暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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ついに、UA120000突破しました……!
お気に入りやしおりなどで、この小説を追ってくださっていること、好きであることを伝えてくださる皆さん、ありがとうございます!

今後も甘く、苦く、日常と非日常なお話を書いていくので、感想や評価をよろしくお願いします!






《中学3年生》【第一部】二学期~三学期編
61話 竹林の時間


 

 夏休みが終わり、今日から2学期が始まる。

 

 長い休みを挟んでいるから、心も身体も元の生活リズムに戻さなくちゃいけないし、休み中、自分から関わりにさえいかなければ、本校舎の生徒との確執を考える必要はまるでなかった。

 でも、学校生活がまた始まるということは、避けては通れないものもあるわけで……何が言いたいかというと、E組での生活に戻る前に行われる行事があるということ。つまり、全校生徒が集まる、始業式に出なくちゃいけない。

 

「はよーっす渚!」

 

「おはよう杉野、……ネクタイ緩んでるよ」

 

「あ、わりーわりー……っと、ロードワーク代わりに旧校舎まで走って、ちょっと投げてきたんだ」

 

 1年折返しとなる9月、E組にとって自分たちが貶められる最悪な行事でしかなかった全校集会を、自信をもって前を向いて過ごせる行事へと様変わりさせてしまった殺せんせー……その暗殺期限まで、あと6ヶ月。

 この始業式を終えたあとから私たちは、椚ヶ丘中学校の3年生であると同時に、たった1人の標的(ターゲット)を狙う暗殺者へと戻ることになる。

 

 どこのクラスよりも先に並ばなくちゃいけない、というE組にだけ課せられたルール通り、私たちは整列してるわけだけど……むしろ早く集まったからこそクラスでおしゃべりができることに気がついたから、あまり気にしないで私たちは進んで整列していたりする。私語までは制限されてないからね。

 ……ちなみに1学期末の全校集会にもちゃんと来てたけど、始業式にもカルマはサボらずに来てる。なんか負けた気がするのと、やる気がある時には来とかないと後から聞かされて後悔する気がするからだって。……どっちもよく分からない理由だった。

 

 続々と本校舎の人たちが体育館に入ってくる中、私たちなりに始業式が始まるのを待っていたら、

 

「ひさしぶりだなぁ、E組ども」

 

「ま、お前等は2学期も大変だと思うがよ」

 

「メゲずに頑張ってくれや……ギシシシシ」

 

 浅野くんを除いたA組の代表格である五英傑の人たちが、なんだかニヤニヤとした笑顔を浮かべながら、わざわざ端っこのE組まで来て馬鹿にするような言葉をかけに来た。まともに取り合う人はいないけど、E組勢は総じて「うわぁ、わざわざ……」という気持ちである。

 4人の内何人かはこっちに来るのわかるよ?生徒会役員だから仕事のためにE組の横を通ってステージに向かうのも普通だから……あとの人はなんでなんだろ。

 

 4人がまとまってステージへと歩いていくのを陽斗くんいわく「休み明けから縁起悪い」とみんなで見送っていると、思い出したように足を止めた榊原くんが、1人だけグループから外れてこちらに歩いてきた。

 まっすぐ私の近くまで歩いてきたため、きょとんとしながら見上げると、彼は何の企みも浮かべない真っ直ぐな目線で微笑んだ。

 

「……真尾さん。夏休み中、○○に行ったらしいね」

 

「!……なんで知ってるの、ですか?」

 

「浅野君が、君が喜んでくれたと嬉しそうに話してくれたからさ。また、時間がある時でいいから付き合ってやってくれ。君の話をする彼は機嫌がいい……僕達のリーダーが嬉しそうだと、A組の士気も上がるからね」

 

 それだけ言って榊原くんは、邪魔してすまなかったね、とE組に声をかけて軽く目礼すると、足を止めている他の五英傑の元へ合流しステージへと歩いていった。

 E組のみんなは、ううん、今の光景を見ていた他のクラスの人もだけど、何が起きたのかわからないという表情で固まっている……だって、A組を代表する1人がエンドのE組を蔑まずに目だけとはいえ敬意を示したんだから。

 

 だけど、1学期の終業式の時の時点で、彼1人だけはすでに私たちを認めてくれていた……だから、そんなに驚くことでもないと思うんだけどな……

 少しの間E組付近は不思議な沈黙に包まれていたけど、ハッとしたように私を振り返って私の肩を掴み、結構大きく身体を揺さぶり始めた優月ちゃんをきっかけにざわざわした空気が戻り始めた。

 

「ちょ……アミサちゃん、休み中に何やらかしたの!?」

 

「E組に対してじゃなくて、完全にお前個人に話しかけに来てたよな!?」

 

「な、何もやって、ないよ……っ!ただ、浅野くん、に、ブックカフェ、連れてっ、てもらった、だけで……っ」

 

「やりおるな浅野……!」

 

「浅野も動いてんだな、俺等の知らないうちに」

 

「ていうか、先頭から飛んでくる殺気が怖ぇ……」

 

「カルマも知らなかったんだな……」

 

 私が珍しく本校舎の人を相手に怯えも逃げもせずその場で話すことができているってことで、夏休み中にE組が知らない間に何かあったんだろうと断定されたみたい。……私、今回は、ホントに何もやってないよ……なんで私がなんかやらかした前提で疑ってくるの……

 だから誰か、もうすぐ式が始まるのにE組の列の先頭から殺気を飛ばして今にもこっちに問い詰めに来そうなカルマを何とかしてください……

 

 そんなどうすればいいのかよく分からない空気が流れる中、始業式は始まった。

 

 1学期の終業式のように校長先生が主導するE組いじりはウケが悪く、全校生徒どう反応したら正解なのか……な、微妙な空気になってたけど、それを払拭するかのように野球部の都大会準優勝という報告に体育館は盛り上がる。進藤くんもステージの上で誇らしげな表情をしていて……きっと、球技大会の後から、さらに努力を重ねたんだろうな。

 野球部が降壇するのに合わせて拍手をし、これで今日の始業式のプログラムもおしまい……かと思っていたら、ステージの真ん中のマイクの前に、進行をしていた五英傑の1人……の、誰かが準備をし始めていた。誰だっけ、あのメガネの人……メガネの人五英傑に2人いるけど。

 

 

 

「……さて、式の終わりに皆さんにお知らせがあります。今日から3年A組に1人、仲間が加わります……昨日まで、彼はE組にいました」

 

 

 

「「「!?」」」

 

「しかし、たゆまぬ努力の末に好成績を取り、本校舎に戻ることを許可されました」

 

 ……その、壇上の彼が話す口上を聞いて、私の頭の中にはある場面か思い出されていた。

 

 

 

〝毎年、この時期になるとE組の生徒の中で成績が飛躍的に上がった者、もしくはE組の中でも特に成績が優秀な者にはE組脱出の打診がされる……真尾さん、君は今回のテストで学年4位、前回の成績をキープしただけでなく順位を上げただろう?それで勧誘の対象になったんだ〟

 

〝そう、だったんだ……〟

 

〝……君に免じて、少しだけ情報をあげよう。この勧誘はE組トップだけが対象というわけではないらしい……君には僕が聞きに来たが、普通なら理事長自ら聞きに回るからね〟

 

 

 

「では、彼に喜びの言葉を聞いてみましょう……竹林孝太郎くんです!」

 

 ……そうだ、私は事前に教えられていたことだった……浅野くんは確かに言っていた。A組への勧誘、並びに本校舎復帰の打診は、E組トップの生徒だけが対象じゃないということを。

 私自身がE組を抜けることを考えていないからって、他の人が同じようにその勧誘を受けてE組を抜け、本校舎に戻ることを選ぶ可能性を、私は、考えることができてなかった。だから、私自身に勧誘があったことも、その『もしもの可能性』についても、誰にも話してなかった。

 

『───僕は、4ヶ月余りをE組で過ごしました。その環境を一言で言うなら……地獄、でした』

 

 マイクの前に立ち、竹林くんは原稿だと思われる紙を開く……そして、読み上げた文章はありえないものだった。E組での生活が、地獄のようだった……なんて。

 

 クラスメイトにやる気が見られない?───じゃあ、飛躍的に伸びた成績や、毎日のように受験とは関係ない暗殺に向き合うみんなはなんなんだろう。

 

 先生たちがサジを投げた……?───逆だ。本校舎にいた頃は成績不振、素行不良、校則違反、異端な特性……それらを理由に先生が向き合おうとしなかったのに、E組の先生たちは手を替え品を替え、向き合い続けてくれている。

 

 ……全部、全部嘘の言葉だ。確かに環境そのものは天国ではないだろうけど、それ以外は地獄と言われるほどのことはなくて……

 私たちがありえないようなものを見る目で彼を凝視する中、手元の原稿を読み上げて壇上で一礼した竹林くん。私たちだけじゃなくて、本校舎の生徒たちからも彼へ向けられた視線は、いきなりのことに対しての困惑、怒り、疑問、そして……得体の知れない、恐怖。

 それらを見ないようにしながら、舞台袖へと戻ろうとした彼に対して、1つの拍手が向けられた。

 

「おかえり、竹林君」

 

 生徒会長である、浅野くんが先陣を切り、竹林くんを本校舎へと迎え入れる……この椚ヶ丘中学校の絶対的なリーダーが認める人物を、本校舎の一般生徒が認めないはずがなかった。最初は1つだけだった拍手が釣られるように連鎖し、次第に大きなものへと変わっていく。

 「おかえり」「よく頑張ったな」「偉いぞ」「お前は違うと思っていた」……E組以外の全校生徒が、彼を認めている……それは、本人にとっても、仲間としても嬉しいこと、のはずだ。だって、竹林くんは確かに努力してきたし、確かに成績をしっかりと伸ばして結果を残して、その実力が認められたということだから。

 

 

 

 

 

 ……なのに、私たちにまったく喜べない気持ちばかり湧いてくるのは……E組じゃなくなった途端に手の平を返す、本校舎の人たちの姿を、そして、竹林くん自身の……別人のような姿を見てしまったからなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始業式が終わり、無言のままE組の教室に戻ってきた私たちに湧いてきたのは式の最中と同じ、困惑と、怒りの感情だった。

抑えきれない感情を黒板にあたってなんとか発散させようとしてる陽斗くん。言わされたにしては『地獄』だなんて、信じられない言い方を平然と言いきった竹林くんに文句を言う木村くんとひなたちゃん。竹林くんの成績が上がったことは事実、だけどそれは、先生たち、特に殺せんせーが、私たちのことを考えて教えてくれたからこその結果だと言うメグちゃん。みんな、何が起きたのか分からない、認めたくないって気持ちでいっぱいだ。

 

 言われっぱなしで私たちE組には誰1人として相談されてなくて、このままアレが本心なのかもわからない状態のままなのは嫌だ、ということで、放課後竹林くんが本校舎から下校するタイミングを見計らって話を聞いてみることになった。

 わらわらとみんなは自分の席についた。1時間目には本校舎でいう夏休みの課題テスト……E組の場合は殺せんせー特製・個別課題プリントを解く授業があるから、その準備をし始める。

 

「………………。」

 

「何考え込んでんの」

 

「……私は、元々本校舎には居たくなかったから、きっとみんなとはE組とか、本校舎復帰に対する思いが違うけど……普通、E組に来たら『私たちには先がない』『抜けられるなら抜けたい』って思うのが当然なんだよね……?だから、竹林くん(友だち)の本校舎の復帰は、ホントだったら喜ぶべきことなんだよね?……なのに、あんな嘘だらけの言葉……全然喜べない……それに、……」

 

「……それを、放課後に確かめに行くんでしょ。ほら、今は準備しな」

 

「……うん」

 

 ……それに、素直に喜べないのは、私が事前にこうなるかもしれないって知っていたことを、みんなに言い出せなかった後ろめたさからきてるのかもしれない。

 でも、実際竹林くんは期末テストで学年7位なんて好成績だったんだから、本校舎復帰の条件はクリアしていた。だから、理事長先生の手が入ってるんじゃなくて、自分で考えて、自力での復帰なのかもしれない。……でも……。

 

 ……ぐちゃぐちゃ考えても仕方ないや。みんなで聞きに行くって言うなら放課後わかることだし、今は私のやるべきことをやろう。

 引き出しから出した夏休みの課題冊子を開いて、これからの課題プリントに向けて復習していた私は、隣の彼が私の説明下手な言葉でも言いたかったことを、意味を悟って何やら考えていることに気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、竹林!」

 

 待ち遠しかった放課後の時間。多分、A組の人なんだろう……竹林くんが一緒に本校舎から出てきたところを見る限り、元E組であっても、本校舎の人とうまく馴染めているみたいで、そこは少し安心した。

 通学路の分かれ道で1人になった竹林くんを、話を聞きに来たメンバーで呼び止める。彼も私たちが来るってことをなんとなく察していたみたいで、特に何も言うことなくついてきてくれた。

 

「説明してくれないか……どうして一言の相談もないんだ?」

 

「何か、事情があるんですよね?夏休み旅行、竹林君がいてくれてすごく助かったし、普段も一緒に楽しく過ごしていたじゃないですか!」

 

「賞金100億……殺りようによっちゃもっと上乗せされるらしいよ。分け前いらないんだ、無欲だねぇ」

 

 磯貝くんが、E組に相談したり頼ったりしてくれなかったことへの説明を求める。愛美ちゃんが、今までの関わりからでは信じられないとばかりに事情を聞く。カルマが、わざと賞金の話を持ち出して煽る。

 それらは全部、竹林くんのことを咎めるものではなくて、ただ、私たちの誰もが知らない間に大きな決断をして、いなくなってしまったクラスメイトを心配しているがゆえ……そう、何もわからないままじゃ、竹林くんの選択だとしても応援しようがないから。

 

 静かに聞いていた竹林くんは眼鏡を押し上げると初めて口を開いて、小さく呟いた。せいぜい10億、と。

 

「僕単独で100億ゲットは絶対に無理だ……集団戦術でも、そのために手伝いができたとして……僕の力で担える役割じゃ、10億がいい所だね」

 

 そして竹林くんは続ける。代々医者の家系である彼の家では、10億という金額は働いて稼げてしまう金額なのだという。普通の家庭からすれば驚くような金額でも、彼にとっては『当たり前』に手に入る世界であって、特別でも何でもない。

 その家の中では『できて当たり前』『優秀で当たり前』……世間一般では十分すぎる実力があっても、その家での当たり前をこなせない竹林くんは家族に認められなかった。……だからこそ、家族に認められたい、そんな悩みをずっと抱えていたんだ。

 

「僕にとっては地球の終わりよりも、100億よりも、……家族に認められる方が大事なんだ。だから、」

 

「……ねぇ、竹林くん……A組への復帰って、自分で言い出したの……?」

 

「…………えっ」

 

「もしかして、だけど……理事長先生から打診された……?」

 

「……え、……そう、だけど……なんで、」

 

 話は終わりとばかりに背を向けようとした竹林くんの言葉を遮って、私は声をかける。……大人しい愛美ちゃんがみんなの前に出て声をかけた時もみんなビックリしてたけど、私がいきなり声を上げたのにも驚いている人がたくさんいるのがわかる。

 それでも、私は彼から目をそらさないよう、まっすぐと見つめた。どうしても、確認しておきたいことがあったから……

 

 多分、竹林くんはどうやってA組へ編入したのかは誰も知らないと思っていたんだろう、狼狽えたようにぎこちなく返事をした。……私だって、実際に自分が誘われてなかったら知らないままだったと思う。

 

「……夏休み中、私も本校舎へ復帰について、A組への転級について……理事長先生の代理で浅野くんから声、かけられてたの……その時、例年この時期に理事長先生からの打診があるって教えてもらったから……もしかしてって思って……それで、その、えっと……」

 

 どうしよう、言おうとした途端に言葉がまとまらなくなってきた。竹林くんは私の言葉の続きを待ってくれている、それでも、このまま続けられないと聞いてもらえなくなってしまうかもしれない。

 ……それよりも、私なんかの言葉が彼に届くのだろうか、ちゃんと言いたいことは伝わるのだろうか、アレ言いたいと思ってたこと、なんだっけ……焦って次の言葉が出なくなっていく感覚に、思考は余計に焦っていく。伝えなくちゃ、なんていえば、……その時。

 

 

 

 ───ポン、と。

 

 

 

 軽く後ろから背中に手を置かれた。チラ、とそちらを見てみれば、カルマが頷く……すっと、焦ってごちゃごちゃになっていた頭の中が晴れていく。1度軽く息を吸いこんで、もう一度まっすぐ竹林くんを見れば、彼はちゃんと待ってくれていた。

 

「……私は、竹林くんが決めたことなら、なにも言わないよ……本校舎で頑張ることも、応援してる」

 

「真尾ッ!」

 

「でもっ、……これだけ……1つだけ言わせて。『家族に認められたいって思う竹林くん』じゃなくて、『竹林くん』は……どこにいるの?」

 

「……え、」

 

「竹林くんが家族に認められたい気持ちはホントだと思う……家族に認めてもらう手段として本校舎に復帰するのは、目に見えて大きな成果だから……いい手段だと思うの。そこは私も肯定できる」

 

「…………」

 

「だけど、あの始業式の演説の中身は、嘘を嘘の気持ちでねじまげた言葉しかなかった……きっと、竹林君が考えた文じゃないんだよね?それで理想の場所に自分を置いたら……嘘で固めた場所にいたら、竹林くん自身は……つらくない……?それだけ、言いたかった」

 

「……っ、そう、なら僕は行くよ。……君たちの暗殺が上手くいくことを祈ってる」

 

 あの演説の時に読んだ原稿……あれは嘘ばかりの文章を淡々と読み上げるただの作業でしかなかったから……竹林くんの心からの言葉ってことは絶対にない。

 だから、家族に認められることを願っている、家族からの評価を大切にしている竹林くんではなく、誰かに言われたことじゃない……竹林くんがどうしたいっていう欲に、自身の気持ちに向き合って欲しかった。

 自分の気持ちに向き合って、考えて……それでもA組に残って頑張るというのなら、みんなが認めきれなくても私は応援するつもりだ。

 

 言いたいことを言いきって、でも、私の言葉に対して答えてほしいわけじゃないから返事を待たずに1歩下がる……それを見た竹林くんは、私が話し終わり、そして返答を求めてるわけじゃないと察したのだろう。E組の暗殺に対する激励とともに今度こそ去っていった。

 

「ま、待ってよ竹林君、」

 

「……やめてあげて、渚君」

 

「……神崎さん……」

 

 渚くんが諦めきれずに追いかけようとしていたけど黙って成り行きを見ていた有希子ちゃんに止められていた……簡単には剥がれてくれない親の鎖、それに縛られて身動きが取れなくても、すぐにどうにかできるものではないから……と。

 

 親の鎖、家族の鎖、か……私にも、巻きついてるんだろうな。……ぎゅ、と服の胸のあたりを握りしめる……少なくとも、今のまま歩み続けるのなら、私も、彼らと同じなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 E組トップクラスの成績をとった生徒が、自分の意思でE組を抜けることを選び、A組へ移籍した……この事実は、E組本来の現状を思い出させるには十分すぎることだった。この学校でE組生である私たちは、どんなに努力して頑張ってもE組(ここ)にいる限り、二軍選手でしかないということを。

 どうすればいいのか、いい案も浮かばないし……かといって、もやもやした気持ちを晴らすこともできなくて、教室の中には、暗い空気が広がっていた。

 

 ───ガララッ

 

「おはようございます」

 

「……なんで真っ黒?」

 

「忍者となるべくまずは形からと思いまして。急遽アフリカで日焼けをしてきました。これで人混みに紛れても目立ちません!」

 

「恐ろしく目立つわ!」

 

「また真っ黒殺せんせーだ。……殺せんせーって、やることなんかたまにズレてるよね」

 

「……それ、まんまアミーシャにも言えるってことわかってる?」

 

「…………へ?」

 

「……うん。そーだよね、そういう反応するよね……」

 

「「「(あれ、絶対わかってないな……)」」」

 

 そんな空気をものともせずに教室へ入ってきた殺せんせーは、沖縄旅行の時のように前後がわからないほど真っ黒に日焼けしていた。目立たないためにわざわざ日焼けしてきたって……闇に紛れるためならまだしも、人混みに紛れるってことは……昼間なんだよね?肌色の集団にそれは、ちょっと。

 そう思ったからそのまま口にしてみたのに、カルマが頭をぐりぐりと撫でてきて有耶無耶にされた。

 

 殺せんせーが何がしたいのかと思えば、A組に行った竹林くんを心配してのことだったみたい。いきなり新しい環境に入って馴染めるのかどうか……クラスが変わったといえ1度はE組として受け入れた殺せんせーの大事な生徒。だからこそ、見守る義務があるのだという。

 これは先生の仕事だからこそ、私たちは普段通りに過ごせばいいと先生はいうけど、昨日の思いつめた様子の彼を見てしまったから、放っておくことなんてみんなにはできなかったみたい。

 

「俺等も様子見に行ってやっか。なんか危なっかしいんだよな、あのオタク」

 

「なんだかんだ、同じ標的暗殺しに行ってた仲間だもんなー」

 

「抜けんのはしょーがないけど、竹ちゃんが理事長の洗脳でヤな奴になっちゃうのはやだなぁ〜」

 

 E組のみんなは顔を見合せたあと、しょうがない奴だよな、なんて空気に、いつの間にか変わっていた。

 小さくてもきっかけさえあれば、仲間のためにみんなは割とすぐに行動に移す。いつの間にか結ばれた、1つの目標に向かって進む仲間意識、そして、この4ヶ月で育まれた絆があるからこそ。

 

「殺意が結ぶ絆ですねぇ……ではせっかくですから、烏間先生に教わったカモフラージュを使ってみましょうか」

 

「「「はーい」」」

 

 私たちが自主的に竹林くんのことを考えて動こうとしているのが嬉しいのか、ほんわかした笑顔を浮かべながら殺せんせーは頷いている。教室から1人いなくなっただけでもやっぱり少し寂しいけど……こういうところでみんな繋がってるんだって実感できる。

 

「後からカモフラージュ用の植物調達しに行くんだけどさ、アミサちゃんも行く?」

 

「あ、……ううん、私は行かない。昨日、私が言いたいことは伝えたから……あとは、竹林くんの意思に任せるつもり」

 

「そっか……何か分かったことあったら連絡するね」

 

「ありがと、渚くん」

 

 わいわいと盛り上がっている集団から渚くんが抜け出してきて、私にも一緒にいくか聞きに来てくれた。昨日、私も前に出て話しかけて、竹林くんのことを気にしてたからだろう……だけど、私は行かない。

 言いたいことは全部言ったつもりだし、『それだけ』って言った手前、見守るというかこれからどうなるかを待つのも大事かと思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺、竹林の方行くと思ってた」

 

 放課後、殺せんせーと一緒に何人かのクラスメイトたちが本校舎へと向かう中、私とカルマはいつも通りの帰り道を歩いていた。ただ、いつも通りなのは帰る道なだけで、カルマが私の家で夜ご飯を食べたいと言ったから、普段の分かれ道を過ぎても一緒だけども。

 はじめてのことじゃないから全然いいのだけど、私たちの間にはほとんど無言の空気が流れていて……あと少しで家、というところまで来てからポツリとカルマが呟いた。

 

「……なんで?」

 

「アミーシャさ、何かはわかんないけど竹林と自分重ねてるとこあるでしょ。だから、行かない選択をしたとはいえ、結構気にしてるんじゃないかなーって」

 

「……すごい、あってるよ。……カルマにはすぐバレちゃうね」

 

「言ったでしょ、俺はアミーシャが好きだって。好きだからこそ、そーゆーのに気付けるってもんなの。……で?」

 

「……っ……」

 

 告白されてから、カルマは私のことが好きだってことを恥ずかしげもなくハッキリ伝えてくるようになった。カエデちゃんは前からだーって言うけど、前まで私は気づけなかったから違うと思う……でも、ここまでハッキリ言われると恥ずかしいわけで、そっと視線を外す……ホントになんで気づくんだろう。

 

 このことについて欠片も話してないし、態度にも出したつもりもなかったから驚いて……それから空を見ながら少し考える。カルマなら、下手な説明でもわかってくれるとは思うけど、少しでも伝わりやすく……

 

「……竹林くんには、応援してるなんて言ったけどね……『当たり前』って信じてることを覆すのって、ものすごく苦しいことだから……だいじょぶかなって、心配はしてる」

 

「でも見に行く程じゃないって?」

 

「んー……なんていうか、その……混乱させちゃうかなって。応援しますって言ったのに、気になったから、心配だからって見に行くのは……なんか、違う気がしたの」

 

「……いいんじゃない?それも1つの選択、アミーシャがどうしたいかっていう意思なんでしょ。竹林にも納得した上で選んで欲しい……そういうことか」

 

「……うん」

 

「……ま、なるようになるっしょ……うちのお節介な先生と、お節介なクラスメイトが見に行ってんだしさ」

 

「……うん、きっと、だいじょぶだよね」

 

 結局は、竹林くん自身が流されてとか周りに言われてとかじゃなくて、納得して自分の意思で選んでくれたらそれでいいんだ。少しスッキリした気持ちで前を向く。もしかしてカルマは……私が変に考えこんでるのを気にしてご飯って名目で一緒にいてくれようとしてるのかな。

 

 明日はたしか、椚ヶ丘中学校創立記念日の集会があるはず……私たちが堂々と本校舎の生徒達と顔を合わせることができる数少ない機会だ。そこで、少しでもいい顔をした彼の姿が見れたらいい……そう思いながら、少しだけ早足にしながら隣を歩くカルマの手取って、そっと引いて歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、次の日。始業式と同じように竹林くんのいないE組のまま、創立記念日の集会は進行していく。A組の列を見てみたけど、彼の姿はなくて……始業式のようにステージ上へ現れた時には、何故か、何に対してかは分からないソレに、胸騒ぎがした。

 

「……竹林から殺気を感じる。何か、大事なものをめちゃくちゃに壊してしまいそうな……」

 

 ペコりと、静かに一礼した竹林くんを、今度は何を言い出すんだろうという期待とまたコイツが話すのかみたいな困惑の混じった本校舎の人たちが。竹林くんを心配するE組のみんなが不安そうに見つめている。

 

 また、手に持っている原稿の紙を開き、何度も迷うように深呼吸を繰り返す彼の姿を、じっと。

 

「……僕の、やりたいことを聞いてください」

 

 多少のざわつきがあった体育館が、竹林くんの声が響いて静かになる。聞いている人たちはみんな、次に続く言葉を待っているのがわかる……ある人はE組を蔑む言葉を、ある人は本校舎へ戻ってきたことを誇る言葉を、そしてある人はこれ以上何をする気なんだと訝しげに。

 私は、不安な気持ちだった。また、ただ原稿を読み上げているだけのように聞こえるのに、決意したような力強い何かをも感じていたから。それがいいものなのか、悪いものなのか……ここで、彼の本心は聞けるのだろうか。

 

「僕のいたE組は……弱い人達の集まりです。学力という強さが無かったために、本校舎の皆さんから差別待遇を受けています。……、……でも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はそんなE組が、メイド喫茶の次くらいに居心地いいです」

 

「「「っ!?」」」

 

 ……今の。

 

「……僕は嘘をついていました。強くなりたくて、認められたくて。でも、E組の中で役立たずの上裏切った僕を、級友達(クラスメイトたち)は何度も様子を見に来てくれた。先生は、僕のような容量の悪い生徒を手を替え品を替え工夫して教えてくれた。家族や皆さんが認めなかった僕のことを、E組の皆は同じ目線で接してくれた」

 

 体育館の中が一気にざわめきはじめる。それを気にすることなく、竹林くんは言葉を続ける……今度のスピーチでは紛れもなく、彼の、彼自身の本心からの言葉を。

 

「世間が認める明確な強者である皆さんを、正しいと思うし尊敬します。……でも、僕はもうしばらく弱者でいい。弱いことに耐え、弱いことを楽しみながら、強い者の首を狙う生活に戻ります」

 

「……撤回して謝罪しろ竹林!さもないと……っ!?」

 

 舞台袖から竹林くんを止めようとしたのか浅野くんが出てくる。それを遮るように竹林くんが取り出したのは……何かの盾、かな。それを見た瞬間に浅野くんが足を止めて驚いていることから、相当価値があるモノか、ここにはあるはずのないモノ、あってはいけないモノなんだろう。

 

「……私立学校のベスト経営者を表彰する盾みたいです。……理事長は本当に強い人です、すべての行動が合理的だ」

 

 ────パキィィン……

 

「浅野君が言うには、過去これと似た事をした生徒がいたとか……前例から合理的に考えれば、E組行きですね。僕も」

 

 制服の内側から取り出した、暗殺バトミントンで使っている木製のナイフ……竹林くんはそれで、躊躇なく盾を叩き割った。そんな竹林くんの表情は、始業式の硬い、思いつめたような悩み続けている苦しそうな顔なんかと全然違って……とても、スッキリしたキレイな笑顔だった。

 

 本校舎の生徒達はありえないという表情を隠しきれてない……当たり前だ、せっかく底辺で最悪な環境から戻ってきたというのに、それをドブに捨てるような行動をとったのだから。

 だけどE組のみんなは顔を見合わせてにっこり笑い合った……私たちの思いは、彼にしっかり届いていたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の体育の授業。

 いつもならすぐに準備運動、即訓練という流れなのに、今日は最初に烏間先生に集合をかけられていた。そして取り出したのは……トラップマニュアルから国家資格のものまで、分厚く確実に受験勉強とは関係の無い、暗殺のための参考書の山だった。

 

「2学期からは新しい要素を暗殺に組み込む。その1つが火薬だ」

 

「「「か、火薬!?」」」

 

「とはいえ、火薬はかなり危険なもの……1学期に寺坂君達がやったような危険な使用は厳禁。……君達も威力は見ているから知っているだろうが、真尾さんがエニグマの、特に攻撃術の使用を控えている理由の1つがこれだ」

 

 例に出された瞬間みんなが私を振り返った。そう、私がエニグマを補助目的以外であまり使わないようにしているのは、単に何度も使えないからというわけではない。強すぎる力は時に争いを生む……要するに、私が行使できる力というのは日常生活では危険すぎる。

 火薬は威力があるからこそ使い方を誤れば危険すぎる代物……これを例に出したのはみんなにも分かりやすかったみたいだ。

 

 そして、烏間先生は手に持った資料を全て暗記し、火薬の使用を監督できる生徒を1人募っている。

 1人が頑張れば全員の役に立つし、これからの暗殺に対してかなり強い力を手に入れることができる……でも、受験生という立場上、学校の勉強とはまるで関係の無い知識でもあるから、なかなか名乗り出ようとする人はいない。

 

 だけど、

 

「勉強の役に立たない知識ですが、まぁこれもどこかで役に立つかもね」

 

 みんなが目線をそらしていく中、たった1人だけ、前に進み出た生徒がいた。

 

「暗記できるか?竹林君」

 

「えぇ、2期オープニングの替え歌にすれば、すぐですよ」

 

 それは、E組の仲間として再出発を決意、目をそらすことなくしっかりと前を見つめた竹林くんだった。役たたず、そう言って諦めていた彼が自分から居場所を作り上げ、前に進んだ瞬間だったとも言える。

 

 そんな彼の堂々とした佇まいを見て、私たちには自然と笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 





「真尾さん」

「!」

「あの日、真尾さんがかけてくれた言葉……あれで考えさせられたよ。僕は、周りからの評価ばかり気にしていて、僕自身がどうしたいのかって意思が全然なかった。……いや、認められたいって意思はあったんだけど」

「……うん」

「……だから、ありがとう。今、すごくスッキリしてる」

「……最後のスピーチ、あれにはちゃんと竹林くんがいたよ。だから、きっともうだいじょぶ」

「そうだね、僕にしかできない役割もできたことだし……頑張ることにするよ」

「……うん!」

「……君も、」

「……?」

「……いや、きっとあんな考え方ができる君も、僕と同じだろう?……早く君も鎖から抜けられる道に気づけるといいなと思って」

「……………」





「ところで、アミーシャ。浅野クンと出かけたってどういうこと?」

「……えっ」

「いや、えっじゃなくて。まさかと思うけど2人きりじゃないよね?」

「え、と……2人だけど……」

「はァ!?それ、デートってこと気づいてる!?」

「…………えっ!?」

「あのさ、一応告白してきた相手なんだよ?もうちょい危機感持ってくんない?せめて俺とか誰か誘うとかさぁ」

「で、でも……そうだとしても、危ないことなんて……」

「…………まあ、それがアミーシャだもんね……、……俺がどう見てるか知らないくせに」

「カルマ?」

「…………なんでもないよ」


++++++++++++++++++++



竹林の時間。
親の鎖……この二次創作は「オリ主が定められた道を歩いている」ことが設定の1つなので、結構考える必要のあるお話でした。どこまでオリ主が共感するべきなのか、そして他のキャラクター達とどこまで絡ませてもいいかなど。


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