大きな公園の広い砂場でリトルはペタペタと砂山の形を整えていた。
既にリトルの身長を超えた砂山を見て満足そうに微笑むと更に大きくする為に周りの砂を掘り────
「……あれ?」
不意に砂に埋めた手が堅い何かに触れる。掘り起こしてみると赤い玉が出てきた。
何だろうこれは?随分綺麗だ。
「パパに見せてこよう!」
と、元気に立ち上がり駆け出すリトル。途中池で水浴びをしているシン・ゴジラも見付け二人で父親の下に向かう事にした。
ゴジラは自分の尻尾を枕に眠っていたが娘達の気配にのそりと起き上がる。
リトルが満面の笑みを浮かべながら赤い球を片手にやってくる所だった。シンも濡らした髪から湯気を発生させながら歩いてくる。
「見てパパ!綺麗な石見付けた!」
「ん?おお、確かに綺麗だな…………水晶玉か?」
と、リトルが見せてきた赤い球を眺める。誰かの落とし物だろうか?
「すいしょーだま?」
「私知ってる!願いを叶えてくれるんだよ!」
「うん?」
「未来を教えてくださいって頼むと教えてくれるの」
ああ、成る程。テレビで占い師等を見たのか。確かに教えて欲しいという願いを叶えている様に見えなくもない。
「パパは何かお願いしないの?」
「ん?んー、そうだな…………リトルやシン達に友達が出来ますように、とかかな……」
何せ彼女達は力が強い。普通の怪獣娘だって人間の姿でドアノブを破壊してしまうのだ、怪獣王たるゴジラの同族たる彼女達が全力で遊べる相手など、同世代で見た事がない。願いが叶うと言うのなら彼女達と遊べる同世代に会わせてやりたい。と、その時赤い球が光り輝く──
「……あん?」
気が付くと何処かの町並みに居た。ここは何処だろうか?いや、それより……
「リトル?シン?何処行った二人共!?」
先程まで近くに居たリトル達の姿が消えている。赤い球が海栗の様になっているのも気にせず慌てるゴジラ。
すぐさまG細胞同士の共鳴を使い反応を探す。すぐに見つけた。どうやらお互い別の場所にいるがそこまで離れてはいないようだ。
ゴジラは周りも確認せずに走り出し、不注意故に人にぶつかった。
「きゃ!?」
「っと、わりぃ。立てるか?」
「あ、はい……」
「…………ゼットン?」
「へ?」
思わぬハプニングで冷静になったゴジラはぶつかった相手に手を差し伸べ、固まる。見知った顔だった。
が、直ぐにいや……と首を振る。
「すまん、人違いだった。余りに似てるもので」
確かに相手はゼットンに似ているが、気配が少し異なる。
それに見た目も少し違う。ゼットンは額の発光体が黄色なのに対し彼女は赤色だ。それに胸の部分も色が青く髪も一部が青い。先端をリボンで纏めているしモミアゲだって長い。マフラーだってゴジラが知っているゼットンは付けていなかった。
「いえ大丈夫です……あ……」
「ん?」
不意にゼットン似の少女はゴジラを凝視する。何故かゴジラはその目が獲物を狙う肉食獣に見えた。
「あ、すいません。私はマガゼットンと言います。それで、何か慌てていた様ですけど」
「名前まで似てんのな……って、そうだ!はぐれた子供達を探してるんだった!」
「…………あ」
ゴジラが慌てて走り去り残されたマガゼットンは名残惜しそうな声を漏らし手は空を切った。
「…………あれ?」
リトルは周囲を見回し首を傾げる。父親と妹が消えた。と言うかここは何処だろうか?
「おーい!パパー!シンちゃーん!」
気配は感じるのでそちらに向かいながら走る。と、不意に一人の少女が目に留まる。
タコの足の様な尻尾を持った自分と同じぐらいの少女だ。
「…………?」
涙目でスケッチブックを持ってトボトボ歩いている。
「どうしたの?」
「……誰も抱き締めてくれない…………」
『ふりーはぐ』と書かれたスケッチブックを持ってエグエグ泣き始める少女に、リトルは抱き付いた。
「えへへ、ぎゅー」
「…………ジャッパ、臭くない?」
「んー……ヘドラお姉ちゃんで馴れちゃった♪」
リトルはそう言ってニパーと笑った。
「……♪」
シン・ゴジラは家族とはぐれたが気配は近くに感じるので慌てる事なく水浴びをしていた。
満足したので池から上がると視線を感じた。見ると深蒼色の髪をしたダボダボの服を着た少女が見ていた。
「…………」
が、別段興味も無いので無視して去ろうとするシン・ゴジラ。が──
「────!?」
突如尻尾の先端に激痛を感じ目を見開き振り返る。見ると先ほどの少女がシン・ゴジラの尻尾に噛み付いていた。
「ぐるるる!?」
「んー……噛めば噛むほど歯応えも味も変化する不思議なお肉。まるで食べた肉が生きてて常に変化し続けてるみたい」
「グオオオオオォォォォェェェンッ!!」
シン・ゴジラは尻尾を振り少女を地面に叩き付ける。ぐぺ!と少女が尻尾を放した瞬間尻尾で引っ叩く。
「いたたた…………」
「グルゥゥ!」
頬を押さえ立ち上がった少女に向かってシン・ゴジラは警戒心を露わに吠える。少女もシン・ゴジラの敵意を感じ取ったのか臨戦態勢に入る。
シン・ゴジラはエネルギーを尾の先端に溜め、少女も口内にエネルギーを溜める。
一触即発と思われたまさにその瞬間──
「「余所の子に迷惑掛けてんじゃねぇ!」」
シン・ゴジラの頭にゴジラの、少女は赤い髪の褐色肌の女性に頭を殴られた。
「痛い……」
「何するのママー!」
「放射熱線撃ったら相手は痛いじゃ済まねーんだぞ?怪獣娘でもない相手にそれは使うな……お前は良い子だから、分かってくれるな?」
「…………うん」
「普通の子は体が直ぐに治ったりしねーんだよ!噛み付くな食べんな分かったな!」
「うう、はい……」
「「分かればいいんだ」」
と、二人は同時にそれぞれの頭を撫でた。
「悪いなうちの子が。この子食いしん坊で……」
「いやいやうちの子の方こそ済まねー。この子は大抵の怪我から直ぐ治るから医療費は気にしないでくれ」
「そうか?こっちもある程度の熱には耐えられるから気にしないでくれ」
「ははは。まるで人間とは思えないな」
「まあ怪獣だしな」
「「……ん?」」
二人は漸くお互いの遣り取りに違和感を覚えた。
「……あんたの子もしかして、怪獣娘か?」
「怪獣……?いや、うちの子は魔王獣……」
「ん?」
魔王?怪獣?何言ってんだ此奴、とお互いを不審がる二人。と、そこへ……
「パパー!」
「ママー!」
「「新しい友達出来たよー!」」
と、二人の幼い子供が肩を組みながら走ってきた。
「リトル!」
「ジャッパ!」
「「…………!?」」
同時にそれぞれの相手がお互いの娘だと察した二人は、取り敢えず警戒を残したまま敵意を納める。
「あ、良く見るとイケメン」
「あん?」
「い、いやなんでもない……あぁ!そ、その球!」
「ん?」
と、不意に赤毛の女性はゴジラの持っている赤い球を見付けた。
「これはお前のか?」
「いや、パイセンのだ……良かった、これで殺されないで済む」
「良く分からんが良かったな……でだ、すまないがGIRLSの場所を教えてくれないか?支部でも良いんだが」
「GIRLS?何それ?」
「ん?いや、国際怪獣救助指導組織……え、知らねーの?」
「知らん。つか、怪獣だらけのこの場所で何でわざわざそんな組織が必要なんだ?」
「…………マジか」