暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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クロスオーバーに向けての下地作り。
今回は原作沿いしつつ、オリジナル路線に繋げる話を盛り込みました。




85話 学園祭の時間・準備期間

 

 E組から転級させられちゃうかも……と沈んでいた渚くんが、お母さんを交えた三者面談をしている所をE組の面々で覗き見して、色々な意味でキツい渚くんのお母さんに私たちが結構な衝撃を受けた次の日のこと。

 

「おはよう」

 

「はよーっす!」

 

「おはよー、渚君に杉野〜」

 

「おはよです、2人とも。……渚くん、なんだかスッキリした顔してるね」

 

「あはは……帰ってから色々あって、進路の事は母さんとなんとか決着がついたんだ。僕の好きにしなさいってさ」

 

 今日は先に行ってるでも先に行っててでもなかったから、カルマと2人でいつものように登校の待ち合わせ場所へ行くと、昨日はあれだけ落ち込んで沈んだ表情をしていた渚くんが、晴れ晴れとした雰囲気で杉野くんと笑いながらお話していた。

 私たちが来たことに気づいた2人が私たちに挨拶をして、カルマは眠そうに私は渚くんへの言葉と共に挨拶を返す。4人とも揃ったし歩きながら話そうよと言って歩き出す渚くんに私は駆け寄って隣を歩く。あ、珍しく渚くんと私で前を歩いてカルマと杉野くんが私たちの後ろをついてくる並び方だ。

 

「……そっか。よかったね、最後まで諦めなくて……渚くんの、自分のホントの気持ち、お母さんに伝えれたんだ」

 

「うん。アミサちゃんと殺せんせーの言葉があったおかげだよ……ありがとう」

 

「……え、……私……?」

 

「うん、そう」

 

「……役に立つことなんて言ったっけ……?私は何もしてないよ」

 

「はは、そういうのに自覚がないのもアミサちゃんらしいよね」

 

「???」

 

 この件が納得できる形で終息したのは、殺せんせーの対応と渚くんの強さがあったからだと私は思うんだけどなぁ……。私は彼に対して特別なことは何も言ってないし、応援した程度だったと思うんだけど……渚くん曰く、挫けそうだった時に思い出せて、持ちこたえられたんだって。私のその場で思いついた程度の言葉でも、支えになれてたんだ……役に立ててたなら……応援したかいがあったかな?

 ニコニコと嬉しそうな渚くんに頭を撫でられていた所で中学校の正門に到着……ここで走って追いかけてきたらしいカエデちゃんと合流した。駅にいないとは思ってたけど、今日は電車が少し遅れてたみたい……私たちが話しながらゆっくり歩いてたから何とかここで追いつけたんだ。息を整えているカエデちゃんに場所を譲る形で私は後ろに下がり、カルマの隣に並ぶとすかさず手を繋がれた。……私と渚くんが話してる最中もずっと視線を外さないから、何か用事でもあったのか聞こうと思ってたんだけど、どうしたの……?

 

「カルマ、どうかしたの?ずっとこっち見てたみたいだけど……」

 

「ん?あー……気にしないでよ、小動物が2匹戯れてるなーって思って癒されてただけだから」

 

よく言うぜ……駅出てから先行っちまうし、ニコニコ笑ってる2人見てずっとブスくれてたくせに……イッテェ!」

 

 小動物……もしかしなくても私と渚くんのことを言ってるんだろうな。少し眉間によっていたシワを隠し、何事も無かったかのようにコロっと笑顔を浮かべてそういったカルマへ、隣にいた杉野くんがボソリと何か言って思い切り殴られてた……い、痛そう……。

 カルマが杉野くんを叩いてすぐ、だいじょぶかと声をかけてそちらに行こうと思ったんだけど、隣を歩くカルマが手を繋いだまま離してくれないので心配の目を向けるだけに止める。まぁ、多分原因はカルマが怒るようなことを言ったんだろう杉野くんなんだし……うん。あ、ちなみに今の並び順は道路側から杉野くん→カルマ→私で後ろを歩き、前を渚くん→カエデちゃんという形。さらっと男の子が道路側歩いてくれるのってすごいよね……しかも女だからとか関係なく。

 

 本校舎の設備を横目にE組校舎への山道に向かって歩いていると、敷地内に響いている様々な音が聞こえ始めた。木材に釘を打つ音、少人数で何やら話し合う声、準備のために走り回る人、足りないものを買いに走る人……たまーに喧嘩するような怒鳴り声。もうすぐ、椚ヶ丘中学校の学園祭が近づいていた。

 

「本校舎の皆、気合い入ってるね〜。うちの学園祭ってそんなにすごいんだ」

 

「そっか、茅野は知らないよね……うちの学園祭はガチの商売合戦で有名なんだ。儲け分は寄付するけど……収益の順位は校内にデカデカと張り出されるし、ここでトップを取ったクラスは商業的な実績として就活のアピールに使えるんだよ」

 

 椚ヶ丘の学園祭では、中学部・高等部の各クラスごとにイベント系・飲食系を選んで1つのお店を運営し、その売り上げを競う。資格や成績以外で就活に直結するイベントなだけあって、みんな必死になって商売していて……気合いの入りすぎでプロ顔負けなお店を作り上げるクラスも出てくるほど。

 当然本気を出しているお店は一般の来場者だけじゃなくて運営してる側の生徒たちにも人気なわけで……

 

「俺等が中1の時、高等部の優勝クラスだったお化け屋敷にアミーシャを連れて行きたかったんだけど……」

 

「あの時どれだけ奇跡なんだってくらい僕等とシフトが丸かぶりだったんだよね……せっかくだしって僕とカルマ君で行ってはみたけど並びすぎてて入れなかったし」

 

「う……だ、だって、あの時は私なんかと回ってくれるなんて思わなかったから……人前に出る勇気がなかった分裏方に入れっぱなしでいいってクラスに言っちゃってて……」

 

「まーた『なんか』っていう……もうちょっと自分の価値を上げなって」

 

 ……という、残念な偶然が発生してしまうことだってある。あの時はびっくりしたなぁ……普通に店番してたらカルマと渚くんがうちの出し物に来て、私の休憩時間を聞きにくるんだもん。登下校で聞かなかったのは学園祭準備でお互いなかなかに忙しくて、一緒に帰れない日が続いてたから……だったかな。

 シフト表を見た2人がすっごく何か言いたそうな顔をしたあと、私があまりにも普通にその場に居たから何も言えなくなったらしくて、今回は諦めるよ……って謎に言い残してったんだよね。あとから「もっと休憩もらってよ!」と怒られたのもいい思い出……私は2人と一緒に学園祭を回れないことを責められているのかと思ってたんだけど、あとから私の休憩時間だけ極端に少なすぎるから押し付けられたんじゃないかって意味で私のいたクラスに対して怒ってくれていたんだって知った。

 

 2年生では同じクラスだったし、基本3人で行動してたから学園祭でもシフトを3人とも同じにしてもらって、初めて友だちと学園祭を回るってことを楽しませてもらったんだ。

 

「でも今の真尾は違うだろ?E組に()()()()、ちゃんと価値のある女の子だからな!……な、そうだろ?」

 

「…………そう、なのかな」

 

「おう!」

 

「……たまに杉野がすごいって僕思うんだ……」

 

「分かる……その素直さを神崎さんに向ければいいのに……」

 

「変に興奮して狂うからいつまで経っても本気だと思われないんだよ」

 

「人を異常者みたいに言わないでくれね!?」

 

 そんな感じに私たちはカエデちゃんに説明しつつ、これまでの学園祭の思い出話に盛り上がっていたんだけど……すぐ近くで準備をしていた本校舎の生徒の声が聞こえて、思わず口を閉ざす。フェンスの裏に身を隠したんだけど……今、E組って聞こえた気が……私たちがいるって分かって言ったわけじゃない、んだよね……?

 

「今年のE組(あいつら)、妙に爆発力持ってるじゃん?今度は売り上げでA組に勝ったりしてな」

 

「いやー、今回ばかりは無理だろ。あいつらだけあの山の上で店出さなきゃいけねーんだぜ、あそこまで行く客なんていねーっての」

 

「相手は浅野君が率いるA組だぜ?また超中学生級の店を開くに決まってる」

 

「いやいや、わっかんねーって……」

 

 ……本校舎では……特に同級生である中学部3年生の間では、既にA組対E組の対決ムードができあがっていた。

 今回に関してはどちらかのクラスの誰かが焚き付けたわけでも、どちらかが勝負を仕掛けたわけじゃないから、多分自然と『A組とE組はこれまでことあるごとにイベントで争ってきたから、きっと今回も』ってできあがったものなんだと思う。これは、E組に課せられたの悪条件の中で、勝てないまでも何かするんじゃないかって期待も含まれているような気がする。

 

「……とりあえず、教室に行って皆と殺せんせーに伝えよう」

 

「うん、そうだね。……もう誰かが説明中な気がするけど」

 

「まー、こんなに大事になってたらなー……」

 

 一通り本校舎の人たちが予想するA組対E組の対決についてを聞きながら、当事者となる私たちがいることを知られないように隠れつつ、なんとかE組校舎への山道までたどり着いた。

 それにしても……驚いたのは予想以上に本校舎の生徒たちがE組に好意的だったこと……体育祭の時からなんとなく差別の目が減っていることは感じていたけど、ここまであからさまに期待されるほどだったなんて。

 

「……あれ、」

 

「どうかしたの?」

 

「……この辺、なんか焦げてるなーって……」

 

「え!?」

 

「「「え?」」」

 

「不審火……?でも範囲が狭いから放火するためっていう感じじゃないし……誰かが花火でもしたのかな……」

 

 自分たちが見て聞いた光景について話しながら山道を登りきり、E組校舎の玄関前まで来たあたりで何気なく足元に目をやると、一部分の草が焦げて黒くなっているのを見つけて足を止めてしゃがみこむ。

 何気なく話を振ってみたけど、一緒に登校した彼等の反応はキレイに分かれていた。私の疑問の声にカルマたちがそこを見て、同じように不思議がる中、渚くんだけが思わずといった声を上げる。慌てて言葉を探す彼は、これが何なのか知ってるって言ってるようなものだった。

 

「あ……えーっと、殺せんせーがこの辺が最近不良の溜まり場になってるって言ってたような……」

 

「……ふーん、殺せんせーは知ってるんだ……なら安心なのかな?」

 

「国家機密のいる場所が不良の溜まり場って……」

 

「いろんな意味でやばいよね、それ」

 

 あからさまに目をそらしながら、かつ棒読みで言った渚くんの説明にカエデちゃんと杉野くんは納得できたみたいだけど……カルマはちょっと不満そうだ。というか渚くんの説明は嘘だって判断して信じてないと思う、あれは。

 私でも渚くんはなにか隠してるんだろうな、とは思っちゃう反応だ。だって見て分かるくらいごまかせたって顔で明らかにホッとしてるように見えるもん。何を隠してるのかな……例えば、その火を扱った犯人のことを知っている……とか、……なんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ちに行くしかないでしょう」

 

 案の定私たちが教室についた時には、E組(みんな)は本校舎で私たち当事者を放置して勝手に盛り上がっている対決ムードについての話題で持ちきりだった。

 

 E組(私たち)は正門から1kmもある山道を登ってまで来てくれるお客さんを呼び込まなくちゃいけないという悪い条件の中、A組の出し物に勝つ事はできなくてもなにかやらかすんじゃないか、と。

 

 前回の中間テストの結果はいいとは言いきれなかったけど、これまで行事のたびにA組とE組は競ってきたんだし、きっと今回もなにか見せてくれるに違いない、と。

 

 それを聞いた殺せんせーはなんてこともないように、私たちへ仕掛けられたわけじゃない勝負だけど、本校舎の対決ムードにのってA組へ応戦することを勧めてきた。

 

「今までもA組をライバルに勝負する事で、君達はより成長してきました。この対決、暗殺と勉強以外の1つの集大成になりそうです」

 

「けどよ……」

 

「店系は300円まで、イベント系は600円までが単価の上限って決められてる……材料費300円以下のチープな飯食べに、誰が1kmの山道を登ってくるかしら」

 

「しかも聞いた話じゃ浅野なんか、飲食店とスポンサー契約結んだって」

 

 殺せんせーは私たちがここでやってきたことが正しければ、必ず勝機は見えるっていうけど……前提条件からしてかなり厳しい戦いになる気がする。

 浅野くんは個人的なツテから企業とスポンサー契約を結んだことで、材料費というか飲食関係諸々はタダ……つまり、飲食以外のことに制作費を回すことができるし、その分の資金だって回収できる案がある。この時点でお得感のある出し物になるのは目に見えてるし、きっと元手が安い分、単価の高いイベント系で攻めてくるはずだ。

 

 そんな相手といい勝負に持ち込むには、安い値段でそれ以上の価値を生み出してお客さんに伝えなくちゃいけないけど……殺せんせーはどんな秘策があるって言うんだろう。

 

「E組における価値といえば……例えばコレ」

 

「……どんぐり?」

 

「はい。裏山へ行けばいくらでも落ちています。君達の機動力を生かして、今から皆で拾ってきてください」

 

「「「今から!?」」」

 

「そうです、今はもう学園祭準備期間なんですから、今から動いたって問題ないでしょう?」

 

「準備期間初日って、何するか決めるのがスタートじゃないの……?」

 

「それを提案するためにまずは用意しなくてはと言ってるんです。ほら、行ってください!」

 

 せっかくだから体育の一環で体を動かしてこいと烏間先生に言われて、超体育着に着替えた私たちは裏山へバラバラに散り、1時間程度殺せんせーが指定した種であるマテバシイのどんぐりを集めて回った。

 とはいっても裏山はとても広くて人の目だけでは見落とすことだってある……ここで律ちゃんの出番だった。元々登録されていた地形図の上に、みんなが山の中を走り回った結果を残していき……誰かが新しいマテバシイの分布を見つければ瞬時に共有される。文字通りクラス全員での任務(ミッション)をこなしてE組校舎へ再度集まれば、私たちの前には何袋も積み上がったどんぐりが詰められた袋の山ができていた。

 

 これを殺せんせーの指示の元、様々な下処理を施していく。実の詰まったどんぐりと、穴の空いた虫食いどんぐりの選別、殻や渋皮を取り除き、アク抜きをし、粉にする……放課後や授業終わりの空いた時間を使って作業を進めてきて約10日、大量のどんぐり粉ができあがっていた。

 ここまで何がしたいのか何にも知らされてないんだけど……この粉を使って何をする気なんだろう。

 

「かなり大量になったけど、これでいいのか?」

 

「十分です。これが小麦粉の代わりになります。客を呼べる食べ物といえばラーメン!これを使ってラーメンを作りませんか?」

 

「ラーメンだと……?!……んー……ちょい厳しいな。味も香りも面白ぇけど粘りが足りねー……滑らかな食感をこの粉で出すには、大量の『つなぎ』が必要だ。結局その材料費がかかっちまう」

 

 ラーメンと言われて、ラーメン屋の息子である村松くんが反応しないはずがなかった。すぐさまどんぐり粉に躊躇いなく口をつけ、味や食感などを確かめ始める……結果、イケるけど足りないものがあるということがわかった。

 確かにラーメンの麺を作るには卵を『つなぎ』として使うのが一般的だし、それがあるからこその味とコシがあるって、村松くんが放課後にお料理教室してる時に言ってたっけ。……カエデちゃん監修の『殺せんせープリン爆殺計画』の時に学んだけど、卵って結構高価だ。他で原価を抑えられても、ここでお金を使ってしまったら結局は意味がなくなってしまう。

 

「いえいえ、それも心配に及びません。それも裏山で手に入りますから」

 

 そう言って殺せんせーが示したのはむかご、と呼ばれるひとつの植物……その根元を掘り進めると出てきたのは、天然物だと数千円はくだらないとされる自然薯だった。……そんな高価なものまで自生してたんだ、この裏山。

 

「どうです、とろろにすれば香りも粘りも栽培ものとは段違い……つなぎとして申し分ないでしょう?」

 

「ああ、これなら充分使えるぜ。それどころか普通の麺じゃ出せない味や香り……クセを個性として全面に押し出せる」

 

「さあ、皆さんで探してきてください。もちろん、自然薯以外にも気になるものがあれば持ってきてくださいね」

 

 それからはトントン拍子に作業は進んでいった。

 

 どんぐり粉につなぎの自然薯……麺の材料費は大半が裏山で取れるから無料であり、資金の殆どをスープ作りにつぎ込めることになった。ラーメン屋の息子の意地を見せると村松くんが、野性的な食材を生かし、利益率もいいつけ麺を提案し、スープ作りをも買って出てくれたから安心感がある。

 

 どんぐりつけ麺以外にも何か食材にできるものはないか……それぞれが思い当たる場所を走り回ってみると、思っていたよりもいろんなモノが裏山に存在していることがわかった。

 

「なんかすげぇ棲みついてたわ」

 

「わ、すごーい!これ全部食べれる魚だしおいしいよ!」

 

 夏が終わってE組専用プールで遊ぶことは無くなったけど、そのままにしてあった水場にはヤマメにイワナにオイカワ……それ以外にも食べられる生き物がたくさん住み着いていたのを寺坂くんが見つけた。そこで生き物に詳しい陽菜乃ちゃんが同行して、プールで釣り上げられる魚やエビを集める人たちが走っていった。

 

「殺せんせー、これとかどう?」

 

「あ、こっちも鑑定してよ。毒のあるやつは責任もって引き取るから!」

 

「何に使う気なのカルマ君……」

 

 裏山に自生している木の実やキノコを集めてみれば、無難な栗や柿やクルミといったもの以外にも食べられる山菜がたくさんあった。殺せんせーに鑑定してもらうことで食べられる山菜は山のように手に入り、毒を持った危険なものの中にはとんでもない価値をもつ希少食材(マツタケ)が混じっていた。

 

「カルマ!マツタケだぞ!?すごいなお前!!」

 

「ちぇ、毒キノコじゃないんだ……」

 

「なんで残念がってるの……?」

 

「むしろ全部毒キノコのつもりで取ってきたんだね……」

 

「これらの食材を店で買ってフルコースを作れば、1人あたり3000円は下らない。ところがこの山奥ではほとんどが当たり前に手に入る……これはハンデどころか最大の強みです。これらは君達と同じ……山奥に隠れて誰もその威力に気づいていない!」

 

「隠し武器で客を攻撃ねぇ……ま、殺し屋的な店だわな」

 

「ヌルフフフフ、そういうことです。……殺すつもりで売りましょう、君達の数々の刃を!」

 

 みんなが言うようにハンデがあると言うならそのハンデを、不利だと言うならその不利を逆手にとって私たちは勝負する。美術が得意な菅谷くんがお客さんの目を引く看板を、興味を引く商品説明を読み物を表現することが上手な綺羅々ちゃんが、人からの見栄えをよく知っている岡島くんが食品写真を、三村くんがこのために特設ホームページを作成……各々の得意分野を活かして準備を分担し、それ以外にも接客担当や調理担当、この山の上にお客さんを呼び込むための工夫などを考えていく。

 こうして私たちは学園祭までの準備期間としてほとんど授業もおやすみになったこの時を、ここでしか味わえないおもてなしのための準備に費やすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ピロン♪

 

『アミサさん、メッセージが届いてますよ!』

 

「……?え、……、え、これホントに私宛……?」

 

「真尾、内容しっかり確認してから集合でいいぞー」

 

「う、うん……、……、……あの、みんな……」

 

「何ー、どした?」

 

「てか誰からのメッセージよ」

 

「その……浅野くんから、よく分からないメッセージが来たんだけど……ど、どうすればいい?」

 

「「「はぁ!?浅野ォ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭前という、どこのクラスもお互いにかなりバタバタする時期だけど、至急依頼したいことがあるという呼び出しに応じるため、少しだけ準備を早抜けさせてもらうことにした。

 浅野くん本人から許可をとって、私に送られてきたメッセージをE組のみんなにも伝え、準備から抜けられそうな何人かも一緒に浅野くんと待ち合わせている場所に着いてきてもらうことにした。だってこれ、私の一存で決めていいことじゃない……。着いてきてくれたのは、カルマ、磯貝くん、莉桜ちゃんの3人。

 

 待ち合わせ場所は本校舎……ではなく、E組校舎に向かう山道の近く。浅野くん曰く、本校舎の生徒や先生……特に理事長先生にバレない場所がいいということでここにしたみたい。私たちがそこにつく頃には、浅野くんは既に待っていた。

 

「……来たか」

 

「浅野……メッセージの通り、真尾以外に俺等も一緒に話を聞くぞ。あれだけじゃよく分からないし、真尾1人の一存で決められないからな」

 

「別に構わない。A組は僕、E組は全体で店の運営に関わるんだ……運営する上で人を動かす、そのあたりの事情はお互い対等な立場でいくのが当たり前だ」

 

「それで、その……あれって、どういう意味なのか教えてくれますか……?」

 

「言葉通りだ。……真尾さん、君にA組のステージへ出演してほしい」

 

 そう、浅野くんからのメッセージの内容は『私がA組のステージに出る』ということだった。

 聞けば、学園祭で浅野くんたちA組はイベントカフェというものを開くらしく……食べ放題飲み放題で入場料500円という価格設定にするらしい。どうやって稼ぐかの仕組みは当日までのお楽しみだけど、イベントと銘打つだけあって体育館のステージで有名人やお笑い芸人、歌手、アイドルなどを招待して出演してもらうんだとか。

 

 そのステージには五英傑の面々もバンドで出演するみたいで……その一部に私にも出番を作りたいとのことだった。……なんで私?

 

「なんで私なのかって顔をしているね。……君の身体能力は元々注目していたし、聞いた話じゃ歌唱もできるらしいじゃないか。僕達五英傑も出るんだ、君のような才能のある人を推して何がいけないんだい?」

 

「…………」

 

「へぇ……浅野クンの事だしアミーシャがリーシャさんの妹ってことを知ってて、その立場に利用価値があるとか考えてのことだと思ってたのに」

 

「……知ってはいたさ。だが、真尾さんを利用するつもりなんてさらさらない。真尾さんは有名人の妹である自分にコンプレックスがあると言っていたね……それでも影に隠れるのではなく自分らしさを出して表へ出ようとする……僕も似たようなもの。……僕は理事長に父親というものを感じられない、が、いつかは超える存在だと思っているんだ、僕も」

 

 私はやっぱり嘘がつけないらしい……考えていたことを的確に当ててみせた浅野くんは、疑問に答えてくれた。一応納得できる理由だけど、それでも『なんで私』という疑問は消えない……別にそれなら私じゃなくてもいいんじゃないか、浅野くんなら当然本校舎の対決ムードを知ってるだろうし、むしろ先陣を引っ張ってそうなのに、E組(競争相手)から招いちゃ意味無いんじゃないのか、と。

 着いてきてくれた3人もまだ納得がいかないみたいで、カルマがありそうな理由(ネームバリューを利用)を聞いてくれた。それに対しての答えを聞いて思った……もしかして、浅野くんは自分自身に私を重ねているところがあるの……?

 

「……ふーん、それで?アミサはだいぶ克服してきてるとはいえ、まだ本校舎の連中見ると怯えてる時あんのよ。そこに1人で放り込めっていうの?」

 

「まさか。今だって僕1人と話すためだけに3人も着いてきてるんだ、当日だって同じように君達も来ればいいじゃないか。もちろんタダで出てもらうわけじゃない……叶えられる要求なら聞くが?」

 

 莉桜ちゃんが、迷っている私を後ろから手を回して抱きしめながら浅野くんに言う……確かに本校舎には正直あまり行きたくない。浅野くんや他の五英傑の人たちはギリギリ平気だけど、他の人は……そう思っていれば浅野くんは案外すんなりとE組の誰かと来てもいいと言ってくれた。

 それと付け加えられた報酬……やっぱり着いてきてもらってよかった、私1人じゃ色んなことが決めきれなく終わってるところだった。

 

 ……私は、E組に来るまではずっと1人だったから、1人で考えなくちゃいけないことがいっぱいでいつも自信がもてなかったけど、みんながいてくれるならだいじょぶなんじゃないかって気がしてくるから不思議だ。

 心配そうに私を見ているけど決断は任せてくれそうな磯貝くん、まだ裏がありそうだって目で浅野くんを威嚇してる莉桜ちゃん、そして少し不満げに、だけど私の意思を尊重してくれるだろう目で私を見るカルマを見て、私は決めた。

 

「……私、出てもいいよ」

 

「アミサ?!」

 

「真尾、いいのか?」

 

「……うん」

 

 浅野くんが何を考えて私を出そうとしてるのかは分からない……というか、何も考えずに私を出そうとしているとは思えない。でも……浅野くんがE組失脚のために動こうとしているとも思えないから、……1人で行かなくてもいいなら、出てもいいかもしれない。

 

「でも……あの、……1度E組に戻ってみんなと相談してきてもいい……?」

 

「もちろん」

 

 今日中にこちらの要求を話し合って浅野くんに連絡することを約束して、私たちはE組に戻ろうとした……ずっと不満げに私たちの話を聞いていたカルマが足を止めて、浅野くんを振り返るまでは。

 

「……カルマ?」

 

「……ねぇ、浅野クン。先に俺から条件出させてよ」

 

「……言ってみろ」

 

「本番まで、共演するアミーシャの顔を、素性を隠すこと。曲の選択権はこっちにすること。練習するならE組の誰かを同席させること。じゃなきゃステージに出すことは俺が許さないから」

 

「フン、番犬が……まあいいだろう。どれも真尾さんの負担を減らすためのものだしな……方法は僕も考えていたしちょうどいい。他にも要求や内容を決めたら真尾さんを通して僕に連絡しろ。……真尾さん、君との共演を楽しみにしているよ」

 

 そういって、今度こそ浅野くんは本校舎へと帰っていった。カルマ、急に何を言い出すかと思った……あっちの中でパフォーマンスするとか、……今はまだ怖いし、私だと分からないようにしてもらえるのはありがたいから嬉しかったけど。

 浅野くんの姿が見えなくなってからカルマの方を見てみると、何やらポケットをゴソゴソとあさっていて……

 

 

 

〝……ねぇ、浅野クン。先に俺から条件出させてよ〟

 

〝……言ってみろ〟

 

〝本番まで、共演するアミーシャの顔を、素性を隠すこと。曲の選択権はこっちにすること。練習するならE組の誰かを同席させること。じゃなきゃステージに出すことは俺が許さないから〟

 

〝フン、番犬が……まあいいだろう。どれも真尾さんの負担を減らすためのものだしな……方法は僕も考えていたしちょうどいい。他にも要求や内容を決めたら真尾さんを通して僕に連絡しろ〟

 

 

 

「……よし、しっかり録れてるね」

 

「お前……黙ってると思えば……」

 

「ナイスよカルマ!」

 

 取り出されたスマホから聞こえたのは先程の会話。途中から黙ってるなーとは思ってたけど、私たちの会話の一部始終を録音してくれてたみたい。

 言質とったしE組が何人いようが浅野クンは反論出来ないよねーとか、ステージに出るにしても内容はこっちで考えさせてもらわないととか、校舎へ戻る山道を歩く中でかわされる会話。E組のお店以外にも私なんかのことで負担をかけてしまいそうなのに、何故か3人は乗り気になっていて……この3人でこれなのだから、他のクラスメイトはどうなんだろう。

 

 それにしても……私のシフトの休憩時間で本校舎かぁ……ステージに、立つ。本校舎の人たちは考えてるだけでもやっぱり怖いと思ってしまうけど、何故か見られることに関しては全く恐怖はなくて……むしろ、見てもらうことにワクワクしてきた。これが、いつもお姉ちゃんが感じてる気持ち、なのかな。

 

 

 

 

 





「と、いうわけで……なんかよく分からないうちに真尾をA組のステージに出すことが決まった」

「……それ、いいの?」

「浅野にもなにか考えがあるんじゃ……」

「ま、一応今回は『A組に対決を申し込まれた』わけじゃないしね」

「確かに、周りが勝手に盛り上がってるだけだもんな」

「浅野本人が申し出たんだし、色々条件付けさせてもらおう」

「カルマが言ったのはとりあえず、アミサだってバレないようにすることと、内容をこっちに一任すること、練習にはE組を同席させることでしょ?他は?」

「E組生もステージに乗るとか?」

「売上のいくらかをこっちに譲渡」

「オンステはともかく売上は無理じゃね?浅野は無償で有名人に出てもらうらしいし、こっちだけってのは」

「……E組の店の宣伝」

「イトナ?」

「アミサには負担をかけることになるが、『A組のステージに出る→どんぐりつけ麺の宣伝を→E組でも野外ステージ(無料)をするから』って客を呼ぶのもありだと思う」

「でもそれって、演者がアミサだってバレちゃわない?」

「……いや、俺が出した条件は、演目を先に知られたせいで、本校舎生の中に残ってる『異端児なんかのステージ』みたいな流れになるのを防ぐため。どうせ表に出すならアミーシャを認めざるを得ない環境を作ってやろうかと思ってさ」

「じゃあ、カルマは賛成なんだ」

「本人さえそれでいいならね」

「…………いいよ」



「……私、今、ドキドキしてるの……規模は、お姉ちゃんと比べたらそこまで大きいものじゃない……だけど、お姉ちゃんと同じ、ステージの上で堂々とパフォーマンスができる。……私も、誰でもない、私の力で、ステージに立ってみたい」



++++++++++++++++++++



学園祭の時間でした。
A組側のこともちょっと書きたい&五英傑の面々と少し話してほしい話題があるということで、オリ主がA組のステージにでます。何をするかはお楽しみに、です。

今回の話は準備期間。
次回から数回に分けて学園祭当日を書いていきます。



わーい、ここでやりたいことが盛りだくさんだから、長くなりますよ〜!


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