「二人でってのは解ったが、そもそもどんな服着るんだ?」
エミリの言葉にさっさとすませろと言いたげな雰囲気を出すゴジラ。怪獣娘故に取り敢えず大人しくついて行ったがゴジラは基本的に面倒ごとを嫌う。話はさっさと済ませて欲しい。
「メインはその女だろ?俺はその引き立て役ってとこか?」
「そうね。男が女を最高に引き立てる衣装、どんなのだと思う?」
エミリの言葉にゴジラは顎に手を当て考える。
そして、ふとキャッキャッと笑いながらゴジラの髪の毛にぶら下がるセルヴァムを見る。
「…………家族?」
「それは老若男女全てを引き立てられると思うけど…………」
「違うよユウラっち。まあ惜しい、かな?家族になるのは合ってるけど」
「…………養父か?」
家族になるでゴジラが思い出したのは娘達。この世界で血の繋がりが有るのはシン・ゴジラだけだから、他の子達は養子で良いのだろう。
「あー、うん。それも家族だけどさ~」
「わかったー!およめさーん!」
「お、セルちゃん大正解!」
「せーかいせーかい!」
ぴょんぴょん跳ねるセルヴァムと手を合わせるカレン。子供の扱いに慣れているのかセルヴァムも良く懐いている。
「精神年齢が近いのよ」
「そりゃまた、面倒そうな性格で」
「ええ、本当に…………まあ、兎に角これで解ったわね?」
「エプロンか?」
「…………そうきたか」
ゴジラにだって嫁とはどう言うものか知識は有る。要するに既婚者だ。で、大抵は主婦になるという知識も有る。が、一般的に思い浮かぶお嫁さんとはその前行程だろう。
「花嫁よ」
「花嫁?ああー、あれか…………結婚式の」
「そう。見ての通りカナは家の看板娘。並大抵の男じゃ花嫁姿のカナの引き立て役になる事すら出来ずに存在感が消える。だから見合う男を捜してたのよ……おまけに怪獣娘……違和感あるわねこれ……まあカイジューソウル持ちでしょ?丁度良いかなって」
「花嫁衣装ねぇ…………そもそも売れんの?」
「売れるに決まってるじゃない」
「結婚なんて役所に提出すりゃ終わりだろ?金かけてやる奴なんて……まあ、居るか」
少なくともたまに見かけるし。だがまあ、金を払ってまでやる必要をゴジラは解らない。そんなゴジラにカレンが呆れた、と言うように肩を竦めてため息を吐いた。
「解ってないなーゴジラは、花嫁衣装は女の夢だよ?」
「ならレンタルすりゃ良いだろ。人にもよるだろうが人生で一度しか着ない服の為に金払って信じてもねー神に永遠の愛を誓うなんざ俺には理解出来ねーな」
「うわ駄目だコイツ女心を微塵も理解してない」
「にーちゃんダメダメー!」
「………………」
カレンまでなら兎も角流石に懐いている妹にまで言われれば流石に傷付くゴジラ。とはいえそれで急に女心を理解出来るはずもない。
「そもそも結婚式って何ですんの?」
「そりゃ…………何でだろ?おねーちゃん、は……無理か。結婚出来そうにないし」
「ぶん殴るわよ。そうね…………結婚した事を周囲に知らしめて、キチンと愛するって決意を固める為、とか?」
「はぁ?愛する決意に周りの目が必要か?愛してやるのに他人の言葉が必要ならはなから愛するなんて口にするなっての」
「うわぁ、男らしい」
カレンは半眼になりながらゴジラの清々しさにいっそ呆れる。
「まあ約束を守ってくれんならどんな格好でもするけどよ」
「約束?お姉ちゃん何か約束してたっけ?」
「撮影代と、娘さんや妹さん達にオーダーメイドで服を作るのよ」
それがゴジラとエミリの約束。
「娘さんや妹さんバカ?」
「否定はしないがな」
「それじゃ、撮影場所に移動しましょうか…………」
「お前何で俺から距離取ってんだ?」
車に乗り移動中、端によるカナを見て尋ねるゴジラ。ゴジラの言葉にビクリと震えるカナ。
「……すいません、私男の人が苦手で」
「ふーん」
「だいじょーぶ、にーちゃんこわくないよ」
と、カナに話し掛けるセルヴァム。
「わ、解っているんですけど…………怖い訳じゃなくて、私、ローランの怪獣娘ですから……」
「?」
「私って人を惹き付けるフェロモンを出しちゃってるみたいで…………名前も知らない人に告白されたり、つけられたりして……」
「俺もお前に魅了されてるってか?」
と、笑うゴジラはこれと言ってローランに惹かれている様子はない。
「怪獣娘と自覚してからは、制御出来るようになったんですがまだあの時の事を覚えていて…………」
「気にするな。嫌われるのは慣れてる」
そう言って肩を竦めるゴジラ。基本的に人間が嫌いなゴジラは『自分から嫌ってるくせに嫌うな』などと吠える気は一切無い。よって悪意も無いローランに苦手意識にはこれっぽちも応えない。
「人に嫌われているんですか?」
「と言うか俺が人間を嫌いなんだよ────」
──ゴジラは、昔は大好きだったんだね。人間が──
「──…………ん?」
不意に聞き覚えの有る声色で聞いた記憶の無い言葉を言われた気がした。周囲を見回すが助手席に座るカレンも運転席のエミリも端によるカナも全員特に言葉を発した様子はない。セルヴァムならあんな長い台詞言えないだろうし。気のせいだろうか?
「着いたわ」
「本物の教会で撮るのか、本格的な事で」
「撮影は後10分後ね、今は他の会社が使ってるはずだがら、見学させてもらう?」
「別に、ただ突っ立て撮るだけだろ?良いよ別に」
そう言ってセルヴァムをちょいちょい招き寄せ髪を櫛で梳くゴジラ。セルヴァムも「おれいー」と笑いながらゴジラの伸びた髪を指で梳く。
「…………そう言えばゴジラさん、髪切らないんですか?」
「切るためにはサイボーグかエビの協力がいる……あれ、あいつザリガニだっけ?」
「…………?」
ゴジラの言葉に首を傾げるカナ。と、教会が開き中から複数の男女が出てきた。
「あ、仁科さんこんにちは。これから撮影でしたっけ……入れ違いですか、残念だなぁ。少しお話がしたかったんですけど」
「ええ、私も。今日は予期してない出会いがありまして。おかげで花嫁一人の写真を撮らずに済みました」
大手の会社だけありやはり知り合いが多いのだろう。知り合いと話しているエミリを置いて先に行こうとするカレンについて行くゴジラ達。と、不意に向こうの専属モデルと思わしき女性達が口を開いた。
「あれが、ほら……噂の」
「あー……フェロモンとかで人を誑かしてるって奴?ズルいよね~、それで一位なんだもん」
「……っ」
ビクリと震えたカナがカレンの後ろに隠れるとあからさまにクスクスと笑うモデル達。それに対してゴジラは……
「なさ──」
「にーちゃんあいつらなさけけー!ださい!」
「情けない、な……なさけけって何だ」
思わず呟こうとした言葉は肩車していたセルヴァムに取られた。が、まあ子供にそんな事を言われて受け流せる器量のある者ならそもそも態と聞こえる様に言っておきながら逃げれる位置に居るなどしないだろう。堂々と言う。ゴジラの様に
「情けねーよなお前等。単純に自分が星江よりブスッて事実を認めねーで相手がズルしてるって決め付けなきゃ自信を保てねー。写真にフェロモンなんざ付いてるわけねーだろ。バカじゃねーの?」
「バーカ!」
「な、なによいきなり!」
「こらこらセルヴァム、あんまきたねー言葉覚えんな。俺が母さんに叱られる……んで、何だっけ?いきなり?悪いな、いきなり訳解んねー事言うから。そうだな、明らかに一位取れる顔じゃないのに何星江がいなけりゃ一位取れたのにって対応して言い返せない奴に八つ当たりしてんだ情けねー」
「はぁ!?なにこいつ!」
「うざ!」
「んじゃ一つ聞くけどお前等二位なのか?お世辞にもそうは見えねーけど」
確かにまあ、モデルをやるだけはあるのだろう。が、正直に言ってしまえばクラスに一人はいる少し顔の良い女子レベルだ。
「そ、それは……」
「それともアレか?星江がいなけりゃ星江のファンは全部自分達の方に来るとでも思ってたのか?」
「………………」
ギリィと女がしては良い顔ではない顔をしたモデル達。何か叫ぼうとした時エミリと話し終えた男が呼ぶ。女は舌打ちをして去っていった。
「やなやつら!」
「ありゃ、高校時代周りからチヤホヤされてたタイプだな。んで世間に出て自分がその他大勢の一人に組み込まれたのに納得が行かず上を扱き下ろして満足する奴だ」
彼奴が自分より上なのは何かズルをしているからだ、そう決め付け見下さないと己を保てない。なるほどゴジラやセルヴァムが嫌うはずだ。
「………………」
「何だその目?」
「えっと…………その…………」
と、ゴジラは申し訳なさそうに見てくるカナに気づき尋ねるが目を逸らされた。ゴジラはああ、と納得した。
「俺がお前に優しくしてるのはフェロモンで惹かれたからとでも思ってるのか?」
「…………はい」
「はん。迫られれば怖くて優しく扱われれば引け目を感じるとか面倒な性格だな」
「す、すいません……」
「なんだ?乱暴にしてやれば喜ぶのかお前は」
「そ、そんな性癖ありません!」
ゴジラの言葉に赤くなって否定するカナ。ニヤリと笑うゴジラにからかわれたと言う事と近付いた事実に赤くなり慌ててカレンの後ろに隠れるカナ。
「こらこらユウラっち、カナちゃんを苛めちゃダメでしょ!」
「俺もひょっとしたらフェロモンに影響されてんのかもな。泣き顔が見たくなってきた」
「ひぃん!」
「冗談だ。それと、一つ言っとくが俺はああいう奴らが嫌いなんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。だから安心しろよ、俺はお前に対してこれっぽっちも特別な感情なんて抱いてないから」
それはそれで傷付く気もするが、まあ聞き流しておこう。
「何してるの二人とも、早く着替えて撮影に移るわよ」
と、エミリが呼ぶので二人は着替える為の衣装部屋に向かっていった。
「こういうきちっとした服着るのは苦手だ…………」
ゴジラは襟を緩めながら嫌そうに言う。
「にーちゃんかっこいいよー?タキシードかめんみたい」
「タキ……何?仮面ライダーの亜種か?」
「ナルシスト!」
「…………俺ナルシストに見えるか?」
「みえない!」
「良かった。いや、まじで……」
礼拝堂に入ると撮影の機材が置かれていて、エミリがデザインしたウェディングドレスを着たカナが居た。
「…………へえ」
「な、何ですか?」
「いや、結婚式なんて金が掛かるだけで面倒かと思ってたが。自分のものになる女がこんなに綺麗なんだって周囲に言えるから、ありかもな」
「……………………」
「まあその為には相手を見付けなきゃならねーけどな」
「…………ユウラさん、天然ってよく言われません?」
「?いや、特に…………それよりさっさと写真撮ろうぜ」
「良い写真撮れたわ。今度から男物も作ってみようかしら……」
と、満足したように言うエミリ。ゴジラは「約束忘れんなよ」とメアドを交換する。
「じゃ、時間が有ったら娘連れてくわ。そん時によろしくな」
「ええ」
「ゴジラー、目当ての子は見付かっタ?」
「まだだ」
キングジョーの言葉にスヤスヤ眠るセルヴァムを起こさないようにしーと指を立てながら返すゴジラ。キングジョーは口を押さえた後、ゴジラの耳にそっと口を近づける。
「その怪獣娘さんってどんな子デスカー?」
「確か、機械…………」
「機械…………じゃあ、電気街とか行ってみませン?」
「まあ、前世の記憶持ってるしな、そう言う所に向かってる可能性も有るが…………で、電気街って?」
「秋葉原デス!」
「秋葉原?」
「私が案内してあげますヨ?」
「そうか、なら頼む」
次回、ドジっ子登場!
もしもシリーズ
もしもゴジラ(怪獣形態)がパシフィクリムの世界にいたら
地球外生命体は海からやってきた。
太平洋プレートに崩落が生じて、異次元への扉が開いた。最初に現れたKAIJUはサンフランシスコを襲った。
何とか撃退に成功し、喜びも束の間。すぐに新しいKAIJUが現れた。
人類は国の違いを忘れ手を取り合い、KAIJUと戦うための怪物を生み出すことにした。漫画で見るような巨大なロボット、《イェーガー》だ。
しかしその開発中にもKAIJUは現れ続けた。そこで世界はあることに気付いた。とある島によったKAIJUが、そのまま消えるのだ。
調査の結果そこには巨大生物がいた。それはKAIJUとは違う。遠い昔絶滅したはずの恐竜だった。それも、今まで見つかった化石には存在しない。
その恐竜は頑丈で、KAIJUの爪や牙に傷を負いながらも決して倒れず更に毒素を含んだ血を持つKAIJUの肉を平然と食らっていた。
イェーガーが完成するまで、世界はそこにKAIJUを誘導し続けた。恐竜の存在は公開されることはなかったが、恐竜は地球の守護者だった。だが、恐竜が初のカテゴリー3にやられ始めた時、世界は恐竜を見限り核を使いカテゴリー3ごと吹き飛ばした。
イェーガー計画は莫大な資産が必要で、恐竜の存在が公になればそちらに任せればいいと主張する者達が現れると思ったからだ。
それから数年後。世界初のカテゴリー4。ジプシーに乗ったベケット兄弟はイェーガーの片腕も取られ、コックピットも破壊されそうになったまさにその瞬間、黒い影がカテゴリー4を吹き飛ばした。
『グオオォォォェェェン!』
黒い巨大な恐竜のようなKAIJU………いや、KAIJUとは何処雰囲気が異なるそいつはカテゴリー4の喉に食らいつき持ち上げる。
『グアアアァァ!?』
暴れるカテゴリー4の爪や牙など完全に無視してミシミシと顎に力を込めるとKAIJUの首の肉が抉れ頭が海の中に沈んだ。
「こ、此奴は……助けてくれたのか?」
「KAIJUを殺すKAIJU……?」
『ジプシー!すぐそのKAIJUから逃げろ!』
と、司令官が叫んだ瞬間黒いKAIJUの背鰭が光り、口から光線が放たれた。それはジプシーの頭部の一部と中にいたヤンシーごと消し飛ばす。
「な、う………うああああ!」
兄の敵を討とうとプラズマキャノンを放とうとするがKAIJUが振り返り長い尾が鞭のように振るわれる。それはジプシーの上半身と下半身を切り離し数十メートル吹き飛ばした。
その黒いKAIJUはKAIJUにあらず。人間、KAIJU構わず襲い必ず殺す。
生物でありながら超高熱の熱線を放ちKAIJUもイェーガーも纏めて消し飛ばす。そのKAIJUは、こう名付けられた。
「奴は憎んでいる。人類も、KAIJUも……全滅するまで決して止まらない」
『君はあのゴジラが元は彼の恐竜であったと本気で信じているのかね?』
『例えそうだとして、我々に落ち度があると言いたいのかね?それよりもだ、あの怪物をどうにかする手段を考えよう』
『壁の外に押し出してしまえばいい。イェーガーよりそちらの方がよほど有用だ……』
ゴジラは壁をただ一撃で破壊した。挑んでくるイェーガーの攻撃など無視して街並みを破壊し、KAIJUの気配を感じると其方に向かう。今ではKAIJUの出現に世界が感謝する日々だ。
「ゴジラはKAIJUじゃない!KAIJUの遺伝子はどんな形であれすべて同じ遺伝子なんです………でもゴジラの遺伝子は全く別。KAIJU以上に遺伝子の宝庫ですよ!」
「それで、弱点は見つかったのか?」
「………あー……えっと。ありません。人類じゃ倒せません。KAIJUなら何とか怪我をさせることが出来てましたが、千匹ぐらいいれば何とか……」
「勝った方が我々の敵になるわけか……」
『グオォォォォ!』
『ガアァァァ!』
ゴリラのようなKAIJUがゴジラの背に乗り首を後ろから絞める。ゴジラが暴れるがなかなか離れない。
『グオオオオ!』
『ガ──!』
背鰭が発光しその熱でKAIJUの身体が焼け反射的に離れる。ゴジラは落ちたKAIJUに光線を放つと大爆発が起こり香港を津波が襲う。
香港に上陸していたKAIJUが飛行し空へと逃げるがゴジラが再び放った熱線に上半身を消し飛ばした。
『裂け目を通るにはKAIJUのDNA情報が必要なんだ!この作戦は失敗する……』
二体のカテゴリー4が腕に食らいつくもゴジラは二匹を火口に押し当てる。
『ギアアアア!』
『ガアァァァ!』
顔が焼かれ悶えるカテゴリー4。カテゴリー5が背後から襲う。
「今だ!」
その叫び声と共に原爆を抱えたイェーガーが爆発する。周囲の水が吹き飛び海底に水のない空間が生まれる。
しかしここは深海。海の中。水はすぐさま戻ってきた。数万トンの水流に押されゴジラはカテゴリー5と共に流され次元の裂け目に飲み込まれた。
異世界の民「プリカーサー」は自身等が送ったKAIJUと共にやってきた巨大生物を見る。巨大生物が手にしていたKAIJUは既に息絶えており巨大生物は周囲を睨みつける。そして、プリカーサーを確認すると同時に叫び声をあげた。
ゴジラが異世界に消えて十年。KAIJUは現れることはなく、しかし備えられてイェーガーの開発は止まらない。
そんなある日、太平洋の海面から光の柱が天に向かって伸びた。世界の壁を破壊し、ゴジラが舞い戻ってきたのだ。世界は再び絶望に包まれた、かに思われた。
ゴジラは十年ぶりの己の生まれた世界を見て眼を細めると海の底へと消えていった。世界の懸命な捜索は実を結ぶことなく、ゴジラは姿を消したのだった。