リニューアル投稿するからには前と同じにはならないように、それでいて前のお話を愛してくれる読者様も楽しめるように、今後の展開に矛盾が出ないように……いろいろ考えて書いてますが、結局は作者が自分の趣味を詰め込んでます。
闇が好きなんです、だからこの死神の時間が結構好きだったりします。
いつも後愛読ありがとうございます!
死神によって閉じ込められたエレベーター部屋から自分たちの技を駆使して脱出し、私たちは歩いても歩いても景色の変わらない通路を固まって進んでいた。
どこへ向かえば出口なのか、死神から逃げられているのか、イリーナ先生の元へたどり着く正しい道順なのか……全くわからない中、ただ学校で習ってきたことを最大限に使いながら、足を止めないようにして。
当たり前だけどここは私たちにとっては本校舎のようなもの……それよりもアウェイで、死神にとってはホームグラウンド……この建物内を熟知しているだろう。それでも私たちが逃げた室内と死神を隔てて鉄格子があったから少しは時間を稼げていると思いたいところだけど、……きっと、どこにいるかはバレバレなんだろうなぁ……
チラ、と見上げた先には天井と同じ色に隠された監視カメラと、ここから先にも数十mおきに設置されているのが見えるスピーカー……みんな、逃げるのに必死で気づいてないんじゃ……
『──ピー、ガガッ……聞こえるかな、E組の皆』
「「「!!」」」
『君達がいるのは閉ざされた地下空間だ。外に通じる出口にはすべて電子ロックがかかっている。そのロックを解く鍵は……僕の眼球の虹彩認証のみ。つまり、そこから出るには僕を倒すしか方法はないってことさ』
案の定いきなり鳴ったスピーカーの音に、死神から見られている、ということを思い出したようにみんなは足を止めた。さらに死神から告げられた事実……闇雲に逃げるだけじゃ時間は稼げても、ここから出られずに結局捕まる、ってことか……
『ふふ、そんなに怯えないでよ。僕は君達が逃げてくれて嬉しかったんだ……これだけの人数の訓練を受けた殺し屋達を一度に相手できる機会なんて滅多にない。君達全員に、僕の技術を高める手伝いをしてもらうよ』
どこからでも殺しにおいで、という言葉と一緒に沈黙するスピーカーに、私たちは何も言えなくなっていた。まるでゲーム感覚のような声は、命をかけているはずなのに楽しげで……逆に恐怖を煽ってくる。
鷹岡先生の殺意は復讐心と単純な執念で塗り固められていて、ある意味わかりやすかったのに……死神のそれは、だんだん薄くなるもの……花束を買いに行った時やさっきまでも面と向かって話していたはずなのに、顔が見えなくなっていく。
私たちが今からすべきこと、やりたいことはE組全員の安全確保、イリーナ先生の救出、そしてこの建物からの脱出だ。このまま29人が1つにまとまって動いてしまうと、この狭い屋内では何かあった時にすぐに全滅してしまう可能性があるし、何より効率が悪い。そこで、それぞれの得意分野を活かせる3つのグループに分かれて行動することになった。
「(A班は俺を含めて『戦闘』役だ。茅野は戦闘に参加せず他の班との連絡役、真尾は茅野の護衛……アーツと投擲武器を使えるお前は後方支援を頼む)」
「「(了解)」」
「(気絶させられでもしたら何度も起こしていいからな)」
「(動けなくなる方がヤバい、気にせず起こしてくれ)」
「(うん、分かった)」
「(吉田君、一応これ持ってって)」
「(んだコレ、マイクか?)」
「(万が一の状況把握のためにね。いざ戦闘になったら手が使えないでしょ)」
A班はカルマ、渚くん、磯貝くん、陽斗くん、木村くん、村松くん、吉田くん、千葉くん、ひなたちゃん、カエデちゃん、そして私の11人で編成されていて連絡役のカエデちゃん以外がバトル要員だ。この建物に死神以外の敵が何人いるのかわからない……探索は他に任せて戦い専門で行動し、場合によっては他2つの班の救援も行うことになった。
おかーさんが吉田くんになにか渡してたけど……、大きさからして受信機は付いてなさそうだから、A班から音を届けるだけの一方通行のマイクなのかも。
「(私達はビッチ先生の救出ね。基本は放課後塾のメンバーで固めたけど、気絶したままだったら私達じゃ運べないから男子よろしく)」
「(おう、その時は俺が運ぶから岡島が警戒してくれよ?)」
「(分かった)」
次にB班はメグちゃん、桃花ちゃん、陽菜乃ちゃん、有希子ちゃん、凜香ちゃん、莉桜ちゃん、三村くん、岡島くん、杉野くんの9人で、この中でいうならメグちゃんと杉野くんが戦闘要員、あと視野の広さの確保のためにも岡島くんと三村くんが動く。自力で動けないだろうイリーナ先生が心配だし、放っておいたら死神が先生を人質にしてしまう可能性もあるから、それを防ぐためにもまっすぐ向かうことになっている。
「(んで、俺等C班は情報収集だな。俺が壁になりつつ他で索敵と……イトナ、いざとなったらお前はこっち手伝え)」
「(……、……ああ)」
「(イトナ?)」
「(……なんでもない)」
残りのC班は寺坂くん、イトナくん、菅谷くん、竹林くん、おかーさん、綺羅々ちゃん、愛美ちゃん、優月ちゃんの8人でほとんどが索敵待ち伏せ推理に分析という非戦闘員な集まりだ。何かしら秀でた力を持つ人たちが集まっている反面寺坂くんがほぼ唯一の戦力だから、静かに隠れながら脱出経路などを探ることになっている。
「(監視カメラは見つけ次第即破壊で。律、各班の円滑な連絡頼んだぞ)」
『やる気しねぇ〜……死神さんに逆らうとかありえねーし。働くくらいなら電源落とす』
「「「(
「(……ここは圏外……律本体は無理でもここにいるのはモバイル版に軽量したものだから……だとしてもこの短時間で!)」
「(もしかして……教室で受け取ってた写真……変な文字が出てたよね……?)」
「(あれがハッキングプログラムだってか!?)」
「(……ううん、《銀》さんに言われたから律ちゃんはハッキング対策のプログラムを組んでたはず……あれはその文字列だと思う)」
画面の中で完全にだらけた姿の律ちゃんに、みんながありえないって顔をしている……普段、あれだけキラキラした彼女しか見ないから、ギャップがひどすぎるよ!?
こんな場所、まともなパソコンも設備もないだろうに……死神はどこまでの技術を極めてるというのだろう。教室の時点でハッキングを仕掛けられていたかもしれないけど、律ちゃんは対策プログラムを入れていた。だから本体は無事なはず……でも、それぞれの端末にまで対策はできなかったんじゃないか。
幸いハッキングされたのは各自のスマホじゃなく『律ちゃんのプログラム』だけだったみたいで、元々訓練用に入れてあったトランシーバーアプリは生きていた。他にもさっきおかーさんが吉田くんに渡していたイトナくんが作った小型マイクは、周波数さえ合わせればスマホで音を拾えるみたいだから、律ちゃんを除いたそういう手段で代用することに決まった。
「(予定外はあったけど、やることは変わらない……皆、警戒を忘れるな、散るぞ!)」
「「「(おう!!)」」」
小さな掛け声とともに、みんなが超体育着のフードをかぶって三手に分かれた。先生なしでの
みんなが気づいていなかった監視カメラを見上げて、ポケットに隠し持ってきた武器を構え……
────ジャッ……ガッシャン!
「…………よし、」
「(何の音!?……あ、)」
「(カメラ、ひとつ見つけたから……つい。A班にカメラに強い人いないから分かんないけど、……壊れた、かな?)」
「(あっぶねー……あれは気づかんかったわ。火花出てるし壊れた判断でいいんじゃね?)」
「(お手柄。でも黙ってやるなよビビるから……)」
「(……ちなみにどうやって壊したの?あそこ、かなり高いと思うんだけど……)」
「(ふふ、磯貝くんも言ってたでしょ。私もみんなに秘密で投擲用の武器、持ってきてるの。……渚くんと一緒だよ)」
「(うぇっ、なんで知ってるの!?てか知られてたら秘密の意味……)」
「(偶然だよ、……だって、秘密兵器は『秘密』だから強いんだもんね)」
「(…………?)」
「(ていうか、何があるか分かんないんだからフード被っときなよ)」
「(……ん、そだね……)」
思い切り投擲した
……よし、私が壊したのは知られたけど、私がどうやったのかは見られてない。あと、やっぱり私は遠距離攻撃なら銃よりも投擲の方が命中率がいい……銃よりもあってる。それを再確認して、回収した武器を服の上から軽く押さえた。
◆
E組は沖縄のホテル潜入で学んだんだ、……殺し屋は正面戦闘を得意としていないし、1対多数には対応しきれないということを。
烏間先生が訓練のたびに言ってることだけど、私たちは暗殺者であり戦闘を学んでいるわけじゃない……たった一撃、殺せる技を叩き込む方法や過程を学んでるんだ。同じ立場である死神だって、きっと不意打ちを狙ってくるはず……だから、数で勝るE組が有利だ。そう考えての警戒だったのに、
────カツーン……カツーン……
「真正面から来やがった……!?」
予想外に私たちの進行方向から靴音が響いてきた……つまり、隠れもせず正面から堂々と死神はやってきたんだ。
「……少しでも守りを固めるからその場にいて……土の守り≪
すぐに私は連絡担当でバトル要員ではないカエデちゃんを後ろに隠して駆動済みの導力器を発動させれば、以前寺坂くんにかけた時と同じように地面から光の壁が浮かび上がり、みんなの体に吸い込まれていった。防御力を上げるアーツ……その効果はみんなが目にしてるからお墨付きだ。それを確認した残りの全員が前に出て警戒を向ける。
私は導力器での遠距離、回復要員であり、いざと言う時の近接戦闘も担当することになっているオールラウンダーだ。……今は後衛で、言い方を変えればカエデちゃんの護衛要員。
気配の動きを探ってみると、すぐそこにいるのに、雰囲気がとてもぼやけているように感じて……見えるけど次の動きが読みにくい、死神はここまで高い
「バカが!」
「ノコノコ出てきやがって!」
村松くんと吉田くんがスタンガンを手に、死神に向けて特攻をかけた。まっすぐ死神の気配にぶつかった……はず、なのに、そのまますり抜けてしまい、2人は疑問を浮かべる間もなく背後から殴られて昏倒してしまった。
「……殺し屋になって一番最初に磨いたのは……正面戦闘の技術だった」
音もないくらい静かに移動した死神は、次に木村くんを殴り飛ばす……何が起きたのか、本人も理解出来なかったんじゃないかって程のスピード、そして相手が訓練を受けているとはいえたかが学生に対しての躊躇いのなさ。……これが、世界一と言われる殺し屋の強さなのか。
「3人とも……ッ」
「殺し屋には99%必要のない技術だが……これが無いと残り1%の標的を殺り漏らす。世界一の殺し屋になるには必須の技術だ」
……私たちの分析はある意味正しかった……予想通り、正面戦闘をあまり重要視する殺し屋はいないんだ。ただ、徹底的に、そして高い成功率を誇る暗殺を行うにはその技術もないといけないから、という理由でこの死神に関しては独自に極めたということなんだろう。
ホテルで戦ったおじさんぬも武器に素手を選択していることで近接戦闘を嗜んでいるみたいだったけど……やっぱりそんな戦い方をするのは異例なのかな。……いや、今はそれどころじゃない。
「……駆動完了……浄化せよ、≪
「ぐっ……サンキュ、真尾……!」
「いってぇ……」
「ほう、気絶解除アーツか……」
村松くんたち倒された3人をそのままにしておくわけにはいかない……死神という強敵の前で気絶したままだなんて、いつでも殺してくださいと言っているようなものだ。最初に特攻した2人が倒れた瞬間に駆動し始めていた導力器を構え、戦線復帰までは無理でもせめて意識回復、もしくは応急処置だけはしようとアーツを発動させる。
無事に3人とも意識が戻ったようで、小さいが声が聞こえる。本当ならこのまま回復アーツで体力も戻してあげたいところだけど、駆動後の若干の硬直があってすぐに対応できないのが歯がゆい……!
「ごめん、応急手当でしかないから……っ離れて、」
「でも、僕からしたら弱いね」
「「「ガッ!?」」」
「……吉田、村松ッ!!」
「木村君!」
なのに、死神はすぐさま回復させたばかりの3人の意識を刈り取ってしまった。これでは、本末転倒だ……体力回復を優先させた方がよかったのかもしれない。
「もう一度……今度は体力回復のアーツで、ここから離れられるように……」
「ねぇ。」
突然すぐ目の前に迫る真っ黒な気配を感じた。
「動けなくなった非戦闘員を殺されないように回復するのは分かるけど……何度も気絶から回復
「……………………ぇ……………………」
「君は戦いというものに慣れすぎている。だからこそ、一般人にとっては気絶することは当たり前じゃないという感覚が無いんだろ?それともそれを合理的な方法だと疑ってないのか……どこか人の中で生きる割には壊れてる子だね、……違うか、そう調整されてるのかな」
そんなことない、意識を失うなんてことが当たり前にあっていいわけない、分かってる、それに頼まれたから意識回復をしたわけで……当たり前じゃないから回復してここからすぐに離れられるように……でも、この死神相手に、強敵相手に回復させたところでまた倒されたら結局は……でも、放置したら危険なことに変わりない、じゃあ、倒れたままがいいってこと……あれ、あれ……何が正しいの、おかしいの、……私のせい……受けなくていい攻撃をくらうことになったのは、私が壊れてるから?
……私が、壊れてる?……調整……、……頭が、痛い。
「─────────ッ、ちがう、違うッ!私は壊れてなんかない!≪
「っきゃ、」
「へぇ……真尾さん、君はこれに反応できるんだ。そして、やっと攻撃アーツを出したね、……そうそう、非戦闘員の回復より攻撃することを優先しなくちゃ、僕はいつまでたっても倒せないよ?」
反射的にカエデちゃんの体を抱えて横に飛び退きながら、ほぼゼロ駆動で詠唱したのは、幻属性の攻撃アーツ……なのに、発動した感覚がない。
バランスを崩したカエデちゃんを支えながらさっきまで私たちがいた場所を見ると、腕を振り抜いた格好の死神の姿が……まさか、アーツキャンセル……?それに、烏間先生も真っ青なスピードで前衛にいた人たちが誰も反応できていなかった……全員の間を抜いてきたってこと……
「アーツの威力は強大だ。地点指定以外は確実に当たることも魅力的……だが、詠唱さえ妨害してしまえば発動しない。どんな相手でも殺せなくちゃ、世界一なんて名乗れない……だったら存在し得る全ての攻撃手段に対処出来るようにすればいい」
「……なんで、私の役割は守ること、守らなきゃ、私は──だから間違ってない……でも、まちがえた……?イヤ……こんな声、知らない、しらない……私じゃない……ッ!」
少し離れたところとはいえ、すぐ近くにいるはずの死神の言葉が、よく聞こえない。今の状況を考えられるくらいには頭はクリアなはずのに、ガンガンと痛む頭と、知らないはずの声が頭の中に響く……フラッシュバックのような感覚に、今、私がどこに立っているのかが分からない。頭の中を整理しようと言葉を口にするけど、自分が何を言ってるのかも、よく分からない。
「アミサちゃん、私達が言ったんだよ間違ってない!ここで止まっちゃダメ、……アミサちゃん!」
「は、あ、……う……ッまも、らなきゃ……」
「茅野ちゃんの声が聞こえてない……!?」
「はは、トリガーは引けたみたいだね。……君の過去なんて知らないよ、ここまでの反応とこれまでの対峙を通して君という人物像を読みとっただけさ。それでも君も自覚していなかった過去のトラウマを刺激するには十分だ────その反応、そういうことだろ?」
「っ……ぅアッ!」
「……え……ッ……あっ、が……」
「おっと、アバラ折っちゃったか……女子は流石に脆いな。残りの人質はもう粗末に扱えないね」
混乱した頭では今の状況が曖昧で、何も意志を持って考えられない中……唯一隣の女の子を守らないといけないって、私自身の体を使って壁になったのに。死神は一気に私を壁に向かって吹き飛ばし、私という壁を失ったカエデちゃんの体を容赦なく蹴りあげた。メキバキベキ、と骨が軋むような、砕けるような……そんな嫌な音が彼女から響いたのが聞こえた。
◆
カルマside
……その光景を見ているしかなかった俺は、距離が離れているはずなのにそれに圧倒されて動けなかった。死神にアミーシャが壁に吹き飛ばされ、蹴りあげられた茅野ちゃんからは嫌な音が聞こえて……彼女たちが攻撃を受ける前に、俺達が守らないといけなかったのに……反応できなかった。
1人じゃ歯が立たない相手なのを分かっていたからこそ、隙が全く見つからなくて飛び出すこともできなかった。
「この中で1番実戦というものを知っている君を早めに壊す必要があったからね。死神として極めてきた力を見せつけるのもいいけど、精神的に崩してやった方が対処は容易い」
アミーシャは、E組に来る前に信頼していた大人に裏切られたって経験から、1度心のどこかを壊している。感情を上手くコントロールできなくなって、人間不信になって……だから、精神的に脆いところがあるのは分かっていた。
だけど、最近はE組の存在、殺せんせーたちの存在のおかげでその脆さを克服してきたように見えていたから、……油断した。死神が教室に来た時にもおかしくなってたのに……こうなることを想定できなかった。それ以上の警戒のできなさによって、させてもらえなかった。
今のだって俺等が最初から「気絶したら起こしていい」って言っておいたからアミーシャはその通りに行動しただけ。それに対して死神はいろんな言葉を投げかけて……どれかが、アミーシャのトラウマをフラッシュバックさせ、次を予測しやすい単純な行動を取らせた。それこそ、すぐ隣にいた茅野ちゃんの声が届かないくらい……混乱の中、何故か一致した『守ること』だけを遂行しようとするくらい。
「どいて、皆……僕が殺る」
静かに、殺気というよりも怒気を前面に押し出して渚君が足を踏み出した。右手に本物のナイフ、左のポケットにはスタンガン……あの、沖縄での鷹岡との対峙のあと……俺は渚君から『猫騙し』の種明かしを聞いていた。
武器を二つ持ち、相手が手練であり、死ぬ恐怖を知っていることを条件に発動できる『
チラ、と倒された倒された彼女達へ視線を移すと……うずくまった茅野ちゃんは死神の死角になる位置で大丈夫だとサインを出しているのが見えた。さっきのバキバキという音は超体育着の防御機能……ダイラタンシー防御フレームが正常に働いた音だろう。
「(……アミーシャは、)」
頭を打ったのか壁に寄りかかって項垂れるように座り込み、顔に髪が影を作っている彼女の表情は全く見えない……だからフードを被っておけって言ったのに。あの位置じゃあ意識の有無を確認することすら出来ない……本当なら今すぐ彼女のところへ駆け寄りたい。
だけど、きっと彼女はそんな行為は否定するんだろう……今はそんな場合じゃない、自分なんかよりも標的を倒すことを目指せと言うと思う。だからこそ、その願いに答えるつもりで渚君の怒りと殺気の裏に俺自身の激情を押し隠し、この一撃に全てを乗せる……!
────パァン!
……、……なにが、起きた……?
動きを見せない死神に、ナイフを振るうよりもと渚君は鷹岡に仕掛けたのと同じ『猫騙し』を撃つという選択肢をとって、まさにナイフを手放して両手を構えていたはずだ。だけど両手が合わさる前に……死神の両手から先に音が響いたんだ。
まるで麻痺したかのように硬直した渚君を見て、驚愕に思わず固まっていると……俺の背後にアミーシャ曰く嫌な気配が静かに移動してきたのに気付く。
「(あー……こりゃ無理だ)」
一瞬で悟った……死神と俺の、俺等の実力差を。こいつにとって、抵抗したところで痛くも痒くもないんだろうということを。
直後、体中へ走った衝撃と詰まる息……自分が床へ倒れこんでいると分かった時には、体は指一本まともに動かせそうになかった。徐々に沈み、朦朧としていく意識のどこかで、死神の静かな声が響く……
「さァて、人数が少ないし……彼の言うとおり班別行動か。次の班には何を試そうかな……?」
その声が聞こえてぼやけた気配が消えた後、うっすらと……、
「……ごめんね、少し整理できた。……みんなのことは、私が守るから……」
……ありえないはずの姿が、一度だけ俺等を振り返ったあとに死神を追いかけていくのが見た気がしたのを最後に、俺の意識は暗転した。
◆
イリーナside
ドサリと目の前に最後の生徒が倒れた。確かに私はハニートラップを得意としている暗殺者だから、単純な戦闘力だけならこの子達には勝てないかもしれない……この子達と違って、毎日タコを殺すためだけの訓練をしてきたわけでもないし。
だけど半年も一緒に過ごしてきたから私の事をよく知っている子ども達、私なんかを心配してきた可愛い生徒達だからこそ、情に訴える方法で十分無力化することができた。……ずるいと言われてなんぼよ、私とは修羅場を潜ってきた経験が違うのだから。
「……なんだ、君1人に負けちゃったか」
「アンタの言う通りだったわ。やっぱりこの子達とは組む価値がない」
「そういうこと、住む世界が違う。この子達が透明な空気を吸っている間……僕等は血煙を吸って生きてきたんだ」
……そう、世界が違う……アンタともよ、カラスマ。死神の言葉で、私のいるべき世界はやっぱり血にまみれたものなのだと思い直したその時、そういえば以前死神と同じような事を言ってきた子がいたのをふと思い出した。
【イリーナ先生は、殺し屋。烏間先生は、防衛省で働く人……だから、イリーナ先生に教えてほしくて】
【違う世界に住む人を好きになっても、いいんですか……?】
……あの子は、私が死神に自覚させてもらうよりも前に『表の世界と裏の世界の生きる世界の違い』というものを心配していた……あれは、これのことを言っていたのかしら?
……でも、あの時のアミサからのメッセージは
「……フン、『今回の仕事のパートナーをお願いしたい』、か……別に私がいなくても彼女で戦力は十分じゃないか?」
「!!」
何も無いように見えた……いえ、実際に何も無いわね……そんな空間を歪めるようにして現れた黒衣の人物、《
「あぁ、今来たの?遅いじゃないか、既に半数近くの無力化が終わってるよ」
「子どもたちがここへ来る頃には中で待機していた。それにお前が私に来るよう依頼で指定してきたのは、無力化を進める最中……今だろう?……加えて意図的な彼等の進路誘導に、分かれたグループ数と詳細のリーク……契約分の働きはしていると思うがな」
「……まあね、死神の技術を高めるために僕が戦いたいって言ったんだし」
「ま、待ちなさいよ死神!なんで彼がいるの?」
死神との会話を聞く限り、彼は死神と契約を結んでここにいるのだろう……《銀》は契約をするまでが厳しい代わりに、結びさえすれば契約内でしっかり働く暗殺者だ。
聞いていれば、この建物内にもE組の子ども達が潜入した時からすでに居たという……気絶したフリをしていた私はともかく、隙無く警戒していたはずの死神にさえ気付かせないその隠密スキルの高さは、流石としかいいようがない。
「あぁ、イリーナは面識があるんだっけ。せっかく彼が日本にいるって噂を聞いたんだ、一度《銀》の暗殺技術っていうものを見てみたくてね。だったら依頼で手を組むのが早いと思ってさ」
「……フン、よくいう……口を開く前に殺そうとしてきた奴の口振りとは思えんな」
「噂は聞いていても使えるかどうかを判断するには、仕掛ける方が早いじゃないか」
「……クク、違いない。私も《銀》の代行として依頼を託すために代行として値する実力があるか、私が直接相手をして試したことがある、……一応納得しておこう」
「それはなにより」
出会った時に話したから知ってるけど、《銀》も私と同じ裏の血にまみれた暗い世界で生きてきた者……だから、分かる部分もあって依頼という形ではないけどたまに連絡を取ることがあった。
そんな彼と死神の会話は、軽口を叩くようにポンポンと進んでいくけど……どちらも隙が見つからない。むしろ、相手の会話から何か情報を得ようと探りあっているようにすら感じる。
ある程度の言葉の応酬を経て、次の行動を決めたのだろう……死神は《銀》に言った。そろそろ最後の子ども達も迎えに行こうか、と。
「呆気なさすぎる……もう少し何か戦術や用意があるものとワクワクしていたんだが……期待外れだ」
「たった数時間の準備時間でプロに並び立つ用意ができるはずがないだろう。一度指導したとはいえ、彼等は素人だ」
「いつでも標的を殺る準備を怠らないのが暗殺者としての務めだろう?……まあいいか。ねぇ、君は指導したことがあるんだね?だったら迎えは任せるよ。……イリーナ、君は僕と一緒に倒した子達を運ぼう」
「……いいだろう」
「……わかったわ」
味方していた人が次に敵として現れる……私が足元の子達に使った手ではあるけど、他の子はまだそれを知らないはず。そんな存在が私だけじゃないと知ればどの子もさらに絶望し、戦意喪失させやすくなるということなんだろう。
私も彼も、すべてが死神にとっては手駒のひとつ……《銀》は小さく返事をすると来た時と同じように空間に溶け消えた。
「……ああ、残りの子どもというのはお前たちか」
「「「!!」」」
「お前は……」
「《銀》さん!」
「心強い味方が来たな!」
「あの、私たち死神から逃げていて、その、」
「戦闘担当は全滅、ビッチ先生を助けに行った班には連絡がつかなくて……」
「……知っている、他の子どもたちの行方もな」
「本当ですか!?なら……」
「待て、奥田。……俺はお前を知らない、お前は俺達の味方なのか?それとも死神の一派なのか?」
「え……」
「……賢いな、堀部糸成。すぐに信用せず、相手の実力や立場を見て判断する……見たところ、植え付けられた力が落ちつつあるところか」
「まさか、死神の手先!?」
「……今は死神と契約を結んでいる、ということならあちら側だ。他の班を全員捕らえ、死神は既に練習相手としてはお前たちから興味を無くしている……怪我をしたくなければ大人しくこい。だが戦闘に不向きなメンバーで戦いを挑むならそれもよし……私が相手をしよう」
「っ!そんな……」
「……上等だよ、行くぜイトナ!俺とテメーとで叩きのめすぞ!」
「……降伏だ。明らかに格が違う……戦っても損害しかない。今日敗北してもいい……いつか勝つまでチャンスを待つ」
「……賢明な判断だな。来い」
「あの、《銀》さん……」
「ばッ、奥田!お前何話しかけてんだよ!敵だぞ!?」
「で、でも……」
「……別に構わない。お前たちを害することは契約の範囲外だ……戦うのなら、相手をするだけだ」
「「「…………」」」
「……それで、用はなんだ奥田愛美」
「……危害を加えるのかって聞こうと思ってました。でも《銀》さんが先に応えてくれましたし、私たちを拘束すらしない……それで十分です。他の人たちは……無事、なんですよね?」
「……A班は死神が相手をした……気絶はしているだろうが殺しはしていないだろう、殺しては人質にする意味が無い。B班はイリーナだ……私が見た限り、全員眠らされていたな」
「そ、そう、ですか……」
「…………え、」
「どうかしたの、不破さん?」
「……い、や、……《銀》さんはなんで私達が班分けをアルファベットで呼んでることを知ってるのかなって……」
「確かに……私達、ほとんどサインで会話してたのに……」
「……お前達の会話を見ていたからな。手出しは指示されていなかったから、傍観させてもらった……さぁ、無駄話はここまでだ。入れ」
++++++++++++++++++++
今回は全員が再び集められるまで……前回までにも少し出てましたが、《銀》が死神と契約を結んで存在してます。ということで、気絶、睡眠組はそれぞれ倒した人達に運んでもらっている間に《銀》がC班を捕らえに行きました。
イトナは《銀》とは初対面ですが、E組は何度か機会があって知ってると思うのでこの反応。ということで、指導してもらった縁やイトナ捜索の縁からE組は味方と判断しても、イトナとしてはシロから存在を聞いているかもですが不信感バリバリなんじゃないかな、と。
オリ主は戦闘経験者なこともあるので、カエデを庇う立ち位置にいるとはいえそんなに簡単にやられないと思い、ここまでの行動も鑑みて精神攻撃の対象に。
クラスメイトに許可を出されているとはいえ、何度も地獄のような時間を過ごさせることに思い至ってなかったわけじゃないとはいえ、一般人と戦闘経験者の感覚は違うことを言及させられたのと、トラウマのトリガーを引かれたことでフラッシュバックによる精神的に不安定になった所を……という感じです。
『堕ちる時間』以降少しの間オリ主がおかしかったことに対して、カルマが壊れたと表現していましたが、精神的負荷によって心にダメージがあったことを示唆してました。
最初の方にあった、イトナの歯切れの悪さはフリースペース通り……といいますか、原作通り殺せんせーに自分の身体能力が普通の中学生に戻りつつあるのを分かっていて、寺坂の期待に答えられるわけじゃないことを考えていたからです。