無事にA組でのステージを終え、宣伝もなんとかできた……と、思う。ハッキリ言いきれないのは最後の方で思わず逃げてしまったからだ。E組の人とじゃない、けれど浅野くんたちがいる……とはいえ1人でステージに立ってることを思い出したらもうダメで、……正直、何を言ったか全然覚えてない。せっかく綺羅々ちゃんに宣伝文句、考えてもらったのに覚えてないとか……私、ちゃんと言えてたのかな……?
何はともあれE組の校舎へ戻ってきてから少しもすれば、飲食店では稼ぎ時と言えるお昼の時間帯……E組の看板メニューであるどんぐりつけ麺は、山の幸をふんだんに使ったまあまあ量のあるつけ麺なだけあって、お昼ご飯にちょうどいいと思うんだけど、はたして。
「おまたせ、いたしました……!ご注文のどんぐりつけ麺と、銀杏串焼き、川魚の燻製と塩焼き、あけびの味噌炒め、柿とビワのゼリー、です」
「うまそー!早く食おうぜリュウキ君!」
「あ!お前俺の燻製食うなよ!」
「うるせー!はしゃぐなお前ら!!……ってお前、」
「あ…………えっと……
「真尾ー!次、進藤のテーブルにこれ持ってってー!」
は、はいっ!……その、おいしいもの、いっぱい食べて……ゆ、……ゆっくり、していってくださいね。……し、失礼しますっ!」
「あ、お、おう……」
忙しすぎるってわけではないけど、開店したばかりの頃に比べればお客さんが増えたかな、という感じだ……これは宣伝効果があったんだと思っていいのかな。それに加えて山の麓で桃花ちゃんの客引き、イリーナ先生の誘惑術……2人の最強師弟コンビ恐るべし、な集客力のおかげだと思う。今も午前中に1度来たはずの因縁の高校生さんたちが、ATMでホントにお金を下ろしてきたのかまた来店の上に色々と注文してくれて、私が料理を届けたところだ。A組の繁盛っぷりや売上にはまだまだ遠く及ばないけど……リピーターさんが来てくれるなら万々歳だよね。
「おまたせしました、ご注文の品です進藤くん。……えっと、杉野くんに会いに来たのかな……?私、呼んでこようか……?」
「いや、杉野にはさっき直接会ってきたから気にしなくていい。それよりも……真尾さん、あれはワザとか?」
「……あれって?」
「さっきの高校生相手に……いや、なんでもない。……天然なんだな」
「……?」
進藤くん、何か言いかけてたのに自己完結してやめちゃったから、何が言いたかったのか私には分からずじまい…… コードネームの時といい、死神さんの時といい、みんな私を天然とかズレてるの一言で片付けすぎじゃないかな。せめてどの辺が、とか教えてくれれば気をつけようがあるのに。
「(アミサは矢田ちゃんとビッチ先生のおかげでこの繁盛っぷり、とか思ってそうだけど……)」
「(半分くらい自分目当てで来てる人だとは思ってないんだろうね……特に男性客)」
「(あの高校生なんて、真尾が修学旅行で誘拐した生徒だって気付いてたもんな……声かけられる前にキッチンから指示出して妨害した奴ナイス!)」
「(あとはメニューを勧めてる時の表情ね。本人緊張して焦って怖がってビクビクしてるだけなんだけど、傍から見るとほわほわしてる照れ顔だもん)」
「(背景を知らない、見てただけの進藤でさえ気付いたのに……あの高校生とか他の男性客から向けられる下心)」
++++++++++++++++
E組出店のメインはどんぐりつけ麺であり、イトナくんの提案した簡易イベントステージは、お客さんもまばらということで不定期に行っている……ちゃんとしたステージを準備したわけじゃないから、机の間で接客しながら、だけど。料理ができるのを待ってる人、食べながらくつろいでる人を対象にリクエストを受けた私が歌ったり、ひなたちゃんや莉桜ちゃんが動けるメグちゃんを巻き込んでE組校舎を足場にした軽い
「おーい、いるか渚ー!来てやったぞー!!」
「さくらちゃん!松方さんと園の皆も!」
そんなE組独特でのんびりとした空間に一気に増えた存在たちは……元気に渚くんへと駆け寄って抱きついたさくらちゃんを筆頭とした、わかばパークのみんなだった。あの松方さんを怪我させてしまってお手伝いをした2週間の後、ほとんどのE組生は平日は学校、休日は休日で時間が取れなくてそれきりになってしまった。だけどさくらちゃんに勉強を教える渚くん、園児たちに会いたくて顔を出す私……と、時々ついてきては子どもたちの遊び相手になってるカルマは今でも交流が続いてる。こうやって、学園祭にみんなで遊びに来てもらえるくらいにはよくしてもらってるんだ。
「でかした渚に真尾、とりあえず客数だけは稼げたな!」
「あー、たらしだー」
「おんなのてきー!」
「……お前らはあいっかわらず生意気だな!」
「「「きゃー!」」」
「ひめーげんきー?」
「うたひめ、きょうなにうたうー?」
「あ、きしだ、あそんでー!」
「い、一気に賑やかになったね」
「はっはっは、金持ち客でなくて悪かったな」
たくさんの子どもが順番も気にせずに一気に話すから、この場はとても賑やか……でも、全然嫌なうるささはなくて、楽しく明るい空間ができあがった。わかばパークに時々顔を出している私、渚くん、カルマの他にもカエデちゃんや前原くんなど、子どもがあだ名をつけるほどに懐いてる人のところには久しぶりに会えたからか子どもたちが集まっている。そのまま子どもたちと松方さん、職員さんを席に案内して、
「おお、これは絶品じゃ!」
「こんだけおいしけりゃ、売れてるでしょ?」
「……それが苦戦しててね。いいもの作っても……大勢の人に伝えるのが難しくて。アミサちゃ……さくらちゃん達には歌姫の方がわかるかな?彼女がたくさんの人の前で頑張って宣伝してくれたから、これでも最初よりお客さんは増えてるんだけど……」
「……ふーん……」
「うたひめ、これなにー?」
「きしのよめー、これはー?」
「あ、えっとね……それはサクラシメジって名前のキノコだよ。こっちは銀杏っていうの」
「はじめてみた!おいしー!」
「ホントに?ふふ、よかった」
松方さんも、園の子どもたちもおいしい、食べたことない味、おもしろいって喜んで口にしてくれてるけど……やっぱり今のところ大きく売上に貢献してくれてるのは
「……心配いらないよ。渚達は不思議な力持ってるじゃん」
「……ああ、日頃の行いが正しければ必ず皆に伝わる」
キレイに完食したわかばパークのみんなは、そう私たちを励ます言葉を残して満足げに帰っていった。
◆
「そういえば、なんでアミサちゃんはわかばパークの子どもに付けられたあだ名が2つあるの?」
「え、『うたひめ』だけじゃないの?」
「うん、なんかね……幼稚園児には『うたひめ』で、さくらちゃんたち小学生には『きしのよめ』って呼ばれてる……なんでだろ?」
「ほほう……小学生は分かってるねぇ。あの子らは、ちゃんとアミサはカルマの恋人って認識してるわけだ」
「というか作者がせっかく2つあだ名を考えたのに、片方しか使われないのがもったいないからって呼び分けに使うことにしたらしいわよ」
「不破さん、メタいよ……」
わかばパークのみんなが帰った後くらいから、少しお客さんの数が落ち着いてきてて……今は少しだけ休憩中。雑談混じりに本校舎の売り上げとかお客さんの動きとかの情報交換したり、食材集めの係として超体育着で裏山を駆け回っていたメンバーと交代したり……最初はしてたんだよ?してたのに、気づけば私のわかばパークの子どもたちから呼ばれるあだ名の話に発展していた。E組のみんなもわかばパークに通っていた頃は、どの子も『うたひめ』って私を呼んでたのに、タダ働きの期間を終えて、私たちだけ放課後や休日に通うようになってから……気づいたら『きしのよめ』って小学生組には呼ばれるようになってたんだよね……不思議だ。
「大方、子どもの前にも関わらずカルマがアミサにスキンシップ……と称してイチャついてたとかじゃないの?」
「い、イチャ……ッ!?」
「お、赤くなった。もしや心当たりがあるとかじゃ……?」
「な、ないよッ……ない、はずだもん……ッ」
「そこはちゃんと言いきろうよ……だからからかわれるんだよ」
渚くんが呆れたように私に言うけど、……正直心当たりがありすぎた。渚くんはわかばパークに行くと、基本さくらちゃんに付きっきりの家庭教師になって部屋の中にこもってるから、外で遊ぶ私とカルマの姿は見ていないだろうから。
私はあの時と同じように幼稚園児の年齢の子たちと遊ぶのが基本だけど、あの2週間と違って通うのが私とカルマと渚くんの3人しかいないというせいからか、小学生組も一緒に過ごすことが増えて……私が男の子と仲良くしてるのが気に入らないというのがカルマ本人の談。鈍いとかズレてるとか色々言われる私だけど、子どもの前なのにあそこまであからさまに肩を抱いてきたり、隙を見て……その……色々と仕掛けてきたりされたらさすがに分かるよ。というか、最年長でもさくらちゃんの小学5年生っていう年下相手に、ムキになりすぎだと思うんだけど……そこの所どうなんだろう。思わず自分の手を強くにぎりしめながら否定して……とりあえず、今この場にカルマがいなくてよかったと思う。
「からかうといえば、さ。渚、聞いたよ……髪伸ばしてた理由。悪かったね、イヤイヤやってたんなら……私がからかう時も傷つけてた?」
「あ、ぜ、全然!中村さんやカルマ君にいじられる分には」
「……そっか。でももうあんまりいじらないようにするよ」
私の反応で満足したからなのか、莉桜ちゃんがからかう繋がりで渚くんに謝っていた……渚くんのお母さんがE組に三者面談をしに来たことで、渚くんが抱えていた悩みを知ることになって……莉桜ちゃん、きっと気にしてたんだろうな。渚くんはそんな彼女の様子を見て、嬉しそうに頷いた……その時、渚くん曰く聞き覚えのある軽薄そうな声が響いたんだ。
「おーい!渚ちゃーん!アミサちゃーん!遊びに来たぜー!!」
「ゲッ、ゆ、ユウジ君ッ!?」
「あ、ホントだ……」
「ユウジ?…………あー、南の島で2人をナンパしたっていう勇気ある少年か」
教室の窓から外を見ている渚くんの背中に張り付いて様子を伺ってみれば、スマホ片手に手を振りながら近づいて来るゆーじくんの姿が目に入った。とりあえず、名指しで私と渚くんの名前が呼ばれている以上無視するわけにもいかないからと、渚くんがいきなり現れたゆーじくんに事情を聞いた。
あの夏休みの南の島のホテルで、ゆーじくんに出会ったフロアで見張りの男の人をどかした後、私たちにはホテル潜入のタイムリミットがあったからほとんど逃げるように彼の前から去るしかなかった。ほんの少しの間しか彼にはかかわれなかったけど、彼にとって忘れることの出来ない衝撃的なことだったんだろう……わざわざあの日島に泊まっていた宿泊者名簿を調べあげてこの椚ヶ丘中学校にたどり着き、偶然学園祭をやってることを知って訪ねてきたらしい。
「……律、カルマって今……」
『はい、ただいま食材調達班として裏山に出てますね!』
「ふふん、なーるほどー……っと」
「な、ちょっ、中村さんっ!」
「う……?優月ちゃん、見えないよ……っ?」
「見えなくていいのよー」
私と渚くんがゆーじくんの話を聞いていると、
そっと外された手に遮られていた視界の先には……莉桜ちゃんのものだと思われるスカートを履いた渚くんがいた。もしかして優月ちゃんは、渚くんの着替えを見なくてもいいように私の目を塞いだんだろうか。
「(今回で最後、今回で最後!)」
「(し、舌の根も乾かぬうちに!!)」
「(あいつ金持ちなんでしょ?この際、手段を選ばず客単価を上げてかなくちゃ)」
「(うぅ……)」
「(そぉーれぇーにぃー……アミサの彼氏は山奥、すぐには戻ってこれない。てことは、アミサをあのニューヨーク少年の前に出しても止めるヤツはいない!!)」
「(それこそさっきの今だよ!?年下の子ども相手に牽制するような彼氏に黙って彼女を差し出すわけ!?)」
「(バレなきゃ問題なし!)」
「(最悪だ!!)」
なにやらこそこそ言い合っている2人を見ているしかできない私はゆーじくんに向き直る……と、彼は私の格好を上から下まで確認して、他の女子と違う格好をしていることに気づいたみたい。少し挙動不審に周りを見回し始めた。
「な、なぁ、アミサちゃん。その格好……」
「あ、えと……私はみんなと同じ服装がよかったんだけど……ちょっと事情があって。マスコット役に選ばれちゃった結果、といいますか……似合わないかな……?」
「い、いやいやいやいや!!ものすごくイイと思う!!」
「ホント……?えへへ、よかった……」
「ほらほら行ってこい渚ちゃんっ!クラスの命運とアミサの無事は君の接待に託された!!」
「うわぁっ!?」
ゆーじくんとのんびりと会話を重ねていると、莉桜ちゃんによって渚くんが窓の外に蹴り出された。いきなりのことに驚いて固まっていると、優月ちゃんに私も外へ行くように促されて……どうやら2人でゆーじくんをもてなすように、ということらしい。私のことは蹴り出さないからゆっくり窓を超えればいいよってウインク付きで言われたけど、そもそも窓って出入口じゃないと思うんだけど……。
渚くんがスカートを履いてることと、私と渚くん、ゆーじくんの3人というシチュエーション……かなり久しぶりに、渚おねーちゃん復活のようです。
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ゆーじくんには話してないけど、知り合いのお客さんに見られたくない、という渚くんたっての希望で、私たちは飲食スペースから少し離れたところにある木陰に腰を落ち着けていた。嬉しそうに何枚もの写真を撮りながらどんぐりつけ麺を口に運ぶゆーじくんを横目に、私は1度席を立つ……注文してくれたモンブランができたから取りに来てほしい、という連絡が入ったから。ただ目の前で接客するメイドよりも、自分の食べるものを運んで持ってきてくれた方がより客は喜ぶと言ってメガネを光らせていたのは竹林くん……さすがメイド喫茶に通って勉強してるだけある。ただ、私は服装こそそうなのかもしれないけどメイドじゃないし、ただあのホテルで他のみんなよりはゆーじくんと接点が多かっただけの存在なのに……と言ったら、「これだから無自覚は……」とその場にいたみんなが頭を抱えた。なんで。
「えと……おまたせしました、ゆーじくん。ご注文のモンブラン、です」
「おお、ありがとなアミサちゃん!これもうまそー、写真撮っとこ!」
純粋に食事を楽しんでくれてるゆーじくんには悪いけど……渚くんが女の子じゃないってことも、この教室は普通じゃないってことも……たくさんの秘密を隠せるだけ隠し通さないと。
そう思って普通の態度を装いながら、モンブランやその他の料理の感想を聞いていた時だった。
「おーい、烏間さん!手土産だ!」
「「ぶっ!?」」
「わっ!?」
私たちがいる木陰のすぐ近くを通り、大きなキジと猟銃片手に歩いていったのは、修学旅行の時にお世話になった
だけど、私たちにとっては普通になってしまったこの光景でも、この教室の実態を知らないゆーじくんにとってはありえないもので……慌てて手に持ったスマホでどこかにかけようとしていた。殺し屋とはいえ今は仕事出来てるわけじゃないし、警察なんて呼ばせるわけにはいかない、なんとか止めなくちゃ……!そう私と渚くんで慌てて立ち上がると、木陰の隅っこになにやら文字の書かれたスケッチブックが差し出された。
「な、なんだアイツ、銃持ってるぞ……ケーサツにかけた方がいいんじゃ……!」
「わ、わー!違うの!あの人はッ」
「……あの人は?」
「じ、『地元の
「吉岡さん!?どー見ても外人だけど!?」
チラ、と覗いた顔は莉桜ちゃんで、穏便におさめられるように有り得そうな情報でごまかしを手伝おうとしてくれてるみたい。というわけで、渚くんがゆーじくんの気を引いてくれてる間に莉桜ちゃんからのカンペを私が読み、狙撃手のレッドアイさんは『日本のアニメが好きで日本に帰化した外国人』という設定になった。
「まぁ、よ、吉岡さんはどうでもいいんだよ。それのよりも……渚ちゃん、それにアミサちゃん……正直、俺のこととかどう思うわ──ッ!!?」
「ああもう……」
落ち着いたゆーじくんが、仕切り直すように真剣な顔で何か大事な話をしようとしてたみたいだったんだけど……再度同じ場所から現れた
明らかに見た目が一般人とは言いきれない人だからごまかしようもないんじゃないかとも思ったけど、なんとか『マイルド柳生って名前のお笑い芸人』に落ち着けることができた。でも、ここまで殺し屋の知り合いが連続するってことは……と、なんとなく嫌な予感というか不安がよぎって、これまで覗こうともしてなかった飲食スペースをそっと見てみたら、いろんな意味ですごいメンバーで賑わっているのに今更気がついた。……それは南の島のホテルで敵になったスモッグさん、グリップさん、ガストロさんをはじめ、E組生が知らなかっただけでこんなにいたのかと言いたくなるくらいたくさんの、殺せんせーを殺せなかった殺し屋さんたちで。
「た、たくさんいるでしょ?芸人仲間なんだ!ほら、あっちのわさび入りモンブラン食べてるのがマイルド柳生直伝のリアクション芸で!」
「奥にいる、モデルガンをつけ麺に浸して食べてる人も、ああやって口に銃口を入れるのがスリルとこだわりなんだって……言ってた、かな」
「うん、言ってた言ってた!」
「…………」
1番隠さなくちゃな
「渚ちゃんさぁ……嘘、ついてるよな」
「!!」
「親父が大物芸能人だからさぁ、すり寄ってくる奴等の顔はガキの頃からたくさん見てきた。分かっちゃうんだよ、うわべとかごまかしの造り笑顔は。……島のホテルで会った君は……そういう笑顔する娘じゃなかったんだけどな」
「…………、すごいね、観察眼……」
「すごくねーよ。いやらしい環境が育てた、望まぬ才能だ」
興味をなくしたように、何かを諦めたように、目をそらして座り込んだゆーじくんは、私たちの話を聞いて自分の出した答えを吐き捨てた。まさか、話しちゃいけないことをなんとか隠そうとしたごまかしが、ぎこちなかったとはいえ、あっさりバレてしまうとは……でも、さすがにどの部分に嘘をついてるのかまではバレてないはず。サッと渚くんと目を見合わせてどちらが話すかを決め、彼自身がゆーじくんについていた最大の秘密をバラすことを引き受けてくれた。
「……言う通りだよ、嘘ついてた。僕もね、この外見は子供の頃から仕方なくでさ、ずっと嫌だった。……けど、望まぬ才能でも、人の役に立てば自信になるって最近わかったから……今はそこまで嫌いじゃない」
「……ん?……僕?」
渚くんの言葉にゆーじくんは、なんとなく引っ掛かりを覚えたみたいだ。それに反応せず、渚くんは女の子に見えるよう気をつけていた座り方や姿勢を崩し、スカートだけどそのまま胡座をかいて座り直す。
「……ごめんね。僕、男だよ」
「…………またまたァ」
「ホント」
「…………またまたまたまたァ」
「ホントだって、嘘ついてる顔に見える?」
「…………マジかよ……え、てことは、アミサちゃんもそう、だったりとかしないよな……?」
ちょっと顔色を悪くしたゆーじくんは、恐る恐るというように私にも視線を向けてきた。そうって、私も男なんじゃないかってこと……?残念ながら……残念ながらでいいのかな?実は男っていうカミングアウトはないし、この教室の事実と素性くらいしか隠してることはないんだけど。だから私がその質問に首を横に振ると、彼はものすごく安心したように息をついて、渚くんに比べて私が嘘をついた素振りがなかったからと早口で答えた。それって、
「渚くんが嘘をついてることは知ってたけど、私は何も嘘を言わなかったから……だから、そう感じたんじゃないかな」
「そ、そうなんだ…………、……え、銃の人の事も?」
「?うん。ああやって口にくわえるのが日課で、そうするとその日の調子が分かるんだって……不思議な人だよね」
「え、や、あの……うん。……え、これって不思議で済ませていい事なのか……?」
「(確かにアミサちゃん、
不思議で済ませちゃダメなことだったのかな……ガストロさんの銃を口にくわえて銃の調子を確認するアレ。渚くんは何も言わないから判断がつかなくて、私は1人首を傾げるしかなかった。
「とと、話がそれちゃったけど……欠点や弱点も、裏返せば武器にできる。この教室で学んできたのはそういう殺り方で、この出店もその殺り方で作られていて。今日ここにいる人達は……皆、
「人は様々なものに影響を受けながら、それに与えながら生きていく存在……それが縁だと思うの。……もちろん、ゆーじくんも……私たちと縁を結んだから、こうやってまた会えたんだと思うんだ」
「…………」
「あ、で、でも、騙してたことに変わりはないし、飲食代は返すから!」
「……いいよ、いらないって。……そっか、望まぬものでも……か。はぁ……なんか自分がアホらしく思えてきた。……でも、何もせずに帰るのももったいねーし……」
「ゆーじくん……?」
「……あのさ、アミサちゃん。さっきも聞きかけてたんだけど……俺のこと、どう思う?」
私たちの言葉を聞いて額に手を当てて俯いていたゆーじくんは、そのまましばらくブツブツと何か呟きながら動かなかった。そのままポツリと呟くように再び問いかけられた質問に、最初はよくわからなくて首をかしげてしまったけど……少し考えてから答える。
「…………どう、って……私と似てるところがあると思う」
「いや、そういう事じゃなくて……って、そういや渚ちゃんもアミサちゃんはこういう子だって言ってたな……。あー……俺さ、周りには俺を通して親父を見る奴等ばっかりで、俺を見て心配して、声をかけてくれる奴って初めてだったんだ。それが、すげー嬉しかった」
「……う、うん……?」
何か答え方が違ったらしいけど……ゆーじくんはそれでも気にしないのか言葉を続ける。少し慌てた様子の渚くんが何か言ったり行動を起こしたりする前に、ゆーじくんにはそっと私の両手を取られ……
「俺的にはこの出会いをなかったことにしたくないんだよね。……あのさ、俺と付き──」
「──アミーシャ」
「あ、カルマ」
「!?」
「……あーあ、来ちゃった……」
ゆーじくんの言葉を遮るようにして、ニコニコと笑うカルマが木陰にやってきた。渚くんはなんか脱力して頭抱えてるし、ゆーじくんは私と手を繋いだまま驚いて固まってるし……これって、どういう状況なんだろう。当事者なはずの私が分かってないのって、いいのかな……
とりあえず……ここにカルマが来たってことは、連絡か何かだと思うし、そもそも割り振られてた食材調達班としての仕事が終わったんだと思う。超体育着からウエイター用にエプロン付けて着替えてるとはいえ、カルマのほっぺには泥ついてるし……急いでたのかな。
「食材集めのシフト、終わったの?お疲れ様」
「うん、ありがと。帰ってきたら中村には意味深に笑われるし変に仕事振られてムカついたから、おじさんぬのモンブランにワサビ1本仕込んできた。……で、何その状況」
「…………んーと、お話中?」
「え、あの、」
「……ふーん、……どーも、沖縄のホテルではこの子がお世話になったみたいだね」
「あ、おう……え?アミサちゃん、どういうこと?」
「どういうことって……?」
「…………結構前から止めるタイミング見計らってたんだけど……申し訳ないけどアミサちゃん本人が理解してないから僕から言うよ……ユウジ君、あの赤髪の人、アミサちゃんの彼氏」
「………………………………え。」
やんわりと繋いだままだったゆーじくんとの手をカルマにほどかれて、そのまま少し離れたところに連れてかれる。……や、あの、カルマ、まだ話の最中だったと思うんだけど……最後まで言い切った様子なかったし、多分一番聞かなきゃいけない部分を聞く前だと思うんだけど……え、聞かなくていい話なの?ゆーじくんそんなこと言ってないけど、って、反論していたらそのまま耳を塞がれた。
「な、渚ちゃん、それっていつから?!あのホテルで会った時は話してる様子からしてフリーだったよね?!」
「えっと……11月の頭くらいからかな。確かにあの時はフリーだったけど、アミサちゃんの話してた大事な人っていうのが彼……あの時ユウジ君と話して初めて少し自覚したんじゃないかな」
「めっちゃ最近じゃん!?しかもその自覚って俺のせい!?……そ、それじゃアミサちゃんがアイツに脅されてるとか!」
「あー、見た目だけなら赤髪の不良と純粋な少女だもんねー……残念ながら、ベタ惚れなのは彼氏の方だし、他人と接し方がまるで違う……というか、このクラスじゃあの二人のやり取りとかは結構名物なんだ」
「えぇ…………」
「渚くーん、好き勝手言わないでくれる?」
「事実でしょ」
「そうだけど」
「……あーもう、ホント、アホらしくなってきた……帰るわ……」
耳を塞がれてるからやり取りはわからないのだけど、渚くんから何やらゆーじくんに説明があったみたい……で、今度は彼が渚くんに代わって頭を抱えて地面に沈んでいる。話の流れが全く掴めない状況のままオロオロしていたら、ゆーじくんは荷物を持って立ち上がり、歩き出してしまった。
「え、あ……」
「……いーよ、追わなくて。それよりも、告白されそうになってたのに逃げたり助け求めないってどういうこと?」
「……え、あれって告白だったの……?」
「アミサちゃんのことだから分かってないだろうとは思ってたけど……ユウジ君、哀れすぎる……」
ゆーじくん、気づけなかった私のせいであんなにへこんでるわけだし……悪いこと、しちゃったな……。彼の去っていった山道を少しの間ぼーっと見つめたあと、ヘルプに呼ばれて私も店に戻った。
こうして、A組のステージを見てきてくれた人、わかばパークのみんな、殺せんせーによって招かれた殺せんせーを殺せなかった殺し屋たちなどで人数は稼げた1日目。……だけど、A組の集客ペースには遠く及ばないのが現実。学園祭はあと明日だけ……何か起死回生の策があれば別だけど、今からそれは難しいだろう。明日は、どうなるのかな……私たちは、A組に勝つことはできるのだろうか。最後のお客さんが帰ったことを確認して、1日目のE組のお店は閉じられた。
「ぬ……お前は少女術士、」
「あ、あの……お口直しの山葡萄ジュースです。さっき、わさび入り食べてましたよね……?お代は私、もちますし……その、」
「ああ、感謝するぬ。……あの後、目覚めないお前を少年戦士はかなり心配していたぬ……無事で何よりだぬ」
「その……私、あのホテルでのこと、最後の方全然知らなくて……気づいたら私たちの泊まってる場所にいましたし……」
「仲間が気にしなくていいと言ったのなら、それでいいぬ。……聞きたいことがある」
「……?はい」
「Yuèguāng……聞き覚えはあるぬ?」
「……〝月光〟……いえ。アミサは、ありません」
「……なるほど、把握したぬ。ならばここからは独り言だから、流せばいいぬ……俺はあの少年戦士とのタイマンで、ある戦いを思い出したぬ……きっと、近くに懐かしい気配があったからだと考えているぬ。……息災なことはわかった、それでいい」
「…………失礼します」
「り、莉桜ちゃん、頭どうしたの……!?」
「イッテテ……アンタの彼氏にガツンとね。あのニューヨーク少年がアミサか渚の女装かに好意をもってるのは知ってたのに、わざわざ送り出したからって」
「……私、全然気づいてなかった」
「アンタらしいわ。だけど心配する必要もないのにねー」
「……?」
「だってそもそも渚は男だし?アンタはアンタでカルマ以外目に入ってないわけだし……あの少年になびくはずないじゃん。だから護衛ついでに渚と二人きりで行かせたんだもん」
「……」
「ちがう?」
「ちがわない、かな」
「ん?テーブルにお金置いてあるけど……これ何だ?」
「メモもありますね……『安心したぬ、またいつか手合わせを』って…………ぬ?」
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忙しくて間が2週間空いてしまいました……お待たせ致しました、学園祭の時間〜1日目・後編〜です。
予告通り、前編から飛ばしてここにたどり着いた方でも読めるお話になってると思います。後編(1)(2)とかにならなくてよかったです。
原作からの変更点として、わかばパークへ通う人を渚とオリ主だけでなく、カルマも同行させてみました。そうしたら、年下相手にまで牽制する溺愛っぷりになってしまい、作者的に「アレ?」となってます。面白いので放置します←
もし、需要がありそうでしたら番外編でこのわかばパークへ通う3人の様子も書いてみようかな……と思ってたり。
ユウジ君、とりあえずなんかごめん。
オリ主を君の元へ行かせるためには、カルマを遠ざける必要があったわけだけど、渚は元々男とはいえ変なタイミングが重なって、彼氏持ちの女の子に告白させることになってしまった……でも、正直この流れはあの女子の時間を書いてる時から考えていたんです。
では、次回は学園祭も2日目に突入します。
オリジナル過多な2日目となりますが、楽しみに待っていてくださると嬉しいです!