死神編のまとめです!
ちょっと《銀》の暗殺者らしい経絡を突いて落とすっていう(碧の軌跡だったかな、零の軌跡だだたかな)ネタを入れました。実際にゲームでやってるんですよねこれ、っていう。
リニューアル前は学園祭から第二部を開始してましたが、今死神編からやり直すことを検討中です。そのため、話の内容にわざと違和感を残すように組みかえました。
今の段階で違和感じゃなくても、今後そうなればいいなと……思ってます。
カルマside
「……ぬぬ……ぐ……ッ、何とか……何とか手は無いものか……」
手に持ったスマホの画面を指一本でタップするだけで、俺等の閉じ込められたこの牢屋のどこかが開く……まあ、ビッチ先生が出入りしてた扉というより、あの天井の格子戸だとは思うけど。それにあと少しで触れるというところで烏間先生は躊躇っていた。
理由は言わずもがな、俺等側でニヤニヤと笑っている殺せんせー……こんな簡単に暗殺成功寸前まで追い込めたのだから、烏間先生的には生徒は逃がして先生だけを閉じ込めたままに殺したいところだろうから。
「出ようと思えば出れるんですこんな檻。マッハで加速して壁に何度も体当たりしたり、音波放射でコンクリートを脆くしたりね。ただ、それはどれも一緒にいる生徒にとても大きな負担をかける……だから貴方に
まあ、そんな方法なんてあるはずもなくて、扉を開けることしか選択肢はなかったんだけど。牢屋にいた全員が脱出口から引き上げられて集合した所には、烏間先生の部下の人によって拘束された気絶している死神が横たわっていた。
その顔にあの花屋の面影は全くなく……顔の皮を剥いだそれは、人と呼んでいいのかすら迷うほどのもので、誰もが理解出来ずに黙り込んでいた。
「驚異的な技術を持っていたが……技術を過信しすぎていた。人間としてどこか幼いところがあったおかげで隙もできたのだろう」
「そーいう意味じゃビッチ先生と同じかもね〜」
「……うん、そうだね」
「でも、顔を潰してまで技術を求めるかフツー……理解できねーよ」
「幼い頃の経験だそうだ。殺し屋の高度な技術を目の当たりにして……意識がガラリと変わってしまったらしい」
倉橋さん曰く、安心して生きることも見守られることもなかったせいで大人になりきれなかったビッチ先生。真っ当な道を歩くことが出来たはずなのに、目の前で見た殺し屋の技術に魅せられて幼い頃に受けた衝撃のまま殺し屋の世界へと足を踏み入れた死神。
全く違うはずなのにどこか似ているところがあるように思える2人だった……そのビッチ先生はE組を騙した手前合流しにくいのか、俺等からちょっと離れたところで壁を背にして立っている。
「影響を与えたものが愚かだったのです。これほどの才能ならば……本来もっと正しい道で技術を使えたはずなのに」
「人間を活かすも殺すも……周囲の世界と人間次第、か」
「そういう事です」
殺せんせーも力のある大人だからか、死神の暴走をもったいないとばかりに話している。確かに、話術、コミュニケーション能力、巧みな暗殺技術……全部他の事で十分活かしていける力ばかりだ。
そんな話を聞いていると何やらまた悩んでいる渚君の頭に、殺せんせーは触手を置いて何かを諭しているようで……まるで、渚君は死神やビッチ先生とは違うのだと言っているかのように。……はっ、あたりまえだろ、渚君がビッチ先生達と一緒なわけないじゃん、あんなただの小動物が、渚君が、……渚君のくせに……ッ
「ぐ、うぅ……やって、くれたね……!」
「「「!!」」」
「この程度の拘束で、僕を止められると思ったのかい……ッ?」
「烏間先生……!」
「死神、完全に無力化したはずだが……!」
響いたうめき声に、俺の中へと少しずつ湧いては溜まっていく暗い警戒心を押し込めて、こっちへ意識が戻ってきた。
見てみれば、死神が意識を取り戻したのか起き上がろうと呻きながらもがいているところだった。あいつがまだ何を隠し持っているのか調べ終わっていない矢先の出来事で、何らかの方法で拘束を解いてしまう可能性があると、烏間先生と殺せんせーが俺等を背にかばって身構えた、その時。
「無力化か……お前は甘いな、カラスマ」
「───ッ……」
突然、声が響いたかと思えば、どこからか針のようなものが飛んできて死神へと突き刺さった。刺さった瞬間に死神は息を詰まらせ、そのままガクリと体から力が抜けたように崩れ、動かなくなってしまった。
……目の前で起きたその出来事に、驚いて動けない奴、声にならない悲鳴をあげた奴、目を塞ぎ顔を背ける奴などがいる。……俺だって目の前で起きた突然のことに、どこかザワつく思いを感じたことは否定できない。
「この針は……っ」
「《
死神に刺さる黒く長い針を見て殺せんせーと烏間先生はすぐに検討がついたのか、声だけが聞こえた《銀》がいるだろう方向に向けて声を張り上げた。すると、応えるようにビッチ先生以外誰もいなかった辺りの空間を歪めて《銀》が現れる。
「フ……
「……そうか。だが何の予告もなく針を刺すなど……本当の死に直面したことの無い生徒達の教育には悪い事には変わりない」
「……それは、その教育で子どもたちに同じ事をさせようとしているお前が言えることか?」
「…………ッ」
現れた《銀》は『だけ』なんて、簡単なことのようにに言ってるけど、あんなに小さなものをあのスピードであの正確さ……角度やスピードから考えて今彼が立っている辺りから針を投げたと考えるのが妥当だけど、手元で慎重に針を刺すならともかく、刺す場所を少しでもズラしたり間違えたりすれば殺してしまいかねない投擲を躊躇いなくしかも一発で成功させるなんて。
射撃の遠距離攻撃として高い成績を収める千葉や速水さんですらあんなピンポイントで狙うのは不可能なんじゃないかな……そう比べて考えると、彼が殺し屋達の間でも高名な暗殺者と言われているのがいやでも納得できてしまう。
死んだわけじゃないと言う《銀》が烏間先生の批判に返した小さな声の内容は聞こえなかったけど、何も言えなくなったように黙り込んだ烏間先生が俺等にとっては珍しくて……何か俺等に関係のある図星なことでも言われたのだろうか?
「……フフ、まあいい。カラスマ、お前のその端末で操作できるもう1つの扉を開け」
「……?……これのことか?しかしこの場所は……、」
「ああ、そうだ。──────、それとイリーナ、左腕を出せ」
「……え?」
「念の為だ、今後に支障が出ても困るだろう……治療してやる」
「……、分かったわ」
「骨折している可能性があるなら、大回復のアーツがいいか……よし、≪
「……痛みが消えた……ありがと、《銀》」
「ああ、なによりだ。そして……この死神の案件で私が協力するのはここまでだ」
《銀》が何やら指示を出すままに死神から奪った端末を操作する烏間先生……最初は訝しげな表情をしていた先生も、彼から話を聞いて納得したのか画面に指を走らせていた。烏間先生を納得させた言葉は聞こえなかったけど、その辺は契約を結んだ者同士の間で成り立つ会話、というやつなのだろう、きっと。
扉を開く、というのはこの建物から脱出するための鍵のことなのか、それとも別の場所のことなのか……2人の会話からそれを読み取ることは出来なかったけど、俺等に不利益があるってわけじゃないんだろう。
そして《銀》思い出したようにすぐ近くに立っていたビッチ先生の腕に手を伸ばし、大きな青い雫を生み出した。
それはビッチ先生の添え木がされた左腕に落ちたかと思えば溶け消え、その周囲を青い光が纏い……光が消えた頃には痛みもなく自由に動かせるようになっていたようで、ビッチ先生は静かに手を握ったり開いたりして確かめている。それを見届けたからか、《銀》は俺等に背を向けた。
「《銀》殿……行くのか?」
「この案件はカラスマ、お前の頼みで調べていたものの延長に過ぎない……この程度の後始末は私がいなくてもお前たちで十分だろう?」
「……ああ、もちろん」
「あ……あの、《銀》さん、E組を代表してお礼を言います……助けてくれて、協力してくれてありがとうございました!」
「ヌルフフフ……あなたも暗殺者です、いつでも殺しに来てくれていいんですよ。なんならこの場所から出てすぐでももちろん構いませんし」
「クク、暗殺対象自らが自身の暗殺を請うとはな……おかしな奴だ。あいにくだがその申し出は断らせてもらおう、お前の相手をしているほど私は暇じゃない。……そうだな……お前が適任だろう、赤羽業」
「……、……は、俺?」
「ああ、お前だ。お前の恋人の居場所だが、自律思考固定砲台に探させればいい……死神が倒れた今、ハッキングもじきに解除されることだろう」
「……そこは隠した自分が責任もって連れてくる、とかじゃないんだ」
「……相対してすぐ私を死神側の協力者と判断し、倒れたA班から遠ざける為に勝負を挑んできた勇気は賞賛するが、だからといって無謀な子供の面倒を見るつもりはない。その領分はカラスマ、超生物、お前達のものだろう。それに……そこの大人たちの言葉を借りるなら、『私はプロだから』……な。では、……さらばだ」
磯貝が代表してお礼を言って俺等残りの生徒が小さく頭を下げると、顔をあげた時に《銀》が小さく頷いているのがわかった……お礼を受け取った、という意味でとっていいんだよね?その後に続いた殺せんせーの言葉に対しておかしそうに笑ってるなー、とか思って見てたら、いきなり俺の名前を呼ばれてビビった……突然過ぎて反応遅れたし。
話題になったのは今も姿が見えないアミーシャのことで、……え、律?その言葉に俺含め何人かの生徒が自分の手元のスマホへ視線を落としていて、そこにはプログラムだろうよく分からない文字の羅列が横切る画面に、目を閉じた律が表示されていた。
その間、先生達は彼をまだ引き止めたそうにしてたけど、烏間先生やビッチ先生がこだわっていた『プロ』という言葉を持ち出されては何も言えないらしい……そのまま《銀》はビッチ先生の横を抜けてどこかへと走り去っていった。
前回も含めて思ってたけど、本トあの人って神出鬼没だよね……人が1人減っただけで静かになったような空間……《銀》も、元々存在から静かな人だからあまり変わらないのかもしれないけど、なんというか……空気が静かになった気がする。
……って、ん?
「……ちょっと待って。今、《銀》がかなり聞き捨てならないこと言っていかなかった?」
「……言ってたな。真尾……あいつはもう本トに……」
「いや、ワンチャン《銀》がついた嘘の可能性も……ない、か……?ない気がするな……すまん、忘れてくれ」
「アミサちゃんならやりそうで、やってないことの方が信じられないかな……」
「まったく……アミサさんにはお説教ですかねぇ」
「程々にしておいてやれ。真尾さんは命の危険を誰よりも知っている……その上で、自分が前に出た方が時間を稼げると判断したんだろう。《銀》殿の合流を遅らせ、捜索に時間をさき……俺達の到着が間に合った可能性もある」
アミーシャが俺等の近くから離れた後に《銀》と遭遇したところまではまだ予想の範疇だったけど、『倒れたA班から遠ざけるために勝負を挑んだ』って……マジで言ってる……?明らかに実力が上なのに、気絶したA班を少しでも危険から遠ざけるために1人で立ち向かったって?これが『私が守る』の意味だったってこと……もしそうなら……え、バカじゃないの!?
殺せんせーと烏間先生も呆れた顔をしてるけど、殺せんせーはともかく烏間先生はあまり叱る気は無さそうだ。確かにもちろん《銀》の作り話の可能性も捨てきれないんだけど、あまりにもありそうな話すぎて誰も否定できない……頭痛くなってきた……
そこに響いたひとつの小石を蹴飛ばす音……それは静かな空間に大きく響いて聞こえた。
「あ」
「「「あ」」」
「てめービッチ!何逃げようとしてんだコラ!」
「ヒイィィ!耳のいい子達だこと!」
そこに居たのは、泥棒がごとくコソコソと逃げ出そうとしているビッチ先生が……途端、E組とビッチの追いかけっこが始まった。後ろめたかろうがなんだろうが、裏切られたとはいえ、わざわざ命をかけて助けに来た相手に黙ってどこかへ行こうとされたら、怒るのは当たり前だろ。
それをやらかしたビッチとの追いかけっこはクラスメイト達に任せ、俺はスマホの画面で目を覚まし、瞬きをしている彼女へと目を向けた……無事、ハッキングから解放されて律本人として起動できたみたいだ。
『……あれ?私……』
「……おはよう、律。気分はどう?」
『は、はい!すこぶる良好です!……あ、あの、私が不甲斐ないばかりに皆さんに大変ご迷惑をお掛けしてしまいました……ごめんなさい』
「全員にごめんって言っとけばいいんじゃね?今回のは死神のせいな訳で、律が悪いって言う奴はいないだろうし」
『そうでしょうか……』
「気にするんなら、本体だけじゃなくて俺等個人端末もハッキングされないようなプログラムを組んで……ついでに世界一安全なスマホにしてやればいいんじゃね?……あ、俺はアミーシャ探してくれたらチャラってことで」
『は、はいっ!いつものように、GPS検索ですね!検索開始……』
結構序盤から
正直アミーシャがフラフラどっかに行っていなくなって律に探してもらうことはしょっちゅうだったから、律が『いつものように』って言っちゃうくらい特別なお願いをした訳でもないんだけど……このノリの方が、彼女が役に立てて悪く感じることも少ないんじゃないかって気がする。
『……あれ?リロードします……、……?……?』
「……律?何、圏外なのが原因とか……」
『い、いえ、そうではなくて……あの、カルマさんが探されてるってことは、アミサさんは行方不明なんですよね?』
「行方不明……少し違うけど……まあ、そうだね」
『アミサさん、こちらに向かって来てますけど……それも、結構な勢いで』
「え」
検索をかけては不思議そうな顔でリロードを繰り返している律に声をかけると、圏外とか関係なく居場所の検索自体はできているらしい。それはそうか、圏外でもGPS機能は使えるんだから位置情報は取得できるはず。
じゃあ何が理由なのかと思えば……こちらへ向かってきている?画面に出してもらえば確かにこちらへ向かってくるGPS信号が確かに点滅していて……あれ、この方向って、
「きゃあっ!」
「ひゃ……っ」
「「「え」」」
何かがぶつかる音と2つの悲鳴に顔を上げると、E組に追いかけられていたビッチ先生が何かにぶつかったのか尻もちをついていた。すかさずそこを捕まえるクラスメイト達はさすがだけど、俺の目に入っていたのは同じように尻もちをついている小さな人影の方で……
「……アミーシャ?」
「……ッ!カルマ、みんな……!よ、よかった、いたぁ……A班のみんな、最初の場所にいないしどこ探しても見つからないし……みんな迷子になっちゃったかと……!」
「「「いやそれ、こっちのセリフだから!!」」」
相変わらずのズレてる感想で本人だとよくわかる……こんな本人確認は嫌だし脱力したし、明らかにいなくなったのはアミーシャの方でしょ。なにをどうしたら自分1人がはぐれた=みんなが迷子の方程式が成り立つのさ……そこら辺の反応が彼女らしいといえば彼女らしいんだけど。
「ほら、立てる?」
「う、うん……、うん?……あの、カルマ、この手は……?」
「え?逃げないようにだけど」
「……え?」
「よかったよかった……さて真尾。報告をどうぞ?」
「アミサ、A班が全員気絶してから何やらかしたのか、正直に言いなさい」
「何も言わずに終われると思わないでねぇ〜?」
「ひぇ……」
すぐに駆け寄ってアミーシャを俺が手を貸して立たせたところで、みんな揃って安堵の息をつくとともに……事情を聞き出すために詰め寄る。E組全員から詰め寄られるようにして聞かれ、しどろもどろになりながらもなんとか説明した彼女の話をまとめるとこうだ。
・壁に吹き飛ばされた時に意識を落としたかまでは、正直あまり覚えてないけど、何とか混乱した思考を落ち着けて気付いた時には死神が去るところだった。このまま全員を置いていくのは不安だったけど他の班に到達される前になんとかしなければと追跡することを選ぶ。
・死神と相対する前に黒衣の人物と遭遇、言い分からして死神側の敵だと判断してまだ近くにA班が倒れてるため少しでも離すために交戦……この相手が《銀》だろう。
・勝てるとは元々思ってなかったし、時間稼ぎにはなったはず……と安心して負けて今度こそ意識を失って、目を覚ましたらどこかの部屋の中に拘束されていた。
・時間はかかったけど何とか拘束から抜け出して、1つだけの出入口に向かえば鍵がかかっていて。なんとか脱出しようと開かない扉と格闘していた……ら、つい先程いきなり扉の鍵が開き、よく分からないままに俺等を探して走り回っていたら、E組から逃げ回っていたビッチ先生に衝突した。
……と。……うん、ツッコミどころと説教したいところが多い。
「……、アミーシャが1人きりで隔離されてて不安だったのはわかるけど、先に言わなきゃいけないことは言っちゃうからね。まず、」
「誰かわからないけど敵の1人だろうから、自分しか動ける人がいないからって単独で挑まないでよ!《銀》さんが味方じゃなかったら死んでたかもしれないんだよ?!」
「A班から離したかった気持ちは分かるが……どうせなら外に出ること優先してくれた方が嬉しかったかなぁ……」
「意識あったらあったで他の班に合流するとかしてくれた方が安心できたかな〜?何のための複数人行動?」
「チビ1人で立ち向かう必要ねー……って、これと同じようなこと前にも言った気がするんだが。とりあえず危ねぇなら逃げろ、1人で立ち向かうな」
「だいたい、1人で行動するのが危険だからA・B・C班って3つに分けたのに、1人で動いたら意味無いでしょ!」
「あと、閉じ込められた時に《銀》さん言ったか書き置き残したかしてたんじゃないの?守るためにここにいろとか、迎えが来るから動くなとか。万が一ここで合流できなかったり律の起動がまだだったら余計面倒なことになってたかもしれんのよ?」
「てかアミサ傷だらけじゃない!《銀》さんとの戦闘のせいか拘束解くために無理やりなんかしたか知らないけど、私達の誰もここまで傷を負ってないのに1人で行動するからでしょおバカ!」
「あうぅ……ご、ごめんなさいぃぃ……」
俺が説教する間もなく、何人もの人からお小言をもらうことになって涙目のままどんどん沈んでく顔……物理的に頭抱えてしゃがみこみそうになってきたあたりで、みんなもだいたい言いたいことが言えて満足したのか、あとは存分に甘やかせというように親指立ててのGOサインが出た。
……みんなも大概アミーシャに甘いよね……多分、というか絶対俺が群を抜いて一番アミーシャに甘いんだろうけど。……ああ、だから俺が叱る必要が無いくらい皆で引き受けてくれたのかな、……なんて考えすぎかな。
アミーシャのしゃがみそうになる体を持ち上げて立たせ、正面から頭を抱えて胸に押し付けるように抱きしめた。
結構優しく抱きしめてんのにこれでまだ体を強ばらせる分、まだお説教は続くとか思ってそうだけど、あいにく俺の言いたいことは全部言ってもらえちゃったんだよねー……そのまま落ち着かせるように頭を撫でていれば怒られるわけじゃないと察したのか、固まった体から力が抜けてきた。
「……無事で、よかった」
「…………」
「吉田と村松がやられて、木村がやられて、焦ったんでしょ。死神の精神攻撃にやられて役に立てなかったとか思ったんでしょ。あの時聞こえてなかったと思うけど、茅野ちゃんが言ってた通りアミーシャはアミーシャの役割を果たしてたんだから気にしなくてよかったんだよ」
「……で、でも……っ」
「情けない事にアミーシャと茅野ちゃんがやられた後に俺等も全員倒されちゃってさ……そしたら
「……ッ……」
「……まあ、言いたいことは皆が言った通りだから、俺からはこれくらいにしとく。……今は、もういいよ……無理したのはいただけないけど……怖がりで寂しがりなくせに、ここまで1人でよく頑張ったんじゃない?」
「……ふ、うぅ……ッ……」
「……吐き出せるだけ吐き出しときな。……おかえり」
さっきまで彼女の瞳に溜まっていた涙とは違うもの……多分、俺等全員が無事だったとわかったことやひとりぼっちの時間が終わった安心感からだろう、流れた涙を、俺に押し付けるようにして静かに泣きだした。
いつの間にかアミーシャの方から俺にしがみついていて、俺はただ頭を撫でてやるだけ……勝手に写真撮ってる中村と何やらペンを走らせてる殺せんせーは置いとくとしても、他の奴等も微笑ましそうな顔で笑って見てるし、これでいいんだろう。
もう少しこの可愛い小動物のあたたかさを堪能させてもらおうかと俺からも抱きしめ直してやれば、磯貝とかからお前なー、なんて言われたけどいいじゃん。離れてた恋人が無事に帰ってきたんだし。……ま、向こうで吉田と村松に腕を掴まれてふてくされてるビッチ先生はアミーシャが落ち着いてからだね。
◆
「……大変、お見苦しいところをお見せしました……」
やっと涙が落ち着いて顔を上げて見えたのは、E組全員どころか殺せんせーも烏間先生もイリーナ先生もみんなが私たちを見てるという状況で……こんな大勢の前で泣くなんてまた私はなんて恥ずかしい真似を……!
顔が泣いたせいじゃない理由で熱くなっていくのを感じて、慌ててカルマから離れて思わず逃げ込んだのはカエデちゃんの後ろ。彼女の背中に抱きつきながら頭を押し付けると、前に回した私の腕をいじりながらそのままにさせてくれるカエデちゃん……カエデちゃんは、私が吹き飛ばされたせいで護衛も間に合わずに思い切りお腹を蹴りあげられたんだって。でもダイラタンシーフレームのおかげでほとんどの衝撃が吸収されたおかげで、A班の誰よりも軽症だったらしい……超体育着、ホントにすごい。
「いやいや、可愛かったからオーケー」
「あーちゃん、次は私の方にもおいで〜」
「女子はいいよな……」
「男子があれやったらただの変態だろ」
「……アミサ、心配なら全員のところに行って抱きついときなさい。その方が存在を確かめられるって意味では安心するでしょうし……今くらいなら男子に抱きついても彼氏も怒らないでしょ」
「う……善処するけど」
「狭間に先手打たれたな」
なんかみんな色々好き勝手に言ってるな……みんなに1回ずつ触れさせてもらえるのは確かに安心できるから行こうかな、なんて思っていたら、いきなり頭に軽いものがかぶさったのを感じる。
「な、なに……?」
「カルマから聞いたよ、みんなに言われたのにフード被らずに襲われたって。今回のこれに懲りて、これから危ないことをする時はフードかぶりなよ…………ってあれ、なんか、」
「────ッ!」
かぶせられたのはフードだったみたいだけど、思わず顔を上げたところでフードは私の目を覆う大きさがあったおかげでかぶせてきた人は見えなくて……だけど、なにかに気づいたような反応だけは感じられて慌ててフードを脱いだ。
すると目の前にいたのはフードを被せた体制で固まっているメグちゃんで、私の嫌がりように驚いたように目を白黒させていた……やってしまった。
「あ、ご、ごめん、そんなに嫌だった?」
「その、……目!目が隠れちゃって怖かったの!」
「あー……真尾の頭のサイズにあってないのか……ここだけ上手く直せないかな、烏間先生」
「……ああ、一応あとで採寸しよう」
メグちゃんになんと言い訳をしようかと、とりあえず嫌だったわけじゃないと首を横に降った時に目に入ったフード……顔にかかった髪を直しながら思わず目が隠れて見えにくいと嘘を言ってしまった。そんなに邪魔じゃないフードの大きさだけど、外から見れば私の身長の低さも相まって大きいとか俯いているように見えてたんだろう……後から烏間先生が採寸し直してくれることに決まった。
なんとか私の本当の理由を言わずにほとんどの人をごまかせたみたいだけど……1つの視線だけは外れることがなくて、怖い。反応したら終わりだ、だからあえて私はそれに気づかないフリをする……お願い、気づかないままでいてほしい。
「さて、放置しちゃったけどさビッチ先生」
「……なによ、私のことは煮るなり焼くなり好きにすればいいじゃない!裏切ったんだから制裁受けてトーゼンよ!男子は溜まりまくった日頃の獣欲を!女子は私の美貌への日頃の嫉妬を!思う存分性的な暴力で発散すればいいじゃない!!」
「発想が荒んでんなー」
「俺ビッチ先生には一切そういう欲ないからどうでもいいんだけど」
「お前はお前で分かりやすく口にすんなよ……」
「イリーナ先生が美人なのは変わらないんだから嫉妬って言われても……あと怪我してるんでしょ?それなのに性的な暴力って……あれ、殴る蹴る以外ってこと?……あ、キスのことか」
「こっちはこっちで思考が迷走してるなぁ……アミサはそのままでいてね」
「……そのままだとカルマがかわいそうだからある程度教えましょ、近いうちに」
「あ、それもそっか」
「知識としては授業で習ってるはずなのに、ビッチ先生の言い方がアレなせいで伝わってないんだよなぁ……」
ギャースと叫んだイリーナ先生は、なんか色々言ってるけど、前半以外何が言いたいのかよく分からないんだけど……ブツブツ言ってたらメグちゃんに頭を撫でられた。
「いーから普段通り来いよ学校。何日もバックれてねーでよ」
「……寺坂が言っても説得力ないけどね」
「お前もだけどな、カルマ」
「続き、気になってたんだよね。アラブの王族たぶらかして戦争寸前まで行った話」
「帰ってこないなら先生に借りてた花男の仏語版、借りパクしちゃうよ」
「……過去に色々ヤッて来たのよ。あんた達が引くような事」
「何か問題でも?裏切ったりやばい事したり、それでこそのビッチじゃないか」
私の問題が一段落したところで、ふてくされてるままだったイリーナ先生へと誰よりも早く戻ってくるよう声をかけたのは寺坂くんだった。それに続く形で放課後塾のみんながどんどん続いていく。
裏切って、殺す寸前までいったというのになんで自分を受け入れるのかって、意味がわからないとでも言いたげなイリーナ先生を私たちは笑顔で受け入れる。それでこそビッチだろう、たかがビッチ1人と付き合えないで何のために殺し屋兼中学生なんてことをしているのか、って。
「そういう事だ」
私たち生徒たちの間を抜けてイリーナ先生の前に立ったのは烏間先生で……そのままイリーナ先生の顔の前に一輪の赤いバラの花を差し出すなんてカッコいいことをしだしたから、それを見たE組は色めき立つ。
「その花は、生徒達からの借り物じゃない。俺の意思で敵を倒して得たものだ……誕生日は、
「──ッ、はい」
最初は戸惑っているように見えたイリーナ先生が嬉しそうに微笑みながら花を受け取った。殺せんせーは興奮してるし、イリーナ先生は嬉しそうに花を飛ばしてる幻覚が見えるし、陽菜乃ちゃんは泣いてるしで少しだけあの場は盛り上がってる……と、いきなり落ち着いた殺せんせーは私たち1人1人の頭に触手を伸ばしてきて、烏間先生へと向き直った。
「ああ、烏間先生、いやらしい展開に入る前に一言あります」
「断じて入らんが言ってみろ」
「今後、このような危険に生徒達を決して巻き込みたくない。安心して殺し殺されることができる環境作りを……
「……分かっている、当然打つ手は考えた」
後日、私たちは烏間先生の考えた案……『暗殺によって生徒を巻き添えにした場合……賞金は支払われないものとする』……この条項を手配書に明記しない限り、E組生徒全員が暗殺教室をボイコットするという要求書に、サインし提出することになる。
「……E組には必殺を求めず、奴を逃がさないようにする、か……。……この教室が、どんな結末を迎えるのかは分からないが、……この場所は、いい世界だ。ここにいると、誰もが正しく成長できるチャンスがある……そう、あの子達も」
「悪かったわね、アミサ」
「……?」
「……あの時……ほら、夏休みに私へメッセージ送ってきたじゃない。私は殺し屋でカラスマは防衛省の人間……生きてる世界が違う人を好きになってもいいのかって。これって私が今回みたいになる事を心配してくれてたんでしょ?」
「……、……そっか、イリーナ先生はそっちで受け取ったんだ……」
「何よ、そっちって?」
「あ……、ううん、なんでもないです。……えっと、……うん、そうだよ。違う世界なんて、いつかは別れなくちゃいけなくなるんじゃないかなって」
「確かにね今回利用されてわかった、それを痛感したわ……でも、こうやって……は、花とかくれたわけだし……全部諦めなくていいかなって。最後まで何があっても私はアタックし続けるわ」
「………………うん」
「アミサのくれた誕生日プレゼントもそういう意味だったんでしょ?暗闇無効化とか、こっちでは関係ない効果付けたのも、闇に惑わされるなって……ふふ、皮肉みたいだけど、その時点で気づけてたらよかったのかしらね」
「…………かなぁ」
「だからあんたも何を迷ってるのかは知らないけど……全部諦める必要は無いんじゃないかしら?」
「……そう、かな」
「そうよ」
「……、……うん……そう、だと……いいなぁ……」
◆
彼女がフードをした姿を見た時。
衝撃が走った、気がした。
……俺はアレを見たことがあるんじゃないか、と。
じっくり見る前に本人がフードをすごい勢いで外してしまったから、確証も持てず、明言も何も出来ないまま終わったけど。
でも、アレは何かにそっくりだった……
……いや、案外そうでもないのかもしれない。
だって、超体育着ができた時、皆でフードをかぶって色々試したじゃん。
全員分のフード姿を確認してるわけだし、彼女のだって当然見てる。
……そうだ、それを見て勝手に既視感を感じてただけか。そうだ、そうだよ……まさか彼女が、……なんてね。
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無事に死神編は終了です。
このお話ではそうそうに戦線離脱したオリ主はほとんど出てこないことになりました。やっと合流できていろいろとホッとしてます。だってこの死神編、オリ主離脱したあたりから渚が茫然自失状態になるので、サイドがほぼほぼカルマ視点しかないことになってしまいましたから。違う場面を書くために烏間先生サイドも書きましたが、メインはオリ主とカルマなので、どうしてもこうなるざるを得ず……カルマの心情を考えてかけたのは楽しかったです。
原作にはないキャラクターの内面を漫画やアニメを何度も確認して考えて書くのが楽しいです。読者様方にも、このお話でのキャラクターの内面図を楽しんでいただけたら幸いです。
では、次回は進路の時間……の、つもりでしたが、ちょっとそろそろ閑話が書きたい。ので、少し更新の間が空くかもしれません。