「パパー!頑張って~!」
「おう、任せろ」
「…………これが養殖マグロ……これはこれで美味しいけド」
脂が多く乗ったマグロの身をペロリと平らげた少女。一回戦目は早食い。50皿の寿司を食べるというものだ。初めから米などを入れて出来るだけ食う量を抑えさせようとしているのだろう。しかし、少女はまだまだ食える。
そして、少女の視線の先に居る男も、ほぼ同時に食べ終わっていた。表情から余裕も見て取れる。
間違いない、決勝で当たるのは、彼だ。
各ブロックより二名が選ばれ、5ブロック、合計十名が決まり二回戦。
二回戦目からは制限時間内にどれだけ多く食べていくかというルール。四回戦までは二名ずつ脱落していく。
普通なら落ちない程度に、しかし次に備えて腹を温存するべきだ。普通なら。しかし生憎普通じゃないのが二名も居た。
二回戦、マグロの叩き丼。一位52杯、二位50杯。
三回戦、マグロのハンバーグ。一位49皿、二位45皿。
一位と二位を争うのはゴジラと外国人の少女。ペースが落ちる様子は全くない。
市長は焦っていた。養殖マグロが成功し、町興しの為に行った行事、マグロだけなら味付けを変えても飽きるだろうと高を括っていた。このままでは、大赤字だ。
四回戦、マグロの目玉の煮付け。男の方は兎も角、女の方がこれで……と、思ったが嬉々として食べていた。
「し、市長……このままでは…………」
「うぬぬ……ん?おい待て、あの男が着ている服、GIRLSの制服だ。噂の男の怪獣娘だ!」
と、市長が叫ぶ。
「怪獣娘は人間じゃない……よし、それを理由に失か…………」
ポンポンと肩を叩かれ振り向くが誰も居ない。しかし気配を感じたので視線を下に落とすとニッコリと笑った美少女が居た。
「今の差別発言、聞きましたよ~?いけませんね~」
「え、あ、い……いや、その……しかしねぇ、フェアじゃ……」
「フェア、ですか……なるほど」
と、少女が頷くと市長はホッとしたように溜め息を吐く。が……
「選挙の時、いろんな所にお金出してもフェアなんですね~。初めて知りましたよ~」
「………………」
「で、何でしたっけ?フェアじゃないから失格、でしたっけ~?」
「は、ははは!そんなまさか、大食い選手の殆どが胃が膨らむ体質と言いますしね。怪獣娘だって体質体質!ははは!」
そうですか、と少女は微笑み去っていた。
「し、市長…………」
「こうなれば、最後の手段だ…………」
決勝戦、これまでと違う方法が取られた。
養殖マグロを捕まえ、自分で好きなように料理するというモノだ。
制限時間は一時間。マグロなど簡単に捕まえられるモノではないし、一頭丸ごと捌くのにどれだけ掛かるか。これなら赤字でもギリギリ取り返せる。普通なら、そう、普通なら。
「行くか」
「負けないヨ!」
二人同時に養殖マグロを囲っている網の中に飛び込み、それぞれ両手に一匹ずつ尾を掴んで上がってきた。そして、そのままあっさり腹を捌き内蔵を取り出し水で洗い食べる。この間10分。
「なあ……」
「は、はい!?」
「中で直接食って良いか?」
「へ?」
審判が疑問の声を上げる間もなく二人は再び飛び込み、水面がバシャバシャ激しく波打つ。残り五分。一匹のマグロが顔を出し、引き摺り込まれた。
「……チッ、一匹差で俺の負けだ」
「勝ったけど、私の方が泳ぎが速かっただけネ」
「そうか……なあ、負けて言うのもなんだがちょっくら分けてくんねー?娘に天然マグロ食わせてやりたくて」
「OK!なんなら私が料理してあげてもイイネ」
二人はガシリと握手を交わす。拍手が起こり、市長は膝を突く。網の中は、骨も内臓も残さず綺麗に平らげられた為マグロの食べ残しは少しも無かった。精々血が漂っているぐらいだ。
「出来たヨー!マグロの兜煮、ハンバーグ、ステーキ、叩き、刺身のフルコースネ!」
「わーい!マグロ、マグロ!」
「でも、本当に私達までよろしいんですか?」
と、ピグモンはおずおずと尋ねる。
「ヘーキヘーキ。それに、皆で食べた方がオイシいヨ」
「んじゃ、遠慮なく……いっただきまーす!」
と、レッドキングが早速食べ始める。
「ん、美味しい!」
ザンドリアスも一口食べてすぐ次に箸を伸ばす。
「美味しいですね。今度、私も作ってみましょうか」
「頼む、止めてくれ……」
「……?」
モスラの言葉にバトラが辟易しながら呟く。
「でもさぁ、網の中一つ丸々食べちゃって苦情とか大丈夫かなぁ?」
「まあ市民と話し合って決めたスケジュールを市民の同意も無く変えた市長に問題が有るでしょうからね~。それに、お金はGIRLSからキチンと払っておきましたよ~」
と、ミクラスの言葉に笑顔で応えるピグモン。そういえば、と優勝者の少女を見る。
「水の中でゴジゴジと互角なんて凄いですね~。ゴジゴジ、前世は海に住んでた怪獣なのに」
「私も前世は海に住んでタヨ。お揃いダネー」
「………………ん?」