アニメに時々映る時間割表を元にお話は組んでましたが、今回『体育に関してのみ』は毎日何かしらのタイミングで行ってるということで話を書きました。
放課後などの訓練も、授業の一環だと思えば間違ってないはずなので、便宜上それも『授業』ってことにしておきます。
中学校では、主要五教科以外……もっと狭めて、体育の時間は週に何回あるのが普通なんだろう。1年生、2年生の頃を参考に考えて、保健の時間を除いたら2、3時間なんじゃないだろうか、と思う。
浅野くんにも毎日体操服を持っていくなんてE組では何をしているんだ、と言われたことがあるくらいだから、本校舎ではそれくらいが普通なんだろう。
……なんでいきなりこんなことを言い出したのかというと、私たちE組は中学3年生ではあるけど暗殺教室だからこそ、体育の時間は暗殺技術の訓練が行われていて、1日休めばその技術を取り戻すのに何日もかかる……という考えの元、毎日必ず体育、もしくは放課後を使っての暗殺訓練もとい授業があるからだ。
だから今日も同じように体育の授業が行われている。いつもと同じように体操服に着替え、烏間先生に指定された集合場所に集まる……今回はE組専用プールのさらに上流、その近くの崖の上だ。
「2学期から教える応用暗殺訓練、火薬に続くもう1つの柱が『フリーランニング』だ」
「フリーランニング……?」
「言葉で教えるよりも実際に見た方が早い。三村君、今からあそこに見える一本松まで行こう。大まかでいい、どのように行って何秒かかる?」
「え、うーん……崖を這い降りて、小川は狭いところを飛び越えて……茂みの無い右の方から回り込む、最後にあの岩よじ登って……1分で行けりゃ上出来ですかね」
指名された三村くんは、崖の下をのぞき込み、目的地である一本松までの道筋を丁寧に描いていく。裏山だからこそ、舗装された人の手が入った道というものは存在しないけど、いわゆるけもの道、というものはどんな山にもあるもので、三村くんの提示したルートも、邪魔な岩場や茂みを避けたもので、1分でたどり着ければいい方、という見方だった。
他のみんなも同じように崖下を覗き込んで、確認するとバラバラと顔を上げていく。みんなそのルートで納得なのか頷く人がたくさんいるけど……私はみんなが顔を上げたあとも崖下をのぞきこんでいた。
「なるほど……ほぼ全員同じような意見か?……真尾さんは納得できないようだな。君の思う道筋も聞いてみようか」
烏間先生は三村くんの答えに満足気な笑みを浮かべると、ネクタイを外してそれと一緒にストップウォッチを預けていた……どうやら、先生が実際にやって見せてくれるらしい。
烏間先生がネクタイを外す……万が一を考えてスーツだけど引っかかるもののない、動ける格好へと準備をする様子を見ていると、私にも指名が来て顔を上げる。もう一度崖下を見て少しだけ、考えてから道順を描く……フリーランニング……フリー……自由、ということなら。
「……崖を
「「「え」」」
「ふっ……では、行ってみせよう。これは1学期でやったアスレチックや
そう、言ったと同時に烏間先生は崖から飛び降りた。
背面から落ちる格好を、空中で体をひねって体制を整えて着地、三村くんの予想した小川の細いところではなく滝となっている岩場を足場にして渡り大幅にショートカット、茂みの脇を通ることなく生えていた木の高さを利用して一本松の生える岩を蹴って上まで到達してしまった。時間にしてたったの10秒。
「真尾さんが言った通り、これは自由な走り……つまり、道無き道で行動する体術だ。熟練して極めれば……ビルからビルへ忍者のように踏破する事も可能になる」
道無き道を行く……つまり、今までは平面上での暗殺ばかりだったのが、道具を使わなくても高さを利用したものに取り組めるようになるということ。仕掛け1つ1つの幅が大きく広がるし、素早いだけでなく空中を自由に動く殺せんせーと同じフィールドに立つことができるというわけだ。
みんな、今までできなかった動きを、テレビなどのフィクションの世界でしかありえない、誰もが1度は憧れたアクロバティックな動きができるようになるかもしれないとワクワクしているのがわかる。
「だが、これも火薬と同じように……初心者にはまだ高等技術であることに変わりない。使い方を誤れば死にかねない危険なものだ。危険な場所や裏山以外で試したり、俺の教えた以上の技術を使う事は厳禁とする」
「「「はいっ!」」」
いきなり高度な技なんて成功するわけがない……まずは怪我をしないために受け身の練習から順番に取り組んでいくことに文句を言う人なんて誰一人いなかった。
むしろ、適当にやって次の技術指南へ進むのが遅くなるよりも、しっかりこなしてどんどん新しいことに挑戦させてもらえる方が楽しいと分かっているからこそ、全員が真剣に取り組んでいた。
「真尾さん、少しいいか?」
「……?カルマ、先に帰ってて」
「んー?烏間先生と一緒か。わかった、先に行ってる」
◆
フリーランニングを習い始めてから1週間……運動が得意なメンバーはドンドン技術を吸収していき、手を使わずに遠い場所へ飛び移ることも難なくこなせるようになっていた。逆に体を動かすのが苦手なメンバーでもだいぶ形になっていて、基本的な縦移動や枝移動、ロングジャンプなどはしっかり身に付け、モノにし始めた頃だった。
────ガラッ
「おはよ、ございます……もー、カルマー……引っ張るの重いんだから、ちゃんと、歩いてぇ……」
「ふぁ〜……ねむ……」
「はい、逮捕します」
「……うぇ?」
「はァ?」
いつものようにおしゃべりしながら登校したのに、山道を登りきったあたりで、いきなり眠いしめんどいとか言い出したカルマが、教室へ行く前にサボろうとUターンしようとしたんだよね。
教室にすら入ろうとしないで消えようとするカルマに対して、呆れたように笑う渚くんと杉野くんを横目に、せめてカバンを教室に置いてからにしてと私が手を引きながら教室に入ったところで……既に教室にいた殺せんせーに手錠をかけられた。
現状私が右手首、カルマが左手首と手錠で繋がれて、思わず立ち止まると垂れ下がる私とカルマを繋ぐ鎖。確かにちょうど私が引いていたから手を繋いでたけど……なぜか片手ずつ。
手錠って、警官の人と繋がないと意味ないんじゃないっけ……?私とカルマを繋いだところで意味ないんじゃ……?
「……手錠?」
「……何コレ」
「カルマ君は教室に来る前からサボろうした罪です。アミサさんは…………癒しのオーラをふりまいて周りをほっこりさせた罪で」
「アミーシャの罪状って、絶対今考えたよね」
「そんでもってカルマ君はともかく、アミサちゃんのは意味わかんないよ……」
「殺せんせー何言ってるの?アミサちゃんが癒しオーラふりまくのはいつもの事じゃん!」
「茅野さん、それなんか違う」
「無知で無垢な真尾相手に手錠プレイ……」
「おーかーじーまー?」
多分教室の窓から見てたんだろう……カルマが山道を登りきったあとにサボりに行こうとしたところと、背中を押す渚くんと杉野くん、その手を引っ張る私を。なんで手錠?って思ったんだけど、殺せんせーを見てみればサングラスにフーセンガム、警察官の制服とたまにやってるコスプレの一環だったみたいだ。
とりあえず、教室の入口に入っただけでこのカオス具合、ついでによく分からない逮捕理由に扉を開けた姿勢のまま固まっていると、カルマが私と繋がった左手をいきなり引いて、私は彼の身体に思い切りダイブすることになった。
「わ、ぷっ?」
「へぇ……なんかいいね、コレ」
「……?」
「俺だけに縛られて思いのままってシチュ、よくない?」
「え、あの、カルマ……その、近い……」
「近くしてんの。んー……せっかくだからちょっとくらい、意識してもらおっかな……ん、」
「ひぅッ……!?」
「って、コラーーッ!そこ、エロい雰囲気にもっていかない!!」
「「「発端は殺せんせーでしょ!!」」」
「岡島が変な事言うからカルマが暴走してんじゃない!」
「俺のせいか!?!?」
私の右手はカルマの左手ごと彼の背中に回されたせいで、カルマの体に腕を回して抱きついてるような姿勢にさせられて。
今の体勢に困って顔を見上げれば、彼の空いた右手でわざとらしく私の左頬を撫でられ顔を近づけられ……慌てて何とか少しでも距離を取ろうとカルマの胸を左手で押し返す、つもりだったんだけど。既に彼の腕に抱き込まれてるような状態で、片手だけで彼を押し返すことなんてできるはずがない。
アタフタしてる間に左頬を抑えてた手で顔を明後日の方向へそらされて、不思議に思った瞬間……走ったゾワっとした感覚に体が強ばった。……え、もしかしてだけどカルマ、今、首舐めた……!?
顔をそらされたことであいた左の首筋に、ざわざわする感覚が走って変な声が出たし、未知の感覚で反射的に目を強く閉じてそのまま動けない。
……知らない人だったら蹴るなり攻撃加えるなりしようと思うけど、相手はカルマだから逃げるに逃げられないしだからと言ってどうすればいいのか分からない……わたわたしていたら、殺せんせーが遅れて気づいて騒ぎ出した。
「カルマ、さすがにストップ……」
「見せられる俺等もいたたまれないんだよ……」
「いいじゃん、せっかくなんだから」
「いや、真尾がフリーズしてるからやめてやれって」
「えー……俺と繋いだの殺せんせーなのに?」
「……じゃあ俺等にその真尾の顔、見せていいんだな?」
「……、……それは、ヤダな……ちぇ、じゃあせめてこれで」
「……かるま……わたし、だきまくら……?」
「抱き枕だったらこんな事しないよ?」
「……そ、う……?もうへんなことしないならいいや……」
「アミサちゃん、そこで諦めないで……;」
「頭ん中真っ白でローディング中なんだよ、多分」
「あいつ、色々溜まってんな……ドSに磨きがかかってる」
「しょうがないよ、あの天然を相手にしてるんだから」
「思いっきり今の状況を利用して引っ付いてるよね……」
「というかビッチ先生で見慣れて最初のアレすら止めんの遅れたんだけど、どうしてくれんだろあのビッチ……」
「あれで付き合ってないとか嘘だろ……てか何度目だこのセリフ」
磯貝くんを中心に何人かがカルマを止めてくれて、メグちゃんがカルマの背後に回って手錠を外してくれた……鍵がついてるわけじゃなくて、金具をずらすと簡単に取れるものだったみたい。
手錠は外してもらったけど、カルマは離れてくれる気は無いみたいでそのまま首筋というか、肩に頭を置く形で抱きしめられてる。……もう、教室に入ってきてから何が何だか分からないし、私自身何を言ってるのかもよく分からなくて……もう抜け出すことは諦めた。
「で、何なんだよ殺せんせー……朝っぱらから悪徳警官みたいなカッコしてよー」
「ヌルフフフフ……最近皆さんフリーランニングをやってますね。せっかくだからそれを使った遊びをやってみませんか?」
「遊びぃ?ケッ、どーせロクな……」
「それはケイドロ!裏山を全て使った3D鬼ごっこ!!」
「けーどろ……?」
「警察と泥棒の略ね。警察チームと泥棒チームに分かれて、鬼ごっこすんの。で、警察に泥棒が捕まったら牢屋行き……ただし、警察に捕まってない泥棒が牢屋に捕まってる泥棒にタッチできたらその泥棒は牢屋から逃げれる……つまり脱獄させられる。で、警察が全員捕まえるか、制限時間内に泥棒が逃げ切るかっていう鬼ごっこ。……分かった?」
「……うん、なんとなく」
聞いた事のない分からない遊びにはてなを浮かべていたら、カルマがすぐにルールを説明してくれて、分かったような分からないような。なんとなくでいーよってそのまま頭を撫でてもらった……その間にも殺せんせーの説明は続く。
私たち生徒は泥棒チーム、殺せんせーと烏間先生が警察官で、1時間逃げ切ったら私たちの勝ち……なぜか提案者である殺せんせーじゃなくて烏間先生のお財布でケーキを奢ってくれるみたい。逆に全員が捕まったら宿題が2倍になる、と……2学期になってから勉強の量がただでさえ増えてるのに、それが2倍はちょっと嫌だ。
「ちょ、待ってよ!殺せんせーから1時間も逃げきれるわけないじゃん!」
「その点はご心配なく。最初に追いかけるのは烏間先生のみ……先生は校庭の牢屋スペースで待機し、ラスト1分で動き出します」
……その条件だったら、何とかなるかもしれない。怪物先生2人組が相手でも、あの広い裏山をめいっぱい使うのなら勝機はありそうだ。
やる気になったE組に、「なんで俺が……」とでも言い出しそうな烏間先生がちょっとかわいそうな気がしたけど、私たちはご褒美の獲得と罰ゲームの回避のために本気になるしかない。こうして、殺せんせーの独断により、今日の体育の授業は怪物先生2人組を相手にケイドロをすることが決定した。
◆
フリーランニングを駆使したケイドロ。裏山全部を逃げる、追いかけるフィールドとしているし、平面だけでなく木や岩の高さも自由に使えることもあって、とてもワクワクする……鬼ごっこだってことを忘れてしまいそうだ。
何も相談せずにとりあえずバラバラに逃げることも考えたけど、周りの状況が分からないままに逃げててもつまらないしと、気がつけば私たちは自然と一緒に過ごすことが多い班ごとに逃げる形になっていた。
「そこ、どうやって行ったのー?」
「木ぃ伝うやり方教わったろー?」
「わ、わあっ!?」
「うわぁっ、だ、大丈夫奥田さん?ほら、手、貸すから……」
「っと、渚君、一緒に落ちないようにね〜」
「有希子ちゃん、捕まえたっ!」
「ふふ、捕まっちゃった」
同時スタートだと勝てるわけないから、最初は泥棒チームがどう逃げるか作戦を立てたり、行ける範囲を確認するのに使える時間がある。今はまだ烏間先生が追いかけ始めるまでに余裕があるから、いくつかの基本動作を確認しながらできる限り距離をとっていく……途中の4班はこんな感じ。
愛美ちゃんとカエデちゃんが少し動くのが苦手って感じだけど、ジャンプ位置の把握が苦手なだけでそれさえ手伝えばどこへでも跳べている。有希子ちゃんは笑顔でさらっと移動していくし、男子メンバーは言わずもがな……特に杉野くんなんて今までと違うフィールドを走り回れるからすごく楽しげな顔をしている。
烏間先生だって生身の人間なんだし、あの身体能力をもってしても生徒相手に本気出して化け物じみたことはしないだろう、……多分。
『皆さん、ケイドロ開始まであと1分です!そろそろ烏間警官が動き出しますよ〜』
「律ちゃんも警察官だ!婦警さんだっけ……似合ってるね」
『ありがとうございますっ!今回は逮捕人数のお知らせなどでお手伝いしますね!あとは泥棒チームでの連絡係をします!』
今回は体育の授業中ではあるけど全員がスマホ……連絡手段をもって散っている。
烏間先生曰く、慣れないフィールド……ううん、慣れていても広くてみんながバラバラになってしまった時、連携がうまく取れなくて動けなくなった時があると、すぐに全員がやられてしまう可能性がある。
それは素人である私たちが1番避けなくてはならないこと……今回は裏山全部ということで、ちょうどその練習にもなるだろうから取り入れてみようってなったんだ。
数分後、私たちの端末を通して開始の笛を鳴らした律ちゃんも一緒に和やかにおしゃべりしていた時だった。画面の中の律ちゃんが『あ』と一言いったかと思えば、4班全員のスマホから小さくバイブの音がして……
『岡島さん、速水さん、千葉さん、不破さん、アウト〜』
「「「…………え。」」」
開始して、まだ5分も経ってないと思うんですが。前言撤回……烏間先生は、本気だ。
◆
あの後、牢屋の中でも泥棒同士でスマホ経由の連絡はとっていいらしく、岡島くんから着信が入った。牢屋組からの情報提供によると、タッチされるまで烏間先生の接近には全く気づくことができず、いつの間にか背後まで来ていて捕まった、と。
ちなみに牢屋ではただ助けを待っているのではなく、それぞれの苦手科目のドリルをやらされているんだとか。その情報聞いちゃったら余計捕まりたくないよね……だからと言って、烏間先生は止まらないんだけど。
『菅谷さん、ビッチ先生、アウト〜♪』
「律ちゃん楽しそうだね?」
『はいっ!とっても楽しいです!』
「楽しいのはいいんだよ、いいんだけど……ヤバいよ、どんどん殺られてく……!」
「殺戮の裏山ですね……っ!」
「……逮捕じゃなかったっけ」
ケイドロが開始して数分……残り時間を半分、どころかほとんどを残した状態で、既に27人中6人が捕まっている。班ごとを中心とした小グループとはいえ、位置は完全にバラバラに散っているはずなのにこのスピード……全員捕まってしまうのも時間の問題だ。
……あれ、でも確か……カルマのルール説明では……
「カルマ、けーどろって遊びは牢屋から泥棒が逃げれる……って言ってなかったっけ……?」
「……!そうですよ、これってケイドロですよね?だったら……っ」
「牢屋に捕まった奴にタッチすれば、解放できる!ナイスだ真尾に奥田!さっさと解放して、振り出しに戻してやろうじゃん!」
「……はぁ。バカだね〜、杉野は」
そう言ってすぐさま牢屋の見える位置へと走り出した杉野くんを慌てて追いかけていくと、走って向かう最中、呆れたようにカルマがこぼす。
仲間を助けに行くことの何をバカだと言うのかって思ったけど、草むらから牢屋を見てみれば、うん、納得……
「ラスト1分まで牢屋から動かないって言ってたじゃん。誰があの音速タコの目を盗んでタッチできるよ……それができるなら、とっくに殺してるって」
「ですよね〜……あ、じゃあ真尾!お前ならあそこまで行けるんじゃ……!」
「……私は行けるけど、助けた人、またタッチされない?」
「……ですよね、分かってたよ!!」
「むしろアミサちゃんは行く自信あるんだ?」
「うん、全員触るのもできると思う……けど、タッチされたらおしまいだから、他の人は絶対守れない自信しかない」
「じゃ、ダメだね……」
そんなことを話しているうちにも、竹林くんとおかーさん、寺坂くん、村松くん、綺羅々ちゃん、吉田くんが捕まったことが知らされる……烏間先生、本気出しすぎててちょっと怖い。このままだと、30分も経たずに全滅もありえちゃうよ……
その時岡島くんがこっちを見て、私たちが近くまで助けに来ていることに気づいてくれた。多分、というか絶対、岡島くんが気づいたってことは殺せんせーも私たちの存在に気づいてる。
だけど殺せんせーは私たちがここにいたとしても牢屋から出ない約束をしてる=牢屋を出てここまで捕まえには来ないから、とりあえず殺せんせーに見逃してもらえればなんとかなれば助けられるよなってことになり、杉野くんがジェスチャーでそれを伝えようと頑張っている……と。
「……?岡島くん、殺せんせーに何か渡した……?」
「あー……なんか僕、分かった気がする……分かりたくなかったけど」
「それね。女性陣はここで待機。助けには男が行くよ」
「おうよ!」
岡島くんが立ち上がって助けに来いって思いっきり手を振っているのを見て、カルマと渚くん、杉野くんが飛び出していった。
牢屋のすぐ側まで3人が近づいているのに殺せんせーは振り向きもしない……何か、取引のようなものでもしたんだろうか……?とりあえず、まだ牢屋に到着していない寺坂くんたち以外の6人の脱走に成功した。
「おかえりなさい!」
「みなさん、無事でよかったです……!」
「信じてたよ、カッコよかった」
「か、神崎さんに信じてもらえてた……!俺頑張ってよかった!」
「たかが1回脱走に手を貸しただけで感動しないでよ……」
「結局、岡島くん何したの……?」
「んー、収賄?」
「……、……え?警察なのに犯罪……?」
「……ま、今のところは捕まっても殺せんせーには交渉が通じるって感じかな」
再び集合して裏山に潜ったところで、スマホが震える……律ちゃんが岡島くんからの連絡を繋いでくれた。
『泥棒チームに連絡!律に頼んで烏間先生が近くにいないメンバーにだけ繋いでるからそのつもりで聞いてくれ!この5分後、俺が捕まってなければ俺が、捕まってたら千葉から同じ内容で連絡する!』
走りながらなのか、少し息が乱れた連絡で、ちょっとした逃げ方についての説明がされた……それは、殺せんせーがこっそり吹き込んだ……捕まったからこそ得られた逃走のコツについてだった。
このケイドロはただの鬼ごっこじゃない、
烏間先生は木の枝、足跡、話し声……その他いろいろ、自然の中に残った私たちが逃げた痕跡を見て追いかけてきている……ならば、その痕跡を残さなければいい、隠せばいい。
地面を走らなくてはならないというルールはない……ならば、基礎的な枝移動やロングジャンプで地面に足をつけなければいい。
たとえ捕まったとしても、桃花ちゃんのように習った交渉術を使って逃げ出したり、殺せんせーの隙をついて泥棒同士で助け合ったり……そして、また得た情報や烏間先生の位置、気づいたことをスマホを通して交換していく。
いつの間にか私たちは今までにやったことのない、散らばっている仲間と連絡を取り合って協力し合う、ということが普通にできるようになっていた。
「はぁ、はぁ……あと何分で殺せんせーは動き出す……?」
「10分……いや、5、6分ってとこじゃないかな」
「烏間先生を何とかかわしきっても、殺せんせーなら1分で裏山全部を回って残りを捕まえるのも可能だよね……なんとか逃げ切る方法は……」
プール近くの茂みに身を潜めながら四方を見張って烏間先生の追跡を逃れながら、1番の勝負どころであるラスト1分の作戦を立てていくみんな。泥棒はだいぶ捕まりにくくなってきた……だからこそ、烏間先生じゃなくて殺せんせーから1人でも逃げ切れば私たちの勝ちだ。
「……、……律、磯貝に連絡。通話そのものは泥棒チームの捕まってない奴ら全員に繋げて」
『了解しました!』
その時、じっとプールを見つめていたカルマがスマホに呼びかけた……作戦を思いついたから、磯貝くんと話を詰めたい、でも一応泥棒チームは全員話を聞いていてほしい、と。
『──カルマ、いいぞ。どうした?』
「E組で特に機動力のあるやつ、磯貝からみて誰がいる?あ、男女含めて5、6人ね」
『機動力か……男子なら前原、木村、カルマ……女子なら片岡、岡野、真尾……このあたりじゃないか?』
「……今、俺等4班、プールにいるんだよね……ここから遠いメンバーで烏間先生を可能な限り引き離せる?」
『ッ!なるほど、そういうことか……今呼んだメンバーで4班以外の4人、誰が行ける?』
『──前原だ、今山葡萄の茂み近くにいる。行けるぞ!』
『──その辺りなら南にある崖の岩場付近で待ち構えたらどう?そこならすぐに片岡行ける!あ、岡野さんも行けるって!』
『──じゃあ俺もそっち行く!……あー、烏間先生相手か……怖っ』
『てことは4人全員が出れるんだな……カルマ、そっちは任せたぞ』
「よし……それじゃあ俺等4班はタコ相手ってわけだ……全員頼んだよ」
「あ、あのっ!私も1つ、やりたいことあって……」
『その声は真尾か?いいぞ、言ってみてくれ!』
「あ、あのね……?」
プールで殺せんせーを4班が待ち構える、磯貝くんが選出した機動力のあるメンバー4人で烏間先生を
多分、カルマが、作戦を立てる上で磯貝くんを指名したのは、クラス委員で全体の能力をよく把握していると判断したからなんだろう。サクサクとそれぞれの役割を決めていき、烏間先生に追いかけられている泥棒メンバーから今の居場所を割り出していく。
そして、烏間先生を待ち構える4人の方へと誘導するために、残りの生徒の中で本気で逃げるが確実に捕まるだろう囮役の生徒を決める……と作戦が進む中で1つ、私にもやってみたいことができた。
それを私が別行動でやりたいと提示してみると、磯貝くんも、直接聞いてた4班も、通話には参加せずとも内容は聞いていたみんなも全員が笑い出した……まさか、そんなことを私が言い出すと思わなかったって。
◆
烏間side
タコが簡単に生徒の脱走を見逃した件について叱責し、もう生徒の交渉に応じず助けに来たら捕獲することを確約させた後、どうしたことか生徒達の気配を追うことが困難になった。今まで残っていた足跡、枝、草木の乱れ……それらの痕跡がほとんど見えなくなったのだ。
……なるほど、あいつは生徒達が牢屋にいるうちに、逃走のコツを吹き込んだというわけか……生徒達も短時間でよくここまで学習した。
そして生徒達にはあえて連絡手段を持つようにとだけ伝えていたが、裏の意図もしっかり気付いていたようだ……すなわち、協力・連携のための連絡手段として使え、というものに。
このままでは、俺1人で全員を捕まえることは不可能だろう……そもそも奴1人でも、1分あれば全員捕らえてしまうだろうがな。
そんなことを考えていると、俺の前には片岡、岡野、前原、木村の4人の生徒が待ち構えていた……E組の中でも特に機動力に優れたメンバーで固められている。俺に挑戦しようというわけか、面白い。
「左前方の崖は危険だから立ち入るな……そこ以外で勝負だ」
「「「はい!」」」
4人ともまだまだ荒削りだが、かなりいい動きをしている……1学期から積み上げた基礎をしっかりモノにしているな。本気の俺から逃げるにはまだ足りないが、これからのスキルアップに期待できる。
4人ともを捕まえたあと、スマホで残り時間を確認する……残り、約1分30秒。
「もうすぐラスト1分だ……やつが動けばこのケイドロ、君等の負けだな」
「へへ……俺等の勝ちっスよ、烏間先生」
「何……?」
……一体、何を言い出す?奴なら1分あれば裏山全体を飛び回り、残りの生徒を全員捕まえることも容易いだろう。
それにこの4人を相手にする前にも何人か牢屋送りにし、運良く逃げられそうな機動力のあるメンバーをも今ここで俺が潰した……あとの気がかりは数人だが……いったい何を企んでいる?
「烏間先生、殺せんせーの上に乗って一緒に空飛んだりしないでしょ?」
「……当たり前だ、そんな暇があれば刺している」
なんだ、俺は何を見落としている……?そういえば、機動力のあるメンバーの中に、真尾さんや赤羽君の姿が見えないな……彼等なら選出されていなくても挑戦してきそうなものだが……
「じゃあ、ここから1分で
「……!しまった……!!」
◆
カルマside
────ごぼっ……
水底に枝を切るために持ち込んでいたナイフを突き立て、体が浮き上がらないように体勢を整える。水面に黄色い影が映りこんだ瞬間、俺等は笑った。
俺の考えた作戦は、ラスト1分、殺せんせーが牢屋スペースから出る時間になった瞬間、俺と渚君、杉野の3人はプールに潜って水中に居続ける……ただ、それだけだ。
人間である烏間先生が相手ではこの作戦は意味をなさない、が、殺せんせーは水が弱点だ……だから、殺せんせーの手が及ばない水中で残りの1分を耐えてしまえばいい。
この作戦のネックである人間の烏間先生は、前原たちがおびき寄せてくれるはず……陸地に残った茅野ちゃんたちが成功したって合図をくれたから、あとは俺等が水中で耐えきれば勝ちだ!
『……5、4、3、2、1、タイムアーップ!!全員逮捕ならず!よって、泥棒側の勝ち!……泥棒側、警察側だけでのリンクでしたが、全体のスマホを送受信に変更しますね!』
「「「ぷはっ!!」」」
「ふー……よし、作戦通り」
「あー……1分って結構しんどい……」
「俺、よく息続いたなってものすごく思うわ……」
「お疲れ様、渚、カルマ君、杉野君」
「泥棒側の勝利は3人のおかげだね」
「ここにはないですけど、校舎に戻ったらタオルの用意しますね」
「くっ、先生の弱点をこんな場面で使うとは……君達にはしてやられました」
「なーにいってんの。……水着写真の煩悩にもやられてたくせに」
「にゅやっ!?そ、それは烏間先生には秘密にしといてください!!」
「……殺せんせー、スマホ、今送受信……」
『ほほう……お前、モノで釣られたな!?』
「ひぃぃぃっ!?」
E組のみんなの疲れてはいるけど楽しそうな笑い声が響く……先生達も、短時間で学習して適応し、しっかり耐えきってみせた俺等の勝ちを喜んでいるのが伝わってきた。
殺せんせーの自爆によって職務怠慢が烏間先生に対して明らかにされたところで、俺等が代表してもう1つの仕掛けをネタばらしすることにする。俺等が考え実行し、教師2人を出し抜いて、泥棒側が勝利した方法だけではない、あることを。
「それに……俺等の仕掛けはこれだけじゃないよ?」
「にゅや……?」
「律、結果よろしく」
『はいっ……泥棒側、最終逮捕者は
「にゅ……7名……!?」
『……馬鹿な、俺はおびき寄せられた4人の生徒を捕まえるまでに、10名近く捕まえて牢屋送りにしたはずだぞ!?ということは逮捕者は少なくても15名はいるはず……』
「……あははっ!殺せんせー、俺等4班を見てもまだわかんない?」
「4班ですか……カルマ君、渚君、杉野君、茅野さん、奥田さん、神崎さん……アミサさんがいないっ!?」
『……まさかっ!?』
そう、4班はプールに集合していて水の中に潜っていたのは俺、渚君、杉野の3人。陸地で待機していて作戦の成功などを俺等に教えてくれていたのが茅野ちゃん、奥田さん、神崎さん。
4班は7人班だから、あと1人……アミーシャも一員だけどここにはいない、つまり。
「烏間先生はまず圏外、殺せんせーは俺等が水中にいることに動揺して他の事を考えられなかっただろうし」
『えへへ……その間に、私が捕まった人たちを解放しちゃいました』
『いえーーい!』
『いやー、まさか殺せんせーのいない牢屋スペースに足を踏み入れた瞬間、「はい、逃げれるよ」ってタッチされると思わないって!』
スマホからアミーシャの声と解放された泥棒チームの声が聞こえる。
あの時俺等に割り込んででもアミーシャが、「鬼ごっこに勝つだけじゃなくて、もう1つくらい先生を驚かせたい」と言い出したこの作戦。気配を断つことに長けている彼女を1人牢屋スペースへとやり、先生2人が別のことで手一杯になっている間に捕まった人を全員解放する、とか言い出したのには、思わず笑った。
だってこのケイドロは泥棒側が1人でも逃げ切ればそれでいいのに、
殺せんせーは狙い通り、水中の俺等をどうにかすることで頭がいっぱいになってたし、そもそも烏間先生は牢屋にすら戻れない位置までおびき出していた。
見事、俺等4班が主体となって2つのことで怪物先生2人を出し抜いたってわけだ。ケイドロは俺等生徒の勝ち、ご褒美でケーキっいう甘いものにもありつけたし、気分よく終わることが出来た。
まさか俺等の知らないうちに、椚ヶ丘市内では、ある問題が噂されていたことなんて、知りもせず。
「ところでカルマ君よ」
「何、中村サン」
「あんた達が手錠で繋がれた写真、いる?」
「いる」
「即答!?」
「え、莉桜ちゃんいつ撮ったの……!?」
「いやー、メモリアル的に残さなくちゃいけないかなーって、本能?」
「えぇぇ……」
「ちなみにカルマがアミサの首にちょっかい出してるところも激写済み★」
「!?!?!?」
「ほら、どのケーキにするの?」
「フルーツいっぱいのやつがいい……けど、それも何種類かあって……」
「……じゃあ俺こっちでアミーシャそっちね。俺の分、少し分けてあげる」
「あ、なら僕もこれ選ぶから分けようよ……久々に3人でさ」
「!……へへ、うんっ」
「あの3人、『わけっこ』っていう行為に慣れてんな……」
「俺も弟妹とよくやるぞ?……よし、俺も仲間に入ってこよっかな……おーい!俺も別の選ぶから混ぜてくれないか?」
「あ、磯貝くん、いいよ……えっとね、カルマがこれで……」
「磯貝はあの輪に入っても警戒されない、さすがはうちのイケメン代表……」
「ずりーぞイケメン」
「貧乏なくせに」
「どういう意味だ!聞こえてるぞ、特に最後っ」
◆
「真尾さん、君は
「……はい」
「見せてもらうことは可能か?……ああ、
「……《月光蝶》」
「では、頼んだ」
私は、烏間先生の言うままに崖から飛び降りた。
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ケイドロ、アニメでは水中シーンなかったのが残念でした。と、いうことで、この小説ではバッチリ入れてあります。あの作戦の考案者は誰だったんでしょうか……今回は、カルマはこの時点では、まだ司令塔としての爪を出していないので、磯貝くんと一緒に考えた体で作っています。この頃から律ちゃんを通した連携プレーは出来てたんじゃないかな、という作者の期待と妄想で。
では、また次回……久しぶりの彼が登場!