「………………」
「………………」
アギラ達三人組は、今日から数日教育係になった。
教育相手は先日ゴジラが連れてきた怪獣娘の一人メカゴジラ。前世に於てゴジラを徹底解明した宇宙人がゴジラを倒す為に造ったらしい。
前世の記憶を思い出したのは物心付いた時。その日から、ずっと前世最後の命令であるゴジラとキングシーサーの殲滅を目的にしていたらしい。
「………………」
「ね、ねえアギちゃん、ウィンちゃん、あの子さっきから何も言わないんだけど……」
「ま、まずはコミュニケーションからです。頑張りましょう」
前世の記憶持ちは今までゴジラとモスラ、バトラ、リトルとラドンだけだった。彼等は最近記憶を思い出したゴジラは勿論、人間寄りの思考をしていた。
しかしこのメカゴジラと言う子は、前世が機械だった為か人に触れ合おうとしてこなかった。結果、あまりに人間らしくない。
そんなメカゴジラに、アギラは手を差し出す。
「今日からよろしく」
「…………了解」
無口だが悪い子ではない。話してみた結果、アギラはメカゴジラをそう評価した。
そもそも今まで感情を持っていなかった機械だったのにいきなり感情を持たされ、きっと混乱していたのだろう。そして拠り所として、最後の命令を選んだ。
「質問が有る」
「何?」
「お前達は、嘗て怪獣だった。が、記憶は無いのだろう?何の為に力を使う?」
怪獣の大半は目的なくその力を振るう。名前の通り獣なのだから当然だろう。しかし今は理性を持ち、道徳を持つ。自分で善悪を判断し力を使えるはずだ。
「……人の為、かな。ボクは、ボク達は人の役に立ちたい」
「まあね」
「ですね」
アギラの言葉にミクラスとウィンダムが頷く。その表情を、メカゴジラは観察する。
「…………私は、命令を聞くように造られた。命令に従うだけで、何かを考える事は無かった。いきなり意志を与えられても、恐ろしいだけだ。だから、前世最後の命令を生きる意味にした」
そしてゴジラと戦い。敗れた。後一人居た気がするがまあ関係ないだろう。ゴジラとしか戦闘行為を行った記憶は無いし。
そして敗れた後、こう言われた。
『既に命令してくる奴も居ねーのに、何で挑んでくる』
それが生きる意味だと応えたら、あっそと興味無さそうに返された。
たぶん、むっとしたのだと思う。お前は何の為に生きる?そう聞いた。嘗ては怒りの化身で。人の為でなく、あくまでも自分の為。
友を傷付けた自分を倒しに来た彼が、今更人の命に興味を持つとは思えなかった。言葉に詰まると、そう思った。
『さあ、知らねー。ま、今はそれを探すために生きてるかな』
何だそれは、見付からなかったらどうする気だと聞くとゴジラはやはり笑った。
『何時かは見付かるさ。だって今の俺達は、独りじゃねー。前よりももっとたくさんの仲間が居る。たくさんの縁が有る。繋がりが有る。だからきっと見付かると信じてる』
根拠も無いのに、そいつは確信してそう言った。
人間に住処を奪われ、生物として穢され、最後の生き残りは新たな、別の生物にされ、人間を蹂躙し、怒りを収めても人に対して一切の感慨を示さなかったと言う情報を与えられていた。しかし、彼はそんな事は無かった。
彼は前世とは違う。今を生きている。
自分は、過去を生きていた。
「……ご指導お願いします、アギラ先輩」
「うん!任せて、新しい怪獣娘さん!」
「にゃ~にゃ~♪君はどうしてそんなに可愛いの~♪」
波打った黒髪の少女は猫を抱き抱えながらそんな歌を歌う。その周りには皿が置かれ、皿の上にはキャットフードが入っており、猫が群がっていた。
「にゃー」
「ん~何々?餌の量を増やせってぇ?だぁめぇ。毎日あげてたら君達が駄目になっちゃうもぉん」
と、膝の上に乗ってきた猫を撫でる少女。不健康そうな見た目で薄ら寒く笑うその光景は何処か不気味で、時間が時間なら目撃した子供は一目散に逃げ出すだろう。そして絶対悪夢を見る。
都市伝説に『猫少女』なんて増えるかもしれない。
「聞いてよ聞いてよぉ。彼奴等ったら酷いんだぁ。まぁたボクを虐めてくる。酷いよねぇ?」
「にゃー」
「だよね~。今日もゴミ箱を三階から落とされてさぁ、教師は見て見ぬ振りだよぉ?しかもボクが抗議しても絶対に『お前に問題が有るんだろ』とか言うに決まってるよぉ……」
本当、酷いよねぇとやはり笑みを浮かべ虐められている現状を話す少女。
「全くボクが
猫がにゃぁ、と一声鳴くと手を離す。猫は降り、別の猫がやってきた。
「でもさぁ、一度だけ、本気で殺してやろうと睨んだ事が有ったんだぁ。そしたらねぇ、しばらく何もしてこなくなったのぉ。彼奴等ったら仕返してこない奴にしか何にも出来ないんだねぇ。変わった正義だよねぇ…………本当、ボクより彼奴等の中身の方がよっぽどグズグズに腐ってんじゃないのかなぁ?」
少女の問いに答える者は居ない。猫は居るが猫はそもそも少女の言葉など理解していない。常人なら聞くだけで顔を背けるような内容だが少女は怒りも悲しみも狂気も無くただその日あった事、その日思った事を語るだけなので、猫達は野生の勘が働こうと少女に警戒心を寄せない。
「ま。いっか…………また明日ねぇ」
さて、次の日も少女は猫達との秘密の遊び場にやってくる。血の匂いがした。慌てる事も無く歩き、茂みの奥に向かうと沢山の猫が殺されていた。爪に血が付いている者もいる。
「…………うん」
少女は周囲を見渡し、はぁ、と溜め息を吐く。
「殺しは駄目だよぉ。殺しはいけないよねぇ。殺される覚悟を持たなきゃ、魚を、鳥を、獣を、山を、人以外の何かを殺そうが自分も何時か何かに殺される覚悟も無い癖にさぁ…………」
少女はゆらりと体を揺らし踵を返す。と、そこへ警官が数名やって来る。その目には警戒や敵意が浮かんでいた。
「すいません。ここで、猫を殺して遊んでいる女子高生が居ると通報が有ったのですが」
「…………悪戯じゃないですかぁ?ここは、猫の死体を捨てる場所らしくてぇ、猫の白骨死体なら大量に有りますけどねぇ……」
警官の何名かが茂みの奥に向かうとなるほど、確かに猫の白骨死体が大量にあった。1日2日は勿論、数刻で白骨化などするはずもない。
「1日一匹埋めてあげることにしたんですけどぉ、犯罪ですかぁ?」
「あ、ああ……まあ、公園は公有地だからね。でも、今回は見逃すよ。君みたいな子が増えてくれれば嬉しいんだけどね」
「やだなぁ、私みたいな奴なんか増えたら大変ですよぉ」
少女はケタケタ笑いながら去っていく。後日、公園には勝手にペットの死体を捨てないでくださいという看板が立て掛けられた。
何故猫かは予想した怪獣と猫で検索すればわかると………思う