「でもどうやって解ったのぉ?ボクを富士まで追い掛けて来た時みたいに、気配でも追って来たぁ?」
「ああ、そういや俺そんな特技も持ってたな……」
「……?」
ゴジラの言葉にヘドラは首を傾げる。まるでつい最近まで忘れていたような言い方だ。まあ、見た目からしてこの世界で10数年は過ごしているようだし、一つぐらい忘れていても可笑しくない。
「だ、だすげ……だじゅげで…………」
「……ん?」
不意にゴジラの足下に居た男が縋り付いてくる。
ゴジラはニコリと笑う。ゴジラを知る者が見れば不安になるほど優しい笑みで。事実アンギラスとラドンは不気味がっていた。
「離せ」
「────!?」
ズドン!とゴジラの足が男の顔の横に突き刺さる。
「……どうやってボクを見付けたのぉ?」
「GIRLSは怪獣娘の捜索なら、色々出来てな。ニュースになってた公園周辺の監視カメラ調べてお前を見付けた。で、制服から高校割り出して調べた」
「監視カメラ何ていろんな奴が映ってると思うけどなぁ」
「だが目は違う。基本的に記憶持ちの怪獣娘は俺の世界の怪獣だけで、その目は大体人間を下に見てる。守ってやらなきゃ、何てのは上から目線じゃなきゃまず出来ないしな」
上から目線。なるほど、とヘドラは納得する。自分が今まで耐えられたのも、案外上から目線で、その気になられたら何時でも殺されるのに調子に乗ってバカみたいだと思っていたのかもしれない。
「で、私の学校を調べた後どうやってここに辿り着いたの?」
「ああ。最近機械に強い奴が入ってな、ネットを調べてたら裏サイトでこんなの見付けてな」
と、スマホを見せると違法の復讐代行サイトの依頼の一つが見えた。そこにはヘドラが写っている。
「ふむふむ、『この女に虐められました、復讐してください』ぃ?あははぁ、酷い言いようだねぇ……」
「ま、スマホをハッキングさせりゃあどっちが悪いか何て丸分かりだがな。おまけに随分自信家らしいな。自分達がやってる器物破損罪を功績と思ってるらしい」
と、ゴジラがスマホを操作し写真を見せるとヘドラに今まさに耳や眼球を溶かされそうになっていた少女の顔が青くなる。
ゴミを撒かれ、カッターや彫刻刀で文字を掘られた机、そしてその机の前でポーズを決める男女。
「功績は皆に伝えるべきだろ?だから、そいつのアカウント使って『犯罪者の娘に鉄槌なう』って投稿させといたぜ。他の奴らも似たような感じだ。ま、後数分もしないうちにいろんなサイトで話題になるだろうな」
「……な、あ……なんで、わだし……そんな目に…………」
「やってきたことが返ってきただけだろ?」
と、ゴジラは興味無さそうに言う。
「ついでにこのサイトも警察に話してあるし、今回の件は未覚醒の怪獣娘に暴行しようとした結果怪獣娘が暴走したって放送されるだろうな。そうなりゃ、悪人はどっちか直ぐ世間は決める」
終わったなお前等、と周囲に転がる男女を見て言うゴジラ。そのままヘドラに近づく。
「で?お前今何処にいる……?」
「あ、バレたぁ?教えてあぁげない♪」
次の瞬間ヘドラの肉体がドロリと溶ける。分身体だろう。元々が集合体のヘドラの転生者ならその程度出来ても可笑しくない。
「じゃ、探しに行くか」
「この人達は?」
「ほっとけほっとけ。俺達は何も見てない。此奴等が何を喚いたところで、もう世間は信じねーよ」
「ありゃ~、バレたかぁ」
学校の屋上で、戻ってきた分身を取り込みヘドラはケラケラ笑う。
そして、自分の分身が連れてきた客人を見る為に振り返る。右目を隠す前髪には縦に避けた赤い瞳を模した髪飾りが有り、フリルが宛がわれしかし薄汚れボロボロの服は固形の何かが溶けているような錯覚を覚える。
「目的はボクの保護かなぁ?それが仕事だもんねぇ……良いよぉ保護されてあげてもぉ。ただちょっと、ボクと遊んでよぉ、ゴジラ……」
「あ?」
「前世での君との決着はさぁ、人間の知恵が有ったり、地表の汚れが減ったせいでボクが弱体化したりと色々有ったじゃないかぁ……だからぁ、ちゃんと決着を付けようよぉ。GIRLSに入ったらそれも出来そうにないしさぁ」
「…………本音は?」
「……人間になって苛立ちを知ったんだぁ。ボクは負けてない」
と、その言葉と同時にヘドラは床を蹴り駆け出す。ゴジラはヘドラの突き出してきた手のひらを躱すとヘドラは地面に手を着ける。途端に、グジュグジュと音を立てコンクリートで舗装された床が溶ける。
「酸の力、上がってるな」
「こんな小さな身体でもぉ、前回と同じぐらいの強酸が生めるんだよぉ、媒介も無しにねぇ……凄いでしょぉ、ねぇ、凄いよねぇ?」
と、ヘドラが腕を振るうと腕を包むように現れた酸が飛んでくる。腕を交差させ顔に掛かるのを防ぐとジュウ!と音を立て服の一部と皮膚が溶ける。
「調子に乗んな!」
ゴジラは床を踏み砕きヘドラに接近すると拳を振るう。
「あん、深いぃ♡」
が、その拳はズブリとヘドラの腹に沈み込む。底なし沼のように絡み付く彼女の体は冷たいのに、腕に焼けるような痛みが走る。
「もう、お返しだよぉ♪」
レロリとヘドラの舌がゴジラの片目を舐める。シュウ!と白煙が上がりゴジラは力任せに腕を抜くと、その腕は白骨化していた。片目も、溶けていた。
「あの時と同じだねぇ……でも今回は人間の支援は無いよぉ?」
「言ったろ……調子に乗るなって……」
「────!?」
瞬間、ゴジラの腕を繊維状の肉が伸び皮膚が包む。右目も手を退けた頃には再生していた。
「……驚いたねぇ。そんな回復力、持ってたっけぇ?」
「未希曰わく、俺の細胞は永遠の植物を造れちまうらしいぜ……ま、そうでなくともお前と会ったのとは別の個体としての俺は心臓だけが残っても生きてたぐらいだしな」
「あははぁ。でもぉ、ボクは普通の攻撃じゃまず殺せないよぉ?」
「試してみるか?」
と、ゴジラの背鰭が光る。ヘドラは慌てて分身体を複数生成し壁を作るが、その瞬間壁を貫き光線が空へと消えていく。
触れた部分は、乾燥など生温く、蒸発していた。
媒介無しに酸を生成できようと、ヘドロを生み出せようと、前世の本体、ヘドロを纏う核は現世において、彼女の細胞と同レベルでしかない。成長しなければまず増えない。何度も食らえば、消える。
「…………こうさぁん。君がボクより強くなったのはもう解ったよぉ」
と、ヘドラは変身を解き腰を下ろした。考えてみれば、頭の中に響く妙な命令に従っていた時に全ての本体をたった一発の光線で死滅させられていたのだ。
「あ、ちなみに今日って部活無いからこの辺の校舎は無人なんだぁ」
「うん?」
「漫画とかじゃさぁ、卒業式に机に文字掘る奴もいるらしいんだぁ。立派な器物破損だよねぇ?」
「…………てめ、まさか…………」
と、ゴジラが顔をひきつらせた瞬間、ギシリと何かが軋むような音が出る。
「これも暴走って事で、見逃してねぇ?」
グジャア!と音を立て校舎が溶け崩れる。よく見れば周囲に人類が衰退した世界の某新人類みたいなサイズのヘドラそっくりな生物が其処彼処に居た。それがこの学校の校舎の一部を溶かしたのだろう。ゴジラは溶けたヘドロの海へと落ちていく。
「お帰りなさいゴジゴジ。ネットで結構騒がれてましたよぉ。大変だったみたいですね……」
「ああ……」
「まあ、あの学校も虐めを黙認していて、その結果怪獣娘さんの心に負荷を掛け続けたと言う事になりましたし、GIRLSはそこまで世間には責められないと思います。所で、その片手に持っている物は?」
「…………新しい怪獣娘だ」
と、ゴジラは頭に幾つものたんこぶを作り気絶しているヘドラをピグモンに投げ渡した。
「くそ、体中から変な匂いがしやがる。ピグモン、悪いけど早めにあがる。風呂入ってくる」
「あ、はい!あ、待ってください!」
と、ピグモンが何やら慌てるがその声にヘドラが気付き目を覚ましたせいでバランスを崩し倒れる。
「「「…………あ」」」
「……はぁ、またこのパターンか。いや、今回入ったのは俺だけど……立て札ぐらい付けろよ」
脱衣場に入った瞬間、風呂上がりのアギラ、ミクラス、ウィンダムと出くわした。
「まあ待て、冷静になれ。そもそもだ。価値観というのは人によって違う。つまりだ、お前等の裸を見た事とこの後来るであろう暴力、お前等には割に合っても俺には割に合わ────」
「「出てけぇ!」」
「さらっと失礼です!」
アギラとミクラスが服を入れておく籠を投げつけ、ウィンダムは体を隠しながら涙目で叫ぶ。ゴジラは慌てて脱衣場から逃げ出した。
感想お待ちしております