暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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この話では出席番号が出てくるので補足しておきます。
オリ主こと『真尾有美紗』が入るため、前原くん以降の出席番号がひとつずつズレます。
前原陽斗…E-22(ここまで変わりなし)
オリ主……E-23
三村航輝…E-24
村松拓哉…E-25
矢田桃花…E-26
吉田大成…E-27
という形になりますので、よろしくお願いします。



48話 武器の時間

 

「あれ、着替えるの早いね渚」

 

「あのまま行きゃよかったのに。暗殺者が女に化けるのは歴史上でもよくある事だぞ」

 

「い、磯貝君まで……」

 

「渚君、()()なら早い方がいいらしいよ。ホルモンとかの関係で」

 

「とらないよ!!大事にするよっっ!!」

 

「その話は後にしてくれるか……」

 

「……二度としません……」

 

 潜入のために女の子の服を着ていた渚くんは、みんなが階段を登り始めたくらいに階段の隅っこで着替えたみたいで、いつの間にか来た時の服装に戻っていた。持っていってもしょうがないからと階段の踊り場にあった荷物置きに畳んで置いたあたりで、7階……一般客が入れないフロアにたどり着く。

 

「この潜入も終盤だ……律」

 

『はい、ここからはVIPフロアです』

 

 VIPフロア……私たちが気にすべき相手の数は、一般客がいなくなる分ぐっと減る代わりに、これまで以上に危険度はぐっと上がり、警戒しなくてはならない。

 階段のスペースにいる私たちから見えるところだけでも、明らかに今までのホテルの従業員とは違う服装、体格の見張りの人たちがいる……律ちゃんが言うには、ここから先はホテルの警備員だけでなく、客自身が雇った見張りを置くことができるらしい。

 

「あれって、私達を脅してる奴らの一味なの?それとも無関係の人が雇った警備?」

 

「どっちでもいーわ。倒さなきゃ通れねーのは一緒だろうが」

 

 寺坂くんは意気込んで指をポキポキ鳴らしていて、策さえあれば、飛び出す気満々のようだ……、……あれ、なんか寺坂くんの様子に違和感がある気がする……いつもの彼とどこか……気のせい、かな……?

 

「いい意気込みです、寺坂君。そして倒すには、君が持ってる武器などが最適ですねぇ」

 

「……チッ、透視能力でもあんのかテメェ……」

 

 そうこうしているうちに、殺せんせーがニヤニヤしながら寺坂くんに何やら指示を出している。どうやら彼が持ってきたリュックサックの中に、この状況を打開できる武器(もの)があるみたいで……寺坂くんはものすごく出したくなさそうな顔をしながら、リュックの中をあさり始めた。

 烏間先生は一撃で仕留めなくてはいけないけどホントにできるのかって言ってるけど、寺坂くんには相当自信があるようで……

 

「おい、木村。お前の足ならあそこからここまで逃げ切れんだろ、あいつら怒らすか何かしてここまで誘い出してこい」

 

「俺がァ?どーやって」

 

「知らねーよ」

 

 寺坂くんの持つ武器は近距離で使うものなんだろう、何とかして見張りを近くに呼び寄せようと木村くんに指示を出している。囮、と言ったら聞こえが悪い……だけど、確かに木村くんならこのくらいの距離を余裕で逃げ切れると思う。

 でも、どうやって追いかけさせるかまでは寺坂くんには思いつかないみたいで完全に無茶振りになってる……木村くんは思いつかなそうで首をかしげていて……そこにイタズラを思いついたような楽しそうな笑顔でカルマが近づいて行き、何やら耳打ちしていた。それを聞いて何を言うのか決めたみたいで、木村くんは口を固く結んで廊下へ足を踏み出した。

 

 

 

「〜?〜〜〜、〜〜〜。〜〜」

 

「………!」

 

「……!!」

 

 

 

「……この距離だとなんて言ってるかはっきり聞こえないね……」

 

「カルマ君、何言わせたの?」

 

「んー?『脳みそなくて頭の中まで筋肉野郎、人の形してんなよ、豚肉ども』って。あとは木村が言いやすいように変えてんじゃね?」

 

「うわ、ものすごい勢いで……そりゃ怒るわ」

 

 木村くん自身がなんて言ったのかを聞いたわけじゃないけど、自分の考えが上手く相手を怒らせたことに対して、満足気に笑ってるカルマが教えてくれた言葉を聞くだけでも、だいぶ失礼なことを言ったんだとわかる。ホント、そういうのをこんな短時間でよく思いつくなぁ……

 

 廊下の音を聞くだけでも、木村くんのスピードに見張りたちがついていけなくなってるのがわかる……むしろ、これだけの距離なのにバテたようなドタドタした足音を響かせてる。

 涼しい顔で、それでいてものすごいスピードで走る木村くんが私たちの隠れている横を通過したのを確認して、寺坂くんと吉田くんが体勢を低くした。

 

「おっし、今だ吉田!」

 

「おう!」

 

 ────バチチッ

 

 同時に物陰から飛び出した2人が、木村くんを追いかけてきた見張り2人に思いっきりタックルして地面に張り倒して……間を置かずに響いた大きな電気が弾ける音。……スタンガンだ。

 寺坂くん自身は、元々は殺せんせーに電気を試そうと買ってたらしいけど、思わぬ所で役に立った。……だから最初リュックから出すのを渋ってたんだね、見られたらもう使えないと言っても過言じゃないから……

 

 いくらガタイがよくても人間の首元に電流を流されたらさすがに一溜りもない……見張りの男の人たちは見事に泡を吹いて気絶している。この状態から起き上がることはまずないだろうと思って、傍らにしゃがみながら男の人を観察していたら、知り合いに見たことのある特徴を見つけ、驚いてしまった。

 ……木村くん、運がよかったね、としか言えないや。殺せんせーも当然のように気づいていて、寺坂くんに声をかける。

 

「寺坂君、その2人の胸元を探ってみてください。膨らみから察するに……もっといい武器が手に入るはずですよ」

 

「……木村くん、無事でよかったね……」

 

「は?真尾、いきなり何言って……」

 

「ああ、そういえばアミサさんは知り合いにいるんでしたね。専門が魔獣相手とはいえ、……銃手が」

 

「「「本物の、銃!?」」」

 

「ヘタしたら俺撃たれてた!?」

 

 相手が銃を使わずに木村くんが『子ども(ガキ)だから』って走って追いかけてくれたから無事だったとしか思えない……今までの人たちもそうだったんだから、敵が本物の武器を携帯してるのなんてほとんど当たり前だったのに、……平和ボケかな……完全に忘れてた……

 とにかく見張りは2人、銃も2つ……確かに実践で本物相手に戦うには役に立つ武器を手に入れた、のはいいけど……。私たちが普段扱っているのはエアガンだし、弾はBB弾……実弾入りの本物の銃なんて、仕組みは同じでも誰も使ったことがない。どうするのかと思えば、殺せんせーは迷わずに指名した。

 

「千葉君、速水さん。この銃は君達が持ちなさい。ただし、先生は殺す事は許しません……君達の腕前でそれを使えば、傷つけずに倒す方法はいくらでもあるはずです」

 

 ……この指名は妥当な判断だと思う。1番は烏間先生が持つことだけど、まだ支えられてないと歩けないようじゃ、精密な射撃は求められない。そうなると、私たちの誰かが銃を持つことになるけど、クラスの中で射撃成績が1番いいのはこの2人だから。

 ……だけど、さっきの暗殺で、エアガンで失敗したってプレッシャーがある2人は思いつめた顔をしている。誰も声をかけることはできない……先生の指名でもあるし、この2人より上手くできるなんて保証はどこにもないから、名乗り出ることも怖くてできない。

 

「さて、行きましょう。ホテルの様子を見る限り……敵が大人数で陣取っている気配はない。雇った殺し屋も残りはせいぜい1人か2人!」

 

「……おう!さっさと行って……ぶち殺そうぜ!!」

 

 殺せんせーの声に寺坂くんが率先して応える、それなのに先頭を歩いていくわけじゃない……やっぱり、何かがおかしい。

 直接聞いても教えてくれないかもしれないから、確信をもってからにしよう……静かに近づいてよく見てみれば、少し脂汗をかいているような……これ、緊張してるとかじゃなくて、熱……?

 

「……寺坂くん……もしかして、んっ!」

 

「!……(黙ってろ。俺ゃ体力だけはあんだからよ、こんなもんほっときゃ治る)」

 

「……んん……(でも、……だったら、せめてその体力だけでも……)」

 

 声をかけながらその大きな背中に触れてみると、普通の体温よりも明らかに高く感じる……多分、この潜入している最中にウイルスが発症したんだ。潜伏期間は人それぞれって犯人が言ってたし……やっぱり、全員がいつ発症してもおかしくない状態であることに、間違いなさそう。

 寺坂くんは取り柄の体力でなんとか周りに『普段通り』を見せてただけ……ずっと、空元気でしかなかったんだ。口に出そうとした私の口を軽く塞ぐ彼の手すら熱くなっていて……ホテルに残してきたメンバーの、発症した様子を思えば、ここまで着いてきてるだけでも相当辛いのだと思う。

 

「……回復の雫よ、ここに……«ティアラ»(水属性中回復魔法)……」

 

 それでも本人が隠したがっているなら、私は本当に危なくなるまでは協力する。小さく詠唱を唱え、中程度の回復アーツをかける……蒼い光の雫が寺坂くんに吸い込まれていった。

 

「(ん……体が軽くなった、あんがとよ)」

 

「(……ごめんなさい、私じゃ、完治させられない……)」

 

「(わーってるよ、……お前こそ、無理してアーツ使ってるじゃねーか、謝んな)」

 

「ッ!?」

 

 アーツをかけ終わると、ひとつのため息をついてお礼とともに私の頭を撫でてくれた寺坂くん……まだ、その手のひらは熱いままだ。そして……続けられた言葉に完全に足を止めてしまった。

 ……バレてた?隠せてると思ってたのに……だけど、寺坂くんのを隠す代わりに私のそれを黙っててくれるみたい。

 

「(……なんで、)」

 

「(……さーな。ただ、わかる奴はわかってると思うぜ……当然、あいつも……話は終いだ、行くぞ)」

 

 ……私のアーツを使う上での弱点も、いつかは話さなくちゃいけないこと……でも……せめてこの潜入が終わるまでは……バレたくない。

 そう改めて思い直して、寺坂くんの回復のために使ったエニグマをしまおうと握り直した、ら、

 

 

 

────カシャン

 

 

 

「……え、」

 

「何の音?」

 

「?どーしたの、アミーシャ」

 

「!……な、なんでもない。エニグマ、落としちゃっただけ……」

 

「なんだ、そっかぁ。ビックリしたよー」

 

「えへへ、ごめんね……」

 

 前を歩いていたみんなが急に響いた金属音に振り向いて、カルマに声をかけられてから慌てて拾う。……今、確かに力を入れて掴んだはずだったのに……気づいたら戦術導力器は手から滑り落ちていた。

 おかしいな……寺坂くんにバレたことで、動揺でもしてたのかな、私。

 

「……アミーシャ、ちょっと……」

 

「……どーしたの?いきなり握って……えへへ、カルマの手、あったかいね」

 

…………つめたい…………熱がないからなのか……?

 

「?」

 

 エニグマをしまい直していたらいきなり片手をカルマに取られてビックリしたけど、彼はなにかを呟いて、それからなんでもないって歩き出した。

 ……何を確かめたかったのだろう。そのまま私を引っ張るために繋いだ手が、少しだけ力を増して握られた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みなさん、これより上の階もVIP専用の非常階段を使わなくてはなりません。そのためには、8階のコンサートホールを通り抜ける必要があります』

 

「……了解……、ッ!?……全員、椅子の後ろへ隠れ息を潜めろ。固まらず、散らばれ……行け!」

 

 今は利用しているお客さんもおらず、使用されていないコンサートホールは電気がついてないと真っ暗で……できる限り足音を消して非常階段まで通り抜ける、そのつもりだった。

 烏間先生がなにかに気づいたようにステージの方へ意識を向けて、私たちへ小声で指示を出す。

 

 ……一気に通り抜けるよりも、烏間先生の感じた何者かの気配をやり過ごすために身を潜める方がいいと判断したのかもしれない。

 果たしてそれは正解で、私たちが椅子の背もたれへと体を隠したのと、ほぼ同時だった……誰かが、……ううん、この場合は誰かじゃない、……殺し屋だ。殺し屋が、私たちが入ろうとしていた目的の非常階段の出入口からコンサートホールに入ってきたんだ。

 

 

 

「……15……いや、16匹か?呼吸も若い……ほとんどが10代半ば。驚いたな、動ける全員で乗り込んで来たのか」

 

────ズギュゥン!

 

 

 

 気配……呼吸音だけで私たちの人数や年齢を推定してみせた殺し屋さんは、自分の後ろを見ないままに銃を撃った。みごと、その弾はステージの照明を割り、発砲音とガラスの割れる大きな音がホール中に響き渡る。

 

「言っとくが、このホールは完全防音だ。お前ら全員撃ち殺すまでだーれも助けに来ねぇって事だ……お前ら人殺しの準備なんてしてねぇだろ!おとなしく降伏してボスに頭下げとけや!」

 

 確かに私たちは人殺しの準備なんてしてない……でも、大切な友だちを助ける準備は、覚悟はしてきたんだ。そう簡単に引き下がるわけにも、降伏するわけにもいかない……!

 

 ────バァンッ

 

 ……さっきの殺し屋さんが撃った発砲音と違う銃声……多分、凛香ちゃんか千葉くんが持っている銃で撃った音だ。殺せんせーに止められた通り、人殺しをするわけにはいかない……殺さず、傷つけずに銃を扱うなら、考えられることはいくつかあるけど、今のは『武器を奪おう』としたんだと思う。

 その音が響いた瞬間、余裕そうに銃を手のひらで回していた殺し屋さんは一気に真剣な雰囲気へと変化していた。

 

「なるほどぉ……意外とうめぇ仕事じゃねーか!」

 

 リモコンか、ステージ備え付けの機材か……何にせよ、一気にステージが明るくなった。明るいどころじゃない、眩しすぎる……!逆光になってステージの殺し屋が影になり、直視することができない。

 

「今日も元気だ銃がうめぇ!」

 

 ────ズギュゥン!

 

「一度発砲した敵の位置は忘れねぇ……下にいた2人の殺し屋は暗殺専門だが俺は違う。軍人上がりだ。この程度の1対多戦闘は何度もやってるし、幾多の経験の中で敵の位置を把握する術や銃の調子を味で確認する感覚を身につけた。……さぁて、お前らが奪った銃はもう一丁あるはずだ……」

 

 今の発砲音は……殺し屋さんの話すことをそのまま受け取るのなら、さっき銃を落とそうと狙った方の生徒に撃ったんだろう。

 音、気配だけで正確に位置を把握する……ここまでの手練が相手となると下手に動くわけにはいかない、どうする、みんなバラバラの位置にいるから先生たちだって私たちを把握して指揮するのは困難、これは個人戦にせざるを得ないのか……

 

「速水さんはそこで待機!」

 

 殺せんせー……!

 

「今撃たなかったのは賢明です千葉君!君はまだ敵に位置を知られていない!先生が敵を見ながら指揮するので……ここぞという時まで待つんです!」

 

「っ!どこから喋って……!!」

 

「ヌフフフフフ……」

 

 いつも通りのノリの殺せんせーの笑い声が聞こえて、少し安心する。よかった、私たちには最強の暗殺対象でありながら最高の強い味方の殺せんせーがいるんだから、もうだいじょ、ぶ……ん?あれ、でも殺せんせー、動けないのにどうやって……それに、今どこに、

 

「テメー何かぶりつきで見てやがんだ!」

 

「ヌルフフフ、無駄ですねぇ。これぞ無敵形態の本領発揮」

 

 ……まさかの1番前で、殺し屋さんをおちょくってた。これ、絶対ニヤニヤしてるよね……ものすごい銃撃の音が聞こえるけど、完全防御形態のおかげで全部跳ね返してるはずだから。

 

 熟練の銃手に暗殺の訓練を受けているとはいえ戦闘経験のないただの中学生が挑む……その視覚ハンデとして殺せんせーが前に出てくれたみたい。殺し屋さんの動きや視線を見ながら私たちに指示を飛ばしてくれるって……見えないのにできるの?っていいたいけど、先生だからやっちゃうんだろうなぁ……まぁ、勝手に動くわけにいかない私たちは指示に従うだけだ。

 

「では木村君、5列左へダッシュ!」

 

 その声の聞こえた瞬間、通路をまたいで木村くんが移動する。まさか攻撃ではなく移動だなんて思わなかったんだろう……殺し屋さんが銃の照準を合わせる前にすんなり移動することに成功した。

 

「寺坂君と吉田君はそれぞれ左右に3列!」

 

「なっ……」

 

「死角ができた!このスキに茅野さんは2列前進!」

 

「カルマ君と不破さん、同時に右8!」

 

「アミサさん、右へ4列進む!」

 

「磯貝君、左に5!」

 

 1つの場所を見れば、他の場所を見ることができない……視野が広くても、さすがに全体を把握することはかなり難しい。烏間先生は多分殺せんせーをかぶりつきに配置するために前の方で動けてないはずだけど、生徒だけで15人もいるんだから、あちこちに散らばった私たち全員を一気に警戒することは不可能。

 殺せんせーの指示で、殺し屋さんの視線を左右に振らせながら、私たちは少しずつ、少しずつ前進していく。

 

 問題は、殺し屋さんは『私たちが本物の銃を2丁所持していること』と、『最初に撃ったのが速水、もう1人が千葉』っていうことを知ってるってこと。殺せんせーは名前で私たちに指示を出してるから、名前をどんどん重ねていけば誰がどの位置にいるかを敵に教えることになる……つまり、回数を重ねれば名前を呼んだ時点で次に誰が移動するかがわかって射撃してくる可能性と、狙撃手2人を狙って撃ってくる可能性があるってこと。

 先生、どうするんだろう……とか思っていたけど、全く心配する必要なんてなかった。

 

「出席番号12番!右に1で準備しつつその場で待機!」

 

「へっ!?」

 

「4番と6番はイスの間から標的(ターゲット)を撮影!律さんを通して舞台上の様子を千葉君に伝達!」

 

「ポニーテールは左前列へ前進!」

 

「目隠れ、左へ3!」

 

「バイク好きも左前に2列進めます!」

 

「教室で理科好きの前の席の人、右へ2行けます!」

 

「漫画好き、右前に1列前進の後右に3!」

 

 出席番号、見た目、趣味、それに座席の配置……自分しか、もしくはE組で一緒に過ごしていなければ分からないことで指示を出していく殺せんせー。確かにこれなら、位置の把握なんて早々できるものじゃない……というか、さり気に千葉くんと凛香ちゃんが移動(避難)できてる。

 殺し屋さんもいきなり名前以外で指示を出しはじめて、しかも全くわからない呼び名で誰が移動しているのか、同じ人が動いているのか、完全に混乱して銃をあちこちに向けているのがイスの隙間から見えた。

 

「最近竹林くんイチオシのメイド喫茶に興味本位で行ったらちょっとハマりそうで怖かった人!撹乱のために大きな音を立てる!」

 

うるせー!!何で行ったの知ってんだテメー!!

 

 次の指示は最近あった出来事、……え。なんでそんなプライベートなことを殺せんせー知ってるの……?しかも明らかにバレたくないことを話している。今のは明らかに寺坂くんの声だったわけだけど……殺し屋(あの人)には絶対バレないけど、E組にバレないように一切配慮してないよね?

 

 ……そしてそれだけでは終わらなかった……むしろ、ここからが殺せんせーによる、暴露大会の始まりだった。

 

 

 

「クラスの女子にちゃん付けで呼ばれてちょっと意識しちゃった男子、右に8列移動!」

 

ちょ!?

 

 

 

「未だに本校舎の女子からラブレターを手渡されてる男女!1列前に進む!」

 

「うぅ、気にしてるのに……」

 

「なんで渡されるんだろうな……」

 

「「「(イケメンだからだよ2人とも……)」」」

 

 

 

「男女みんなにバレたから最近隠さずかなり直接的なアピールを増やしてるのに気付いてもらえないばかりか相手から無自覚でやり返されてそれが可愛いから何も言えないで悶えてる人、右前2列前進!」

 

うるっさいよ……!

 

「「「(悪いカルマ、本人(アミサ)以外はみんな知ってる……)」」」

 

 

 

「最近のスイーツ通いで店員さんに覚えられて試作品を受け取ってる人、ズルいです!先生も混ぜて!左へ7!」

 

やだよ、あそこ穴場だもん!

 

「「「(指示に私情挟むな!)」」」

 

 

 

「お揃いの動物のキーホルダーをどこに行くにも持ち歩いて毎日触っては癒されてる人!右へ5!」

 

本トなんでそーゆーこと知ってんだよ!?

 

ば、バレてる!?……ていうか僕の右5もないよ!?

 

あれ、今のって私の事じゃないの……!?

 

「にゅやっ!?3人ともそうだったのですかっ!?先生てっきりリスの人だけだと……!」

 

「「「(なんで指示したお前が驚いてんだよ!?)」」」

 

 

 

 ……なんか、ホントになんで知ってるのって情報を暴露し始めた殺せんせー……みんな、つい、なんだろうけど声出しちゃってるから誰の暴露話なのか(私たちには)バレバレになっちゃってるよ……

 

 でも、カルマと渚くんがあの時に買ったキーホルダーを大事に持ってくれてることがわかったのは、ちょっと感謝してもいいかもしれない……私だけじゃなかったんだって、分かったから……嬉しい。

 

「月に愛されたE組の妹分、次の指示通りに!E-12、E-16、E-1、E-13!E-1だけ6/7、あとは全員最初の1文字を取ってステージ付近で待機!その後先生から合図があった時のみ『目』の使用を認めます!」

 

「ッ!」

 

 その後もいくつか移動の指示が続く中、『月に愛されたE組の妹分』……みんなが言うワードが全部入ってるってことは、これは私に対しての個人的に指示だ。

 しかも言い方からしてただ『ステージ付近に移動する』だけの移動の指示じゃない、何かの行動を促すメッセージが付いてる。殺せんせーの言い方からして今のは出席番号……言われた順番に名前を拾うと、菅谷くん、寺坂くん、カルマ、杉野くん。カルマだけ6/7であとは最初の1文字……、…………なるほど、そういうこと。

 

 殺し屋さんが他へ目を向けている隙に理解した私はすぐに行動へ移す。

 

 

 

「さて、いよいよ狙撃です千葉君。次の先生の指示の後……君のタイミングで撃ちなさい。速水さんは状況に合わせて彼の後をフォロー、敵の行動を封じることが目標です」

 

 ……これが、移動ではなく反撃に移るための最後の指示だ。

 

「と、その前に結果で語る仕事人の2人にアトバイスです。君達は今、ひどく緊張していますね。先生への狙撃を外したことで……自分達の腕に迷いを生じている。言い訳や弱音を吐かない君達は……『あいつなら大丈夫だろう』と勝手な信頼を押し付けられることもあったでしょう。悩んでいても誰にも気付いてもらえない事もあったでしょう」

 

 先生の言葉を聞いて、1つのことが心にのしかかってきた。私たちは、凛香ちゃんと千葉くんの2人が狙撃成績1位だから……仕事人の2人ならきっとやり遂げてくれるからって、最後のトドメを、1番プレッシャーの大きい役割を当然のように任せていた。

 私だって、外すわけにはいかない役割だから自分がやりたくないって逃げたし、さっき本物の銃を誰に渡すかってなった時に、殺せんせーの判断を『妥当な判断』だって思った。……結局は、2人が何も言わないから、甘えてたんだ。

 

「でも大丈夫。君達はプレッシャーを1人で抱える必要は無い。君達2人が外した時は人も銃もシャッフルして……クラス全員誰が撃つかもわからない戦術に切り替えます。ここにいる皆が訓練と失敗を経験しているから出来る戦術です。君達の横には同じ経験を持つ仲間がいる。安心して引き金を引きなさい」

 

 ……1人じゃない、失敗していけないわけじゃない。みんなが同じ立場、みんなが同じ覚悟を持ってる。だからできること。その言葉が、ひどく安心感を与えてくれた。ここにいる全員が今、一緒に戦っている!

 

 

 

「では、いきますよ……出席番号12番!!立って狙撃!!」

 

「ビンゴォ!!」

 

────ドン!

 

 

 

 殺し屋さんは、千葉くんがどの位置にいるのかある程度の目星はつけていたんだろう。寸分違わず飛び出した影の眉間を正確に撃ち抜いた……でも、残念。出席番号12番は()()()()()()()()

 

 

 

「なっ!?」

 

『狙うなら()()一点です!』

 

「オーケー、律」

 

────ドキュゥン!

 

 

 

 出席番号12番の菅谷くんが椅子の後ろでずっと動かず、隠れて作った人形の眉間に狙撃した殺し屋さんが動揺したその一瞬の隙を見逃さず、千葉くんが通路に飛び出して、ステージ上目掛けて狙撃した。

 ……撃たれた、そう思ったのだろう殺し屋さんが自分の胸に手を当てて、自分が撃たれていないこと、生きていることを確認している。

 

「ふ、へへ……へへへ、外したな。これで2人目も、場所がァッ!?」

 

 直後、背後から釣り照明が降ってきて、殺し屋さんを背後から突き飛ばした。千葉くんが狙っていたのは釣り照明を固定している金具……殺せんせーから殺さないで無力化するようにって言われてたから、最初から殺し屋さんのことは狙っていなかったんだ。

 なんとか体勢を立て直した殺し屋さんが千葉くんを狙おうとしたけど、今度は凛香ちゃんの銃が火を吹いて、殺し屋さんの銃を弾き飛ばした。

 

「ふぅーっ……、やぁっと当たった……」

 

「くそ、がぁ……誰が、俺の銃が、1丁だって……言ったよ……ッ!」

 

 まだ、倒れないの……!?腰から新たな銃を引き抜いて、撃ってすぐの動けない凛香ちゃんを殺し屋さんが狙おうと照準を向けた。

 

「最高の銃でなくとも構わねぇ、お前ら全員皆殺しに……ッ!!」

 

「解除!!『目』の使用を認めます!!」

 

 殺し屋さんの言葉を遮って殺せんせーの大声がコンサートホール内に響き渡る。訝しげな殺し屋さんの真正面に……凛香ちゃんとの射線を遮るようにステージ上に私は降り立つ。

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

 

 『目』を使う……殺せんせーが知っていて、この場面で求められているものはこれしかない。正直、これに気づいた時はいつ使えなくなるかって怖かった……ずっと答えを出せずにいたけど、この力は今日まで無くならなかった。

 

 だったら、このクラフトは誰かからコピーしたものじゃない……私自身の技だ!

 

 

 

「沈んで……ッ魔眼・幻(ファンタズマ)ッ!!」

 

 ────バチバチバチッ!!

 

 

 

 反応される前に、殺し屋さんと目が合った瞬間に発動させたクラフト……代償のように、私の目の奥がカッとアツくなる。名付けたことで威力も上がったのか、寺坂くんのスタンガンのように大きな音を立てて殺し屋さんごと空間を縛り付けると……やっと、気絶してくれたのか殺し屋さんはステージへと倒れた。

 

「よっしゃ、ソッコー簀巻きだぜ!」

 

「ふぃー……音立てずに作ってたから疲れたわ……」

 

「かっこよかったよー!」

 

「お疲れ様」

 

「さすが仕事人!」

 

「よく頑張ったな」

 

 みんなで今回の立役者である千葉くんと凛香ちゃんを囲んで声をかけあって、笑顔でねぎらう……最後の仕上げは数人だったとはいえ、みんなで掴んだ勝利だ。

 千葉くんと凛香ちゃんは普段、滅多に表情を大きく変えることは無い……でも、この時ばかりは今まで見たこともないくらいキラキラとした綺麗な笑顔を見せていた。

 

「……お疲れ様」

 

「……頑張ったね」

 

「……!カルマ、渚くん……!」

 

「目は?」

 

「ちょっと、アツい気がするだけ。前よりは平気」

 

 ひと通り、凛香ちゃんたちの方で話してきたのかカルマと渚くんの2人が私の近くまで来て頭を撫でてくれた。目の確認もされたけど、前のように痛みは出なくて……もしかしたら少しだけ、慣れたのかな。

 

 そのうちに凛香ちゃんと千葉くんも私たちの方へ来て、千葉くんには軽く頭をぽんぽんと、凛香ちゃんには抱きしめられてお互いよく頑張りましたって言い合った。

 1人じゃない、みんなで戦う……近くに仲間がいる安心感はこんなにも大きな力になるんだ。それを、この戦いで私たちは学んだのかもしれない。

 

 

 

 





「ところで、あの殺せんせーの指示はなんだったの?」

「あ、それ私も気になってた」

「えと、名前……」

「?……なんだっけ、菅谷君、寺坂君、カルマ君、杉野君だったっけ」

「うん、で、カルマだけ6/7。つまり、『あかばねかるま』の6番目の文字の『る』、あとの人は頭文字だからそれを繋げて……」

「……『ステルス』……あのビッチ先生のピアノに隠れたあれか……」

「もしものためにって、あの殺し屋さんがもしも銃を奪われた時にどうするかまで考えてたらってことなら……『目』の使用許可って言ったくらいだから、そういうことなのかなって」

「その通りです、アミサさん。あれだけの情報でよく分かってくれました」

「本トによく伝わったね……」

「……ありがと、アミサ。助かった」




++++++++++++++++++++



Q、今回一番楽しかったのは何か?
A、殺せんせーの暴露大会

あとがきです。
暴露大会で、オリ主・カルマ・渚の3人のキーホルダーについては元々書いていたのですが、どうせなら遊ぼうと他のみんなも増やしていくうちに、千葉くんと速水さんは移動できちゃってるし、数人暴露されてるし、カエデちゃんにはおねだりしてるし、でカオスなことに。後悔はありません。

寺坂くんの発症タイミングを少しずらしました。渚が気づく場面も入れますが、このやりとりを先にして欲しかった……のちのち使いたいことに、大事な要素が……といいたいけど、これ別に元々の場面に入れても変わりなかった気もしてきた。こういうこともあります。

では、次回はついに……!
お楽しみに、です!


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