が利く。だから君のような内部の人間に頼んだのさ……イトナの性能をフルに活かす舞台作りを。」

 

 月の光を浴びて、どこか浮世離れな雰囲気を漂わせている小柄な少年……堀部イトナ……あのタコを今までで一番追い詰めた、触手を持つ改造人間。

 

「……そいつ、なんか変わったな。目と、髪型か?」

 

「その通りさ……髪型が変わった、それはつまり触手が変わったことを意味している。前回の反省を活かし、綿密な育成計画を立てて、より強力に調整したんだ。……寺坂竜馬、私には君の気持ちがよくわかるよ……安心しなさい、私の計画通り動いてくれればすぐにでも奴を殺し、奴が来る前のE組に戻してあげよう」

 

 そう、俺の望みは『元の、目的も何も無いE組で楽に暮らすこと』……それさえ叶えば、

 

〝……寺坂くんは、変わったのが嫌なの……?〟

 

「…………、」

 

 ……あいつは、それを見透かしてたってのか?あんなにチビで、いつも大人しいくせに時々大胆なことをして周りを驚かす不思議なやつ。俺がどんなに適当な態度をとっても1日に1回は何かしらで話しかけてくる変なやつ。子どものように無邪気で年相応らしくなく、それでいて……何も知らないはずなのに、内面を覗いているかのように的確に目で見て、耳で聞いて、本心を見透かしてくる怖いやつ。……あいつに関わると、調子が狂う。

 

 その時、イトナが俺の顔を覗き込んできた。

 

「な、何だよ」

 

「お前は……あのクラスの赤髪の奴より弱い。馬力も体格もあいつより勝るのに……何故か分かるか?」

 

 いきなり俺の目に手を伸ばし、無理やり開かせてくる……目の奥を覗き込むように、あいつのように……真尾のように手段は違えど奥にある何かを見つめるようにしながらこいつは話す。

 

「お前の目にはビジョンがない。勝利への意志も手段も情熱もない。目の前の草を漠然と喰ってるノロマな牛は、牛を殺すビジョンをもった狼には勝てない。それに『───────────────』」

 

「!!?」

 

 俺にとって、かなり衝撃的な言葉を残し、そして手を離すと、イトナは踵を返して去っていく。

 

「な、……なんなんだあの野郎、相変わらず!!」

 

「ごめんごめん、私の躾が行き届いてなくてね……君は我々の計画を実行するには適任なんだ。決行は……明日の放課後だ」

 

 ……、はぁ……まあいい。こいつらの計画さえ実行すれば、あの教室は元に戻る。元の、あの超生物が来る前の状態に……居心地の悪さだって、元に戻って楽できるようになるはずなんだ。

 ……ビジョン……そう、本気で殺すビジョンさえあれば……俺には、自分で考えずとも強いやつが考えた楽して殺すビジョンが既に示されてんだ。仲良しこよししてる、あいつらとは違うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前、あの爪を隠した小動物にすら勝てないだろうな』

 

 

 

 

 





「寺坂ってさ、バカじゃん?」

「……えと、突然どしたの……?」

「え、なんとなくそう思って」

「んー……寺坂くんは、頭で作戦とか立てるのには向いてないけど、何か決まったものさえあれば動けちゃう人だと思う」

「つまり、バカってことでしょ?自分では考えてないバカ……何かやらかしそうなんだよね〜」

「……言ってることは重いのに、軽い……でも、他人の考えとかを信じて動く……素直なとこもあるんじゃないかな……」

「……ああ、そういや前例あったっけ。……何もないといいね」



++++++++++++++++++++



オリ主は倉橋さんと同じように寺坂くんのリズムを素で崩す存在。人の本質を見て話すので、寺坂くんもちょっとだけ素直に……でも、ちょっと接し方に困ってるところはあるかもしれません。

ちょっとでもお話を気に入っていただけたら、お気に入り登録、評価、コメントなどよろしくお願いします!!!

次回、またオリ主とカルマで見所あり?!




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