今回は完全オリジナルになってます。
前半は前話の続きですが、読み飛ばして後編を読んでもお話は繋がるようになってます。
リニューアル前は作者が歌を想像してましたが、ファルコム音楽フリー宣言があるので、クロスオーバー先から曲を持ってきました。
今回もよろしくお願いします!
カルマside
浅野クンの口上のあと、舞台袖からアミーシャが歩いてくる。途端に体育館の中が不自然に静かになって、一部からは不穏な言葉も飛ぶのが聞こえて……まぁ、予想通りだ。それでも、浅野クンが事前に先手を打っていたこともあってそこまで大声の野次は聞こえないのは救いかな。
最初こそ五英傑の奴らがいるとはいえ、絶対的な彼女の味方であるE組が誰一人いないステージに立つことになって心配はあったけど……ステージの上でマイクを手にした彼女が俺等のいるあたりを見て小さく手を振る余裕があるのを見てホッとした。
「真尾せんぱーい!!」
「うわ、ラッキーすぎる……!事前予告なく先輩のステージ見れるなんて……!」
「先輩って歌上手いのかなぁ……E組なのに浅野先輩が呼んだってことは相当だよね……?」
「恥をさらしてやるためかもよ!」
「まさかぁ、売上ランキングかかってるのに自分のイベント犠牲にする?」
「わざと失敗させてって?浅野の戦略、E組を落とすためなのか……?」
「浅野君のことだから何か考えがあるんだよ、じゃなきゃあんな異端児なんて呼ばないでしょ」
「せっかく五英傑のステージだから来たけど帰ろっかなぁ……」
下級生だろう、男女何人かのグループがステージに向かってアミーシャの名前を呼び、期待している目を向けている奴等がいる。近くにいれば聞こえる声で、なんでE組を呼んだんだろうって話し合う奴等もいる。期待と批判、五分五分……いや、批判の方がまだ上って感じかな。
今この時間この場に最初からいるのは浅野クン、もしくは五英傑目当てで来てる奴らばかりだろうし……タダ飯がてらステージ見てるってやつもいそうだけど。
「うわ、マジだ!反対で気になったから来てみれば……」
「お手並み拝見と行きますか」
浅野クン曰く、こっちのステージの開始に伴って閉じた反対側で見てた奴らも来たね。なるほど、途中入場オーケーだからああやって興味をもった奴等が何度も出入りして搾取されてる、と。頭のいいシステムだね。
ステージに目を戻せば、アミーシャが五英傑の方を振り返って合図を送っているところが見える。
……ああ、始まる。
ドラムスティックの合図の直後、会場に響き渡ったのは彼女の歌声……音程が上がると同時に声量も上がっていく。しかも長い。浅野クン達五英傑がギョッとしたように彼女に顔を向け、やってくれたなとばかりの笑みを浮かべたことから、練習の時には披露しなかったんだろうか。
……ギョッとさせられたのは彼らだけじゃなくて聞いてる観客もだったんだろう。あの小さな体のどこから出てくる声なのかってくらいの声量と音域……大人しく、人から逃げるように縮こまっていた本校舎時代の彼女しか頭になかった奴等にとっては、信じられないんじゃない?
「……この歌……なんか、E組の境遇に……」
「……アミサちゃんそのもののような感じの歌だね……」
ポツリと零された渚君や神崎さんの一言で歌声だけでなく歌詞にも注目を向ける事になる。今回ここで歌う曲は、事前の約束通り浅野クン達のバンド演奏に合わせて、アミーシャが選んでいた。
ただ、ステージに立つことを決めた彼女は、その日のうちにE組全員を見ながら1つだけはっきりと告げた。自分は不器用だから普段言いたいことがうまく伝えられない分、頑張って歌ってくる、と。
……アミーシャの歌うあの歌の歌詞の背景と、E組の背景はどこか似ている。
当たり前のように行われる差別待遇への理不尽さ、完成された合理的な教育であり落ちこぼれを救済する学力底上げのための特別強化クラスと銘打つ割には『何としてもE組を最下層でいさせなければならない』という矛盾、それらは俺等がどう変わろうと環境そのものはなかなか変わらない。
それでも、そんな場所でも向き合い方を変えて、足掻いて、正しい道を探して、前を向き続けることが生きること……そんな歌。
──俺等に全く話そうとしなかったその答えが、きっとこの歌なんだろう。
訴えかけるような歌声が、マイクを通してではあるけど会場中に響き渡る。きっと、撮影してる律を通してE組の飲食店にもこの歌声は届いてるんだろう……律の事だし、音量調整とかも音割れハウリングなくバッチリなんだろう。映像を通してでも、きっと歌に重ねられるアミーシャやE組生の思いに、感情移入してしまうほどの迫力だと想像できる。
そんな歌を、映像ではなく目の前で生の声として聞いてる俺はといえば、頭の中で様々な彼女やE組での場面が駆け巡っていた。
出会った頃から、この学園で公然とされた『
2人してE組に落ちて、反発しかなかった俺等に手を伸ばし続けた殺せんせー。そしてなんだかんだと俺等が受け入れ、俺等を受け入れてくれたE組のクラスメイト達。少しずつ様々な問題を解決して、仲間も増えていって……大きな壁に何度も立ち向かった、今では信じてもいいかと思えるもう二度と出会えないだろう居場所。
最後まで力強く歌いきり、程なくして五英傑のバンド演奏も終わる……シン、と静まり返った会場に聞こえるのは、マイクが微かに拾ったステージ上の6人の荒い息遣いのみだった。額の汗を拭ったアミーシャは、あまりに観客の反応が薄いせいで、マイクを握ったまま歌っていた時の真剣な顔つきとは打って変わって不安そうに視線をゆらゆらと揺らしているのがわかる。静かすぎてどうしていいか分からないって思ってるんだろうけど、多分みんな圧倒されて動けないだけだ。
理不尽や人間関係に悩みながら前を向く、そんな歌を歌いあげたアミーシャに。歌を邪魔することなく、それでいて各々の楽器の個性を全く殺すことの無い五英傑のバンド演奏に。
五英傑はどうでもいいけど、流石にこの静けさの中に彼女を放置しておくのは忍びなくて、乱入してやろうか、なんて思い始めたその時。俺の隣から……正確には奥田さんから1つの拍手が響いた。それを皮切りに、神崎さんが、渚君が、杉野が……当然俺も。そして息を吹き返したと言わんばかりの会場には、割れるような拍手の音が鳴り響く。普通なら反応があってホッとする場面だろうに、拍手の大きさに逆にビビって逃げようと後ずさってるのがなんとも彼女らしい。
『【way of life】って曲名だったかな。さて……真尾さん、もう1曲用意があるんだよね?』
『う、うん……その、ゆったりした曲なので……よければ座って聞いてくれたら……』
『照明、指示通りいけるね?……2曲目は僕達も何を歌うのか聞いてないから楽しみだ。もし、弾けそうなら入ってもいいかい?』
『……雰囲気違うよ……?』
『もちろん弾けるから安心してくれ。……曲名は?』
『……【セルリアンブルーの恋】』
曲名を言った瞬間、体育館の電気が落ちた。
なんだなんだと周囲の弾幕が光ってるから光源はあるけど、ステージの上は真っ暗で何も見えない。と、そこにスッと細いスポットが当たったところにはアミーシャらしき人影が……、……あれ、碧い色が見えた気がする。アミーシャが着ているのは黒地のメイド服だったはず、……もしかして、メイド服じゃない……?
……アカペラだ。さっきの曲と全く雰囲気の違う、儚い歌。細い光源に時々入りこむ碧い色以外には情報が増えないから、歌声だけに集中できる。
サビに入った瞬間、光源が増えてステージにいる彼女の姿がしっかり見えるようになった。
さっきまでの黒いメイド服と違い、碧い……まるで海のようなワンピースに姿を変えている。そういえば、原さんに服に仕込みがしたいからいじってもいいかって聞かれたっけ……多分、メイド服のどこかにあの碧いワンピースを仕込んでおいて、早着替えをするための何かがあったんだろう。
アミーシャの声が体育館に溶けて消えていく、直前、浅野クンが前に出てきてギターを構えるのが目に入った。予告通り入ってくるつもりなんだろう……でもこの曲、多分だけど1曲目含めてこっちの歌じゃない……アミーシャの故郷の曲だ。分かるのか……?
浅野クンはこの曲を知っていたのか……間奏だろう部分から問題なくギターを奏で始めた。ギターの雰囲気もさっきまでの気分上げるような激しいものと違い、切なく、儚い空気に音を添える程度のもので舞台の上を歩き始めたアミーシャの存在感を一切邪魔していない。音に合わせて、ふわりと軽やかに舞い始めた彼女……腕や足ををゆったり動かす舞に合わせて、ワンピースの袖や裾が揺れる……周りの暗さに、彼女の舞だけがまるで月明かりに照らされるように映えている。
間奏が終わると浅野クンはスッと下がり、またアミーシャのアカペラが始まる。
1度目と似ている歌詞だけど、1度目は叶わない思いって感じの切なさがあったのに、2度目は少しわがままな願いを込めるような……自分の想いを切望するかのような強い気持ちが込められているように感じた。
そして一気に声が落ち着き、すっと消えていく……曲の最後、俺と目が合ったような気がした。
照明が消えた後、五英傑とのバンド合わせに負けないくらいの拍手が体育館の中に鳴り響いた。……1曲目はまだしも、2曲目は浅野クン達五英傑も、俺等E組もほとんど関与していない。曲も、演出も、……このステージそのものを、アミーシャがほとんど1人で考えたんだ。
『さて、これで僕がE組とはいえ彼女を招待した理由がわかっただろう。ここまで
「……っ、さすがは浅野君だ!」
「E組なんかでも目を配ろうとするなんて!」
「真尾先輩キレイでした〜!!」
「五英傑、演奏最高だったよ〜!」
「浅野せんぱーい!」
「……浅野君達だって圧倒されてたよね……」
「よく言うよな〜、しかもいい感じにA組有利にまとめやがった……
「そんなのどうでもいいからアミーシャの肩から手を離せよ浅野クン……マイクくらい自分で持てるだろ離れろ」
「ちょ、どうでもいいって;」
「ほんとブレないね、カルマ君……」
全ての曲が終わって、胸のところに両手を合わせながら深呼吸をしているアミーシャを支えるように近付いてきた浅野クンは、彼女の肩に手を置くと持ったままだったマイクに顔を近づけて話し始めた。渚君と杉野は浅野クンのスピーチに色々ボヤいてるけど、俺にとってはあの距離感の方が気になる……近いんだよ、離れろ。アミーシャが持ったマイクにわざわざ顔近づける必要ないだろ離れろ。
今にも飛び出してやろうと足を踏み出した俺が、観客側にいた4班(アミーシャについて行った茅野ちゃんを除いた全員)に抑えられた頃……浅野クンがようやくアミーシャにそろそろ宣伝をと促したようだ。……こっちを見てどうだとばかりに鼻を鳴らしたように見えたのが無性に腹が立つんだけど!
アミーシャはといえば、軽く浅野クンに押し出されてオロオロしてたけど、楽屋側、多分茅野ちゃんが見てるんだろう場所を確認したあとに俺等の方を見て、俺を押さえつけようとする杉野と渚君、なだめようとそれぞれ手を伸ばす奥田さんと神崎さんっていう謎の状況に小さく笑ってから前を向いた。
『……E組では、今、たくさんの挑戦をしています。みなさんから見て、落ちこぼれでもいい。……異端だって、言われてもいい。その分、あそこでしか学べないことを学んでます。その、1つの集大成が今回の学園祭……私たちがE組だからこそ作ることができた、山の幸を使った食べ物を用意してます。…………その、きっと、もうお腹いっぱいな人もいるでしょうけど……まだ、明日もありますし……。……え、と…………ぜひ、この2日間でしか味わえない、私たちのお店に……きて、欲しいです……!……もうムリ……ッ』
『わ、わぁっ!?……もう、アミサちゃんったらぁ……よく頑張ったね……』
『……A組のステージに出てもらう代わりにE組の出店の宣伝をしてもいいことにしてたんだけど……えっと、真尾さんは人前に立つのがだいぶ苦手だから……うん、ステージの間は必死でこれだけ多くの人に見られてるのを忘れてたんだろうね。頑張ってくれた彼女にもう一度大きな拍手を!……それから、椚ヶ丘の学園祭はまだまだ続く。皆、楽しんでいってくれ』
最初は結構スムーズに宣伝できていたのに、後半になるにつれて……特に一番大事な客寄せのセリフを言う頃に「多くの人に見られている」という状況だと思い出したんだと思う。だんだん声が小さくなって詰まり始め、最後には顔を真っ赤にして逃げ出した……アミーシャにしては、かなりもったほうだと思う。
浅野クンに押し付けられたマイクには、楽屋入口で飛びつかれたんだろう、茅野ちゃんの驚きとアミーシャを労う声が入ってたけど、きっと本人達は気づいてないんだろう。浅野クンも照れるなり言葉に詰まるなりは想定していただろうけど、まさか終わりの宣言もなしにステージからアミーシャが逃げるとまでは予想してなかったのか、少し戸惑ったようになんとかまとめていた。
再び響いた拍手にようやく俺も力を抜く……ちょっと、そこの
「何はともあれ、今日最大のミッションは達成かな」
「ですね……強いて言うなら、緊張とかで疲れきってるアミサちゃんのケアかな?」
「ほとんどカルマ君の役割になりそうですけどね……」
「ま、なんにせよE組に戻り次第シフトだし、少し腹に入れつつ帰ってくるのを待とうぜ」
能天気にせっかくタダなんだからと料理を取りに行く杉野を横目に、俺等はアミーシャと茅野ちゃんの帰りを待つ。
今回の学園祭の中でもかなりの大舞台を終えたとも言っていい俺の恋人と、かなりアウェーだっただろう空間まで付き添ってくれた茅野ちゃんに、どう声をかけようかどう労おうかと考えながら。
……まさか、予想できるはずがなかった。浅野クンを除いた五英傑に付き添われた2人が、戻ってくるなり俺を避ける、なんてさ。
◆
「……で、どうしたのよ。帰ってくるなりこっち逃げ込んでくるとか……ステージは成功だったんでしょ?」
「さっきよりも確実にお客さん増えてるもんね〜」
「カルマ君はカルマ君で、不機嫌なのかどうしていいか分からないって微妙な顔してるし」
「…………」
E組校舎に帰ってくるまで、私はほとんど話さなかった……ううん、正確にはカルマとほとんど話さなかった、かな。私から話しかけることもなければ、話しかけられても程々で切り上げて避けるのを繰り返し、不機嫌そうに私を捕まえようとする手からも自然な動きで避けては女性陣の中に逃げ込んでいた。
ケンカ、したわけじゃないし……多分カルマが悪いわけでもなくて……聞いた話のせいで、カルマのことを私が信じられないだけ、なんだけど。
今もシフトに戻ったには戻ったんだけど、なんとなくカルマと顔を合わせづらくて、相談を兼ねて何人かの女の子たちと裏方に回っていた。
「茅野ちゃんは何か知らないの?」
「……うーん、知ってる……というか、一緒にいたから私も聞いてるんだけど、だからこそ、どうにも納得いかないって言うか……」
「なに、その煮え切らない反応」
私があまりにも反応なく黙りだったからか、本人じゃなくても何か知ってるんじゃないかってカエデちゃんにも同じ話題がふられていた。カエデちゃんは私と一緒にいたわけだから、もちろん理由を知ってはいる……んだけど、私と同じく困惑してることだろう。嘘ではないんだろうけど信じられない、というか……
うんうん唸っていた彼女は、まずは疑念の根本から確認していくのが1番だろうと、独り言のように疑問を口にし始めた。
「……カルマ君ってさ、アミサちゃんに一途だよね」
「何よ突然」
「恋愛でってこと?」
「私は本校舎時代はあんまり絡みなかったし、E組に来た時からのカルマ君しか知らないけど、……あの様子を見てる限りはアミサちゃんに一途じゃない?」
「1番近くで見てきた渚もそう言ってたもんね」
「そうだよね……うーん……やっぱり信じられないなぁ……」
「……で、なんなのよ結局」
「それがさぁ……」
++++++++++++++++
カエデside
五英傑とアミサちゃんのステージが終わってから……次のイベントの打ち合わせがあるからって私達から離れた浅野君に代わって、あとの4人が観客としてついてきてくれた4班のところまで送ってくれることになったんだよね。
「そういえば……お前、いつからかは知らねーけど、赤羽と付き合ってんだろ?……浅野、気付いてるぜ」
「……!そ、そういえば付き合い始めた頃からバタバタしてたし、ちゃんと浅野くんに返事できてない……!」
「おいおい、してやってくれよ……ま、どんな返事でも浅野君は受け入れるんじゃないかな?」
「むしろ略奪してやるって燃えたりしてな、キシャシャシャ!」
「略奪愛……奪い奪われる蝶が魅力的だからこそ、なんだか禁断の愛を感じるね、そういうのも嫌いじゃないよ」
「あ、あはは……カルマ君、がんばって……」
足を進めながら世間話のように軽いノリで、アミサちゃんが浅野君からの告白にタイミングとかがなくて実はまだ返事ができてないことを瀬尾くんに指摘されたんだ。慌てるこの子に対して何故か、浅野君ならこうするんじゃないか、いっそこんな関係になったら面白いのにって盛り上がる瀬尾くんたち4人……この場にいないのにいろんな意味でひどい扱いされてるカルマ君と浅野君には手を合わせるしかないよね、……2人して不憫すぎるけど、日頃の行いだろうし。
アミサちゃんが前に言ってたけど、カルマ君と浅野君っていろんな意味で似たもの同士だから……なんて、なかなかなカオスな憶測の話題が繰り広げられてた時だったの。その爆弾を落としたのは瀬尾くんだったんだ。
「てか、赤羽って6月くらいに他の女と付き合ってなかったか?」
……って。
「…………え、」
「ま、まさかぁ……だって、あのカルマ君だよ?」
「嘘なんかじゃねーよ。俺と元カノが見てるし、なんなら会話もしてる……正直俺が欲しいって思うくらいものすごい美少女だったぞ?まあ、あんだけ仲睦まじいとこ見せつけられたら俺も諦めざるを得な」
「瀬尾?」
「ンん゙っ……いや、なんでもない。てか、あの仲の良さはそう簡単に別れるようには見えなかったが……」
「……カルマ……」
「……ア、アミサちゃん……」
++++++++++++++++
「……っていう」
「「「……………………」」」
何があったかをカエデちゃんが話し終わった時には、みんなが黙り込んでいた。瀬尾くんが悪いわけじゃない、彼は単に疑問を口にしただけなんだから。 だからと言って怒りたいわけでもなくて……私たちと同じように、本当の話なのかよく分からなくて判断に困ってるんだと思うけど。
「いろいろ確認したいんだけどさ……それ、ほんとにカルマ?」
「らしいよ?瀬尾くんも最初は信じられなかったけど、その子の兄に確認したらそうだって言ってたって」
「ありきたりだけど、プレゼントを買いたいけど分からないからその子についてきて欲しいって頼んだとか?」
「手を繋いで腕組んで相合傘して帰ったらしいけど」
ますます事実が見えなくなってきた……事実確認なんて今更できないし、どうしようもないと言えばそうなんだけどね。だって今から半年くらい前の話だし、又聞きのようなものだから正しい情報とも言いきれない。それに……今、私は嫌われてるわけでもないし……でも、もしもその子に隠れて会ってるとかされてるとしたら……それは、気分が悪い、……嫌だ、な。
「……ん?待って、それって6月……なんだよね?」
「……やっぱり、そこが気になるよね」
「当たり前でしょ!体育祭まで自覚してなかったアミサと違って、確か
「だよねぇ……」
そこでカエデちゃんがチラ、と手元のスマホへと目をやった……注文でも来たのかと私も同じように目を落とした私は知らなかった。私を除いたこの場にいる女子のスマホが、律ちゃんを通して別の場所に繋がっていたことを。
◆
渚side
「……ということらしいけど、カルマ君、身に覚えは?」
「あるわけないじゃん!」
「だよねぇ……」
所変わってこちらも動けるウエイター陣……事の中心であるカルマ君を僕と杉野で連れて、ちょうど動けた磯貝君と前原君をも巻き込んで、校舎裏に集まっていた。といっても当然カルマ君に心当たりがあるわけでも、僕等が詳しく知ってる訳でもないから、女子でも話を聞くという茅野に協力してもらって何があったのかを中継してもらった。
結果として……スマホの向こうからはショックを受けてるからなのか、何を言えばいいのかわからないからなのか、アミサちゃんの声が全く聞こえてこないし……カルマ君はカルマ君で心当たりがないから八つ当たり気味にキレてるし。とにかく情報が少なすぎるよね、目撃者が本校舎の……しかも五英傑の1人っていうのがまた難しい。
「一応整理するぞ……目撃されたのは6月、見たのは瀬尾と元カノでいいんだよな?」
「時期的に……俺が果穂と別れたくらいか。ならその瀬尾の元カノってのも果穂なんじゃねーか?」
「とりあえずそうだと仮定するか。で、手を繋いで腕組んで相合傘……仲のよすぎる兄妹説は本人が否定してるし……」
「相合傘ってことは雨が降ってる日なんじゃねーか?」
「なるほど……で、兄に確認したってことは……その美少女は誰かの妹……」
「瀬尾が思わず確認とるほどか……どんな子だったのか逆に気になるな。……俺も見てみたいし声掛けてみたい」
「前原?」
「すんません!」
磯貝君と前原君とで女子側から出た情報をまとめてくれてたんだけど……前原君の興味が途中で脱線した。彼らしい情報で、分からなかったことも少し詳しくなったと見直しかけたのに……さすがはコードネーム『女たらしクソ野郎』。
「はは、なんか前原の話すこと聞いてるとアレ思い出すなー」
「アレ?」
「ほら、雨の中で前原の元カノと瀬尾に俺等が暗室技術を使って復讐したやつ!アレも女性関係じゃん、懐かしくね?」
「そういえばそんなこともやったよね。烏間先生、最初の雷……カルマ君とアミサちゃんだけうまく逃げてたけど」
「当たり前っしょ、デートの邪魔されたんだから最低限の関わりだけで」
「まだ付き合ってなかったじゃん」
「うっさい」
杉野が思い浮かべたのは、6月の梅雨の時期……前原君が本校舎の土屋さんと付き合っていたら五英傑の瀬尾君と二股をかけられていたことが判明して、「E組だから」と見下してきた相手に「E組だから」できる方法で見返してやろうと決行した雨の日の復讐の事だ。
あの時は暗殺技術を一般人に使うなって烏間先生からはじめて特大の雷を落とされたっけ……もうアレから半年も経ってるんだ、早いなぁ。
「確かアミサちゃんも前原君と兄妹って設定で参加したんだっけ」
「そうそう!」
「彼女役って言った最初は殺そうとも思ったけどね……」
「あれは悪かった、だから落ち着けカルマ……兄妹に見せかけるといえば、ウィッグとメイクであそこまで前原に似せれたのには驚いたよな」
「ホントそれな、菅谷様々だわ。役作りのためとはいえ、あん時から『陽斗君』呼びしてくれてるんだよなー……、……ん?」
カルマ君、終わったことなんだし殺気をしまって……なんて杉野と一緒に止めていたら、磯貝君のお説教から逃げてきて会話に加わった前原君がいきなり固まった。何か考えるようにあごに手を当ててるけど……だんだん青ざめていってるような。
「どうかしたか、前原」
「あ、いや…………まさかな〜……」
「もしかして、何か知ってるの?」
「い、いや、勘違いかもしれないし〜……」
殺気をしまいきれてないカルマ君からならまだしも、ただ純粋に心配して声をかけただけの僕と杉野からも徐々に後ずさる前原君……これはもう、なにか心当たりがあるってみていいよね。
そう思って聞き出そうとした時にはカルマ君が動いていた……静かに前原君に近づき、その肩へ手を置いて……それはもうニッコリと。多分、ものすごく力を込めた。
「……前原……吐け」
「痛ダダダダッ!はい!申し訳ありませんッ!……そ、その瀬尾が見たっていう兄妹……俺と真尾かもしれねぇ……」
「「「『はぁ!?』」」」
あ、スマホの向こうからも声が上がった。
++++++++++++++++
渚side
カルマ君とアミサちゃんを一緒にして今回の話し合いをすると、避けてるだけのアミサちゃんはともかく、わけの分からないまま避けられる状況にカルマ君は不機嫌になる一方だろうからって男女別々の場所で話していた。
だけど、原因がまさかの
そしてただ今、前原君は正座中……なんか前にあったイトナ君の戦車を使った覗き事件がバレた時みたいな状況だけど、あの時と違って叱られてるのは前原君1人な上に女子だけじゃなく男子数人にも囲まれてるから……威圧というか圧迫感というか……は、今の方が断然怖い。
「前原とアミサが兄妹として行動したのって、あの雨の日だけだったよね?てことは瀬尾の言ってた『確認した兄』ってのが前原なのは理解したわ。……でも、カルマとアミサを恋人って瀬尾が考えてた意味がわからない」
「確かにな……真尾の所に急遽カルマを投入したのは覚えてるけど、……あれって確か、
「それらしく見せるためにも、擬似恋人のように振舞え〜とはカルマに言った気もするけど……瀬尾と元カノには伝えた奴いないよな?」
「……すんません、俺が瀬尾達に『あいつらこそが恋人同士だ』って言いました!」
「「「お前か」」」
前原君の弁でみんな薄々色んなことを察してたけど、彼がガバリと勢いよく頭を下げながら言った言葉で諸々の犯人はハッキリと判明した。……そういわれてみればあの時には、既に男子の中でカルマがアミサちゃんに好意をもってる事は周知の事実だったわけで……どうせA組なんてそうそう関わり合いにならないだろうからと事実に近い嘘で心を折りにいったのか。
実際はなんだかんだとやれテストで勝負だ、棒倒しで勝負だって突っかかりあうせいで、ものすごく関わることになっちゃったけど。今回の件は大事にならず何とかなったからよかったものの……誰にも相談せず、軽率に設定を付け加えたせいで危うく別問題を引き起こすところだった前原君を、岡野さんや磯貝君が中心になって説教している。
それを他所に無事に仲直り……というか、安心したように寄り添ってる2人は見て見ぬふりをしてあげる方がいいんだろうか。
とりあえず、もうすぐ午後のお昼時だし、宣伝効果もあってお客さんが増えてくる頃……主戦力のアミサちゃんや
「安心してくれた?」
「……うん、その……ごめんね、カルマ。どうすればいいかわかんなくなっちゃって……」
「何、少しはその美少女相手に嫉妬してくれてたの?」
「…………、えっと……、『しっと』、したかは分からないけど……カルマ、私のことを好きって言ってくれたのになんでって……ホントはなんとも思ってないんじゃないかって思って……モヤモヤして、なんかやだなって……」
「それが嫉妬っていうの。……クク、それにしても自分に焼いて自分に怒ってるとか……」
「そ、んなこといったって、それが私だったなんて思わないもん……!」
「ごめんごめん。俺も見た目は別人でも中身はアミーシャだって知ってたから腕組んだりしたんだし……そのへんは信じてよ」
「……見た目違っても?」
「見た目違っても。アミーシャはアミーシャでしょ?そもそも前原に妹はいないわけだし」
「……うん」
++++++++++++++++++++
中編はここで締めます。
今回のお話で入れたかったことは次の点。
・軌跡シリーズから歌を持ってくる
・湿気の時間の勘違いを回収
クロスオーバー先の『零の軌跡』オープニングと、フルボイス化した際のエンディング曲です。
どちらもメッセージ性がある上に、ピッタリすぎて気づいてから使いたくてしょうがなくて……!
普段大人しいオリ主が、E組にメッセージを伝えるために力強い歌を歌っているんだとイメージしてもらえればいいかと。多分、選曲している最中に自分の境遇と重なるところを見つけてこれを歌うことにしたんですよ、きっと。
湿気の時間については、読んでくださった読者さんならわかると思いますが、あの状況では瀬尾くん……と、元カノの土屋果穂さんは勘違いしてると思うんですよね。作者も投稿したあとから思いました……このままだとカルマ、二股疑惑をかけられないか?と。前原君は前原君の妹(オリ主の変装)とカルマの仲を認める発言してたのに、オリ主と付き合ってるとかどうなってるんだ!?となる気がしまして、丁度いいタイミングということでここにもってきました。
お互いに意味がわからないからこそ喧嘩になるわけでも険悪になるわけでもなく、ただカップルの仲が深まって終わる結果に。平和平和(一部除く)
では、次回は1日目の後編を投稿します!
歌詞をお借りしました(ファルコム音楽フリー宣言の規約上、こちらにコピーライト表記します)⬇
「way of life / Falcom Sound Team jdk ファルコム vs. jdkバンド2010夏 / Copyright © Nihon Falcom Corporation」
「セルリアンブルーの恋 / Falcom Sound Team jdk 英雄伝説 零の軌跡 Evolution オリジナルサウンドトラック/ Copyright © Nihon Falcom Corporation」