暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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毎話1万字を超えるお話を書いてると、気をつけてるつもりでもちょこちょこ誤字が……報告くださる方々、助かってます!

そんな細かい誤字を見つけていただけるくらい、しっかり読み込んでくださってるのも嬉しいです!

今回も恋愛要素あるので、読んでってくださいませ!




75話 プレゼントの時間

 私たちが身につけた力の大きさを再確認し、最初にその力を身につけようとした目的がなんであれ、それは自分のためだけじゃなく他人のためにも使えるのだということを思い出した。今回フリーランニングで事件を起こし、迷惑をかけてしまったことを謝るとともに渚くんが代表してそれを烏間先生に伝えたところ、先生は私たちの出した答えを認めてくれたみたいだった。

 

 ただ、問題となったのは……

 

「この有様では……これまでのような訓練は再開できんな」

 

「股下が破れた体操服……俺のだ」

 

 転んだり何かに引っ掛けたりしない限り、体操服なんて早々破れることはない……なのに、暗殺訓練が日に日に高度になっていったことで、体操服の強度がもたなくなったんだ。暗殺教室での生活は家族にも秘密なのに、このままでは怪しまれてしまう……その対策として、これまでの頑張りへの報酬、そしてこれからも全力で取り組めるようにと烏間先生からプレゼントされたものは。

 

「本日より、体育はそれを着て行うものとする……先に言っておくが、それより強い体育着は地球上に存在しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──〝椚ヶ丘の母〟、標的は?』

 

『──私達に内緒で1人隠れてバーベキュー……ずるいわねー』

 

『──了解。性能試すついでに台無しにしてくるわ』

 

『──流石、いい性格だね。いってらっしゃい』

 

 スマホを通して自分の役割やこれからの行動を伝え、繋いでいるみんなに最新の情報が回っていく。

 

 今、標的の1番近くに潜んでいる〝椚ヶ丘の母〟が知らせてきたことによると、裏山の奥にある小さな沢の近くでは、標的が1人でのんきにバーベキューを楽しんでいるようだった。生徒に隠れて楽しんでるつもりなのかもしれないけど、煙がE組校舎の方から見えたから場所の特定はすごく簡単で……絶対高級なやつか何かだ。安いやつならクラス全員呼んで一緒にやるはずだもん。

 この作戦に参加するのは〝椚ヶ丘の母〟〝性別〟〝ギャル英語〟の3人……彼らは静かに先生の頭上になる崖の上へ登ると、〝ギャル英語〟がバーベキュー中で熱せられた焼き網の上に、何のためらいもなく背中から飛び降りた。

 

 

 

 ────ドンッ!

 

 

 

「にゅやーーーッ!!?な、なんて場所から落ちてくるんです中村さんッ!!」

 

「……すっげー……あの高さから落ちたのに、痛くも熱くもない……!」

 

「人の話を聞きなさい!」

 

「あ、ごっめーん。まあ、先生1人で楽しんでた罰が当たったんだと思っといてよ……じゃ!」

 

「えぇぇぇッ!??」

 

 〝軍と企業が共同開発した強化繊維だ。衝撃耐性・引っ張り耐性・切断耐性・耐火性……あらゆる要素で世界最先端なものを盛り込んである。重量も今までの体操着より軽く、一緒に支給した靴もバネでも仕込んであるかのごとくとてもよく跳ねる〟

 

 建物の2階くらいの高さから飛び降りても痛みを感じない衝撃耐性、バーベキュー中で熱せられた網の上でも平気な耐火性、無理な体制で暗殺を仕掛けても服の伸縮によって動きやすく破れない引っ張り耐性に切断耐性……これらの性能をまずは確認できた。

 〝ギャル英語〟の離脱とともに、崖の上から様子を伺っていた2人も静かにその場を離れていった。

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

『──こちら〝美術ノッポ〟……おぉ……準備完了』

 

『──標的位置特定……こちら〝ツンデレスナイパー〟、射撃スペース確保したわ』

 

『──予定通り、漫画読んでるぞ……狙いは〝このマンガがすごい!〟の言った通りでいいんだな?……いつでもいける』

 

『──気にしないで撃っちゃって。中古だし、もう売ったやつだし!しっかり頼むね、〝ギャルゲーの主人公〟!』

 

 電話口でシューシュー音を立てていたのは〝美術ノッポ〟による迷彩加工だろう……落ち着いているのを装ってるけど、感嘆の声が漏れてるし、実際は興奮してるんだろうな。

 標的は飲み物を準備し、椅子に座ってくつろぎながら〝このマンガがすごい!〟から買い取った漫画を読みながら鼻歌を歌っているとのこと……姿を森に紛れさせ隠した今なら、確実に殺れる。

 

 

 

 ────パァン!

 

 

 

「ひいッ!ち、千葉君ですか今のは!……にゅやッ!?ハンターとトリコの2大異世界編が両方読めない!」

 

「……よし、離脱」

 

「……あぁ」

 

 〝特殊な揮発物質に服の染料が反応……一時的に服の色を自在に変えることが出来る。全5色の組み合わせで……どんな場所でも迷彩効果を発揮する!〟

 

 適当な使い方では上手く迷彩柄にならないため、そこはまだ使いこなせないだろう人が多いけど、初陣だからこそ色彩感覚に優れた〝美術ノッポ〟が迷彩を施す。見事、姿を隠して漫画の開いたページへの狙撃に成功……先生、自分に向けられてない攻撃には、ホントに敏感じゃないんだね。

 後ろで色々言ってる声はするけど、〝ギャルゲーの主人公〟たち3人は揃って静かに離脱した。

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

『──こちら〝コロコロ上がり〟。標的は今日発売の巨乳専門のエロ本見ながら彫刻作ってるぞ』

 

『──なにぃっ!?あれの発売開始時間は授業中のはずだ!……ということは、標的は教師の特権使って手に入れたということかッ!?』

 

『──とっけん……?』

 

『──ああ!E組には英語と体育に関しては別の教師がいる……その授業時間の合間を縫って……』

 

『──〝天然小動物〟に悪影響だからやめろお前等……標的の前に蜂の巣にしてやろうか……?』

 

『──いつにも増して怖ぇーぞ〝中二半〟!てか、発端は〝コロコロ上がり〟だ!』

 

『──話を広げたのは〝変態終末期〟だ』

 

『──あ、あの、えっと……なんかごめんなさい……』

 

『──あんたたち、言い争ってないでとっとと行きなさい!』

 

 E組校舎の3年E組教室じゃない空き教室で、なにかの本を片手に首から下の彫刻作りをしている標的……ものすごく慎重にぺたぺたやってるけど、その……胸の部分にものすごく力を入れて作ってるように見えるのは、気のせいなのかな……?

 先生の特権ってなんだろ……な軽い気持ちでした質問を境に何やらスマホ越しで〝コロコロ上がり〟と〝変態終末期〟と〝中二半〟が言い合いを始めて、私じゃ止めようがなくなってオロオロしはじめた頃に〝凛として説教〟が通話に割り込んで止めてくれた。助かった……

 

 

 

 ────ガッシャァン!

 

 

 

「にゅや──ッ!?いや──ッ愛情込めたロケットが──ッ!!」

 

「…………」

 

「だからお前、黙ってると凶悪なんだよッ!」

 

「……蜂の巣」

 

「ごめんなさいッ!」

 

  〝肩・背中・腰は衝撃吸収ポリマーが効果的に守る。フードを被ってエアを入れれば頭と首まで完全防備、つまり……危険な暗殺も無傷で実行できる!〟

 

 〝凛として説教〟が言い合いを咎める声を合図に〝中二半〟と〝変態終末期〟の2人が校舎の屋根から飛び降り、ロープを使って窓に突っ込み、教室内に銃を乱射し始めた。

 〝変態終末期〟は標的が逃げる教室中にバラまいているのに対し、〝中二半〟は標的が一生懸命整えていた彫刻を跡形もなく崩す勢いで乱射してるのは……わざとなんだろうな、きっと。

 

「な、なんなんですか一体!息付く暇もないっ!」

 

「せっかくの新装備、手の内を晒すのはやめとけと言ったんだがな……」

 

 新しく手に入れた『(ちから)』を試し、殺せんせーに見てもらうために仕掛けたせいで壊してしまった窓の外へ、E組全員が揃う……私たちは全員、烏間先生からプレゼントされた超体育着に身を包んでいた。

 殺せんせーに全身全霊の教えを与えられたからには、私たちは暗殺で返す……それがE組の4月から繰り返してきた流儀だから。そして、間違えたあとだからこそ出せた答えでもある。

 

「約束するよ、殺せんせー……私達のこの「力」は、誰かを守る目的以外で使わないって」

 

「……満点の答えです」

 

 顔に大きく二重マルを出して、私たちが出した答えに満足気に笑う殺せんせー……E組が暗殺に対して決意を新たにした瞬間であり、向き合い方を考えてぶつかることを決めた時だった。

 早くも私たちが破壊した窓を修理しながら明日からの予定を言い始める殺せんせーに、もう余裕が戻ってしまったのかと少し残念に思いながらもみんな笑顔で帰路につく。

 

 

 

 

 

 ────暗い足音がすぐそこまで迫ってきていたことに、誰一人気がつかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤバい……

 

 あいつ、絶対ヤバい!

 

 とにかく、ここに隠れてやり過ごせば……

 

「あの遠距離から身の危険を直感するとは……さすがは『レッドアイ』の異名を持つ名狙撃手(スナイパー)だ」

 

 ……!!

 

 なぜ、隠れたはずのここが……!

 

 ……いや、まだ俺は肯定も何も反応していない、殺り合って五分……いや、ギリギリ生きていられるかだ。何もせずやり過ごすのが吉か……いや、

 

「ちょっ……ちょっと待てよ。なんだその『レッドアイ』って、人違いだろ?ビビらせやがって……観光先で尾行されたらそりゃあ逃げるだろ、一服つけねーと……」

 

 俺の狙撃なら、当てられる──!

 

 

 

 ────ドクン

 

 

 

 ……………な、

 

 納得、した……

 

 名うての殺し屋が次々と殺られた……〝殺し屋殺し〟

 

 あのロヴロが闇討ちでやられるなんて並の殺し屋にゃ不可能だと思っていたが……

 

 この攻撃、「見えない鎌」

 

 こいつが……伝説の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……畏れるなかれ、〝死神〟の名を……」

 

 ────次なる狙いは、この2人だ。

 

 手に持ったタブレットには、金髪の女性と黒衣の人物が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界最先端の技術が詰め込まれているらしい体操服、通称・超体育着を烏間先生にプレゼントしてもらって、それを殺せんせーに新しい私たちの力として宣言した次の日の朝。

 

 いつものようにカルマたちと登校している時、山道の入口の駐車場でちょうど車を降りたところのイリーナ先生とメグちゃん、桃花ちゃん、陽菜乃ちゃんが合流して一緒に山道を登り始めたところが見えた。いつもなら先生の出勤時間にかぶることなんてあまりないのに……珍しい。

 

「…………」

 

「アミサちゃん、いきなりキョロキョロし始めたけどどうかしたの?」

 

「お、ビッチ先生じゃん。いつもならもうちょい早くね?俺等が来るより先に車あるよな」

 

「2週間僕等のせいで出勤時間とか片付ける仕事内容が狂ったんだって、ツンデレかって表情と態度を出しながら文句言ってたよ」

 

「俺等授業よりわかばパークでのこと優先してたもんな〜」

 

「……はぁ、もう……悩むくらいなら行けばいいじゃん」

 

「え、で、でも、」

 

「ずっと毎日一緒にいるのはこれからも変わんないでしょ。今日くらいはあのビッチに譲ってあげる……ついでに言ってきていいんだよ、1番はアイツらなんでしょ?」

 

「!……う、うんっありがとう」

 

 私が手に持ったカバンと先生とで視線を行ったり来たりさせているのに気づいた渚くんと杉野くんが話し始めて、また後からでもいいか……なんて考えたあたりで、カルマが行っておいでと背中を押してくれた。

 ……正直、私たちの関係に名前がつけられた以上、一緒にいるのが前よりももっと当たり前になったのかと思ってたけど……いいんだ。それに、言っていいんだ、みんなに。

 

 タイミングを無くす前に渡しちゃいたいし、一言またあとでね、と声をかけて、先を歩くイリーナ先生と桃花ちゃんたちを追いかける。

 

「ま、待って……私も、一緒に行きたい!」

 

「あ、アミサちゃんおはよ!カルマ君達はよかったの?」

 

「うん、カルマがね『今日は先生に譲ってあげる』って」

 

「アンタ、完全に所有物扱いされてるけどいいわけ……?ホントに付き合ってないってのが不思議な距離感と仲の良さね」

 

「もー、ビッチ先生、それがうちの2人なんだからしょうがないって〜」

 

「でも体育祭でヤキモチ焼いてたしそろそろかなとは思ってるけど」

 

「…………え、と…………」

 

 みんなからこういうことを言われるのは、これが初めてじゃない。あまりにも私が鈍いせいで、これまではみんなが言ってるのは何のことだろうって首を傾げて「ま、そういう反応するよね」と言われて終わってたこと。だからイリーナ先生もみんなもいつも通りに返したつもりだったんだろう。

 だけど、今は私の事情が変わっているわけで。

 

「……なによ、その反応……まさか」

 

「も、もしかして……」

 

………………カルマと、お付き合い、することになりました………………

 

「「「えーーーっ!」」」

 

 付き合ってないのに近い距離感や接し方、というのがホントのお付き合いになったから、思わずそのワードに反応してしまった。なんて返そうか迷っているうちに、当然みんなは私の動揺に気がついちゃうわけで……ものすごく小さな声にはなってしまったけど、報告することに。

 1番最初に私が自覚をしたことを察したのはおかーさんだったけど、もともと1番恋愛相談にのってくれていたのが、このイリーナ先生放課後塾のメンバーだったし、できたら最初に報告したかったから、ある意味ちょうど良かった。だけど……私の周りだけがいきなり騒がしくなったから、数人だけど前後で山を登っていたクラスメイトたちに何事かと注目されることになっちゃった。

 

「いつ?わかばパークではまだだったよね!?」

 

「ていうかそもそもアンタ自覚してたの!?!?」

 

「た、体育祭の時……誰にも取られたくないっていうの、好きだからってことなら納得できるなって……おかーさんも、独占欲だねぇって」

 

「は、原さん私達の誰も気付いてなかったアミサの自覚に気付いてたんだ……恐るべし母の洞察力……」

 

「え、だとしても体育祭からまぁまぁ期間あったわよね?なんでそんな急展開?」

 

「えっと、その、……実は、今回の中間テストで勝負してて……勝った方のお願いを1つ聞くって決めてたの。……結果は同点だったんだけど、勝負を言い出したのはカルマだから……それで、先にカルマのお願い聞いてみたら、……その、告白をやり直すから、今の気持ちで返事してほしい、って……それで……」

 

「オーケーした、と……?」

 

「………………うん」

 

「おぉ〜っ!!」

 

「ついにカルマ君の努力が報われたのかー!」

 

「あのマセガキやるじゃない!いつまで経っても変わらないからヘタレかと思ってたわ」

 

「いつまでもヘタレてるビッチに言われたくないね」

 

「おい言い方ァ!!」

 

「しれっと割り込んでしれっと教室に行ったわねアイツ……」

 

 話しながらも足は止めず、いつの間にか玄関までたどり着いていた私たち……聞かれるとは思ってたけど、気持ちが通じ合えた経緯も聞かれて、止まりながらではあるけどしっかり話す。最初の報告こそ、いざ言うとなると恥ずかしくなって小さな声になってしまったのだけど、いつの間にかいつも通りの会話の大きさだ。

 前を歩いてた人たちは先に教室にいっちゃっただろうし、後ろにいるのは素知らぬ顔で靴をしまって私たちを追い越していったカルマと、次の日には気づいてたからこそ苦笑いの渚くんと、こちらの話し声が聞こえてやっと分かったらしい、私とカルマを指さしながら無言でものすごい驚いた顔をしている杉野くんくらいだ。

 

「ちょっと待ってテスト結果出たの一昨日じゃない!?」

 

「うわ、付き合いたてなのにこっち来ちゃってよかったの!?」

 

「……その、私が迷ってるのにカルマも気づいてたから……、あの、イリーナ先生、」

 

「は、私?」

 

 カルマと一緒に登校していたのに、わざわざ離れてこちらに来たことを不思議そうに尋ねられて、私が先生たちを追いかけてきた本来の目的を思い出した。お付き合い報告で流されて、危うく1番大事なことを忘れちゃうところだった……!

 慌ててカバンにしまっていた小さな小箱を取り出して、教員室に入ろうとしていたイリーナ先生に差し出す。リボンに挟まれたメッセージカードを見た先生が目を見開いて驚いた顔をしてくれる。

 

「お誕生日おめでとう、ございます。いつも、たくさんいろんなことを教えてくれて、ありがとうございます……っ!」

 

「……アンタ、覚えてたの?」

 

「10月10日、でしたよね……?当日にしたかったけど、会えなかったから……これまでの、いろんなお礼も兼ねて、です。……先生が喜んでくれるものとか、分からなかったから……私なんかのじゃ、いらないかもですけど……」

 

「なに言ってんのよ、貰うに決まってるじゃない!ちなみに中身が何かって聞いていいの?」

 

「『ルミナスグラス』っていうアクセサリーで、クロスベルの交換屋(ナインヴァリ)で手に入れたヤツ、新品未開封だったし……『暗闇』無効化と、命中率50%upの効果付きだから、小銃使いのイリーナ先生にはちょうどいいかなって……」

 

「サイッコーよ……!ありがとねアミサ!」

 

 4日前……私たちがわかばパークで課外授業を受けているあいだに過ぎてしまったイリーナ先生の誕生日。私たちが自分たちで責任を取るために、期間中先生たちは誰も施設に顔を見せることがなかったから、渡したくても会えなくてどうしようと思ってたんだ。

 今でこそE組の英語の先生としてここにいるけど、ホントだったら殺し屋なわけで……イリーナ先生の獲物は小銃だから、確実に当てられるお守り兼闇に惑わされないようにって願いを込めて。せっかく烏間先生って光の存在に恋をしたんだから、応援の気持ちを込めて。

 

 驚いた余韻からか少し頬を染めて嬉しそうに私の手から小箱を手に取ったイリーナ先生は、大事そうにカバンにしまってくれた。それを見た桃花ちゃんたちは、その手があった!と残念そうな顔をしていて……

 

「そっか、そうだよ今日持ってくればよかったんだよ……!」

 

「誕生日当日が過ぎちゃったから、プレゼントどうしようって思ってたんだよね……ビッチ先生、ごめんだけど私は明日持ってくる!」

 

「別に気にしなくていいわよ、ちゃんと覚えてくれてるだけ。さすが私の可愛い教え子達なだけあるわ!……それに比べてあいつは……本っ当に女心をわかってないから。結局私にはプレゼントもくれなかったし…………あのタコでさえ分かってたのに!あー、思い出したら腹が立ってきた!」

 

 最後の方は独り言のように怒りながらズンズンと1人教員室の中に入っていってしまったイリーナ先生……多分、殺せんせーも一緒になってイリーナ先生の誕生日を匂わせることは言ったんだろうけど、烏間先生からは何もアクションがなかったということかな。

 先生自身もプライドが高いし本命だからこそ不器用さを発揮して言い出せず……今日になってしまったんだろう。

 

「私達が騒ぎを起こしちゃったのも一因だよね……」

 

「よーし、また俺等が背中押してやろうかね」

 

「だな」

 

 教員室はE組の教室のすぐ隣にある……だから、私たちの会話も聞こえてたんだろう。いつの間にか先に教室にいたクラスメイトたちも顔を出していて、まだ廊下にいた私たちを手招く……まだ始業には早いとはいえ、いつの間にか他の生徒は教室に来ていたみたいで慌てて教室の中に駆け込んだ。

 

 そして時間がまだあるからこそ、話題はたった今見聞きしたイリーナ先生のこと。イリーナ先生のあの様子を見て、烏間先生に忘れられることになった理由の一端に私たちの騒ぎもあるだろうから、と協力することに決めた。

 E組にビッチと呼ばれていても、今は烏間先生へ一途に恋をしているイリーナ先生……陽菜乃ちゃんは複雑そうだけど、最後に選ぶのは烏間先生だし、大好きな先生たちが幸せな結果になるといいな。

 

 

 

 

 

「……とーこーろーでぇ。私達E組全員に対して、何か言うことは無いのかな?」

 

「……えっ」

 

 

 

 

 

 よし、みんなが盛り上がっているうちに私は静かに自分の席へ……と、思ったところで後ろから肩を掴まれた。ギギギと音が鳴りそうなくらいゆっくりと後ろを振り向いてみれば、私を捕まえている犯人はニヤーッとした笑みを浮かべた莉桜ちゃんだった。

 

「数人にだけ教えて他にはそのまま言わないとか水臭いじゃない!私も相談に乗ってた1人でしょ!」

 

「な、中村さんがというより、E組全員が2人のこと見守ってましたし、私達だって知りたいですよ……っ」

 

「あら、奥田ちゃんが前に出て言うなんて珍しいじゃない」

 

「修学旅行の時からお二人のこと見てきたんです、わ、私だって気になりますっ」

 

「真尾ー、逃げても多分意味無いと思うぞー」

 

「あとお前もだぞカルマ!しれっと通り過ぎやがって!」

 

「えー、みんなその感じ気付いたでしょ?ならいいじゃん」

 

「ダメだ!お前等のもどかしい恋愛事情はE組全員を巻き込んでんだ、収まるところに収まったんならしっかり報告しろ!」

 

「ま、それもそーだね。男子にも女子にも色々配慮してもらってたわけだしねー……ゲッスい企みもあったけど」

 

 あれだけ桃花ちゃんたちが興奮して叫んでたんだし、この感じは絶対もうみんな知ってるじゃん……!それにニヤニヤしてこっち見てるし、分かってて詳しく聞こうとしてるでしょ!?

 前までこういう事を聞かれても普通に返事できてたのに……こんなに恥ずかしいとか感じたことないのに、関係に名前がついた途端に意識してしまうのは何でだろう。私1人じゃどうしようもなくて、逃げ出そうとする体を何とかこらえて、もう1人の当事者であるカルマに目で助けを求める……私が告白の件を話したことが始まりなんだから、助けを求めるっていうのも何か変だけど。

 

「うぅ……カルマ、ごめん……」

 

「別に隠そうとしてたわけじゃないからいいよ……そもそも渚君には言ってないのになんかバレてたし、アミーシャが最初は放課後塾の奴らへ伝えたそうだったから黙ってただけだし。……と、いうわけで」

 

「わ、……っ!」

 

 話しながら近くまで歩いてきたカルマによって、私は彼の胸に寄りかかる形で肩を引き寄せられ、捕まっていた莉桜ちゃんから剥がされる形で助け出された。そのまま抱き寄せる腕に力が込められる。

 と思ったら近づく彼の顔……って、え?

 

 

 

「アミーシャは俺のだから。手ぇ出したら……ね?」

 

 

 

 思わず目をつぶったけど、ちゅ、と音を立てて離れていったのは私の鼻の頭で……み、みんなの前で口にされるかと思った……!勘違いと結局はみんなの前でっていう恥ずかしさに顔が熱くなる。

 そのまま私の頭に顎を乗せて抱き込む彼は背後にいるから、どんな表情をしてるのか見えないけど……正面にいるみんなの顔が赤かったり青かったりしてるから、ものすごくいい笑顔なのに見る人によっては怖い……みたいな感じなんだろう、多分。

 

「あー……、やぁっと堂々と俺のものって言える……」

 

「いやいや、「ね?」じゃねーし、くっつく前からほぼ言ってたようなもんじゃねーか。あと可愛くやってもお前の場合悪魔の微笑みなんだって」

 

「構いには行くけど手は出さないよ……死にたくないし」

 

「やっとかー!長かったなー!……てか渚、気付いてたなら言えよ!」

 

「むしろあの主語のないやり取りが成立するところとか、アミサちゃんの照れてるところを見てたら分かると思うんだけどなぁ……」

 

「……おめでと」

 

「おめでとう!何かあればいつでも頼りなさい!」

 

「嫌なこととか恥ずかしいこととか、ね!」

 

「…………信用なくね?俺」

 

「たった今、E組全員の前でキスしたヤツに信用あるわけねーだろ!真尾フリーズしてんぞ!!」

 

「口にしてないからいいじゃん、スメルキスだよ」

 

「場所の問題じゃねーんだわ!」

 

「見られててもお構い無しってなるくらいには手を出すの我慢してたんだろうけどね……」

 

 ハッキリ口に出して言ったり言われたりすると、……カルマと、こ、恋人になったんだってことを改めて実感してきて、今まで気になったこともなかったのに、普通にしてたはずのこの体勢が恥ずかしく感じる。

 こうやって体が触れているだけでドキドキするし……でも、離れたいとは思わないし、同時にほわほわとした暖かい気持ちも湧き上がってきて……きっと、これが幸せというものなんだろうな、なんて思いながらそっと。

 

「……カルマ、ちょっと屈んで」

 

「ん、なーに……ぇ、」

 

「「「!」」」

 

 顔に手を伸ばして屈むようにお願いすれば、近くなる顔。それを両手で引き寄せて瞼に触れるだけのキスを贈る……前みたいに、やられっぱなしの私じゃないんだから。

 

「……カルマも、私のもの、……だからね」

 

「…………っ、もー……っ」

 

 私がやり返すまでは普通の顔をしてたのに、顔を離して私なりのやり返しの言葉を贈れば、頬を染めて顔に手を当てるとそっぽを向いてしまった。

 口にキス、なんてことは、さすがに私からとか、みんなの前でとか恥ずかしすぎてできないけど……これくらいのちょっとしたお返しをするのは私でもできる。……それに、同じようなことを先にやってきたのはカルマなんだし。

 

 といっても、さすがにそろそろ、このままみんなの前に立ち続けるのは気持ち的に無理になってきたから、カルマの後ろにひっついて顔を隠しながら、そのまま席まで押して行くことにした。

 まだ私、荷物片付けてないのに殺せんせー教室に来ちゃってるんだよ……顔ピンクにしながらはわわわって震えてるんだよ……みんな気づいてるのかな……

 

「……アミサのあの反撃、さすがのカルマも想定外だったみたいね」

 

「うっれしそうにニヤけちゃってまぁ……」

 

「そんでアミサ本人は本人でやられっぱなしは悔しいの衝動でやったはいいけど、後から恥ずかしさが来た感じね……可愛い反撃、でいいのかしら」

 

「元々真尾って変に度胸あったけど、こういうのに関しては耐性なかったことないか?……ビッチ先生の指導の賜物かね」

 

「はわわわわわ……ついにE組にカップル誕生……!先生感激です!!」

 

「殺せんせーいつからいたの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず私たちのことは置いておいてもらって、今すぐに対応しなきゃなイリーナ先生の誕生日プレゼント作戦の方が優先。ということで、休み時間のたびにイリーナ先生の誕生日プレゼント用で、E組みんなが自分の出せる範囲でお小遣いを出し合う。

 その結果、総額5107円。いきなり言い出して計画を立てた割には、まあまあ集まった方だと思う。そして、クラスをいくつかの役割に分担した。

 

 1つは、イリーナ先生の気を引いて烏間先生と分断する班。烏間先生からのプレゼント、という体にしたいのに作戦会議中にイリーナ先生がそばにいたらバレちゃうからね。これは放課後塾メンバーである、桃花ちゃん、陽菜乃ちゃん、メグちゃんが中心になって動かしている。

 ……私も最初はここに入る予定だったんだけど、朝既にプレゼントを渡した身であまり要件がないのに行くのは不自然だし、自然な演技はできても他の部分でバレそうという理由から別の役割へつくことになった。うん、ウソつくの苦手だし否定できない。

 

『こちら、2人の引き離しに成功。バースデープレゼント買出し班の検討に期待する!』

 

 次に、連絡係……これは基本、律ちゃんが担当する。ただ、律ちゃんが状況を知るためには、律ちゃんの入った端末を移動させる人、もしくは情報を伝える人が必要になるから他にも何人かが動員されている。

 

 そして、3つ目が私たち4班……プレゼント買出し班だ。

 

「健闘に期待する……ったってなぁ……ビッチ先生、大概のプレゼント貰ったことあるだろ……」

 

「難しいね……」

 

「この金額で大人から大人へのふさわしいプレゼントか……」

 

 私たちが買出し班に選ばれた理由は、まずE組で1番女の子らしい有希子ちゃんがいるし、他にも私、カエデちゃん、愛美ちゃんとタイプの違う女性目線でプレゼントを選びやすそうだから。

 次に男女の割合がほぼ半分だから、両方の目線で品定めができる。

 

 あとは口達者なカルマがいるからだ。この班の仕事はプレゼントを購入したあとに烏間先生へ渡し、烏間先生からイリーナ先生へ渡るようにお膳立てするところまで……つまり、カルマくらい口が上手くないと、堅物の烏間先生が納得しないだろうという考えの元、こうなった。

 

 まあ、プレゼントが決まらないと何も始まらないのだけど……イリーナ先生ってモテるし、今までの暗殺のために付き合ってきた人からとかでたくさんプレゼント貰ってそうだし、と7人で集まってあーでもないこーでもないと相談していると、急に話しかけてきた男の人がいた。

 

「やっぱりそうだ……あのあと大丈夫だったかい?ほら、おじいさんの足の怪我……」

 

「だぁれ……?」

 

「あ……あの時、救急車呼んでくれた花屋の兄ちゃん!」

 

「アミサちゃん、大丈夫だよ、トラブルとかの相手じゃなくて、松方さんのために助けてくれた人だから。あの時はありがとうございました。一応タダ働きでなんとか許してもらえて……」

 

「そっか、大事にならなくてよかったよ」

 

 渚くんと杉野くん以外はこの人に会ってないからよく分からないけど……なんだか、安心できる雰囲気をもった人だなぁ……でも、ちょっとだけ知らない人への警戒でだと思うけど胸騒ぎがして、カルマの後ろに隠れておく。

 にこにこふわふわした笑顔で笑った花屋のお兄さんは、すぐ近くで悩んでいた私たちの会話が聞こえていたみたいで、提案するように一輪の赤い薔薇の花を1番近くにいた有希子ちゃんに差し出してきた。

 

「なるほど、花束かぁ……」

 

「ものの1週間で枯れるものに数千円~数万円……実はどんなブランド物よりも贅沢なんだ。プレゼントなんて色々選べる時代……なのに、未だに花が第一線で通用するのはなぜだと思う?」

 

 花の様子を見ながらいくつか選別し始めているお兄さんを見ながら考える……キレイだし、どんな大きさでももらって嬉しい、そして贈る人の気持ちがこもったものだから……とか?愛美ちゃんは、バラ風呂とかあるくらいだし花びらに何か人を惹きつける効能があるのではって呟いてるし、杉野くんは似合うからと有希子ちゃんを見ながら言ってる。

 それらが聞こえてたんだろう、お兄さんは考えは人それぞれだと思うけど、と前置きして赤い薔薇を中心にした大きな花束を私たちに差し出しながら話し出した。

 

「僕の考えではね……心だけじゃないんだ。色や形、香り、そして儚さが人間の本能にぴったりとハマるからさ」

 

 見た目を楽しませてくれる様々な色、1つ1つ種類によって異なる花びらの形や香り、お兄さんも言ったように儚く短い命……確かに全部花を愛でて楽しむために必要なことだと思う。電卓を持っているせいで売り込みの文句なんだろうとは察しちゃったけど、とても納得できるこの説明に、私たちからのプレゼントはこの花束に心が動いていた。

 私たちの予算は約5000円……それで作られた花束は、お兄さんのご好意で大きく色とりどりのものでまとめられていた。商売だって言っていた割にはサービスしてもらえてる気がする……バラの花って、一輪でもかなり高かったはずのに。

 

「はい、どうぞ。大きいし重いから気をつけてね」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

「いい匂い〜……」

 

「5000円の輝きですね!」

「男にゃ花の価値は分からん……」

 

「でも、あの純情ビッチは喜ぶ確率高いんじゃない?」

 

「ふふ、E組みんなの気持ちもこもってるから……きっと、イリーナ先生、も……、?」

 

 有希子ちゃんがお兄さんから花束を受け取り、その場で少し花束の美しさを先に私たちで堪能したあと、じゃあこのまま烏間先生に渡しに行こうか、と学校へ足を向けるためにお兄さんに背を向けた。

 

 その時……ううん、違う……私が〝イリーナ先生〟と名前を出した瞬間、ほんの一瞬だけ馴染みのある気配が背後を走った気がして寒気がした。

 思わず振り返ってみたけど、そこにはお兄さんがいきなり振り返った私を見て、どうしたの?と不思議そうに笑っているだけ……気のせい、だったのかな。

 

「どうしたの?」

 

「な、なんでもないよ。気のせいだったみたい」

 

「……隠し事はしてない?」

 

「……う、ん……ホントに分かんないの。すごく、嫌な感じがした気がしたんだけど……うん、多分、気のせいだよ。だって花屋のお兄さんしか、いないから」

 

「……アミーシャの嫌な予感、か。……ま、俺も一応警戒できるならしとくよ」

 

 ポン、とカルマに頭を撫でられ、揺れる頭に合わせて少し俯く。なんとなくで私自身もあまり納得していない直感を、なんの疑いもなく信じてくれているカルマ……私の直感は大抵当たるから警戒しといて損は無い、とかいうから余計に心配になってくる。ホントに、気のせい、だったのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、……あの女の子、気づいた?……はは、まさかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは花束を買ったその足で、烏間先生に渡しに行った……のだけど、私たち生徒から渡した方が喜ぶって……、先生、なんでこんなことしてるのかとかイリーナ先生の想いとか全然気づいてないよね?

 ……私もカルマに対してこんな感じだった?まさかー……と笑いたいけど、みんな真剣な顔だね、そうだったのか……こんなところで自分の鈍さを知ることになるとは思わなかった。

 

 とりあえず、何でもいいから理由を付けて渡しさえすれば、あとはなんとかなるだろう……ということで、予定通りカルマの出番。同僚の人心掌握のためにもっていう恋愛の「れ」の字もない説得だったけど、烏間先生は確かにそうだなって納得して受け取ってくれた。

 

「……律ちゃん、オーケーだよ」

 

『わかりました!では、音に出さず、文字で伝達しますね』

 

 手元の律ちゃんが電子の海を走っていったのを確認して、くれぐれも私たち生徒が準備したことは内緒だと烏間先生に言い含めて教員室をあとにする……と見せかけて、教員室の外の窓の下に身を隠す。あとから結果を知るよりも、目の前でわかるならやっぱり見たいし……それに、色々考えて私たちが選んだプレゼントだから、喜んでくれてるその顔が見たい。

 イリーナ先生が校舎へ戻ってきたのを確認して、窓の下に座っていれば、他の役割をしていたみんなも何人か集まってきていた。吉田くんがそっと教員室の窓を数センチだけ開けてくれたから、なんとなく声も響いてくる。

 

『誕生日おめでとう……遅れてすまなかったな、色々忙しかった』

 

『……うそ、アンタが?やっば、超嬉しい……ありがと』

 

 声だけでもわかる……イリーナ先生、嬉しそう。期待はしていたけど堅物の烏間先生だし、女心の理解なんて無理に決まってる……みたいな諦めもあったんだろう。ここまで喜んでもらえたなら、準備した私たちも嬉しくなってくる。

 信じられない、嬉しい、まさかアンタが、……そんな言葉を頬を染めながら本気で喜んでこぼしているイリーナ先生は、すごく綺麗で……だから、次に聞こえた烏間先生の言葉が信じられなかった。

 

『祝いたいのは本心だ。おそらくは最初で最後の誕生祝いだしな』

 

 …………なに、最初で最後って。

 

 私たちですら固まったくらいだ、正面からそれを聞いたイリーナ先生が理解できるはずもなくて。

 

『任務を終えるか。地球が終わるか。2つに1つの結末……俺達のこの仕事も、あと半年で終わるんだ』

 

 ……地球が終わっていれば言わずもがな。暗殺に成功したなら、暗殺教室が終わったあとは私も含め先生たちもみんなバラバラの進路を進むことになる。だけど、バラバラになったとしても一緒にいるということは個人の自由だ。

 なのに、烏間先生の言葉は……明らかに烏間先生がイリーナ先生との未来を考えていないものでしかなくて……この花束の作戦も、烏間先生が繋ぎ止めるために準備したのではないと見破られてしまった。

 

 教員室の様子を伺うのに最適なのは廊下側の扉と校庭側の窓だけ……なんの迷いもなく窓際へ歩いてきたイリーナ先生は一気に窓を全開にした。当然そこに隠れている私たちの姿は丸見えになるわけで。

 

「……やっべ、バレた……」

 

「……こんなことだろうと思ったわ。あの堅物が誕生日に花を贈るなんて思い付くはずないもんね。……楽しんでくれた?プロの殺し屋がガキ共のシナリオに踊らされて舞い上がってる姿見て……」

 

 ────ガゥン!

 

 イリーナ先生が足につけていた小銃を手に取り、空へ向けて発砲する……と同時に、なんか大きな塊が落下してきた。

 ……マスクとサングラスつけて、大きなカメラと照明持って、ノートに鉛筆を構えている殺せんせー……格好からしてパパラッチになりきってるんだと思うけど、一体どこにいたの……?あと、その格好ではいつもの下世話な好奇心だけで見てたんだとしか思えないから、〝純粋な好意〟での行動なんだと説明されても説得力がない。私たちの行動まで好奇心とからかいか何かでやったのだと受け取られてしまったようで……

 

「────おかげで目が覚めたわ。最高のプレゼントありがと」

 

 花束を烏間先生に押し付けるように渡すと、イリーナ先生はそのまま無言で山を降りていってしまった。

 

「烏間先生、なんか冷たくないっスか?さっきの言葉!」

 

「まさか、まだ気付いてないんですか?」

 

「……俺が、そこまで鈍く見えるか」

 

「「「え……」」」

 

 ……ごめんなさい、今までの対応見てるとそう見えてます……。でも、烏間先生はイリーナ先生からの好意をしっかり理解していたみたいで、非情だと分かっていてわざと突き放していたのだと言った。

 色恋で鈍る刃ならこの暗殺教室では必要ないし、資格もないと言い切った。返された花束をそっと机に置くその手はいつも通りのようで……少し、寂しげにみえた。

 

 

 

 

 

 明日、謝ろう。そう思った私たちだったわけだけど。……この日を境に、イリーナ先生は学校へ姿を見せなくなってしまった。

 

 

 

 

 





 ────ピシュ

……?、銃弾か……それもかなり小さい

「さすがだね、今までで初めてだよ……この『死神の見えない鎌』を初見で避けた人なんて。《東方人街の魔人》の異名は伊達じゃないね」

……、出会い頭に随分とご挨拶だな

「しかも僕を視認できるなんて……面白い。やあ、来てくれて嬉しいよ。こちらに来ていると噂があったのは正しかったんだね」

御託はいい。私の力を必要としているとか

「せっかちだね……最初は殺る予定だったけど、条件さえ満たせば君はどんな相手とも契約するんだろう?今回の仕事のパートナーを依頼したくてね」



 ────バサり



………………これは……

「どうかな?これなら君にも十分な利益があると思うよ」

…………報酬も条件も十分クリアしている、か。ならば、契約成立だ。お前が私の道を外れない限り、私はお前の手足となろう

「本当に?ありがとう。……ねぇ、契約主にも素顔は見せたりしないのかい?それとも……見せられない何かがあるのか」

……ふふ、ご想像にお任せしよう

「ふぅん……まあいいや。……よろしくね、《銀》」



++++++++++++++++++++



オリジナル要素を入れつつ、プレゼントの時間でした。あと、お付き合い報告を……したら一瞬でクラス全員に公認カップルとなりました。といっても今までの距離感からおかしかったので、見慣れた光景となるんじゃないかという気がしてます。

そしてイリーナ先生の離脱……フリースペースでは口調がわからない人達の会話が進められています。迷子です。



次回から何話かに分けて「死神編」のスタートです!




















キスの場所の意味
鼻:大切にしたいと強く思う相手
瞼:強い憧れ
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