暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

46 / 142

1話ごとにしっかり読み応えのあるボリュームにしたくて、基本本編に入ってからは1話1万字を超えることを目標にしてるんですが、今回元々のリニューアル前の小説が6000文字しかなくて……こねくり回してたら倍になってました。

見所は中盤のケンカ?仲違い?なので、その描写にはかなり意識してみたつもりです。

それではどうぞ。





38話 一学期末の時間・2時間目

 

 A組から持ちかけられた賭け……〝A組とE組……お互いのクラスで、五教科の内より多くの学年トップを取ったクラスが、負けた方のクラスにどんなことでも命令することができる〟ことや、図書室での攻防……それらがすぐに本校舎へ広まったということは、私たちE組の教室にもその噂は飛び込むわけで。

 次の日には当事者である私たちの周りにE組の生徒が集まっていて、全て話すことになっていた。

 

「ふむ……ですがその賭けはあくまでE組の目標の延長戦、でしたらやることは変わりませんね。……というかカルマ君!真面目に勉強やりなさい!君なら充分総合トップが狙えるでしょう!」

 

「……言われなくてもちゃんと取れるよ、あんたの教え方がいいせいでね」

 

 殺せんせーは賭けの話を聞いてもあまり心配はしていなさそう……むしろ、やりがいがあるって感じだ。これはもしかすると、高速テスト勉強の分身が増えるフラグとか……!?なんてことを考えていれば、私の隣の席では大欠伸をして顔にはアイマスク替わりにか参考書を乗っけて勉強という勉強を全然しようとしないカルマがいて……それは、対期末テストの授業中でも変わることは無かった。

 

 多くの殺せんせーの分身が他の人たちに構う中、カルマの所にいるのは顔だけじゃなくて全身を真っ赤に染めて怒りを表す1人だけ……彼が余裕だからなのか、やろうとしない人には人?分身?を、さきたくないからなのかは分からないけど。

 

「けどさぁ、殺せんせー……あんた最近『トップを取れトップを取れ』って、フツーの先生みたく安っぽくてつまらないよね」

 

「にゅぅ……アミサさんも言うことは無いんですか?!」

 

「…………。」

 

「にゅ、何も言ってもらえない……!!」

 

「当たり前じゃん、俺等がどういう境遇か知ってんでしょ?多分そこに関しては俺とアミサは同意見だよ」

 

 ……中間テストで理事長先生の妨害に負けず、好成績をとることができたカルマと私に殺せんせーは、『トップを狙って殺れ(とれ)』と毎日のように言ってくる。それは、私たちに期待しての言葉なのはわかるけど……先生というものにあまりいい感情をもてない私たち2人からすると、若干失望するものでもあった。

 だって、成績でしか私たちを判断しなかったあの人のようなものってことでしょう?この人は私たちを私たちとしてみて、それでいて伸ばそうとしてくれる人だと思ってたのに……って。

 

 だからあながち、彼の言ってることは間違いじゃないから、私は一瞥しただけで殺せんせーに何も言う気は無い……だけど、トップ(それ)が勉強しなくても狙えるものじゃないってことは、私は学んでるつもりだ。だから、そこだけは向き合い方がちょっと違う。

 余裕そうに挑発する彼に殺せんせーもなにか思うところがあったのか、分身を1つにまとめてカルマの隣へ……無言で彼を見つめている。

 

「それよりどーすんの?明らかになにか企んでるよね、そのA組が出した条件って」

 

「心配ねーよカルマ。このE組がこれ以上失うもんなんてねぇよ」

 

「勝ったら何でもひとつかぁ……私、学食の使用権とか欲しいなぁ」

 

 あの図書室での一件のあと……テストの後からゴタゴタにならないようにって、磯貝くんとメグちゃんの学級委員トークを通して、A組側から申し出があった。

 

 

 

・命令できるのは1つだけ

 

・内容はテスト後に発表する

 

 

 

 向こうの要求として1つだけ、と言ってはいるけど……この1つには大きな意味があると思う。やり方は思いつかないけど、1つに同意すれば複数の項目に同意したのと同じ意味にしてしまう命令、とか。例えるなら「E組は今後、A組に絶対服従」とかの命令を出す、みたいな。

 

 私たちはどん底を経験しているからこそ、もう失う物はないなんて岡島くんは言ってるけど、それはまだ人間の尊厳的には殺されてないから言えることだと思う。いいな……みんなにとってのどん底はその程度で……まだ平和な世界で生きていれば知ることのない……まだまだ、暗い底というのはどれだけでもあるんだから。

 

「ニュルフフフフ……それについては先生に1つ、考えがあります……!!これをよこせと要求するのはどうでしょう?」

 

 そう言って先生が取り出したものは学校案内のパンフレット……それだけでは言いたいことが全くわからなかった。学校案内のパンフレットに私たちが学校代表として写真でも載せるのか、なんて思ったのだけど……殺せんせーが開いたあるページを見て納得した。

 

 なるほど、たしかにこれは要求するに値する、大きなご褒美だ……!

 

「…………はぁ、」

 

 ……それを見ても彼はやる気にならない。……何でだろう……今の彼を見ていると、無性に不安になってくる。不安しか、見えてこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りのホームルームが終わって。教室に居残りして勉強していく人や殺せんせー、イリーナ先生に補習を頼んで教えてもらいに行く人がいる中、彼は1人だけ興味がなさそうに足早に校舎から出ていこうとしている。彼の考えてることが分からない、なんてそんなことは言ってられない……もう、勝負の時であるテスト当日はどんどん近づいているのだから……私は意を決して彼を追いかけた。

 

 校舎の玄関へ追いついた頃には、彼は既に靴を履き替えて外へ出ていこうとしている所だった。ギリギリで追いついて、慌てて靴を履き替えて既に歩き出している距離のあいた彼へと声をかける。

 

「ねぇ、カルマ……!」

 

「んー?どうしたの、アミサ。一緒に帰る?」

 

「ちが、そうじゃなくて……放課後、時間あるなら一緒に勉強してこうよ」

 

「……勉強?ふふ、いいよー、俺が教えてあげ……」

 

「ホント?今ね、教室で磯貝くんとか、愛美ちゃんとか、各得意教科のある子たちと協力して……」

 

「───ッ!」

 

「……、……ぇ……」

 

 ──私がそこまで言った瞬間だった。

 

 カルマの目に、今まで見たことのない暗くて重たい……何かの感情が浮かんだ直後、一瞬で顔から表情が消えたのは。私はそれを正面から見て、その異質な豹変に、その場に固まって動けなくなってしまった。

 

 彼は無言で私の方へと近づいて来るとそのまま私の腕をとって、放課後だから誰もいない、E組校舎の裏に向かって歩き出す……その手首を掴む力がかなり強くて、カルマの雰囲気がおかしくて、……こっちを見てくれないのが怖くて。ただ、わけが分からないまま、手を引かれるままについていくことしかできなかった。

 

 

 

 ───ドンッ

 

 

 

 校舎裏につくと、掴まれた腕はそのままに私の体ごと校舎の壁に押し付けられた。手を掴まれ、肩を校舎の壁に押さえつけられて、前には至近距離にカルマがいて、暗い……感情の浮かばないその目に見つめられて……恐怖で抜け出すことができない。

 

「いっ……」

 

「……何?俺が勉強できないって言いたいわけ?」

 

「え、なんで、そんなこと言ってな、……痛ッ……」

 

「だってそうでしょ。得意教科のある奴に頼って、俺の方がE組で誰よりも勉強できるのに俺には頼らないで……挙句の果てには俺も一緒に勉強って。え?俺がアイツらに教えてもらえって?皆で目の色変えちゃってさ……勝つってのは、サラッとやってみせるのがいいんじゃん。中間でも、あのタコの勉強やっとけばフツーにあれだけ取れたんだし」

 

「そ、それはそう、かもしれない……」

 

「でしょ?今回アミサは入院ってハンデもあるから焦ってるのかもしれないけどさ……ちゃんと俺が教えてあげるって。だから、」

 

「で、でも……ここまで話が大事になってるってことは、生徒の自主性を掲げてる理事長先生のできる妨害は出題範囲を広くして、問題そのものを難しくすることくらい。きっと中間テストより、点数を取りにくくなってる……それに、A組との対決があるからってみんなが頑張ってるから……」

 

「………………」

 

「殺せんせーが言うことがつまんないのは私も思った。だけど……努力は、しなくちゃ……ついてけないと思う」

 

「……んで……ッ」

 

「だから、みんなで……」

 

「なんでッ!!」

 

「ッッッ……いた、い……ッ」

 

 ……目の前にいるのは、ホントに、カルマなの……?

 

 確かにカルマはE組の中でも飛び抜けて頭がいいと思う。器用だし、何でも卒なくこなすし、たくさんの才能に恵まれている……それでも、クラスメイトを手段の1つとして使うことはあっても、見下すような態度なんて、今までにしたこと無かったのに。

 

 私を見る目はどこか悲しそうで、それでいて隠せない傲慢さがにじみ出ていて、私は震えながら、でも私を真っ直ぐ見るその目からそらすこともできなくて。カルマの握力で掴まれた腕が、肩が痛い……そして、私に対して叫ぶように言ったそれには、どこか悲しさが混じっていた。

 

 それすらを押し込めて、ニコリと笑ったその笑顔ですら、……いつも見ている、彼の自信たっぷりの笑顔のはず、なのに……私にとっては、怖くて仕方がなかった。

 

 

 

「俺は通常運転で、余裕で浅野君に勝ってみせるよ」

 

 

 

 そう言って、私の体を離した彼は、1度も振り返ることなく校舎裏から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ、……みんな、いる……教室……かえらな、……ッ」

 

 私はしばらくそのまま動けなかったけど……ふと、教室に放課後一緒に勉強しようと約束したみんなを待たせていることを思い出して……足を踏み出そうとしたのに。震えが止まらなくて、歩くための力が全然入らなくて、校舎の壁を背に、その場に座り込んでしまった。

 

 ……私は、カルマにあんな目をさせたかったわけじゃない……ただ、カルマと一緒に勉強して、カルマと一緒にトップを目指してみたかっただけなのに……私の言葉は、彼には届かなかった。

 

 渚くんが言っていた、彼も必死に何かと向き合ってるって……それで焦ってるんだって……いつも、私には『話して』っていうのに、彼自身は何も話してくれない。周りのみんなも、なぜか教えてくれない。

 

 掴まれていた腕が、肩が痛い……しっかり見てないから分からないけどアザになってるような気がする……それに、なによりも……心が、痛い。

 

「……もう、分かんないよ……っ!カルマが不機嫌になってる理由も、なんで私がこんなにぐちゃぐちゃな気持ちになるのかも……分かんないよ……こんなの、知らない、なんで……これ、……なんで、いたいの……いたいよぉ……」

 

 しばらくの間、私はその場から動くことができず、座り込んだままうずくまっていた。自分に向けられたわけの分からない感情に、それを受け止め切れなくて理解できない自分の気持ちに……はじめて私はカルマに対して恐怖を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………、ただいま」

 

「あら、遅かったじゃないアミ、サ……ねぇ、あんた」

 

「アミサちゃん?どうしたんですか……?」

 

 なんとか気持ちを切り替えた風を装って、落ち着いてから教室に戻ったつもりだったのに、一緒に勉強しようとしていたメンバーはこちらを見て、すぐに全員が手を止めて私の方へ来てしまった。

 

「な、んで……、……なんでも、ないよ?」

 

「じゃあ、こっちを見なさい」

 

「……っ、見て、」

 

「ないから言ってるの……それに、なんで右腕押さえてるのよ」

 

「真尾、歩き方もおかしいぞ。重心が傾いてるっていうか……」

 

「………………………………。」

 

「……触るわよ」

 

 何かあったんだろうってすぐにバレてしまった。カルマを呼びに行っただけの割には帰ってくるのが遅かったし、帰ってきてから誰とも目を合わせようとしないし、ずっと右腕を押さえて見せないように隠してるし……という感じに、気になるところが多すぎたみたい。

 ごまかして隠し通そうとしたけど、押さえていた右腕を莉桜ちゃんに取られ、遠慮もなくカーディガンの袖をまくって……それを見た彼女が目を見開いた……やっぱり、服の下はアザになってたみたいだ。

 

「アミサ、あんたこれ……!」

 

「……あ、……さっき、そう、靴を変える時にね、下駄箱にぶつけちゃったの。みんなに心配、かけたくなかったから……隠して……」

 

「ウソ、これ指の跡ついてるよ」

 

「……え!なんで残って、」

 

 ごまかせると思って言った言葉にさらっとすぐに反論が来て、思わず右腕のアザを見る……おかしいな、アザは確かにあるけど、指の跡なんてどこにあるんだろう?

 そんな私を莉桜ちゃんは苦笑いしながら見ていて、掴んでいた腕を離し、私のことを正面から強く抱きしめた。私の背中に回された片手でポンポンとリズムよく叩かれ、もう片方の手でゆっくり頭を撫でられる……焦っていた気持ちも、さっきまで高ぶっていた気持ちも全部、ゆっくりと落ち着いていく……

 

「……じょーだんよ、指の跡なんてどこにもついてない。アミサってそういう嘘は本トにつけないよね……カルマなんでしょ」

 

「……っ、……それ、は……」

 

「言わなくていいわよ、あんたの反応見てりゃ何となく分かるから」

 

「ちなみに真尾はカルマになんて言って誘ったんだ?」

 

「……みんなで、一緒に勉強しよ、って……磯貝くんとか、愛美ちゃんとかと、得意教科のある子とやろって……」

 

「……そっか」

 

「あー、あいつもそれでついにプッツンしちゃったか……」

 

「他でもない真尾に言われちゃ、我慢の限界だったんだろうな」

 

 莉桜ちゃんは『ついに』って言った。それは、私が気づいてなかっただけで、みんなは知っていた……ずっと私の何かを彼には我慢させてたってことだよね……

 莉桜ちゃんの腕の中に包まれながら、離してもらった右腕をもう一度自分の左手で強く握り込む、アザになった痛い場所を、強く、強く……自分に痛みを与えるように。そうでもして痛みを感じていないと、私の中の何かが耐えられない気がしたから。

 

「…………ねぇ、アミサちゃん、カルマ君を見返そうか」

 

「……ぇ……?」

 

 そうしている時に聞こえたカエデちゃんの一言に、思わず顔を上げた。私はそんなこと考えてもなかったのに、近くにいたみんなはどこか納得したような顔をしていた。

 

「前回の中間テストは、殺せんせーの分裂テスト対策の時からずっと2人で勉強してきたんでしょ?だけど今回はカルマ君の向き合い方が違う……だからカルマ君に頼らないで成績を残すの。……頼ることはもうしないっていうんじゃないの、他の人に頼ったからこそ得られるものもあるって見せつけるの」

 

「確かに……それならA組との勝負にも支障はないし、もしかしたら触手を得るチャンスにも繋がるかもしれない。それに、協力することも大事なんだってあいつに示せるよな」

 

「あと、アンタ達の悩みの答えを言わなかった私達にも責任があると思う。2人が自分で気づいてくれた方がいいと思って黙ってたけど……2人とも何に対しても器用なくせにこういうことには不器用だって知らなかった、……こんなにこじれると思ってなかったんだ、ごめんね」

 

「アミサちゃん、やってみませんか?ここで期待するのは重いかもしれませんが……私達は、アミサちゃんならできると信じてるんです。もちろん、私達もアミサちゃんに数学を教えて欲しいですし!」

 

「……、……やる。頑張ったら……カルマ、また私のこと、見てくれるかなぁ……?」

 

「違うでしょ、頑張ったアミサを見させるのよ」

 

「あぁ、ほっといたせいで自立したように見える真尾を見せて、焦らせてやればいいんだよ」

 

 その場にいた人たちが顔を見あわせて、「もちろん!」って言いながら応援してくれた。だからってわけじゃないけど、私は再度この期末テストに向けて頑張ることを決意した。

 殺せんせーの触手の破壊権を得るという暗殺のためだけじゃない、私自身のため。後押ししてくれた、みんなのため。そして、カルマ自身に伝えるために。

 

「お話はまとまったみたいですねぇ」

 

「え、殺せんせーいつから聞いてたの?」

 

「ヌルフフフ……校舎裏なんて誰が通るかも分からない場所で話すなんて、誰かに聞かれても仕方ないと思いませんか?」

 

「……つまり、アミサとカルマのやりとりも全部知ってるわけね……」

 

「先生ですから。……さて、アミサさん」

 

「は、はい……」

 

「……期末テストまで時間がありませんし、正直デメリットもある……しかし、上手く身につければ一気に勉強が進む……あなただけの勉強法、試してみませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し実験して、上手くいけば勉強法として実際に取り入れましょう。皆さんの時間をもらってすみませんが、少しだけ手伝ってくれますか?」

 

「は、はいっ!」

 

「もちろん、何をすれば……?」

 

「いえ、勉強とは関係ないことで試しますからそう気を張らずに。もし失敗しても影響がないようにしなくては……」

 

「そんなにその、デメリットはでかいんですか……?」

 

「……まぁ、やってみた方が早いでしょう」

 

 そう言って殺せんせーが私を自分の席に座るように誘導し、言われるがままに座ると目の前に1枚の紙を置く……筆記用具を出すように言われて筆箱からシャーペンを持つと、先生はひとつ頷いた。

 

「では、磯貝君、神崎さん、奥田さん、茅野さん、渚君、中村さん……同時になんでもいいのでアミサさんへ質問をしてください。アミサさんは質問に答えなくていいので、全ての声を聞くことだけに集中してください」

 

「……うん」

 

「……?分かりました。質問の内容は何でもいいんですよね?」

 

「ええ。代わりにできる限りテンポがズレないよう、揃えて話してください」

 

「は、はい。……みんな、質問は決めたか?俺が合図を出すから、俺の速さに合わせられるか?」

 

「ええ、大丈夫」

 

「私も!」

 

「じゃあいくぞ……、せーのっ!」

 

 声を、聞く……?殺せんせーのやりたいことがよく分からないながらも、目を閉じ今から話すだろう6人の声に集中する……今、このE組の教室にいるのは、この6人と私、殺せんせーだけ……雑音になるものがないから……集中、できる。

 私が目を閉じたあと、磯貝くんが殺せんせーの指示に困惑しながら発した彼の合図で、6人が一斉にそれぞれが決めた1人1つの質問を口にする。相談せずに内容を決めたこともあって、長さも質問の内容も全部バラバラだから、6人の声が重なったあとはバラバラに言い終わっていく。

 

「はい、ありがとうございます。では、アミサさん。今の6つの質問を全てその紙に書取ってください……ああ、答えなくていいですよ」

 

「う、ん……?」

 

「「「「「「……え?」」」」」」

 

「いや、いやいやいや殺せんせー、6人ですよ?1人や2人じゃないんですけど……」

 

「相当みんなバラバラのこと言ってたわよね?」

 

「声の大きさもバラバラだった気が……」

 

「流石に無理じゃ……」

 

「……、……えと……これで、あってる……?」

 

 殺せんせーに言われるがままにシャーペンを動かしていると、みんなが口々に殺せんせーへ困惑したように話していて……口を挟んでいいか迷いながら、私は今聞き取った内容を紙に書ききってみんなに見えるように見せる。

 

『磯貝:今日の朝は誰と登校したんだ?』

『有希子:本校舎の図書室で勉強したメンバーは誰?』

『カエデ:料理手帳のオススメスイーツ教えて!』

『渚:まだなにか僕達に言ってないことはない?』

『愛美:今日のお弁当のおかずはなんでしたか?』

『莉桜:カルマとの校舎裏でのこと詳しく教えなさい』

 

「「「……………!」」」

 

「あ、あってる……」

 

「しかもこれ、誰がどの質問したかもあってない……?」

 

「口調まで……」

 

「にゅや……やらせておいてなんですが、ここまでの精度とは先生も予想外でした。ですがやはり……アミサさん、あなたには『分離集音能力』があるのでしょう」

 

「ぶんり、しゅうおんのうりょく……?」

 

「ええ」

 

 聞いた事のない言葉に首を傾げていると、殺せんせーは目を細めながら大きく頷いた。

 

「分離集音能力とは、複数同時に聞こえた音、声を聞き分けることができる力です。歴史的観点から言えば……聖徳太子が10人同時に話す声を聞き分けたという逸話は有名ですね?それと同じようなことがアミサさんにはできる」

 

「すご……!」

 

「中間テスト勉強の最中に、理科の問題に取り組んでいるはずのアミサさんのノートに、同じ教室内、同じタイミングで違う生徒に教えていた国語と社会と数学の内容がメモされていたのを見て、先生ちょっと気になっていました。その時は意識して聞き分けたと言うよりも、()()()()()()()()の声を書き取ろうとして、()()()()()()()()先生の声を聞き取ったのでしょう。どちらも先生の声に違いありませんからねぇ」

 

「……私の……力……」

 

 今まで音が増えるとうるさくて耳を塞いでいたけど、私に、こんなことができる力があったなんて……今は6人だけだけど、訓練すれば人数を増やせるかもしれないし、今みたいに音を聞き分けて判別し、それを処理できるようになれば……色んなことに役立てる予感がする。

 嬉しくなって顔を上げたところで、殺せんせーから待ったが入った。

 

「ただし……絶対に人の多いところでは意識してこの力を使ってはいけません」

 

「……えっ」

 

「なんで?効率化を求めるならバンバン使った方がよくない?」

 

「そうだよ、だってこれだけ聞き分けられるなら一気にいくつかの情報を集められるってことでしょ?」

 

 この音を聞き分ける力は人が多いところでこそ真価を発揮するんじゃないの……?そう思っていた私と、同じような気持ちの人はいたみたいで一緒に反論してくれたんだけど……静かに考えていた渚くんは違った。

 

「……違う、アミサちゃんは()()()()()()んだ」

 

「その通り。普通の人であれば聞き分けられても精々2、3人でしょう。しかしアミサさんは既に6人の声を聞き分け、しかも誰がどんな口調で話したかまで正確に聞き取っています……ですがこの結果はあくまでこの静かな教室で行った実験だからでしょう。普段の教室であれば……」

 

「……自分以外の26人の声と雑音……」

 

「普段でそれだけど、今は期末テスト対策で、26人分の声、それに対応する人数×4人の殺せんせーの声、その他雑音で溢れている環境で、全てを聞き分けようとしたら……」

 

「声だけで130!?」

 

「そっ、そんなの、地獄のようなものじゃない?!」

 

「ええ、ほぼ確実に許容範囲を超えてオーバーヒートするでしょう。もし、下手に癖づいてしまうと今のように聞きたい音だけを選別して聞けている今の現状を壊してしまうかもしれない……そうなったらそもそも教室に居続けることすら厳しくなってしまう。ですからデメリットも大きいと言ったんです」

 

 最悪発狂ものです、なんて軽く付け加えられたけどゾッとする……ただたくさんの音を聞いただけで発狂するなんて絶対に嫌だ。みんなも例え話……というか現実を考えたことでその状態にピンと来たみたいで、みんなで若干顔色が悪くなって一緒になって口を噤んだ。私自身も気づかなかったからみんなも気づかなくって当たり前なんだよ……

 絶対に使わなきゃ行けない場面にならない限りは、やらない。そう心に決めたところで、殺せんせーは勉強法を考えてくれたんだ。

 

「少し準備の手間はかかりますが、国語、社会、理科、英語……それぞれの教科で暗記物の音声を録音するんです。そして同時進行で他のことをせず、自分の部屋など静かな環境でそれらを同時に聞く……アミサさんは記憶力もいい、あそこまで精度よく聞き分け判別できる君なら、毎日続けるだけで相当数記憶できるはずですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その勉強法を寝る前に……というか寝る時に音を流しながらやってみたら、私には結構あっている方法だったみたいで、今回の暗記物は結構自信がある。そしていつもなら暗記することに時間を割いていた部分を同時視聴での勉強法に持ち込んだおかげで、空いた時間は計算ものや読解系に全て当てる余裕さえできた。

 正直テスト1週間前くらいにいきなりやり始めたことだから、負担のない勉強法ではあったけど、どこまで本当に身についているかは分からない……だから、この期末テスト次第で今後も続けるかを決める指標にする。

 

 みんなの勉強時間をもらって気づかせてもらった、私の新しい力……応えたい。こたえてみせる。そして、私も頼りっぱなしじゃなくてもできるってところを見せて……それで、ちゃんと言うんだ。

 

 

 

 

 

 私を、見ていてって。私は、ここにいるって。

 

 

 

 

 1学期末テスト、当日。

 

 私たちE組は中間テストと同じように、本校舎での受験のために移動中し、今は本校舎内のE組用試験会場に向かっている最中だ。特に対決には関係ないはずなんだけど、本校舎全体に今回のA組とのトップ争いのことは広まっているから、そこかしこでE組、もしくはA組を見るたびにヒソヒソと話している声が聞こえる。

 私に向けられた言葉じゃないってわかっていても、気にならないって言うと嘘になる……だけど、だいじょぶ。ギリギリまで殺せんせーにもイリーナ先生にも聞けることは聞きに行ったし、私なりに最高のコンディションまでもち込んでみせた。だから、どんな問題が来ても絶対に解いて(殺って)みせる。

 

 E組の試験会場について、扉の前で1つ深呼吸……いける、そう思って扉を開くと既にほとんどのクラスメイトたちが集まっていた。ただ、1人だけ見た目も気配も知らないけど、なんか雰囲気を知ってる顔が……みんなは遠巻きに見てるけど、あれって。

 

「……律ちゃん?」

 

「「「なんで分かるの!?」」」

 

「え、違う人だけど、一緒というか……なんとなく、律ちゃんがいる気がしたの」

 

 聞けば、人工知能の律ちゃんはデータだからこそ、どんな問題に対してもAIが最適解を出して、満点回答をたたき出してしまう。それに、律ちゃんはやらないだろうけど、本校舎の教科責任者のパソコンに入り込んで期末テストの答えを盗み見た、なんて難癖をつけられても、私たちにはやってない証明をしてあげることができない。

 

 諸々の理由から試験に参加することはできそうになく、理事長先生と交渉した結果、律ちゃんが教えた生徒が替え玉として試験に参加することで何とかすることにしたみたい。だから、どことなく律ちゃんの雰囲気があったんだ……と、私は納得してたのだけど、他のみんなは「どんな理由だよ……」って飲み込めないみたい。

 とりあえず、ニセ律ってみんな呼ぶことにしたみたいだけど、挨拶した時にボソッと「尾長仁瀬ダス」って本名を教えてくれたから、人がいないところでは仁瀬ちゃんと呼ぼうと思う。

 

 自分の席に付けば、隣には今回1番負けたくない相手がすでに座っていた。チラリとこっちに目をやって、やっぱり余裕そうに教室を見渡している。ぐ、と唇を噛んでからしっかり隣の彼の顔を見つめながら告げる。

 

「……カルマ、私、絶対に負けないから」

 

「……ふーん。ま、頑張れば?勝つのは俺だけどね」

 

 本当ならテストは個人戦……だけど今回はE組みんなで1つの目標に向けて戦う集団戦でもある。でも、戦ってるのは私たちだけじゃない……敵として立ちふさがる人たち(A組)、応援してくれたり野次を飛ばす観客たち(ギャラリー)、……まるでみんなで大きな闘技場の中にいるみたいだ。

 

「一学期末テスト1時間目、英語。……開始!」

 

 ────さぁ、己の全力を出して、戦え。

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 英語。

 

 もう問題を見た瞬間に思った……これは強敵だ、と。椚ヶ丘は中高一貫の進学校だからこそ、内容には高校で習うようなものも含まれてくるらしくて……英語(これ)もその1つ。あまりの難しさ(スピード)に周りにはもう着いて行けなくて倒れている生徒がたくさんいる。

 だけどそれはE組だからついていけないなんてことは絶対にない、A組だろうとE組だろうとみんな同じこと。慌てなければ必ず解く(勝つ)ためのポイント(急所)は見えてくる。

 

 ……この最終問題の文章、何かで見た覚えがある。

 

〝先生、こういう繊細な反逆に憧れてましてねぇ……ぜひとも二か国語で読んでください。君たちの年頃ならキュンキュン来るはずです〟

 

 ……わかった、サリンジャーの『The Catcher in the Rye(ライ麦畑でつかまえて)』、だ。二か国語で読むように殺せんせーが勧めたのはきっと……その部分を、日本語訳の本の通りに訳せるようにするため……!

 

 

 

《 正直、コックの顔に100回ビンタかましてやりたかったね》

 

 

 

よし、見直しに入らなくちゃ……

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 国語。

 

 ……うわぁ、有希子ちゃんの予想してた通り百人一首の問題は出てきたけど……

 

 

 

《春すぎて夏来にけらし白妙の……》

 

 

 

 ……下の句、なんだっけ。たしか……ころ、ころ……殺せんせー?……違う、なんでこんな覚え方したんだっけ……あ、《衣ほすてふ》だからだ。あと残りは……

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 社会。

 

 現代社会だからこそ、今の社会情勢が問題に出るかもしれない……そう磯貝くんは予想してた。だから、範囲にもあるし一応って思ってみておいたやつだけど。

 

 

 

【今年のアフリカ開発会議について、首相の会談の回数を述べよ】

 

 

 

 ……これ、会議の重要度を示すものとはいえ、マニアックすぎないかな……磯貝くんのおかげで分かったけど。

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 理科。

 

 ……私の苦手教科だ。

 これも椚ヶ丘中学校では高校の範囲を先取りして学んでいく、進むのが早い教科だ。

 

 

 

【ダニエル電池は充電できるがボルタ電池は充電できない。ボルタ電池が充電できない理由を簡潔に述べよ】

 

 

 

 …………え。これってボルタ電池のことだけでいいのかな、両方書かないとバツ……?愛美ちゃんはなんて言ってたっけ……

 

〝暗記だけで覚える理科じゃなくて、それを相手にわかるように伝えるって言うのが大事……きっとこれが、殺せんせーが私に教えたかった国語力、ですね!〟

 

 ……片方だけ書いたら、きっと相手には伝わらない。なら、両方書いてみよう。比較があった方が相手に伝わると思うから。

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 数学。

 

 ……カルマ。

 これは私の得意教科だけど、カルマにとっても得意な教科。……だからといって油断なんてしない、相手を見くびったらそこで置いてかれる。このテストに関しては誰かの力を頼るわけにもいかなかった……頼れるのは、自分だけ。

 

 

 

 ……さあ、闘技場への扉が開く。

 

 

 

 闘技場への入口に足を進めれば、私の右隣に余裕そうなカルマ、左隣には自信に満ちた浅野くんがいる、そんな気がする。

 この2人に合わせて戦うよりも、私は私なりの戦法で進む……スピード勝負。まずは簡単な小問を早くこなしてできるだけ早く先に進む。後の大問にできるだけ時間を残して、取っ掛りを見つけてから一気に……

 

 

 

解く(殺る)!!」

 

 

 

 





「で、アミサちゃん質問は答えないの?」

「6つの質問のうち4つはまだ普通に答えられる内容だよな……そこに紛れる2つの追求;」

「渚……これって?」

「いや、アミサちゃん絶対に右腕のこと以外にも隠してるでしょ。悪いけどこういうカルマ君絡みのこととか心配させたくないって思ってそうな時は絶対隠し事してる。こういう時に関しては信用してないから」

「絶対って言った……2回も……」

「う……」

「そうだな。確かにさっき重心もおかしかったしな」

「そうね、アミサを見てきた渚が言うなら隠してる……あたしの質問の分は殺せんせーに聞くからいいわ、渚の質問は答えなさい!」

「…………、……校舎の壁、押さえつけられて……左肩、痛い……」

「はぁ!?右腕だけじゃないの!?見せなさい!!!……っ、あいつどんだけ力入れたのよ……」

「まさかアミサちゃんとのケンカでも手を出すと思わなかった……違うか、それを制御出来ないくらいには追い詰められてたのか」

「……なぁ、アーツで治さないのか?」

「そうですよ、これ、絶対痛いでしょう?」

「……、……治さない。……痛いけど……これは、カルマの痛みでもある気がする、から。決着が着くまでは、私が持っておくの。それから決める……」

「……そ、アミサが決めたんならこれ以上言わないわ。でもテストが終わったらあたし達からカルマにガツンと言わせてもらわなきゃ」

「……俺達からもカルマに言わなきゃな」

「うん、そうだね」



++++++++++++++++++++



オリ主とカルマ、完全にケンカ。さて、仲直りできるのか……今回、感情を掘り起こして詳しく描写したらさらに痛そうになってしまって……

さて、いつぞやの『テスト準備の時間』で、殺せんせーが気にしていた部分を今回ここで放り込みました。覚えてますか……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。