オリ主がクロスベルにいた時に経験したことを殺せんせーにだけ暴露します。
前回の閑話の流れを汲んだら、殺せんせーが悔しがりました()そして後半かなり恋愛要素詰め込んだつもりです。
今回もよろしくお願いします!
……唐突だけど、私は今ちょっと怒ってます。
「あ、アミサちゃーん……」
「ごめんってアミサ、だからむくれないでー……;」
「……………………。」
開幕不機嫌でごめんね。でもちゃんと態度で見せとかないと、みんなまたやるもん……何をって、私の内緒にして欲しいことをいつも、内緒にして欲しい相手にみんなが言っちゃうことだよ……ッ!
6時間目が始まる前ってことで殺せんせーが教室に来てるんだけど、私の机の周りにメグちゃんたちが集まってるのを見てか、……単に気になったからか。先生は静かに近寄ってきた。
「にゅや……そろそろアミサさんが何故ここまでムスッとしてるのかって、せんせー聞いてもいいんですかね……?今日1日あなた達4人とイリーナ先生たちだけ、あからさまに無視してますよね彼女……」
「まー、簡単に言えば……私達がカルマとの恋愛相談乗って、役立てて欲しいのと下手にこじれないようにってカルマにも内容伝えたんだけど、その内容でアミサ的に伝えて欲しくなかったらしいことまでカルマに伝わった結果、カルマにからかわれて怒ってる感じ、かな……」
「ちょっと惚気に対してからかってやろって気持ちがあったことは否定しない」
「だって相談に来たアミサちゃん、恋する女の子ってこれか!ってくらい、いつも以上に女の子らしくてかわいかったんだもん……!絶対カルマ君も見たかっただろうからせめて内容くらいはって思って、つい……」
「それはそれは……なんで先生がいない時にそんな面白、……気になる話をするんですか!?」
「今絶対面白いって言ったよね?ほぼ言いきったよね?」
「というか良くも悪くも毎回殺せんせーのタイミングが悪いだけだよ。私達教員室で話してたんだから」
昨日の放課後、カルマとの恋人としての付き合いが今までの友だちとしての付き合いと変わりなくて悩んでることを、イリーナ先生を筆頭に5人に相談したら……相談相手の5人によって、内緒で相談したつもりだったカルマにほとんど全部の内容が伝わってたっていう。
カルマを連れてかないで相談した意味……そしてあの場にいなかった殺せんせーにも、周りで聞いてるE組のクラスメイトにも何があったか知られるっていうね。これに関しては私がぶすくれてるのを心配してくれたのがきっかけだからまだいいけど。殺せんせーが、明らかに悔しがってるのは意味がわからない。
自分でも自覚できるくらい口を尖らせながら机に顎を乗せて拗ねてたら、正面で目線の高さを合わせるようにしゃがんだ莉桜ちゃんが視界に入る。
「必要なら繋ぐって言ったじゃん、あんた達それで前すれ違ったんだから、今回のはそこまでマイナスの内容じゃなかったし教えといた方がいいかなって思ったんよ」
「……、言わなくていいことまで言った」
「……アミサが、普通は付き合ってない男女はぎゅーってしたり頭を撫でてもらったりしないって知る前のことは教えてないわよ」
「い、1番教えちゃダメなこと教えてるもん……!」
「赤ちゃんがどこから来るのか問題含む、そういう話?」
「……………………。」
「かわいい思い込みなんだから気にしなくていいのに……本トなんでそこじゃないってとこで恥ずかしがるのかなぁ……あ、もしかしてあの集まりではアミサも一緒にああいう話もしてるし、ちゃんと興味があるってことが知られたくなかっ、アイタッ」
そうだよ、私だってちゃんと恥ずかしいの……ッ!全部言わせる前に手を開いた状態で突き出して、目の前の莉桜ちゃんのおでこを両手の親指で押すことで、私が机に顔を伏せて隠すついでに言葉を止めさせる。
……別に、相談した結果を教える分には構わなかったのに……大人の恋愛とは違うから私と同じ目線で語れる他4人の意見を聞きなさいってイリーナ先生に言われて教えてもらったアドバイスについてなら。4人の言葉は私の気持ちもスッキリさせてくれて、それをカルマに共有する分には問題ないかなって思えたから……
問題なのは、明らかに性的な内容っていうか……そのあたりの内容は、さすがに恥ずかしいというか、莉桜ちゃんきっかけで話してたあの時の内容って、その……え、えっちなことだから……そういうこと、私にも関係するからって一緒になってあの場で話してたってこと、1番知られたくなかった……
「とりあえず……事情を又聞きの先生目線では、アミサさんなりに怒ってることが伝えたくても怒り方が分からなくて、それが無視するって形になってしまったように見えます。ですが、今はそこまで怒ってないんでしょう?先生には引っ込みがつかなくなっただけに感じますから……4人も、今はまだここにいませんがアミサさんに無視されたって落ち込んで教員室でキレてるイリーナ先生も謝ってくれてるんでしょう?」
「…………うん」
「でしたら、仲直りできそうですか?いつも笑顔で仲良しのみなさんがギクシャクしてるのを見るのは先生としても悲しいですから」
「…………ん、……私も、無視、しちゃってごめんね」
「あーもう、私達が悪いんだから謝んないで、……ごめんね、さすがに反省してる」
「良かれと思ってもやり過ぎは嫌だよね、ごめん」
「あーちゃんに嫌われたら悲しいもん、本トごめんねぇ」
「ごめんね、嫌じゃなかったらまた相談して欲しいな」
「……内緒は、次は言わないでね?」
「「「それはもちろん、今回で身に染みたから……」」」
殺せんせーが間に入ってくれたおかげで、私も無視って形でやり返しちゃったことを謝れてよかった……どうやってこの状況を終わらせればいいのかなって始めたのは私なのに困ってたから、助かった。
……あとは、無視したことで隣で同じように拗ねてる彼をどうしよう。元凶そのものはあの4人とイリーナ先生なんだけど、カルマも恥ずかしい内容で悪ノリしてきたのはちょっとやだったんだよね……謝ってはくれてるけど、私もやな事あるんだよーって知ってもらうためにも、もうちょっとはこのままでもいいかな。
「……これ、文字で要約して教えたんじゃなくて途中から思いっきり通話状態にして共有してたから、アミサが思ってる以上にカルマも知ってるってのは黙っとこう……」
「うん……本トに口聞いてくれなくなりそう……殺せんせーも黙っててね」
「さすがにカルマもそれは言ってないはずだから!」
「分かりました;」
「そういやそのカルマは?」
「……隣でへこんでる……」
「……何、あの……あっちはあっちで……」
「……その、あーちゃん的に掘り返して欲しくなかった赤ちゃんの成り立ちを誤魔化す言い訳でからかったから、今日1日無視された挙句に、近付こうとしても全部渚君に逃げられてるらしいよ……」
「いつぞやの狭間さんに言われた『他の男に頼れ』を実践しちゃってるわけね……しかもその相手が渚だから嫉妬するにもしづらくて沈んでる、と」
「自分が原因なのもあるけど害が無さすぎて取り返しに行きづらいもんね……」
「でも私的にはそこよりも、『手は出さないからディープキスはしたい』って言われたことに対して恥ずかしがって欲しいんだけど……いや、そこ含めて知られたのを恥ずかしがってるから一応意識改革は成功してるのか……」
「痛い仕返しだったけど、とりあえず収穫もあったとしてよしとしよう……」
◆
あの後、カルマともごめんなさいしあって、1日無視しちゃった反動からか思いっきり無言で抱きしめられて離してもらえず、なぜかそのまま6時間目がスタートしちゃったんだけど、……え?殺せんせー……?
殺せんせー曰く、6時間目の授業とはいえ、私たちに必要なことではあるけど勉強じゃないことを今からやるみたいで、別にいいらしい。別によくはないと思う。
それにしても私たちに必要なこと……か、……死神の襲撃によって本当の命の危機にさらされてから、私たちE組は前よりも結束が強くなったようで、毎日の訓練でも日常生活でも、より集団行動に磨きがかかったと烏間先生のお墨付きをもらったのは記憶に新しい。イリーナ先生もE組へ今まで通り来るようになって、いつの間にか11月……殺せんせーの暗殺期限まであと残り4ヶ月となっていた。
「ヌルフフフ……とりあえず目の保養な2人は横に置いておいて……全員揃ってますね」
「いや置いておくなよあんな目立つ奴ら」
「保養になる前に焼けるわ」
「アミサ、諦めたね……」
「ではまず、こちらを配ってしまいましょう」
「無視された云々で仲直りさせたくせに、タコはタコでスルーすんのかよ;」
「……って、進路相談?」
全員の机上に配られた、1枚の小さな紙……それは自分の名前と志望校、なりたい職業の第2希望までを記入する、いわゆる進路希望調査、というものだった。
「君達は中学3年生。もし誰かが先生を殺せて地球が無事なら、皆さんは中学卒業後も考えなくてはなりません……ま、殺せないから多分無駄になりますが」
緑と黄色のシマシマに顔色を変えてナメた表情でそう言った殺せんせーは、これから1人ずつ教員室を使って相談に乗ってくれるらしい。ただの相談じゃなくて1対1の暗殺もやっていいと笑いながら教室を出ていったけど……相談相手が地球を滅ぼす宣言してる存在って……手厚い待遇だと思えばいいのかナメてるだけなのか。
周りを見てみると、さっさと書き終わった人は1人もいなくて、やっぱりみんな悩んでるみたいだ。ふと目に入ったのは、席を立って渚くんの机で何かを書いている莉桜ちゃんの姿……渚くん本人はまだ気づいてないみたい。それを見ていたカルマが何か察したのか、私をようやく離すとカバンからチラシを取り出して彼等の方へと歩き出した。私も今すぐ書けそうになかったこともあって、紙を手に持ったままついて行く……あ、シャーペンを置いた莉桜ちゃんが自分の席に戻ったところで渚くんが固まった。
「……中村さん、何で勝手に人の進路歪めてんの?」
「渚ちゃん、君には
「えーと、『志望校:女子校』『職業(第1希望):ナース』『職業(第2希望):メイド』……女の子……?」
だいぶ歪んで漠然とした進路な上、そもそも性別の壁を越えてる……私が読み上げた渚くんの進路調査表の内容を聞いたカルマは、ここぞとばかりにさっきカバンから持ち出していたどこかの旅行パンフレットを広げていた。一応莉桜ちゃんは冗談として書いてたみたいだけど、カルマが嬉々として勧めているのを見ると、本気で渚くんを連れて海外旅行したいんだと思う。
「ねー、ほら渚君、卒業したらタイかモロッコに行こうよ〜。今はタイが主流らしいよ?」
「なんでカルマ君は僕から
「とる……?」
「そうそう、物理的に渚君が渚ちゃんに……」
「渚くん、タイに行くと女の子になるの?」
「ならないから!!あとお願いだからアミサちゃんは分からないままでいて……!」
カルマがタイに行きたい理由まではよく分からなかったけど、渚くんがなにやら必死になってるし……これは彼にとって止めないと大変なことになる案件なんだろう。
というか、渚くんは髪が長くても力が強いわけじゃなくてもれっきとした男の子なのに、莉桜ちゃんとカルマはなんで女の子の進路を薦めてるんだろう?似合うから?……うぅん、渚くんには申し訳ないけど否定できないとこがあるかも……
…………それにしても……進路……私の将来の夢、かぁ……、なりたいものっていうより、私が今、1番やりたいことは……
「私は研究の道に進みたいって言ってきます……ついでに言葉巧みにこの毒コーラ盛れたらいいな。茅野さんは決まりました?」
「うーん、まだ未定……多分、この教室で殺る事殺れたら初めて答えが見つかる人、結構いると思うんだよね。アミサちゃんは?」
「…………」
「アミサちゃん?」
「……、あ、ごめんなさい……。渚くんがなんで女の子になるのかと女の子向けの仕事を薦められてる理由考えてたら聞いてなかった」
「まだ考えてたの……」
実際それも考えてもいたことだけどホントは違う……私は小さな嘘を1つついて、たった今考えていたことをごまかした。自分の席から持ってきた何も書かれていない
E組のほとんどが、漠然とした夢を書いて殺せんせーとの進路相談を終えた頃……ふと我に返れば、まだ教員室に行ってないのは私と渚くんだけになっていた。私の進路調査表を誰にも見えないように持ってから、渚くんより先に教室を出て教員室に向かう。
……私が今1番やりたいこと、それは────
◆
「さて、アミサさんの進路を聞きましょうか…………、にゅや?」
私が差し出した進路調査表は白紙のまま……殺せんせーが不思議そうに目をパチパチとさせているのがわかる。でも、私はもう決まっている、ここに書くわけにはいかない進路があるから……だから、殺せんせーにも詳しくは言わない……言えない。
「……殺せんせー、私は日本での進路は考えてないの。……椚ヶ丘を卒業したら……クロスベルに帰りたいって思ってる」
「クロスベル……それは向こうにお姉さんがいるから、ですか?」
「…………」
何かしっかりしたプランがあるわけでもないのに『クロスベル』という地名だけはハッキリ出したから、私がそう言い出す理由を考えたらそこと結びつけるのも当然だ。
殺せんせーが、適当に私たちの話を聞いてすぐに相談を終わるような相手ならこれだけでよかっただろうけど……先生は期待を裏切らない手厚さで真剣に相談に乗ろうとしてくれてる。それが感じられる分、答えを出さずにこのまま何も言わなかったら、きっと殺せんせー的に認めてくれないし反対されるだろう。
「……せんせ、少しだけ……まだE組の誰にも話してない私の話をしてもいい?」
「ええ、構いませんよ。ですがカルマ君や渚君たちを呼んでこなくて……いえ、むしろ先生が最初に聞いていいんですか?」
「……うん、……いつかは2人にもちゃんと言わなきゃだけど……まだ、伝えるつもりはないから」
このまま平穏に中学校生活が終われるのなら、このまま卒業の時に笑ってさよならできるのなら……大好きな2人は知らないままでいい。最初はじっと私の覚悟を問うように見つめてきた殺せんせーも、私が意見を変えるつもりがないと察すると無言で私を正面からまっすぐ見るように座り直して、いつでもいいと頷いてくれた。
「……私とお姉ちゃんはね、いろんな地方を転々としてたんだけど、3年くらい前に初めてクロスベルの地を踏んだの……といっても、私はお姉ちゃんのお仕事についてきたようなものだった。少ししてからお姉ちゃんがアルカンシェルにスカウトされて、ちょっと大変だけど新しい生活を頑張ってきて……クロスベルが『魔都』って呼ばれる理由が垣間見えてきた頃……クロスベルを揺るがす大きな事件が起きた」
「それは……、3年前ですし、俗に言う《教団事件》ですか?」
「……に、近いかな。それも全部ひっくるめて《クロスベル事変》って言われてるの、知ってる?」
「ああ、《
「そう。……私ね、その事件に関わってるの、……関わってるというか思いっきり当事者。《碧の大樹》に乗り込んで戦って……《大樹》を消滅させるために力を貸したメンバーの1人なんだ」
「……!!」
古くからクロスベル自治州の裏社会を牛耳るルバーチェと呼ばれるマフィアの存在、それに対抗するように私の故郷であるカルバード共和国から進出してきた
だけど《D∴G教団》と呼ばれる
「でも、私が関われたのは、そこまでだった。《大樹》が生まれたことで力がついたってね、……クロスベルが支配されずに済むようにって当時の大統領が宗主国である帝国と共和国に楯突いちゃったの。だけどそれは1人の女の子を犠牲にして得る力だったから……私たちはその子を助けるためにも《大樹》を破壊した。その子は助けられたけど、力の象徴として掲げられていた《大樹》が崩壊したことで、帝国から侵攻されるのは時間の問題になって……いろんな事件が続いて疲弊したクロスベルの力じゃ、強大な帝国の軍事力には敵わないってこともわかってた。それで……お姉ちゃんはクロスベルが落ち着いてる間に私が見たことの無い、知らない世界を探しておいでって、せめて3年間は違う土地でって……私をこっちに送り出した」
「それが、日本へ来た中学1年生の頃……ということですか……?」
「うん。けど……きっと、そんなの建て前だよ。だって、あの頃が……今が、1番クロスベルが荒れてる時期なんだもん……多分私はお姉ちゃんに、
お姉ちゃんはそれらについて何も話してくれなかったけど……姉妹ってこともあって私もしっかり巻き込まれていたのに、最後まで関わらせてもらうことなく
確かにその時私はまだ12歳……私は。お姉ちゃんや周りにとっては守るべき子どもだったのかもしれないけど、私だって何も知らないただの子どもってわけじゃないのに。
「私がまだクロスベルにいた頃、お姉ちゃん共々お世話になってたお兄さん、お姉さんたちがいるの。その人たちは今、帝国を欺くためにみんな、監視を受けながらあの地でバラバラになってる……前に殺せんせーたちとアルカンシェルに行った時、お姉ちゃんの無事は確認できた。だけど……他の人たちは……」
「つまりアミサさん、あなたはその人たちを探しに行きたいということですか?」
「……私には、戦う力があるから……私だったら、どんな場所でも潜り込める自信もある。向こうでは専門職以外で特に学歴が職業に関係するわけでもないし……」
どんな場所でも、というのはいろんな意味を含んでいる。行ったことのある場所や無い場所、たくさんの人がいて公な場所、裏通りなど大勢で乗り込むわけにはいかないけど一歩間違えれば危険な場所……そんな様々な所に
あの頃の私は誰よりも幼くて、危険な場所から遠ざけられていた意味もわかっていた……だけど、私だってもう15歳になるんだ。
「……わかりました、ではアミサさんの進路相談は一旦保留にしましょう」
「……え、」
殺せんせーは保留と告げると私の進路調査表をファイルにしまいこんでしまった。……なんで?向こうに行きたいのかを筋道を立てて話せば、わかってくれると思ったのに。
「アミサさんのやりたいこともその覚悟もよく分かりました。確かにお世話になった人達の行方がしれないとなれば、探しにだって行きたいでしょう……あなたは約束の3年間を十分に待ったわけですから。ですがその先は?その人たちを見つけ、無事を確認したあと……アミサさんの道は途切れてしまいませんか?」
「…………」
「この進路相談は、その先……アミサさんが何を中心にしてどう生きていくのかある程度決めるものです。人を探し、見つけたら終わりという短いゴールでは、そこからの人生で困ってしまいます……少なくとも先生は納得できません。それに……せっかく紡いだこの教室での縁、第2の刃、そしてカルマ君との関係も全て捨て置こうとしてませんか?」
そう言われて私は何も言えなくなって俯いた。私の道……私の道は殺せんせーには話してないけど、人探し以外にも敷かれている。ずっと……ずっと遠い先祖から続いてるもの……それを
だって私は……幼い頃からそれだけのために生きてきた。だから人探しを……ロイドさんたち特務支援課の人たちとキーアちゃんの無事を確認できたら、私は他の事に目を向ける必要がなくなるんだ。
「……保留にする必要なんて、ないよ。私には進路相談なんて……意味が無いから」
「それは、どういう……」
「……、……次は渚くんだよね?殺せんせー、私、呼んでくるね」
「アミサさん!」
私が先代の後を継ぐということは理由も意味も分からないし積極的になれるわけでもない。だけど、それが過去に大きな役割を果たしてきた実績を考えると無くてもいいとは言い切れなくて……私には、そんなずっと昔から脈々と受け継がれてきた道が、もう用意されているから。
私を呼び止める殺せんせーの声を背中に聞きながら、私は誤魔化すように教員室から出る……殺せんせーが本気で私を止めたいというのなら、マッハの触手で止めることだってできたはずだ。だけど殺せんせーに何か思うところがあったのか……先生は追いかけてくることも引き止めてくることもなかった。
◆
「……ただいま、次、渚くんの番だよ」
「あ、うん。ありがとう」
教室の扉を開けて渚くんに声をかけたところで顔を上げると、黒板の前でイリーナ先生と桃花ちゃん、陽菜乃ちゃんがおしゃべりしていたのに気がついた……あれ、イリーナ先生がなんかいつもと違うような……?
パッと答えが分からないままその姿を視界に入れつつそちらへ歩いていき……私を振り向いたイリーナ先生を見てやっと理解した。
「……そっか、イリーナ先生の服装が季節にあってるんだ」
「あらアミサ、いないと思ったら相談に行ってたのね」
「うん、……イリーナ先生、セーター似合ってるね。なんか前までは歳の近いキレイなお姉さんって感じだったけど、今は包み込んでくれる落ち着いた先生って感じ……」
「……ッ、アンタだけだわ、私に似合うってちゃんと言葉にして言ってくれる子!他の奴等は『フツーの服』だとかなんとかしか言ってくれてないもの!」
「んー……いつも着てたあのスーツも肌の見せ方が下品ってわけでもなくてイリーナ先生らしさがあって似合ってたと思うけどな。……今の服は肌を隠したおかげでちょっと大人っぽさが増えたし、ゆったりした感じが安心するし……さすがの着こなしでキレイだと思うよ?」
「もう……だからアンタは好きなのよッ!昨日は本トゴメンねッッ」
「わ、あっ!」
私は思ったことをそのまま伝えていただけなのに、イリーナ先生はちょっと頬を赤くして感激したように私に抱きついてきて驚いた。みんなそんなに褒めてくれなかったんだ……?
抱きついてきた流れでイリーナ先生は昨日のことをもう一度謝ってくれて……もう怒ってないよって気持ちも込めて少し顔を擦り付けるように甘えてみる。なんだろう、昨日までは頼れるお姉さんって感じがしたのに、今日は安心する……勢いよく抱きしめに来た割には、きつく抱きしめると言うよりふわっと包み込む感じが……
「んー、」
「!?!?!?だ、だめっ」
だけど、流れでそのままキスしようとしてきたのは自分の口を手で塞いで逃げさせてもらう。……こういう行動をするところが、見た目を変えてもイリーナ先生はイリーナ先生なんだなって感じがする。
「ちょっと!!なんで隠すのよッ!?あ、逃げんなッ!」
「ぎゃ、逆になんでキスしようとするの!?!?」
「お礼の気持ちを込めてに決まってんでしょーが!あとアンタの舌遣いには受けの素質があるんだから、この私が更に直接仕込めば落とせない男はいなくなるわ!今以上にカルマを夢中に……いや、濃厚な受けのキスで腰砕けにさせてやんなさい!」
「こ、声おっきい……ッ……夢中に、はさせたい、けど……ここでは恥ずかしいから、やだぁッ!」
「あーら素直ッ!だったら、空き部屋連れてくからっ!さっさと捕まりなさいッ」
「……ビッチ先生、そんなに仲直りと服装褒められたのが嬉しかったのか」
「見た目変えて痴女に磨きがかかってんぞ。真尾は真尾で焦りすぎていらんこと答えてるし」
「仕込まれること自体はいいんだ……」
「…………………」
「あ、アミサが……アミサがちゃんと恥ずかしさを自覚してる……ッ!」
「あ、こっちはこっちでメグが感動してる……」
「分からないでもないけどね〜……」
「だって、今まで逃げはしてても分かってくれなかったんだよ?やっと人前っていうのと常識意識してくれた……あ、涙出そう」
「ガチで感動してるじゃん;」
「……?渚くん……?」
イリーナ先生が迫ってくるのから桃花ちゃんたち近くにいる子の背を盾にして隠れながら逃げていると、見知った気配がすぐそばを通り過ぎていったのに気がついた。
先生たちは、というか私が盾にさせてもらってた子たちを含めてだいたいのみんなが気づいてなかったみたいだけど……その気配の主である渚くんは、普段通りと全然変わらない、ほとんど無の気配を装って教室から出ていったみたいで……進路相談に行ったんだよね?なのに、なんだろ今の……
「……っと、今は渚君の事なんてどうでもいいや。ビッチ先生、そろそろアミーシャ解放してくんない?あとキスで腰砕けにさせんのは俺の方だから」
「お〜、カルマ君。大胆な宣言だね〜」
「さすがにビッチ先生のキスにまで発展したら、回収に来るよね……」
「チッ、もう来たの……アンタは器用だからなのかなんか手馴れてるし、教える側としてつまんないのよね〜」
「手馴れてるも何も彼女とかアミーシャが初めてなんだから俺の元々の資質じゃん?どうせならビッチから1本取っときたいから今までは受けてきたけど……ま、今後俺はアミーシャ専用だから授業でもさせる気ないよ〜?」
「キーッ、生意気な上私に対する嫌味!?……まあ、アンタが余裕でも今後一層アミサに仕込むから問題ないわ!」
「え、い、いりーなセンセイっ!?やめてくれる気ないの……!?……でも、今の時点でタダでさえ余裕ないのに、勝てるのかな……」
「勝てなくていいんだけど、俺、受けるより攻めたいし」
「い、今言うことじゃないよねカルマッ!?」
「なによ〜、女同士ならノーカンでしょ?」
「というかその反応……アミサちゃん、もしかしてカルマ君とのキスは済んでるってこと!?」
「え!あの時の人工呼吸以外に!?」
「ッ!?!み、ぅ、あ、その、……ッ!」
「「「あ、逃げた」」」
渚くんの違和感につい足を止めていた私はついにイリーナ先生に捕まり、その腕の中での攻防になりつつあったところでカルマとカエデちゃんが助けに来てくれた。……のだけど、当事者が集まったことで余計に話の流れが脱線してきた上、恥ずかしいことこの上ない……!カルマはカルマで話に乗っちゃったから、内容が更に過激になっていく……これで逃げない人がいるならむしろ教えて欲しいくらいだ。
つい反応しちゃったことで墓穴を掘ったのと、そろそろ恥ずかしさによるキャパの限界に気づいた私は、せめてイリーナ先生から逃げておけば
「……さて、俺はのんびり追いかけようかな。行先はなんとなく想像つくし」
「さすがだね〜」
「アミサちゃんもカルマ君も相談終わってるならカバン持ってっちゃえば?」
「お、いいね。矢田さんそれ採用」
「……もう何も言わないわ……送り狼にだけはなるんじゃないわよ」
「…………、……その辺は俺等のペースがあるから心配しないでよ。じゃね」
「「「(その間が心配なんだけど……)」」」
◆
そんな会話がされてたことなんて全く知らない私は、校舎近くの木の上……いつかのカルマが隠れて不貞腐れていた場所に登って、恥ずかしさからこみ上げてきた顔の熱を冷まそうと顔を仰ぎながら小さく蹲っていた。
殺せんせーとの進路の話をあそこで持ち出さなくてよくなったのはありがたいけど……その、なんでカルマとの……き、キスの話に発展しちゃったんだろう。……いや、原因はわかりきってる、全部イリーナ先生が発端だ……あとはわかってて悪ノリしたカルマもだ。反省してないんだから、もう……でも、嫌な気分ってわけじゃ、ないんだよね……
「アミーシャ、帰るよ……いるんでしょ?」
「!……な、なんでココ……」
「……知ってる?アミーシャってさ、キャパオーバーした後とか初めて自分から行動起こす時とかって、基本俺の真似してるんだよね。多分無意識なんだろうけど」
だから多分ここに逃げ込んでるんだろうなって思った、そう言って1人木の上で悶々としていた私の所へ、カルマが2人分のカバンを持って追いかけてきた。進路相談は6時間目から放課後にかけてのことだったし、相談が終わりしだい帰宅オーケーだったから、落ち着いた頃に教室にカバンを取りに戻るつもりだったからありがたいけど……ビックリした。
それにしても……私が、カルマの真似?いつの間にかスルスルと木を登って私の隣に腰を落ち着けた彼の言うことが全然わからなくて、不思議に思って首をかしげていると、彼は指折り数え出す。
曰く、守るため勝つためならどんな手段でも躊躇わないところとか……ハサミで髪を切った時のことかな。
曰く、臆病なくせに喧嘩に参加すると口より先に手が出るところとか……修学旅行のことを言ってるの?
曰く、初めて授業を抜け出そうとした時はカルマの言葉をほとんどそのまま使ったこととか……授業を抜け出したのは1学期末テストの時だけだから、多分この時のことだ。
その他にもいくつか挙げられて、私は結構無意識にカルマの行動をなぞっていたことを初めて気づかされた。
「こう考えると、アミーシャって俺のこと本トよく見てるよね〜」
「……全然、意識してなかった……」
「だから無意識なんだろうって言ったでしょ。今回も、あれだけアミーシャの苦手なエロい……というか俺等の恋愛事情に発展すれば逃げると思ったし、行先はここか裏山のプール辺りかなって」
「プール、遠いし……」
「だから俺もこっちかなって来たんだよ。正解だったね」
私の思考回路は色々とバレバレだったみたいだ。こんなだから、毎回私の隠し事もすぐバレちゃうのかな……あまりの嘘のつけなさに少しだけ落ち込んでいると、隣から腕が伸びてきてそっと頭を撫でられた。
……そういえば最近死神さんの騒動でバタバタしてたし、今日の午前中は私が逃げたし、こうしてひっつきながらゆっくりするのはひさしぶりな気がする。……落ち着くし、気持ちがいい。周りに誰もいないし、撫でられるがままにカルマの肩へ頭を置いて、その気持ちよさに浸っていた。
「…………ッ、あーもう、本ト警戒心無いなぁ……」
「……え?」
……のだけど。私の頭を撫でていた手が私の後頭部を固定する形で止まったことに気づいた時には、もう頭を動かせなくなっていた。慌てて近付いてきている彼の胸を押し戻そうとしたら、その手さえも彼の片手だけでまとめて抑えられてしまって逃げられない。
ニッコリいい笑顔で私に迫るカルマに察する……これ、このままだとヤバイのでは?
「……あの、カルマ……この手は?」
「……ん?ああ……あれだけあのビッチが推す受けのキスってのを経験させてもらおうと思って」
「え、や、なんでそんなことに?!」
「アミーシャが物欲しそうに擦り寄ってきたのが悪い。ここなら誰か周りにいるわけじゃないし……俺、深い方のキスしたいって言ったじゃん?いい機会だし……ね?」
「そ、そんな物欲しそうとか、してないし、……ね?って、触れるだけのでも心臓バクハツしちゃいそうなのに、そんな簡単に……ッ!……そ、そうだ律ちゃん!律ちゃんいるから……!」
「ふぅん、その程度?……律、ここからのことは他言無用。俺が呼ぶまで電源落として他の場所行っといて」
『?はい、構いませんよ』
「り、律ちゃぁん……ッ!」
「いいから、……もう黙って受け入れて」
「〜〜〜ッ!?!?は、ぁ、んぅ……ッ」
足は捕まってないから自由とはいえ、ここは地上じゃなくて木の上……バランスをとるにも下手に抵抗したら2人して下に真っ逆さまだ。そもそも頭も両手もカルマに固定されてるから動きようがない。
驚きと恥ずかしさと焦りと、いろんな理由で回らない頭でできる限り思いつく理由を並べて抵抗したけど、こういう所では1枚も2枚も上手な彼に勝てるはずもなく……そのまま降ってきた彼からの唇を受け入れるしかなかった。キス自体は……全然、嫌なわけじゃない……むしろ、……その、……気持ちいいけど……
「……っは、確かにこれはいいね、あのビッチが推すわけだ」
「は、……あぅ……」
「……、その顔、俺の前だけにしてね。って、こうさせてるのは俺か」
「……?」
「ね、もう1回……いいでしょ」
「……、……なんて答えても、するんでしょ……?」
「当たり」
……これだけ愛しい人を作ってしまって、私は将来、この人から離れる事ができるのだろうか。殺せんせーに回収された白紙の進路調査表を思いながら、私は彼から与えられるキスに目を閉じた。
「……行ったね」
「どうなると思う?」
「カルマが我慢できずに襲うに1票」
「同じく」
「襲いはしないけど、無自覚&警戒心皆無なアミサにやられてキスはするに1票で」←正解
「「「あー……」」」
「あれ、渚は?今日の帰りも一緒の予定だったんだけど」
「あ、杉野君。渚ならさっき進路相談に出てったし……もうすぐ帰ってくるんじゃない?」
「おっけー。……ん?なら、真尾とカルマは?」
「駆け落ちよ」
「……はぁ?」
「先生、僕に波長を見抜く才能があるとして……意識の波長に違いとかあるんでしょうか?」
「何か、気になることでも?」
「……この、サイズシール……ビッチ先生が着てきた服に付いていて、意識の波長を見ることでスキマを見て、先生に気付かせないまま外してきたんです。……初めて意識しながらやってみたんですが、ビッチ先生は……気付いてないみたいでした」
「ビッチ先生『は』、ですか」
「その時、先生は矢田さんや倉橋さん、あとアミサちゃんと話してたんです。ビッチ先生も誰も僕のしたことに気付いた様子はなかったのに、……アミサちゃんだけは、外した直後の僕と目が合った。触れたわけでもないのに……彼女だけは、波長自体が希薄で全然ぶれなくて……スキマが全く見えなかったんです」
「ふむ……それがなぜ違いがあると?」
「……アミサちゃんは、カルマ君の近くにいる時だけ……波長が乱れる時があるんです。明るくなったり、暗くなったり……他の人が近くにいる時はずっとスキマが見えないのに」
「なるほど……心当たりはあります。しかし、コレを今の渚君に伝えるわけにはいきませんね」
「え、なんで……」
「あなたの問題が解決していないのに、新たな問題で悩んでは悪化するだけですから。……今日は帰って、ゆっくり自分を見つめ直すのに当ててみてください」
「……わかりました。じゃあね、殺せんせー……また、明日」
「はい、また明日。
……ふう……アミサさんの意識の波長、ですか……多分、警戒心の度合いなのでしょう。渚君が言った、『サイズシールを外した直後に目があった』『カルマ君のそばにいる時は乱れる時がある』こと。ほぼ心を許しているカルマ君と、彼には及ばなくても警戒は薄い渚君……そして彼女自身も気付いていない、クラスメイトに対する強い警戒心……彼女は一体、何を抱えてるんでしょうねぇ……」
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進路相談に入りました。渚の家庭事情がハッキリする回ですが……前話までの死神編で全然いちゃつかせられなかったので、この辺りで甘めにしてみました。……だって、これでも一応カップルなりたてですよこの2人!なのに甘くなるどころか付き合った次の日には死神編に突入しましたから恋人らしいことさせてあげられなかったんです。
次回は渚が中心になるのかな……暗躍しつつ、見守る感じになると思われます。