2学期が始まってから少しして、ここ何日かは1学期の学校生活と変わらない日常を過ごしていた。何か変わったことをあげるとするならば、体育の授業が『新しいこと』を学ぶというよりも『1学期に習ったことの発展』に取り組むようになったこと……かな。
みっちり1学期にやってきたおかげで基礎ができあがってる分苦労することはほとんどないんだけど……発展的な内容に取り組む分身体を使うから、いかんせん体力をかなりもってかれることになる。
「……今日も、疲れたね……」
「勉強に体育に、確実に1学期よりやることと学ぶ内容増えたしねぇ」
「だな、とりあえず腹減った……」
どのくらいかって例えるなら、杉野くんが帰りに「腹減ったから何か食ってこーぜ」言うくらい……分かりにくいかな……?今までだったらコンビニスイーツ位だったのが、しっかりご飯になったくらいというか……
あ、杉野くんの提案に便乗して、杉野くんよりも運動量が少ないはずのカルマと渚くんまで即答で行くって言うくらいだといえば伝わるかもしれない。私とカエデちゃんも例外ではなくて、口には出さなかったけど反対せずについて行くくらいにはお腹がすいていた。
『国が生産調整に失敗しちゃって、国内の鶏が増えすぎてなぁ……』
「え、あの卵捨てちゃうの?もったいなっ!?」
それは、私たちがお蕎麦屋さんでお腹を満たし、店内に設置されているテレビを見ていた時に流れたニュースがきっかけだった。
大量の卵が出荷されることなく廃棄されてしまう……そんな、もったいないけどどうしようもない社会事情についてで、卵は身近な食材だからこそ注目するには十分な話題だった。
『卵の値段も急落でさ、運送費の方が高くて出荷するだけマイナスなんだよ』
「ま……生鮮食品ではたまにあるよね、こーいう事」
「とは言うけどなぁ……」
画面を見てる、とはいってもあんまり興味なさげなカルマに対し、何とかなんないのかな〜と言う杉野くん……私も、アレはもったいないと思う。卵って栄養いっぱいあるから、あれだけあればいろんなことができそうなのにな。
ふと、食べている間もたくさんおしゃべりしていたのに、あのニュースが流れてから黙ってしまったカエデちゃんが気になって様子を見てみると……キラキラした笑顔でプルプルと震えていた。
「……カエデちゃん?」
「っ!わ、私、ちょっと調べ物ができたから先に帰るね!」
「え、う、うん……?」
ガタンッ、と椅子を倒す勢いで立ち上がった彼女はカバンを掴んで外へと駆け出していった……いきなりのことで止める暇もなかったけど、よ、よかったのかな……?お会計も先払いシステムだから終わってるし、問題ないっていえば問題ないんだけど。
──私たちは、まさかカエデちゃんがこのニュースをきっかけに壮大な計画を立てているなんてことを知るはずもなく、この行動の意味を理解したのはちょうど1週間後のことだった。
【3年E組(27)】
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・
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《カエデ:シルバーウィーク中にごめんなさい!
新しい暗殺について相談があるから
来週の土曜日、学校に集合してください!
烏間先生にも相談済で、準備のために
しっかり防衛省に動いてもらってる
大きめの計画ってことだけ伝えとくから
全員集合で!
持ち物はエプロンと三角巾、よろしく!
《カエデ:あ、アミサちゃんには個別にお願いがある!
個人の方に行くね〜!
◆
シルバーウィーク……本来なら学校のない、ゴールデンウィークのように祝日が続くお休みの日。だけど今日はカエデちゃんの招集によって、E組の教室にはクラス全員が揃っていた。ちなみに殺せんせーはお休みを利用して遊びに行ってるから不在……それもカエデちゃんがリサーチしたんだって。
議題はもちろん、あのニュースだ。
家がいろいろあって貧乏らしい磯貝くんも、あの事実にもったいない、むしろ俺の家に欲しいと訴えたくなるほど関心があったらしくて、ブツブツと何か言い続けている。他の人もチラホラと知っているという声が出ていた。
「と、いうわけで〜、廃棄される卵を救済し、なおかつ暗殺もできるプランを考えましたっ!」
「た、卵を暗殺に?」
「ケッ、メシ作って
マル秘計画書、と書かれたノートを手に説明するカエデちゃんに、寺坂くんが対先生BB弾を数個投げながら反論する。確かに、あれを入れた食事や砕いた粉末をまぶした食べ物での暗殺は試みた……というか、私とカルマと愛美ちゃんのお菓子作りはいまだに続いてて、定期的に『BB弾入りを見破れ、ロシアンルーレット』みたいなことはやってたりする。
先生、なんでか
……話がそれた。カエデちゃんはそんな反論に対して烏間先生の確認を取ったあと自信ありげに校庭を指さした。準備は整っているとのこと、……来た時には気づかなかったから、きっと校舎裏に何かあるんだろう……彼女に促される形でみんなが外へと出ていく。
はたして、そこにあったのは……
「こ、この形で卵ってことは……!」
「ふっふっふ……そう、今からみんなで巨大プリンを作ります。名付けて、『プリン爆殺計画』!!」
なんでも前に殺せんせーと2人で割り勘して、いろんな種類、メーカーのプリンを大量に買ってきて一緒に食べてた時に、自分よりも大きなプリンに飛び込んでみたい……でもお金ないから無理、っていう先生の証言を得ていたんだとか。だったらそれを叶えるついでに、私たち最新の暗殺道具である竹林くんの爆薬で、一気にドカンと暗殺しちゃいましょう!……と、思いついたんだって。
「……やってみる価値、あるかもな?」
「殺せんせー、エロとスイーツには我を失うとこあるもんな」
甘いもの、特にプリンが大好きなカエデちゃんらしい計画で、後方支援に徹してた彼女が前に出て主導するってこともあり、みんなが乗り気になっている。かくして、E組による、巨大プリン作りが始まったのだった。
◆
「プリン液に使う大量の溶き卵は、マヨネーズ工場の休止ラインを借りて割り、混ぜてもらったんだけど……ここから先は人の力でなくてはなりません」
大きなプリン型だからこそ、材料も大量……使う卵の数もそれはそれは多かったんだろう。ある程度のところまでは機械でやってあるため、ここに届いたところからは機械ではできない細かい作業ということになる。
よ、よかった……手作業で大量の卵を割る、なんて作業がなくてホントによかった。そんなことやってたら何日あっても足りないに決まってる。
「でもさカエデちゃん、前にテレビで巨大プリン失敗してたよ?大きすぎて自分の重みで潰れちゃって……」
「うん、だから混ぜる凝固剤はゼラチンだけじゃなくて寒天も入れるの。これで強度は増すし、ゼラチンよりも融点が高いから9月っていう暑い野外でも崩れにくいはず」
こういう作業ではやっぱり修学旅行の班ごとに分かれてやる私たち……ペアとか仲の良さとか考えて、1番連携が取れる少人数集団で、1番いい分かれ方ができる組み合わせだからね。
卵に混ぜる材料の種類や量を変えてプリン液を作り、下の土台になる固めの液の層からだんだん柔らかく軽い層になるよう順番に液を流し入れていく。
それだけじゃなく、プリンが大きすぎて途中で味に飽きないようにするため、フルーツなど味変わりのソースを入れる徹底ぶり……プリンの性質を科学的根拠をしっかり考えながら、ついでに食べる相手を思って味のことまで研究していて、ここまでのめり込むカエデちゃんにみんなが意外すぎると驚いている。
「よし、型にプリン液が満たされたら蓋をして、次は冷やす!ここまで大きいと内と外から冷やさないといけない……内側はパイプを通してその中を冷却水が流れる仕組み。外側も冷却装置がついてる……だけどそう簡単に冷えてくれるものじゃない、ということで」
「うん、私の出番だね」
言葉とともに私の方を見たカエデちゃんに応え、私はエニグマをかかげて前に出る。数日前、個別にとんできたメッセージで、彼女から大きなものを一気に冷やすだけの力があるかって聞かれていた。夏休みのホテルでの潜入
何に使うんだろうと思ってたけど、プリンを一気に冷やして、少しでも冷却時間を短くしたいっていうことだったんだね、納得。確かにここまで大きなものを冷蔵庫に入れて冷やすことは物理的に不可能だし、かといって冷却水を一晩中流し続けるのも大変……だから、水のアーツで強制的に冷蔵庫と同じ環境を作り上げる。
「近いと巻き込んじゃうからみんな離れててね、……いくよ?……エニグマ駆動……」
「お、真尾のアーツが見れんの?」
「そ、一気に冷やすならあのアーツしかないと思って!攻撃アーツでも対象が物ならアミサちゃんも躊躇無く使えるでしょ?」
「あのアーツ……?」
「あーアレな……潜入組以外は見た事ないよな」
「圧巻だもんなー……な、カルマ君?」
「よかったじゃねェか、対象は違うがリバイバルだぜ〜?カルマ君?」
「は、俺……?ていうか菅谷と寺坂に君付けされんの気持ち悪いんだけど」
「この用途で真尾が既に使ったアーツっていったら、お前のためにブチギレて使ったアレしかないだろ」
「俺のため……、……ッえ、茅野ちゃん!?!?」
クラスメイト全員がプリン型から離れたところでアーツの詠唱をはじめる。大きなプリン型を一気に冷やすから、もし表面に触ってたら、術者である私はともかくその触れてるとこまで一緒に凍らせることになっちゃう、それは危ない。
ひさしぶりに大きなアーツを見れるってことで、みんながワクワクしてくれてる中……1人、なんか大慌てのカルマがいるけど、とりあえずもう駆動準備は終わるんだよね……あ、そうだ……!
「……くふ、ぜーんぶ、氷漬けにしてあげる……解けた時が楽しみだね……♡凍れ、
───パキパキパキッ
「───!」
「「「おぉ……」」」
「これはこれで圧巻だねぇ〜」
「なるほど、冷却水を使う時間を短くするわけか……ちょっとは節約になるか?」
「で。……あの口元隠しながら固まってる奴は何に気付いたんだ?」
「潜入の時、カルマが敵を油断させるためにワザととはいえ顔面掴まれて捕まったんだけど、カルマを害されたからってその敵に真尾がキレてさ……その状況にそっくりなんだよ」
「……アイツら、お互い誰かに傷つけられるとその相手にキレてんの……?」
「その真尾は楽しそうというか……いや楽しそうなんだけどどことなく妖艶というか挑戦的というか……」
アーツの詠唱を終え、ふと、思いついた言葉をそのまま詠唱に乗せながら私がぺたりとプリン型へと手を触れた瞬間……触れた場所から一気に凍り始め、ソレは氷に覆われた……大きなプリンの形をした氷像の完成だ。1度凍らせたら基本このままほっとけばいいし、この氷を溶けそうになったら維持して、夜は冷却水の機械におまかせすればオーケー、と。
アーツは元々得意だから、私の欠点である出力限界を見極める練習だと思えばいい……戦闘では長時間使い続ける場面なんてほとんどないけど、せっかくの適性、使いこなせて悪いことはないだろうし。……限界の体力を見極めるのにもちょうどいい。
「ねーえー……なんでセリフまで若干再現させてるの……」
「カルマ君、あの時少し後悔してたでしょ?アミサちゃんの衝動とはいえ、自分のために中規模アーツを使わせて、アーツを使えなくさせたって」
「……っそれは……」
「普段怒らないアミサちゃんが自分のために怒るとか、アレはアレで嬉しかったと思うけど……本トの意味で役に立った事例もあった方が、ちょっとは後悔薄れるでしょ?」
「……気ぃ使わせちゃったね……」
「ま、ノリノリでやるって言ったアミサちゃんも大概だけどねー!何言うかとか指示してないし!」
「……え、アレ指示じゃなくて自主的に言ったの……!?」
「そこは自分で確認してくださーい」
「……、……くっそかわいくない……?」
「結局その感想に落ち着くんだ;」
そこまでやってしまえば、今日はもうやることはない。後片付けのできる備品は手分けして片付け、また明日と1人、2人と家に帰っていく。
今ここに残っているのは、ギリギリまで冷却要員として近くにいる私と、明日の朝までの引き継ぎをお願いするために指示を出して、今は休憩しているカエデちゃん、そんな私たちを家まで送ると残ってくれているカルマと渚くんくらいだ。
「やるねー、茅野ちゃん。鶏卵のニュース見てから1週間で、これ全部手配したの?」
「うん。……っていうか、前から作ってみたかったんだ。諸経費も防衛省が出してくれるし最高の機会だと思って……そうと決めたら、一直線になっちゃうんだ、私」
「茅野にこんなに行動力があると思わなかったよ。意外だし、楽しかった」
「明日の朝が楽しみだね……!」
あとは型を外して仕上げをすればいい……殺せんせーが帰ってくるまでに、なんとか完成させられそうだ。
計画書のノートを見せてもらったけど、カエデちゃんはこの計画を成功させるために、小さいプリンで実際に作ることでこの巨大プリンが崩れない製法を試し、いろいろな場所に問い合せて、たくさん試作を重ねていたことが書いてあった。まだプリン整形の1番の難関である、型を外す作業が残ってるけど……ここまで頑張って作ったんだもん、きっと成功するよ。
そろそろ私たちも帰ろうか、そんな流れになった時、思い出したようにカルマが私の所へと歩いてきた。
「……そーだ、いい機会だし……ねぇアミーシャ、そろそろアーツ切るでしょ?もう1回
「それって……エニグマ?でもカルマ、適正のある火属性アーツでも倒れちゃったでしょ……?」
「
「……ッ、また、そういう言い方……ッ……で、でもまたカルマが動けなくなるの見るの、ヤダし……」
「何回も使う内に体が慣れたりしないの?」
「何回も倒れる気なの……?うーん……属性縛りのない人ならいけるかもしれないけど、カルマは明らかに火属性特化過ぎて……私の導力器が使えたってことは上位属性にも適性はありそうだけど」
「いや、逆に別の属性だったらどうなるか試したい」
「えぇぇ……」
「……ここまで粘るカルマ君もカルマ君だけど、アミサちゃんがここまで嫌がるのも見たことない……」
「うん……あの時、動けなくなったカルマ君を知ってるから心配なんだよ。あと……物理的に動けなくなられると僕等じゃ運べないよねっていう」
「あー……うん。私達E組低身長トップ3だからね……」
何かと思ったら、エニグマ使いたいってことだった……当たり前のことだけど、使おうとして使えるほど簡単なものじゃないってこと、カルマは分かってるんだよね……?というか、実際精神力全部もってかれて倒れたよね……?いろいろ分かっててお願いしてるの……?
「ねぇ、またぶっ倒れたら俺の責任でここに放置したり恥を忍んで烏間先生召喚したりしてもいいからさぁ……、ダメ?」
「……ううぅ、……ずるい……っ」
「ありがと」
「あ、アミサちゃんが負けた」
「アミサちゃんってカルマ君に至近距離で見つめられるの、弱点になりつつあるよね……」
「自分だけを見てくる目にドキドキしたって言っちゃったからね……」
一応ちゃんと発動に成功してるわけだから使えることは証明されてるっていっても、心配しかないのにカルマは粘るし諦めないし……それでもなんとかめげずに頑張ってたのに、最終手段とばかりに、エニグマごと私の手を握りながら至近距離で目を合わせてお願いされて、もう折れるしか無かった……
仕方なく私は《ダイヤモンドダスト》を解除してからエニグマを手渡し、少しでも危険じゃないかつ火以外の下位属性魔法である水属性回復アーツ、《ティア》を使ってもらうことに。
「あの時はぶっつけ本番すぎたから、一応ね……アーツには決まった詠唱は無いの。自分の集中に入りやすい言葉を使うといいかなってくらい……あとは属性値の計算通りクオーツ選んで、導力エネルギーを引き出しながら体の中でシンクロさせて……魔法現象を展開する……癒しの涙≪
イメージを付けやすくするため、手渡したエニグマごとカルマの右手を握り、指でクオーツをなぞる。導力器の駆動者である私の足元から、これまでに何度も見てきた青い光が広がるとポウッとオーラのように立ち上って……一気に集束する。
その状態でカエデちゃんに向けて導力器ごと手を伸ばすと、カエデちゃんの周囲に回復の雫が生まれ落ちてきた。
「おぉ〜!なんか明日も頑張れそう!」
「カエデちゃん、今日の計画の功労者でしょ?……あと、手、傷だらけだったから……」
「え?……あぁっ!!試作中に火傷したところ治ってる!こういうのも消えるんだ……」
「うん、軽いケガくらいなら治せるよ。改めて、だけど、アーツはこんな感じ、……やる?」
「もちろん」
「……、あの時と違って落ち着いて使えるってなったら……カルマ、なんかワクワクした小さい子みたい……かわいい……」
「……ッ」
私が手を離して1人でエニグマを握った彼の顔は、……まるで欲しかったものを手に入れた子どもみたいでかわいい……思わずそんな感じのことを声に出して呟くと、同じことを思ったのか渚くんとカエデちゃんが苦笑いして、カルマが恥ずかしそうに少しだけ頬を染めた。
「……ったく……、いくよ……」
「……イメージを固めて……クオーツを通して、回復の雫を創り出す感じで……」
「……っ、イメージ……」
ハラハラしながら見守る私たちの前で駆動して、彼の身体は特徴的な青い光に包まれる……あの時とは違って、落ち着いてるとは思うけど、少しでも成功に近づくように静かに誘導する。
今のところは問題ないように見えるけど……多分、合わない導力器を使ってるから、相当集中を乱されるくらいの負荷がかかってるんじゃないかな。ちょっと油汗をかいているような、苦しそうな表情で心配になってくる。合わないもの、というか未登録の導力器を使ったことがないから、憶測でしかないんだけど。
「…………《ティア》!」
なかなかイメージがまとまらないのか、集束しない青い光。と思っていたら、スッと静かにカルマに光が集束されていき、準備が整ったことを示す。彼は私に向けて手を突き出して技名を声に出し、アーツを発動させた…………ハズ、だった。
「「…………」」
「…………」
「…………えと、やっぱり難しいよね」
「カッコつけて失敗とかダサ……他に見てるやついなくてよかったよ……」
まぁ、予想はできていたんだけどやっぱり発動しなかった。何も起きない。結構自信満々に声を上げて発動姿勢までやってのけたのに何も起こらなかったからか、やっぱり負担があったのか……カルマはその場にしゃがみ込んだ……なんでも卒なくこなすカルマにしては、珍しい光景だ。
ここに殺せんせー含めE組の愉快犯の人たちがいなかったことがカルマにとっての救いかもしれない。……でも、駆動できただけ私はすごいと思う。だって彼が媒体にしている導力器は私のもの……つまり、ひとつながりのラインに幻縛りという使う人を選ぶものだ。合わない人が使えばまず導力器自体が反応しない、なのに発動直前までもっていけた……扱う素質は、やっぱりある。
「多分、カルマの導力器も縛りとかラインの本数とか多少違うところはあっても、私のと同じような構造になるんだと思う……普通なら他人の導力器なんて駆動も難しいと思うし……」
「そ、そうだよ!あの時もだけどカルマ君のアーツ、キラキラ〜ってしてて、えっと、……そう、なんか凄かった!」
「茅野、なんかって……でも、カルマ君は流石だね。僕は見てただけだけど、いつか使いこなせちゃいそうだよ」
ちょっとヘコんで頭を抱えてしまってる彼が珍しすぎで逆にこのまま放っておくことができず、慌てて見てた組で慰め?励まし?……とりあえず、立ち直って欲しくて声をかける。
とにかくすごいことなんだよ、専門家じゃないから詳しいことは私にもわからないしうまく言えないけど……
「……カルマは、自分用に調整さえできてたらゲームで言う魔法剣士みたいになれるのかも……アーツ特化じゃないと思うけど器用だし、ここまで発動できるなら別の武器と一緒に使いこなしちゃいそう」
「……ちなみに、これ買うとしたらどのくらい?」
「え、えぇ……?オーダーメイドだからものすごく高価だよ……?個別調整してない、戦闘機能をオミットして通信機能だけのが2万ミラっていうのは聞いたことあるからそれ以上は確実で……ナインヴァリに裏ルートのが売ってたけどいくらだったかな……」
「……ナインヴァリ、ね。じゃあまた、たまにでいいから挑戦させて。簡単なのでも使えれば、アミーシャが使えない時とか俺が代われるでしょ」
「……カルマがアーツを使いたがってた理由って、そういうことだったの……?」
「何が?」
「カッコいいから使ってみたいとか……そういうのかと思ってた」
「ん、まぁ……カッコいいってのも否定しないけどさ。下位属性の補助アーツだけでも俺も使えるとなれば戦術も広がるし、何よりアミーシャが無理する回数が減るでしょ」
「結局、カルマ君の行動理由ってアミサちゃんなんだね」
「思ってたよりちゃんとした理由でビックリした……」
「渚くんと茅野ちゃんは俺をなんだと思ってるの」
少しの間、蹲っていたカルマだけど、ゆっくりと少し赤くなった顔を上げて言ったそれは、諦めてない声色だった。みんな、……私も少し思ってるけど、カルマのことはなんでもできる天才とか考えてる人が多い。
でも、こういう負けず嫌いなところとか努力を惜しまないところをみると、隠れて努力している努力の天才、という言葉の方がしっくりくると思うんだ。だから、私も協力したくなる……この場合、協力でいいのかはわかんないけど。
立ち直ったのか、体を起こして伸びをした彼にエニグマを返却され、また練習に付き合うことを約束したあと、その日は帰宅することになった。……よかった、歩けるみたい……ふらつきもなく立ち上がった彼の姿に心底ホッとした。
◆
翌日。
「まずは冷却装置のパイプを抜いて……その穴からプリンの型枠との間に空気を入れて外す。型枠を外したら、プリンの外壁をゆるめの寒天、ゼラチンでなめらかに整えて……最後に別で作ってたカラメルソースをかけ、バーナーでこんがり炙れば!」
「「「できたーーっ!!」」」
クラス全員で協力して作った巨大なプリンを前にして、みんな喜びが隠せない……テレビのように失敗せず、きちんと自立したプルンプルンのそれは食べてしまうのがもったいないくらいのできだ。……食べるのは私たちじゃないけどね。
それは、短い休日を終えて帰ってきた殺せんせーにとっても同じわけで。
「こ……!これ、ぜんぶせんせーがたべていいんですか……!?」
「殺せんせー、感動しすぎてひらがな発音になってるよ」
「どぞー、廃棄卵を救いたくて作ったんだし、むしろ全部食べてね」
「もちろん!あぁ、夢が叶った!!」
爆破のタイミングを図り、起爆を見守るために教室へと足を進める私たちを全く気にすることなく、殺せんせーはプリンへと突っ込んでいった。爆発させるために作ったものとはいえ、あそこまで喜んで食べてくれると頑張ったかいがあったというもの……私もちょっと食べてみたかったなぁ、なんて。
教室では、竹林くんの周りに集まり、パソコンの画面を見ながらリモコン爆弾の爆破タイミングを待ちかまえている人たちと、窓際に集まって殺せんせーがものすごい速さでプリンを消費していくのを見守る人たちに分かれていた。
発案者のカエデちゃんは、切なそうな顔で窓際でプリンを見つめている……それはそうだよね、好きなものだからこそ頑張ってきたんだから。
「っ、ダメだーーーーーーッッッ!!」
「プリンに感情移入してんじゃねぇ!!吹っ飛ばすために作ったんだろうがッ!!!!」
我慢できなくなったんだろう……カエデちゃんは泣きながらプリンを爆発させるのは嫌だと言い始めてしまった。そんな気はしてたけど、愛情を込めて一生懸命作ったものを美味しく食べるならまだしも爆発四散させるっていうのは……耐えられなかったんだろう。
今はあまりにも暴れるから、寺坂くんが押さえつけてくれている……のに、まだ抵抗しているカエデちゃん。校庭にモニュメントとして飾るとか言ってるけど、生物だよ……食品サンプルじゃないんだから……
「ふぅ、ちょっと休憩」
「「「え、」」」
殺せんせーが教室の中に現れたのはそんな時で、全員が驚いてそちらを見つめる。聞けば、今回の作戦で用意したプラスチック爆弾独特の匂いを嗅ぎ取ってしまい、私たちから見えない側から土を食べて地中にもぐり、起爆装置ごと外してきてしまったんだとか。
火薬について学んで最初の実践だったから、緊張してただろう竹林くんはかなり悔しそうだったけど、爆裂の計算は完璧という言葉には少し嬉しそうだった。
「さぁ!みんなで力を合わせて作ったプリンはみんなで食べるべきです!先生、綺麗な部分を取り分けておきました!」
そう言って教卓の上に並べられたのは、人数分のプリンのお皿。暗殺は失敗しちゃったけど、みんな自分たちで作った力作を食べれてとても嬉しそう……もちろん、あれだけ抵抗していたカエデちゃんは特に嬉しそうに頬張っている。
今回は暗殺とひも付けられていたから政府の人たちも見逃してくれたけど、厳密には廃棄される予定の卵を食べてしまうのは経済のルールに反する……だから、それについてと食べ物の大切さを次の公民で勉強することになった。
「惜しかったね、茅野。……むしろ安心した?」
「あはは……本当の刃は親しい友達にも見せないものだよ。また殺るよ、プリンマニアもここでは立派な暗殺者。ぷるんぷるんの刃だったら、他にも何本も持ってるんだから!」
普段はおとなしい、裏方に徹していたとしても、内に秘めた強さはみんながもってる。今回はカエデちゃんだったわけだけど……次は、誰が刃をあらわにするんだろう?
殺せんせーも、カエデちゃんの自信満々な宣言に体全体で肯定してくれていて、これからがまた、楽しみになってきた。
「アミーシャ、それ何味?」
「んとね、イチゴジャム!」
「へぇ……俺のはキウイ入ってたよ」
「!いいな……」
「いいよ、はい」
「あー……」
「「「え」」」
「「ん?」」
「いやいや、ん?じゃなくてだな、……お前ら、今何やった……?」
「ん、
「んぐ、」
「とりあえず口の中なくせ!」
※お互いにお互いのプリンを食べさせあった
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プリン美味しかったの回でした!
あの巨大プリン、現実でも作って欲しい……。殺せんせーみたいに頭から突っ込むのは躊躇しますが、味変わりとか、あのぷるんぷるん具合とか、すごく経験してみたい……とにかく美味しそうでした。松井先生も茅野ちゃんのように問い合わせたりしたんだろうか……
オリジナル話を混ぜようと考えて、オリ主にアーツを使わせてみたら、なぜかカルマが挑戦することになっていて、見事に不発で終わってました。なんでもできるカルマだって、できないことがあるんだよ、みたいな感じでしょうか……それか、カルマは好戦的な人だから、回復技は性に合わなくて失敗した可能性も少しあったり。
次回は、逃げます、走ります、追いかけっこです!