多くは語らない、いざ、暗殺。
太陽がサンサンと降りそそぐ……日差しがまぶしくて、とてもいい天気。どこまで行っても続きそうなくらいキレイな青い空と白い雲、そして周りに広がる大きな海。結構な速さで流れていく景色と、顔や体で感じる潮風。
────私たちは大きなリゾート客船の上……今、E組は海の上です。
一学期末テストでA組との賭けでもらった、この『椚ヶ丘中学校特別夏季講習、沖縄リゾート2泊3日』の椚ヶ丘中学校が費用を負担してくれている自主勉強のための機会を、私たちは殺せんせーとしていた勝負と合わせて今までで1番壮大な暗殺計画に組み込んだ。
正面から向かったところで殺せんせーは絶対に殺せない……だからこそ、先生の弱点をたくさん盛り込んでE組全員で一気に仕留める、そんな計画だ。
「にゅやァ……船はヤバい……マジでヤバイ……せんせー、頭の中身が全部まとめて飛び出そうです……」
……その暗殺の
「とりあえず、本トに……アミサが間に合ってよかった。なかなか風邪が治らなくて完治に昨日までかかるってなんなの……」
「……ご心配、おかけしました……」
カルマの家のお風呂を借りて、アーツの練習を調子に乗って色々やっていたら見事に自分を巻き込んで氷像を作ることになるとは思わなかった……これ、最初の予定通り川辺でやってたら、かなり多くの人に醜態晒す可能性があったってことだもんね?行かなくてよかった。
〝今の悲鳴な、に……って何これ!?ちょ、え、お、お湯、お湯持ってくるから!!ていうかアーツってお湯で解けるの!?え、大丈夫なのこれ、聞いてないんだけど!?!?〟
あっちでは凍結状態で動けなくなることなんて、魔獣相手に普通にある事だったから、自分で自分を凍らせちゃったとはいえその他大勢に見られることでもないし解けるの待てばいいかー……なんて私は軽い気持ちだった。だけど、私が動けなくなってるのを見たカルマが、大慌てで温水のシャワーをかけたりお湯を持ってきてくれたりするのを見て……これ、一般的には落ち着いてちゃいけないやつだったって遅まきながら察したよね。
そこまで慌てさせるつもりがなかったから個人的にはビックリした程度だったんだけど……その後に風邪をひいてしまったから、やっとカルマのあの慌て様も理解できた。私1人きりなら火属性アーツで解かすって方法も取れたけど、攻撃アーツを自分に向けて使うから確実にケガは増やしていただろうし……うん、やらなくてよかった。
「直前に冊子見せてもらってたから、凍結状態ってのがあるのと解かせる氷ってのを思い出せたからよかったけど……はぁ……本人氷から出したらケロッとしてたのにだんだん熱上がってくるし……」
「ご、ごめんなさい……」
「頼むから落ち着いちゃダメな場面で落ち着かないで……」
「あはは……で、結局アミサちゃんは知ってるの?」
「……《
「……よく知ってるね〜」
「あっちじゃ、知ってる人は知ってるからだよ」
生まれ故郷ではかなり有名だ。だって裏で暗躍する人物とはいえ、カルバード共和国を建国するのに一役買ったと言われているし、要人、傭兵、犯罪者を問わず完璧に暗殺、国の裏で暗躍する殺し屋だって噂ならカルバード共和国では誰でも聞いたことがある……もちろん私だって知らないはずがない。知らない方が、おかしい。
「あっ!!起きて起きて殺せんせー!見えてきたよ!」
そんな感じにカルマと渚くんと話していると、殺せんせーのいるテラスで、陽菜乃ちゃんが手すりから身を乗り出して船内にいるみんなへ知らせる声が聞こえる……東京から6時間、殺せんせーを殺す場所が見えてきた。
その声に引き寄せられるように船内で過ごしていたクラスメイトたちも、みんな甲板に出てくる。不注意で風邪をひいてしまった私も今は完全に復活した、女の子たちで買いに行った物も水着もちゃんと持ってきた、……殺せんせーを殺す覚悟も持ってきた。
暗殺旅行の舞台になる島……普久間島に到着だ。
「ようこそ、普久間島リゾートホテルへ。サービスのトロピカルジュースでございます」
「ふわぁぁ……!!」
「ふふ、アミサちゃん、フルーツ大好きだもんね」
「うんっ!大好き!」
私たちが今日の夜から2泊も泊まることになる海辺のリゾートホテルにチェックインすると、ホテルの方からサービスとしてドリンクが配られた……私はフルーツが大好物だから、嬉しくて仕方が無い。
今は点呼とか連絡事項の確認の関係で、出席番号ごとの男女でテーブルが分けられているから、桃花ちゃん、優月ちゃんと同じ席で、結構直ぐに飲んでしまった私を見てそんなに好きなら私のも飲む?と言われたけど、さすがに遠慮……でも、ここに来ていきなり幸せ。
「そんなに喜んで貰えるとお出しする甲斐がありますね」
「あ……すみません……」
「……もう1杯、飲みます?」
「え!……あ、えと……、」
「ふふ、お持ちしますね」
「よかったね、アミサちゃん」
「…………うん」
……ウェイターさんに気を使わせてしまった……、もう1杯いいの!?と思って、つい頷いちゃった……恥ずかしくなって机に伏せている間に新しいグラスを置いてもらえたみたいで、視界の外から氷のカランという音が聞こえる。
「いやー、最高!」
「景色全部が鮮やかで明るいな〜」
椚ヶ丘中の夏期講習で来ているとはいえ、このリゾート全てを貸し切っているわけじゃないから、周りには一般の観光客もたくさん来ている。たくさんの子ども相手ではあるけど、スタッフの人の対応やサービスは1人1人に対してかなりよくて……さすがは本来成績優秀クラスのA組に与えられる特典だと思う……普段の
殺せんせー暗殺計画の実行は夜ご飯を食べたあと……このリゾートにはビーチはもちろん、色々なレジャーもあれば海底洞窟、森など遊べる施設、散策しがいのある場所がたくさんある。だからまずは班別に分かれて一緒にたくさん遊ぶことを殺せんせーに提案する……もちろん、それは隠れ蓑なんだけど。
「おー……うまいことやってんな、1班の陽動」
「やるもんだね〜」
ただ単に一緒にレジャーを楽しんでるのではなく、その中に暗殺……1班でいうなら飛行中の殺せんせーに対先生BB弾のエアガンで攻撃して地上へ目が向かないように工夫している、みたいなものを組み込んでいる。
他にも2班は3班が海底洞窟へ殺せんせーを連れ出している間に計画の要である射撃スポットを探す予定だし……次に先生が来るのは私たち4班だから、担当である海の中を急いでチェック。直ぐに細工を終わらせて海上に上がり、髪の毛を乾かしたり着替えて違和感がないように振る舞わなくてはならない。さすが、沖縄の海というだけあってすごく綺麗でたくさんの魚達が泳いでいるのが見える……長い時間楽しめないのがもったいない。
「ぷあっ……!」
「アミサちゃん、おかえり!すぐに更衣室行くよ!男子も急いでね!」
「「「おー!」」」
ここまでは、計画通り……あれだけ複雑な計画を練っている割には大きな失敗もズレもなく、殺せんせーも純粋に楽しんでいるように見える。……ここまで順調だと、逆に不安にもなってくるんだけど……
身支度を整えて船着場に集まった所で、1班と一緒にグライダーを楽しんできた殺せんせーが変な日焼け跡を顔に作りながら、ニッコニコでやってきた。
「なんだよ先生、その模様……」
「日焼けしました。グライダーの先端部分だけ影になってまして……さて、4班はイルカを見るそうですね」
「うん、船だけど大丈夫そ?」
あわよくば船に乗せて戦力ダウン!とかも狙ってたんだけど、まさかのよく分からない魚型のウエットスーツ的な何かを着てイルカと一緒に泳ぎ出した殺せんせー……私たち、イルカを見に来たんであって、殺せんせーを見に来たわけじゃないんだけどなぁ……
その後殺せんせーはひとしきり泳いで、ホント、ホントに桟橋に着くかつかないかってギリギリな時に船に乗り込んできたんだけど、あっけらかんと楽しかったと言う殺せんせーに、思わず言っちゃった。
「……いやー、イルカと戯れるのもいいものですねぇ」
「…………」
「にゅや?どうしました、アミサさん?」
「……殺せんせーだけ1人で遊んでて、4班と一緒に遊んでくれてない……」
「Σにゅやッ;!?」
「修学旅行の時も、私たちの班だけ一緒にいれなかったから……今日は一緒に遊べるかと、思ったの、に……っ」
「あ、あみ、アミサさん;その、そ、そんなつもりはなくてですね……」
「……、……一緒に、いてくれない、殺せんせーなん、て、知らない……っ」
「……よしよし、アミサこっちおいで。酷いねーこのタコ」
「……このつもりじゃなかったけど、これもゆするネタにしよっと……」
「あー、泣かせたさいてー」
「殺せんせーが真尾を泣かせたー」
「殺せんせーひどい……」
「アミサちゃんかわいそう……」
「集中砲火!?え、ちょ、嘘泣き……じゃない!?待って待ってアミサさんガチ泣きですか!?!?ふ、船は先生が酔わずにいられないかと思って!逃げましたはい!す、すみませ」
「泣かせた戦犯はさっさと次の班に行ってくださーい」
「直接謝らせてさえもらえない!?!?」
……文句、言うだけのつもりだったのに、言いたかったことを言っているうちに私こんなに涙もろかったっけ?ってくらいボロボロと涙が流れてきて……。
すかさず私を抱きしめて顔を隠してくれながら頭を撫でてくれるカルマ、思い出用か何かのためにこっそりスマホを向けて撮影していたらしいけど何かに使う気の渚くん、カエデちゃんと杉野くんが棒読みで殺せんせーを責めたてて、愛美ちゃんと有希子ちゃんが慰めてくれる……なんて、思いっきりこれに便乗して殺せんせーを責める4班。おかしい、楽しませて油断させるつもりだったのに、なぜか遊ぶ段階で殺せんせーに精神的ダメージを与えてしまった。
殺せんせーはなんとか謝ろうとしてくれてたみたいだけど、この時は本気で聞きたくなかったから徹底的に無視していたら、殺せんせーはトボトボと次の班に向かっていった。……夜ご飯の時くらいには話、聞いてあげようかな。
◆
殺せんせーが抜けたあとなんとか涙を止めることができた私のことを待っていてくれた4班は、そこまで作業に遅れもないし、これから精神攻撃できるネタもできたから平気だと言ってくれた。
なんのことかと思ったら、今の場面を暗殺計画最初の精神攻撃で、殺せんせーを思いっきりゆすって動揺させるために使いたいって渚くんに言われて……最初こそ泣いたの見られるリバイバル!?とか思ったんだけど、カルマが顔を隠してるから嘘泣きに見えるって言われ……動画を確認させてもらったら確かにそう見えるし、使えるならとOKしておいた。そのために殺せんせーからの謝罪は受けないように立ち回って欲しいみたい。
……まぁ、私個人が悲しいと言うより4班だけ毎回不憫な気がして全体に申し訳なく思って欲しいなーくらいだったから……あそこまで泣いちゃうのも想定外だったわけだし。あと、邪魔されたとはいえ謝ろうとはしてくれてたし、みんながいいなら、いいかな……?
「アミサちゃん、4班のことを考えてくれるのは嬉しいけど、アミサちゃんも悲しかったって事実は認めていいんだよ」
「あれ、演技で泣いたわけじゃなくてなんか急に出てきたって感じなんでしょ?」
「……うん、なんでか出てきて止まらなかった」
「じゃあ、アミサも悲しかったんだよ」
「……そっか、私も悲しかったんだ……」
「……さぁ、続きもがんばりましょう!」
その後もどこかの班が先生を誘導することで見ていない隙を作り、そのタイミングを上手く使って準備を進め……時は太陽が沈み、空が赤らんできた夕方。
さっきまでは一般の観光客もいて賑わっていたビーチが人っ子一人いなくなって静かになっているような気がするし……これは烏間先生かな。
この島は普通に観光施設だし、私たちもその一環で来ている身だから、一般の人たちを排除することは難しくても、この時間くらいからなら……暗殺にイレギュラーが少しでも入らないように不安要素、不確定要素はできる限り排除するために、ここ一帯を貸切にした……、……なんて、さすがにそれは大規模すぎるのかな?
「いやぁ、遊んだ遊んだ。おかげで真っ黒に焼けました」
「「「黒すぎだろ!!」」」
E組の全部の班と今日1日をめいっぱい遊んだ殺せんせーは、黄色い顔も体も、真っ白だった歯も全部真っ黒に日焼けして休憩していた。それこそ前も後ろも表情も、人の体と違って凹凸がない分何もわからない……殺せんせーは純粋に楽しんでたみたいだけど、私たちは遊びながら確認、準備をするってことで大変だったのに。
……でも、まだ油断は禁物……これから結構するのは暗殺……だけど気を抜かないでいつも通りの私で、みんなでいないといけない。次は確か、夜ご飯を殺せんせーの苦手な船の上で食べる、だったはず……
「ま、今日殺せりゃ明日は何も考えずに遊べるじゃん?」
「まーな、今回くらい気合入れて殺るとすっか!」
……私の前を歩いていた吉田くん、村松くんの言った言葉に、夜ご飯の会場である船上レストランへと向かっていた足が止まった……今の言葉が、頭の中で引っかかったから。
〝何も考えずに遊べるじゃん〟
…………あぁ、そうか。そうだよね。
みんな、ただの中学生なんだ。
普通に生きてきて、いきなり『担任を暗殺してください』って依頼を受けて、この教室で殺さなくてはいけなくなった。普通じゃない生活に飛び込んだ……それでも、中身はただの中学生なんだ。
……人ではないにしろ、1つの命を奪う、そのことを全く考えていないからこそ出る言葉……ひどい例えかもしれないけど、血を吸う蚊を見つけたらすぐに叩いてしまうように、小さいからこそ気づかずに踏み潰しているアリのように、命を奪うという事実に何の罪悪感も感じていない。
……なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。私は経験が長いから、感覚が鈍ってしまったのかな……、……ホントにこの暗殺で殺せんせーを殺してしまっていいものなのかな……?
みんなの中に、経験させてはいけない傷跡を残すことにならない……?
「……アミサ?どうしたの、立ち止まって」
「ッ!な、なんでもないよ!早く追いつかなくっちゃ、私たちも夜ご飯は参加できるんだもんね!……そう、なんでも、ないの……」
……考えても、仕方ない。
今の私は、あっちで魔獣相手に、……相手に、戦っている私じゃない。殺せんせーっていう超生物に教えられながら年相応の学校に通っているただの子どもなんだから。私もみんなと同じ子ども……だから、私は私にできることをやろう。
少し先で足を止めて待ってくれているカルマ、先に進んで向こうの方で大きく手を振っているカエデちゃんやその隣で小さく手を振っている渚くん。待ってくれている人たちのもとへ、私は走る。これからが本番なんだ……雑念は全部払わなくちゃ。
「……話せるようになったら、教えてよね……」
「……?カルマ、どうかしたの……?」
「……何も言ってないけど?ほら、茅野ちゃんが待ちくたびれて怒っちゃうよ」
◆
夜の静かな海を走る、豪華な船上レストラン……今日は、この船を私たちE組が貸し切って使わせてもらうことになってる。
「な、なるほどねぇ……まずはたっぷりと船に酔わせて戦力を削ごうというわけですか」
「当然です。これも暗殺の基本の1つですから」
「……実に正しい。ですが、そう上手くいくでしょうか?」
磯貝くんが殺せんせーに食前酒……は、私たちがいる手前無理だから果実水をサーブしている。それを受け取ってグラスをくるくると揺らす殺せんせーはどこか余裕そうな態度だ。言葉の端々にも余裕な態度の表れが感じられて、私たちを見回すけど……えっと、
「暗殺を前に気合いの乗った先生にとって、船酔いなど恐れるに足「「「だから黒いよっ!!」」」……にゅや、そんなに黒いですか?」
……殺せんせー、真っ黒すぎて電気の下だと変に影ができることもあってかどこを見ているのか全然判別出来ないし、口の形も歯まで真っ黒だからわからない……態度でしか判別出来ないのだ。
私たちも話しかけたり油断させるためのサービスをしようにも見てる方向がわからないと何もやりようがないからどうにかして欲しい、かな。
みんなもそう思っていたみたいで、もしかしたら殺せんせーの後ろ姿に話しかけてるかもしれないって気分になるし、なんとかしてほしいと頼んでいれば……殺せんせーは得意げにダブルピースをゆらゆらと揺らして見せた。
「ヌルフフフフ……お忘れですか皆さん……先生には脱皮があるということを!黒い皮を脱ぎ捨てれば……ほら元通り!」
「あ、月1回の脱皮だ」
頭の帽子の下の皮に、亀裂が入ったかと思えば……あっという間に元の殺せんせーの黄色い姿に戻っていた。傍らには脱ぎ捨てた真っ黒な皮が……これが、桃花ちゃんが言ってた日焼けした後にペロペロめくれてくるっていう皮と一緒なのかな……?
……あれ、確か私がはじめてこの脱皮を見た時に杉野くんが言ってなかったっけ。殺せんせーの脱皮した後の皮は爆弾レベルの衝撃を吸収できるくらい丈夫なものだって……
「こーんな使い方もあるんですよ!本来はやばい時の奥の手ですが…………あ゛。アァァアアァアアッッ!!!!??」
「バッカでー……暗殺前に自分で戦力減らしてやんの……」
「どうして未だにこんなドジ殺せないんだろ……」
……やっぱり奥の手の1つだったんだ……自分で勝手に脱皮して、勝手に戦力を減らしたドジな殺せんせーは顔を覆ってへこんでる。確かに黒すぎて分からないから何とかしてとは言ったけど、もうみんな、なんでこのタイミング?って感じに呆れて見てるしかなくて……呆れてものが言えないってこのことをいうんだ、きっと。出てきた感想もみんなの一致した感想を代弁したようなものだし。
……何はともあれ、予定外に殺せんせーが自爆して戦力を減らすっていうハプニングはあったけど、ここでも私たちが最初に計画したものは順調に進んでいるといえる。
食事を楽しむ人、殺せんせーへ交代で食べ物を持ち寄って給仕をする人、計画の最終確認を頭の中で考えている人……いろんな人がいる。暗殺本番まで、あと、少し。
◆
「さぁて、殺せんせー……メシのあとは
「会場は……このホテルの離れにある、水上チャペル」
私たちが充分に船に酔わせた殺せんせーを連れてきたのは……あまり広さがあるわけではなく、壁に囲まれ、またその周りは海にも囲まれた、マッハ20の殺せんせーが全力を出しても逃げ切るには狭すぎる場所。ここが
「さ、席につけよ殺せんせー……」
「楽しい暗殺、まずは映画鑑賞から始めようぜ」
ここで磯貝くんがあえてここから先の暗殺計画を説明する。ここで三村くんが編集した動画を観て、触手の破壊権を持つ8人が攻撃して、それを合図にE組全員での総攻撃を行う、ということを。……手の内を明かすことが暗殺っていうのか疑問かもしれないけど、実は今の説明の端々にもフェイクが混ぜてあるから問題ない。
「セッティングごくろーさん」
「頑張ったぜ……皆がメシ食ってるあいだもずっと編集よ」
動画をご飯も食べずに準備してくれた三村くん……あれを精神攻撃としてまずは殺せんせーに観せることになっている、けど……彼の言葉通り夕ご飯の直前まで編集していたらしいから、動画の完成系はまだ誰も観たことがない。
学校とかいろんな場所でカメラを回しているのは見てたけど、どんなできになってるんだろう……初披露だ。
暗殺を前に渚くんが先生のボディチェックをする。前にプールで、そして昼間のイルカウォッチングでも殺せんせーは全身防水スーツを着て水に入っていたらしくて、それを使われてしまったらこのフィールドを準備した意味がなくなってしまうから。
直に触っていても、きっと1人では殺せない……でも、みんなで知恵を絞って先生の弱点を盛り込んだこの作戦なら、もしかしたら。
「準備はいいですか?君達の知恵と工夫と本気の努力……それを見るのが先生の何よりの楽しみですから。全力の暗殺を期待しています!」
そう言って席につく殺せんせー……さぁ、ここ一番の大勝負の始まりだ。触手の破壊権を持つ人たちはチャペルの中で待機ってことになっているから私も席に着こうとした……ところで、私の背後から肩を叩く人が。
「……?カルマ?」
「アミサ、ちょっとこっちに来て。動画が終わる頃には戻れるようにするから」
「??……うん、分かった」
よく分からないけど……私は予定になかった移動に一緒に座ろうとしていた愛美ちゃんや莉桜ちゃんを振り返ったら笑顔であとでね、いってらっしゃいと言われたから、作戦に支障はないんだろう。動画が始まる前に小屋の中を出ることになった。
◆
「何かあったの?」
「いや?何かあったってわけじゃないよ……ま、これからあるんだけど」
「?」
なにか不都合があって呼び出されたわけでもないらしい。何かあっただろうか……とも思ったけど、知らされないということは私にあまり関係がないのか知らせたくないということなんだろうと納得しておくことにした。
あんまり大きい声で話すとこれからのことに支障が出てしまうからできるだけ小声とジェスチャーでのやりとりだ。私はこれから時間をかけてゆっくり準備をし始めなければならないし、カルマは水上バイクに移動して次の準備だ。
それらを素早く確認したあたりで、
「失敗したーーッ!?!?…………あ、あと1時間もーーーーッ!?!?!?」
……なんか……殺せんせーのものすごい叫び声が聞こえた。思わず私の出てきたチャペルを振り返ったんだけど、カルマに再度呼ばれて顔を向ける。どうやら連れ出されたのは、内容は分からないまでも私が見ちゃいけない系のもの、だからなのかもしれない。
「……ということだから、アミサは外でもう少し待機ね」
「う、うん……殺せんせー、何があったんだろ……」
「さーね。……あ、そうそう、戻るところあたりで昼間のアミサの動画が流れるようにするから、殺せんせーにこう言ってみ」
「?……それを、言えばいいの?」
ホントに、殺せんせーに何があったんだろう。……というか何をしたらその、1時間も叫ぶような動画になるんだろう。
超がつくほど
◆
───ちゃぷ、
部屋が静かになったくらいに、そろそろチャペルの中へと戻るように言われて、私は中に足を踏み入れる。部屋の中央にある、テレビ画面と向き合った椅子には殺せんせーが沈んでいる……よっぽど精神的に重たいものの映像だったんだろう……私は見せてもらえなかったけど……精神攻撃、すごいなぁ。
「あら、おかえり……最後に1つ、なんか追加映像あるらしいからそれ見たら殺るよ」
「……うん」
莉桜ちゃんと愛美ちゃんの間に入って私は対先生ナイフを準備する。私は一緒に触手を破壊する他のみんなとは違って射撃があまり得意ではない……そして誰よりも近くに行くことになってるから、代わりに使うのがナイフだ。
腰に装備したエニグマを軽く撫でる……既に淡い青色の光を発しているソレは、動画に完全に意識が向いている殺せんせーがこっちを見てもすぐには気づかない程度のもの。……そうなるように調整したから。
『───そして、今日もやらかしてくれた奴である。E組の安全を監督するためと言いつつ、1人リゾート各所を満喫し、みんなと遊ぶ為に各班をまわる中……』
「エ。」
〝……、……一緒に、いてくれない、殺せんせーなん、て、知らない……っ〟
〝……よしよし、アミサこっちおいで。酷いねーこのタコ〟
〝……このつもりじゃなかったけど、これもゆするネタにしよっと……〟
〝あー、泣かせたさいてー〟
〝殺せんせーが真尾を泣かせたー〟
〝殺せんせーひどい……〟
〝アミサちゃんかわいそう……〟
『本気で一緒に遊ぶことを楽しみにしていたE組の妹分を泣かせた奴は、まだ謝っていない』
「確かにそうですが違います違います違いますぅぅぅ!!というか謝らせてくれなかったのは4班のみなさんでしょう!!!」
「「「殺せんせー、さいてー」」」
「確かに4班だけ一緒に遊んだというより近くで行動しただけだろ、これ」
「悪いことしたらごめんなさい、普通よね?」
「自分だけ満喫しやがって」
「ていうか昼でしょ?やらかしたの。今もう夜なんだけど」
「夕飯の時にでも謝るタイミングあったろ」
「ニュヤァァァァァッッッッ!!!!!!過去をの失態をほじくり返されるだけに飽き足らずリアルタイムッッッッ!!!!!!」
……昼間のこと、もう1回経験してるだろうからそうでも無いんじゃないかなーとか思ってたのに、みんなが追加でしっかり追撃してるから、思いっきり精神攻撃リバイバルになってるんですが?
とと、これ言わなきゃなんだっけ。
「……殺せんせー、生徒のこと、考えてくれる先生じゃなくて、自分の好きなことしたいだけの人だったんだね……」
「アミッ!?」
脱皮をした時のようにガンッと青ざめた先生をよそに、動画は終わりへと近づいていく……
「さて、秘蔵映像にお付き合いいただいたが……何かお気づきではないだろうか。殺せんせー?」
「!!これは、水が!?誰も水を流す気配などなかったのに……まさか、満潮!!」
「俺等まだ何にもしてねぇぜ?誰かが小屋の支柱でも短くしたんだろ」
「船に酔って、恥ずかしい思いして、水吸って……だいぶ動きが鈍ってきたよね。それに……ほらアミサ、できるだけ悲しそうに言ってみ」
「……殺せんせー、私たちに見せたら恥ずかしいことをしてたんだ……私、先生はそんなことしないって、信じてたのに……ッ!」
「!?!?あ、アミサさんんん……っっ!?!」
「アミサを動画鑑賞からあからさまに外した時点で、内容を察せなかった先生が悪いよねぇ……うしししっ」
「……わぁ……効果バツグンですね……」
「純粋すぎるからって理由で動画は観せれないというクラス全員の総意でこうなって、追加映像諸々含めてその純粋な子からのあの言葉はクると思ってたけど……」
「カルマの仕込み、カンペキね……やるじゃない」
言われた通りに言っただけだし、なんで私が言わされたのかよく分からないけど、みんなに親指を立てられたからこれでいいんだろう。
今度こそ、ナイフを構えて戦術導力器に手を添える。いつでもいける。
「さぁ、本番だ。……約束だ、避けんなよ?」
「……開始!」
磯貝くんの言葉と同時に私以外の7人が対先生BB弾の射撃で触手を撃ち落とす、そして7本の触手を落として動揺する殺せんせーの懐に私は一気に入り込むと足元の触手を同時に2本破壊し……そのまま床に手をつく。
すでに詠唱を終えて待機していたエニグマ……本来ならかなり大規模なアーツだから詠唱時間もかなり長いんだけど、もう発動直前までの状態にしていたから、瞬間的に私と殺せんせーを中心にしてチャペルの床全部を覆うような大きな光の陣が描かれる。
……と、同時に水上バイクを操るクラスメイトによって周囲の壁が破壊された。
殺せんせーが精神的動揺を立て直す間を与えないように、息をつく暇もなく水中に潜んでいたフライボードを付けたクラスメイトたちがスクラムを組んで、水圧の檻を作り出す。そして、その水柱の合間を縫うようにして……!
「……いきます、
満潮を利用して私と殺せんせーの辺りだけ小さな津波を起こし、私を巻き込むように水面の長さを盛り上げる。攻撃対象は私を巻き込まないようにしてるから、水に飲み込まれても息ができるのを予めみんなには伝えてある。
フライボード組はアーツの影響外になるように、それでいて周りに被害が出すぎない程度、水面の高さを殺せんせーの腰辺りにまで引き上げ、殺せんせーの動きを水の勢いと圧力で制限し、そこで維持をする……かなり、私自身の精神力が削られる。
加えてこのアーツは下位属性の中でもほぼ最高威力のアーツ……それを一瞬発動して終わりではなく、暗殺作戦が終わるまでは継続し続けなくてはならない……それが、すべて私の体に負担としてのしかかってくる。
「殺せんせーは急激な環境の変化に弱い!」
「チャペルから、水の檻、そして殺せんせーだけが囚われる水圧のプールへ!」
「弱った触手を混乱させて、反応速度をさらに落とす!」
水面が高くなっているのは私と殺せんせーの周りだけだから、チャペルの床へフライボードに載っていない残りのクラスメイトたちが集まり……一斉射撃を開始する。殺せんせーは当たる攻撃には敏感だからあえて殺せんせーのことは狙わない……水に囚われたまま、周囲約1mの幅をあけて弾幕を張り逃げ道を塞ぐ。
からの……トドメの2人!
E組きっての狙撃手である凛香ちゃんと千葉くんの2人は先生が警戒していた地上の山の中なんかじゃない……ずっと、水中に潜んでいた。本来なら陸地方面に2人の匂いが染み込んだダミーを設置してるから、鼻のいい殺せんせーはそっちに集中してたはず。
陸のフィールドから、水のフィールドを作り上げることで全く別の狙撃点を作り上げる。人の気配、におい、発砲音……すべてを水が消してくれる……この作戦なら!
「(もらった……!)……え……っ!?」
「……アミサさん、すみませんでした」
────とんっ
これならいける、そう確信した瞬間だった。
殺せんせーは私のアーツに抗って水の中から触手を伸ばして……軽く、それでも優しく……射撃をしている人たちの近くにまで私を押し出したのだ。それに驚く間もなく、目の前で、殺せんせーの体は閃光と共に弾け飛び……私たちは全員その勢いに海へと飛ばされてしまっていた。
「小屋の支柱を短くしても」
「満潮になったとしても水位が足りねぇ」
「その分は真尾が補うとは言ってたが……」
「ちょ、あの、水、水!動けないのですが、あ、ふやけっ!?」
「「「すげーな、タコの周りに海水がまとわりついてら」」」
「やった!うまく上がれた!」
「《銀》さんに模擬フライボードやってもらったかいがあった……」
「あの感覚に意外と似てるね……コツがつかみやすい!」
『……アーツ、《アラウンドノア》……消費EP220……それを一度の使用ではなく複数回に分けていて……あれ?アミサさんのEPって、確か……』
++++++++++++++++++++
南の島、暗殺計画実行。
オリ主はクラスの中でも銃の成績があまりよくないので、ナイフに変更しました。ついでにアーツを至近距離で調整するのにちょうどよかったからという理由で。
最後に殺せんせーに押し出された時、弾幕の中に突っ込んだのか、なんていうツッコミは無しの方向でお願いします。あれです、BB弾がバチバチする程度でそこまで影響はないことにしといてください。
あとがきは寺坂組(男性陣)、フライボード組、律の順番です。
次回、結果と───