暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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怖い時間

夏!旅行!ならばやるべき事は……!の流れで開催された殺せんせー主催、海底洞窟での肝試し……もとい、吊り橋効果……というものでカップル成立を狙っていたらしいイベントが終わった。肝試し中の脅かし……殺せんせー曰く、カップル誕生のための仕掛けは、私とカルマは普通に全部こなしてきたけど、みんなはやらなきゃ扉が開かないってもの以外突っ込むだけツッコミを入れてスルーしてたらしい。殺せんせーが、

「アミサさんとカルマ君だけですよぉ、まともに全部やってくれたペアは!」

……って泣きながら頭を撫でてくれた(私は撫でられるの好きだからそのままにしてたけど、カルマは撫でられそうになった瞬間に払ってた。殺せんせーそれでまた泣いてた)。でも、仕掛けをやっただけでカップル成立っていうのは私でも無理だと思うけどなぁ……それで恋人ができてたら、世界中恋人だらけになっちゃうよ。……言ったら先生、立ち直れなくなりそうだったから黙ってたけれど。

ホテルに戻って夜ご飯までは自由時間……烏間先生が私たちから離れて仮眠を取りにいった隙に、私たちはオープンテラスに集合する。目的は……

 

「しっかし……意外だよなぁ〜、あんだけ男を自由自在に操れんのに」

 

「自分の恋愛にはてんで奥手なのね」

 

「恋愛ぃ〜?はっ、んなわきゃないでしょ!」

 

……イリーナ先生である。殺せんせーが肝試しに誘ったのは私たち生徒だけかと思っていたらイリーナ先生もだったらしく、烏間先生を誘って肝試しに参加してたみたいで……1番最後に洞窟から出てきた。烏間先生の腕にしがみついていたからイリーナ先生も怖かったのかな、……なんて私は思っていたのに、イリーナ先生は私たちが見ていると気づいた瞬間にコソコソと離れていって。……あ、これは面白いおもちゃを見つけたって感じに、みんなの目がキランと光ったような気がした。それで、今に至る。

 

「あいつが世界クラスの堅物だから、珍しかっただけよ!それで、男をオトすプロとして本気にさせようとムキになってたら、……そのうち、こっちが……」

 

「う……」

 

「かわいいとか思っちまった……」

 

「なんか屈辱……」

 

「なんでよっ!!」

 

イリーナ先生は自他ともに認めるハニートラップの達人であり、プロということを誇りに思ってる……先生の放課後講座で聞いた話では、ほんとに小さな頃から殺し屋として働いてきたって言ってた。……話を聞く限りその時から『女であること』を最大限に利用して、『嘘の恋心』を武器にしてきたんだと思う。……その経験が邪魔になって、いざ本当の恋をしてみたら勝手がわからないんだと思う……恋をしたことがない私が、詳しく語れることじゃないんだけど。

なんにせよ、今までに見たことがないイリーナ先生の作ってない女の人らしい部分を見たみんなは、特に殺せんせーがノリノリで、協力する気満々だ。もちろん私もその1人……大好きな先生()たちが幸せなら、嬉しいから。あと、イリーナ先生って普段がちょっと子どもっぽいところがあったり……その、エッチなところがあったりで分かりづらいけど、ほんとに綺麗な人だし、ホテルの潜入任務の時、私を根拠を示したわけじゃないのに信じてくれた、すごい人だと思うから……そんなイリーナ先生のことを烏間先生がどう思っているかが、ちょっと気になる。あともう1つ気になってる理由はあるけど……それは、あとでいいや。

 

「まずさぁ、ビッチ先生服の系統が悪りぃんだよ」

 

「烏間先生みたいなお堅い日本人なら清楚でしょ!」

 

「清楚といえば……神崎ちゃんだよね。昨日来てたの乾いてたら貸してくれない?」

 

「あ、う、うん!」

 

少しでもお手伝いになるようにと、みんなで案を出していく。イリーナ先生の持ち味を殺さず、かといって今まで通りではなくちょっと工夫を……その1番の近道が服装なんだけど、いきなり壁にぶち当たった。有希子ちゃんの着ていた服を試着してみたイリーナ先生は、着れたには着れたんだけど……

 

「「「なんか、逆にエロい……!」」」

 

「……同じ服でも着る人によってここまで変わるのか……」

 

「全てにおいてサイズがあってないのよ……あ、じゃあ胸のサイズ的には矢田ちゃんかアミサ、あんたらの服ならいけんじゃない?」

 

「私のは、清楚っていうよりはカワイイ系になっちゃうかな……」

 

「た、確かに私のなら胸のサイズは合うかもだけど……その、身長……それに東方系のだから、清楚には合わないと思う……」

 

「「「あー……」」」

 

胸が大きいことは女の人にとってのステータス……なのかもしれないけど、私にとっては悩みの種でしかない。その、ないのだ、服が……ただでさえ低身長なこともあって私が着れる服を選ぶのが毎回大変で、それもあってゆったりしたものかピッタリしたものの両極端になってしまう。イリーナ先生は狙って「露出しとけばいいや」みたいな服装なのかもしれないけど、実際には選べるものがなくてそういうのを選ばざるをえないのかもしれない。

……ちなみに東方系というのは、日本からみるなら中華系の服だと思ってもらえればわかりやすいと思う。

 

「もういーや、エロいの仕方ない!大事なのは乳よりも人間同士の相性よ!」

 

「では、烏間先生の女性の好みを知ってる人は?」

 

「あ、私この前見たよ!テレビのCMであの女の人のことベタ褒めしてた!〝俺の理想のタイプだ〟って!……あ、ちょうどやってるアレだよ!」

 

桃花ちゃんが指したテレビCMに映っていて、烏間先生がベタ褒めしながら見ていた女性というのは……あるセキュリティの宣伝で、霊長類最強と言われる方でした。

 

「「「理想の戦力じゃねーか!」」」

 

「最強の人外(仮)には霊長類最強女子ってか……」

 

「3人もいるって……CMだからだよ」

 

「ビッチ先生の筋肉じゃ絶望的だね」

 

烏間先生がお付き合いしたい、結婚したいと思う理想の女性が、あんな簡単に真似出来ないような強い女性だったらイリーナ先生にはむいていない。むしろ真逆の方面に特化してると思う。先生の理想のタイプで攻めるのも難しそう……でも、理想のタイプに合わせて自分を作ってしまったら、それはもうイリーナ先生じゃなくなってしまうから、ある意味やらなくてよかったんじゃないかという気もする。

 

「で、では、手料理なんてどうでしょう?ホテルのディナーも豪華だけど、そこをあえて2人だけ烏間先生の好物で……!」

 

「……烏間先生、ハンバーガーとカップ麺食ってるとこしか見たことないぞ……」

 

「それだと2人だけ不憫すぎる……」

 

そういえば、イリーナ先生とロヴロさんが模擬暗殺をした時にも烏間先生はハンバーガー食べてたな……効率だけを求めて健康には全く気を使ってないのがよくわかる。

……あまりにも烏間先生のせいで私たちの策が役に立たなくなっていくせいで、もうこれはぶっ飛んでいるイリーナ先生ではなくて烏間先生のありえない堅物さが全ての原因なんじゃないかってディスられはじめた。

 

「と、とにかく……ディナーまでに出来る事は整えましょう……女子は堅物の日本人が好むようにスタイリングの手伝い、男子は2人の席をムードよくセッティングです」

 

「「「はーい」」」

 

「…………」

 

こうしてイリーナ先生の改善(?)や烏間先生の攻略に取り組むよりも、まずはディナーでの告白という場を整えて、とりあえずそんな雰囲気を出してみよう作戦で対応することに決定した。普段、言い方は悪いけど先生に対して友達感覚のみたいに接している私たちがここまで協力しようとするところに驚いたのか、イリーナ先生は目をぱちくりとさせて固まっている。ディナーの開始時刻は21時……それまでに出来ることはまだまだあるはず、私もみんなに続いて準備を手伝いに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリーナ先生の服装はせっかくホテルのディナーに正装……?礼装……?……わかんないけど雰囲気に適したドレスを持ってるんだからとそれを着ることになり、あとは少しでも露出を抑えよう……ということで、おかーさんが売店で買ってきたショールをアレンジし、うまく隠している。髪型も長い髪をただそのまま下ろしているよりも、結い上げた方が清潔感あるよね!という桃花ちゃんの一言でポニーテールにしてある。

机のセッティングや料理を先生2人だけ別の場所にする手配は、男子がしっかりやってくれたとのこと。いままでの経験から男子ってそういう雰囲気をあまりわからないものだと思ってたけど、普段から女性の扱いに慣れてる人とか、女性の好みを調べてる人とか、美的感覚に優れてる人とか、気配りのすごい人とかがE組には集まってる……だから、高級店とかには及ばなくても見れるものにできたんだと思う。

先にイリーナ先生が配置につき、私たちはみんなでご飯、という言葉で烏間先生を呼び出して……室内の席は多少強引な手も使ってだけどすべて塞ぐ。烏間先生を外へと誘導できれば、あとはイリーナ先生が頑張ることだから。

 

「……皆で食事と聞いたが、……なんだこれは」

 

「烏間先生の席ありませーん」

 

「E組名物、先生いびりでーす」

 

「先生方は邪魔なんでー、外の席で勝手に食べてくださーい」

 

「…………、最近の中学生の考えることはよくわからん……」

 

……よし、普段から殺せんせーをみんなでいじっているから、烏間先生は疑問に思いながらも私たちの言葉に従って外の特別席(made in E組)に行ってくれた……のを見て、みんながオープンテラスに隠れて様子を伺う。だって、イリーナ先生の本気の恋……どうなるのか気になるもん、しょうがない。

私が隠れたところはイリーナ先生の顔が正面に見える木の影……隣には、陽菜乃ちゃんが泣きそうな顔をして見守っていた。……ずっと、烏間先生のことが大好きだって言ってたもんね。それでも邪魔しに行かないのは、きっと、イリーナ先生のことも大好きだから……大好きな2人が幸せになるって、自分も幸せなることだから。そっと、彼女の手を握るとハッとした顔をして、それからゆっくり抱きついてきた。

 

「うぅ、アミサちゃん〜……」

 

「……陽菜乃ちゃん、2人ともが大好きだもんね。見てるのつらいなら中にいる?私、付き合うよ……?」

 

「……ううん、ちゃんと見てる。ありがと〜……」

 

そう言って彼女は私から離れると、イリーナ先生と烏間先生の様子をまっすぐ観察しはじめた。……陽菜乃ちゃんにとって、イリーナ先生はいわば恋敵……それでも見守ることを選ぶのって、すごいなぁ……私も2人の先生の方へ視線を戻す。この場所は微妙に距離があって、表情や仕草ははっきり見えるけど、いくら周りが静かでも話し声までは届かない。……あれ、烏間先生が何か話しかけたかと思ったら、イリーナ先生の顔が暗くなった。なんだか不安になってきて、一緒にあの様子を見ているみんなを見てみたけど、気づいてないみたい……笑顔で、「いい雰囲気だね」などを言いながら見守っている。……私だけが、気づいてる。

 

「ねぇ、カラスマ。『殺す』ってどういう事か、本当にわかってる?」

 

聞こえないはずなのに、なぜか、ハッキリと。イリーナ先生のその言葉だけが、私の耳に届いた気がした。

その言葉が頭に入ってきた瞬間、私は暗殺教室に来たばかりの頃とこの旅行中にあったことが頭に思い浮かんでいた……思い出したら言い表せない気持ちが湧き上がってきて、このままここに居続けることもできなくて。みんなが先生たちのやりとりに夢中になっている隙をみて、私は静かにその場から離れた。なぜかはわからなかったけど、1人になりたかった。

 

 

 

 

 

カルマside

一応ビッチ先生と烏間先生にはお世話になってるし、クラス全員での作戦らしいから参加しておいたけど……俺自身はそこまであの2人の恋愛事情に興味があるわけじゃない。……ハッキリいえば、自分の分でも上手くいかないのになんで他の奴らの橋渡しを、だ。でも、腐ってもビッチ先生はハニートラップの達人……男女は違っても何か盗めないかな〜……程度の軽い気持ちで2人の先生のディナー風景を観察していた。

ビッチ先生がナイフでまとめていた髪ゴムを切って、中途半端な間接キスを噛まして俺等のもとへ戻ってきた……普段からビッチ全開だってのに、こういう時だけ躊躇うせいで、烏間先生絶対気づいてないと思うよ、アレ。みんなはまだぎゃーぎゃー文句言ってるけど、もともとそこまで興味をもって見てたわけじゃないから、部屋に帰ろうとして……ふと、みんなを見て違和感を感じた。……アミーシャ、いなくね?

 

「……倉橋さん、アミーシャは?」

 

「へ……?あれ、さっきまで隣にいたのに……部屋に戻っちゃったのかな〜?」

 

俺が見てた限り、途中までは倉橋さんと一緒にいたはずだ……その彼女が知らないということは、俺等全員が集中していた時に、気付かれないように席を外したってこと。誰にも行き先を告げず、黙ってひとりでいなくなったということは、あの先生たちの様子を見てよっぽど何か気になることがあったんだと思う。

 

「そ、わかった。……もう解散でいいよね?……律、アミーシャのスマホかエニグマ、追える?」

 

『少々お待ちください……はい、可能です!案内しましょうか?』

 

「頼んだ」

 

球技大会の日に連絡が取れなくなった時にクラス全員から怒られてからは、アミーシャはよっぽどの事がない限り連絡手段を持って移動するようになった。この日も、どっちかはちゃんと持って移動してくれてたみたいで律が痕跡をすぐに追い、マップを表示してくれた……彼女の示した先は、

 

「……昨日の、暗殺場所?」

 

殺せんせーが吹き飛ばしたはずの水上チャペルの跡地だった。

 

 

++++++++++++++++

 

 

ホテルに近いところだと、ホテルの人とE組関係者だけとはいえ、人の気配がたくさんある。でもここまで出てきてしまえばとても静かで……聞こえるのは波の揺れる音、海風の音、あとは私の足が海面を蹴る音くらい。パシャリとひとつ蹴れば、海面に映る三日月が揺らいで形を崩しては元の形に戻っていく、それをぼんやり見つめていた。

 

「…………」

 

「なーにやってんの」

 

「…………カルマ」

 

「あれ、驚かないんだ。真後ろからいきなり声かけたのに」

 

「…………海に、写ってたから」

 

「なるほどね」

 

気配は隠していたみたいだけど、彼が私の真後ろに立った時、海面に私以外の影が揺らいで見えた……だから声をかけられる前に気づくことができた。振り向かないままイリーナ先生と烏間先生のその後を聞いてみたら、烏間先生が付けていたナプキンにイリーナ先生が口付けて、それを使った関節キスをしたらしい……イリーナ先生らしからぬ、おとなしいアプローチだった。当然みんなは大ブーイングだったみたいで、その様子が簡単に想像できて少しだけ笑った。

それだけ言うと、この場はまた自然の音だけが響く静かな空間へと戻る。……カルマは何にも言わないし、聞かない……多分、私が話そうとしなければ何も聞かないでいてくれるんだと思う。彼はいつでも優しいから、どうしようもない時以外は、私が話し出すまで待っていてくれる。私は、海面に揺れる月を見ながらポツリポツリと話しはじめた。

 

「さっきね、イリーナ先生の言葉が聞こえたの」

 

「……アミーシャのいたあの位置、声は聞こえないんじゃね?」

 

「うん、だから言葉だけ。正面から先生の口元見てたからかな……『殺すってどういう事か、本当にわかってる?』って、言ってた気がした」

 

聞こえないはずなのに認識できたってことは、分からないけどその時だけ唇の動きを読んだのかな……なんて、自己完結してる。他の話していることは全く言葉として頭に入ってこなかったんだから、余計にそう思うしかなかった。そして、言葉を聞いた瞬間に思い出したのはふたつの場面……その片方には彼がいた。

 

「……そう。それで、その言葉がどうかしたの?」

 

「……カルマは、初めて一緒に殺せんせーを暗殺しに行った時、明確な殺意があったよね……先生なんて死んでしまえばいい、信じるつもりなんてないって」

 

「……ま、そーだね。あの頃は先生とかどーでもよかったし」

 

「普段からケンカもしてたから、カルマは人を攻撃した結果どうなるのか、自分の中に残る気持ちとか……後のことを理解してた」

 

「……そーだね」

 

あの頃、私もカルマも先生っていう大人に絶望してた。だから、殺すという依頼になんの疑問もなく、なんのためらいもなくぶつかり、まっすぐぶつかって返してきた殺せんせーなら信じてみてもいいかもしれないって思って、殺すのを見送った。見送ったとはいえ今も命を奪うということを考えて挑んでいる……少なくとも私は考えている。

 

「でも、……みんなは違う。多分、烏間先生も……ううん、烏間先生は考えないようにしてるのかな」

 

「……みんなって、E組?」

 

「うん」

 

E組の中で私たちだけは、賞金目当てや依頼されたからって理由で殺しをしていない、唯一だった。他の人を焚きつける理由には使ってたけど……自分が向き合う理由に使ったことは一度もない。

他のみんなは殺したら賞金100億円、これだけ弱点があるならすぐに殺せるんじゃないか、賞金手に入れたら何に使う、あとちょっとだったのに、次はこうしよう、また殺ればいい……『命を奪う』、それを軽く捉えていて本当の意味を考えたことがないように思う。

 

「昨日の暗殺の前にね、吉田くんと村松くんが話してたんだ。『今日殺せれば明日は何にも考えずに遊べる』『今回くらいは気合入れて殺るか』って……聞いてた人は何人もいたのに、誰も否定しなかった。それを聞いて、私はみんなと違うんだって、そう思った」

 

「……それが、あの時立ち止まってた理由か……」

 

「あの時は暗殺を控えてたからなんとか押し殺したけど……イリーナ先生の言葉を聞いたら、また思い出しちゃって。……あたりまえ、だよね……みんな、普通に生きてきたただの中学生なんだから。いきなりこんな目に見えた命と向き合って、自分たちで摘み取ることの意味なんて……考えたことあるわけないもんね」

 

「……それだけ聞くと、アミーシャは違うって聞こえるんだけど」

 

「………………そう、だね。私は………、……私は、命と向き合うことが、普通の世界で生きてきたから」

 

「魔物との戦闘、か……確か、元々は害を与えない動植物が変異したものだったっけ」

 

「……うん」

 

ホントは、カルマの予測は少しだけ違う……でも、それも間違いじゃないし、まだ教えるつもりもない。幼い頃から命と向き合う環境で育ち、それしか知らなかった私は、最初から殺せんせーを殺すことの意味をわかっているつもりだけど、みんなは違う。みんなはキレイで明るい光のような人たちだから、そんな暗い部分は知らなくてもいいと思う……でも、この教室にいる限り、いつかは向き合わなければいけない。それをイリーナ先生の言葉で再認識した……そしたら、その事を理解している私が、巻き込まれて暗い部分を知ったとはいえ、まだ明るいみんなと一緒にいるのがなんか、……いたたまれなくなって、ここまで逃げてきてしまった。

パシャリと海を蹴った時、後ろで軽い何かを落とす音のあと気配が近づいてきて、私を抱える形で体重をかけられた。同じように素足になったカルマの足が、私と同じように海を蹴る。

 

「……俺もさ、みんなと一緒……正直そこまで命のことなんて考えてないよ。……でも、今アミーシャの言葉聞いたら、ちょっと考えさせられた」

 

「……」

 

「確かにみんなは意識してないだろうね。4ヶ月近く付き合ってきて、先生との思い出もできてきてて……その相手を暗殺するってことの意味」

 

「……うん」

 

「……でも、俺はちゃんとわかって殺るよ。だから……アミーシャ1人で、そんな重いのを押し殺さないで。俺も一緒に抱えるから……俺に吐き出してよ」

 

「……でも、そんなの、」

 

「いいから。……抱えさせてよ……俺は、できる限りアミーシャのことを知ってたい。一番近い所で支えたいし、頼ってほしい」

 

「……なんで、カルマはそうやって言えるの?今、私が話さなければ、知らないままで中学校を終われたかもしれないのに」

 

なんでカルマは、いつも私が欲しい言葉をくれるんだろう。なんで、いて欲しい時にいてくれるんだろう。私は彼にまだ知らなくていいことを話して、私の暗い気持ちを吐き出して、きっと嫌な気持ちにさせたのに。背中から回された腕に手を添えて、そっと疑問を投げかける……さすがに、恨み言のひとつでも言われるかなって思っていたのに。

 

「……アミーシャのことが、好きだから」

 

「……ぇ」

 

ぎゅ、と私に回した彼の腕に力が入って……そのまま言われた言葉に固まった。今、カルマはなんて言った……?

 

「あー、くそ……夕方タイミング逃したし、まだ言わないつもりだったのに……」

 

「え、あの……」

 

「アミーシャがまだ、そういう感情を理解出来てないのはわかってる……だから、すぐに返事はしなくていいよ。でも、好きだから一緒にいたいし、苦しんでるなら少しでも軽くしてやりたい……そう思ってることは知っといて」

 

「…………っ」

 

気がつけばアレだけみんなの所から離れていたいくらい悩んでたのに、気持ちがスッキリしていた。背中に感じる彼の体温が、早い心臓の音が、嘘じゃないことを伝えてくる。まっすぐ伝えられた言葉は理解できたけど、すぐに答えることはできそうになかった……なのに、カルマの口から綴られる言葉はどこまでも優しくて、私は小さく頷くことしかできなかった。

 

「タダでさえ悩んでるとこで混乱させて、ごめん。……夏場でも海風に当たりすぎると風邪ひくし……戻るよ」

 

「……うん」

 

先に立ち上がったカルマが転がっている靴を拾ってまだ座り込んでいた私に片手を差し出してくる。軽い力で立ち上がらせてもらいながら、さっき何かが落ちる音がしたのは、彼の靴を落とした音だったんだ……そんなどうでもいい考えが私の頭の片隅をよぎっていた。私の靴も拾ってくれたみたいで、そのまま手を引かれてホテルへと戻る。

いつの間にかカルマと分かれて女子部屋に戻ってきていて、部屋で出迎えてくれたみんなに色々と声をかけられたことまでは分かった。けど、理解はできても飲み込みきれない感情が整理しきれなくて、それらへまともに答えられないまま、隣のお布団の有希子ちゃんへと抱きついたまま、私は眠りに落ちていた。

 

こうして。みんなで挑んだ暗殺に、命の危険を身近に感じた潜入任務に、E組みんなで楽しんだ夏らしい遊びに、……2つの場所での2つの告白を経て、夏休みの旅行は終わりを告げる。

 

 

 

 

 




「律、中継なんてしてないよね」
『……さすがに、してません。』
「……他の奴らには黙っといて、特に前半。俺等3人だけの秘密ね」
『わかりました……って、告白はいいんですか?』
「……橋の入口あたりにいくつか気配があった。おおかた声は聞こえてなくても見てただろうから、なんとなくみんな知ってるって。……悪い、律には黙っててもらうことばっかりで」
『いえ。……では、もし聞かれた時は告白に関してだけは答えても?』
「……ま、いーよ。どうせクラス全員知ってるわけだし……アミーシャは返事してないしね」



「アミサ、おかえりー。遠くから見てたけど、また甘い空気作っちゃってぇ、何話してたの?」
「あ、声は聞こえない距離はとってたから!ナイショ話なら言わなくていいし!」
「そうそう、ビッチ先生ね……」
「……」
「……アミサちゃん?」
「……有希子ちゃん、ぎゅーしていい?」
「え、うん……アミサちゃん……?」
「……好きって、どういう気持ちなのかなぁ……」
「「「………………………え、」」」
「…………すー……」
「え、爆弾落とすだけ落としてそこで寝る!?」
「律、何かわかる?」
『……カルマさん、告白されてました。ただ、返事は自分の気持ちを整理できてからでいいと』
「……あー……」
「……一応、前進……?」
「どうだろ、この子完全にキャパオーバーで疲れきって寝ちゃったんじゃ……」
「というか、神崎ちゃんの膝の上で寝ちゃったけど……どうしよう?」


++++++++++++++++++++


沖縄リゾート編は、これでおしまいです。
実は残っていた伏線をお話に混ぜ込んだら、結局告白はすましちゃったほうがいいなとなりまして、こうなりました。オリ主の言ってることは原作だともっと後で重要になることですが、カルマ(と律)には一足先に自覚してもらいました。……書いておいてなんですが、オリ主に悩み+新たな混乱を招いてぐっちゃぐちゃな状態に追い込んだだけな気もします。夏祭りの前にオリジナル話を入れて、元の2人の関係に戻していけたらとは考えてます。

カルマが普通にオリ主を探しに行くところを見て、ゲスいクラスのみんなは隠れながらですが普通について行きました。殺せんせーはもちろん、イリーナ先生も。……会話は聞いてませんが、2人が何やら話していたことも、カルマが行動起こしたところは見ています。女子部屋にオリ主が戻ってくる前に、みんな部屋に戻ってきて帰ってきたオリ主から詳細を聞き出そうとしますが、なんの情報も得られませんでした。男子部屋も同様……ただ、告白はしたくらいの情報が回るくらいです。

夏休みはまだ続きます。

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