暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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いつもたくさん閲覧ありがとうございます!


今回もオリジナル要素を挟んだお話です。




84話 渚の時間

 

 E組生徒たちが椚ヶ丘中学校を卒業した後の進路、進学についてを見つめ直すことになった、殺せんせーによる進路相談。1回目の進路相談の時点でハッキリと進路や進学先について語れたクラスメイトもいれば、漠然とこうしたいって夢を言っただけの人、特にやりたいこともなくて今後また何回か相談を約束した人もいるみたい。

 ……あ、ちなみに進路相談そのものは、以降も特に予定がない日ならいつでも話に来ていいって先生は言ってたけど……私はもう行きたくないなぁ……

 

 次の日、先に学校に行くから2人で登校してねって連絡のあった渚くんがいなくて、今朝は私とカルマの2人で山道を登る。それに関してはよくあること、なんだけど……前後に誰もいないから私が嫌がらないだろうって手を繋いでくるのは、カルマなりに恋人らしさを出そうとしてくれてるのかな。山道では逆に危ないからって手を繋いで登ったり降りたりすること、ほとんどなかったし……

 少し強めに握られ、引いてくれる手に視線を送る……私が勝手に意識しちゃってるだけなんだけど、私より大きな手に隠れる私の手を見ると、昨日の放課後を思い出しちゃうのはしょうがないと思う。

 

「なーに?いつになく静かだけど……手を繋ぐくらいいつもの事でしょ」

 

「そう、だけど……、……カルマの手、おっきいなってあらためて思って……」

 

「……昨日、俺が片手で両手とも捕まえちゃったの思い出した?」

 

「う。…………」

 

「ずっと前にアミーシャも自分で言ってたけどさ、アミーシャが本気で逃げようとしてないにせよ、素手での格闘っていうか力勝負では俺の方が強いよね」

 

「……カルマは男の子でしょ。比べちゃダメだよそれ」

 

 ……それ以外でも私より強いところいっぱいあるくせに。くっくっと、喉で笑いながら嬉しそうに歩くこの人が、みなまで話してないのに私の考えてることをだいたい察しちゃうところとか……ホント、こういう面でも全然勝てる気がしない。

 

「よ!今日も仲良く2人で登校かご両人!」

 

「おはよ〜」

 

「今日はトラブルなく機嫌も悪くなさそうでよかったわ」

 

 E組の教室について2人で扉をくぐれば、私たちに気づいた人、主に放課後一緒に話してたメンバーがニヤニヤと近づいてきたんだけど……これ、私があの場面から逃げたあとみんながカルマになにか唆してたりしない……?だからあんなにいきなり深いキスをしたがったとか……直前にイリーナ先生がわーわー言ってたし、それが直接の理由じゃないって?ホントにそうかなぁ……

 

「で、で?昨日カルマが迎えに行った後どうなったの?」

 

「……木の上に隠れてたのに見つかって、一緒に帰った」

 

「それだけなわけなくない?絶対続きあるでしょ、ほら」

 

「…………み、みつかって……、……」

 

「……はい、カルマ君続きをどうぞ」

 

「美味しくいただきましたとも。イテッ」

 

「………………。」

 

 なんでこの人は、こんな恥ずかしげもなくサラッと言っちゃうんだろう。指を立てて自分の口に触れ、唇を舐めながら話す姿がちょっと色っぽさもあって、様になってるのがかっこよく見えて更に腹が立つんだけど。

 周りできゃーってなってる女の子たちを横目に、カルマの背中へまわって直ぐちょっと強めに頭突きすれば、さすがに手が回らなかったみたいで止められることなく当たった。……だけどそんなに痛くなさそうなのが悔しい。

 

「アミーシャだって嫌がらなかったじゃん、深いキス」

 

「……う、動けないように捕まえてたのはカルマのくせに……っ!それに何言ったってもう1回するって、見え見えだったんだもん」

 

「だって1回止めたら『もっと』ってアミーシャが」

 

「ッ!?……え、私、い、言ってないよ、ね!?」

 

「うん、言ってはないね。全部そーいうの顔に出てるんだってば、嬉しいとか嫌じゃないとか……気持ちいいから止めるのは名残惜しいってのとか?」

 

「…………ッばかばかばかぁ……っ」

 

「はいはい、ごちそうさまです」

 

「聞いたのはこっちだけど甘ったるいんだわ」

 

「リア充爆発しろって言いたかったのに、いざ目の前でカップルになられるとなんか違うんだよなぁ……末永く爆発しとけ」

 

「結局爆発はさせるんだ……」

 

 私が背後に回ったのをいいことに、言いたい放題じゃないですかみなさま……!?確かに私の今の顔は見られないですむけれども……内容バラされたら同じなんだってば……!みんな反省!してない!

 もっかい反撃の意味も込めて無視しちゃおうかな……なんて思いながら、チラ、と横に回り込んで顔を見上げてみれば、絶対イタズラが成功した時の悪い顔してると思ってたのに……すごく、嬉しそうな笑顔で自慢してるだけって表情で何も言えなくなった。わざとからかう感じでやってたらまだしも、……怒れないでしょ、そんな顔されちゃったら……

 

「ところで、こういうことしてると止めに入ってきそうな渚君が来ないんだけど……先に登校してないの?」

 

「そ、そういえば渚くん、どうしたの……?」

 

 それでも余裕そうないつも通りの表情を崩せないのが悔しいなぁなんて考えてれば、ポン、と出された渚くんの名前。先に登校してたってことは多分なにか用事があったってこと……昨日の進路相談の次の日ってことは、それ関係の可能性も高いよね。

 案の定、渚くんは自分の席に座って、沈んだ暗い雰囲気を垂れ流しながら頭を抱えていた。

 

「え、渚くんのお母さんがE組に来る……?」

 

「うん……僕がE組から出られるよう交渉するために……でも、僕はE組から出たくないよ」

 

「しかも今日だって?烏間先生出張でいないぞ……」

 

 進路相談で渚くんが何を殺せんせーに伝えたのかは分からないけど……この教室で身につけた力を活かす進路に悩みながら帰宅したら、今回の2学期中間テストで189人中54位という順位だったことで渚くんのお母さんを怒らせてしまったらしい。

 わかばパークでのタダ働きのために2週間テスト勉強に打ち込めなかったにしてはかなりいい成績だけど、言い換えるとこれは本校舎復帰のボーダーである50位にはギリギリ届いていない結果、ともいえる。その事実が渚くんのお母さんにとっては受け入れられないことだったみたいで……渚くんの家に遊びに行ったことのある杉野くんとカルマによると、3人でお菓子を食べながらゲームしてたらキツい反応をされたくらい、ちょっと怖い人なんだって。

 

 そのお母さんがなんでも以前E組だった先輩の誰かが、60位でも寄付金を持って頭を下げれば本校舎への復帰が認められたらしいって情報をどこからか手に入れてきて……同じことをやろうとしてるんだそうだ。当然渚くんも反発はしたけど、意思の強いお母さんには認められなくて……何もできないまま今日になってしまったんだとか。

 

「母さん、これでも一応僕の成績がここまで上がったのと、本校舎にいた頃よりも明るくなった理由は、E組の担任が品行方正で、器が大きくて、生徒の未来を第一に考える人だからだろうって」

 

「……殺せんせー……エロくて、器が小さくて、未来どころか地球を滅す予定の怪物タコだよね……」

 

「ま、真逆(まぎゃく)すぎる……」

 

「あら、だったら私が担任役をやろっか?」

 

「ビッチ先生……」

 

「ダメよ、E組(うちら)の名目上の担任って烏間先生でしょ。うちの親も三者面談希望して、対応してくれたのは烏間先生だし……統一しないと親同士で話が合わなくなっちゃう」

 

「それもそうねぇ……」

 

「烏間先生がいれば……」

 

 ……そう、私たちにとっての担任の先生は殺せんせーだけど、見た目完全人外な殺せんせーを担任として公式な文書に載せるわけにいかないから、名目上は烏間先生が担任の先生ということになっている。英語教師ってことでイリーナ先生も公式に登録されてるから、副担任扱いできなくはないけど、渚くんのお母さんは『担任』をご所望なわけだし……

 その烏間先生は現在出張中で国外にいる……すぐに帰国することもできず、渚くんのお母さんは今日面談をすると言って譲らないらしいからどうすることもできない。一応今日はいないから代理で私が……っていう手が通用するかもと、イリーナ先生を担任に見立てて軽く予行練習をしたらしたで、『舌を絡めて一体感を』なんてイリーナ先生のとんでもない問題発言の数々が飛び出てきたから任せられそうになかった。なんで教育的モットーが性的指導の話に飛ぶのかなぁ……イリーナ先生だから仕方ないのか。

 

 昨日慌てて殺せんせーに連絡を取った渚くん曰く、先生は任せておけって言ってたらしいけど……保護者対応はまだしも、あの低クオリティの変装しかできない先生では心配と不安しかない。人は見た目が9割って言うし……どうするつもりなんだろう。

 

「ヌルフフフフ……それなら簡単です。私が烏間先生に似せればいいのでしょう?」

 

「今回はすれ違う程度の接触じゃなくて、面と向かってじっくり話すんだよ?ほんとに大丈夫なの〜?」

 

「心配ご無用!今回は完璧です!──おう、ワイや、烏間や!」

 

「「「再現度ひっく!」」」

 

 私たちの会話を聞いてたんだろう、殺せんせーが自信満々に教室の中へ入ってきた。声の低さに眉間のシワ、髪型、腕の関節……似せようと努力したんだろうなというのはなんとなくわかる、けど、目とか口とか違和感しかないし、鼻や耳がないところとか服装おかしいところとか……いつも通りやっぱり再現度は底辺だった。せめて似せる前に人間として顔に必要なものを備えてから披露してほしい。しかもなんで関西弁……?

 殺せんせー1人に任せてはいつまで経っても烏間先生らしさにたどり着きそうにないから、もうみんなで口を出すことにした。人間らしくて烏間先生がギリギリしそうな口の形を限定、顔や体の大きさを誤魔化すために机の下に中身を絞り出して押し込む、菅谷くん監修の顔のパーツを作成などなど……みんな、だんだん楽しくなってきてない?

 

「よし、なんとか見られるようにはなった!……はず!」

 

「そこは言い切って欲しかったよ……」

 

「これ以上は俺等の手に負えん」

 

「一応細くできることは確認出来たし……1回引っこ抜いて教員室で詰め込み直さなきゃね」

 

「え、また押し込むんですか!?」

 

「当たり前でしょ!」

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぎながらも準備を進めるみんなを見ながら、渚くんは不安そうだ……だけど、どんなに不安でも祈るしかない。この山奥まで来てくれる渚くんのお母さんを労う準備はできてるって殺せんせーは言うけど、労うだけじゃダメ……どうやって心を掴んで動かすかが重要になってくる。ここから先、渚くん以外のE組生は家族じゃないから介入することはできない。

 

「ッ……アミサちゃん……?」

 

「……自分の意志を諦めるのだけは、しないでね……私、渚くんはE組の環境の方があってると思うから……ここなら、渚くんは渚くんでいられる場所だから」

 

「……気づいて、たの?僕が母さんの道をなぞらされてること……」

 

「……?」

 

「そんなわけないか……ううん、なんでもない。皆もこれだけ協力してくれたんだし、頑張ってみるよ」

 

 そっと、渚くんの手を取ってそれを私の額に当てながらここに残れることを願うように呟くと、彼は驚いているようだった。渚くんが黙っていたことを偶然当てちゃったとかなのかな……私は思ったことを言っただけで何かに気づいて伝えたわけじゃないから、渚くんの言うことはよく分からなかった。

 だけど握ってない方の手で私の頭を撫でながら前向きな言葉が出てきたし、少しは元気づけられたんだと……思うことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室の中から渚くんのお母さんが校舎にやってくるのを確認してから、イリーナ先生と烏間先生のプレゼント作戦の時のように、教員室の窓の下に隠れた私たち。渚くんはお母さん譲りなんだろうなってことが感じられるくらい綺麗な人なんだけど、キツそうな雰囲気がにじみ出ていてちょっと怖い。

 

「吉田、今回も頼む」

 

「……さすがに渚の母ちゃんにはバレねーよなぁ……」

 

「なんかジュースとかマカロンか……?それで気を引いてるっぽい」

 

「あー、確か渚君のお母さんってグァバジュースが好きとか言ってたわ」

 

「……どうアミサ、会話は聞こえる?無理しない程度にね」

 

「……うん、聞こえるよ。これくらいなら集中してなくても普通に聞こえるから平気……でもコレって……三者面談っていうのかな……」

 

「なんで?」

 

「殺せんせー、渚くんにも時々うまく話題を振ってるんだけど……全部、お母さんが答えてる……『渚、少し黙ってましょうね』って全部遮って」

 

 あの時と同じように吉田くんが教員室の窓を少しだけ開ける……今回部屋の中にいるのはE組関係者以外で渚くんのお母さん(一般人)だけだから、隠れてる私たちの存在はバレないはず。そんなにスペースがあるわけじゃないから、覗くのはあくまで数人……あとは音を頼りに様子を見守ることになる。

 E組の中でも私は音とか気配を読むのに自信があるから、最初から聞き役に徹してるんだけど……私が想像していた三者面談と様子が違っていて困惑が隠せなかった。殺せんせーが渚くんからリサーチしたお母さんの好みに合わせて話題を振り、うまく教育などと絡めて会話を繋げる。共通の話題で打ち解けて、相手のボルテージをできる限り下げる。……そこに、当事者なはずの渚くんは参加してない。させてもらってない。

 

 こんなふうに感じるのは私だけかと思ってたけど、聞こえた言葉をみんなにも伝えると揃って訝しげな表情を浮かべていたから、私の感じた違和感は間違ってはないんだと思う。

 

「……ま、まぁ……これから渚の出番もあるかもだし、もうちょっと様子を見て……」

 

「あ、殺せんせーカツラ取っちゃった」

 

「「「はい??」」」

 

「だって今ベリって音が……あ、壊した」

 

「いや……いやいやいや変装の意味ッ!」

 

「殺せんせーなんか言ってない?急にそんな真似した理由とか」

 

「えっと……『髪型も高校も大学も、親が決めるものじゃない。渚君本人が決めるものだ。渚君の人生は……』……ッあ、まずいかも、」

 

「何が?急に耳塞いでどうし、」

 

何なのよアンタァ!!教師のくせに保護者になんて言い草なの!?バカにすんじゃないわ!人の教育方針にケチつけられるほどアンタ偉いのォッ!?

 

「「「うわぁっ」」」

 

「ひぃっ!?」

 

「しーーーーっ!!!!」

 

 集中して全部の音を聞き分けようとしたらかなりの負担だけど、普通に聞くだけでも耳がいい自信があるから、殺せんせーの声だけ拾うくらいならできる。だからなんとなしに中の状況や先生の言ってることを呟いていたら……聞いたことない女の人の唸り声が微かに、って、これが渚くんのお母さんだとしたら。

 慌てて耳を塞いだ瞬間響いた突然の怒鳴り声に、聞いていた全員が慌てて耳を塞ぐか窓から大きく離れる。ごめんね、先に予告する余裕なくて……というか耳を塞いでも貫通してくる大声にビックリした。殺せんせーが何か……ううん、この場合は何を言ったかなんて決まりきってる。渚くんが自分で望まない限りE組を出ることを認めないって、お母さんに向けて宣言したんだ。

 

「お、おっかねぇ……」

 

「めっちゃキレてんじゃん、渚の母ちゃん」

 

「……『渚君の人生は渚君のものだ。貴女のコンプレックスを隠すための道具じゃない』」

 

「……アミーシャ、それさっきの続き?」

 

「うん。……殺せんせー、渚くんのお母さんが怒る直前、そう言ってた。多分、引き金はこれじゃないかな……さっきまで、和やかに話してたのに、いきなりこんなになるって……」

 

 思い切りドアを叩きつけるように閉めて教員室から……E組校舎から出ていった渚くんのお母さんの背を見つめながら、私は先程までの会話を振り返って呟いた。すぐ隣で同じように会話を聞いていたカルマが聞き返してきて、みんなもどういうことかと顔を向けてきたから説明する。

 ……きっと渚くんは今までお母さんのコンプレックスを全て押し付けられていた……髪が長い理由も、どこか未来を考えず諦めてしまうところも、……渚くんが自信なさそうに自分を否定していた理由は、きっとここにあるんだ。

 

 渚くんのお母さんが教員室を出ていったあと、部屋に残っていた殺せんせーと渚くんはまだ会話を続けていた。自分の意見をハッキリ伝えることが大切だと言う殺せんせーに、1人で何もできないなら2周目でいた方がいいんじゃないかと弱気な渚くん……そんな彼に殺せんせーは渚くんの髪を結び直しながらなんでもないことのように告げた。殺す気があれば何でもできる、渚くんの1周目はこの教室から始まっているのだ、と。

 

「もう、渚に迷いはなさそうだね」

 

「頑張ってほしいな……渚の力はこの暗殺教室には必要だから」

 

 見ていたみんなも少し安心した表情でホッとしている。ここから説得するのはまた大変かもしれないけど、ここから先はホントに家族間の問題だから……さっきの渚くんのお母さんの言い分だと私たちE組はバカの集まり。

 ……否定しきれないからこそ、下手になにか言えばきっと反発しか返ってこない。どこまでハッキリと渚くん自身の言葉で思いを伝えられるかが鍵になるんじゃないかな。

 

「……ん?」

 

「どうしたの、カルマ?」

 

「いや……この足跡、誰のかなって」

 

「……ホントだ……1個だけ大きい……」

 

 他のみんなが教員室の2人の様子を見ている中、カルマだけが窓の近くに視線をやっているのが見えて声をかけた。……確かに、見たことの無いブーツか何かの足跡が残っている。

 E組にはカルマのようにローファーじゃなくてショートブーツを履いてきてたり、イリーナ先生のようにヒールを履いてたりと特に決まった靴を履いて登校してるわけじゃない……寺坂くんなんて、教室ではスリッパ履いてるし。

 

「見たことない、けど……ここ、教員室の外だから覗くこともあるんじゃない?ほら、殺せんせーを狙ってる人とか」

 

「……それ、そうだとしたら俺等もヤバくない?」

 

「どうして?だって私たちを巻き込んだらもう賞金が出ないことになってるし、殺せんせーが気づいてないとは思えないし……誰かが掃除してくれてるって言ってなかったっけ……?」

 

「まぁ、そうだけどねぇ……」

 

……しといた方がいい、かな……

 

「何か言った?」

 

「ううん、何も?」

 

「…………そう」

 

 でも、この足跡に関しては全く見覚えがなかった……サイズも子どもと比べてひと回りくらい大きい。誰か、先生とか業者とかがここまで来たのか……ああ、律ちゃんの開発者(おや)が定期メンテナンスに来たとかもありえるかな。

 ちょっと気になりはしたけど、あくまでその程度。髪を指で挟みつつ口に手を当てながら考えて口に出せば、カルマは私の想定を聞いて少し心配そうにしてるけど……この足跡の主が害のある存在と決まったわけでもないし、勝手な憶測で先生たちに迷惑はかけたくないし。だから、特に先生に相談することもなくこの場は解散でいいかと私たちは結論づけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渚side

 

 冷たい風が顔を撫でて、なんだかチクチクする感触に不快感があって目が覚めた……いや、目を開けた、の方が正しいのかもしれない。ここは、野外……?なんで、僕はこんなところで寝てたんだろう。確か、家に帰ったらあの怒りようからは考えられないくらい不自然なほど上機嫌な母さんがご飯を作っていて……それを食べたら急に眠く……

 ハッキリしない頭でなんとか体を起こし、状況を思い出していると、いきなりあたりが明るくなった……これは、電気?いやそれにしては熱さを感じるような……もしかして、火?その方向を見てみれば松明を手にした母さんがいることに気が付き、母さんが手にした炎の明かりに照らされて、ここがE組校舎の前だということがわかった。母さんは、いったい何をするつもりなんだ……?

 

「こんな場所に堕ちてから、アンタは血迷い始めた……私に逆らい始めた……、燃やしなさい、この校舎を。アンタの手で」

 

「な、何言ってんだよ母さん!」

 

 母さんは、僕自身の手で戻る場所をなくさせて、その上で僕がE組(みんな)の居場所を壊してしまったという罪悪感でみんなに顔向けできない状態にして……本校舎に復帰するしか道がなくなってからなら、僕自身がE組を出るという選択をすると踏んで。

 確かにそれなら殺せんせーの出した『僕自身が望んでE組を出ると言わない限り、E組を出ることを認めない』という条件を満たして僕自身の意見として表に出ることになる。……だけど、

 

「や、嫌だよ!そんなの……ッ」

 

誰が育ててやったと思ってんの!!どんだけアンタに手間とお金使ったかわかってんの!?塾行かせて!私立入らせて!仕事で疲れてんのにご飯作って!その苦労も知らないで!ツルッパゲのバカ教師に洗脳されて!逆らうことばっか身につけて!

 

 ……ああ、

 

アンタっていう人間はね、私が全部作り上げてきたのよ!!

 

 ……違うよ、そんなの違う。

 

 ……だけど正しい。

 

 どう言えばいいんだろう、この気持ち。

 

 ……母さんには、届かない。

 

 

 

〝……自分の意志を諦めるのだけは、しないでね……私、渚くんはE組の環境の方があってると思うから……ここなら、渚くんは渚くんでいられる場所だから〟

 

 

 

〝まずは君自身が……君の意志をはっきり言うことですよ〟

 

 

 

 ────諦めちゃ、ダメだ。

 

 ────言わなくちゃ、僕の意志を。

 

 僕が手を握りしめ、意を決して母さんに僕の意思を話そうとした、その時だった。

 

 

 

「キーキーうるせぇよ、クソババア」

 

 

 

 母さんが手に持っていた松明が炎の根元から切断され、地面に落ちる。最初は事態に気づいた殺せんせーが消火のために切断したのかと思った……でも、違った……炎の向こうから現れたのは見たこともない男の人……鞭をビュンビュンしならせて振り回す、殺気の度合いから考えても間違いない、殺し屋だ。

 

 殺し屋が言うには毎週水曜日の夜10時から始まるドラマを、殺せんせーは必ず律と一緒にこの校舎で見ているらしい。音速を超える鞭さばきで、先端に取り付けた対先生物質を先生にぶつけ、殺そうって考えているみたいだ。その決行日が今日……だったみたいだけど、その場には僕と母さんがいた。

 死神の襲撃のあと、僕等は生徒を巻き込む暗殺には賞金を出さないよう要求する文書を国に提出しているようだった……だから、賞金目当てなら僕は殺せない。だけど、その枠から外れている母さんは。

 

「な、何よ、何なのよ殺すって……け、警察……ッ」

 

「……本番中に騒がれると面倒だ。生徒(ガキ)を殺しちゃ賞金(ごほうび)パァだが、ババアの方はぶっ殺しても構わねぇよな」

 

 警察を呼ぼうとスマホを取り出した母さんに対して鞭をしならせ、それを躊躇いもなくたたき落とした殺し屋……やっぱり、賞金に直接関係の無い母さんはどうでもいいって思ってるんだ。

 

 いきなり命の危険に晒されて、母さんは怯えてる……無理もない、殺せんせーの暗殺のことを全く知らずに巻き込まれてるんだから。

 

 丸腰の僕一人で何か出来るはずもないって殺し屋は油断してる……僕に手を出せば賞金は出ないし、何かあれば暗殺対象(殺せんせー)が黙ってないだろうからこそ、僕を警戒する必要は無いんだろう。

 

 この時の僕には2人の全く違う意識の波長が、ハッキリと見えた。

 

 

 

 ……母さん。

 

 あなたの顔色を窺う生活は……僕の中のある才能を伸ばしてくれた。母さんが望むような才能じゃないけど……でも、この才能のおかげで、僕はE組(ここ)で皆の役に立てている。

 

 

 

「……母さん。僕は今このクラスで……全力で挑戦をしています。卒業までに……結果を出します。成功したら……髪を切ります。育ててくれたお金は全部返します。……それでも許してもらえなければ、」

 

 無造作に、何の動作も見せず、普通にまっすぐ殺し屋に向かって歩く僕。

 

 攻撃なのか、ただの接近なのか、どんどん迷いを、警戒を強めていく殺し屋。

 

 

 

「──母さんからも、卒業します」

 

 

 

 意識の波長に波が、隙間が生まれ始めたのを機に一気に接近し、死神が言っていたように1番大きな波に合わせ、至近距離で音の爆弾を放つ。驚く母さんの前で殺し屋は気絶(ダウン)した。

 僕は、母さんのことが嫌いなわけじゃない。そりゃあ、理想を押し付けられて僕の思いを無視されるところは受け入れられないけど……だけど、それでも産んでここまで育ててくれたことにすっごい感謝している。贅沢なことかもしれないけど、ただわが子が無事に産まれて、そこそこ無事に育っただけで喜んでくれるなら……全てが丸く収まるのに、なんて。

 

「ここはたまに不良の類が遊び場にしています。夜間は近づかないことをおすすめしますよ」

 

 そういって消火器を手に殺せんせーが……いや、机がないから大きさは不完全、耳や鼻を付け忘れてるから元の低クオリティな烏間先生の変装になっている殺す間先生が現れた。……僕が堂々と3月までに殺す宣言したの聞かれちゃったよ、もう後には引けないや。

 

「さて渚君のお母さん。確かにまだ渚君は未熟です……だけど温かく見守ってあげてください。決してあなたを裏切ってるわけじゃない、誰もが通る巣立ちの準備を始めただけです」

 

「っ……」

 

「母さん!」

 

 ふら、と体が揺れたかと思えば母さんはその場に崩れ落ちてしまった。よく考えれば全部手に持っていたものを狙われていたとはいえ、母さんは3回も殺し屋の鞭を受けてるんだ……もしかして、どこか怪我してたり……。心配になって軽く確認してみたけど、どうやら意識を落としただけで特に外傷はないみたいだった……よかった。

 

「緊張がとけて意識を失ってしまったようですねぇ。先生がお母さんの車で送りましょう」

 

「……うん」

 

「ああ、渚君。先程のクラップスタナーは見事でした、しかし……」

 

麻痺が甘いぞ?丸腰でそれに頼るにはまだまだだな

 

「「!」」

 

 さっき気絶(ダウン)させた殺し屋は麻痺が軽かったのか、そばに落ちていた得物である鞭にフラフラと手を伸ばしていた。殺せんせーが笑いながら僕に注意し、さっさとガムテープを巻いて拘束してしまおうと触手を伸ばした瞬間、ひと足早く校舎の上の方から鎖が伸びてきて殺し屋に巻きついた。同時に聞こえてきたのは、最近よく聞いた声……いつものように黒衣に身を包んだ《(イン)》さんだ。

 

「え、《銀》さん!?なんでここに……」

 

……イリーナから聞いていないのか?以前から昼夜時間を問わずここを襲撃する奴等を半分は掃除していたのだがな

 

「え……」

 

「《銀》さん助太刀はありがたいのですが…………、……先生の役割取らないでください!私が今拘束しようと思ってたのに!むしろなんで今頃、」

 

数日前から校舎周りに不審な足跡があった。そいつが現れる前にいつでも始末することはできたが、その前にそこの親子が現れてな……何やら面白そうだったから高みの見物とさせてもらった

 

 ひらりと軽い動きで屋根から飛び降りてきた《銀》さんは、彼の腕から殺し屋に向かって伸びている鎖を締め直し、逃げられないようキツく固定している。その彼が僕と殺せんせーの問いかけにしれっと答えた内容は、どちらも驚愕するものだった。

 言われてみれば殺せんせーは昼間、僕等に授業してるんだから、そこを狙えば確実だろうに襲撃を受けた試しがない。僕等が今まで平和に学校生活ができていたのは、守られていたから?夏休みの指導だったり死神の時だったりで《銀》さんの部分的な強大な力を見てきてるけど、実際に戦う姿まではハッキリ見たことがないから実力は噂から想像してるだけ……全然分からないままだ。だけどいつでも相手できたはずの殺し屋を、面白いからって理由で何も手を出さずに高みの見物していたくらいだ、そのくらいの制圧は簡単だと言いきれる実力はやっぱりあるんだろう。

 

「ところで……今回は鍵爪ですか……こうして介入してくるなら、また針を飛ばしてくると思っていたのですが?」

 

……お前たちが『教育に悪い』とうるさいから、針をやめて鍵爪を飛ばしたんだが……そこまで言うなら針で眠らせておくか?

 

「いえいえ、助かりました。案外律儀な暗殺者ですねぇ……彼はこのままお任せしても?」

 

……フン、コレはこのまま防衛省に引き渡す。それで構わないな

 

「もちろんです」

 

 あの時、目の前で死神が《銀》さんの針で昏睡した時のことを言っているんだろう……あれは、僕も本気で死神を殺したのかと思った。今日、殺し屋の前には僕がいた……烏間先生が僕等の前で殺さなかったとはいえそれに等しい光景を見せるのはやめろと言ったのを律儀に守ってくれたんだ。

 理由は並べていたけど……なんだかこの人は、僕が答えを出せる機会を潰さないようにわざわざ待っていてくれたんじゃないかって気がしてくる。きっと、先に《銀》さんが手を出していたら僕は自分の気持ちに決意することはできなかったし、母さんに伝える機会も失っていたかもしれない。

 

 《銀》さんが鎖に繋がれた殺し屋を連れていなくなったのを確認してから、僕も母さんを肩に背負って殺せんせーと一緒に下山する……乗ってきた車の後部座席に寝かせると、殺せんせーが運転する母さんの車で帰路についた。

 

 車の中では殺せんせーと僕のもってる才能についてを話し合った。今日母さんを殺し屋から守れたように。《銀》さんがさりげなく使い方を変えた力で僕を助けてくれたように。これは誰かを助けるために使いたい……殺し屋を目指すのではなく、他の親を心配させない進路を目指そうと前向きになれた。

 

「何よ、これ」

 

「今日からは僕が朝ごはんを作るよ、だから朝はゆっくりしてて」

 

 次の日の朝は、母さんにちゃんと真っ直ぐ僕の意志を話した。与えられるものをただ反抗もせずに受け入れていたら、僕の思いなんてどこにもなくなってしまう……やりたいことがあるなら、何かを捨てなくちゃいけない……もしくはその覚悟を持たなくちゃいけないんだと思ったから。最終的に母さんは僕の意志を静かに受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

 ──僕は殺し屋。胸を張って、卒業まで!

 

 

 

 

 





……もしもし、こんな夜中に君から連絡をしてくるとは……何かあったか?

……ああ、校舎で自律思考固定砲台とドラマを見るために残った奴を狙った殺し屋が1人……回収を頼みたい

……すまん、《銀》殿か。相手を確認していなかった。どこだ?

どこにでも。指定する場所へ運ぼう……こいつも確かロヴロの子飼いの殺し屋だったハズだ……あいつを呼び出して再教育させるのも手だが

再教育?何をやらかしたんだ

……標的を狙った暗殺に一般人が巻き込まれかけていた。詳細は省くが巻き込まれた一般人は潮田渚の母親……場を収めたのは潮田渚と標的。普通に姿を見せていたが標的はお前に底辺の擬態していたこと、暗がりだったことで超生物とはおそらくバレていないだろう

あいつは……自分の存在が国家機密だと分かっているのか!?……まあいい、ロヴロへの連絡はこちらからしておく。というか省くな、合流次第調書を作る……詳細を伝えろ

…………

……切り替えには恐れ入るが、ここまで別人だとはな……君には悪いが、もう少し付き合ってくれ

……いいだろう

感謝する。場所はメールで送るからその場所で頼む……失礼

…………





…………ふぅ




















「──よかった、無事で」



++++++++++++++++++++



進路の時間。
渚回に《銀》をぶっ込んでみました。原作と流れが全く同じよりは面白そうだっていうのと、うまくお話と絡められそうだなと……そうしたら殺せんせーのマッハな見せ場をサラリと奪ってくスタイルとなりました。半分というのは、言葉通り半分です。殺せんせーが殺し屋独特の匂いを事前に察知して殺し屋を校舎までたどり着かせませんので(公式設定)、《銀》が動ける時にのみ片付けているというオリジナル設定です。

ゲームだと《銀》には鎖付きの鍵爪で相手を引き寄せてからそのまま剣で切りつけるというクラフトがあります。それの剣無しVer.だと想像していただければいいかと。



このお話といえば、やっぱり渚のお母さんの豹変でしょうか……?マンガもアニメもとにかく衝撃的な場面が多々あり、かなり印象に残ってます。一応その衝撃を文字で表現しようとやってみたつもりです。


次回、学園祭編に入ります。
オリジナル要素が含まれる学園祭中に、あの人たちがお話に登場予定です!しっかりクロスオーバーします!


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