暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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ありがとうございます!

第一部は基本毎日投稿で、第二部から組み直しが始まるので、少し更新に時間がかかるかもしれない……ですし、筆がのってどんどん更新されてくかもしれない。

今回もよろしくお願いします!




76話 死神の時間・1時間目

 

 一寸前の1つの花束を通して幸せそうな雰囲気になってから一転……イリーナ先生の小銃が火を吹いた瞬間から、私の体は震えていた。あの直前までなら平和だったし、万が一見ていることがバレただけなら恥ずかしがるイリーナ先生も見たかったんです、なんて言い訳を思えるくらい余裕があったのに。

 ……なんで、いきなりこんな……銃なんて、私にとっては身近なものでしょう……?ひさしぶりに対先生BB弾のエアガン以外の銃声を聞いたから?エアガンでも導力銃でもない……火薬の匂いを嗅いだから?沖縄旅行以来、他人から与えられる命の危険を感じたから?それとも……撃ったのがイリーナ先生だから?だから、怖くなったの……?

 

 ぐるぐると回る思考に溺れそうになりながら、ほんの少し前のなんでもない平和との落差に、自分の震える体を1人抱きしめた。イリーナ先生は殺し屋……E組(わたしたち)に馴染んでいたから、その本場の空気というものを、私はどうも忘れてしまっていたみたいだ。

 

「……明日、謝ろう。それで、ちゃんと話そう」

 

「そうだよ、別に私達、ビッチ先生をからかいたくてやったんじゃないんだから……話せば、きっと分かってくれるよ」

 

「よし、皆。今ここにいないメンバーも集めて、明日の朝謝りに行くぞ」

 

 誰もが信じて疑わなかった。イリーナ先生なら、なんだかんだと言いながらも最後には笑って許してくれると……それで、私たちは先生の恋を応援してるんだよっていう気持ちを、照れ隠しにぶっきらぼうなことを言いながらも受け入れてくれると。

 だけど、そんな機会が訪れるどころか……イリーナ先生は学校へ来なくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、もう3日だよ……?」

 

「余計なことしちゃったかな……」

 

 烏間先生は、用事がなければ基本的に教員室にこもっているけど、イリーナ先生は受け持ちの授業だけじゃなくてお昼ご飯や休み時間にも教室に顔を出しにくる。私たち生徒を下の名前で呼んだり、女同士なら女の間でしか話しづらいような話題で話したり……1番身近な歳の近い大人の人だから、お姉ちゃんのような友だちのような……そんな存在(せんせい)になっていた。

 だから、先生のいない教室はどこか寂しくて……元気がないのはE組の生徒だけじゃなくて、殺せんせーも一緒に心配そうにしていた。

 

「……烏間先生、任務優先なのも分かりますが少しは彼女の気持ちになってあげては?」

 

「……地球を救う任務だぞ。俺や彼女は経験を積んだプロフェッショナル……情は無用だ」

 

 烏間先生は厳しい……特に、先生が一人前だと判断する大人には。鷹岡先生が来た時に似たようなことを言っていた……地球を救う暗殺任務を依頼した側として私たちをプロとして厳しく対等に扱うけど、そこには先生と生徒の関係も含まれてるから、先生として当たり前の中学校生活を保証するのも仕事だと考えている、と。

 つまり、子どもとして扱われている私たちと、大人として対等な立場に置かれているイリーナ先生とでは、色々変わってくるんだろう。

 

 烏間先生は気づかないフリをしてイリーナ先生に対して非情に振舞って見せてるけど、私たちの言葉でたまに黙って考えてる時もある。先生の代わりになる殺し屋と面接があるからと教室を出ていく時にも、足取りに狂いはないのに先生の目には迷いが浮かんでいた気がした。

 

「烏間先生はああ言ってますが、内心悩み、気にしているはずですよ?自分の対応が原因でイリーナ先生が来なくなった……だが、下手に声をかけると悪化してしまうからあえて突き放したままで、と。……では!イリーナ先生に何か動きがあれば連絡を。先生これからブラジルへ行ってサッカー観戦に行ってきます!」

 

「ちょ、前半まともなこと言ってるのに後半がそれだと説得力ない!」

 

「サッカー観戦よりもビッチ先生でしょ!?……もう、行っちゃったし!」

 

 確かに前々から今日の決勝戦だけは絶対に見に行くって毎日のように言ってたけど……こんな沈んだ空気の中サラッと出ていくなんて。むしろ、私たちがあまりにも気にしてるから空気を変えようとか考えてくれてるのかな?……同僚を心配してないようにしか感じなくて、完全に逆効果な気しかしないけど。

 私は自分の席に座ったままスマホを開いたけど……送られてきている他のメッセージたちはともかく、イリーナ先生のメッセージには既読がつかないし、何度もかけた電話にも折り返しがない。このまま何も言えないまま会えなくなるとか……そんなの嫌だな。

 

『GPSや、公共の監視カメラにも気配がありません……』

 

「まさか……こんなんでバイバイとかないよな……」

 

「そんな事は無いよ。彼女にはまだやってもらう事がある」

 

「だよねー、なんだかんだいたら楽しいもん」

 

「───ッ!!!」

 

 

 

 ────ガタンッ

 

 

 

「……アミーシャ?」

 

「…………ッ……」

 

 サヨナラになる事はない、という千葉くんの言葉を否定してくれた言葉が教室中に響いたおかげで、少しだけ明るさを取り戻したみんな……なのに、私にとっては形容できない寒気が体中を走って、気づけば椅子を蹴倒して自分の席から立ち上がり、後ずさっていた。

 

「そう、君達と彼女の間には充分な絆ができている。それは下調べで確認済みだ……僕はそれを利用させてもらうだけ」

 

 突然大きな音を出し、私が慌てて立ち上がってそのまま教室後ろの壁に背をつけたまま警戒し始めたからか、隣の席に座っていたカルマも立って私の近くへ来てくれて……私はそのまま教室の前の方から自分が隠れるように彼の背中にすがりついた。

 

「何、どうしたの……」

 

……だれ……?いま、へんじしたの、だれ……ッ?!

 

「ッ!!」

 

 まるで背景のように、元からその場所にあった小物の一部のように、その人は教室に溶け込んでいた。みんなもようやく違和感に気づいて警戒する……そう、()()()()

 知らない人が私たちの教室(テリトリー)へ入り込んできたのに、それが当たり前かのように普通に受け入れていたのだから。

 

「はじめまして。僕は『死神』と呼ばれる殺し屋です。今から君達に授業をしたいと思います」

 

 ニコニコと花のような笑顔を……私たちが花束を買いに行った時と変わらない笑顔で『死神』だと名乗ったお兄さん。ありえない状況なのに、笑顔で私たちの敵を宣言してるのに、みんなが平常心で恐怖に震えることすらできない安心感……異常な空気に教室は包まれていた。

 

「花はその美しさにより人間の警戒心を打ち消し、人の心を開きます……渚君、君達に言ったようにね。でも、花が美しく芳しく進化してきた本来の目的は────虫を、おびき寄せるためです」

 

 その言葉とともに律ちゃんが送られてきたメールを表示する……少しの間律ちゃん自作のウイルス対策ソフト文字が流れたあとに開かれた写真には。

 ……両手足を縛られて箱に詰められた、イリーナ先生の姿。

 

「手短に言います。彼女の命を守りたければ、先生方には何も言わず……君達全員で僕が指定する場所へ来なさい。……ああ、来たくないなら来なくていいよ。その場合、彼女の方を小分けにして君達に届けてあげるから。その上で……次の『花』は、君達のうちの誰かにするでしょう」

 

 言っていることは物騒なのに、それは嘘じゃないのだろうと頭では分かるのに、動けない。殺気を出されて恐怖で動けないんじゃない……敵に思えないから、無意識にみんな、あの存在を受け入れてしまっているんだ。

 

「……あいつ、アミーシャの言ってた嫌な予感、そのものだったわけだ。……気配や性質が警戒できず、簡単に懐へ入り込める、か」

 

 最初は私のしたいようにさせてくれていたカルマは、この教室の中でたった1人……私だけが怯えている異常さに気づいたのか背中から私を離し、前から私の顔を抱え込むように隠して体の側面を『死神』へ向けた。

 決して背中は見せないように、かつ、何かあれば私を守れる位置に。私は彼の動きでそれに気づいていたけど、立っているだけでもやっとな震える足では、彼にされるがままになっているしかなかった。

 

 小さく彼が呟いた言葉は、肝試しの時に2人で話したことだろう……警戒()()()()、怖くないって実はいちばん怖いんだ、ということを。

 

「……おうおう兄ちゃん、好き勝手くっちゃべってくれてるけどよ……別に俺等は助ける義理なんてねーんだぜ、あんな高飛車ビッチ。第一、ここで俺等にボコられるとは考えなかったか、誘拐犯?」

 

「不正解です、寺坂君……それらは全部間違いだ。君達は思っている以上に彼女が好きだ、話し合っても見捨てるなんて結論は出せないだろうね」

 

 寺坂くんたちの凄みをなんともない事のように笑顔で流して、ぐるりと教室中を見渡した『死神』は、カルマと、カルマに隠された私を見て一瞬目を見開いた。

 他は戸惑いの目を向けるか圧倒されて動けなくなっている中……距離は1番離れているとはいえ、唯一私たち2人だけが、『死神』に対して警戒の目を向けていたから。

 

「ふうん、騙されなかった生徒が2人……、いや、最初から警戒していたのは君ただ1人だね、真尾さん。……だけど、人間が死神を刈り取る事などできはしない」

 

 

 

─畏れるなかれ……死神が人を刈り取るのみだ─

 

 

 

 バサりと投げられた百合の花束が空中を舞う……一瞬それに目を奪われた瞬間、『死神』の姿は消えていた。ミスディレクション……舞い散る花吹雪に注意が向いたそれを利用された。……多分、逃走経路は殺せんせーがブラジルへ行くために開け放して行った窓からだろう。

 

 花びらが落ち着いたあとには、教室の床に1枚の地図が残されているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前に気になって先生たちに聞いたことがある。

 

 殺せんせーは私たちE組生が暗殺を続ける限り、このE組の教師として校舎に何があっても帰ってくる……ということは、私たちが賞金首の1番近くにいるってことだから、他の賞金目当ての殺し屋たちもこのE組へと集まってくるんじゃないかって。

 その答えは、私たちが知る前に排除され、断念しているから。これまで学校へは何の襲撃もないという異様な状況に感じていた理由は、殺せんせーがプロ独特の殺気を覚えてしまうせいでこのE組教室にたどり着く前に排除されてたり、ロヴロさんの斡旋した人ではないけど昼間、私たちが校舎にいる時間帯では誰かに襲撃されて断念せざるを得なかったりしているから、なんだそうだ。

 

 そんな、殺せんせーと誰かによって守られているE組校舎……『死神』は、大胆にもそんな場所に乗り込んできた。この3日間、教員室で保管されていたあの花束の中に仕込まれた盗聴器で、殺せんせーが今日ブラジルへ行くことも、烏間先生が仕事に行くことも知ってた上で。

 

「【今夜18時までにクラス全員で地図の場所まで来てください。先生方や親御さんはもちろん……外部の誰かに知られた時点で、君達のビッチ先生の命はありません】……か」

 

「鷹岡やシロの時と同じだな……俺等を人質にして殺せんせーをおびき出すのが目的だろう」

 

「くそっ……!やっかいな奴に限って俺等を先に標的にする!」

 

 『殺せんせーは生徒を見捨てない』……これまでの暗殺や事件でも、それを利用して私たちが危険な目にあったことが何回もあった。今回の場合は1人2人じゃない……クラス全員、しかもこの状況じゃ烏間先生の力も借りられそうにもない。

 

「でもさ〜、『死神』ってほど悪い人には見えなかったよ。実はいい人でした〜ってオチは無い?」

 

「スゴいよね〜……()()思わせちゃうんだから。あいつの前じゃ多分みんながそう思う、自分が殺される寸前までね……俺だって、アミーシャが初めからこんなじゃなかったら、絶対に気付けなかった」

 

「…………ッ、……」

 

「っ!?アミサ、顔色めっちゃ真っ青じゃん……!」

 

 『死神』が去った教室……最初こそ自分の足で立っていようとしてたんだけど、支えがなくては立っていられなくて、今は椅子に座らせてもらっていた。

 ……恐怖とさっきの出来事を整理するために回り続ける思考が落ち着かなくて、上手く息ができない……それを察したカルマが背中を一定のリズムで叩いてくれている。合わせて呼吸しろってことだと思うけど、なかなか難しくて……

 

「さっきの『死神』から何か感じたの?」

 

「ちが、……ごめんな、さい……わたし、はなたば、もらったときから……おにーさんの、いやなけはい、きづい、てた、のに……」

 

「待って。アミサ、ちゃんと息してる?呼吸のタイミングおかしいよ……カルマ、」

 

「これでもさっきアイツがいた時よりは落ち着いた方。本人おかしい自覚が上手くできてないからなかなか普通に戻って来れないけど、さっきから背中叩いて呼吸のリズム取ってて……だいぶ戻ってきてる。……前原、盗聴器(ソレ)壊したんだよね?」

 

「おう、完全に叩き潰した上に水道の水ぶっかけといた。万が一生きてても水中越しじゃまともに聞こえねーよ」

 

「……ならよし、わざわざ花束の中に盗聴器を仕掛けてきたってことは俺等の情報はこれ経由でしかないってこと。警戒すべきはさっき来た時に新たに仕掛けてないかだけど……多分俺等を呼び出した以上もう新たに調べることはしないはず。でも念には念を入れたい……、……この状況で無理させるけど、アミーシャ」

 

「……うん。……みんな、私がスマホを耳に当てたら10秒だけ、絶対呼吸以外で音を立てないでほしい。律ちゃんは逆にいつも通り稼働しておいてくれる?」

 

『了解しました』

 

「「「了解」」」

 

 何ヶ月もこの場所で、私はみんなの音を、律ちゃんの稼働音を聞き続けた。それこそ、1人1人の音を覚えてしまうレベルで……さすがに殺せんせーと約束したから意識して聞き分けをやったことは無いけど。だから、E組のみんなの音はほとんど全部知っている。このE組という環境に限ってであれば、私の知っている音以外を聞き分けることで異物を見つけることは可能だ。

 ただ、盗聴器は音や光を発しないため、ただの音では聞き分けられない……だから、スマホを通して探す。私のスマホで隣のカルマへ電話をかけると耳に当て、みんなが協力してくれる中目を閉じて意識を集中させる……他に盗聴器とかがあれば、この電話を通してノイズや聞き慣れない音が入る可能性が高いはずだ。

 

「いくよ、……………………………………、ッ、ありが、とう。……この教室に、律ちゃん以外の変わった機械の音とか……聞き慣れない音とかは、ない、と思う……」

 

「オーケー。じゃあ堂々と話して問題ないわけだ。10秒とはいえだいぶ無理させた、ごめん。クールダウンのためにも少し耳塞いどきな」

 

「……うん」

 

 みんなが黙ったとしても、教室の中に満ちるのは自分を含めた28人分の呼吸音と、律ちゃんの稼働音……たった10秒でも、異物を探すために全ての音を意識して聞くのは……かなりキツイ。スマホから聞こえる通話を通しての音、反対の耳を指で強く抑えて塞いだとしても漏れ聞こえてしまう消せない音……それらを全て聞く。

 結果、聞こえてきたのは『いつもの同じ』この教室にあるべきものだけの音……よっぽどの事がなければ、盗聴器は追加でこの教室に仕掛けられてることはない。それを報告したあと、お言葉に甘えて両耳を塞いで、音の量を減らしながら俯いた。まだ大量の音が頭の中を回っていて、気持ちがザワザワする……落ち着かない。

 

 それにしても、あの時の嫌な気配……気のせい、なんかじゃなかったんだ。花屋のお兄さんが出した嫌な気配はあまりにも一瞬だったし、私自身もあの安心感に騙されて視界に入れても『この人のわけがない』って流していたから……。

 あの時、もう少し疑っていれば、この大人が誰もいないって状況くらいは避けられたんじゃないかって……、後悔とみんなへの申し訳なさとで前が見れなかった。

 

……使うか?

 

……守るために使うって決めたじゃん、今着ないでいつ着るのさ

 

ま、あんなビッチでも世話になってるしな

 

最高の殺し屋だか知らねーがよ、そう簡単に計画通りにさせるかよ

 

 耳を塞いでいても聞こえてくる、みんなの作戦会議……漏れ聞こえるそれを繋ぎ合わせれば、烏間先生から支給されたばかりの私たちの戦闘服。

 超体育着を貰ってから着たのはまだ訓練の時間数回だけだし、全て屋外……花束は教員室に置かれていたから、さすがにそこまで集音機能は無いはず。つまり、『死神』に超体育着の存在も機能も知られていない。今回は標的が殺せんせーじゃないとはいえ、動きやすさや性能はどんな服装にも勝る上、全員揃ったE組だけの戦闘服でもある。今回使うのに、理にかなってる。

 

 1つのことを集中していたおかげでか、だいぶ思考の波が落ち着いてきた……だから耳を塞いでいた手をどけて顔をあげようとした……のだけど、いきなりかなり乱暴に頭を掻き撫でられたことで、頭が大きく揺らされた。

 また俯く格好に逆戻りした、直後にバシッとはたきおとす音と「いってぇ!」という声……頭の重みもなくなったし何事かと思って、ぐしゃぐしゃになった髪を手ぐしで直しながら顔を上げると寺坂くんとカルマが睨み合ってた。

 

「ってぇな!そこまで強く叩くか!?」

 

「お前の馬鹿力でこの子の頭がぐわんぐわん揺れてんだよ。加減しろよ〝じゃいあんとぶたごりら〟」

 

「だからって爪立てながら殴んな〝中二半〟!跡残ってんじゃねーか!」

 

「お前こそグッシャグシャにする必要ないじゃん〝鷹岡もどき〟」

 

「じゃあさっさとお前がやれ!チビがへこんでると調子狂うんだよ!」

 

「……言われなくても。俺だって動揺してんだよ」

 

 ……訂正、思いっきり言い合いしてた。とりあえず会話の内容から私を撫でたのは寺坂くんだってわかったけど、寺坂くんが怒ってるのにカルマは平然としているっていうこの温度差に、思わずポカンとして見上げてしまった。あれ……今真剣に超体育着について話してなかったっけ?

 フン、とお互いに顔を逸らしたあと寺坂くんは超体育着を持って自分の席へ、カルマはしゃがむとそのまま私の肩へ手を添えて目線を合わせてきた。

 

「気にしてそうだからちゃんと言葉にして言うよ……アミーシャだけのせいじゃない。あれは誰だって疑えないよ……俺だって、元々嫌な予感がするって聞いてても全然わからなかったんだから」

 

「だけど、私がみんなにも言ってたら……」

 

「アミーシャは気にしすぎなの。……俺こそごめん、警戒しとくって言っときながらこのザマだ」

 

「な、んで、カルマは悪くなんか……ッ!」

 

「ほら、一緒でしょ?みんなが気付けなかった、それでいいじゃん」

 

 ……でも、だって、それなら。いくつもいくつも浮かんでくるのは後悔ばかりで、カルマの言葉を聞いて納得できるわけでもなくて、言いたい言葉がまともに出ないまま口がはくはくと動くだけだった。

 なかなか浮上できないこの気持ちの悪さを持て余していたら、なにか考えるようにして私たちの会話を聞いていた千葉くんがあのさ、と口を開いた。

 

「……口を挟むけどな、真尾、それって逆にすごいことだと思うぞ?」

 

「……え、」

 

「俺が、カルマが、他の奴らが、誰1人として気付かなかったことにお前だけは反応できたってことだろ?些細すぎて周りに伝えるか迷ったからカルマだけに言って、そのカルマも周りに伝えるほどじゃないって判断したんだ」

 

「頭の回転が早いカルマですら判断に迷った。それだけ相手は厄介だってことが確認できたってこと……ほら、相手が相当やり手だって情報が手に入ってる。実際対峙しても警戒できなかった奴相手に少しの取っ掛りだとしても力量の片鱗が見えた……役に立ってないってことはないんじゃないかな」

 

「千葉くん、凛香ちゃん……」

 

「ほら、行こう。後悔があるなら、その分次で挽回すればいい」

 

 バサバサと周りみんなが超体育着を手に取り、着替える準備や対殺せんせー用に準備していたそれぞれの武器を装備し始めている。中には一緒に暗殺に向かってるはずの私たちですら知らない独自開発のアイテムを手にしているクラスメイトまでいて……みんな、イリーナ先生を助けるために個々人でやれる限りの力を注ぐつもりなんだ。

 ……後悔があるなら、次で挽回……私は、みんなを危険にさらさなくてもいい未来を、警戒するきっかけを、気づいたことを黙っているという行為で壊してしまった。なら、少しでも、ほんの少しでもいい……私が、みんなを守れるなら。私は自分の信念のとおりに動くだけだ。カルマに手を引かれて立ち上がり、渡されたソレを……私の超体育着を受け取り、握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地図に示されていた場所は、住宅街から離れた林の中……人の気配は感じず、見た限りポツンとあまり大きくはない建物があるだけだ。外から見ただけでは私たち全員が入れるの?というくらい小ささだけど、形状からみて地下施設への入口とかなんじゃないかな。

 人の力だけじゃなく、一応念には念を入れてとイトナくんが作った、プロペラの音をほぼ無音にして飛行できる偵察機:イトナ3号で周囲の警戒をしたけど、特に待ち伏せなどの(トラップ)もないようだった。

 

「あの花束に盗聴器を仕込む必要があったって事は、逆に考えて、E組の情報には詳しくない可能性が高いって事……だったよね」

 

「いいか、皆。敵がどんだけ情報通でも俺達の全てを知ることはまず不可能……それがこっちの強みだ」

 

「……律、もし12時を過ぎても戻らなかったら、殺せんせーに事情を話して」

 

『……はい、皆さん、どうかご無事で……』

 

 先生たちや大人に相談できないまま、E組の生徒たちはなす術もなく大人しく捕まりに来た……フリをして、隙を見てイリーナ先生を助けて全員で脱出する。

 もうすぐ、指定された18時になる……私たちは建物へ侵入する前最後の作戦会議を終え、磯貝くんの先導で建物唯一の出入口へと向かう。

 

「……行くぞ」

 

 キィ、と静かに開けた先には下へと続く階段が……やっぱり、地下施設への入口だったんだ。ゆっくりと暗い通路を抜け、行き止まりの扉を開けるとその先は、コンクリートで囲まれただだっ広い空間だった。まるでコンテナの荷物置き場のよう……出入口も私たちが入るところだけ。

 ここまで広いと警戒する場所が多いけど、その分全員があちこちに散ればみんな一気に捕まってしまう、という事態は避けられる。磯貝くんのハンドサインを合図に、普段コンビのナイフ術の授業でお互い1番成績のいい2人1組(ツーマンセル)を組み、一箇所に固まらないように散らばった。生徒1人で向かっても絶対に勝てない……だったら、慣れているペアで対処出来る状況を作り出す、というわけだ。

 

 

 

 ────ピー……ザザッ

 

 

 

『全員来たね。それじゃ、閉めるよ』

 

 死神の声が聞こえたと思ったら、入ってきた扉が自動的に閉められた……もしものために開けておいたのだけど早速逃げ道を塞がれてしまった。

 ならば警戒するのは周囲だ……全員基本背中合わせで立ち、背後を取られないよう周りを見て行く……広い空間でもこの人数、あちこちに散らばっているから十分対応できるはず。私は自分の頭上にスピーカーとカメラを見つけて無言でペアのカルマの袖を引くと、彼もすぐに理解したようでまっすぐとカメラを見上げる。

 

「……ふーん、やっぱりこっちの動きは分かってるんだ。死神ってより覗き魔だね」

 

『皆お揃いのカッコいい服着てるね、隙あらば一戦交えるつもりかい?』

 

「……クラス全員で来る約束は守ったでしょ!ビッチ先生さえ返してくれればそれで終わりよ!」

 

 死神はカルマの挑発を全く意に介さず、カメラで見ているからこそ分かる情報で揺さぶってきた。これで答えちゃダメだ……私たちの着ている超体育着はただの服じゃない、あらゆる耐性や機能を持つ特別性だ。この情報を相手が持っていないなら、何かあった時に引っかかってくれる可能性がある……私たちを守ってくれる可能性がある。

 メグちゃんもすぐにそれに気づいて誘導に引っかかることなく私たちの要求だけを告げた。みんなで周囲を警戒しながら死神の返答を待っていると……

 

 

 

 ────ガゴン!

 

 

 

 返事の代わりに大きな音を立てて部屋全体が下に移動し始めた……まずい、周囲に何も無いのは余計な物を設置する必要が無いから……設置する必要が無いのは、部屋自体が装置そのものだから!

 私たちは最初から巨大なエレベーターの中へ誘導されていたってわけだ。揺れに足を取られかけながらも周りに何か現れないか注意を向けておく。

 

 少しずつ、壁のある一面に見えてきたのは鉄格子……そして、その向こうにはリモコン替わりだろうスマホを持った死神の姿が見えた。

 

「捕獲完了。予想外だったろ?」

 

 死神の後ろには両手を吊るされてぐったりとしたイリーナ先生の姿が見えた。体に傷があるのが見えるくらいで、少し見える限りでは眠らされているのか、抵抗して意識が落ちているのか、はたまた、イリーナ先生は……、……この線は考えたくないからとりあえずこの場では置いておこう。

 

「くっそ……!」

 

「畜生出しやがれ!」

 

「大丈夫、奴が大人しく来れば誰も殺らないよ」

 

 一箇所に集められた私たちは予想通り殺せんせーをおびき出すための人質……だけどこんなあっさりと捕まってしまうなんて。

 岡島くんや愛美ちゃん、竹林くん、メグちゃん、その他何人かを残し、それ以外のメンバーで自分の近くにある壁を叩く……ガンガン、ガンガンと響く音の中で少しでも私たちの命の危険を減らそうと、残したメンバーが死神に話しかけて気を引いてくれていた。

 

「ねぇ、大丈夫って……本当に?ビッチ先生も今は殺すつもりないの?」

 

「人質は多い方がいいからね。交渉次第じゃ30人近く殺せる命が欲しい所だ」

 

「……ッ」

 

「だけど今は殺さない、そうだな?」

 

「ああ」

 

「俺達がアンタに反抗的な態度とったら……頭にきて殺したりは?」

 

「しないよ。子供だからってビビりすぎだろ」

 

 岡島くんがビクビクしながら震えた声で死神に聞く……私たちが反抗した時にどうするのかを。……どこかから、グワァンと違う音が響いたのが聞こえた。それを確認すると、今までの怯えようが少し収まった岡島くんがほっと息をついて、

 

「……いや、ちょっぴり安心した」

 

「ここだ、竹林!空間のある音!」

 

 壁へ向かわずに部屋の中央で待機していた竹林くんが、叫んだ三村くんの元へと走って壁に指向性爆薬を貼り付けた。愛美ちゃんはそれを確認してから床にボールを……手作りのカプセル煙幕を投げつける。煙に包まれる直前、カルマを見上げ……頷く彼を見て私は体勢を低くして……

 私たちは檻に囚われたことに動揺してただ抵抗するために、壁を何とか壊せないかと叩いていたわけじゃない……最初から抜け出せる場所がないかと音を聞いていたんだ。

 

 竹林くんが専門の火薬を使った道具を持ってきていることは全員知っていたし、愛美ちゃんもいくつか使えそうな薬品などを準備していたことも見ていた。

 だから安心して、子どもらしく怯えるフリをしながら逃げ道を探すことができたんだ。死神はあれだけ檻の至近距離にいた……煙幕は爆発ですぐに晴れるけど、次は爆煙と爆風で目潰しできたはず。その隙にE組は全員脱出することに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あははっ、いいね、そうこなくちゃ!」

 

 さあ、袋小路の鬼ごっこ……キャストは私たちE組と死神と……。

 

 E組最強の先生たちがこの事態に気づくまで私たちが逃げ切るか、『死神』に対抗して勝つことができたなら……E組の勝ちだ。

 

 

 

 

 





「よし、一旦点呼だ。全員いるか?」

「……1班、いるわ」

「2班オーケー」

「3班全員いるぜ」

「4班……ちょっと待ってもう追いつくはず……」

「え、」

「……ただいま」

「オーケー、全員だ」

「真尾、もしかして……」

「『死神』の動き、みんなが逃げたあとを見てきた。ちゃんと、確認の上で残ったから安心してほしい……かな」

「う、ん、まぁ……とりあえず聞こうか」

「私たちが逃げたあと、『死神』がスマホか小さいタブレットかを確認しながら部屋を出ていった……その間、イリーナ先生のことは見てたけど、移動させられることも、その場からイリーナ先生自身が動くこともなかった。イリーナ先生の容態は分からないけど……あの檻とは別の空間がここ以外にも広くあるのは間違いなさそう」

「……了解。助かる」

「ビッチ先生が無事だったのは確認できたけど……」

「このまま無事でいられるとは保証できない」

「……あと、檻から見た限り、イリーナ先生は両手を吊るされてて……生死はなんとも言えないけど、多分あの位置から移動させられることはないんじゃないかな」

「どうして?」

「私が残ってる時点で『死神』が連れていかなかったっていうのもあるけど……人って眠ると重く感じるでしょ?あれって、抱き上げられる側がしがみつくからその分持ち上げる側に負担がいかないからっていわれてる。あと、足を怪我してるとか満足に歩けない人は逃走の邪魔になるとか……」

「あ、それマンガで見たことある!ヒロインのお父さんが人質にされたお母さんの足を撃って、犯人が逃走する荷物になるようにして動揺してる隙に逮捕!っていう!」

「それライバル誌だから!!」

「しかも映画じゃね……?」

「不破のせいで脱線したが……ともかく、俺達がすぐビッチ先生救出に動くのは死神だって想定通りのはずだ」

「すぐに動くならわざわざ動かしにくいビッチ先生を運んでまで移動させないってわけね……」

「なら、さっきの場所を探りながらいけば救出はできそうだな」

「………………、」

「…………アミサ、気になるなら言ってみな」

「……イリーナ先生、ホントに寝てたのかな……?」

「は?」

「………………」

「……ハッキリとは分からんのね。了解したわ」

「……さて、ここからが正念場だ」

『──ピー、ガガッ……聞こえるかな、E組の皆』

「「「!!」」」



++++++++++++++++++++



死神の時間、1時間目は突入して檻から脱出するまで。
オリ主もどれかの班に加わり、次は死神とのやり取りメインになります。

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