暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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65話 限界の時間

 

 

 下着泥棒の真犯人を追い詰めたかと思いきや、弱点となりうる対先生物質でできたシーツに囲まれた場所へと逆に誘い込まれてしまった殺せんせー……環境の劇的な変化、これも先生にとって苦手な要素だ。そこにイトナくんが囲いの上から攻撃を仕掛ける。

 

 シロさんはこの状況を作り上げるために、殺せんせーに擬態して椚ヶ丘市内での下着泥棒を繰り返し、先生も私たちも誰もが知らないうちに、殺せんせーの周りへ盗んだ下着や名簿などを仕込んだのだという。

 今回の下着泥棒役が烏間先生の部下さんだったのは、イトナくんが攻撃を仕掛けるためにも『黄色い頭の大男』という代役が必要だったから……部下さん自身もやりたくはなかったけど烏間先生より上の立場の人からの命令となればやらざるを得なかったらしい。

 

「生徒からの信頼を失いかければあの怪物は慌てて動く……多少不自然でも飛び込んできてしまうあたり、間抜けだねぇ」

 

「やっぱり……この気配のなさはウソだったから……」

 

「汚ぇ……俺等の標的(エモノ)だぞ」

 

「……いっつもいやらしいとこから手ぇ回して……!!」

 

「それが大人ってものさ」

 

 やっぱり、殺せんせーは『先生』だ。確かに不自然なところに飛び込んでしまうのは軽率だと思うけど、それは早く解決して元通りの日常にしたいからこそ……カルマが、私が、E組のみんなが信じる通りの教師である誇りをもった先生だからこそ、できること。だから、怪しいとは思っても誘いに乗ってしまった。

 

 シロさんは対先生シーツに囲まれた戦いの場が私たちからは見えないだろうからって、戦術を事細やかに説明してくれた。

 触れるだけで触手の溶ける(シーツ)で囲み、威力がありスピードにも優れたイトナくんの触手を活かすために対先生物質で作られたグローブを装着、常に上から必ず殺せんせーを視認できる位置から攻撃をする……どれもこれも確実に暗殺を成功させるために立てられた策なんだろう。

 

「……せんせー、イトナくん……」

 

「……っ」

 

「くっそ……」

 

 生身の、武装も何もない私たちがあの空間に入ることはできないし、まず殺せんせーが許しはしないだろう……今すぐにでも飛び出していきたいのに、暗殺に参加せず見ていることしかできない、……させて、もらえない。

 イトナくんが殺せんせーを捕らえ、シーツの外へ持ち上げたかと思えば思い切り地面へ叩きつける。そこへかける追撃には、トドメとばかりに今まで以上の力が込められているかのようで……

 

 

 

「……俺の勝ちだ、兄さん。────っ!?」

 

 

 

 その懇親の一撃を叩きつけた瞬間、猛攻を仕掛けていたイトナくんの動きが、()()()()。……ううん、この表現ではおかしいのかもしれない……触手での攻撃の手は止まっていないけど、イトナくんの攻撃が戸惑いか何かを含んだもののように、本気の殺気を伴わなくなったのだ。

 

「な、なんだ……このパワーは……」

 

「光……違う、導力にも似た、力のある……」

 

2人の間でどんな会話が交わされていたのかはわからない……ただ、イトナくんの動きが完全に止まった、時だった。

 いきなり殺せんせーのいるシーツの檻が光に包まれる……その光はなにかエネルギーを発しているのか、私たちのいるところまで空気がビリビリとして揺れているかのようで……そのままイトナくんを巻き込んで爆発した。近くで見ていた私たちの方にもエネルギーの余波が飛んできて、顔と体を庇う。そして、吹き飛ばされたイトナくんの身体を殺せんせーがそっと受け止めた……殺せんせーの勝ち、だ。

 

「シロさん、彼をE組に預けて去りなさい。あと……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が下着ドロじゃないという正しい情報を広めてくださいっ!!」

 

「わ、私の胸もっ!正しくはB!Bだからっ!!」

 

「茅野……」

 

「茅野さん……」

 

 なんだろう……死闘、であってるのかな、たった今激しい戦闘を繰り広げたあとだというのに、コロッとコミカルな感じに変えちゃうこの緊張感のなさ……流れではあったけど、カエデちゃんも言いたかったことは言えたみたいでそれはよかった。

 大人2人は、特にシロさんが何を考えているのかが全然わからない……だからこそ出るに出られなくて、無言の睨み合いが続いていた時だった。

 

「がぁ……っ!!痛い、頭が……!脳みそが、裂ける……っ!!」

 

「イトナ君!」

 

「度重なる敗北のショックで触手が精神を蝕み始めたか……ここいらがこの子の限界かな。君に情が無いわけじゃないが……次の素体を運用するためにも、どこかで見切りをつけないとね」

 

「な、何を言って……」

 

「さよならだ、イトナ。あとは1人でやりなさい」

 

「……っ、もう、ガマンできない……!出ます!」

 

「あ、アミサちゃん!」

 

 突然、イトナくんが触手の生えた頭を押さえて苦しみ出し、殺せんせーの腕の中から落ちてうずくまった。そんな姿を見てもシロさんは助けるわけでもなく心配そうにするでもなく……ただ冷静に、淡々と、無情に、事実を述べていくだけ。彼はとても簡単にイトナくんを切り捨てた。

 その間にもイトナくんは頭を押さえて呻き声を上げながらずっと苦しそうで……殺せんせーも暴れる触手に遮られて思うように手を貸せないであたふたとしている。もう、見ているだけなんて無理だった。

 

 私はカエデちゃんの静止を振り切ってイトナくんの方へと駆け寄りながら戦術導力器のクオーツをなぞり、駆動する……普通なら立ち止まって詠唱に集中するのが威力・詠唱短縮に適しているけど、今は仕方ない。

 暴れる彼の触手を避けながら、詠唱完了した回復アーツを放つために、狙いをつける……対象は触手と頭部のつなぎ目あたり。

 

「……先生、どいて!……っと……ティアラ(水属性中回復魔法)!」

 

「が、……ぁ、あァ……───……」

 

「……っ!……ぇ……なんて言っ……、わっ、あッ……」

 

 殺せんせーなりにイトナくんを落ち着けようと触手をさ迷わせてるけど、視界が遮られると狙いが付けにくい……少し強めの言葉で避けてもらい、回復アーツを発動する。

 アーツのおかげなのか、他の理由なのかは分からないけど、触手の動きが少しだけゆるやかに落ち着いたことで、イトナくんの近くに跪くことができた。多分、このまま何もしなければまた発作のような苦しみが襲ってくることが、シロさんの言葉の端々からなんとなく分かる。

 

 ふと、イトナくんと目が合った……その目には先程までの獰猛な殺意は見えなくて、ただ何かを迷い、苦しんでいる色だけが浮かんでいて、目が合った瞬間私に何か、言おうとした……気がした。聞き返そうにもまたイトナくんの瞳が濁り、苦しそうなうめき声をあげはじめて、慌てて再度の回復アーツを詠唱する。

 

「継続回復アーツの方がいい、ね……でも、今はセットしてないッ……ごめんね、単発だけどッティアラ(水属性中回復魔法)ッ!」

 

「グッ、うぅう……ッ!!」

 

「クックッ……いいねぇ」

 

 そんな私たちの様子を遠目に見ていたシロさんが、クツクツと楽しそうな笑い声をあげてこちらを見ていることに気づき、睨みつけるようにそちらを見やる。

 

「……クク、やはり……君には潜在能力を含めて才能がある。……どうだい?イトナの代わりに力を手に入れる気はないかな?」

 

「……いらない……!それに、何が言いたいのか、わかりません……っ、あなたは、何を考えてる、ですか!?」

 

「どんな犠牲を払ってもいい、あの生物が死ぬ結果だけが私の望みさ。そのためなら使えるものは使わせてもらう……君は元々の素地が高いからね、確実にレベルアップできるだろう」

 

「だから……ッ」

 

「君の空白の期間を教えてあげようと言ってもかい?」

 

「……ッ……え……?」

 

「アーツへの異常な数値、他人と違う力や境遇……それら全てを知っている、と言っても?」

 

「……………………なん、で……あなたが……?」

 

「そこまでです!シロさん、私の前で私の生徒に対し、堂々と命を脅かす勧誘はやめてもらいましょう!そして、イトナ君を放って行く気ですか!あなたはそれでも保護者ですか!!」

 

 シロさんはこの状況で何かよく分からないけど、私を軽い勧誘してきた。私を見て何を感じたのか……大方、アーツを軽々使うところを見て戦力になるとでも思ったんだろう……それだけだと信じたい。冗談だろうし、他人は全て駒かなにかのように扱う人になんて、当然ついていきたくないからお断りした。

 なのに、……私の、記憶のないの期間を、私の生きてきた道を、私の人とは違う力を……知っているというの……?私自身の消えている知識、記憶を知りたくないわけじゃない、……だけど、なぜこの人が知っているのか分からなくて戸惑い、思わずアーツに集中していた意識のリソースが途切れたところで、殺せんせーが割り込んできた。

 

 殺せんせーもイトナくんや私に向けるその態度に、色を変えるほどではないけど怒りの感情を表に出していて……不謹慎ではあるけど、それが少し嬉しいと感じてしまった。

 それを正面から受けたのに、シロさんは相変わらず飄々と掴みどころが無いままの態度を崩さない……そのまま背を向け、去っていく。

 

「……まぁ、最初から色よい返事が貰えるとは思っていないさ。……教育者ごっこしてるんじゃないよ、モンスター……わたしは許さない、お前の存在そのものを。……それよりいいのかい?大事な生徒を放っておいて」

 

「危ないっ!!アミサさん、離れなさい!」

 

「があぁああァッ!!」

 

「……っ!」

 

「「「うわぁっ!!」」」

 

 アーツを止めざるを得なかった衝撃で、痛みが抑えられなくなった。暴走したイトナくんの触手がいきなり振るわれる……今回の件はなんだかんだで先生が自分で対処したから、私たちが彼の暗殺を阻止した、というわけでは無いけど敵認定はされているんだろう。……触手が向かう先は少し離れたところから様子を見ている5人の元、そしてすぐ近くにいた私だった。

 

 ここまで近いと避けることは不可能……咄嗟に両腕を交差させて体を小さくすることで防御態勢をとる。相当な痛み、最悪意識を刈り取られることも覚悟した。

 なのに、体に触手が当たった感触はあれど、痛みが襲ってくることは全く無くて……その不自然さにすぐさま体を起こしてみると、すぐ近くにいたイトナくんは頭を押さえ、触手による拒絶反応だろう痛みに耐えながら飛び上がり、どこかへといなくなってしまうところだった。

 

「アミサさん!ケガは……!」

 

「……今の、」

 

「……アミーシャ?」

 

「……今の、イトナくんの攻撃……私を、近くから遠ざけようとしたの……?……守ろうと、してくれたの……?」

 

 私にあたった触手の一撃は、攻撃性をもったものではなく元いた場所から押し出して遠ざけるような……例えるなら、沖縄での暗殺の時に殺せんせーが完全防御形態になるための衝撃波から守ろうとしてくれた時のようだった。

 5人への攻撃は殺せんせーが払わなければ危険だったにもかかわらず、なぜか。

 

 今起きたことが理解できなくて呆然としながら考え込んでしまった私は、心配の声を上げて私に話しかけていた殺せんせーの声も、いつもなら誰よりも先に私を気にかけて叱るカルマが1度声をかけたきり、こちらへ来なかったことにも気がつかなかった。

 

「…………」

 

「カルマ君、珍しいね。行かないの?」

 

「渚君……本トだったら怒りたいところだけど、今回は我慢した上で、殺せんせーの守れる範囲内での無茶だからさ……それに、多分今行っても周りなんて見えてないよ、あの子」

 

「なんで殺せんせーがいるところならいいの?」

 

「だって、殺せんせーは生徒を『見捨てない』から。今だって先に触手を振るわれたアミーシャに行こうとして、攻撃性がないと判断したから俺等の方を守りに来たんでしょ?」

 

「うぅ、そうですが……流石に、心配の声まで無視されると、先生泣きたくなります……」

 

「ふむ……無差別に人類を襲う敵が、何故か1人の少女にだけは攻撃せずむしろ守ろうとさえする……実はその少女は敵が負傷した時、敵味方関係なく唯一優しく接してくれた存在で、敵が生きていく上で心の支えだったのだ……これぞ少年、いや少女漫画的な展開!いいぞ、もっとやれ!」

 

「不破さんはちょっと落ち着こうか」

 

「てかなんだよそのトンデモ設定……」

 

 このあと我に返った私の目に飛び込んできたのは、あまりにも私が無反応すぎてガチ泣きしはじめた殺せんせーのドアップ顔で、思わず悲鳴を上げてしまって先生を再びへこませてしまったことを報告しておこうと思う。「せんせー、心配してたのに……」とかブツブツ言っている殺せんせーには悪いと思うけど、意識外だったのにいきなりドアップは心臓に悪いんだ……

 

 その後、殺せんせーと私たちは一緒に、この後少しだけ椚ヶ丘市内を回ったけど、イトナくんを見つける事はできなかった。私たちとは違う場所を防衛省の人たちも探してくれていたらしいんだけど、そっちもヒットせず……この日は解散することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハーッ……ハーッ……う、ぐあッッ!!」

 

 

 

 

 ────グァッシャアァ!!

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ッ、…………ウソツキ………ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………見つけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、悪かったってば殺せんせー!」

 

「俺等もシロに騙されて疑っちゃってさ」

 

 次の日。

 

 学校に登校した私たちがまず最初にしたことは、カルマが後でからかう用に撮っていた写真を証拠として、私たち6人が本物の下着泥棒を目撃し、殺せんせーが何もしていないということから、無実の罪で昨日1日疑い、責める視線を向け続けたことでふてくされている、殺せんせーの機嫌を取ることだった。

 

「先生はいいんですー。どうせ体も心もいやらしい生物ですからー」

 

「(うわ、めっちゃ口尖らせてる)」

 

「(ことある事に蒸し返してきそうだな……)」

 

 殺せんせーの好みそうな甘いものを差し出したり、あるのか分からないけど肩もみをしようとしたりとあの手この手で機嫌を取ろうとしたけど、ツーンと口を尖らせて背けたままの態度を変えようとしない。完全にすねちゃってるや、これ……ていうか、昨日どころか結構前から思ってたけど、殺せんせー根に持つなぁ……

 

「それよりも……心配なのはイトナ君です。触手細胞は人間に植えて使うには危険すぎる」

 

 それでも殺せんせーが気にしているのは自分のことではなくてイトナくんのことだった。人間に植えて使うには危険すぎる、殺せんせーと同じ触手細胞……シロさんの手を離れてしまったイトナくんがこれからどう暴走するかがわからない、と。

 私たちとイトナくんは同じ目標(殺せんせーの暗殺)に向きあうクラスメイトといっても、一緒に過ごした時間が少なすぎて彼のことを知らな過ぎる。どうしてあんなに強さにこだわるのか、どうして、シロさんと出会い触手を持つことになったのか……そういうことを、何も。

 

 

 

 ───ピコーン

 

 

 

『……?……お話中すみません、皆さん。あの、メールを受信しました』

 

「律?」

 

「メール……一体誰から?」

 

『……宛名は……《(イン)》、と』

 

「「「!?」」」

 

「《銀》、と言いましたか……!?なぜ……」

 

 今まで黙って私たちの話を聞いていた律ちゃんが突然、声を上げた。彼女は普段、私たちの思考を学んだり協調性を知りたいと話を遮ることや自分から何か言い出すことはほとんどない……だからよっぽどの事かと思えば、案の定だった。

 届いたメールの差出人は、私は行けなかったけど夏休みの暗殺訓練の時にE組全員がお世話になった、カルバード共和国で有名な凶手の《銀》からだという。驚いたみんなは律ちゃんの前に集まり、表示されたメールを読む。

 

─────────

 

【昨日深夜、椚ヶ丘市内の携帯電話ショップにて、暴走する少年を見かけたが……お前達の関係者ではないか?動画を添付しておいた、確認すると良い。……だが、市内の騒ぎだ。今頃ニュースにでもなっているだろう……被害が拡大すれば暗殺の件まで世間に知れ渡る。早急に対処されたし。

 

P.S.

自律思考固定砲台といったか?私がアドレスを入手出来たように外部からのハッキング対策が甘い。情報の管理を徹底した方がいいだろう】

 

─────────

 

『ハッキング対策……迂闊でした。モバイル律を含め、セキュリティを見直します……』

 

「いや、それもそうだけどどんだけ規格外なんだよこの人……」

 

「烏間先生に劣らず色々すごい人だよね……」

 

「《銀》……彼ほどの人物がなぜ日本へ……」

 

「あれ、殺せんせーこの暗殺者の人知ってるの?《銀》さん、夏休みに先生の暗殺のサポートをするって私達を鍛えてくれたんだよ」

 

「でも忙しいって言ってたし、先生を殺しにくることは無いかもね〜」

 

「にゅやっ!そ、そうなのですか!?……わざわざ、こちらへ来たということか……?

 

 律ちゃんが《銀》さんからの指摘に落ち込み、殺せんせーが何やら考え込んでいるけど、私たちの興味は添付された動画にある。申し訳ないけど落ち込んでいる律ちゃんに頼んで展開してもらう。律ちゃんに搭載されてるウイルス対策ソフトの文字列が流れて……ウイルスはないようだと確認した動画に映し出されたのは、ケータイショップを触手で破壊するイトナくんの姿だった。

 再生が終わると同時に、画面はテレビのニュースに切り替わる。メールにあった通り、椚ヶ丘市内の携帯電話ショップがいくつも破壊され、店内の損傷の激しさから複数人による犯行の可能性もあると考えられて捜査が行われている……と、報道されていた。

 

 触手の威力を知らない一般人にとっては謎の事件だろうが、さっきの動画で破壊の一部始終を見ていることもあり、私たちにとっての犯人は明白だった。

 

「担任として、責任を持って彼を止めます。彼を探して保護しなければ」

 

「助ける義理あんのかよ、殺せんせー」

 

「俺は放っておいた方が賢明だと思うけどね」

 

「それでもです。『どんな時でも自分の生徒から触手()を離さない』……先生は先生になる時、そう誓ったんです」

 

 みんなは気にしなければいいというけれど、殺せんせーは1度懐へ入れたからにはもう自分の生徒だからと、先生としてやれることをするつもりだ。

 私だって、放っておけない……放っておきたくない。保護者代わりだったシロさんがいなくなった今、イトナくんはひとりだ。誰も頼れない、信じられない、休まる時だってないかもしれない……ここに来る前の、昔の私が、そうだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 結局、自分には関係ないし罪を着せてきた相手なのに、と言っていた生徒もみんなイトナくんを心配して探し回っていた。いろいろ言ってはいても、みんな心の中ではちゃんと彼のことが心配なんだ。

 クラス全員で分担し、明るい内にまだ破壊されていない市内の携帯電話ショップを回る。店の数はそこまで多くないから、襲撃するだろう場所をある程度絞っておけば……その甲斐あってか、襲撃そのものは止めることはできなかったけど、イトナくんを見つけることができた。

 

「キレイ事も遠回りもいらない……負け惜しみの強さなんて、ヘドが出る。────勝ちたい。勝てる強さが欲しい」

 

 ぐ、と黒く変色した触手で掴んだスマホを握りつぶし、散乱したガラスの中にたたずんでいた彼が漏らした言葉は、誰かにそそのかされたわけでも、指示を受けた訳でもない……彼自身の偽りのない本心のようだった。

 

「やっと、人間らしい顔が見れましたよ……イトナ君」

 

「……兄さん」

 

「殺せんせー、と呼んでください。私は君の担任ですから」

 

 私たち生徒は殺せんせーの少し後ろから様子を見る……イトナくんの目的は殺せんせーだから、私たちは一応部外者のような立場だ。だけど、私たちは全員イトナくんのクラスメイトだから……まだ、たった3回しか顔を合わせていないけど、大切な暗殺教室の仲間の一員だ。

 

「スネて暴れてんじゃねーぞイトナァ。テメーにゃ色んな事されたがよ、水に流してやるから大人しくついてこいや」

 

 不器用ながらにイトナくんを受け入れようとしている寺坂くん。

 

「そのタコしつこいよ〜……一度担任になったら地獄の果てまで教えに来るから」

 

 さすがは経験者……それを言ったら私もかな。カルマと2人して、何を何度しかけても手入れという形で返ってきたもんね……だけど、最後の最後には、教師を信頼してもいいって気持ちを教えて貰った。

 

 それでも勝負だと言い張るイトナくんに、殺せんせーは勝負もいいがその後はみんなと一緒に過ごすということを提案している。バーベキューというのが殺せんせーらしい……誰かが肉の奪い合いだから、ある意味戦争だなって笑っている。

 勝つ、負けるの世界じゃない……ただ、先生と生徒、生徒と生徒が一緒に過ごせる空間を作るために。これまでは確かに他人でしかなかったかもしれないけど、これからなら……中学3年生はまだまだ続く、だから一緒にいればたくさん思い出を作れるかもしれない。私も殺せんせーの後ろから出て、殺せんせーに目線で許可を取り、頷かれるのを確認して彼の近くへと進む。

 

「……傷だらけ。ガラスで切ったのかな……身体だけじゃないよね、きっと、心も……表面の傷しか治してあげられないけど……ティアラ(水属性中回復魔法)……」

 

 ぽう、とアーツの青い光で自分の手を包みながら、ゆっくりとイトナくんの黒くなった触手に触れる。触れた瞬間に彼の瞳が揺れたのが見えたけど、構わずに治療する……強ばって、色の変わらない触手……きっと、彼が受け入れなければ気休めにしかならないだろうけど、なんとか、私の思いは伝えたかったから。

 

「私ね、ここに来るまではずっとひとりぼっちだったの。周りなんて信用できなくて、勝手に壁を作ってた……イトナくんも、私と同じ。強さにすがって、周りを拒絶して、信じられるものだけを追い求めてる。……1人で、頑張ってきたんだよね」

 

「お前に何が……!」

 

「わかんないよ。イトナくんのことは、想像でしか分かんない。……でも、ちゃんと心の全部をわかることはできなくても、そばにいることはできるもの。そうすれば、1人じゃなくなるもの。……それに、イトナくんは昨日、自分の暴走に巻き込まないように私を守ってくれた。何も知らないわけじゃないよ……イトナくんが優しい男の子ってこと、ちゃんと知ってる」

 

 そっと、私はイトナくんの顔へも手を伸ばす。手は触れないままアーツの光だけをかざす……ゆっくりと、顔に走った擦り傷が癒えていくのと同時に、彼は私の言葉に少しだけ反応を見せてくれた。

 まさか、偉そうなことを言っておきながら『わからない』って即答するとは思わなかったと思うけど……だけど、全然分からないからそう言うしかない。言えることはちゃんと言わなくちゃ、心の声は伝わらないから。それも、この教室教わったこと。

 

「一緒に、E組で思い出を作ろうよ。あったかくて優しいたくさんの友だちと一緒に。ちょっと変わってて楽しい先生たちと一緒に」

 

 なんとなく、イトナくんの雰囲気が柔らかくなった……殺気が消えた?寺坂くんが、カルマが、殺せんせーがまっすぐと正面からぶつかっていった言葉のおかげか、イトナくんが少し迷ったように揺れている。今なら、ちゃんと言葉が届くかもしれない。

 

 1人のクラスメイトとして伝えたいことは言えたはず、あとは任せた方がいいかと思って殺せんせーに場所を譲ろうとした、その時だった。

 

 

 

 ────ボフッ

 

 

 

「ゲホッ、な、なに!?」

 

「何も、見えないっ」

 

「ぐ、うぅっ!?」

 

「イトナくん……!」

 

 いきなり、私たちの周りに真っ白な粉が充満した。周りが見えない中吸い込んでしまった細かい粉にむせていると、唯一近くにいて見ることができたイトナくんが頭を押さえて呻き声をあげている……まさかこれ、触手が溶けてる……?まさかこの粉、対先生物質の何かってこと……!?

 

 追い打ちをかけるように銃声が響き始めたけど、音の軽さからこれも実弾じゃなくて対先生BB弾なんだろう……殺せんせーなら余裕で避けれそうだけど、ここまで疲弊してるイトナくんは、痛みで満足に避けられないかもしれない。

 私は迷うことなく銃弾が来る側を向いてイトナくんを背中で守る位置に立ち、片手で粉を吸い込まないよう口を塞ぎ、もう片手で流れ弾を弾いていく。粉はさすがに対処できないけど、流れ弾くらいは私でも捌ける。

 

 たくさんの咳き込む音は聞こえるけど、殺せんせーもクラスメイトも粉に遮られちゃって姿がよく見えない……私しかいない、私がイトナくんを、守らなくちゃ。

 

「イトナを泳がせたのも予定のうちさ、殺せんせー……さぁ、イトナ。君の最後のご奉公だ」

 

「きゃ……っ」

 

「がっ……」

 

「イトナ君、アミサさん!」

 

 これで終わりだと思っていたから、ネットを投げ込まれるのはさすがに予想外だった。元々のイトナくんの位置に投げ込まれたそれは、すぐ手前にいた私も十分範囲内なわけで、かぶさったネットに足を取られ、体を地面に打ち付けた。

 そのままかなりの勢いで引きずられる……体にネットが巻きついて動けない中、なんとか顔を上げると進行方向にトラックが見えた。

 

「おや、君も一緒だとは……都合がいいね。追ってくるんだろう?担任の先生」

 

 はじめからシロさんは、イトナくんを囮にして殺せんせーをおびき出すのが目的だったんだ……油断、してた。体や頭に走る衝撃をこらえながら、イトナくんを見れば動かない……多分、もう気絶しちゃってる。

 ……無理もないよ、ただでさえボロボロだったところにさっきの対先生物質の粉を浴びて、こうして動けないままに引きずられていて……よく見ればネットに触れている触手が溶け始めている……おそらく、このネットも……。

 

「……ッ、こういう時、小さいの恨むなぁ……ッ」

 

 引きずられる痛みとネットがまとわりついて動かしにくい体を何とかずらして、イトナくんの頭を抱えて少しでもネットに触れないように守る……足元まで伸びた触手全部を抱えるには、私の体は小さすぎてできないのが、悔しい……。

 また、体がはねた。むき出しになった肌には傷がつくけど、この程度ならあとからいくらでも治療できる……この時ほど、私が普段から長袖のカーディガンを愛用していて感謝したことはない、かもしれない……

 

「───がッ……う、……」

 

 ガン、と頭を打った。衝撃で目の前に火花が散った。揺れる、眩む、……意識が、落ちる……あは、私ここに来てからケガしたり、みんなに迷惑かけたりしてばっかだなぁ……、でも、なんとか……これだけでも……

 

「…………アース、グロ……ウ(地属性継続回復アーツ)……」

 

 あの時はクオーツの属性値が合わなくて使えなかった回復アーツ……早く少しでも楽にしてあげたくて詠唱放棄したから、あまり長い時間はもたないかもしれないけど……少しでも、守るために……せめて、イトナくんだけでも……、無事で……

 

 

 

 

 

 私の意識が落ちたら。ここで彼を守る人がいなくなる。グラつく頭と朦朧とした意識の端で。

 

 きゅ、と。

 

 彼の手が私の服を掴んで、すがってくれたような、きがした。

 

 

 

 

 





「みなさん、大丈夫ですか!?」

「ゲホッ……ゲホッ、多分、……イトナを守りに入った、真尾以外は、なんとか」

「アミサさんの今回の無茶は褒められませんがよくやったとも言えます……先生が動けない中弱ったクラスメイトを守ったのですから。では先生は2人を助けてきます!」

「……殺せんせー、俺等を気にして回避反応が遅れたんだ」

「あんの白野郎〜……とことん駒にしてくれやがって……!!」





「情報交換だ……トラックに乗っていた人数見た奴いるか?」

「確か射手が4人、運転席にシロがいたぞ」

「全員真っ白だったよね……てことは、」

「殺せんせー、行っても手だしできないじゃん!」

「そのために俺等、だろ?」

「簀巻き用になんか布調達してく!」

「ガムテープいりますよね?」

『追跡はアミサさんのエニグマが追えますので、お任せ下さい!』

「よし、皆行くぞ!」

「「「おう!!」」」





「…………………」

「……か、カルマ君?」

「……俺の大事な子を1度ならず2度までも……殺す」

「お、落ち着け!」

「ちょうどいい、カルマ!お前に先鋒を任せる。懇親の一撃で沈めろ」

「磯貝君!?」

「……いいんだね?手加減、しないよ?」

「もちろん」

「い、磯貝本気か!?」

「ん?もちろん。クラスメイトだけじゃなくて妹分も攫われたんだ。何より……俺がやるより威力ありそうだし、存分にやってくれ」

「(あ、こりゃ磯貝も激おこだわ)」



++++++++++++++++++++



今回はオリ主がイトナと自分を少しだけ重ねながら助けたいと距離を縮めようと努力しました回です。そうしたら巻き込まれました。……あれ。
イトナとオリ主の関係は既に決めています。恋愛関係にはなりませんが、カルマにとってある意味めんどくさく、ある意味共犯者的な位置づけになる予定です。

これからもよろしくお願いします!

次回、イトナのE組加入までいく予定()です。


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