早く来年の五月になってほしいものです
リトルを肩車して休日を過ごしていると、河原で土手滑りをしていると子供達の姿が見えた。肩の上でリトルが反応しているのが分かったゴジラは立ち止まり近くに落ちていた段ボールを拾ってくる。
「ひゃー♪」
土手をズザザザ!と滑り楽しそうにはしゃぐリトル。ゴジラも微笑ましそうに見ていると、不意にリトルが登っていた足を止め何処かに向かう。ゴジラは慌てて後を追った。
「…………はぁ」
ザンドリアスは河原に石を投げながら溜め息を吐く。今日は師匠であるレッドキングが仕事で居ない為、暇だ。
怪獣娘として目覚めてからは、寮生活。とはいえ彼女は中学生、許可が下りれば学校にも再び通えるのだが、一度も通っていない。学校で、あの女に待ち伏せされたくないから。
「ザンドリアス!」
「うわっひゃ!?リ、リトル?」
と、考え事をしていると背後から誰かに抱き付かれる。振り向けばそこには偶に面倒を見てやっているリトルが居た。
背後に先ほどまで無かった段ボールが落ちている。土手滑りでもしてたのだろう。
「あれ、リトル……一人?」
「パパも一緒だよ!」
「よう……」
と、リトルの背後から現れたのは黒い髪の、黒い私服という黒尽くしの男、ゴジラだった。
隣に座り飲むか?と渡してきたジュースを受け取りチラリと隣を見る。彼は確か、暴走状態になっていたとはいえ師匠であるレッドキングを圧倒したのだとか。同じ暴走状態でも手も足も出なかった自分とは大違いだ。きっと前世はかなり強い怪獣だったのだろう。
「…………はぁ」
また溜め息を吐きながら石に回転を掛けながら川に向かって投げる。パシャシャ!と音を立て数度跳ねた石は川の中央で沈む。
「…………すごーい!ねえ今のどうやったの!?パパも出来る!?」
と、目をキラキラさせるリトルに少し誇らしげな顔をするザンドリアス。ゴジラは河原の石を適当に掴むと川を見詰める。
ドパン!と川の中央に巨大な水柱が立ち周囲に大雨のような水滴が降る。ザンドリアスは、あ、虹だーと現実逃避をした。
まさか、まさかだが石を放っただけでダイナマイトを投げたみたいな事が起きるはずがない。クレーターに水が押し寄せているが、きっと隕石でも落ちたのだろう。
「……ザンドリアス、どうやりゃさっきの出来るんだ?」
「あ、うん……教えるね…………」
ザンドリアスはリトルとゴジラに水切りの方法を教授する。平たい石に回転を掛け、滑らせるように投げる。最初はリトルだ。
「えい!……あ、やった!一回跳ねた!」
「…………そうだね」
流石前世の同種。予想外は子供も同じようだ。リトルが投げた石は水を押し退け川底に当り跳ねた。水切りをやろうとして本当に川を切る者が何処に居るのだろうか?
「どうどうパパ、すごい!?」
「凄いな~、俺も負けてられないな……よっ」
ドパパパパバァン!
今度は何度か跳ねた。石が水に触れる度にさっき程ではないとはいえ人の身長を超える水柱が連続して発生していき向こう岸の土手の一部が爆ぜた。
「よっし!成功!」
「…………うん、取り敢えず二人は二度と水切りするな」
「「え?」」
付き合ってくれたお礼にカレー屋で昼飯を奢って貰ったザンドリアス。一口食べ、顔をしかめる。
「……辛い」
「は?そりゃ甘口だろ?見ろ、リトルは普通に食ってるぞ」
「………………」
念の為リトルのカレーも一口食べてみる。同じぐらいの辛さだ。首を傾げながらも食べれないほどではないので残りを平らげた。
「そういやお前、今家出中何だよな?街中彷徨ってて平気なのか?」
「…………それが何よ」
と、つい敵意を込めてゴジラを睨んでしまった。ゴジラは気にする様子もなく肩をすくめただけだが。
「アイツが私の事心配しているわけ無いじゃない。ママなんて、居ても不幸なだけよ。いっつも怒ってくるし、小うるさいし、人のやること一々突っ掛かって来るし……」
「ふーん、そうなのか。前世じゃ生まれて直ぐに親居なくなってたし、今世じゃ普通に捨て子だからその辺良く知らねーけど、母親ってのはそういうもんか」
「あ、ご、ごめんなさい……」
慌ててザンドリアスが謝罪するとゴジラはニヤリと笑った。
「何だ、解ってんじゃねーか」
「え?」
「家族は居ないより居る方が幸せだって事だよ」
と、そう言ったゴジラはリトルを引き寄せ頭を撫でる。うにゅ、と呻いたリトルはしかし気持ち良さそうに目を細めた。
「それとも何か?家族が居ないなんて羨ましいですね?つー皮肉のごめんなさいか?」
「…………違う……」
「なら帰って、謝って、仲直りしな」
「…………出来るかな。私、出てく時酷い事言っちゃった……」
「親の心子知らずって言うしなぁ……その逆もまたしかり。母親が怒ってるかもしれなくて怖いか?」
「…………うん」
「そりゃまあ、怒ってるだろうよ。でも直ぐ許してくれると思うぜ?」
「何でそんなこと解んのよ……」
ジロリとゴジラは横目で睨むとゴジラは苦笑しながらザンドリアスの頭をワシャワシャと乱暴に撫でる。
「俺は子ではないけど親だからな。親の気持ちは解るつもりだ。確かに虐待したりする屑な親も居るけど、親の居ない俺に謝っちまうぐらいには、幸福だと感じる家庭なんだろ?なら大丈夫だ……」
「ま、もし駄目だったら俺の所に来いよ。一児の父として親らしく振る舞ってやるからさ」
「………………」
「…………この年の差だと、父親って言うよりお兄ちゃんって感じが……」
「そうか?まあ兄貴でも良いか」
「………………」
ザンドリアスはゴジラの手から逃れると立ち上がる。
「…………帰る」
「付いてってやろうか?同じ寮だし……」
「そっちじゃないよ……」
「……そうか」
と、ゴジラとリトルはザンドリアスに背を向けて歩き出す。リトルがゴジラと繋いでない方の手をパタパタ振り、笑顔を向けてきた。ザンドリアスは微笑み手を振り返す。
「…………ただいま」
「……おかえり。晩御飯、食べる?」
家に帰ると母親が出迎えてくれた。ザンドリアスはなるべく視線を合わせないように下を向きながら席に着く。
メニューは、カレーだ。食べる。甘い。
「…………最近、大丈夫?風邪は引いてない?GIRLSで虐められたりしてない?」
「…………別に」
「そう、良かった……」
カレーを食べ終わる。ザンドリアスは、漸く顔を上げ、目が合った。泣きそうな、心配そうな顔をしている母親の顔を見て、一瞬言葉に詰まる。が、その言葉を絞り出した。
「ごめん、なさい……」
「私こそ、あの時言い過ぎたわ。ごめんなさいね…………」
「………………うん」