千葉くんと凛香ちゃんの銃弾が殺せんせーに当たった……と思われた瞬間、私はアーツを維持するためにしゃがみこんでいた場所から殺せんせーの触手で外側へと押し出されていた。それは一瞬のことで、私は何をされたのか全く理解できなくて……当然アーツも集中が途切れて消える。集めた水の制御ができなくなって、殺せんせーにまとわりつかせていたそれも、重力に従って海へと戻っていくかと思われた、その時。
目の前で、殺せんせーが目も開けていられないほどの閃光と衝撃波とともに……弾け飛んだ、ように見えた。
フライボードで水圧の檻を作っていた人たち、射撃で弾幕の檻を作っていた人たち、そして、至近距離で殺せんせーを直接閉じ込める水の檻を作っていた私、みんなその勢いにチャペルの外へと弾き飛ばされた。海面に顔を出してすぐ、慌ててチャペルのあった場所へ目をやると、床を残して何もかもが吹き飛んでいた……殺せんせーも、いない。今までとは違って、私たちが暗殺を仕掛けた場所に殺せんせーのいた影も形も残っていない。
殺せんせー暗殺の手応えをみんなが感じている中、私が感じていたのは困惑だった。「すみません」って謝ったのは、もう言えないから……?とか思ったけど、……多分、殺せんせーがあの時に私を押し出したのは、この衝撃波が起きることを知っていたからだ。
ある程度の距離があった人たちなら、吹き飛んだとしても上手く海に着水できただろうけど……殺せんせーの隣というあ、ほとんど足元にいた私は、あの衝撃波を至近距離で受けて吹き飛んでいたらどうなっていたか分からなかっただろうから……先生は、最後の最後まで生徒の安全だけは気を配っていたというのだろうか……?
「や、殺ったのか!?」
「油断するな!奴には再生能力がある……水上は片岡さんが中心になって見張り、磯貝君が全体の統括を!」
「「はい!」」
……そうだ、まだ、結果が出ていないのだから過信してはいけない。水圧の檻と弾幕の檻、そして水の檻……3つの檻に囲まれて逃げ場はどこにもなかったはずだけど、確実に四散したという証拠がない限り、安心はできない。
「あ!」
「なんだあれ!」
その時、カエデちゃんが、杉野くんがほとんど同じタイミングで水面のある一点を指さした。そこには不自然な泡がブクブクと湧き出ていて……殺せんせーが身につけていたものか、はたまた本人が生きていて実は潜ることが可能だったとか、全く関係の無いものなのか、何かが浮かんでくる……全員がそこを注視して、弾幕組がエアガンをそちらに構える。
果たして、そこに現れたものは……
「ふぃ〜〜」
…………何アレ。
「ヌルフフフフ……これぞ先生の奥の手中の奥の手……完全防御形態です!!」
「「「完全防御形態!?」」」
プカプカと水面に浮かんでいたのは、殺せんせーが顔だけになってガラス玉のような球体の中に閉じ込められた……先生曰く、『完全防御形態』という状態らしい。大きさは男子なら片手で持てるくらいで、顔よりは小さい気がするけど……リンゴくらい、かな。手も足もなくなって動けなさそうなのに、ガラス玉の中で殺せんせーはニヤニヤと笑っている。
要は、凛花ちゃんと千葉くん2人の射撃を避けるために肉体を極限まで縮め、体の面積が小さくなったことで余分になったエネルギーで周りを固めた……それがガラス玉の正体。弱点である水を含め、あらゆる物質を跳ね返し、どんな攻撃も効かない……まさに無敵。
唯一の欠点はガラス玉が自然と崩壊するまでにかかる24時間は全く身動きが取れないこと。でも、その24時間の間に葬ることも、捨てることもできる宛がないことを殺せんせー自らが確認をしているんだとか……
「(……この大規模な暗殺になってから明かされた奥の手……それを想定できてなかった。奥の手の欠点をカバーするための対策として調査もしっかりされていて……命を奪うことに関しては、完敗、だね……)」
元々立てていた暗殺計画はほぼ狂いなくすべて問題なく遂行できた、身動きを取れなくすることはできた、何も攻撃を受けつけないとまで言わせる形態をとらざるを得ない状況にまで追い詰めた……それでも、殺すところまではいかなかった。
寺坂くんが悔しそうに殺せんせーを手に取ってガラス玉の部分を叩きまくってるけど、殺せんせー自身はなんてことないみたいで余裕そうに口笛を吹いている。この暗殺計画、もう何もできないまま終わるしかないのかな……命を奪うってことができなくても、何か……
「そっか〜、弱点ないんじゃ打つ手ないね」
意気消沈してしまったE組の雰囲気を払拭する勢いの明るい声が響いて、向こうで殺せんせーを投げるように誰かが要求している……カルマだ。寺坂くんが何か考えのあるらしいカルマに対して先生を投げると、カルマは静かにスマホの画面を先生に向けた……何かの、画像?動画?を見せてるのかな……?
「にゅや──ッ!!やめて!!手がないから顔も覆えないんですって、
「あーごめんごめん、じゃあ動かないように至近距離で固定してと……」
って全く聞いてないッ!!」
……何を見せられたのかはわからないけど、殺せんせーが大騒ぎしてるってことは、あの最初に見てた精神攻撃の動画くらいは衝撃的なものなんだろうな……きっと。聞いてるような聞いてないような微妙な返事をしてカルマはスマホを石で固定……殺せんせーが強制的に画面を見ざるを得ない状態を作り出す。
「そこで拾ったウミウシ、引っつけとくね!」
「ふんにゅあぁあッッ!!!!ウミッ、ウミウシの裏側が、ねとぉーって、キモッ、裏側ァッ!!」
ちょうど、チャペルへの連絡橋の近くにいたんだろうな……採れたてほやほやのウミウシをペトリと貼り付けて、殺せんせーさらに大騒ぎ。……そうだね、貼り付けられても手がないからはがせないもんね。
「あ、そうだ。あと誰か不潔なオッサン見つけてきてー!これパンツの中にねじ込むから!」
「やめて助けて──ッ!!!!」
ここまで来ちゃうと殺せんせーがかわいそうと言うよりも、なんというか……、……うん、おもしろそう、私も何かやりたい。
そういえば、カルマのいるあたりって昼間、4班のメンバーで仕掛けのために潜った場所だ。もしかしたら昼間に見つけたアレ、まだあったりするのかな……さっきの衝撃波でできた波のせいで流れてるかもしれないけど。
その思いついたことを確かめるために私は息を大きく吸い込んでザブリと海に潜り、そのまま連絡橋近くまで泳いで行ってみると……上手く、柱に引っかかって無事だったソレ。つかんで水面に上がる。
「……カルマ、コレあげる」
「ん〜?っ!!」
「中身も無事、おもしろそうだから協力してもらお」
「んぶっ、ふふ、あっははははッ!殺せんせー、追加!ウミウシごと共食いされときなよ!!」
「共食い……?ってた、タコ────ッ!!?!!?」
「せんせー、タコさんって足の間に口があるんだって。タコさんって雑食らしいし、殺せんせーのこと食べるかなー……?ふふ、実験、協力してくれるよね、せーんせっ」
「にゅぁぁあぁぁあッ!??ホントにやめてぇ!!!!あ、あ、悪魔が2人いる──ッッ!!!!」
作戦準備をしていた昼間に私が見つけていたのは、いつ使われていたのか全くわからない、フジツボがビッシリこびりついて海底の砂に埋まっていたタコ壺。その時になんとなくで覗いてみて、中にタコさんがいらっしゃるのは確認済みだった。
まさかあの大騒ぎの中でも流されずに、しかも中のタコさんもそのままあそこにあるとは思わなかったけど……ま、結果オーライだよね。
「……ある意味いじり放題だよね」
「……うん、そしてこういう時のカルマ君は天才的だ」
「悪魔と小悪魔……ていうかアミサの場合、タコがアレを食べるのかどうかが純粋に気になってるだけなんじゃ……」
「期待でキラッキラしてるもんな……純粋な悪意ってタチ悪ぃ。真尾、しっかりカルマの影響受けすぎだろ……」
「……それか実はキレてるかのどっちかだな」
「律の時も分かりづらかったもんな……」
じわじわと殺せんせーがタコさんに飲み込まれていくのを私はワクワク、カルマはニヤニヤしながら見ていたら、カルマの後ろからひょいっと烏間先生にタコごと殺せんせーを取り上げられてしまった。……もう、まだ最後まで見てなかったのに……
「君達、楽しいのはわかるが一度手を止めろ……このままでは全員海から上がれん。……とりあえず解散だ、皆。上層部とこいつの処分法を検討する」
「楽しいことには同意しちゃうんですかッ!?……はぁ、助かりました……皆さんは誇っていい。世界中の軍隊でも先生を
殺せんせーはいつものようにみんなのことを、私たちの暗殺を褒めてくれたけど……みんな、落胆の色は隠せそうもなかった。今までにやったこともないくらい大掛かりで、みんなの実力を最大限に集めた一撃をぶつけたのに外してしまったショック……それらがごちゃまぜになった複雑な気持ちで、異常な疲労感を感じながら、全員ホテルへと帰ることになった。
みんなが落ち込んでホテルへ向かう中、多分、私1人だけは少しだけど安心していた。しっかり綿密にねった計画だし、全てをここにぶつけに来たわけだから悔しい気持ちも分かるけど……まだ、みんなは、……この教室では1つの命を扱ってるんだということを理解しきれていない、と思う。
今の暗殺は、1つの命を終わらせるために行われたもの……その1つの命の重さを知る前に成功しなくて、むしろよかったとさえ思ってしまった。だって、最後にどうなるかまではわからないけど……みんなは私とは違うんだから……
「っと、……はぁ、疲れちゃったわ〜……アミサ、上がれる?」
「莉桜ちゃん……うん」
先に海の中から連絡橋へと上がった莉桜ちゃんがまだ海の中で浮かんでいた私に手を貸してくれて、その手を借りながら橋の上へと上がる。
……私たち触手破壊組8人は、殺せんせーに『海というフィールドを使って暗殺を仕掛ける』という思考を少しでも持たせないように、全て陸上で完結すると少しでも誤認させるために、わざと水着を下に着ることもなく普段着で暗殺に挑んでいた。
下着の代わりに水着を着ることもできたけど、殺せんせー目ざといから……水にはいる前提を無くしておいた方がいいもんね。
だからといってヒラヒラした服を着てくると水を吸った時にパフォーマンスが落ちると思って、選んで着てきたんだけど、潜って泳いでってしっかり海に浸かったからベタベタだ。服のすそだけでもと水を絞っていると、隣に莉桜ちゃんが来て呆れたような目を向けられた。
「アミサ……あんた、なんでそんな服着てきたのよ」
「え……これなら水に濡れたとしても抵抗少ないだろうし、動きやすいし、軽いから……あれ、透けてないよね?……わぷっ」
今着ているのは紺色地にシルバーで蝶の絵が描かれたトップスに茶色の短パンだけど……つい癖で周りに溶け込める色を選んでしまったから、さっきの殺せんせーみたいに黒くて見えないってことなのかな……?それとも、濡れたから下着が透けてるってことは、……ないか、紺色だから透けるわけがない。
そんな質問されるなんて何かダメなのか、とウンウン唸っていると、莉桜ちゃんが私に手を伸ばすのが見えた、……瞬間、頭の上に何かの布が落ちてきて視界が赤くなる。
……赤?視界が遮られて慌てて落ちてきたものを手に取ってみると、赤というよりはワインレッドの半袖上着……これは確かカルマが着てたもののはずだ。え、どういうこと?水上バイクに乗って壁を壊す役割だった彼はほぼ濡れてないはずなのに、ベタベタの私に被せたら濡れてしまう……!
「カルマ、これ濡れちゃうよ」
「いいからそれ着て。早く」
「……でも、」
「いいから。着ないなら着せるよ?」
私が何か言おうとすると言葉にかぶせるように渡された上着を着るように急かしてくるカルマ……何故かこっちに顔をチラチラとしか向けてくれなくて、基本彼の背中しか見えない。よく分からないままだったけど、着ないと動かなさそうだし、本人がここまで言ってるのだからいいかとお言葉に甘えて羽織らせてもらう。
……半袖とはいえ、カルマはやっぱり男の子だから……肩幅とか、色々サイズがあってない……袖なんて肘まであるんだけど、こんなのでいいのだろうか。
言われた通りに着たことを伝えるとこちらを振り向いたカルマは私の背に軽く手を添えながらホテルの方へと早足で歩き出した……さっさと戻ろうってことなんだと思う。
「ほら、行くよ。アミサは一応病み上がりなんだから」
「ま、待っ、……わっ」
「!……ごめん、早かった?」
「だいじょぶ、ありがと……」
何を急いでいるのかはわからなかったけど、カルマにとっての『少し急ぐ』は私にとっては『かなり急ぐ』になる……軽くとはいえ背中に手を添えられているから前に進まざるを得ないんだけど、自分に合ったスピードじゃないから案の定少しつんのめってしまった。
そこで私のペースが間に合ってないと気づいてくれたのか、いつも一緒に歩くペースに戻っ……あれ……もし、さっきのペースがカルマにとっての普通だったとしたら?普段から私のペースに合わせてくれているということなのかな。……やっぱり優しいなぁ……
ホテルに戻る私たちを後ろから見ている人たち……というか、最初に一緒にいたのは莉桜ちゃんだったのに、気づいたらカルマに流されてて、後にまだいるんだってことを忘れてしまっていた。
「……確かに、透けてはないよな」
「ああ、
「触手破壊組は殺せんせーに悟らせないために水着NGにはしてたけど、まさかあんな体のライン丸わかりのピッタリ張り付いたような服着てくると思わなかったよな……」
「暗殺の時は言うに言えなかったけど、さすがに終わったからカルマも隠しに来たか」
「……あっちの方がブラが透けて見えるよりもエロい気がする」
「見せたくないんでしょ、アレは。水着選びの時も露出過多なヤツと体のラインが丸わかりなヤツは他の男子に見せたくないって言ってたからね。さっさと自分の上着被せて隠した上に連れ去りやがって〜……私が先に一緒にいたのに!からかうか揉んでやるかしようと思ってたのになー」
「それもあるから連れてったんだろ……あいつら早くくっつけよなー……タダでさえ生徒会長に告白されてんだから、いつまでたってもあのままじゃなぁ」
「くっつかねーなら横から掻っ攫われても文句いえねーよな」
「俺とかな!」
「「「アンタはないわ」」」
「ひでぇ!」
◆
渚side
E組の生徒が泊まるホテル……このホテルとここ一体のリゾート地は、烏間先生曰く不確定要素を考えうる限り排除するために、夕方頃からは僕達だけで貸切にしたらしい。その協力のおかげで、僕等の暗殺の最中に邪魔が入ることもなく、最後まで計画通りにやりきることはできた。……でも、やりきっただけだ……殺せんせーを殺すことにまでは、いたらなかった。
ホテルへ帰ってきてから濡れた体を軽く乾かし、みんなオープンテラスの席について異様な疲労感にぐったりとしている。かつてない大掛かりな作戦で、渾身の一撃を外したショック……皆の落胆は計り知れない。
「はぁ……」
「……フライボード、せっかく、指導してもらえて一発で成功させたのに……」
フライボードで水圧の檻を作っていたメンバー13人は……学校にそんな設備があるわけがないため、ここに来てぶっつけ本番で挑戦予定だった。普久間島にはレジャーの1つとしてフライボードを使用できると返答をもらっていて、ぶっつけとはいえ成功率を少しでもあげるために、運動に、バランス感覚に自信のあるメンバー、そして元々目立たないだけでそこまで運動できないわけじゃない上に鷹岡先生に刃を当てた意外性って僕が担当に割り振られていたけど、事前に準備できることはそれくらいのはずだった。
あの一週間前、《銀》さんによる、プロが先導する訓練が行われるまでは。
++++++++
「……ここがお前達の言うプールか……海とは違って波もなく、塩分も含まれないから浮力も違うが……何もやっていない今よりは、少しは練習になるだろう。ならば……」
引退して尚もかなりの実力を持つロヴロさんですらどこか圧倒する雰囲気をもっている、伝説の暗殺者と呼ばれる黒衣に仮面の彼、《
僕等は《銀》さんの指示の元、水着に着替えてから訓練場所をプールへと移し、プールを見て何か練習法を考えている様子の彼の指示を待っていた。
「……では、フライボードに乗る13名……前へ」
「「「はい!」」」
《銀》さんに呼ばれて僕を含めて前へ出る。
「……片岡メグ、前原陽斗、この板をフライボード組全員に2枚ずつ渡せ。足にくくり付けた者からプールへ入れ……訓練を始める」
「え、なんで名前……痛ァッ!」
「は、はい!ほら、さっさと男子に配ってきて!」
「悪ぃ悪ぃ……ほらよ、渚」
「あ、ありがとう……」
僕等の前に現れた時のように空間を歪ませ、何も無かった場所から丈夫そうな板を取り出した《銀》さん……え、本トにどこから出したんだろう?
そして、つい口に出たのだろう、前原君の一言には僕も同意だった。僕等とは初対面にも関わらず《銀》さんは正確に、あの2人のいる方に向かって名前を呼んだ……それに驚いたから。でも、指示に対しての返事でもなくいきなり疑問を返すっていう失礼なことをしてしまったことには変わりないから、片岡さんが慌てて前原君を小突いて止めている。
《銀》さん本人は気にしていないようで次に訓練予定らしい速水さんと千葉くんを呼んで、烏間先生を交えて何やら話し合っているところだった。
指示された通り、両足に1つずつ板を結びつけ、水の中で浮かばない板をひっくり返らないようにしながらゆっくり沈め、プールへと入る。プールの中央を向くように全員が配置につき、準備が整ったを見計らって《銀》さんが近くに来た。
「お前達には、今からフライボードの感覚を掴んでもらう。今から水面を海のように波立たせる……やることはただ1つ……足元から吹き上げる水流を板で受け、バランスをとって乗れ。回数は2回、……それ以上は私もするつもりは無い……質問はないか?……では、いくぞ」
模擬とはいえ、フライボードは1つの大きな板に両足を乗せ、水上バイクの噴射装置を足に装着し、水圧で空中に浮遊するマリンスポーツだったはずだ……それなのに片足ずつの板にした理由は?ここはただのプールだけど吹き上げる水流なんてどうする気なのか?なぜ、2回と限定なのか?
……質問なんて考えればいくらでも出てくるし、《銀》さんも聞いてくれてはいる。だけど、なんとなくではあったけどやってみれば答えが出る気がしたから、今は飲み込んでおくことにした……他の皆も同じようで水中でバランスを取れるように体勢を整えている。
……僕等が体勢を変えたのを確認した《銀》さんは1つ頷くと、服の中からあるものを取り出して僕等に向かって構える。え、……柄は違うけど、あれって……!
「……落とされないよう、バランスをとれ……エニグマ駆動……≪
「「「わあぁぁあっ!?」」」
アミサちゃんの持っている戦術導力器と同じものだ!……そして青く輝いた光の陣が水面に現れると、プールの水が大きく波立ち、油断していたプールの中にいる僕等の足元、板の裏側に向かって水底から水の柱が勢いよくぶつけられた。
僕を含めて何人かはバランスを取れなくて水柱からすぐに落ちてしまい、慌てて水面まで上がって顔を出してみれば……前原君、杉野、片岡さん、岡野さん、岡島君はなんとかバランスをとって水の柱に乗ることが出来ていた。わずか10秒足らずの事だったけど、少しずつ水の勢いが落ちてきて、上がれたメンバーも着水する。
「ほう……5人上がれたか……フフ、なかなか素質がありそうだ。実際のフライボードとは水流が逆、加えて上半身を支える水流が無い分勝手は変わるだろうが……これで水の柱の上に立つ感覚はつかめるだろう」
「あの、《銀》さん……なんで両足を1つの板に固定させなかったんですか?フライボードって1枚の板じゃ……」
「お前達はフライボードに乗ったことがあるのか?水に落ちた場合……足が分かれ、自由でないとそのまま溺水の可能性がある。それでもいいと言うなら1枚板でもいいが、どうだ?前原陽斗」
「……こ、このままがイイっす」
「フフ、そうか。では、他に聞きたいことは無いな?一息入れることも出来ただろう……2回目、いくぞ」
「「「はい!」」」
「……水面の揺れはこのままでいいだろう。さて、次は何人上がれるかな?……駆動する……≪
この後、さっきよりは水に乗る感覚をつかんでいた僕は、数秒だけ水に乗ることができたけど、水柱が消える最後までは残ることができなかった……最初に上がれたメンバー以外は、皆そんな感じ。
でも《銀》さんはそれでもいいと言う。ちゃんとした設備で練習しているならまだしも、これはあくまでも『模擬』でしかなく、本物のフライボードであればまた感覚は違ってくるだろうし、何より上がれさえすれば滞空中はスクラムを組んで支え合うのだから問題ないとのこと。
この訓練をしたのは、ただ水の上に両足で立つ感覚をもって欲しかっただけなんだとか。
「お前達は暗殺のためにある程度の訓練を受け、基礎的な体力や体の動かし方は身に付いているだろう……プロには及ばない学生とはいえ、素人とは違う。……私が手を貸せるのはここまでだ。あとの部分は自分たちでカバーするがいい」
そう言って彼は次の訓練メンバーのために、僕等へ水から上がるように指示する……深くまで介入してこないのはプロ故なのか……それでも僕等は、訓練前に比べて自信をもって本番に挑めることに違いなかった。
++++++++
……本番では、全員がフライボードに安定して乗ることができ、最後まで計画を遂行することができた。でも、暗殺そのものは失敗……《銀》さんの言っていた通りの結末になってしまった。こんなの、悔しさしかない。
「しっかし、疲れたわ〜……」
「自室帰って休もうか……もう何もする気力無ぇ……」
「ンだよテメーら、1回外したくらいでダレやがって。もーやることやったんだから、明日1日遊べんだろーが」
「……そーそー、明日こそ水着ギャルをじっくり見んだ……どんなに疲れてても、全力で鼻血出すぜ……」
────何か、変だ。確かに今回仕掛けたものはかなり大掛かりな暗殺計画だったし、水の中に待機して、最後はほぼ全員が海に落ちて、ということは陸上よりも余分に体力が持っていかれてる……だとしても、いくら何でも、みんな疲れすぎじゃ?
僕と同じテーブルに座っているカルマ君とアミサちゃんは平然としたいつも通りに見えるけど、他のテーブルでは元気そうな人と様子のおかしい人が半々……確認しようと席を立ったところで、誰かと肩がぶつかる。
───ドサッ
「……え?」
「……渚君よ……肩貸しちゃくれんかね……部屋戻ってとっとと着替えたいんだけどさ、ちぃ〜とも体が動かんのよ……」
ぶつかったのは中村さんだったみたいで、そんなに勢いよくぶつかったわけじゃないのにそのまま床に倒れ込んでしまった。慌てて体を起こそうとして気付く。
「中村さん!?ひ、ひどい熱だよ……!」
「もう……想像しただけで……鼻血ブ……っ……あれ……」
「岡島君!!」
岡島君は比喩として言っていたに過ぎないだろうに、実際に鼻血が吹き出して困惑している……って、鼻血が出ているのは岡島君だけじゃない、他にも何人か……そうじゃなくてもクラスの半数が腹痛、吐き気、発熱って……
これは……一体何が起きているというの?
◆
カルマside
「律、記録はとれてたか?」
『はい、可能な限りハイスピードカメラで今回の暗殺の一部始終を』
「俺さ、撃った瞬間分かっちゃったよ。『ミスった、この弾じゃ殺せない』って。……自信はあったんだ。リハーサルはもちろん、あそこより不安定な場所で練習しても外さなかったし……何より、ほぼ同じような場所でもやらせてもらってんのに」
「同じく……あの時は、当たったのに……」
……今回の暗殺のトドメを任されていた2人と律のの会話が近くのテーブルから聞こえる。トドメを任されていた分、他の誰よりもプレッシャーが重くのしかかって、今回の作戦に対する落胆や反省、後悔の思いは測り知れない、と思う。
今回計画した暗殺は、殺せんせーが状況に対応しないようにするため、約1分間で勝負を決めるスピードが命のものだった……俺も最初にチャペルの壁を破壊する役割を終えてすぐに弾幕作りに加わったけど……結果はこの通りだ。
速水さんと千葉の2人は結果で語る仕事人タイプ……夏休みの間、俺等が集まらない時でも何度も自主練を繰り返していた2人の腕を信用してなかったわけじゃない。むしろ、あの訓練を経てさらに自信がついているようにも見えた。
あの、ちょうど一週間前の訓練で。
++++++++
「次は射撃組の訓練に移る。……烏間惟臣、元に戻せばプールの一部を隆起させても構わないか?」
「ああ」
「では、先にフィールドを作ろう。……エニグマ、駆動……≪
そう言って《銀》が取り出したのは、さっきフライボードをやった奴らが訓練する時にも取りだしていた戦術導力器……アミサが使っているものとそっくりだ。……唯一違うのはこちらに見えているエニグマのカバーが陰陽太極図で、ストラップにとんぼ玉のようなものを付けているところ。本トに個別でカスタマイズしてるんだ……1人1人個別のもので個性的なんだね、あれ。
そして彼がアーツを唱え、腕をプールに向けた瞬間、プールの中央に先の尖った岩が足場のように飛び出てきた……彼の言葉をそのまま引用するならプール底の岩を大きく隆起させたんだろう。
「速水凛香、千葉龍之介……お前達は足のつかない水深の深い場所で待機だ……酸素ボンベもない事だ、潜って待つ必要は無い。ただ、先程のフライボードと同じく水面を波立たせるし、撃つ瞬間に足がつかない可能性を想定した射撃を行え。この想定訓練は弾の量も考慮して1度のみ……構わないな」
「「……はい!」」
「触手の破壊をする者、作戦中盤から弾幕を張る者、あの岩場を囲むようにプールサイドへ円形に並べ」
呼ばれて前へ出る。俺等を隆起させた岩を円で囲むように、プールサイドで俺らを散らばらせたってことは……ここから銃を撃って弾幕を作れってことか。全員が配置についたところで《銀》は助走もなく軽々とプールサイドからプールの中央に作った岩場へ飛び乗った……あそこまで一番短い距離でも10m近くあると思うんだけど。
さすがは伝説の魔人、常人にできることじゃないってところか……少し着地の時にふらついたようにも見えたけど、足場にはなってるだろうけど、あんな尖った先に着地してるんだから当たり前だよね。
「……私が標的を務めよう。お前達の作戦では、要の2人以外は『当てない』のだな……?……渡したペイント弾入の射撃で私に当てないよう弾幕を張れ。……真尾有美紗はいるか?」
「アミサは風邪で寝込んでるよ」
「そうか……ならば、私が代わりに環境を作る。磯貝悠馬、お前がこのクラスの代表で間違いないな?」
「え……学級委員ではありますけど……」
「それで構わない、指示役でもあるのだろう?……トドメの2人の射線を空けるようにフライボードの代わりに水柱を立てる……タイミングを見て弾幕の開始合図をかければいい。速水凛香と千葉龍之介は……自律思考固定砲台、お前が出せばいいだろう」
『……は、はいっ!お任せ下さい《銀》さん!』
訓練の前に彼が言っていた『的になる』というのはこういうことか……実際の殺せんせーの代わりに立つ彼に、当てない狙撃をする、ということ。
納得した頃には磯貝や律にも指示が出され、いよいよ模擬暗殺が始まる所だった。
「……アーツの使い手がこの場にいないのでは、若干心もとないな……少し待て」
そう言って《銀》は服の中から茶色の液体の入った試験管のようなものを2本取り出し、その場で飲み干すと、再度戦術導力器を構えた。
「……いくぞ……エニグマ駆動、≪
「…………作戦開始!」
《銀》が狭い足場でアーツを発動させる言葉と共に、狙撃手2人がいる側にのみ水柱が出てきた……俺達弾幕を張るメンバーはフライボードの内側に入って狙う予定だから間に邪魔な障害物が来ないように、同じような環境で訓練できるよう配慮しているんだろう。
チラ、と《銀》が磯貝を向いていつでもいいと合図を送るのが見えたため、俺もエアガンを構えて磯貝の合図を待つ……声が聞こえた瞬間、一斉に弾幕が張られた。
バチバチとかなり激しい音が鳴る中、弾幕の中央にいる彼は少しだけ体が揺らしている……殺せんせーだって生きてるんだから動くに決まってる、多分、同じように動いて見せてくれてるんだ。
ただ、彼の動くそれに合わせてひらひらした羽のような黒衣も揺れるため、『当てない』射撃が難しくなってきた。と、そこで若干黒衣の彼が二重に見え、元に戻ったような感覚が……
『では、速水さん、千葉さん、……今です!』
────パシュ!
────パシュ!
ほぼ同時に2つの弾丸が放たれた瞬間に上がっていた水柱が崩壊する……これが終わりの合図なんだろう……実際の作戦も1分以内だから、かなり早く模擬が終わったことになる。
俺等は銃を下ろしてプールの中央に立つ《銀》を見てみれば……黒衣の所々に俺等弾幕組が撃った赤いペイント、頭のフード部分に千葉達の撃った2つの黄色いペイントが付着した彼の姿があった。
うわ、やっぱ結構弾幕当たってんじゃん……
「……フッ、お見事。千葉龍之介、速水凛香、どちらの狙撃も、若干速水凛香の射撃が速いのが気になるが頭部に着弾を確認した……不安定な水中で体勢を保ちながらの射撃……少しは自信になったか?」
「は、はい……」
「結構、揺れますね……思ったように真っ直ぐ保てなくて」
「波の揺れは自然に委ねられるもの……想定できるものでもなければ、毎回同じ環境になることは絶対にありえない。……陸地でのバランス訓練とは違って、自分のバランスとは関係なく不安定になる。これはやってみなければ分からなかったことだろう?そして弾幕……見ての通り着弾が目立つ。当てては本末転倒、当てないを徹底するならばギリギリを狙うよりも標的の、全周1mを狙うくらいの間隔をあけた方がいい」
「「「はい!」」」
言い方が事務的な話し方ではあるけど、俺等射撃組の方にもしっかりとアドバイスを盛り込んだ指導があり……これでプールを使った訓練は終わる流れ、となった時に、ポツリと千葉が投げかけた疑問が俺も気になった。
「……あの、なんで仮面の外側、しかも背後からの狙撃なのに、なんでどっちの弾が先に着弾したのか分かったんですか?」
「……そーいえば、射撃の最中二重にぶれて見えたんだよね……そん時に何かしたとか?」
……それもそうだ。当てない弾幕とは違って背後からとはいえ頭への狙撃……衝撃は感じられたかもしれないけど、なんで2発ともの着弾が、どちらによるものなのか分かったんだ?
考えられる違和感は岩場へ上がってすぐに少しふらついたように見えた時と射撃中の姿がブレたことくらいだ。だからとりあえず発言をしてみたんだけど、《銀》は真っ直ぐ俺の方を見て口角を上げる。
「……フフ、赤羽業、お前はなかなかやるようだな」
「……は?」
その言葉と共に、プールの中央に立っていた《銀》が空気に解けるように霧散して消えた……隆起した岩場が瓦解し、水面に残ったのは、1枚の符。
《銀》がいなくなったかと思えば、最初にプールへ来てから集合したプールサイドの所に、ここへ現れた時のように空間を歪ませながら彼はゆらりと姿を現した。
彼曰く、これは符術と呼ばれるもので《銀》のクラフトにあたるものらしい。最初こそ生身で的になっていたが、着弾の様子を見るため、弾幕の張り方を客観視するために、途中から分身と入れ替わっていたんだとか。それで、すべての様子を離れたところで見ていたって……そりゃ、分身が見えない位置も把握できるわけだ。
実は磯貝にも《銀》の不自然な動きが見えて気になっていたらしく、見破れたのは俺達の動体視力がいいからだろうと言われた……球技大会ぶりにそんなこと言われたよ。
ま、何はともあれ暗殺を想定した《銀》による模擬訓練は終了した。分身相手とはいえ、自然の揺れに適応して狙撃を成功させたのがすごいのか、当ててはいけない弾幕作りができていないことを反省すればいいのか、なんて、なんとも微妙な思いがあったんだよね。それでも、やってないよりは自信が違う……失敗しない、自信があったんだ。
++++++++
……だけど、あれだけ対策しておいて、結果はこのザマ……か。はぁ、でも落ち込んでるのも性にあわないし、あとで烏間先生に殺せんせーもらってまたいじってやりたいなー……24時間あのままなんでしょ?遊びほーだいじゃん。
「……でも、
「……こんなにも練習と違うとはね」
……練習は練習でしかない。だからいつでも本番のつもりでいなくちゃいけない。
……俺は恥ずかしながら今回の期末テストで、アミサに教えられたからね……舐めてかかった時の俺に跳ね返ってくる重さを、真剣に向き合うことの大切さを。
「しっかし、疲れたわ〜……」
「自室帰って休もうか……もう何もする気力無ぇ……」
「ンだよテメーら、1回外したくらいでダレやがって。もーやることやったんだから、明日1日遊べんだろーが」
「……そーそー、明日こそ水着ギャルをじっくり見んだ……どんなに疲れてても、全力で鼻血出すぜ……」
まーた岡島がバカな事言ってるよ。さっきもアミサの体のラインがどーとか言ってたけど……エロい目で見ないでくんないかな、結構今までもシメてんのに懲りない奴。……だから、見せたくないんだよ。
……でも、明日は海で遊べるだろうし、中村がわざわざ俺に聞きに来た上でなんか色々手を貸したらしい水着姿が見れるのは、結構楽しみだとも思ってる。
……それにしても、なんかおかしくない?みんな、疲れたにしちゃ半数くらいの顔色に差がありすぎる……体力的なものだっていうならガタイのいい寺坂が普通なのはわかるけど、E組ではそこまで体力の無い竹林まで平然としてるのが説明できないし、逆に運動神経がよく、体力もある前原がへばってるのも意味がわからない。
だったら気疲れ?……いや、1番プレッシャーもあって気疲れしてるのは狙撃手の2人のはずだけど、悔しそうな様子は見えても疲れって感じじゃない。じゃあなんで……
────ドサッ
「え……」
「なに……」
渚くんがテーブルを立ったあたりで何かが倒れる音が……その音に反応するように隣に座っていたアミサが立ち上がる。俺も今までなんとなしにしか見ていなかった周囲へと注意を向ける……そこには、今まで暗殺を実行していた元気のあった様子と全然違う、苦しそうに倒れ込むクラスメイトたちの姿があった。
「みんな……!」
「支えるよ……寝てるのと座ってるの、どっちが楽?」
「何が起きたんだよ……ッ!」
「フロント、この島の病院はどこだ!!」
「え、いや……なにぶん小さな島なので、診療所はありますが、当直医は夜になるとよその島へ帰ってしまいます」
「くそっ……!」
────♪♪♩〜♪♪〜
「…………」
「やぁセンセイ、カワいいセイトがずいぶんクルしそうだねぇ」
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今回はキリよく暗殺終了後、宿泊場所へ戻ってきた所までです。
そしてやっぱりいい意味でも悪い意味でも暴走したオリ主。楽しんでます。タコの内部にキュポンって飲み込まれたりするのかなーと、内心(傍から見ても)ワクワクでした。
では、次回でまた!