「何々!?この子が上司!?」
「始めましてですねクモクモ。私は……」
「あーん、かあいいよう!小さな体とか赤い癖っ毛とか慎ましやかな胸とか子供なのに背伸びしてる所とか全部かあいいよう!」
「………………」
「…………あ」
その時、ゴジラは確かにピグモンの額に青筋が浮かぶのを見た。
「ふふふ。クモクモ、ちょっとコッチニオイデ?」
「…………?」
手招きするピグモンに大人しくついて行くクモンガ。パタンと扉が閉まる。
「あーーーーー!?」
「…………クモンガ、安らかに眠れ」
ゴジラは胸の前で十字を切るとその場を後にした。
所変わって、何故か都内に有る荒野。以前特訓の際にもGIRLS達が使用した場所だ。
そこに現在、二つの影が互いを前に体を解していた。ゴジラとゴジラ・アース。少し離れた岩山の上でセルヴァムシスターズやミニラ、三式機龍達G細胞の持ち主達、そして一応は天敵であるMUTO姉妹や、ゴジラ同士の対戦とシノムラやデストロイア、メガギラス達が観戦しにきていた。
「どっちが勝つと思う?」
「さあ?私は人の口の中にいきなり熱いのぶち込んできた方のゴジラしか知らないし…………」
膝の上にのっけた妹の言葉にそう返す姉。仮にもあのゴジラの母を名乗るのだ、少女とてただ者ではないのだろう。だが、生憎と強さは知らない。
「まあどちらにせよ、成熟した純正のG細胞持ちの戦いなどそう見れるものでもない。最近の暇を晴らす余興ぐらいにはなるだろうさ」
と、デストロイア。彼女も口では色々言っているが、ゴジラしか知らないのでどちらが勝つとは明言できない。
「では、来い……!」
「ああ、行くぞ!」
ドン!とゴジラの立っていた地面が吹き飛びゴジラがゴジラ・アースに迫る。その拳を、ゴジラ・アースは拳を以て迎え撃つ。
ドンッ────!
と大気が揺れる。地上で花火が爆発したかの様に爆風が吹き荒れ、音が腹の奥に響く。砂煙は一瞬で吹き飛んでしまい二人の姿が隠れる事は無かった。
「この程度か?ならば此方の番だ」
「ちぃ!」
下から顎を狙い伸びてきた拳を躱すもバランスを崩すゴジラ。が、戦闘経験にモノを言わせ即座に反応し蹴りを放つ。完全に攻撃に意識が向いていたゴジラ・アースの腹にめり込み互いの非対称透過フィールドが互いを打ち消しあいゴジラ・アースにダメージを与えながら吹き飛ばす。
「ぐ、この…………馬鹿力がぁ!」
「…………!?」
ゴジラ・アースが叫ぶとそれは指向性を持った振動となってゴジラを襲う。音故に非対称透過フィールドをすり抜け、更に隕石が落ちようとモノともしないフィリウスではないゴジラとしての強靱な肌に無数の傷を付ける。
「てめぇこそ、その馬鹿でけぇ声何とかしろや!」
が、この程度の小さな傷なら即座に再生するゴジラ。地面を蹴ると無数の岩がゴジラ・アースに向かって飛ぶ。が、その程度の岩防御するまでもない。ただそこに立っているだけで岩の方から砕けていく。
が、一際巨大な岩がぶつかろうとした瞬間ゴジラ・アースに当たる前に砕ける。岩を貫く青い熱線によってだ。
「ぬ…………」
避けられる距離ではない。ゴジラ・アースは左手をつきだし左腕全細胞の発電を最大値に上げ非対称透過フィールドを全開にする。
「…………っ────」
実体を持たぬはずの熱線を掴むと言う奇妙な光景。ゴジラ・アース自身は耐えようとするも、それに対して地面が余りにも脆弱すぎる。ガリガリと足が地面を削りながら背後の岩山を破壊し、なお止まらない。
「……が、あ!」
ゴジラ・アースは力任せに腕を持ち上げる。熱線は空へと向かっていき雲を貫いた。
「はっ……!」
それと同時に突っ込んでくるゴジラ。ゴジラ・アースはその拳を手首を掴み止める。
メキメキと音が鳴り、力一杯ぶん投げた。
岩山を幾つも破壊しながら吹っ飛ぶゴジラ。地面に腕を突っ込み勢いを殺すと目の前に光の線が現れる。
「────ッ!?息子にプラズマブレード撃つとかマジかこの母親」
「マジだ」
と、ゴジラ・アースはゴジラの頭上で回転して尻尾を叩き付ける。両手を交差して防いだゴジラはニヤリと笑う。
「……む?」
「投げ技は、母さんより俺の十八番だっての!」
「ぬあ!?」
ゴジラ・アースを空高く投げ飛ばすゴジラ。逃げ場の無い空中で狙い撃ちしようと熱線を吐くがゴジラ・アースも同様に熱線を吐く。
「────!!」
僅かずつゴジラが押される。射程距離は兎も角、威力はゴジラ・アースの方が上のようだ。
「こ、の…………がぁ!」
「ぐ!?」
ゴジラが反抗する様に体を赤く発光させると青い熱線が赤く代わり、少しずつ威力を上げゴジラ・アースの熱線を押し返す。
「ッチ!」
力勝負でも負けると即座に判断したゴジラ・アースは回転し射線上から逸れる。地面に着地すると同時に先程のゴジラの様に地面を蹴り上げた。
「効くか!」
が、それはゴジラに触れるまでも無く溶けていく。
だが、やはり親子なのだろう。飛んできた岩はただの目隠し。本来身を守る為に張られる非対称透過フィールドに使う為のエネルギー全てを注ぎ込み、背鰭にどころか全身を帯電させ熱線を放つ。ゴジラも即座に熱線を放つが威力で大きく上回られる。
「ぐああああ!?」
盛大な爆発の中心で熱に焼かれるゴジラ。煙が晴れると活性化した細胞が即座に傷を癒す。
「…………くっ……」
が、細胞をこれ以上酷使すれば制御不能になる。バーニングモードを解除するゴジラ。
「……っ……は──…………引き分け、だな…………」
しかしそれはゴジラ・アースも同じ。本来の使い方と違う使い方をしたせいで、細胞が混乱し、力が入らない。
「…………ん、そうだな」
「そうむくれるな。まあ子供達の前で勝ちたかったのは解らんでもないが…………ん?ミニラ達はどこへ消えた?」
「他の観客たちもいねーな。気配的に近くにはいねーみてえだが」
「なんだ、自分達で見学したいと言ったくせに行ってしまったのか…………」
「ま、俺は楽しめたから良いけどな」
「ワシは疲れた」
「…………収まったか」
帝王モードのキングギドラは空に向けていた右目を下ろす。
先程から物凄いエネルギー同士の衝突を感知していたのだが、アレは恐らくゴジラのモノだろう。
もう片方はゴジラの母とか言う奴。何をしていたんだ全く。
「…………ん?」
まあどちらの気配も消えていない事から、単なる模擬戦なのだろうが…………と考えて歩き出そうとすると誰かが服を掴みガクリとつんのめる。
「………………」
振り返るとニコニコ笑った子供が居た。
「おい、なんだ小娘、離せ」
「宇宙の王、子供に対して可哀想ですよ」
「知った事か。ほら、離せ…………む?」
力任せに振り払おうとしたキングギドラだが、ピクリとも動かない。
「おかあさん、遊ぼ!」
「は────?」
『…………人?』
深海棲艦、ヲ級は深海の中で奇妙なモノを発見する。いや、機妙も何も前述通り人なのだが。
いや、人なのは見た目だけ。何せここは深海。人間が居るとしたらそれは水圧で潰れた死体だろう。が、胸も動いてるし、潰れてすらいない。
『………?』
「……ん……」
『ヲ!?』
ムニ、と指で頬をつつく。深海なら普通は圧縮され硬くなるはずだが指でつつくと凹んで、それは声を漏らす。
思わず距離をとるヲ級。人のような形をした何かは身体を起こし薄めで周囲を見回す。此方に気づいた。が、寝ぼけているのか焦点は合ってない………。
「…………オルガ?何してんだお前」
『ヲ………?』
オルガ?誰だろうか?
どうやら誰かと勘違いしているらしい人の形をしたそれは、周囲をキョロキョロ見回し、ん?と首を傾げ目がさえてきたようで、困惑をその瞳に写す。そしてヲ級と目が合う。
「………誰だお前?」
『………空母ヲ級』
『ナアナアゴジラ、遊ボーゼ』
『遊ベー』
「後にしろレ級と尻尾。見ての通り俺は核燃料を探してんだ」
『オー。ソレヲ人ノ生活圏ニ放置スルノカ?』
「………意外だ、お前考える知能があったのか。ついでに、ただの昼飯だ」
『………ガ──ア』
『グウ──』
「鬼だか姫だな知らねーが、随分な言い分だなおい?人間と通じた裏切り行為?深海の中平然と過ごせる奴を見た目だけで人間と判断するなんて、やっぱり深海棲艦ってのはアホばかりか?」
「おいヲ級、今これどういう状況だ………いやわかるが、認めたくねーんだが」
『深海棲艦、全部倒シテ屈服サセタ。王様、誕生……』
「帰りづら………」
「お前等人間が戦えと生み出したんだろ?用済みとなって捨てて、それでも此奴等は使命を果たそうとしてただけだ。戦えという使命をな………てめーらのとこの艦娘どもどと何が違う?其奴等は、使命を果たすための敵に出会えただけだろ」
「深海棲艦の国の設立。それを認めろ人間共。そこに不可侵の掟を作れ。それがこの戦争の落としどころだろうよ……」