暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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感想でご指摘いただきましたが、他にも「ん?」と思ってくださる同士がいるかもしれないので……

本来原作ゲームの≪封じの宝杖≫は、クロスオーバー先のゲーム内で、厳重すぎるくらいの管理と強すぎる人達がいる組織に回収された上、すでに破壊されて存在しません。演出したい展開の都合上、この名前と仕様を出しましたが……小説の中で書いてる通り、作者も理解しつつ、それでいてこの世界観に落とし込んでも有り得なくはないかもな、の位置付けになるよう調整しています。

そのご指摘をいただいた時には、既に今回のお話をほぼ書き終えてまして……そこから更に納得いただけるといいなぁと願いを込めながら修正を加え、オリ主に説明をお願いし、まとめてみたつもりです。

原作暗殺教室の流れを汲みつつ、この小説だからこそのオリジナル展開、設定を楽しんでいただけると幸いです。


むしろ、そのことに気づいて感想くださるとか神ですか!!!
気づいてくれたことに作者は、感激してます←


加えて、UA117000突破も嬉しいです、ありがとうございます!たくさんの人に見てもらえて、更新しがいがあります!





51話 音の時間

 

 あの体育の授業の時から、鷹岡さんは対峙する相手が自分より格下だと考えると、見せしめにしよう、持ち上げて夢を見せてやってから絶望させてやろう……そんな風に考えて自分の思い通りに動かして楽しむことを優先するところがあると思っていた。その状態にさえなれば、標的はともかく他の人(ギャラリー)はそれを見せることで自然と恐怖で支配できると放置する傾向があることも……そこが隙になると、確信していた。

 

 渚くんが、心にも無い土下座をさせられ、足蹴にされている所をただ見させられていた時、私の中に言い表せないくらい黒い感情が渦巻いていたけど、隣にカルマがいてくれたから……渚くんの真意を聞いたから、なんとか耐えることができた。

 バクン、バクンと心臓が嫌な音を立て、目眩も、体の痙攣も全部気づいていたけど、この1回を成功させるために、ただ、チャンスを待った。

 

 最初こそ、私とカルマを視界に入れて反応を楽しんでいた鷹岡さんは、途中からはほとんど渚くんにだけ注視してくれたから……かなりギリギリだったけど、やっと隙ができた。

 

「───今」

 

「OK、作戦スタートだ」

 

 どちらから言うわけでもなく、私たちは別の方向へ駆け出す……カルマはヘリポートの端へ、私は≪月光蝶≫で気配を消して鷹岡さんの死角へ……そして、目的のものが鷹岡さんの手を離れた瞬間、一気に飛び出した。

 ……集中しているからかな、まるでスローモーションのように、コマ割りのように進む景色を横目に……あの人が投げ飛ばした治療薬のスーツケースを空中でキャッチすることに成功した。

 

 そこからは時間との勝負。烏間先生もこの爆弾を想定していたのか……それとなく仕様を話していたし、遠目で見た限り、爆弾は埋め込まれているわけでも配線が中に伸びているわけでもなく、ただスーツケースの側面に貼り付けられているだけなのはわかっていたから、遠慮なく思い切り剥がしてやる。

 このままじゃ、至近距離での爆発に巻き込まれるのはわかってたから、進行方向とは逆の方へ、少しでも遠くに爆弾を投げ飛ばして……あとは、スーツケースで爆風を受ける。

 

「アミサちゃん!」

 

「なっ……このガキ!!また邪魔を……!!」

 

「アミーシャ!」

 

 爆風程度なら、風を受ける方向へ跳んでいることもあってスーツケースは耐えられるはず……そう予想して壁にしたら思った以上に吹き飛ばされたけど、受身が取れないほどじゃない。足から着地して勢いを殺すために何とかヘリポート上で踏ん張ったけど、ガタがきてる体では勢いを殺しきれないかもしれない、体勢が崩れる……その時聞こえた、カルマの私を呼ぶ声。

 渚くんのように心配する声じゃなく、私を信じて、受け取る準備ができたことを告げるそんな声の方に向けて、無理やり足を滑らせて声のした方へスーツケースを蹴り飛ばした。

 

「……ハァッ……ヒュッ、ハァッ……っ、これで、私たちが……あなたの、言いなりになる必要は、ない……ですよね……」

 

 鷹岡さんは、目の前で治療薬を破壊して私たちの絶望した顔でも見たかったはず……その後殺す気にでもなった渚くんと戦いたかったのかな。だけど治療薬はヘリポート下のクラスメイトに、私たちの誰より1番強くて安心できる烏間先生の元へ渡った今、もうあの人の言いなりになる必要なんてない、はずだ。

 あとは何とか鷹岡さんを無力化するなり無視するなりしてみんなのところに戻ればそれで……息苦しくて、さっきよりも体の自由が効かない中、そう考えていた。

 

「チィッ…………そうだなァ……だが、その様子だとようやく効果が出てきたみたいだな。……()()()そろそろ限界だろォ?」

 

 ……「なにが」、と言い返そうとした時だった。

 

 

 

 ───ばクん

 

 

 

 また、心臓が嫌な音を立てた、気がしたと思った時には、喉の奥から何かがせり上ってくる感覚がして、口を押さえた時には血を吐き出していて。何が起きたのか理解する前に、私はもう、自力で体を支えることができなくなっていた。

 

「アミーシャ、アミーシャッ!」

 

「アミサちゃん、なんで……っ」

 

 ……体の自由が、うまく効かない……2人に返事を返したいのに、まともに声が出せない……明滅するように意識がこっちと深淵をいったりきたりする中、鷹岡さんがなにか得意げに話している声だけはハッキリ聞こえて。

 そして、今の今まで私を支え力を込めながら呼びかけてくれていたカルマが、立ち上がってナイフを構えていた渚くんが、何かの導力光を感じた瞬間、微動だにできなくなって、何とか声を絞り出す。

 

「……ぅ、ぁ、……ま、……さか……、≪古、代……遺物(アーティファクト)≫……」

 

「ほう、お前は知っていたか。これは一定範囲内の者の動きを完全に停止させるアーティファクト、今回の計画を実行する前にとあるツテから流されてな。本物の≪封じの宝杖(ふうじのほうじょう)≫は既に壊れていて、これはその効果を真似たレプリカでしかないらしい。効果範囲は本物以上に制限されている……だが、レプリカでも十分だ!」

 

 ……そんなもの、私たちに対処できるはずがない。アーティファクトなんて、1つしか効果をもたない代わりに未だ現代の科学文明では解明しきれない絶大な力をもつ、見つかり次第危険だから回収されるような機構……それに対抗するなんて、元となる導力を止めるくらいしか……、

 ……あれ?……元々毒に侵されてほとんど動かせないし、体の痙攣が酷くて思い通りに動かないからあまり状況は変わらないとはいえ、私の体の、自由は効く気がする……なんで?すぐ近くにいる渚くんは、私に触れているカルマは、完全に体の自由を奪われているのに。レプリカとはいえ、機能はしっかり発動しているってことで……

 

 ……レプリカ?唯一無二のアーティファクトにそんなもの、存在するの……?写しのような存在はあるらしいから、ないことも無いかもしれないけど、私は今までに聞いたことがない。

 ……もしかして、似たような効果を模しているだけで、全くの別物……本物のアーティファクトだったらちょっとやそっとでどうにかできるものじゃないけど、威力や効果範囲、それそのものが脆かったりするんじゃ……それなら、なんとか対処したり、壊したりすることができるかもしれない……でも、どうすれば……

 

「さて、……邪魔も入らない事だから補習を続けようか。……なぁ、有美紗さん?」

 

 だけど、いきなり首を絞められて途切れ途切れだった思考が、完全に途絶えた。

 

「……ぅ……ぐっ、……っぁ……」

 

 レプリカだからか効果がないとはいえ、毒のせいで体の自由が効かないことには変わりない……鷹岡さんに首を掴まれたまま持ち上げられ、首だけで全体重を支えることになる。

 

 

 

 

 

 苦しい、痛い、動けない……何とか意識を飛ばさないようにするので精一杯の中、何かに気づいたのか、血の気の引いたカルマの絶望したような表情が目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルマside

 俺の腕からアミーシャを取り上げ、首を掴んだまま笑いながら離れていく鷹岡……彼女は苦しそうに、だけど何とか意識は落とさないように耐えているのが見える。

 

「お前がウイルスに感染し、発症した奴らに回復アーツをかけても効かないと絶望する顔!しかも効果範囲内にいるはずの自分の体調は一向に改善しない、それどころか時間が経つにつれて悪化していく恐怖……ヒャハ、最高だなァ!!」

 

 鷹岡に掴み上げられたアミーシャが、俺等の方を見た、気がした。きっと、酷い顔をしてるんだろうけど……アイツの言う通り、何もできず見ていることしかできない自分が悔しくて、憎くて、歯がゆい……俺は、何もできないまま、彼女を失うしかない……?そんなの、許せるはずがない!

 

「ぐ、……ぅ……っ!……っ、ダメだ、力を入れてる感覚はあるのに、全く動かない……!」

 

「僕も、見えない壁に挟まれてるみたい、で……っ!……そうだ、カルマ君!アミサちゃんはアーツで対抗できないの?!前に殺せんせーが言ってたよね、回復アーツなら瀕死でも……」

 

「……っ、できないんだよ、毒に効かなくても体力だけならって、俺も言いたい……だけど」

 

『カルマ君、それはどういう……』

 

「だって、」

 

『……できないんです』

 

 アーツは戦術導力器さえ操作できれば発動できるはず……俺はアミーシャに導力器(アレ)の仕組みについて聞いて、詳しく書かれた冊子も読ませてもらってるから、原理も仕組みも覚えている。アーツさえ使えれば、もしかしたら気を引くのも、体力を少しでも戻して耐えることもできるはずだって、俺も言いたかった。

 スマホから俺達の会話を聞いていた殺せんせーに理由を聞かれたけど、そもそもアーツを使えるわけが無いんだよ、だって物理的に……そう言おうとした時にそれに答えたのは俺じゃなく、俺よりもアミーシャの戦術導力器そのものに接続できる彼女の声だった。

 

『……律?』

 

『アミサさんは、アーツを使()()()()んじゃないんです。使()()()()()()()()()んです』

 

『そんな、なんで!』

 

『何故だ?俺も実際に彼女の戦術導力器(オーブメント)を見せてもらったし、アーツについて講義をしてくれた際に本人も言っていたが、彼女はアーツ特化型、幻属性の縛りがあれどひとつながりのライン持ちだ。高威力のアーツも思いのままだろうし、本人も使い慣れていると……』

 

 スマホから響いたのは律の声。

 思い返せば、殺せんせーの暗殺計画を終えてから、アミーシャがアーツを使おうとするたびに律は止めようと声を上げていた。結局押し切られていたからそこまで問題視してなかったんだけど……

 律の声を聞いて、アミーシャのアーツに助けられてきたみんなも、彼女のオーブメントを大人として確認したらしい烏間先生も困惑した雰囲気で、それでも律は言葉を濁して理由を説明しようとしない。……こういう時は、律が人間の感情を理解していない機械であることを、いつもなら恨みたくなる。約束って言われたから、言わないんだろうな。でも、ここまで来たら俺も黙っていられなかった。だから、彼女は1つの可能性に賭けて、これを手放したんだ。

 

「…………やっぱり、アーツを使いすぎてたんだね」

 

「えっ」

 

『『『!』』』

 

『……はい。アミサさんは、最後まで隠しているつもりだったようですが……彼女はオーブメントのラインの長さに反して、EP最大値が異様に低いんです。本来、ひとつながりのラインを持つアーツ使いのEP最大値は、クオーツの組み合わせの関係もありますが1200ポイントを優に超えるそうです。しかし、アミサさんの場合……最大値は630、半分程しかありません』

 

『何……!?』

 

 これが、アミーシャが隠したがっていたこと。高威力のアーツを使えるのに、連発ができない……誤魔化していたのは自分の欠点を知られないようにするため……

 

「……ねぇ、律。アミーシャは今日、どれだけアーツを使ったの?」

 

『……最初の暗殺計画の時に、殺せんせーを捕らえる水の檻を……本来大規模、視界に入る全てに当てることができる全体攻撃アーツですが、人2人分の範囲にアーツの規模を小さくし、水が消えないように維持して応用していました。……使用EPは、220』

 

 殺せんせーの周りを覆った水のプールのことだ。最初は川辺で調整するって言ってたけど、風呂でもよかったのは、範囲を小さくするからだったんだろう。かなり集中しなくちゃいけないと言っていたし、本来は大規模な津波を起こすものだからって借りた資料には書いてあったっけ……その消費量も頷ける。

 

『次に、みなさんへの応急処置で使用した≪レキュリア≫、使用EPは70』

 

 このホテルへ乗り込む前に、応急処置だとホテルに残してきたヤツらも含めて全員にかけた広範囲の回復アーツのことだ。これで、290ポイント。

 

『素手の殺し屋を相手に、最初に一発、牽制のために一発顕現していた火球……使用EPは合計40』

 

 俺はガスをくらったフリをしてたから、ハッキリは見れなかったけど……熱い火のようなものが近くを通って行ったのはしっかり覚えてる。これで330ポイント。

 

『……次に使ったのは……その、なんて言えばいいのか……カルマさんに手を出されてキレたアミサさんを止められず……素手の殺し屋を凍らせたアーツが、使用EP160ポイント……』

 

「……嘘でしょ!?そんなにするのにあんな気軽にホイっと使ったわけ……?!」

 

「……カルマ君、アミサちゃんが自分のために怒ってくれたって喜んでたじゃん……」

 

「こんな事情抱えてるって知ってたら止めてたに決まってるでしょ!」

 

『そして、寺坂さんの回復のために中位回復アーツを……これが使用EP60。そして最後、突入前の応急処置で使用EPは70。合計で620ポイント……1番EP使用量の少ない攻撃、回復アーツですら20ポイント必要で、アミサさんはそれすら撃てないほどに使い切ってるんです』

 

 暗殺計画っていう大きな舞台に加えて、この突然の襲撃というイレギュラー……アミーシャは自分以外が傷つくことを極端に嫌うから、配分も考えずにアーツを使い続けてたんだ。律は、アミーシャが俺等のためにアーツを使い続けて、俺等のために使えなくなってる現状に気付かせないために黙っていようとしたのだと、理解できてしまった。

 ……あれ?俺が知ってる限り、1つ律が言わなかったアーツがあるはずなんだけどな……まぁ、それがあっても無くてもEPが足りない事実に変わりは無いから、とりあえず置いておこう。

 だってもうひとつよく分からないものがある。最後のみんなに向けてもう一度≪レキュリア≫を使ったところまでは理解できるけど、……なんで寺坂?

 

 その時、スマホの向こうで何かが倒れこむ音が聞こえ、少し騒がしくなった。

 

『寺坂!お前コレ、熱ヤベェぞ!?』

 

『こんな状態で来てたのかよ!』

 

『うるせぇ……それより吉田ァ、もう少し前に連れてけ……』

 

 ……そういえば、渚君もさっき『寺坂君と同じでウイルスに感染して』って言ってたな。つまり彼女は、誰よりも早く、寺坂のこの状態に気づいていたに違いない。でも、毒を抜くことはできないってのは1度実行したから知っていて……大方、寺坂が『体力はあるから』云々って言ったんだろう。それを素直に聞いた彼女は、少しでも足しにしようと中位回復アーツをかけて……

 ……あの時、導力器の仕組みを聞いて、アミーシャの最大EPを聞いた時に誤魔化されないで、もっと問いつめておけばよかったのか……?そうすれば、もっと目を配ってやれたのか……?後悔が俺の中に渦巻いて、何かを叫びたいほどの気持ちになって、それを押し込めるためにも強く目を閉じた。

 

 

 

『……おい、カルマぁ』

 

「!」

 

 

 

 スマホから、熱に浮かされた寺坂の苦しそうな声が聞こえる。思わず目を開けると、吉田と木村に支えられながら、ヘリポートに1番近い場所に移動している、寺坂の姿が目に入った。

 

『……1回、場合によっちゃあ2回までなら、ここからアイツに一発いれてやる。お前が合図しろ』

 

「……ぇ……」

 

『なんでもいい、誰でもいい、奴の気を引け。とりあえずお前ら2人が動けるようにならにゃ作戦も何もねーだろうが!それに……あー……真尾にも似たようなこと言ったけどよ……お前が真尾を助けなくて、誰が助けんだ』

 

「!」

 

『てか期末といい今回といい、なんでお前ら2人で互いに動くの忘れるんだよ……たっく……』

 

 ……こんなバカに、気付かされるなんて、思ってもなかった。話の流れがアミーシャのアーツに流れて焦ってたけど……そうだった、目下この体の拘束だけ何とかすればいいんだった。焦りでだいぶ思考が狭くなってたみたい……寺坂のおかげで出せる選択肢が1つ増えたんだし、悪くないはず……

 

 本人も言ってたけど、あの杖の効果範囲はそんなに広くない……だから、アイツもすぐに手が届く位置では無いけど、そこまで距離を取らない。1番いいのはアイツに杖の効果範囲外まで移動してもらうことだけど……実際どのくらいで効果範囲を超えるのかよく分からないし、ちょっとすぐにはその妙案は浮かびそうにない。

 後できそうなことは、あの手から杖を落とすこと……それはできるかもしれない。俺は1つだけ動けなくても戦う術を持ってる……ただ、1度も使ったことがないから、上手くいくかは賭けでしかない。

 

「……寺坂、賭けだけど……呼んだら、手の中のあれ狙って。手でもいいや……落としてくれたら、考えがある」

 

『……おう、任せろ』

 

『最悪俺もやるから大船に乗っとけ!』

 

 実績持ちの信用できる実行犯(寺坂)と、その仲間(吉田)の自信のある強い声に、少し力が抜けた。大船に乗っとけって……絶対に成功させるって信用できるのは、アイツらがバカだからなのか。ちょっとでも鷹岡に伏せるためにもアミーシャには何にも伝えられないし……あとは運次第。

 

「カルマ君……」

 

「さっき言えなかったんだけど、実はアミーシャがエニグマを使えないの、もう1コ理由があるんだよね……ってその場所からじゃ見えないか」

 

「……え、もしかして、その、右手に持ってたの……」

 

「そ。……アミーシャは、『もしも自分が動けなくなったら』を想定してた。本人も自信なさそうだったから……俺も上手くいくか分からないし、ほぼ賭けだと思ってる。上手くいったとして、俺がどーなるかも分かんない。だからその時は……渚君、任せたからね」

 

「……わかった。僕が責任もってやるよ」

 

 ここからは、俺も知識でしか知らない未知の領域だ。右手のそれは、使おうとした直前の姿勢で固まってるから、鷹岡が気づかなくて、もしくは意味が無いとスルーしたか……どちらにせよ、ラッキーだった。

 あとは、タイミング──────

 

 

 

 

 

「最後の悪あがきは済んだかァ?さァて、真尾有美紗、赤羽業……お前達の補習と行こうじゃないか」

 

 ……そう、決意していたのに……アイツが、アミーシャに向かって拳を振りかぶったのを見て、ブワッと頭が沸騰するような怒りが俺を支配してくるのを、感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が朦朧とする中、目の前の、私を掴みあげる鷹岡さんは嫌な笑い声と共に、カルマと渚くんから一定の距離を開けすぎない程度に間を取っていく。離れた、といってもものすごく移動させられた感覚はない……多分、この人にとっては想定外にカルマたちが動けるようになったとしても対処できる程度の、近距離で……多分、うまく声を潜めれば話していることはわかっても内容までは聞けない程度の距離。

 ……このくらいまでなら体感で何となく分かるけど、これ以上は頭が回らない……捕まって、人質にされている今、私が2人の役には立てそうもない。

 

「お前がウイルスに感染し、発症した奴らに回復アーツをかけても効かないと絶望する顔!しかも効果範囲内にいるはずの自分の体調は一向に改善しない、それどころか時間が経つにつれて悪化していく恐怖……ヒャハ、最高だなァ!!」

 

「……っ!」

 

 私が聞いてなくても楽しそうに話す鷹岡さんの言うことは、正直図星だった。竹林くんに聞いて、もしかしたらと試して、上手くいったかと思ったのに……完治させることはできてなくて。

 それどころか、私自身は自分の異変は感じているのに何も変わらなくて……見ていたわけじゃないはずなのに、ホテル側から何か報告でもされていたのかな、目の前でニタニタ笑う顔が気持ち悪い。

 

「おやァ?……アイツら2人、無駄な抵抗をしているなァ……この時間停止のアーティファクトに抵抗しても意味なんて無いのに……こんなことなら、もっと人数ここに上げて全員動けなくした上でお前をいたぶるのもアリだったなァ……」

 

「……み、んな、傷、つけるの……、ッ許さな……ッ」

 

「ヒャハハハハハッ!だが、お前も一切動けないままなことに変わりはないだろう!」

 

「……わた、しは……いい、の……」

 

「自分はいい、ねェ……」

 

 カルマと渚くんが何とか動こうと抵抗しているんだろう……だけど、それを無意味にするくらいこの時を止める力は強すぎる……せめて、この人が、杖を手放しさえさせればもしかしたら……いや、それでこの効果が止まるとも限らないけど……

 

「そうだ、いいことを思いついた……お前が父ちゃんを受け入れて言うことを聞けばいい」

 

「……、……ぇ……」

 

「元はと言えば、お前達が、お前が俺を否定したことが始まりだからなァ……E組の中でもアーツ使いとしてお前が突出して使えることは分かってるし、お前は俺の手足として使ってやる。どうだ……その代わりにアイツら全員解放してやってもいいんだぞ……?」

 

「……っ、」

 

「ほら、どうした……お前はみんなが傷つくのが嫌で、自分を差し出すのは構わないんだろう……?お前1人が言うことを聞けば、みんなが助かるって言ってるんだ……迷うこたァないだろう」

 

 

 

 ……まるで、悪魔のような囁きに、考えが、揺れた。

 

 ……私1人が言うことを聞けば、みんなは、開放される……?カルマも、渚くんも、何もされずにここから下ろしてもらえる……なんなら既にウイルスの治療薬も手に入れたあとだし、みんながここから解放されればすぐに薬を届けることもできて、下のみんなも助かる……私だけ、この人の元に残ればみんなが助かって、日常に戻れて……、

 

 

 

 ……私が、この人の言うことを聞けば……

 

 

 

「アミサさん!!」

 

「!」

 

 この提案なら、取引に来る前から考えてた通りだ……私が全部引き受ければ、みんなを守るためだったらそれでも……頷こうとした時、律ちゃんを通さない、殺せんせーの声が聞こえた。

 

「そんな人の言うことを聞く必要はありません。アミサさんはアミサさんの正義を信じなさい。アミサさん自身の意志を殺して、あなたが幸せになれると思いますか。そして……あなたは誰がなんと言おうと、E組の生徒、私の生徒です!誓ってその人はあなたのお父上でも、先生でもない!従う必要はありません!」

 

「ここに来る前に1人でなんて、ダメって言ったよ!私は、ううん、ここにいるみんな、帰らないからね!」

 

「一緒に乗り越えるとも言ったわよ!!みんな、アミサを犠牲に助かったって嬉しくないんだから!」

 

「約束通り、私達は傷つくことなくここまで来た。次はアミサが約束を守る番でしょ!……一緒にいよう、みんなで、帰ろう」

 

 ……殺せんせーが。

 

 桃花ちゃんが。

 

 メグちゃんが。

 

 凜香ちゃんが。

 

 言葉にはしないけど、一緒にここまで来て、すぐそこにいるはずのみんなが。

 

 ……たった今頷こうとしたのに、私がここに残ってみんなを守ろうとすることを否定する。だって、みんな、無事に帰れるのに……どうして……そんなことを思う間もなく、私がE組のみんなと一緒にいることを、私を含めたみんなで帰ることを肯定する。

 

「おいおい余計な水をさすんじゃねェ!!せっかくかわいい生徒が本心からお前たちを守るために残るって言ってくれようとしてるのによォ」

 

「アミサさん。あなたにとって、価値があるのはその男の言葉ですか?それともクラスメイトの言葉ですか。本当に望んでいるのは何か……それを考えて選びなさい」

 

 ……価値。

 

 この人の言葉は私にとってはとても甘くて、魅力的な提案だけど、温度は感じない……きっと、受け入れたら私は心から信じている父を、心を捨てて殺すことになる、だけど、みんなを守れた安心感には納得できて、体は生きていける、と思う。

 クラスメイトの言葉は……ホントにいいのか、なんでみんなは帰れるのに私を捨てないの、早く私を置いてけばいいのにって焦りと戸惑いを、これからが見えない不安を感じるけど……私を思う、あたたかさも一緒に感じる。

 

「……わ、たし……は……ッ」

 

 ……心の底から、みんなが無事なら……私1人残ってもいいって思ってた……今でも思ってる。だけど、なんでみんな、そんな私を必要としてくれるの……?本当に望むものなんて、うっすら望んでたころから、こんな場面になれば押し殺して、捨てられるものだったはず、なのに。

 

 だけど、それはみんなにとっては違うんだね。これは私の利(みんなを守りたい)でしかなくて……私にとっての利を捨ててでも、私にとってのホントに欲しいもの……ホントに望むものを、口に出すなら───

 

 

 

「……みんな、と、いっしょ……、いたいよぉッ……」

 

 

 

 あたたかくて重たい思いの方が、私には捨てられない

 

 わたしは、みんなといっしょに、かえりたい

 

 

 

「アミサちゃん……!」

 

「……フン、そうかそうか……ま、予定通り行けばいいってこったな。そっちの2人も最後の悪あがきは済んだかァ?!……さァて、真尾有美紗、赤羽業……お前達の補習と行こうじゃないか」

 

 大きく振りかぶられた拳は、こんな状態じゃ絶対に避けられない。だけど、私が自分の望みを理解したからには……別に殴られてもいい、ホントは痛いのは嫌だし、傷つかずにみんなの所に戻りたいけど……私は鷹岡さんの言うことは聞かない、聞きたくない……例え抵抗できなくても、もしかしたらのチャンスを待つ。

 

 少しでも衝撃に備えようと目を閉じて、理不尽な暴力を受け入れようとした時だった。

 

「離せよ……」

 

 初めて感じる静かで冷たいはずなのに燃えるように刺してくる殺気は、大きすぎるくらいで……よく知ってる彼から向けられているものだった。

 

「お前が、アミーシャに手を出すなんて、許さないから……これ以上手を出すなら……どんな手を使ったって、お前を殺してやる……!」

 

 カルマが、怒ってる……期末テストの時も怒ってたけど、そういう怒ってるのとは、また違う。

 いつだっけ……私が喧嘩の時に髪を掴まれて捕まって、私のことを放置して喧嘩に勝てばいいって思ってたのに、自分が殴られてもいいって受け入れてしまった時のように……

 ……ううん、あの時は、自分の内側に怒りを押し込んでた……それ以上に、怒ってるってこと……?だって、私にまで感じる殺気を乗せて表に出してるんだから……

 

「……っ!ひャは、動けないくせに殺す?何言ってんだァ?!……だが……そうだな、先にお前を殺しておけばこのチビも提案を受け入れざるを得ないかもしれないな……?見せしめがあれば他を守るためってな……」

 

「……ぇ、……」

 

「………………」

 

「いいぞォ、元々渚君も手足を切り落としてやろうと思ってたんだ……1人くらい増えても同じだろ……」

 

「……ぅあッ!ゲホッ、ぅ……ッ」

 

 鷹岡さんが、いきなり私を手放して……防御姿勢なんて取れるはずもなく、何もできないままその場に落下し、体をヘリポートに叩きつけられる。また、少しだけど咳き込んだ勢いで血が飛び散る。

 一瞬息が詰まったけど、まだ、意識は落ちないで済んだし、向きも2人の方を見ることができる……でも、どこから取りだしたのか、鷹岡さんまで本物のナイフを構えていて。ゆっくりと向かう先は……まだ、動けないままの、渚くんと……

 

「だ、め…………やだ、……ッやだぁ……!」

 

 カルマ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、───誰がアーツを使えるのはアミーシャ1人だ……なんて言ったの?」

 

 

 

 

 

 彼が、笑った気がした。

 

 

 

 

 

「寺坂ァ!!」

 

「……おうよッ!」

 

 

 

 ───ガンッ!

 

 

 

 ───バゴッバヂバヂバヂッ……ガシャッ!

 

 

 

「ぐぅっ!」

 

「よし、杖に当たって飛ばしたぞ!鷹岡から少し離せた!」

 

「ッ弾き飛ばしたからなんだ、……これくらいの距離じゃ、アーティファクトが壊れることも時間停止が止まることだっ、て……ッ何……!?」

 

 殺気を飛ばしていたカルマが、いきなり寺坂くんの名前を呼んだかと思ったら、鷹岡さんの手に……杖に向かってなにか黒いものが飛んできて、すぐに反応した鷹岡さんがそれを払った瞬間、ブラインドのように隠れていたもう1本が電気の走る音と一緒にそれを弾き飛ばしていた。吉田くんが嬉しそうというか、成功を喜ぶ声で状況を報告している。

 

 だからといって、それで体の自由を取り戻したわけじゃなくて、動けないことには変わりなく……鷹岡さんが余裕そうに杖を拾いに行こうとした、時だった。

 

 

 

 

 

 カルマの右手から、見慣れた青い光が迸ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルマside

 動けない、無抵抗のアミーシャを、男の……しかも腐っても軍人の全力の拳で殴られそうになって……ただでさえ弱ってるのに、もしかしたら死んでしまうかもしれない。そう頭をよぎった瞬間、衝動的に殺気を向けたのは自分でも歯止めが効かなかったから。

 でも、そのおかげで俺の方へ先に鷹岡の殺意が向いて、アミーシャを落とされたとはいえ手放してくれたのは予想外の好機だった。万が一があっても、彼女を巻き込む可能性がかなり減った。そして……俺に、注意が向いたということは……それ以外からも意識が逸れたということ。

 

「寺坂ァ!!」

 

「……おうよッ!」

 

 約束通り名前を呼べば、寺坂はあの体調にもかかわらず、かなりの強さと勢いで、正確に……アイツが持っていたスタンガンを鷹岡の杖めがけてぶん投げた。

 完全に意識の外にあった寺坂の存在は、鷹岡も気付けなかったのか反応が遅れ、それでも腐っても軍人の反射は健在のようで……反射的にそれを弾いた途端……吉田が寺坂のスタンガンに隠すように投げた2本目が電気の音を響かせながら命中した。多分、俺の『備えあったらうれしいな(非常用持ち出し袋)』の中に入ってた拘束用テープか何かで電気を流すスイッチの固定をしたんだろう。

 ただ物体が手に当たるだけでなく電気が流れたこともあってなのか、杖に命中したのかまでは分からないけど、アレを弾き飛ばすことに成功していた。

 

 吉田は嬉しそうに叫んでるけど、鷹岡は痺れただろう手を振りながら余裕そうに拾いに歩いて行こうとしている……俺等が動けないってタカをくくってるもんね……その隙に、油断を、この一撃で崩してみせる。右手に意識を集中して、指先からイメージする。

 

 

 

〝ねぇ、カルマ……もし、私が動けなくなることがあったら……これ、預けるから使って〟

 

〝……え、〟

 

〝ないこと、祈るけど……、……アナライズ(幻属性解析魔法)……やっぱり、カルマは火属性なら適性があるから、私の導力器(オーブメント)でも負担はすごいかもだけど、使えるかもしれない。1番火属性の中で低位アーツの≪ファイアボルト≫なら……属性値、覚えてるよね?1度おじさんぬの時に、私が使ったアーツだからイメージしやすいと思う……〟

 

 

 

 ずっと、俺が右手に握りしめていたアミーシャの戦術導力器(オーブメント)……彼女の言う通り……この暗殺旅行へ来る前に、適正があるかもしれないと言われた時点で、火属性と地属性の導力魔法(オーバルアーツ)はいつかなにかに使えるといいと思って……種類も属性値も、クオーツも一部は覚えておいたんだよね。

 ≪ファイアボルト≫なら、火の属性値1だけで発動できるアーツだから『龍眼』って名前の付いたクオーツだけで事足りる。元々あの杖を使われる前に渚君と組んで鷹岡に隙を作るつもりでいたから、体の自由を奪われる前の時点で既にクオーツの選択は終えていたわけで……

 

 

 

 あとは、俺とコイツの相性次第……ちゃんと使えるかどうかは、賭けだ。

 

 

 

「頼むから……応えてよ、エニグマ……ッ!」

 

 さらに力を入れ、右手に祈りを込める……俺の持ち物じゃない、所持者からの借り物だけど、力を貸して欲しいと……すると、俺の思いに応えるようにアミーシャので見慣れた青い光が現れ、俺の中に集束する。鷹岡が、慌てたように俺を見てきたけど……きっと、成功する!

 

「……行けッ……ファイアボルト(火属性攻撃魔法)!!」

 

 あの時。直接見ることはできなかったけど、俺を守るために彼女が使ったアーツ……形までは分からないけど、俺のすぐ近くを通った炎の熱さと大体の大きさは覚えてる。床に残った燃えカスというか、焦げ跡もしっかり確認した。

 大きさは人の頭くらい、熱さはガラスが溶けないで熱風を感じるくらい、狙いは……俺なりにしっかりイメージを固めて、対象を見据える。

 

 おあつらえ向きに、アミーシャの体を起こして支えていた形で体を固定されているから、左手は上を向いている。俺の左手からイメージ通りに顕現された炎の塊は、左手のひらの上で炎を大きくし、……指定した対象である杖と近くの地面を巻き込む形で直撃して、その火球の爆風で杖をヘリポートの下まで吹き飛ばした。

 

「なぁぁぁッ!?!?」

 

「うわぁっ!う、動ける……!」

 

「……っ、と、戻った……ッ!渚君、回収!」

 

「う、うん!」

 

 拾おうとした時だったから、思わずと言ったようにヘリポートの上を滑る杖を途中まで追いかけてしまった鷹岡……今のうちなら、移動できる。

 渚君は体の自由が戻ってすぐに、寺坂と吉田が投げたスタンガンの回収へ走り、俺はアイツと距離をみながらヘリポートの地面に落とされたアミーシャの元へ走ろうと、体を起こし……大きく視界が揺れる目眩と一気に力が抜ける感覚にグラついて再び膝を着く。……きっと、アミーシャの言ってた通り……持ち主じゃない、しかも上位属性の縛りが多い戦術導力器(オーブメント)を使った代償だ……、ドッと、得体の知れない倦怠感まで襲ってくる。 

 

「……っ、もうちょっと、もてよ……俺の体!」

 

 時間停止の効果範囲の関係で、彼女の場所は案外近いんだ……無理やり体を起こして、足を前に踏み出したところで、グッと体がもちあがる。スタンガンを回収した渚君が俺を支えてくれていた……そこまで力のない渚君だから、引っ張るようにというより、俺の腕の下に入って持ち上げる感じで……うんうん唸ってる渚君には悪いけど、めちゃくちゃ支えになってない。けど……1人で行くよりは、歩きやすい。

 何とかアミーシャの所に辿りついて崩れるように傍に膝をつき、さっきのようにもう一度彼女を俺の腕の中へ抱き上げれば……何も言わないけど涙でぐちゃぐちゃの青白い顔でひどく安心したように笑うから。……その顔を見て、なんとか、大事な存在を取り戻せたことを実感して、強く抱き締め直した。

 

「どいつもこいつも……俺の邪魔しやがってェ……!」

 

 明らかにさっきよりも怒っている鷹岡の声が聞こえて、そりゃああんだけ邪魔されまくって、自分の思い通りにならなかったら怒るよね、とそちらの方を見る。本物のナイフを片手で遊ばせながら、こっちに向かってくる鷹岡……本トなら、俺がやってやりたい……でも、アミーシャを抱き抱えてることもあるし、膝が震えて俺自身がこれ以上立ち上がれそうにない。

 

「……、動けそうにないや」

 

「ううん、大丈夫。1本持ってて……ここから先は僕の番だから」

 

「渚ァ!人質いなけりゃこっちのもんだ……。俺等の代わりだ!死なねぇ範囲で……ぶっ殺せ」

 

 向こうから、寺坂が叫ぶ声が聞こえる……それを聞いて渚君は立ち上がると、拾ってきたスタンガンの内1本を俺に預け、もう1本をズボンのベルトに挿し、……着ていた上着を脱いでアミーシャの上にかける。

 毒のせいで体が冷えきったこの子は、無理もないけどもう動く体力もなさそうで、小さく震える唇で何か言おうとしているようだけど……

 

「     カオス、ブランド(幻属性攻撃魔法)     」

 

 ……やっぱり、音になってないから、聞こえない。どこかで何かが落ちて、バキッと割れるような音が聞こえた気はするけど……鷹岡でも見ているみんなでも無さそうだし、とりあえずこっちだ。

 

 

 

 

 

 渚君は、息を整えながら目を瞑り、ゆっくりと目を開けてから鷹岡を見据えて……笑った……

 

 

 

 

 

 ……そういえば、アミーシャが来れなかった訓練で、ロヴロさんからなにか教えてもらってたね……それを今、実践するのか。

 

 見間違いかもしれない、だけど、この不利な状況で笑うなんて……でも、教えてもらったことを試す実験のためなら、あの表情もわかる気がする。渚君は躊躇うこと無くまっすぐ、鷹岡の元へ歩き始めた。……まるで、あの一騎打ちの時と、同じように。

 

 さっきまでの鷹岡の暴挙なんて、何事も無かったかのように歩く姿を見て……鷹岡は焦ったようにナイフを構え直し、体勢を整えた、かのようにもみえる。

 鷹岡は戦闘に持ち込んで渚君を切り刻んでやろうとでも思ってたんだろうけど、ここまでアミーシャの無理やりな治療薬奪取、意識外から投げられた寺坂と吉田のスタンガン、本来の使用者じゃない俺が駆動させたアーツ、と相当想定外なことが続いてるからね。次の想定外を考えながら先を読まなくちゃいけない鷹岡は、あの時と同じ状況に見える今、渚くんが次に何をしてくるのか、何を考えているのかを一挙一動から読み取ろうとしている。

 

 あと少しでお互いのナイフの間合いに入る……と、いうところで、渚君はゆっくりと、……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。攻撃手段を手放すなんてありえない行動に鷹岡の理解が追いつくその前に、彼は、見えない刃を突き刺した。

 

 

 

 ────パァンッ!

 

 

な、に、が……起、っ」

 

 

 

 ……まるで、いつか見たことのある、感じたことのある音の爆弾が爆発したかのようだった。

 渚君がやったことといえば、なんかすごい技でもない、相撲でいうただの猫騙し。だけど手練であるからこそ、鷹岡は渚君が近付いてくるにつれて凶器に意識が集中し、警戒するからこそ目がいってしまう。それを攻撃直前に捨てられるなんてしたら、こいつは何をって絶対思ったはず。その意表をついて、ほぼノーモーションから両手を合わせた。

 

 間近でその音を受けたアイツは、前段階からかなり緊張感が高まっていたこともあって相当驚いただろう。驚きすぎた時って一瞬意識が飛ぶくらい真っ白になること、あるもんね。仰け反るように固まって、それで、

 

 

 

 ────バチッ!

 

 

 

 渚君はその一瞬を見逃さず……腰に挿していたスタンガンを抜いて躊躇うことなく電気を流した。アイツ、思い直せば吉田のスタンガンの電気もついてたし、浴びるの2回目だよね?電気の弾ける音を響かせて、決着はついたようだ……鷹岡が膝から崩れ落ちる。

 さすがガタイのいい軍人、まだ意識は完全になくなってないみたいだけど、もう、動くことはできないだろう。

 

「……トドメを刺せ渚。クビあたりにタップリ流せば、完全に気絶する」

 

 いつも目立たない渚君が、自分よりかなり体格のいい鷹岡を行動不能にまで追い込んだ事実に……みんなが呆気に取られている中、寺坂が渚君に声をかける。渚君は落ち着いた様子のまま、それに従って鷹岡のクビにスタンガンを当てた。

 スタンガンを当てられている鷹岡はかなり怯えているようで。それを目の前にしている渚君は、優越感に浸るでも、ここまでの暴挙に怒るでもなく……何を思ったのか、綺麗に笑って。

 

 

 

「鷹岡先生……ありがとうございました」

 

 

 

 ────バチィッ!

 

 

 

 その笑顔のまま鷹岡にお礼を言って、スタンガンの電気を流した渚君……ついに、鷹岡は大きな音を立ててその場に崩れ落ち、全く動かなくなった。

 

 

 

「「「…………!っしゃーーー!元凶ボス撃破!!」」」

 

 

 

 ……はは、勝っちゃったよ。みんながみんな胸をなでおろしてヘリポートの近くへと駆け寄ってくる。

 

 

 

 

 

 やっと……終わった。

 

 

 

 

 





「……よかっ、た……、……(カルマにオーブメントを託した時……成功率を上げるため、最後のEPを使って解析アーツを使った。10ポイントのアーツだったからギリギリ足りたし、ちゃんと視ることもできた、けど……()()()()()()()()()()()()()。もしかしてと思ったけど……さっきも、発動した……上限ギリギリどころか、超えてるはずなのに……どうして……?)」



++++++++++++++++++++



大幅改編鷹岡襲撃回、いかがでしたか?
どちらの原作要素も出しつつ、オリ主の隠し事も少しずつ暴きつつ(まだいっぱいある)、色んな生徒に見せ場を作りつつ……何とかまとまったかなと思ってます。

途中、オリ主側のやり取りでスマホを通じてやり取りせず直接言葉を伝えていたのは、同時進行で渚、カルマ側に律の回線が使われていたのと、それを目立たなくするためって意図があったり。
この当たり含め、次の話で補足しながら展開させて行けたらと思います。オリ主まだ毒状態のままですしね!!!



鷹岡、強いはずなのに、急遽放り込んだ道具のせいでちゃちくなった感があるのはちょっと申し訳ない気もしますが……、うん。


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