このホテルに潜入している全員で挑んだコンサートホールでの一戦を終えて、銃使いの殺し屋さんをこれまでの殺し屋さんたちと同じようにガムテープでぐるぐる巻きにした後。
銃使いの殺し屋さんが姿を見せたステージ奥にあった非常階段を上ると、やっと9階……目的地まで、あと少しとなった。階段を上った先を進み10階への階段の正面に立っている見張りが見えたところで、烏間先生はここまで支えられてきた磯貝くんから離れて私たちを待機させた。そして1人、静かに近づくと……
「ふうぅ〜……だいぶ体が動くようになってきた。まだ力半分ってところだがな」
「力半分で既に俺らの倍強ぇ……」
「あの人1人で
背後からその見張りを襲って首、というか頸動脈……?を絞め、すぐさま男を気絶させて床に落とした。烏間先生本人は悔しそうにしながらその流れで通路の先を確認しはじめたけど……木村くんの言った通り、本人曰く今の力半分の状態で、すでに私たちが勝てる気がしません。
宣言通り、何もしなくてもホントに30分で動けるまでに回復してしまった烏間先生は、やっぱり人外なんじゃないかって気がしてくる。
『皆さん、最上階部屋のパソコンカメラに侵入しました。上の様子が観察できます。最上階エリアは一室貸切。確認する限り、残るのは……この男、ただ1人です』
律ちゃんのその声に、様子を伺う烏間先生以外のみんなが自分のスマホに目を落とす。そこに映っていたのは、いくつもの画面を見ている1人の男……この人が、すべての黒幕。
「モニターに映ってんの、ウイルスに感染させられた皆じゃねーか。録られてたのか」
「やっぱり、あの監視カメラ……」
「だね、でも壊さなくて正解だったよ」
「あぁ、壊しでもしていたらこの様子を見る限り逆上させていたかもしれないし、俺達が気付いていないと油断させられなかったかもしれない……真尾さん、赤羽君、よく我慢してくれた」
リゾートホテルで見つけた監視カメラは、やっぱりこの男の元に繋がっていたんだ。あの時、烏間先生に報告だけ上げて何もしなかったけど……あの時の行動が正解だと言われてホッとする。
男の顔は誰なのか判別がつかない程度しか映ってなくてハッキリわからないけど、画面を見ながらニタニタ笑っているのは雰囲気で伝わってくる。
「……皆さん、あのボスについてわかってきた事があります」
殺せんせーの考えでは、黒幕は殺し屋ではないということだった。殺し屋はその名の通り『殺す力をもった人がその力を生かして殺しをする』職業……だけど、今まであってきた3人の殺し屋たちは全員、見張りや防衛という殺しの能力とは関係の無い役割をもって現れた。
彼らの能力がフルに使われていたら……最初の毒使いの殺し屋は『殺気を見せずに忍び寄りすれ違いざまに殺る』のが十八番だって言ってたから、油断していた寺坂くんと吉田くん、そして烏間先生は、あの時点で死んでいたかもしれない。
素手の殺し屋だって『身体検査に引っ掛からない武器』を使うわけだから、待ち伏せじゃなくてすれ違いざまだったら……カルマは戦うまでもなく死んでいた。
銃使いの殺し屋なんて『1対多戦闘に長けてる』んだから、殺せんせーの奇策がなければ、私たちは全員殺されていただろう。
もし黒幕が殺し屋だとしたら、彼らの最大限の能力を活かせるように配置、利用するはずだ……効果的な使い方を知っていて計画を立てているはずだから。
なのにそれをしなかった……できなかったのは、黒幕が使い方を知らないから。ただ、普通の人よりも『人を殺すために使える』能力が特化した人、という程度の認識なんだろう。
「時間が無い、黒幕は我々がエレベーターで来ると思っているはずだが、交渉期限まで動きがなければ……さすがに警戒を強めるだろう。個々に役割を指示していく、まずは……」
倒した見張りの懐を探っていた烏間先生が何かを見つけて立ち上がると、最後の突入に向けて1人1人に指示を出していく。機動力のある人には黒幕を取り押さえることに専念するための指示を、遠距離もしくはそれぞれ手持ちの武器がある人はその援護にはいり、そして、退路を塞ぐ……私は犯人の欲のために要求されてる身でもあるから、途中で人質とかになっても困るということで、要求されている渚くんとカエデちゃんと他の役割につかなかったメンバーと一緒に、1番後ろで黒幕の逃げ道をなくすことになった。
少し離れたところで渚くんと寺坂くんが話している姿を見て、彼の体調からみんながいつ発症してもおかしくないことを改めて悟り……全員がそれぞれの役割を把握して前に進もうと、誰も私を見ていないすきを見計らって……私は小さく詠唱する。
『ッ!?アミサさん……!』
さすがにスマホから全部見てる律ちゃんは1番に気づいたみたいだけど、もう詠唱は終わってる。止めようと声を上げたんだろうね……彼女の声でこちらを振り向いたみんなに、このホテルへ来る前にも使ったアーツを発動させた。
「……律ちゃん、ありがとう……
「……あぁ、助かる」
「最後の仕上げだ、気合い入れるぞ!」
「アミサちゃん、ありがとね!」
「……俺は奇襲班だから先に行くよ。アミーシャも早くおいで」
ウイルスによる発症を完治できなくても、発症そのものを遅らせることはできる。……寺坂くんのように発症していても、他の待機組に効果があったみたいにきっと、症状を抑えてくれると思うから。
烏間先生の指示を仰がずにいきなり回復アーツを使ったことをそう説明すれば、みんな納得したように笑って気合を入れ直していた。
緑色の光の雫が体に溶け込んだことを確認して、烏間先生を先頭に階段を静かに上がりはじめる。全員に気合を入れようと小さく掛け声をかけた磯貝くんが、殺せんせーを抱えながらお礼を言ってくれた渚くんが、奇襲班として前に出ることになってるカルマが、……潜入組のみんなが階段の向こうへ姿を消したのを見てから私も続こうとして、……ぐらりと、視界が揺らいだ。
視界が回る、足に、体に力が入らない、心臓が嫌な音を立てている……立っていられなくなって思わず壁にもたれかかった。
「う……」
『アミサさん……!』
「……よかった、なんとか、足りた……律ちゃん、へーきだよ。戦術
『で、ですが……もう限界ですよね?以前リーシャさんにお聞きしましたが、こちらに回復薬は……』
「……こんな事態、考えてなかったから持ってきてない。料理も、予想外料理でくらいしか回復できないけど、狙って量産できないし……でもね、……律ちゃんは知ってるでしょ、これは体調不良じゃなくて私の適性の問題。……アーツはEPといっしょに精神力を使うから、ちょっと疲れちゃっただけ……それだけに、決まってる」
蓋を開いたエニグマに目を落とす……私の戦術
なのに、私にはそれを活かせない……ううん、ひとつながりのオーブメントでは普通はありえない問題を抱えている。だからそれのせいで体力をごっそり持っていかれただけ、疲れただけ……そう思いたかった。
……でも、今の体調は、アーツの使いすぎから来るものだけじゃなくて、それ以外にも原因がある気もしていて、怖かった。なまじ、心当たりがあるだけに……
──力を入れて握りしめたはずのエニグマを落としたこと、歩く時の力の入り方や抜ける感覚の違和感……今思えばあの時から手足にしびれが、力が上手く入れられない症状が、あるのかもしれない。
──カルマに手を握られても、私の手に力を込められた感覚がよく分からなかったこと。《魔眼・幻》を使った後に、これまで毎回あった痛みや熱さをあまり感じなかったこと……痛覚、その他感覚に対して、鈍感になっている……?
──今さっき、ぐらりと揺らいだ視界……めまいや動悸で立っていられなくなった。
……そして何より、潜入してすぐに会敵した毒ガスのおじさんが言った言葉が、あまりにサラッと言われてみんな気にしていなかったけど……ずっと頭から離れなかった。
〝……ふん、まだ喋れるとはな。だが、しょせん他はガキの集まり……お前が死ねば統制が取れずに逃げ出すだろうさ。『おチビちゃんには既に仕込んでるし』、ボスの手土産にでもすれば、問題ないしなぁッ!〟
ウイルスを盛った犯人があの毒ガスのおじさんで確定だとして……あれは、どういう意味だったんだろう。ここまでの自分の体に感じる違和感を、1時間の潜入ミッションに気力を向けすぎて疲れたから、とか、何度もクラフトを使ってきて慣れてきたから、とかで、まとめていいのかな。
ウイルス発症の初期症状には個人差があるって言ってたし、これが私の感染したウイルスの初期症状、なのかな……?だけど私は何度もカルマに確認されている通り全く熱が出ていない……他の発症したみんなは、後から分かった寺坂くんですら等しく発熱してるのに、だ。じゃあ違うものが原因……?なら、なんで、どうして……
「……行こう、これが終わったらみんなが助かるんだから」
『……そう、ですね。行きましょう!』
……ここで1人、いろいろ考えても仕方が無い。律ちゃんでも考えて分かる問題でもないんだから。幸い、少し休んだこともあって、治ってはないけど……めまいも手足のしびれも軽くなった気がするから、今、普通に歩くくらいなんともない。
寺坂くんだってあの体調でついてきてて、足でまといにならないよう、ミッションを最後までやり遂げようと必死なんだ。私だって、負けてられない。律ちゃんと改めて発破を掛け合い、2人きりになった廊下を、階段を、音もなく駆けてみんなを追いかけた。
◆
烏間先生が、さっき倒した最上階入口にいた見張りから奪ったらしいカードキーが無事に使えた……つまり、これで最上階……目的の部屋を解錠できる。さっき見張りの服を漁って何か見つけていたとは思ってたけど、これだったんだ。
流石は悪い人たちが愛用するホテル……扉1つとっても音が出にくい仕様なようで、烏間先生によってゆっくりと静かに開かれた扉の向こうには……黒幕1人が使うには、だだっ広い空間が広がっていた。でもプライバシー保護のためか、違う用途のためか、遮蔽物が多くあるから気配さえ消してしまえば、隠れる場所はたくさんあるし、かなり近くまで忍び寄れるはず。
烏間先生のハンドサインを見て、部屋に侵入する前に決めた順番で、音を極力立てずに侵入する……体育の授業で習った〝ナンバ〟を使って、限りなく音と気配を消す。指揮を執るのは烏間先生と磯貝くん、この2人が中心になって、ハンドサインを使って全員の配置、距離感を確認しながら決めていく。
部屋の奥まで進むと、さっき律ちゃんのカメラ映像で見た通りの男が1人座っていて、そしてその足元にはスーツケースが置かれていた……あれが多分、目的のウイルス治療薬だ。ケースには何か小さな機械のようなものが取り付けられていて、コードが伸びている。事前の打ち合わせで爆発物の可能性は話されていたから今更驚く必要は無い、むしろ想定通りだと考えなくちゃ。
1番理想的なのは、このまま黒幕に気づかれることなく取り押さえること……だけど、もし誰も手を伸ばせない遠い距離で気づかれたら、烏間先生が発砲して起爆ボタンを押させない……少しでも行動が遅れたり、ひるんだりしたところを私たちで拘束する、そんな段取りだ。
ゆっくり、ゆっくりと近づきながら、私たちは烏間先生からの合図を待つ。私たちの入ってきた道以外には部屋の奥へ行く通路しかないことを確認して、退路を塞ぐ。潜入組みんなで、一斉に飛び出す構えをとる。銃を、スタンガンを、それぞれが持つ武器になり得るものを黒幕に向ける。
「(今だ……!!)」
「かゆい」
私たちの空気が凍った。
気づかれた……?それとも、黒幕の独り言なのか……
「思い出すとかゆくなる。でも、そのせいかな……いつも傷口が空気に触れるから……感覚が鋭敏になってるんだ」
黒幕の男は、椅子に座って私たちに背を向けたまま、机の上に置いてあったらしい大量のリモコンを私たちに向けてバラまいた。……どれかが爆弾の起爆スイッチ、……じゃない。この全部が、治療薬の入ったスーツケースに取り付けられた爆弾の起爆スイッチ……きっとどれを押しても、間違って押しても爆発する。
「言ったろう?もともとマッハ20の怪物を殺す準備で来てるんだ。リモコンだって超スピードで奪われないよう予備も作る……それこそ、うっかり俺が倒れ込んでも押す位のな」
……それは、聞き覚えのある声だった。
思えば烏間先生に電話がかかって来た時から、どこかひっかかる違和感はいくつかあったんだ。
『なぜ私と姉との関係を知ってるのか』……個人情報……まだ、戸籍や家族関係くらいなら、私も言った通り学校に提出された書類を調べれば分かるかもしれない。だけど、ピンポイントで大陸を越えた私の家族が、周りからどう呼ばれているか、なんて……学校に提出されたもの以上まで知っていたたから。でも、これは殺し屋さんが生徒を人質にとろうとした、のような暗殺を計画していたなら、まだありえるかもしれないって納得できることだったから、あの時は深く考えずに飲み込んだ。
取引に要求した人選……最初こそ、小さな生徒であれば抵抗できない弱い存在だから選んだ、といえばそれで終わりだった。だけど、私を要求した時に付け足されたそれに大きな違和感があった。
〝あぁ、そうだ……確かそこには『月の姫の縁者』もいるらしいなぁ……そいつも連れてこい。『1人くらいなら付き添いがいてもいいぞ』。本物より劣っていても見世物くらいにはなるだろうからなぁ……ククッ、『そいつの前でかわいがってやろう』〟
……私に対して譲歩しているようで、誰かを呼んでいるような……なにより、他の要求とは違って明らかに人物を特定できない。私たちのことを知っているなら、私を呼んだ時点で付き添いにはカルマが着いてくるってすぐに察せるらしいけど……私たちを知らない相手が黒幕であるなら、おかしい要求に違いない。
そして潜入している最中、烏間先生が何度も『知り合いを見る目』をしていたこと……何かに気づいたようで、そうでないことを期待する表情で先に進んでいたことが何度もあった。
烏間先生は今でこそ椚ヶ丘中学校3年E組の体育教師として、そして殺せんせーの担任代理として毎日私たちと一緒に過ごしているけど……元々の所属は防衛省。学校の外に顔見知りがいたとしても不思議ではなかった。例えば、このホテルの利用者によって雇われた防衛省の部下、だとか。
極めつけは、このホテルに潜入して、殺し屋さんと会敵したことで、また新しいひっかかりが出てきたこと。
……毒使いの殺し屋さんがボロを出した、『E組にアーツ使いがいる』のを黒幕が知っているってこと。私が日本に来てからアーツを使ったのは、この沖縄での暗殺計画を除くならたったの3回だけ……見ていたのはE組のみんなと、限られた関係者だけのはず。なのに、黒幕は『私がアーツを使える術者』であることを知っていた。
「……連絡がつかなくなったのは──3人の殺し屋の他に
その声は、最後に聞いた時よりもずっと邪気を孕んでいて、冷たくて、狂ったような声。でも、電話を通さない声を聞いて、全部つながった。
答えは私自身で言ってたのに、なんで気づかなかったんだろう。……その限られた関係者は、先生たちを除くのなら、シロさん、イトナくん、そして、……あの人しかいない。
〝私がこれまでにアーツを使って見せたのは、イトナくんからみんなを守る時と、鷹岡さんが来てから回復アーツと攻撃アーツを見せた時、プールで寺坂くんを守る時と今回の暗殺の時だけ……〟
烏間先生の言う条件と照らし合わせれば、たった1人だけ……当てはまる人がいるじゃないか。
「……どういうつもりだ、鷹岡ァ!!」
烏間先生の代わりの体育教師として私たちの元へ現れ……自分から仕掛けた賭けに負けて学校から去った、鷹岡さんが、そこにいた。
「悪い子達だなァ……恩師に会うのに裏口から来る。父ちゃんはそんな子に育てたつもりはないぞォ?」
鷹岡さんは、ニタリと狂気と憎悪を含んだ顔でグシャリと笑う。ドス黒い何か気持ちの悪い感情をのせた声で、まだ、私たちの父親面をして話しかけてくる。
傷だらけの顔……そこに残っているのはあの人自身の爪の跡……何度も何度も引っ掻いてできた傷の上に、新たに傷が増えていく。
「屋上へ行こうか……愛する生徒達に歓迎の用意がしてある。……ついて来てくれるよなァ?お前らのクラスは……俺の慈悲で生かされているんだから……」
◆
治療薬を持っている鷹岡さんに反抗はできるかもしれないけど、逆らって薬を手に入れられなくなる、なんてことになったら、下で待っているみんなを助けることができなくなる。しかたなく誘導されながら屋上に出ると、そこは強い風が吹いていた。ここは10階建ての建物、しかも島の山頂に位置するホテルだ、かなり風は強い。
広い屋上にあるのは常設されたヘリポートと、そこへ向かうためにある1つの梯子だけ……そんな場所で、私たちと鷹岡先生は対峙していた。
「盗んだ金で殺し屋を雇い、生徒達をウイルスで脅すこの凶行……血迷ったか!」
「おいおい、俺は至極まともだぜェ?これは地球が救える計画なんだ。おとなしくそこのちっこいの2人に賞金首を持ってこさせりゃ……俺の暗殺計画はスムーズに仕上ったのになァ」
そう言いながら鷹岡先生が見ているのは渚くんと……え、私じゃない?……渚くんの隣に立っていたカエデちゃんだった。そのまま楽しそうに笑いながら話し出した計画は、人としてありえないようなものだった。
対先生弾が大量に入ったバスタブに『
「許されると思いますか?そんな真似が……」
「これでも人道的な方さ……お前らが俺にした……非人道的な仕打ちに比べりゃな」
悪魔のような暗殺計画を聞かされ、私たちのことを大切にしてくれている殺せんせーは……イトナくんの触手を見た時と同じように、真っ黒な顔色で静かに鷹岡先生へ声をかけた……ものすごく、怒ってる顔だ。
対して鷹岡先生はといえば、私たちのした仕打ちに比べれば人道的だという。教育なら任せろと意気揚々と従事した大人が、中学生との勝負で負けて任務に失敗したという汚点、それによって周りからの評価は下がり屈辱の目線を向けられ、……そして、あの日騙し討ちのように突きつけられたナイフ……それが頭から離れないからって。
「計画では……あー、茅野っていったっけ?そいつを使う予定だったんだがなァ」
「……どういうこと?アンタが指名した『クラスで一番背の低い男女』は渚君とアミーシャ……もう1つの『月の姫の縁者』って要求も該当するのはアミーシャだよ。茅野ちゃんは関係ないじゃん」
「まさか真尾が背の低い女子で該当するとは思わなかったからなァ……だからと言って名指しすれば学校に、お前らE組に出入りした奴だとバレる可能性が上がっただろう?」
「……」
「それに、あの時の訓練でチビを庇い、勝負に2人組で来たこと、そしてホテルでの様子を見ていれば……真尾有美紗、お前を別件で呼び出し、付き添い生徒を1人許可すれば必然的に赤髪が着いてくると思ってな……ま、それ以外も着いてきた上裏口から来たのは計算外だったが、……目的のヤツが来ただけいいことにしよう」
カルマが聞き返したことでハッキリした。もともと鷹岡さんが要求していたのは背の低い男女として渚くんとカエデちゃん、月の姫の縁者として私、その付き添い役としてカルマ……この4人。
鷹岡さんが言う訓練での様子とホテルでの様子って、私とカルマが2人で反撃したり、2人で監視カメラについて探っているのを見ていたから……?……カエデちゃんはあの計画で使うから呼んだのだとして、私と渚くん、カルマは……?一体、なんのために……
「落とした評価は結果で返す。受けた屈辱は……それ以上の屈辱で返す!特に潮田渚、真尾有美紗、赤羽業!お前ら3人は最後まで悪い子だったなァ……俺の未来を汚したお前らは絶対に許さん!」
自分で決めたルールなのに自分の強さを傲って舐めた結果負けた賭け……負けた原因は騙し討ちのようにナイフを当てた渚くんだって言い張るそれは、完璧な逆恨みだった。
多分、私とカルマが呼ばれた理由も同じようなこと……賭け以前に鷹岡さん対して反抗し、あの人曰く教育的な罰を受けていないから。そして罰を受けた生徒を治療したから。……カルマと一緒に、渚くんとの『もう1回』を再現して、さらに屈辱を与えたから。
「へー、つまり渚君とアミーシャはあんたの恨みを晴らすために呼ばれたわけ。ていうかアミーシャに関しては俺と一緒にアンタをぶっ倒してやったわけだけど……小さい方だけ確実に呼び出して、アンタ満足だったわけ?その体格差で勝って本トに嬉しい?俺だけでもじゅーぶん楽しませてやれるけど?」
「イカレやがって……テメーが作ったルールの中で渚に負けただけだろーが。それに真尾とカルマだって……こいつらなりの正義で反抗しただけだ。言っとくけどな、全員同意見だ……あの時テメーが勝ってよーが負けてよーが、俺等テメーのこと大ッ嫌いだからよ!」
「ジャリ共の意見なんて聞いてねェ!!俺の指先でジャリが半分減るってこと忘れんな!!」
カルマが私たち2人の代わりに、戦闘の場に出ようとわざと挑発を重ねている。寺坂くんがみんなの言葉を、私たちの気持ちを代弁してくれている。
だけど鷹岡先生は興奮しきっていて、その言葉たちを耳に入れることなんてなく、ただ怒鳴り散らすだけ……まともに会話になるはずがなかった。それに爆弾のスイッチを手にしているから、下手に刺激してボタンを押されても困る……それ以上の口出しはできなかった。
「チビ共、そして……そこの赤髪。お前ら3人だけで登ってこい。この上のヘリポートまで……父ちゃんと補修をしようじゃないか」
私たちが黙ったのを見て、ウイルスの治療薬が入ったスーツケースをつかみ、鷹岡先生はヘリポートの上へと上がっていく。
あの人が……私たちにやらせようとしていることは何となく見えている……受けた屈辱はそれ以上の屈辱で返す……その言葉から。
多分あの日の再現をしようとしてるんだとは思う……けど、私たちを舐めて、見下していたあの時とは違って、確実に私たちには不利になるような状況にされているはずだ。……だって、あの人は『E組の半分の命』を握られている私たちに対しての、一方的な復讐が目的なんだから。
「渚、アミサちゃん。ダメ、行ったら……」
「……、……行きたくないけど、行くよ。あれだけ興奮してるんだ……何するか分からない」
「……少しでも、治療薬を壊されないで済む方法があるなら……みんなが助かるなら、どんなに危なくても私はそっちを選ぶ」
「渚君…」
「真尾……」
渚くんはカエデちゃんに殺せんせーを渡してヘリポートを見上げる。つられて私も見上げれば、先にヘリポートへ上がったあの人が起爆スイッチを掲げながら汚い言葉で早く上がって来いと叫んでいるところだった。
私と渚くんで顔を見合わせ、示し合わせたわけでもないのに同時にカルマの方を向けば……真剣な表情で頷かれる。呼ばれてるのは彼も一緒、そして止めないってことは……彼も、一緒に来てくれるってことだよね。だから、ヘリポートに向かって先に2人で足を踏み出した。
「カルマ君、カルマ君は止めないの?!」
「渚君もアミサちゃんも、カルマ君なら何がなんでも止めそうなのに!」
「止めないよ。止めて、逆上したアイツが起爆スイッチを押したら意味ないし……アイツは渚君と、俺等2人との再戦を希望してくれてるんだから、……ま、渚君の方は何とかしてもらうとして、アミーシャについてはおじさんぬと同じで俺が前に出る。だって向こうが呼んでくれてるんだから、もう一度倒してやればいいわけだし」
「……そうだった、コイツ最初から行く気満々だった……」
「渚の方はって、そんな適当な」
「適当じゃないよ……多分だけど、アイツの言い分聞く限りギリギリ渚君はあの時のリターンマッチで済むと思うんだよね……限りなく、あのデブに有利になる、最初から戦闘スタートって条件は付くだろうけど」
「……え、」
「……ただ、俺とアミーシャの方は、分からない」
「っ、そんな……」
「……、ん?」
「……ねぇ、待って。もしかしてカルマ……」
「ああ。……お前、
「……ふふ、じゃ、行ってくるよ。あ、屋上ってことはその辺に備品落ちてるだろうし、なんか使えるもんないか探しといて。律を使えば連携取れるでしょ」
「っ!……って意味深に終わらせて行くなよお前!」
「っ!あーもー、こっちは心配してんのに!」
「……屋上に、何人かで散開する……それでいいわね?」
「さすが委員長コンビ、……頼んだよ、みんな」
ヘリポートの階段下でカルマを待っていれば、彼はクラスメイトと何かを話した後に小走りで追いついてきた。上の人もそろそろうるさいし、時間を引き伸ばすのも限界かな……、ここからは3人、渚くん、私、カルマの順で、小声で話しながらゆっくり階段を上がる。
「……あの人、受けた屈辱をそれ以上で返すって言ってたから……私たちの方は分からないけど、多分、あの人の中で、屈辱的だろうってことをさせてくると同時に、絶対に渚くんにはやれるわけが無いってことをしかけてくる、と思う。だけど、勝ち筋を残さなきゃリターンマッチにならないから……同じ形式にはなる……と、思う」
「……うん」
「何があっても、最悪、爆発させられそうになっても、治療薬は私が奪うから……私たちの中で、私が1番早く動けるから……お願い、信じてくれる……?」
「……信じてるよ、アミサちゃん。……先に行ってるね」
「……ただ、俺等の方が未知数なんだよ……あの時も2対1で、今回もそうだとして……アミーシャも俺も、暗殺と戦闘どちらにも対応する自信がある。現にそれで前回、正気ではなかったとはいえ手加減のない本気のアイツに勝ててるわけだし……だからこそ、なにも用意なく仕掛けて来るとは思えなくて……」
「…………」
「ねぇ、アミーシャ……もう一度だけ聞くけど、……何か、隠してるよね」
先にヘリポートについて、鷹岡さんの方へ歩く渚くんを追おうとしたのに、前に進めなくなって、……後ろからカルマに腕を掴まれていたことにやっと気づいた。
振り向かないまま、前を向いたまま手を引き抜こうとしたのだけど、全く動かせなかった。軽く力を入れて引き抜こうとしても同じ……だけど、今日何度も聞かれた質問をされて、思わず抵抗するのをやめてしまった。もう、既に疑問ですらない、確信した言い方だったから。
「……気のせいだって思おうとしたけど……やっぱりおかしいんだよ、出発した時からいつもと違いすぎる。この潜入の間だってあれだけ隣にいたのにコンサートホールに入る時くらいからは全然目を合わせようとしないし、低すぎるこの低体温も、今だってかなり力を入れて握ってるはずなのに何も言わないのも、だから……」
この、たった1時間足らずの時間で、よく気づいたなって思うほどに並べられたカルマが感じた違和感たち……そして確信を持って私が隠しごとをしていると言ってきた。
……ホントなら、言わなくちゃいけないんだろうね……だけど、私はどうしても臆病だから。ホントのことを知られたら、きっと優しいあなたに甘えてしまう……だから、カルマの言葉を遮るように続けた。どんなに体から重く、おかしくなっていても、最後まで私の決意だけは鈍らないように。
「ねぇ、カルマ……もし、私が動けなくなることがあったら……これ、預けるから使って」
「……え、」
「ないこと、祈るけど……─────────、だから、お願い……今日最後の無理をするかもしれないけど、私にだって、みんなを、……2人を守らせて」
振り返って、まっすぐ彼の目を見て、笑顔をむけて、……掴まれてない手のひらで運んだソレを彼の手のひらに握らせながら、告げる。今の問いに適さない、答えになってない答えにすり替えて返したけど、カルマは驚いて掴んでいた手を緩めた……その隙に手を引き抜いて私はヘリポートに向かって歩き出す。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえたけど、今度は振り返らなかった。振り返ってしまったら、せっかく笑顔に隠した恐怖と、言い表せない胸騒ぎと……さっきも感じた体の違和感、それらに気づかれてしまう気がしたから。
「……なんで、あんな顔見せんのさ……隠せてないんだよ、……くそっ」
「……みんな。カルマの指示、聞いたわね?」
「あぁ、鷹岡に悟られない程度に屋上に散れってことだろ?」
「渚の方は何とかしてもらうっていうことは……カルマか、真尾が、渚を囮か何かにして治療薬を奪う気だ。その後は分からないって言い切るあたり……だいぶ無茶をする気だな、あの感じ……」
「律を使えばっていうのも、あっちの状況も律を通して知らせてくれるって意味だよね、きっと……」
「……やろう。あのカルマが相当切羽詰まった言い方して俺達に頼んできたんだ。渚と真尾も、信じてくれてるはずだ」
「「「おう」」」
「「「うん」」」
「───律。殺せんせーに伝えて。アミーシャ、現状で痛覚、触覚、温度感覚、……いろんな神経系統……感覚を失ってる可能性が高い。ウイルスかどうかは知らないけど……明らかにおかしい」
「あと……もうアーツを使えないとか、言わないよね?」
『……っ、ごめんなさい……』
「……くそっ」
++++++++++++++++++++
黒幕の正体が判明。
次回、オリ主の隠し事をいくつか公開予定です。
今回の律との会話でわかった方もいるかもしれませんが……まだお口ミッフィー(・ⅹ・)でよろしくお願いします。
次回はクロスオーバー要素満載の予定です。
本来軌跡シリーズの方では破壊されてる要素を出しますが、……パラレルってことで←