暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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いろいろあった夏休みを彩る、中学3年生【第一部】夏休み編、最後のお話です。





60話 夏祭りの時間

 

 ──8月31日

 

 カレンダーの数字にバツをつければ、嫌でも実感する……今日で中学3年生の夏休みが、終わることを。明日からまた学校が……私たちの暗殺教室(3年E組)での生活が始まるんだ。

 

 パタン、と机の上で開いていた問題集とノートを閉じると、勉強机の下に潜り込んで空いたスペースを探して重ねる。……というのも、重ねた場所には既に浅野くんからオススメされた参考書から、この休み中の勉強に使ったノート、夏休み中に出された課題のコピー、その他見えるところには置いておきたくない資料などなどとりあえずどんどん重ねて置いてるせいで、だいぶ煩雑になってるから。

 部屋を少しでも広く使えるように、それでいてあまり人に知られず邪魔にならずに置ける場所……って考えて、気づいたらそうなってたんだよね。

 

 その後、机に伏せて目を瞑り、夏休みにあった出来事を順番に思い出していく。

 

 みんなで取り組んだ訓練、殺せんせーの暗殺旅行、イリーナ先生放課後塾のみんなやお姉ちゃんへの恋の相談、カフェ巡り、ショッピング、アミューズメント施設……楽しかったこと、悔しかったこと、安心したこと、寂しかったこと、恥ずかしかったこと、嬉しかったこと。

 全部の思い出に、これまではカルマや渚くんの2人だけだった登場人物が、浅野くん、E組で出会った友だち、先生たちっていう存在が増えて、……自然と、笑みがこぼれていた。……楽しかったな……

 

 

 

 ────コンコン……コンコンコンコンッ

 

 

 

「…………?」

 

 突然、部屋の中に響いたちょっとくぐもった感じのノック音、それが1回じゃなくて何回も続いて、さすがに顔を上げる……この家には、私以外誰もいないはず……。しかも私の家、私の部屋は1階じゃないし、窓側からノックの音が鳴るなんておかしい。

 警戒しながら音がした方向を向いてみると、そこには腕をワタワタと動かして慌ててる様子の、

 

「…………殺せんせー?」

 

 窓の外でかなり焦った様子で「開けてください!!」と口パク(言ってるかもしれないけど、窓越しだから声は聞こえてこない)をしながら、窓の鍵を指さしている殺せんせーがいた。なるほど、殺せんせーだったら2階でもあんまり関係ないね。……不審者かと思った。

 とりあえず害のない相手ということがわかったから警戒するのをやめて立ち上がり、窓の鍵を解除し、開けてあげる……その途端、適当に冷やされていた室内へ夏らしいムワッとした空気が流れ込んできた。

 

「……先生、どうしたの?」

 

「どうしたのはこちらのセリフです!熱中症か脱水症か何かで倒れているのかと思いましたよ……!?」

 

「……?元気だよ?」

 

「あなたの場合前科があるでしょう!水分とってます!?」

 

 どうやら私がやることを無くして机に溶けている姿を見て、体調が悪くて動けなくなってるんじゃないかと勘違いさせてしまったみたいだ。1度教室で自分の体調不良に気づかず、倒れる1歩手前までやらかした前科があるから余計に心配をかけてしまったみたいで、すぐさま殺せんせーの触手が伸びてくると頭や首などの体温を測りはじめた。

 部屋の中はクーラーつけてるんだから、脱水症状ならともかく熱中症は簡単にならないと思うな……とは思うけど、あまりの慌てように私が悪いように思えてきて、好きにしてもらうことにした。

 

「ふぃ〜……安心しました。ただでさえアミサさんは一人暮らしなんですよ、連絡が取れたとしてもすぐに誰かが来ることができないんですから……」

 

「あはは……ごめんねせんせー。もし何かあったらちゃんと律ちゃん経由でも誰かに連絡するからへーきだよ……アミサは、1人じゃないって学んだんだから」

 

「はい、そうしてください。って、そんな学びができるだなんて、沖縄から帰って何かあったんですか?」

 

「えへへ……あのね、今までは音声だけでしかできなかったんだけど、律ちゃんを経由すれば、お姉ちゃんと顔を見て話せるようになったんだ」

 

「おお!リーシャさんと!!それはよかったですし、顔を見ることができるというのは安心ですねぇ」

 

「うん、方法を思いついてくれた渚くんとカルマ、実践してくれた律ちゃんのおかげ……向こうはまだ大変な時期だから、こっちから通信を繋ぐことはできないけど……」

 

「それでも家族と取れる連絡手段が改善したのは、何よりも喜ばしいことです。……とと、忘れるところでした」

 

「?……夏祭りの、お知らせ……」

 

 うんうんと頷きながら、ハンカチで顔に浮かんだ汗を吹いた殺せんせーが、思い出したようにいそいそと取り出したのは、夏祭りのお知らせ今晩7時空いてたら椚ヶ丘駅に集合!!─』という文字が書かれた看板だった。

 今日思い立ってクラスみんなに声をかけて回ってます、と言いながらニコニコしている殺せんせーを視界に入れながら、思い出す……そういえば、みんなで遊びに行った時に何度か電車も使ったけど、駅に夏祭りとか花火大会とかのポスターが貼ってあったなぁ……と。そっか、誰も言い出さなかったから日付まで見てなかったけど、今日がその夏祭りの日だったんだ。

 

「声かけて回ってるって……E組、みんないるの……?」

 

「それが、思い立ったのが遅くて……既に用事があると、断る人が意外に多くて傷ついてます……」

 

「……そう、なんだ……、みんなじゃないなら自由参加……」

 

「……、……あぁ、そういえば『アミーシャが来るなら行ってあげてもいい、むしろ来ないなら行かない』と言い切った人が1人」

 

「…………もしかしなくても、それ、カルマだよね?」

 

「さて、どうでしょうか?」

 

 最初は殺せんせーが集めている擬似クラス行事のようなものなのかと思ったんだけど、聞いてる限り自由参加で参加する人少なそう……集まりが悪いなら行ってもな……なんて、行くかどうかかなり迷っていた。だって行ってみたら私1人、なんて絶対にイヤだもん。

 

 私が迷っていることを察したんだろう、殺せんせーがいかにも今思い出しました〜、とばかりにボソリと口にした言葉は、カルマのものだと思われ……ううん、彼しか私のことを本名で呼ばないからほぼほぼ確実だよね。

 何がどうなって私がカルマの参加不参加の理由になってるのかはよく分からないけど、殺せんせーはかなり必死に行こうと声をかけてきている。……まあ、無理もないよね……私が行かないといえばカルマも行かない、つまり、参加者が2人私の選択で増減するんだから、……あれ、これってなにげに私、重要な選択を強いられてたりするのだろうか。

 

「……もう、先生、そんなに必死にならなくても行くから安心して?……せっかく行くのに1人になるのが嫌だっただけだから」

 

「おぉ、本当ですか!ちなみに先程渚君も誘いに行きまして、多分彼も来てくれると思いますよ」

 

「!……3人でお祭り、まわれたりするのかな……」

 

「おや、お祭りは行ったことがあるんですか?」

 

「うん、中学1年生の時に、秋のお祭りに連れてってもらったの……お祭りは浴衣っていうの着るんだって教えてもらって、行く前に3人で買いに行って……あ、浴衣……着れるかな……」

 

 すごく嬉しそうな殺せんせーからの情報で、まだ日本のお祭りを全然知らなかった頃のことを思い出した。

 はじめて行くならいい思い出を残さないともったいないし、浴衣を着ていった方がより楽しめるって言われたけど、浴衣がなにか分からないし当然着方も知らなくて。それをカルマと渚くんの2人に伝えたら、その時点で予想通りだったらしくてお金の確認だけされた上で大きなお店に連れていかれた。そこで3人それぞれ浴衣を選んで……カルマがドクロ柄の浴衣をネタで買っていたのをよく覚えてる……ほんとに着てたし。

 

 身長はあのころよりちょっとは伸びた、とはいえあんまり変わりないし、大きめのを買ったからサイズはなんとかなると思う。問題は、あの頃よりも3サイズも大きくなってしまった胸だ……前にインターネットで調べたら、大きい人は着こなすのが難しいし見た目が悪くなるって書いてあったから……男の人(だよね?)の殺せんせーに聞いていいものかわからないけど、物知りだし教えてくれるかな……

 

「……殺せんせー、浴衣のきれいな着方ってありますか……?」

 

「ふむ、着こなしの話ですね?浴衣は直線的なラインが特徴ですから……さすがにこの時間になってからサラシや専用の道具を買いに行くわけにもいきませんし……タオルを巻いて身体を寸銅の形にしたり、スポーツタイプの下着を身につけるとかでしょうか」

 

「……がんばってみる」

 

「はい、頑張ってください。では先生は他の人を誘ってきます。また後で会いましょう!」

 

 そう言うと、殺せんせーはシュバッと音を立てて姿を消した。まだまだ誘う気満々だなぁ……このまま外国の誰か、例えばロヴロさんみたいに、殺せんせーにとっては身内認定してる人とかも片っ端から誘いにいったりして。……さすがに外国の人は誘わないよね、先生でも。

 

 クローゼットを開き、中学1年生以来、手入れはしていても袖を通していなかった浴衣を取り出す……赤地に水色と白の花が描かれた浴衣に、紺色地に銀糸の蝶が描かれた帯のそれは、私とカルマと渚くんの髪色が全て入っていたから気に入っているものだ。

 軽く鏡に向かって合わせてみたけど丈はだいじょぶそう……1人での着方もお店の人に教えてもらったし、多分できる……はず。必要なものを探して、着方を復習しながら荷物を出している時だった。

 

 

 

────ピロン

 

 

 

 小さくスマホから通知音が鳴って、律ちゃんが顔を出す。

 

『アミサさんっ!E組女子チャットから、矢田さんのメッセージを受信しました!』

 

「律ちゃんありがと……えっと……、!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルマside

 今日は8月31日、夏休みの最終日。明日提出予定の課題自体は夏休みのはじめ……てか沖縄旅行の前に全部済ませてるし、やっときたいことも終わらせて、特に今すぐやらなきゃいけない事もなくなったから片手間にゲームをしてた、ら、鍵を開けたままにしてたらからなのか突然、部屋の窓が開いた。

 

「……はァ?祭ぃ……?」

 

 プラカードと共に顔を出したのは殺せんせーで、半泣き……じゃないなこれ、ほぼガチ泣きで、用事で断る人が多いとか断られて傷ついてるとか言いながら夏祭りに誘われた……、あと少し早く来てたらゲームの前にやってたのを見られるところだった、あぶな。

 ちら、と窓からは多分見えてないだろう場所に積み上げた勉強の跡……ワークや参考書、ノートの類に意識をやる……努力してるとこ見られるなんて、なんかやだし。

 

 一応、目の前のタコがあんまりにも必死だし、俺自身別に予定もないから行く気にはなったけど……夏祭りと聞いて、中一の頃にアミーシャと渚君との3人で行った秋祭りのことを思い出した。……なんかタコは来る人少ないとか言ってるけど、2人は来るのかな、なんて考えて。

 

「……アミーシャ来るなら行ってあげてもいいよ、来ないならやめちゃおっかなー?」

 

「まだ誘いに行ってないので分かりませんが……カルマ君の参加不参加にアミサさんの比重が大きすぎて、彼女責任感じちゃいません……?」

 

「どうせなら一緒に行きたいじゃん?行っていなかったら帰るからね」

 

 だから伝言を頼んだ。渚君はともかく、彼女は今日何もないって言ってたから多分暇してると思うし、ああ言っておけば彼女のことだから「なんか重要な選択を強いられてる」とか考えてオーケーする可能性上がると思うし。

 

 俺の言い分を聞いて苦笑い気味の殺せんせーをさっさと追い出し、中一の頃、3人で浴衣を買いに行った時にノリと勢いで選んだ浴衣(ソレ)をクローゼットから取り出す。俺中一の頃からかなり背が伸びたけど、……これ足首出るか……?いやー……うん、まだ着れるね!

 今から着替えるのもアレだし私服で行こうかとも思ったけど、渚君、アミーシャの3人で祭りをまわれるかもしれないなら……また、あの頃と同じように3人浴衣で揃えてみるのもアリかなって思ったから。

 

 

 

 

 

「なのに……結局集まったのは野郎だけってどーゆーことさ。しかも浴衣着てきてんの俺だけじゃん。空気読んでよ、特に渚君」

 

「ごめん、まさかこんなに急に決まった夏祭りで、カルマ君がノリと勢いで買ったそれ着てくるなんて思わなくて……」

 

「ドクロかよ……」

 

「中二病……」

 

「えー、イカしてるっしょ?そんで言うなら中三病と言え」

 

 

 

 と、いうわけで。

 渚君には俺の期待を物の見事に裏切られた。

 

 

 

 午後7時少し前に椚ヶ丘駅に来てみれば、渚君、千葉、岡島、磯貝、前原が集まっていて、女子は1人も姿がみえない。それに俺以外みんな洋服って……俺1人がこの集団の中ではしゃいでるみたいで浮いてるじゃん……しかも、え、殺せんせーほんとにこれだけしか集められなかったわけ?

 

 とりあえず、俺の着てきた浴衣に対する散々な評価は俺の持論を押し通しはしたけど、1人だけ浴衣着てこの集団で祭りに行けるほど行きたいわけじゃないし、殺せんせーに言って彼女に伝えてもらった伝言通り帰ってやろうかな……そう思い始めた時だった。

 普段の暗殺訓練で鍛えられた俺等の耳に、カランコロン、と下駄で走る複数の足音が聞こえたのは。

 

「ほら〜、男子もう来てるじゃん!」

 

「うわ、ホントだ……ごめーん!遅れた!」

 

「大丈夫?まだ走れる?」

 

「う、うん……!……わっ!……へーき!」

 

「へーき、じゃないでしょ!ほら、もう見えてきたしスピード落とすから浴衣整えて……」

 

「うぅ、ありがと桃花ちゃん……」

 

 音の方向から走ってやってきたのはE組の女子達……片岡さん、神崎さん、茅野ちゃん、速水さん、そして走ってくる途中ですっ転んで両脇を矢田さんと倉橋さんに支えられて助けられたアミーシャだった。……あ、もう一人いるわ。

 

「どーよ、男ども。私が直々にスタイリングしてやった女子の浴衣姿は!」

 

「「「おぉ……」」」

 

「おーーっ!!」

 

 多分、女性陣が集合時間に遅れてきた理由はこれだ。自分もしっかり着飾ったビッチ先生が、かなりやりきった表情でドヤ顔をしている前には、こっちを見ながらニコニコ笑っている女性陣。全員文句なしに綺麗に整えられていて……まあ、つまりは浴衣を着てきていた。

 見た瞬間思わずというような声を上げる俺等男性陣-1……なんで-1かって?即行カメラを構えて女性陣の写真を連写し始めた岡島だけは思わずどころか思いっきり歓声を上げてるからに決まってるじゃん。

 

 と、そんなのは置いといて……俺は、矢田さん達に軽く背を押され、俺の前まで連れてこられた彼女から目が離せなかった。……だって、彼女が着ているのって、もしかしなくても……

 

「その……カルマと渚くんがいるかもしれないなら、と思って着てきたの……一緒に選んだ浴衣。カルマのも懐かしい……いつ見てもカルマらしいね」

 

「……っへぇ、うまく着こなしてるじゃん。あの時もよかったけど、今も似合ってる」

 

「……ぁ……えへへ、ありがと……あ、あのねっ、髪の毛とかはイリーナ先生がやってくれたんだ」

 

「……うん、髪が長かった時もよかったけど、短くしてもいいね……かわいい」

 

「……ッ、そ、それより……渚くん、浴衣着てない……」

 

「う、うぅ……さすがにごめん……」

 

 少しだけ照れたようにはにかむアミーシャは、髪を短くして結ってる以外はあの頃のようで……それでも、完全に子どもらしかったあの頃よりも、どこか色気というか大人の片鱗すら感じさせる姿で。

 とっさにいつも通りの俺をなんとか装うので精一杯だったけど……この子の言う通りなら、俺と渚君のために浴衣を着てきたってことでしょ?何それかわいすぎるし……やばい、2年ぶりの浴衣、めちゃくちゃいい……!

 

 そして嬉しそうに軽く編み込みながら項を出すように結われた髪に触れた彼女は、素直に俺が褒めれば頬を赤らめて恥ずかしそうに目を逸らしながら言葉に詰まって……話を変えるように渚君に対して残念そうにポツリと言葉をこぼす。

 今にも泣きそうな小動物のような雰囲気に、俺には言い返していた渚君もさすがに謝っていた。ほら、やっぱりアミーシャも期待してたじゃん……俺等3人で揃って浴衣を着て、秋祭りに来た時と同じように、あの時と同じ浴衣で揃いたいって。

 

「いやぁ、思いの外集まってくれて良かった良かった。誰も来なかったら先生自殺しようかと思いました」

 

「あー、じゃあ来ない方が正解だったか」

 

「いえいえ、先生はみなさんが来てくれて嬉しいですよ!では、楽しみましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集まったとはいえ先生含めて15人でまとまって行動するのは迷惑にしかならない、ということで、花火が始まったらまた合流することにして小さなグループで楽しむことになった。私は渚くんが浴衣を着ていないとはいえ、はじめてのお祭りの時と同じように一緒に夜店をまわる。今回は新しくカエデちゃんも一緒で、私とカエデちゃん、カルマと渚くんが並んで歩く。

 

「次はどうしようね〜、アミサちゃんは何か食べたいのある?」

 

「私、わたあめ食べたいな、袋入ってなくていいから大きいの……!」

 

「あ、ならあの店とかどう?あっちの店より50円安い!」

 

「ホントだ……!夜店1つで値段ちがうんだね」

 

 夜店って意外といろんなのあるんだね……興味のある夜店を見つけて駆け寄っては見てまわり、時々男の子2人(カルマと渚くん)をおいてけぼりにして、私たちだけで盛り上がっている時さえあった。

 

 さっき、ちょこちょこ設置してある休憩用のベンチでラムネを飲んでる有希子ちゃんとメグちゃんにあったし、浴衣姿の女の人を撮ってた岡島くんに私たちの4人での写真をお願いすれば、プロのカメラマンさんのように姿勢やポーズをいくつか指示をしながら何枚か撮ってくれた。

 こんな感じに結構お祭りっていう非日常でも、ほぼいつも通りの過ごし方をしているクラスメイトもいれば、

 

「どうしたの、2人してへこんで」

 

「射的で出禁食らった……」

 

「イージー過ぎて調子乗った……どうしようコレ……アミサ、欲しいのある?」

 

「わ、お人形さんいっぱい……ふわふわのある?」

 

「……左手のあたりにあった気がする。あげるから取って」

 

「真尾、できれば俺のも貰ってくれ……そろそろ落とす」

 

「!お、落としたらかわいそう……!」

 

 という感じに、普段から射撃成績のいい千葉くんと凛香ちゃんの2人が、景品を尽く撃ち落としすぎて射的から出禁になるという事態を引き起こしていたり(凜香ちゃんからふわふわな手触りのクマのぬいぐるみを、千葉くんからシャボン玉セットをもらった)、

 

「う、わ……磯貝君……なにその、ギッチギチに詰められて蠢いてるビニール袋……」

 

「金魚すくい!100円でこんなにもらえるのっていいよな!」

 

「磯貝、ほんと何でもそつなくこなすもんよー……」

 

「コツだよ、ナイフ切る感覚と似てるぞ。うち貧乏だし、これで1食分浮いたからありがたいわ」

 

「そっか」

 

「ふーん、そーなんだ……え、1食分?」

 

「…………、…………え?食うの!?!?」

 

 ナイフ術の感覚を金魚すくいに活かして大量にすくい、磯貝くんが袋2つ分いっぱいのギュウギュウ詰めで金魚をもらっていたりしていた。ちなみにそんなにたくさんどうするのかと思ったら、まさかの食用で聞いてた全員が絶句した……前原くんでさえありえないという顔をしている。

 磯貝くんは早速焼くか煮るか揚げるかって調理方法を考え始めてるけど、金魚すくいやさんだって誰だって、観賞用じゃないまさかの食べる用途だなんて思いもしないよね……そもそも金魚食べれるの……?

 

 暗殺技術の繊細な部分を活かして、悪気なく夜店を荒らして回っているE組の生徒たち。みんなの荒稼ぎに対して呆れた様子の渚くんまで、カエデちゃんと2人でヨーヨー釣りをしていて、足元には釣ったヨーヨーがたくさん転がっている……そろそろ踏んでしまいそうだ。

 

 ちなみに、まだ名前を上げてない私たちはというと。

 

「ねーぇ、おじさん。俺、今5000円使って全部5等以下じゃん?糸と商品の残り数から、4等以上が1回も出ない確率を計算すると……なーんと0.05%。本トに当たる糸あるのかな〜?おまわりさん呼んで確かめてもらおっか!」

 

「わ、わかったよ、金返すから、黙ってろ坊主」

 

「いやいや、返金のために5000円も投資したんじゃないのよ。ゲーム機欲しいなぁ〜?」

 

「……カルマ君はねちっこいな〜……」

 

「最初から大当たりはないって見抜いてたな」

 

 なんかキョロキョロしながらゲーム系の夜店を見ているな、とは思ってたけど、挑戦する人みんなが5等以下の景品をもらっていく糸くじのお店をしばらく観察してたかと思えば、ちょっと行ってくると一言いって挑戦しに行ってしまったカルマ。

 5000円使うまでは「あれ?」「次こそ…」とか言いながら、お店のおじさんの調子をうまくのせていき、その後はニコニコ怖いくらいの笑顔を浮かべながら、理詰めで見事ゲーム機をゲットしていた。ホクホク顔でゲーム機片手に戻ってきたカルマは、ゲーム機以外で取った景品を私たちに配り、満足したみたい。

 

「積まれた3段、5段のお菓子のタワー。途中で引っかかることなく、倒さず輪を入れられたら、その積んであるお菓子全部やるぞ!今のところ成功者はいないがな!」

 

「途中で引っかかっても倒してもダメ……」

 

「当てて倒すだけなら簡単だろう?運良く輪が入ってもタワーが崩れたら参加賞だけな。リスクを取らないなら引っかかるだけで貰える的を狙いな!」

 

「……えいっ」

 

「お嬢ちゃん、説明聞いてたかい?5つあるタワーそれぞれに数打ちゃとか全部倒れるのがオチ……」

 

 ───ヒュヒュヒュヒュヒュッ……

 

「「「…………」」」

 

「……、えと……店員さん、入っちゃった……」

 

「タワー一切崩さずに通しただと!?5つ全部!?」

 

「うん……」

 

「アミサ、手に持ったものを投げる的当て系はほぼ百発百中だもんね……」

 

「タワーにあたっても崩さない絶妙さと、下まで落とす勢いは殺さない力の調節も流石だわ……」

 

 私は私で、輪投げの屋台の内、みんながリスク過ぎると避けてたお菓子タワーに挑戦。輪を投げて当たってタワーが崩れてもアウト、運良く入っても途中で引っかかってもアウトという条件のソレは、途中で明らかに倒れやすく、重心がおかしくなるように積まれたお菓子のタワーまである。

 下まで輪がくぐらないといけないこと、倒しちゃダメの条件が厳しいのか、無難に欲しいお菓子を狙って(そっちは通らなくても引っかかってれば貰える)る人が多い中、私は店員のおじさんの説明もそこそこにお菓子タワー目掛けて輪を投げる。それはタワーにぶつかったかと思えば、全てすんなり下までくぐってしまった……あれ、簡単では……?

 

 口をあんぐり開けた店員のおじさんが、崩れずに立っているお菓子タワーと、投げた私を交互に見てるけど、ルール上お菓子タワーはもらえるよね?無事に貰えることになったけど、こんなに要らなかったかも……後でみんなと集合した時に配ればいっか。

 

「さて、そろそろいい時間だし神社に行こっか」

 

「うん、花火が見やすいようにするから気にせず来いって殺せんせー言ってたけど、どうする気なんだろうねー?」

 

 全員お目当ての夜店は全部まわれたし、そろそろ花火もはじまるから殺せんせーがいってた待ち合わせ場所である神社へと足を進める。

 私は、本当に大きく作ってもらえたわたあめを左手に持ち、帯にさした凛香ちゃんにもらったクマさん、右手に持った巾着カゴからのぞいているカルマが分けてくれたワンちゃんのぬいぐるみ、輪投げでもらった大量のお菓子が入ったビニール袋を両手にかけて軽く揺らしながら置いていかれないように早足で進む。

 

 浴衣って足を前に出しにくい……。慣れない歩幅に四苦八苦しながら歩いてるんだけど、みんなとだんだん、少しずつ空いていく間隔……頑張って足を進めても追いつけないそれに焦っていると、ゲーム機を抱えたカルマがふと振り返って足を止めた。

 渚くんとカエデちゃんはカルマが足を止めたことに気づかなかったみたいでそのまま進んでいく。やっと待っていてくれたカルマには追いついて、足を止めた彼に合わせて立ち止まると、頭上から大きなため息をつかれた。

 

「はぁ……もう、追いつけないなら声かけなよ、あと少し気付くの遅かったらはぐれてたよ?」

 

「う……だって、私が足遅いのがいけないんだし……」

 

「遅いなんて思ったことないけど?今日は浴衣だからアミーシャには馴染みがなさすぎて歩きにくいし、仕方ないっしょ」

 

「……それは、そう、だけど……」

 

「ん、一袋貸して。……ゲーム機結構でかいからさ〜、その手のヤツ、手首に掛けれるお菓子の袋以外はどれか持ってやるってのできないからなんとか頑張れ」

 

「えぇぇ、私のなんだからカルマが手ぶらでもちゃんと自分で持つよ……って……、……カルマ、集合場所こっちだっけ?」

 

 カルマに追いついた時には、渚くんもカエデちゃんも夜店を行き交う人の多さに姿が埋もれて、どこにも見えなくなっていた。

 

 私が追いついたのを見計らって、さっきよりもずっとゆっくり……話しながら私の歩調に合わせて歩き始めた彼に合わせて、私も転ばないようにいつもの服装の時より少しゆっくり歩く。……歩幅、というか歩調を合わせるってこんな感覚なんだ……内心少し変なところで感動していると、周りが静かになっていることに気づいた。

 殺せんせーの言ってた集合場所ってここまで人通りが少ないとこだっけ……?E組の人たち、みんないないし。

 

「ん?あぁ……別行動しようと思って」

 

「え、でも、私たちいなかったら心配かけちゃうんじゃ……一応企画したの殺せんせーだし、」

 

「渚君にメッセージ送っといたからへーきっしょ。タコは今、俺等E組が荒稼ぎして店仕舞いした店の跡地に新しく店立てて夜店やってるよ」

 

「へーき、ならいいのかな……?ていうか私たち、先生のお小遣い稼ぎのお手伝いになっちゃってたんだね……」

 

 話しながらも足は動かし続ける。私たちの歩く場所は少しだけ坂道になっていて、木の階段はあるけど舗装されていない道は細く、まわりは木々に囲まれている……どこに向かうんだろう。

 

 そう思いながら迷いなく歩く足取りについていけば、人もまばらになってきた頃、私たちは周りを木に囲まれた場所から一気に開いた高台に足を踏み入れていた。

 この場所に人はほとんどいない……祭りの喧騒をBGMにして、眼下には椚ヶ丘市の街明かりが広がっている。手招かれた先にはいくつかベンチが設置してあったから、空いているところに並んで腰掛け、大量の景品を置いて、そして、

 

 

 

────ヒュルルルルル……ドォン……

 

 

 

 いくつもの大輪の花火が、様々な光の色に彩られながら、私たちの正面の夜空に打ち上がった。

 

「う、わぁ……すごい……こんなにキレイに見えるんだ……!」

 

「……本トはさ、昨年連れてくるつもりだったんだ」

 

 見たこともないくらい、視界を何にも邪魔されないキレイな花火に目を向けていると、大きな打ち上がる音に隠れて隣から小さく呟くような声が聞こえた。

 私に話しかけようとしてるのかな……話を聞こうとカルマの方を見てみたけど、彼は花火の方を見てて……これ、特に私に聞かせようとしているというよりは……だから、私も花火に視線を戻した。

 

「中一の時は神社から見たけど、木が邪魔してて見えないのもあったし、来年こそはって渚君と一緒に探したんだよ。……でも、中二のこの時期くらいから俺と渚君が疎遠になって、こうやって夏祭りに来ることもなかったから」

 

「…………」

 

「だから……もしかしたら、最後の夏祭りになるかもしれないし、絶対に連れてきたかった。……ま、最後になんて、するつもりは無いけどね」

 

 そう言って彼はベンチの背もたれに体重をかけたのか、ギッと軽く木の軋む音がした。それ以降、無言で花火を眺める私たちの間に、それ以上の言葉は何もなく、ただ、花火が打ち上がる、ドーン、パラパラパラ、ドーンという音だけが響いていた。

 

 多分、彼は私の返答を求めてるわけじゃないと思う……もう1度カルマへと目を向けてみたけど、私には一切視線を向けず、まっすぐと打ち上がる光の花をじっと見つめているから。

 ふと右手が暑くなったように感じて視線をやると、カルマの左手が私の右手に重なって、少し強く、簡単には解けないように力が込められていて……手をそのままに、大きく輝いては儚げに消えていくその光を再び見つめながら、呟いた。

 

「夏休み……こんなに忙しくて、こんなに楽しかったの、私、はじめてだったよ。……このままみんなと、カルマたちと一緒にいられたら……」

 

 ──それができたら、なによりも幸せ……なんだけどな。

 

 

 

 

 

 夏休みも今日でおしまい

 

 明日から二学期がはじまる

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「渚、茅野さん、こっちだよ!」

「神社の屋根に殺せんせーが上げてくれるって」

「罰当たりじゃない!?」

「バレなきゃ問題ないって!……あれ、カルマと真尾は?」

「え、……あれッ!?はぐれた!?」

「いつの間に……アミサちゃんだけならともかくカルマ君まで……ん?通知……あー、そういえばそうだっけ……」

「渚、1人で納得しないでよ……」

「ごめんごめん、……昨年、僕等のせいで連れて行けなかった場所で花火を見せてやるんだってさ」

「渚たちのせい……?」

「お、ちょっとは進展するんじゃね?」

「……人気のない所じゃないわよね?」

「え!?あー……うん、入口が狭いとこだから、ほとんどの人は気付かない場所にあるね……だいぶ前にできた展望台らしくて、抜ければ広いんだけど」

「!!!?!?」

「メグちゃん落ち着いて!」

「本当にメグちゃん、アミサちゃんの保護者だよね」

「アミサ限定のね」

「だってあの子危なっかしい……!女子にも保護者がいたっていいでしょ?過保護上等よ!」





「あ、きた」

「アミサ!気分悪いとかそういうのない!?」

「え、ど、どしたの、メグちゃん……?」

「アミサちゃん、スパッツはいてるからってスカートなのにジャンプするわ捲ろうとするわ、慣れた人には疑いなくついてくわで危機感薄いから、メグちゃんそれが不安なんだよ……」

「危機感……?……私、ホントに危なくなりそうなら、E組を頼るつもりだよ?アミサは、ひとりぼっちじゃないもん。みんな、いるから」

「もう……ほんと癒しの小動物……!」

「……虫は私達が払うから」

「最強です仕事人」

「でも、自分で危機管理できるように私達も頑張ろう……」





「片岡さん、俺が何かした前提で話すのやめてくれないかな……」

「お前はこっちな、あっちは女子が話す」

「お前等こうやって別々に話聞くの好きだよね……」

「カルマ君、こうでもして聞かないと暴走しそうだか
ら」

「前科があるしな」

「………(否定出来ない)」

「それで?少しは進展したか?したよな?!」

「チューくらいはしたか!?」

「特に何も」

「「「特に何も!?」」」

「ヘタレだなお前……」

「仕事人、明日校舎裏な」

「拒否する」

「2人っきりで、花火だぞ……!?絶好の夢のシチュじゃねーか!!」

「そのまま雰囲気に持ってけよ!」

「うるさいよ、変態に浮気5回」

「「おい!」」



+++++++++++++++++++



夏祭り編が終了……これで夏休みも終わりです。
原作では浴衣を着ていなかった数人にも、アニメでは着てたし……で、このお話では着てもらいました。オリ主が矢田さんからもらったメッセージは、『殺せんせーに聞いたけど、お祭り来るんだよね?お祭り行く女子集めて、ビッチ先生が着付けとかしてくれるらしいから一緒に行こ!』というようなものです。きっと髪型とか帯の結び方で工夫が凝らされているに違いない!

では、次回からは2学期です!

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