学園祭開始。
リニューアル前は拙い歌詞を考えて書きましたが、内容一新のため既存曲をお借りします!
といってもそれは次回なので、まずは前編、オリ主のステージ前までお楽しみください!
今回も、よろしくお願いします!
──よく晴れた11月のある土曜日。
私たちの通う椚ヶ丘学園は、いつもと違って賑やかで……生徒たち以外にも多くの一般人が出入りしていた。
「いらっしゃいませー!」
「こっちで焼きそば売ってますよー!」
「あ、うちの店どうですか?カフェやってるんですけど……」
今日と明日の2日間、ここ椚ヶ丘学園では学園祭が開催される。勉強ばかりやっている毎日のストレスを発散するかのごとく、生徒たちは自分たちで考え、経営するお店にお客さんを呼び込もうと声を上げ、少しでも満足してもらおうと精一杯のサービスをしていく。それに、ここでの結果が商業的な実績として将来の履歴書に載せることができるほど重要なものとなれば、それはそれは必死になるもの……特に、就職や大学進学を控えた高等部3年生ならなおさらだ。
もちろん、真剣に取り組んでいるのは卒業を控えた高等部だけじゃない……私たち中学部だって同じなわけで、中学部のエリアにも呼び込みの声、お客さんたちの楽しむ声が響いていた。
ただ、ここまで声や音が響いているのは、あくまでも山の麓……中学部も高等部も設置されている本校舎だからこそ。……私たちのE組は、山の上なだけあってそんな喧騒は届いていなかった。
「やだやだやだぁ!!」
「あ、コラ待ちなさいアミサ!」
……届いては、なかったけど。別物の叫びを響かせていた。
学園祭は始まっているとはいえ、流石に山のてっぺんだとまだお客さんは来ていない、……のに、バタバタとE組校舎の中に響いてる追いかけっこの足音は、逃げる私と莉桜ちゃん、メグちゃんの3人のものだったりする。
こうなった原因はとても簡単……私の役割がウエイトレス役、つまり接客に回ることになってしまったからだ。E組女子の役割分担は、イリーナ先生の手ほどきを受けて交渉術に磨きをかけて山道の麓で客引きをする役、料理の腕を活かしてメニュー全般の調理を担当する役、そして山の上の私たちのお店に来店してくれたお客さん相手に直接やり取りをする接客役のウエイトレスだ。
「なんで、私だけそれなのッ!絶対浮いちゃう!」
「大丈夫だからッ!衣装班信じなって!」
「いやー、こうなる気はしてた。殺せんせーのアドバイス通り当日お披露目にして大正解だわッ」
「ちなみに試着すらできてないけどサイズは平気よね?」
「元々フリーサイズだし、律の計算通り仕立て直したから大丈夫って原ちゃんが!」
当然といえば当然だけど、お店を経営する以上知らない人を相手にして店員らしくエプロンをつけて接客するに決まっている。でも、私はやっぱり慣れてない人を相手にすることは苦手だし、目立ってドジを踏みたくない……だから基本裏から出ることの無い調理担当がよかった。料理できるし。
……最悪、ただのウエイトレス役ならまだ頑張れそうだったのだけど……確かに人前に出るのは怖いけど、まだ同じようにウエイトレス、男子ならウエイターをする人たちはいるから、いざとなれば頼ってなんとかなると思ってたし。ただ……
「……ん?よっと、はい、捕獲」
「ナイスカルマ!観念しなさいアミサ!」
「はーなーしーてーッ!」
「はー、はー、なんで開店前からこんな疲れてんのよ私達……アミサ、アンタは男女満場一致でそれがいいって推薦されてんだから、諦めなさい!」
「じゃあなんで、私がいない間に他のみんなで決めてるのッ!私が着るんだから私もいる場でやってよぉ……っ」
「うーむ、ド正論」
「いる場で相談したらアミサは絶対着てくれないからに決まってるでしょ!こちとら好きに着飾るチャンスなのに!!」
「こっちはこっちで欲望一切隠してねーし」
「……あそこまで嫌がられるとなんか罪悪感が……」
「いやでも店には看板マスコットは必要だろ!」
「看板『娘』じゃないんだ、『マスコット』なんだ」
「絶対似合うし制作者は原だぞ、出処どこよりも信頼できるじゃねーか!」
「真尾さんはA組のステージでも宣伝をしてもらうんだ、少しでも目立った方がいい」
「……とかいって、あの衣装って竹林君と岡島君と前原君がデザイン案出したんだんだよね?」
「あと寺坂と中村なー」
「お、俺は
「猫耳メイドは正義だろう?」
「清々しいくらいまっっったく悪びれてないね竹林君」
「すっごい熱弁だったもんね……」
「アミサが嫌がるって譲らなかったカルマを、メイド服について『男のロマンが詰まってる』路線で熱く語って最終的に黙らせたくらいだから……」
「というかそのカルマがメイド服持ってるって言う矛盾ね……本トに渚に着せるつもりで買ったのかしら……」
「は!?渚君用のつもりだったから!……いやまぁアミーシャにメイド服とか絶対かわいいしちょっと着てくれたらいいなとか思ってないこともなかったけど当初の目的は夏休みの渚君の女装が似合ってたんだから着せたら男ども騙せてちょうどいいんじゃねって思ったからには違いないし……」
「食い気味だし言い訳が必死すぎて嘘っぽいよ……ていうか僕男なんだからそもそも僕に着せようとしないでよ!?」
ここまでの会話でわかってくれたと思うけど……私だけ違う格好で目立たなくちゃいけないことが当日わかるって何!?ただでさえ苦手なことをするのになんでこんな恥ずかしいことを……カルマ、止めてくれたなら最後まで頑張って欲しかった……
結局待ち伏せしてたのかサボってたのかは分からないけど、空き教室から出てきたカルマに捕獲された私は、服を選んだ人たち曰く猫耳メイドな衣装に着替えることに。
中学生の手作り衣装ということで、何故かカルマが『渚君に着せようも思って買っといた』と持っていて提供されたコスプレ用メイド服に、我らがおかーさんの手を加えられたエプロンドレスというものに猫耳付きのヘッドドレス……おかーさんには確かにステージ衣装も頼んでたけど、みんなの話からしてこれでA組のステージに出るってことだよね……?私も制服の上からただのエプロンと、あって髪飾りだけがよかったなぁ……
「おーけーおーけー、可愛いわよ!」
「ふっふっふ……私達の目に狂いはなかった……!」
「うぅぅ……確かに服はカワイイけど……」
「あ、ちなみにアミサが原さんに頼んでたギミックはここね。カルマも改造していいって言ってたし……えーっと、ここにひっかけて、引っ張ると……こんな感じ。おお、いいじゃん!」
「……わかったぁ……」
「ほら、戻るよ。お披露目お披露目……カルマにはちゃんと感想聞きなさいね」
「……変って、言われない……?」
「自分の彼女が着飾って嫌な奴はいないって」
「反応に想像つくもんねぇ……むしろ隠したがるよ」
着てしまえば諦めるしかない……着替えを手伝ってくれた莉桜ちゃんとメグちゃんと一緒にみんなの元へ戻る。おかーさんに頼んで、ステージで使うためのちょっとしたギミックを仕込んでもらったから、少し重たいけど……本番用に比べればまだ軽いし暑くない。
ただ……教室のガラスに反射した自分の姿が見慣れなすぎて、やっぱり自信がもてないし、つい俯いてしまう。
「お待たせしました、看板マスコットの準備完了ー!」
「どーよ、ってほら隠れてないで出てきなさいッ」
「……、……お、おかしく、ない……?」
「おー、予想通りいいな!いいマスコットじゃんか!」
「かわいい〜っ!ふわふわしたのやっぱ似合うね〜っ」
「余計小動物感が増した……あと髪色と同じ耳すげぇ、よく作れたな」
私を見たみんなの反応は三者三様……でも、誰一人として『似合わない』とか『変』みたいな否定的なことを言う人はいないし、おかーさんが作ってくれた服、ホントにかわいいし……少し、がんばってみようかなって思えた。
「ほら、固まってるアイツのとこ行ってやんなよ」
「う、うん……か、カルマ!」
「……………………」
「……その、ど、どう……?」
「……う、………………ねぇ、」
「「「却下」」」
「まだ何も言ってな
「どうせこの姿で表に出したくないとかそーゆーことでしょ?これでも露出はほとんどないし、もっと飾りたいところを抑えた方なんだから、妥協して」
…………チッ」
「舌打ちすんな!」
莉桜ちゃんに促されて、こっちを見たまま……見たままというか凝視してるようにみえるカルマの前に行って、軽くエプロンの裾を持ちながらくるりと回って見せた。
……ら、何か少し考えてたカルマが私の肩を軽く掴みながらみんなに何か言おうとして、即座に却下されて不機嫌になった。否定しないってことは私を人前に出したくないってことでしょ……?やっぱり何か、見栄えが悪く……
「勘違いしてそうだから言うけど……めっちゃ可愛いから」
「……!」
「可愛いよ、すごく似合う。だから本トなら俺以外に見せて欲しくないし百歩譲っても
「…………」
……可愛い、のか。みんなに言われても否定されなかったなって感じた程度だったのに、カルマに言われたらホントに私がこれを着ていて可愛いのかなって気になってきた。……どうしよう、……嬉しい。
「2人の世界に入ってるとこ悪いけど、律から連絡よ」
『みなさん!麓で客引きをしている矢田さんから連絡が来ました!「何人か呼べたよ!これからお客さん向かうから対応よろしく!」とのことです!』
「だって。虫はいつでもE組みんなで払ってあげるから、いつでも預けてちょーだい」
「アミサちゃん、いけるよね!」
「……そうだね」
「……うん、がんばる!」
「よし、皆!俺等の学園祭はここからスタートだ……気合い入れていくぞ!」
「「「おうっ!!」」」
律ちゃんからの連絡で、ついにお客さんの初来店が近づいていることを知る……私はA組のステージに出るために2時間くらいシフトに入ったら下山しなくちゃいけないから、その間でしっかり働かなくっちゃ。
……そうだよ、服なんて誰も見てない、頑張るしかないんだ、……やろう。やってみせる。
◆
お客さんが来始めて30分くらいが経ったけど、やっぱり山の上にあるっていうことでここまで来てくれる人が限られてるのが現状かもしれない。一応足腰が弱い人のために、寺坂くんと吉田くんが足になってくれてる……それでも全員に出すわけにいかないから、そのへんは麓で客引きをしてくれている桃花ちゃん判断だ。
「
「え、と、……はい、承ってます。食材は問題なく届いてますし、調理についてキッチンに確認しますね、……あ、愛美ちゃん、あけびの味噌炒めのお客様が……うん、うん!分かったありがとう。ただいま袋詰めをしてる、とのことです。なので……あの……お兄さん、もう少しだけ、待っててくれますか?」
「あ、は、はい……本当に注文後に取りに行ってるんだ」
「はいっ!この裏山には自然がいっぱいで、メニューにあるものは全部この山で取れる食材で、新鮮さを楽しんで欲しいから採れたての食材でメニューをお出しするのがこのお店なの……あっ、です!あ、ほら……食材調達班が帰ってきたとこで」
「……本当だ……」
「お兄さんのアケビを採ってきてくれたのもあの人でね、おっきくて果肉いっぱいなの見つけたーって言ってたから、期待してて欲しいな……って、思ってて、」
「……!あ、あのっ!つけ麺追加で食べて行きたいんですけど、いいですか?」
「……!ホントですか?ありがとございますっ!では、お席にご案内しますね」
1人違う衣装だからこそ、私は山を登りきった旧校舎の看板近くに設置された受付で案内役をすることになった。E組は衛生面の問題からナマモノはあまり長いこと置いておくことはできない……だけどこの校舎にたどり着くまでにかかる時間があるし、麓で注文してもらえれば上につく頃には採れたて新鮮な食材が届いていることになる。
その注文の連絡は調理担当、調達担当以外に私の手元にも逐一送られてきていて……私はその人たちへの対応や席への案内をするのがお仕事だ。
あれだけ衣装には抵抗したけど、いざやり始めたらどうでもよくなってきていて、対応がだいぶスムーズになってきたと思う。いつもの話し方がたまに出ちゃうけど、少しならお客さんとお話できるようになってきたし……結構追加で注文したり食べていってくれたりする人も出てきた。これなら乗り切れそうかな。
「いやー、アミサちゃんが客の懐に入るの上手すぎて、ことごとく追加注文来るのが面白すぎる……半分は持ち帰り予定の人も食べてってるからね、ガチで戦力よ」
「しかもすごいのは男女問わずなとこだよ……男ウケはいいと思ってたけど、女の人にまで推されてるんだもん」
「アミーシャお疲れ。もう1組くらい接客したら俺等と本校舎に行くから交代だよ」
「あ、うん!ここから優月ちゃん、お願いするね」
「まっかせといて!カルマ君、写真……いや、動画よろしく。律をテレビってことにしてステージでの映像流すらしいから」
「おっけー。浅野クンにその時だけ撮影とSNS投稿オーケーにしていいって条件つけたし、文句は言わせないよ」
「律ちゃんがテレビ……」
「三村君がついて、律をアバターとして動かしてる形にするんだって。実際は律が自分で動くわけだけど」
人の流れが途切れたところで、私がいない間の受付役として、カルマとカエデちゃんを伴った優月ちゃんが来てくれたのを見て席を立つ。みんながうまく予定を調節してくれて、始まって2時間やそこらじゃまだそこまで混まないだろうってこともあってか、カルマ、渚くん、カエデちゃん、有希子ちゃん、愛美ちゃん、杉野くんの4班メンバーが休憩時間として本校舎に着いてきてくれることになった。
急いで校舎の中に入り、山道を歩くわけだからと衣装を脱いで、仕掛けもカバンに入れて外に戻れば、玄関前で6人はもう準備して待ってくれていた。下で使う簡単な荷物だけ持ってさあ向かうぞ、となった時……前を向いた杉野くんが声を張り上げて、有希子ちゃんと一緒に私を後ろに隠した。
「あーッお前等!修学旅行の高校生!!何しに来たんだよ!?」
「あれれ〜?また女子でも拉致るつもり?」
「……チッ、もうやってねーよ。化け物先公に出てこられちゃたまんねーしな。だが、別に力を使わなくても台無しにはできる」
さり気に男性陣が私たちの前に立って隠してくれた相手は……京都での修学旅行で男の子たちをケガさせて、私とカエデちゃん、有希子ちゃんを誘拐した高校生たち。
彼等はあの時も制服から私たちの学校とかを特定してたし、殺せんせーも学校での立場は底辺だって確か言ってた……それでE組のことを知ったのかな。反射的に隣のカエデちゃんと有希子ちゃんの腕を掴むと2人ともがその手に手を重ねてくれた。
高校生たちは言う……殺せんせーに手入れされても台無しにする機会は今でも狙っているのだと。
私たちのお店は飲食店だから、ちょっとしたことでお客さんの印象はガラッと変わってしまう。嘘の情報でもちょっと口にされただけで大きな影響があるかもしれないのに、それがネットにでも流されたら……
「お前等、心配すんなよ」
「……村松くん……」
「うちのこだわり抜いたどんぐりつけ麺だ。まずいわけがねぇ……この1週間、思わずうめぇって言わせる味を目指したんだぜ」
調理室の窓から、村松くんが顔を出した……話しているあいだに料理ができていたみたいで、声をかけてくれたみたいだ。窓の1番近くにいた愛美ちゃんが料理を受け取りに行って、そのまま高校生さんたちに出してくれるとまで言ってくれて……そっか、愛美ちゃんは唯一無事だったから、高校生さんたちもあの時の関係者かどうかわかってない可能性があるんだ。
「ど、どうぞ……看板メニュー、どんぐりつけ麺です」
愛美ちゃんが出した山菜たっぷりのどんぐりつけ麺を前にして、興奮してる高校生さんと、よく分からないけどものすごく怒ってるリーダーっぽい人がつけ麺に口をつけるのを、固唾を呑んで見守る。他のお客さんの反応は上々だけど、この人たちにはどうだろうか、と。
「う、うめぇ……!」
「確かにラーメンだけど……食ったことねー味だ」
「村松にしては奇跡の味だ。マズさが売りのキャラが崩れる」
「うるせーイトナ!テメーも働け!」
「ちゃんと金は払ってるぞ」
「そういう問題じゃないんじゃないかな……」
……お口にあったようで何よりです。何故かお客さんに混ざってつけ麺をすすってるイトナくんを村松くんが叱ってる中、涙を流して箸を止める高校生さん。
村松くんの試作スープを味見しては批評を繰り返す殺せんせー、とにかくねちっこいし細かかったもんね……そのおかげで誰もが満足できるつけ麺の豚骨醤油スープになったわけだけど。こっそり窓の方を見てみれば、その村松くんと目が合ってドヤ顔しながら親指立ててた……ホントだ、全然心配なかったや。
「な、これがこんだけうめぇんだし、他のも食おうぜ他のも!」
「なんだこのタマゴタケって、俺食ったことねぇ!」
「テメーらマズイって言え、マズイって!」
「え、マズイの?あらぁ……うちの生徒の料理、お口に合わなかった?」
「「「マブい!!」」」
と、ここで様子を見てたらしいイリーナ先生が声をかけてきて、高校生さんたちがみんな挙動不審な上に敬語まで使い始めた……先生、普段の姿を見てない人にとってはものすごい美人さんだもんね、照れるよね。
しかも服装を落ち着いたものに変えたから、前以上に色気が全面に出てる気がする……自分の魅力を自覚して、それを巧みに料理を進めるのに使うイリーナ先生は流石だと思う。
「ふふ、料理もいいけどね……今はもう準備でいないけど、うちの看板娘がこれから本校舎で歌うのをそこのテレビで中継するし、午後からは無料のステージもやるのよ。料理を食べながら見てくれると、先生嬉しいなぁ?」
「え、で、でも金が……」
「駅前にあるでしょ……?……A・T・M♡」
「「「お、……下ろして来るッス!」」」
「はぁい、待ってるわね〜」
「……貢ぎコース確定した」
「何よ渚、ダメなの?……アイツらって私の可愛い
サラッと私の出演を……ホントはここにいるけどいないって体で隠しながら宣伝してくれたイリーナ先生の言葉を聞いて、高校生さんたちはお金を下ろすために山道を駆け下りていった。
お兄さんたち、武力行使での台無しを仕掛けるどころか、イリーナ先生に取れるだけお金を搾り取られることが決まったね、きっと。結構お金の復讐は冗談じゃすまないと思うんだけど。
直前にアクシデントはあったけど、無事に出発できそうだ。今度こそクラスメイトたちに引き継いで、私たち4班は山道を降りる……A組の、浅野くんからの依頼をこなすために。あとは、移動の分も考えた少し長めの休憩時間で本校舎の偵察……もとい他のE組生より一足先に本校舎の出し物を楽しむために。
◆
「うわ、やべぇ……体育館が異世界だ」
「なんて言うんだっけ、このわーって流れてる文字……」
「『弾幕』だよ。動画のコメントを打つとリアルタイムで流れるの」
「へぇ〜……神崎さん、詳しいね」
「私、ゲームの参考とかにこういう動画とかよく見てるから」
中学部のA組が出し物をするために借り切ったらしい体育館は、杉野くんの言う通りまるで異世界に放り込まれたかのようだった。
暗い室内に明るい照明が踊り、周りの壁には背景画像とともにステージに登るアイドルさんへのコメントがとめどなく流れる……ってこれ、中学生がやる出し物なのかな?もはやこれ、常設されてる1つのお店なんじゃ……
「浅野せんぱーい!」
「やぁ、よく来てくれたね。楽しんでくれたら嬉しいよ……君等も来たか、丁度いい」
「やっほー、浅野クン。ここに来た俺等6人が裏か表で待機させてもらうからよろしく〜」
「ああ。E組の要求通り……僕等5人の演奏の中で真尾さんが出演することは本校舎の生徒も教員も誰にも明かしてないし、演奏が終わった後にE組の飲食店の宣伝時間を設けよう。だが……果たしてここに来た客が君等の店へ行くかな?」
「……どういうことだよ」
何か企むような顔で得意げな浅野くんに杉野くんがイライラしたような声色で尋ねると、彼はA組の出し物である『イベントカフェ』の仕組みを説明してくれた。
まず、この体育館は真ん中にステージを置く形で半分に仕切ってあるらしい……道理でどこか普段の集会の時に比べると狭いと思った。片方のステージを開いたらアイドルや芸人など浅野くんのお友だちがイベントを行い、終わり次第仕切りを閉じてすぐさま反対側のステージで次のイベントが始まる……これが1時間単位でずっと続くんだそうだ。
仕切りとはいってもあくまでも目隠しのようなものだから、空間を完全に区切ってるわけじゃない……だから、反対側で始まったイベントの音だけが聞こえる。飲み放題食べ放題な代わりに、ステージの開かれる部屋へ入る時に1回500円払って入場するから、それに釣られたお客さんは入るたびに500円払う……そこで利益を出すということ。
ここでさっきの浅野くんの言葉に繋がるのだけど……入場料はかかるとはいえ飲み物と食べ物が無料だから、生徒たちは無計画に飲み食いする。イベント会場から出る頃にはお腹いっぱいになっていて、E組を含めた飲食系統のお店には入る気にもならないだろう、というのが浅野くんの読みらしい。
「うーん、確かにお腹いっぱいになったら他のお店には入る気なくなるよねー……」
「強いて、デザート系でしょうか……」
「うん、でも……送迎を使うにしてもわざわざ1kmも山を登ってきてくれるかっていうのがネックかもしれないね」
「ふっ、今回は僕の作戦勝ちかな。せいぜい悩めばいいさ……さぁ、真尾さん、裏へ準備と打ち合わせに行こうか」
「え、あ、はい!」
「今のままの服装でも隠しきれない芳しき花の香り……衣装という名の水を与えられてどう育つのかが楽しみだ。さ、お手をどうぞ?僕が着替えを手伝うし、その可憐さに磨きをかけてあげよう」
「ちょっと、アンタ何言って、」
「途中までもう着てるしあとは装飾だけだから1人でもへーきですっ!ありがと、榊原くん」
「アミサちゃん、ツッコミどころはそこじゃないです……」
「男が女の着替えを手伝おうとしてるところに違和感もって……!」
「ほんっとよかった着いてきて!合流してすぐにこれじゃ危なすぎる……!」
浅野くんの話す作戦を聞いて早くも相談し始めてる私以外の女性陣を横目に(多分スマホから聞いてる律ちゃんがE組のみんなにも中継してるから、相談してるのはE組の面々もだけど)、手を取ろうとしてきた榊原くんから逃げつつ、一旦楽屋になってるらしいステージ横のスペースに移動することに。
楽屋はそこまで大きくスペースをとってるわけじゃないし、椚ヶ丘と関係の無い外部から来てくれている著名人もたくさんいるから、あまり部外者が入るわけにはいかない……らしいので、何かあった時のために楽屋までカエデちゃんが着いてきてくれることになった。
カルマたちと別れて楽屋に入り、カエデちゃんに少し手伝ってもらいながら着替え終わった後、浅野くんは椅子に座ってギターの調律をし始めた。手を動かしながら私たちの動きを確認していくのはさすがだなぁ。
「──と、いう流れだ。……最終確認だけど……真尾さん、本当にこの曲でいいのかい?」
「確かに……真尾の雰囲気だとここまで叫ぶような歌は想像がつかないぞ」
「僕等だって選ばれし者……本番前に軽く曲を変えたって完璧に演奏してみせるよ?」
「しかも2曲歌うんだろう?1曲は共に練習したが……もう1曲は照明の指示しか聞いてないぞ……」
「アミサちゃんの歌はすごいからね!4月にかなり激しいの1回聞いたけど、一瞬意識持ってかれそうになったもん!2曲目もヤバいから!!」
「……だいじょぶ、いける。それに、2曲目はE組のみんなにも秘密なの……全部知ってるのは、演出の相談と練習に付き合ってもらったカエデちゃんだけ」
「そ、そうか」
「てか……なんでお前が自慢気なんだ」
「ふふん、アミサちゃんはE組みんなの妹だから!妹分はお姉ちゃんが自慢するものだよ!」
打ち合わせの時に心配されたのは選曲……普段大人しい私にはテンポも曲調も激しいものは合わないんじゃないかって。自分では似合う似合わないとかは全然わからないんだけど……でも、ここで歌うのに相応しいだろうって曲を持ってきたつもりだ。
1度音楽の授業で、殺せんせー暗殺の情報集めのために波長に歌声をぶつけたアレを、カエデちゃんは覚えてくれていたみたいで……目の前で自分の事のように嬉しそうに話す姿を見てたら、なんでもできる気がしてくる。
先に2、3曲弾いてくる間に準備を整えておけといって、浅野くんはひと足早くステージへと歩いていった。ギターをかき鳴らす浅野くんの姿にイベント会場は爆発したような大歓声……確かに浅野くんは何でもできるけど、気持ち悪いってのは言い過ぎじゃないかな、小山くん。
「だが、なんでも出来る彼にだって敗北はある」
「もう相手がエンドのお前らだなんだと言ってられないな」
「どんだけ腹黒かろうが……俺等のトップが負ける姿はもう見たくねぇ」
「……じゃあ、なんで、私を……?」
どんな扱いをされても、腹黒い考えや普通思いつかない作戦を出してきても、それでもたった1人のリーダーだからついて行くのだと4人は言う。負ける姿が見たくないから、全力で協力するのだと言う。
なら、なんで敵である私を呼ぶことに反対しなかったんだろう。彼等は、なんで受け入れてくれたんだろう。隣で聞いていたカエデちゃんも不思議そうに彼らを見ていて、4人は1度舞台を確認してから気まずそうにこちらへ向き直った。
「あー……本当は言うなって言われてたんだが……」
「僕が言うよ。……浅野君は1年の頃から真尾さんに好意があったんだ。それでもクラスは違うしそばにいるキッカケをなかなかもてなかった。その上今年は真尾さんがE組で余計に接点をもてない……一度くらい、どんな形でもいいから一緒に学校行事に参加したかったらしいよ」
「だいぶ強引だとは思ったけどな」
「…………」
……そっか。2学期末テストが終わったら、本校舎はエスカレーター式で椚ヶ丘の高等部にあがるけど、2学期末テストが終わってからもE組に残る生徒は外部受験で他校へ進学することになる。
きっと、暗殺以外に目標としてきた本校舎復帰のボーダーラインである『テストで50位以内』を達成できても、E組生の中であの教室を出て行く人は私も含めて1人もいないんだろう。そう考えたら、私と浅野くんが同じ学校で同じ行事に参加することは二度とない……今年が最後のチャンスといえばそうなんだろう。
A組の出し物にE組を呼ぶなんて、下手すれば大バッシングを受けてもおかしくないのに、浅野くんは躊躇いもせずに実行した。ステージの境となるカーテンから覗いてみれば興奮して叫ぶ観客を前にして、すごく楽しそうに、だけど真剣にギターを弾いている彼の姿……この彼が作り上げた空間に私も立つんだ。
「……私、がんばるね」
「……おう、任せたぜボーカル」
「いっちょ支えてやりますか!」
「私はここから見てるね。……いってらっしゃい」
◆
カルマside
「……浅野君って、楽器もできるんですね……」
「ああいうのなんて言うんだっけ……
「ですね」
「あ、やっと繋がった……!おい進藤、お前今どこにいんだよ!?昨日から連絡してんのに無視しやがって……!あー、もうなんでもいいから体育館のイベントカフェ来いよ!……今E組行くところだった?そっち行ってもいねぇって!」
「……で、さっきから杉野は何やってんの?」
「真尾が出るんだから、進藤にも生で見せてやりたくて。……はぁ?もう山道半分登ったあと!?あー……間に合うかなー……」
「……無理ならE組でのステージと中継推してやればよくね?」
「……それだ。進藤、彼氏様から許し出たから、時間あるならそのままE組目指してそっから見ればいいんじゃね?中継するし!午後にはうちでもステージやるからさ!」
「……なんか意外だね。カルマ君がアミサちゃんの舞台に他の男の人を呼ぶことに抵抗が無いなんて」
「進藤のアレは好意ってより信仰だと割り切った」
「あ、あはは……。……あ、五英傑の残りの4人が出てきたよ」
勉強に運動、語学、その他諸々……の上に楽器までとか、なんか逆に出来すぎて烏間先生達とは違った意味で人間やめてるよね浅野クンって。それにしても浅野クンのギターに会場は大歓声……特に女子の悲鳴。……そんなにいいか、アレ。別にアミーシャが浅野クンを気にすることにならないならどーでもいいんだけどさ。
その大歓声に負けないように、半ば叫びながら
渚君の言葉にステージへ目をやれば、ドラムにキーボード、ベースなどを準備し始めた奴ら……楽屋について行った茅野ちゃん曰く、1曲バンド演奏した後にアミーシャの出番が来るらしい。始まったソレのクオリティが、部活に入ってたわけでもないのに悔しくなるくらいに高いのがムカつく。
「……アミーシャ、なんか五英傑に意趣返しでもしてくんないかな」
「カルマ君は心配じゃないの?バッシング受けるとしたら、招待した浅野君よりE組のアミサちゃんじゃない?」
……心配、か。
「……アミーシャの実力を信じてるし、心配なんてないかな。それに……あの声があれば非難も全部吹っ飛ぶ気がするから」
……さあ、五英傑の曲が終わる。
次は
◆
曲が鳴り終わる。
割れんばかりの拍手の音が聞こえる。
それを確認して私は目を閉じた。
ステージから新たにマイクを設置する音が響く。
また出演者が増えることに、会場からざわめきが起きているのが聞こえてくる。
私は衣装を軽く握りしめた。
『皆、察してるとは思うが……ここでもう1人ステージに呼ぼうと思う。プログラムにも載せてなかった特別ゲストだ。改めて告知するが、このイベントカフェは著名人も来てくれる関係で撮影禁止にしてるけど、僕等のステージはパンフレット通り許可してるからSNS掲載もオーケーだ。存分に宣伝してくれ……彼女の演目も、もちろん許可する』
……浅野くんの前口上が始まった、ステージに向かわなくちゃ。目を開いてカーテンをめくり……
『……これは僕のわがままだ。だからどんな文句もブーイングも僕が許さない』
……浅野くんは、急に何を言い出すの?
思わず、前に出しかけた足を止めてステージを凝視した。
『何か言いたいことがあるなら終わった後に、僕に直接言いに来ればいいさ……さあ、特別ゲストとの2曲、始めようか』
……私の心配を取り除いてもらえちゃった。
浅野くんも、他の4人もこちらを見ている。
──だいじょぶ、さっきよりも少しだけ落ち着いた。
それに今、なんだかドキドキしてるの。
先程よりもしっかりした足取りで歩き出す……ステージの上に私が現れた途端、ザワつく観客たち。スタンドからマイクを外すのに手こずって、榊原くんが手伝ってくれる間でも「なんであいつが」「E組を呼んだってこと?」「なんで榊原君はあいつを手伝ったり……」色々な声が響いている……浅野くんがああやって先に言ってくれてなかったら、もっとザワザワしてたんだろうな。
準備ができたことを知らせるように後ろの5人を振り返れば、少し心配そうにこちらを見る顔が並んでいて……まさかそんな表情をしてるなんて思わなかったから、あっけに取られてしまった。
……私はへーきだよ、ひとりじゃないから、怖くない。そんな言葉を届けるようにニコリと笑って見せれば、1度目を見開いたあとホッとしたように同じように笑った5人は楽器を構えた。
ドラムの荒木くんが拍子を取り、音楽が奏でられる。客席に視線を動かせば、中程の席にはこの距離でも分かる赤・青……私はお客さんだけじゃなくて、
「……お、真尾こっちみたんじゃね?」
「あ、ホントですね。小さく手を振ってます」
「いや、舞台でそれは……」
「それにしても、こっちの客席結構暗いのによく分かったよね」
「そりゃあ……暗くてもお前ら2人は目立つからなぁ……」
「「え?」」
「なるほど、髪の色ですね」
「ふふ、杉野君よく気がついたね」
「お、おう!」
「……確かに、紛れることは無いのかも」
「……髪以外で気づいてくれてると嬉しいけどね」
◆
───……♪
「「「…………」」」
「……えと、この曲で歌いたくて……」
「……本気かい?」
「うん」
「いや、演奏はいいんだけど……あまりにも真尾さんの雰囲気からかけ離れていて……」
「バンド合わせとはいえ、バラード系でもいいんだぞ?」
「とりあえず、ギターはこんな感じかい?」
「浅野君はやる気だね?」
「当然だ、選曲は真尾さんに一任すると決めただろう。彼女がやれるというならやってもらうさ。……せっかくだから、僕等も当日まで楽しみにしたいな……力を抜いて軽く歌うに留めてくれるかい?」
「え、リハーサルの意味どこいったんだよ」
「まぁいいじゃないか。おい、千葉。お前はいいよな」
「……別にいいんだが、なんで俺が付き添いなんだ……?」
「それはE組が勝手にお前を選んだんだろ?こっちは指定してないぞ」
「……まぁ、いいか……いいのか……?」
「軽音楽部出身だし、アイツらの腕前偵察役して来いってつもりで千葉を練習の付き添いに出したけどさ、誰も目的伝えてなくないか?」
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学園祭1日目の前編は発表直前まで!
次回はA組ステージに軽く触れたあとに、諸々の接触がある予定……です。多くても前中後編で終わる予定です。
では、また次回をお楽しみにです!