暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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ほぼ原作沿いですが、そこに至るまで流れを若干変えました。

オリ主は射撃成績は下から数えた方がいいレベルなので、コードネーム回の訓練は合わなすぎる……ので、この役割に。





69話 名前の時間

 

 朝、登校して教室前側の扉をくぐってすぐに、コンッと、小さな音が聞こえて足元へ視線を向けると……床に落ちていた何かを蹴ってしまった音だったみたい。拾い上げてみれば、何かの部品……レンズがついてて円柱で……とりあえずE組の床に落ちていて機械か何かの部品とすればほぼ持ち主は私の隣の席の彼で間違いないだろう。

 名前も確認せずに彼の席へ足を向けると、その途中で顔を上げた違う人から声をかけられた。

 

「あ、真尾待った。それ俺のスコープかもしれない」

 

「……え、千葉くんの……?」

 

「ああ。側面のどこかに『Ryu』って書いてないか?昨日から探してたんだ」

 

 足を止めて千葉くんの方を見れば、私の手の中のものを指さして手を回す仕草……あ、回転させろってこと?手の中で部品の向きを変えると、レンズのついた側の側面に黒ペンで小さく文字が書いてあるのを見つけた。

 言われてみると、これは長距離射撃用のスコープなのかもしれない……私自身が射撃が得意じゃなくてほぼ使わないから気づかなかった。

 

「……あ。ホントだ……はい。でもなんで『Ryu』?前に落し物拾った時は『千葉』って書いてあった気がするけど……」

 

「サンキュ。いや、俺の名前って画数も多いし結構長いだろ?ローマ字だったら簡単だしそこまで書けばE組の誰とも被らないからな。最初こそ(りゅう)のイラストでも貼ろうかと思ったんだが……」

 

「だが?」

 

「寺坂も、漢字は違うけど(りゅう)の字を使うからな、分かりにくいからやめた」

 

 確かに『千葉龍之介』はまぁまぁ文字数がある……というか画数が多いから、小さく書こうと思うと字が潰れそうだ。自分の持ち物全部に名前を書くとしても、画数や文字数が多いと大変だもんね。

 イラストで自分のものって表現するのオシャレだしおもしろいな……と思ったところで、言われてみると千葉くんの名前に含まれる『龍』と寺坂くんの名前に含まれる『竜』ってどっちも『りゅう』って読むよね。寺坂くんの場合は『りょう』って読むけど。

 

「……こっちって同じ意味なのに漢字が違ったり読み方が違ったりするから複雑だよね……」

 

「確かにな。お前の名前の漢字は当て字だったか?」

 

「うん、ファーストネームとラストネームを逆にしてあるの……なんでアミサにしたのかは分かんない。そうしたのも、漢字を選んだのはお姉ちゃんでね、『紗』が『シャ』って読むこともあるっていうのは納得できるんだけど、『美しさが有る』はちょっと恥ずかしいよ……」

 

「まあ、真尾は美しいというよりは可愛いだしな」

 

「……、もう、前に菅谷くんにそれっぽいこと言われた時はそんなに恥ずかしくなかったのにー……んわっ」

 

「ねー、千葉まで息を吐くように口説くのやめてくんない?アミーシャも照れてないでさぁ……お前のことも敵視していい?」

 

「許可取ってる時点でそこまでじゃないだろカルマ」

 

「バレた?千葉はかわいがってるだけって信頼できるからさ〜一応ツッこんでみただけ」

 

 カルマがいつもサラッとかわいいって言ってくるから、まだ耐性がついてきたつもりだったけど、あまり嘘をつかないで淡々と話す千葉くんっていう珍しい人からの褒め言葉は、こうして予想外に言ってくることもあって、ちょっとだけ照れてしまう。

 だいぶ前にメヘンディアートを描いてもらった時のことを思い出しながら、少し火照った頬を両手で挟んでいると、背中に体重をかけられた。犯人は言わずもがな、なんだけど。

 

「変わった名前の漢字といえば、イトナもじゃん?」

 

「イトナくん?……えっと、糸、成(いと、なり)だっけ、これは変わってるの?」

 

「あんまり見ない名前かもしれないな……キラキラネーム、というやつか」

 

「俺の名前が変わってるというが、変わった名前ならこのクラスに何人もいるだろ?」

 

「……そうだっけ……?」

 

「これとかね」

 

 イトナくんに言われて首を傾げていると、カルマが私にのしかかりながらスマホのグループチャットを開いて見せてくる。後ろの習字とかでも名前は確認できるけど、漢字で書いてるから変わってるかと言われると……でも確かにチャットの方なら結構みんな呼び名で名前を変えて書いてるから確認しやすい。

 私の後ろからカルマが指さしたのは1つのアイコンでその名前は『CHIKURIN』……あれ、これって確か竹林くんのアイコンだよね?読み方『たけばやし』じゃなかったっけ……?

 

「……竹林(たけばやし)くんは、ちくりんくんだった……?」

 

「ふ、くくくく……っ」

 

「……そんなわけないだろ……というかチャットで確認しても意味ないぞ、自分で名前変えられるし、基本みんなあだ名のようなもんなんだから」

 

「……カールーマー?」

 

「だ、だって、アミーシャ素直だからさぁ……っ」

 

「むぅ……」

 

「ごめんって、でもこっちは本トに変わった名前ね」

 

「……まさよし、……木村くん?」

 

「そーそー、木村」

 

「あー、真尾はE組に来てからみんなの名前を覚えたんだよな?だったら知らないのも有り得るな……」

 

 普段から『木村くん』としか呼ばないから、そういえば下の名前は漢字でしか見たことないし、呼んだことはなかった。でも『正義』って書いて『まさよし』って読むならそんなにおかしな読み方じゃない気がするんだけどな……

 竹林くんの名前が『CHIKURIN』になってるように、もしかしてここに書いてある名前ではなくて普通に『せいぎ』って読むのが正しかったりするんだろうか。

 

「ジャスティス!?」

 

 教室の黒板側の方から、カエデちゃんの驚くような声が聞こえてきてそっちを見てみれば、カエデちゃんとメグちゃんと陽菜乃ちゃんと渚くん、杉野くん、岡島くん、菅谷くんたちで、ちょうど話題にしていた木村くんの席を囲んでなにか話していたみたい。

 あっちはあっちでなんの話しをしてるんだろう……ジャスティス、かぁ……確か正義って意味の英単語だよね。……ん?正義……?たった今、私はその意味の漢字の話をしてなかったっけ……?

 

「……まさか」

 

「そういうことだ」

 

「木村の名前、アミーシャでいうならファーストネームが『ジャスティス』なんだよ」

 

「……木村くんって外国の人だっけ……?」

 

「本名知って最初の感想がそれなの……っ」

 

 教えられた木村くんのファーストネームを聞き間違いかと思って顔を上げれば、千葉くんが1つ深く頷き、カルマが教えてくれた。……こっちの人たちは、名前は日本語じゃなかったっけ……と思って外国の人?と思って口に出したところでふと思った。

 私の後ろに引っ付いてる彼も、単純な漢字の読みをする日本語じゃなくて、カタカナの名前では?と。

 

「カルマも外国の人……?」

 

「じゃなくて、親がインドかぶれで付けられたんだよ。写真見たから俺の両親日本人なの知ってるでしょ」

 

「……たしかに」

 

「というか転校生の茅野はともかく、真尾は入学式で聞いてるはずなんだけどな……周りも騒然としてたんだが。ま、最初のインパクトは強くても、木村本人あの名前がコンプレックスらしくて、みんなに『まさよし』って呼んでくれって頼んでるから、印象に残ってないのかもしれないな」

 

「それか、アミーシャからしたらああいうカタカナの名前の方が普通だから違和感として感じなかったんじゃない?逆に日本語名の方が違和感あったでしょ、最初」

 

「うん、変な感じだったし、自分の名前も呼ばれて気づかなかったもん」

 

「自分の名前は気付いてくれ……」

 

 木村くんの両親は警察官らしい。正義感で舞い上がってつけられた名前らしくて、本人にとってはかなりいじられるしコンプレックスなんだって。ちなみに弟は勇気と書いて〝ブレイブ〟と読むらしく……兄弟そろって英語読みの名前でいつも大変な思いをしてるんだとか。

 木村くんは卒業式でも名前の読み上げがあるから、その時にまた公開処刑されることが嫌で仕方ない、と机に伏せたままぼやいてるのが見える。警察か……ロイドさんたち、元気かなぁ……

 

「てかあっちの話題が気になるなら行ってくればいいんじゃないか?丁度キラキラネームの話だぞ」

 

「そうしよ、アミーシャそのまま歩いて〜」

 

「もー、重いのに……」

 

 腕を首の横から絡めて、その上私が倒れない程度とはいえ体重をかけたまま向こうを指さすから……抜け出せないし、そのまま向こうの集団に向かって歩く。

 向かう最中に、彼等が名前について話しているのが気になったのか……少し遠くでその話を聞いてたらしい綺羅々ちゃんも話に混ざり始めた。

 

「そんなモンよ、親なんて……私なんてこの顔で〝綺羅々〟よ、〝きらら〟!〝きらら〟っぽく見えるかしら?」

 

「い、いや……」

 

 彼女も自分の名前に思うところはあったみたい……可愛い名前をつけられても、育つ環境によってはその通りに育つわけがないって言い切っちゃった。

 でも、綺羅々ちゃんって私からしたらかなり女の子らしいと思うけどな……キラキラしてて可愛いというよりは、文系の静かなお姉さんって感じで。好きな物、例えば読書とか文字を書いたりすること向き合う姿はキラキラしてて、名前通りな気がするのに。

 

「大変だねー、皆。ヘンテコな名前つけられて」

 

「「「え!?」」」

 

「というか、カルマ君、アミサちゃんが重そうだよ……」

 

「知ってる〜」

 

「おーもーいー……どいてくれないのー……」

 

「ならどいてやれよ……てかお前の名前こそ木村以外でキラキラネーム筆頭だろ」

 

「え、俺?俺は結構気に入ってるよ、この名前。たまたま親のへんてこセンスが俺にも遺伝したんだろうね。それに……好きな子に呼んでもらえる名前が、嫌いになるわけないでしょ?

 

「みっ……!」

 

「「「(何言ったのかは聞こえなかったけど、なんとなく想像がつく……)」」」

 

 なんでもない事のように割り込んだカルマこそ、みんな曰くキラキラネームというものらしい。確か、〝業〟と書いて〝カルマ〟と読むのは仏教用語……だったかな。

 普通に読むなら〝ぎょう〟か〝ごう〟だもんね。私も多分、口で自己紹介されてなかったら、今頃〝ごう〟くんって呼んでたのかな……それは無いか、あの当時からカルマのことはみんな下の名前で呼んでたし。本人がみんなにそう呼ばせてるくらいだから、気に入ってるとは思ってた。

 

 そんな風にカルマの名前のことを軽く考えていたら、いきなり彼に頭ごと顔の向きを変えられたかと思ったら、耳元で小さく……また、恥ずかしいことを照れもせずに言う……ッ!わ、私、まだ何も返事してないのに……

 自分の声が私の安心できる、好きな声なの分かっててやってるからタチが悪い……。顔にぶわっと熱が集まって真っ赤になってる自覚があるまま、囁かれた耳を片手で押さえて少し彼から体を離そうとしたのだけど、元々のしかかられてるし、引き寄せられたまま固定されてて動けない。周りを見て助けを求めてはみたけど、……みんな、目を逸らさないで、助けてくれても、よくない……っ?

 

「先生も、名前については不満があります」

 

「殺せんせーは気に入ってんじゃん。茅野が付けてくれたその名前」

 

「気に入ってるからこそ不満なんです!!」

 

 急にカルマの後ろからニョキりと現れた殺せんせー……いつの間に来てたんだろう。カルマの顔か体かにペタりと引っ付く感じに生えてきたから、カルマから邪魔そうに振り払われて、慌てることなく黒板近くの日課表のあたりに避難してるけど。

 殺せんせー的には名前が気に入らないっていうのではなくて、気に入ってる名前を呼んでくれないことが不満みたい……その烏間先生とイリーナ先生(呼んでくれない2人)の方を恨めしげに見ている。

 

「烏間先生なんて私を呼ぶ時、『おい』とか、『お前』とか。熟年夫婦じゃないんですから!!!」

 

「だっていい大人が『殺せんせー♡』なんて恥ずいし」

 

「…………。」

 

 その2人の先生は、いい大人なのにあだ名で呼ぶのが恥ずかしいから嫌みたいで、ぐちぐち言ってるのが聞こえた。

 まあ、イリーナ先生が最初に殺せんせーのことをちゃんと名前で呼んでたのは、油断させるための演技だったし……でも、もっと年上のはずのロヴロさんは、標的(ターゲット)と呼ぶことはあっても基本殺せんせーって呼んでたような……大人でも名前で呼ぶかどうかは人それぞれってことかな?

 

「じゃあさ、いっその事みんなコードネームにして呼び合うっていうのはどう?」

 

 イリーナ先生としゃべっていて、そのボヤキを聞いていた桃花ちゃんが思いついたそれは、夏休みの沖縄暗殺旅行で出会った殺し屋さんたちを参考にしたんだそうで……確かにあの人たちは本名を隠してお互いを呼びあってたな、と思い出す。通称とか、通り名、みたいなものかな……

 

「ではこうしましょう。今から皆さんにクラス全員分のコードネームを考えてもらいます。それを回収し、先生が無作為に一つ選んだものが、皆さんの今日のコードネームです」

 

 それを聞いた殺せんせーが乗り気になって、クラスの人数分それぞれに配られた白い紙……そこに自分たちの第2の名前を書いて提出すればいいみたい。第2の名前、か……殺し屋さんたちは、毒ガスが武器の人は〝スモッグ〟、素手が武器の人は〝グリップ〟って感じで、名前を見ただけ、聞いただけで、その人の人となりがわかるものだった。

 私たちが参考にできるコードネームと言えば、それくらいだから……きっとみんなが考えるものも、本名から遠くて、それでもその人のことを言ってるとすぐ分かる、そんな感じの名前になる、ハズ。……ハズだけど……どうしよ、何かとんでもない名前ばかりになる気がするのは気のせいかな……!?

 

「アミーシャ、書き終わった?」

 

「う、うん……」

 

「……どうしたの?」

 

「その……あちこちでたくさんあって難しいとか、適当に書いちゃえ、みたいな声が聞こえてて……なんか、すごい名前ばかりになる気がするなー……って」

 

「あー……まぁ、それがそいつの印象なんだからしょうがないっしょ」

 

「……カルマ、絶対いくつか変なの書いたよね」

 

「ヒッミツー♪」

 

 ちょっと……ううん、かなり嫌な予感に襲われながらも、なんとか全員分書き終えて出席番号順に並べてまとめ、殺せんせーへ提出する。全員分のコードネーム候補が集まると、殺せんせーが紙が破れない程度にマッハを駆使して確認し、笑ったり、頷いたり、微妙な顔をしたり、えー……って顔をしたりしてるのに不安になりながらも発表を待つ。

 

「それでは、今から配りますよぉ……今日1日……名前で呼ぶの禁止ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはE組校舎の裏山の中……そこでは、29人の暗殺者によって、たった1人の標的(ターゲット)を追う、殺伐とした任務(ミッション)が繰り広げられていた。

 

「『野球バカ』、『野球バカ』!標的(ターゲット)に動きはあるか!?」

 

 殺伐と、した……

 

「まだ無しだ、『美術ノッポ』。『堅物』は今、一本松の近くに潜んでいる……『貧乏委員』チームが『堅物』を背後から沢に追い込み……『ツンデレスナイパー』が狙撃する手はずだ」

 

 ……お互いに呼んでる名前が自分たちの考えたコードネームでさえなければ、殺伐としたものになっていたんだろう、きっと。

 

 私たちは体育の授業で、早速朝のホームルームで決めたコードネームを用いたシュミレーション的な授業を受けていた。標的はお腹と背中に的を貼り付けた烏間先生こと『堅物』。暗殺者はペイント弾を詰めた銃一丁と連絡手段であるスマホを武器に、『堅物』を追い詰めようと裏山に散らばる私たちだ。

 私たち、なんだけど……予想してた通りに、やっぱりひどいコードネームをつけられた人がたくさん出てきたせいで、何かしら行動を起こすたびに精神的な何かを削られていってる気がしていた。例えば……

 

「甘いぞ2人!包囲の間を抜かれてどうする!特に『女たらしクソ野郎』!銃は常に撃てる高さに持っておけ!」

 

 ……『女たらしクソ野郎』こと、前原くん……彼は女の子をナンパしたりたくさん付き合っては浮気して振られたりと、付けられた名前そのものは大間違いってわけじゃない。だけど……これ、誰かから恨みを買ってるのかな。

 

「くっそ……『キノコディレクター』!『神崎名人』!『ゆるふわクワガタ』!そっち行ったぞ!」

 

「……逃げた場合、方向をお願いします!太陽なら『鷹岡もどき』グループ、プールなら『ポニーテールと乳』グループが近くなるはずだよ」

 

「オーケー!……っ、方向変えた!太陽!」

 

 『女たらしクソ野郎』の言葉を聞いて、私は木々の間を移動しながらスマホのマイクに口を近づける。近接特化の私は、射撃がことごとく苦手……つまり、今日の授業はかなりの苦手分野だから、もし『堅物』と相対しても勝負になるとは思えない。だから専ら妨害と撹乱で使ってもらうくらいしか役に立てない。

 代わりに情報収集、精査を得意としてるから、E組の参謀や司令官たちが立てたいくつもの作戦の中で、スマホを通して送られてくる情報を元に全員が次にどうなるかを予測しやすいようにいくつかの候補をあげる。私自身が移動偵察として木の上を駆け回ることで、情報の正確性をとにかく上げる……作戦自体を選ぶのは、実行者その人におまかせするけどね。

 

「『ホームベース』!『へちま』!『コロコロ上がり』!」

 

「やるな、『鷹岡もどき』……だが、足りない!俺に命中一発では奴には到底当たらんぞ!」

 

 聞いただけで誰なのかすぐに分かるあだ名を付けられた人たちもいれば、分かりにくい人、悪意しか感じない名前を連呼される人もいて、正直どんどん更新されていく標的の情報を聞いているとどうしても時々気が抜けてしまうのが現状……なんで自分が呼ばれてるわけじゃないのにこんなに余波が来るんだろう……。

 私は攻撃としての役割が決められてない分、まだ名前を呼ばれてないけど……これ、私が呼ばれる番になったらなったで反応できない気がしてきた。

 

 ……と、考え事をしていたら『鷹岡もどき』こと寺坂くんが1発当てたみたい。スマホからの音を聞く限り、注意を他に引き付けて自分の気配を隠し、狙撃するのに成功したって感じかな。寺坂くんほどの存在感を隠し切れる撹乱、寺坂組のみんなすごいな……

 この後、『毒メガネ』と『永遠の0』が正面に来た『堅物』を狙うために潜む草むらをかわされたとしても、その先に『凜として説教』が指揮する『ギャル英語』と『性別』が待ち受けていたはずだ。

 

「……スコープに捉えた、いつでもいい」

 

「了解。『変態終末期』と『このマンガがすごい!』、そろそろ距離を取りながらポイントまで追い込んで」

 

「了解!『中二半』、追い込むから退路を塞げ!」

 

「オーケー、……反対側頼んだよ、『天然小動物』」

 

「……、…………あ、私だった。はーい」

 

「……忘れてたでしょ」

 

「わ、忘れてないもん。すぐ配置まで移動する……OK」

 

 反応できなさそうだなって思って早速名前を忘れていたけど、笑顔で誤魔化しておいて位置につく。

 『ギャルゲーの主人公』のスナイプ可能距離に標的が入ったことを確認してから、『凜として説教』による指揮で『性別』『ギャル英語』の3人による射手の位置を特定させない射撃で一方を、背後から追い込む『変態終末期』と『このマンガがすごい!』の2人でもう一方を警戒させ、『中二半』と私……『天然小動物』が頭上を含めた退路を塞ぐ。最後の仕上げ、舞台は整った。

 

「『ギャルゲーの主人公』!君の狙撃は常に警戒されていると思え!」

 

 正確無比な『ギャルゲーの主人公』による超遠距離スナイプ……指導官である『堅物』は当然その実力を知ってるし、それが私たちの切り札だと考えてるだろう。

 まさに今、気配を完全に消した彼からの狙撃を板きれ一枚で防いでみせた。でも、それ以上に機動力のあるジョーカーがまだ潜んでいるのは予想外なんじゃないかな。

 

「そう、仕上げは俺じゃない……いけ、『ジャスティス』!」

 

「なっ……」

 

 

 

 

 

──パパパパァンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌルフフフ、さて……どうでした?1時間目の体育をコードネームで過ごしてみた感想は」

 

「「「なんか、どっと傷ついた」」」

 

「ポニーテールと乳って……」

 

「すごいサルって連呼された……」

 

「誰だよ俺の考えた奴……」

 

 まだ、1時間目が終わったばかりなんだよね……。だというのにこの精神的にくる疲れは……どうしようもないんだけど、どうにかしたい。というか6時間授業だから、これがまだまだ続くってこと……。

 今は2時間目の殺せんせー受け持ちの授業で、早速1時間目の体育を自分たちでつけたコードネームで過ごした感想を聞かれていた。みんながいろんな意味でへとへとになっている様子を見て、何故か殺せんせーは嬉しそうだ。

 

「殺せんせー、なんで俺は本名のままだったんだよ」

 

「1時間目の体育の内容は知ってましたし、君の機動力なら活躍すると思ったからです。実際、さっきみたいにかっこよく決めた時なら、『ジャスティス』って呼ばれてもしっくりきたでしょう?」

 

「うーん……」

 

 まだあんまり納得していない木村くんに対して、殺せんせーは改名手続きは比較的簡単にできると続けた。普通なら難しいことだけど、木村くんの場合は普段から〝ジャスティス〟ではなく〝まさよし〟をフリガナに当てて生活している。

 病院など、本名が必ず必要な公的機関以外……つまりそれ以外のところではかなり読みづらい名前を読みやすい名前にしている、ということで、改名手続きの条件はほぼ満たしてるんだって。それを聞いた木村くんは安心したような顔をしたけど、殺せんせーはそれでも、と続けた。

 

「もし、君が先生を殺せたなら……世界は君の名をこう解釈するでしょう。『まさしくジャスティスだ』『地球を救った英雄の名にふさわしい』……と」

 

 名は体を表す、とも言うけど、それは今回のように私たちが見た限り、見たままに名前をつけたらそうなるということ。でも、親が名前に込めた願いはともかく、大事なのはその人が人生の中で何を成したか。だから名前は人を作るとは言いきれない……その人が歩いた足跡の中にそっと名前が残るだけだ、と。

 少なくともこの暗殺が全て終わるまでは、その名前(ジャスティス)を大事に持っておいてはどうかと言われ、照れたように、でもスッキリした顔で受け入れている木村くんに、ちょっと安心した。

 

 

 ……ここで終わればいい話、今日も殺せんせーらしい授業だなー……でよかったのに。

 

「そうそう、今日はコードネームで呼ぶ日でしたね……では、先生のことも〝殺せんせー〟ではなくこう呼んでください」

 

 あぁ、そっか。烏間先生は『堅物』、イリーナ先生は『ビッチビチ』というコードネームを決めたのに、そういえば殺せんせーの分の投票はしてなかったっけ。

 自分で考えたので今から書きますね!と、ノリノリで黒板に装飾付きで書き始めた。

 

 

 

 

 

「『永遠(とわ)なる疾風(かぜ)運命(さだめ)王子(おうじ)』……と」

 

 

 

 

 無駄にキメ顔で。

 

「1人だけ何スカした名前付けてんだ!!」

 

「しかもなんだそのドヤ顔!!」

 

「にゅやッ!ちょ、いいじゃないですか1日ぐらいっっ!!」

 

 一瞬の沈黙のあと、みんなからの不満が対先生BB弾の嵐となって一気に向けられていた。

 私たちはひどい名前でも「だってー、先生は無作為に選んでますからー」とか言って変更させてくれなかったのに、1人だけ自分でかっこいいのを考えてる上に好きなのを命名できるなんておかしいしずるい。ついでに長すぎて呼ぶ気が失せそう。

 

 結局このあと満場一致で、殺せんせーは『バカなるエロのチキンのタコ』と呼ばれることになる。……長いことには変わりなかったけど、これこそ、名は体を表すの代表例だな、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝決めた通り、1日の間みんなが決めたコードネームで過ごしてみて、呼んだり呼ばれたりするたびに何かが刺さる気分になりながらも、楽しく過ごすことができたと思う。なんだかんだ順応すれば、受け入れられちゃうものなんだね。

 

「今日はなんか色々とすごい日だったね」

 

「コードネームなぁ……もっとかっこいいもんかと思ってたわ、な、『コロコロ上がり』」

 

「黙れ『野球バカ』」

 

「ひっでぇのー」

 

「ホントに通称として広まってるのは、かっこいいものばっかりなのにね……」

 

「そっちで二つ名とか有名なのあるの?」

 

「うん。私の故郷で言うなら《不動》とか《白蘭竜》とか……私は《銀》さんの名前も《東方人街の魔人》っていう異名も好きだな……」

 

「やっぱり本来かっこいいもんじゃねえか。というかそうじゃなきゃ呼びたくないわな……」

 

 思いつきで始まったこととはいえ、みんなのネーミングセンスとかを垣間見て、面白かったことに違いはない。ずっとこれからもこのまま過ごすってわけじゃない分、だいぶ気楽に言いあえてたんじゃないかな。

 まぁ、何人かなんでわざわざそんなコードネームで投票したんだって人もいたわけだけど。完全にコンプレックスを名前にされたカエデちゃんや渚くんとか。メグちゃんの『凜として説教』とか優月ちゃんの『このマンガがすごい!』とか……もはや名前じゃないよね。言い得て妙、って感じがあるのがみんな、よく見ている証拠だなとは思うけど。

 

 とりあえずカエデちゃんは今日1日なんとか我慢してたけど、今はもう終わりだからってイトナくんの意味がわからないってため息に便乗して、不満を前面に押し出しプリプリと怒ってる。多分、悪意を持って書いたものではないと思うよ……カエデちゃんが嫌がってるってことは下着泥棒の事件の時からみんな知ってるんだもん。

 怒らないで、って気持ちを込めて抱きついてみれば、カエデちゃんも抱きつき返してくれて、幸せ……と思っていたら、彼女は思い出したようにそういえば、と前置いて話し始めた。

 

「殺せんせーに聞いたんだけどさ……アミサちゃんのコードネーム候補、ある意味すごかったらしいよ?」

 

「?」

 

「アミサちゃんのコードネームって『天然小動物』だよね?……それよりも?」

 

「うん。というか……クラス全員28通りの違うことを書いてるはずなのに、コードネームのどこかに『天然』か『妹』か『小動物』って言葉が必ず入ってたって」

 

「え」

 

 何その3択、どういうこと?と思って、とりあえずこの場にいるカエデちゃんたちは何と書いたのかを聞いてみればどういうことかわかるかと思って、軽い気持ちで聞いてみたら、

 

「私は『月姫の妹』だよ。沖縄でのカミングアウトが印象に残ってたし、アミサちゃんって月が似合うから」

 

「俺『天然な妹』って書いたわ。イトナは?」

 

「『鈍感小動物』……天然を入れるかは迷った」

 

「僕は『天然記念物』って書いたかな……ちなみにカルマ君は?」

 

「『天然爆撃機』」

 

「「「一番直撃くらってるもんね」」」

 

 明らかにまともなものを考えてくれていたのは、カエデちゃんだけだった。分かるわーとか言ってる他の男子組、あんまり大差ないと思う……ねぇ、なんでカルマのそれを聞いてわかるって頷きあってるの……?当事者の私がわからないんだけど……!

 今度は私がプリプリと怒る番で、少しカエデちゃんの腕の中で拗ねていたら、彼女に頭を撫でてもらえて少し気分は浮上……したけど、今日夜ご飯食べに来るって言ってたカルマとイトナくんには夜ご飯ねこまんま出しちゃおっかな。

 

「……アミーシャ、なんか不穏な予感がするんだけど。何考えてるか聞いてもいい?」

 

「……今日の夜ご飯、ねこまんまと、予想外料理のどっちを出そうかなって迷ってる」

 

「アミサちゃん、ねこまんまはよく聞くからいいとして、予想外料理って何?」

 

「これ」

 

 ───ペラ、

 

『煉獄麻婆≪閻魔≫

▶CP+200またはCP0&瀕死』

 

「……待って、待って死ぬからやめて!!!」

 

「アミサ、俺は料理で死にたくないぞ……」

 

「カルマがよくやってる運試しだよ?勝てば元気いっぱい、負けたらおやすみなさいなだけだし……私も2人がどうなるか試してみたいな。……ね?」

 

「「悪かったから!!!」」

 

「……アミサちゃん、平然としてたけど結構ストレス溜まってたんだね……カルマ君とイトナ君で発散しようとしてないかな……」

 

「これ……2人が犠牲になってくれたらとりあえずクラス全体は守れるのか……?」

 

「アミサちゃん、おやすみなさいに『永遠に』って付かないよね……?私はそっちのが心配かな〜……」

 

「むしろ俺等だけじゃないだろ、全員相当ひどい名付けしてんだし理不尽だって!」

 

 

 

 

 

 こんな感じで私たちなりに楽しく、一生懸命前に進む毎日が続いていたのだけど……私たちは本校舎から差別されるクラス、このまま何も起きずに楽しく終われるってことはないんだ、ってことを……忘れていた。

 

 

 

 

 





「本トは『無自覚天然爆撃機』にしたかったんだけどね」

「長いわ。……あれだろ、修学旅行の……」

「あとプールに……」

「沖縄でもやらかしてた気がする……」

「「「…………」」」

「……俺はその状況を見てないから知らないが……とにかく、野放しは危険ってことか」

「「「そう」」」





「はい、夜ご飯……めしあがれ」

「「………………」」

「赤いんだけど……」

「麻婆豆腐だからね」

「…………煮立ってないか?」

「できたてだもん」

「「…………ッ、イタダキマス……」」

「……辛ッ!!」

「ッ……ッ……」

「でもおいしーでしょ?」

「そう、だけど……!」

「……生きてるな……」

「そもそも、『予想外料理』って言ったのに。そんな簡単に予想外料理なんて狙って作れないから普通の麻婆豆腐だよ……辛いのはいっぱい入れたけど」

「「………………。」」





「あ、通知だ……」

『アミサさん、E組の人じゃないですよ?』

「ふふ、だいじょぶだよ。半分くらいの人はまだ怖いけど……この中の2人は、すごく優しいもん」

『……いざとなったらアラーム鳴らしますから、言ってくださいね?』

「ありがと律ちゃん。……えっと、明日の放課後か……だ、い、じょ、ぶ、で、す……と」

『メッセージ、私も呼んでいいですか?』

「いいよ。といっても、放課後お茶しに行こうってお誘いされただけだから、変なメッセージじゃないよ?」

『いえ!行き先くらいは私でも下調べできるかと思いまして!……えぇと、「kunugi-kaze」です?』



++++++++++++++++++++


コードネームの時間でした。
オリ主に、合う名前が思いつかず……結果、いつもと変わらない感じで終わりました。でも、色々あったとは思います笑

ちなみに、オリ主がE組面々に対して書いたコードネーム候補はこちらです↓
赤羽→赤色キャット
磯貝→触覚委員長
岡島→カメラ小僧
岡野→スポーツウーマン
奥田→サイエンティスト
片岡→イケメグ
茅野→木の葉ちゃん
神埼→お姉ちゃん
木村→スピード自慢
倉橋→いきものがかり
潮田→青色ラビット
菅谷→アーティスト
杉野→野球投手
竹林→お医者さん
千葉→スナイパー
寺坂→物理リーダー
中村→姐さん
狭間→文学少女
速水→猫好き
原 →おかーさん
不破→漫画LOVE
前原→雨の日お兄ちゃん
三村→映像作家
村松→料理人
矢田→ポニテ
吉田→バイク好き
律 →ハイスペックPC
糸成→発明家

何人か、コードネームというより職業だったり見た目だったりする人がいますが、気にしない方向でお願いします。


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