「はあぁ!」
ミクラスは地面を踏み込みゴジラに向かって駆ける。ゴジラの手が獲物を狙う蛇のようにミクラスへと伸びて来たが身を屈め躱すと懐に入り込んだ。
「たぁ!」
「甘い」
ゴジラはミクラスの手首を掴むと身体を半身に逸らすように回転させる。殴った勢いを止められず巻き込まれるミクラスは足を掛けられバランスを崩した瞬間、天地がひっくり返った。
「うげ!」
背中から落下し肺の中の空気を吐き出すミクラス。ゴジラの足がミクラスの腹に迫るがゴジラに迫る影が有った。アギラだ。
ゴジラはアギラの突進を躱すと尻尾を叩き付けようとする。が、その尻尾にレーザーが当たる。
「えい」
「とりゃあ!」
「チッ……」
ゴジラは舌打ちをしながら二人の拳を受け止める。と、ビー!と言う音が鳴り響いた。
「そこまでで~す。ゴジゴジのハンデ無視によりかぷせるがーるずの勝利です♪」
「…………勝てた気がしない」
「ですね」
「だね……」
アギラの言葉に腰を下ろしながら息を整えて同意するウィンダムとミクラス。今回、アギラ達は模擬戦をしていた。結果は勝利。しかし三対一でゴジラは攻撃を防御するのと熱線を禁止というハンデを付けていた。
結果として防御行動に移せたがゴジラは余裕綽々でアギラ達は肩で息をしている。これが模擬戦だから勝ちなのであって、本当に戦うとなったら相手はハンデを付けないのは当たり前、疲れているアギラ達にだって容赦しないだろう。
「まあでも、ハンデ戦初白星だ。元気出せって」
「…………何時かハンデ無しで勝ってやる」
「おう、楽しみにしてる」
「………………」
馬鹿にするでもなく、素直に期待していると言ったゴジラの顔にアギラはハンデで漸く勝てたという苛立ちも忘れて赤くなった顔をフードで隠すのだった。
場所は変わり広島。遠征でゴジラ、かぷせるがーるず、モスラの五人が来ていた。バトラは別の場所に遠征だ。
「ここが広島かぁ、広島焼き有るかな?」
「まず飯かよ……それとモスラ、パンフレット持って何処行く気だ?」
「うっ……」
フラフラ光に誘われる蛾の様に何処かに行こうとしたモスラの首根っこを掴むゴジラ。腕時計の時間を確認する。
「お前等、今回の目的は覚えてるか?」
「えっと、ここ最近シャドウが増えてきているので巣を作っている可能性が有る。早急に索敵、発見し次第殲滅……でしたよね?」
「そうだな……とはいえだ、場所は未だ不明。つーわけで……」
「?」
「散開。何処を探そうと勝手だけど、キチンと探せよ?」
「「「────!」」」
パァ、と全員の顔が明るくなる。シャドウが増えているとはいえ、今の所は人的被害は出ていない。巣の作りかけの場合は巣作りに専念しており、たまに群からはぐれる者が出るからだそうだ。
巣の完成に近づけばもっと目撃証言が多くなるとの事らしい。
ゴジラは一人で探索することに決めた。幸い、前世から敵を探すのは得意だった。が……
「…………あ」
「え?」
気配を追っていくとモスラと同じ場所に着いた。
モスラは恐る恐る、ある建物を指差す。ゴジラは無言で頷く。シャドウの巣が有ったのは、原爆ドームの中だった。
「しかし何だあの壊れかけの建物」
「原爆ドームです。日本に落とされた原爆の恐ろしさを忘れない為の廃墟ですよ」
「原爆…………つーと、核爆弾か。その恐ろしさを忘れない何て言いながら原子力で成り立ってるってのは笑える話だな」
と、ゴジラが笑いながら原爆ドームに近付いてく。
しかし、とゴジラは一旦足を止める。
平和記念博物館や、原爆ドーム等を残していく必要は有るのだろうか?戦争を知らない殆どの若者からすればそう言う事が有ったなぁ、程度にしか見られないのではないだろうか?
いや、戦争を経験した者達だって、数十年という人生の大半以上を平和に過ごした今、戦争の事など殆ど忘れているかも知れない。そこに有った、犠牲と共に…………。
「…………あ?」
グラリと地面か傾く。いや、違う、ゴジラが倒れているのだ。
「ゴ、ゴジラ!?」
モスラが揺するが反応しない。気絶している。
一体何が有ったというのだろうか?
「ゴジラが!?はい……はい、解りました…………」
通話を切るとアギラの様子を見て不安そうな顔をするミクラスとウィンダムと目が合った。
「ゴジラが……どうしたの?まさか……」
「ううん。やられたわけじゃない。シャドウの巣を見付けて……突然、倒れたって……シャドウの巣はモスラさんが壊して……今、宿泊先のホテルに居る」
シャドウにやられたわけじゃない事に安堵すべきか、それとも突然の体調不良を心配すべきか、とにかく三人はホテルに向かう事にした。と、その時
「すいません」
「はい?」
振り返るとそこには右目を閉じた少女が居た。随分と大人びた雰囲気を持ち、どこか神聖な気配を放っているが恐らく同い年だろう。
「今、ゴジラという単語が聞こえたのですが……」
「え?う、うん……」
「よろしければ、案内してもらえないでしょうか?ひょっとすると、私の探している人かもしれないのです……」
「「「…………」」」
三人は顔を見合わせる。ゴジラ、という名に反応した。前世の記憶持ちの怪獣娘だろうか?いや、今はそれは置いておこう。
「解った。でも、急いでるから詳しい事は後で…………」
「はい……」
ホテルに向かう途中、何やら騒がしくなってきた。人が慌てて逃げていき、シャドウが出現した。
「こんな時に…………!」
恐らく壊された巣の生き残りだろう。と、そこへ家の影から大きな影が現れる。
「シャドウビースト!?」
三メートルは有りそうな獣型のシャドウビースト。こんな者まで彷徨って居たのか。アギラ達は一度足を止める。突進で倒せるほど弱くはないはずだ。
『グルル……────グギャア!?』
「…………へ?」
しかしそのシャドウビーストは高速で飛来した何かに粉々に砕かれる。いったい何がと見ればそれはモスラだった。しかし──
「っ…………う……」
「も、モスラさん!?どうしたの!」
モスラは全身に怪我を負っていた。そこまで深くはないが、あのモスラがやられている所など想像も出来なかった。
何者がこんな事を、とモスラが飛んできた方向を見て、固まる。
「…………ゴ、ゴジラ?」
そこに居たのはゴジラだった。しかし、服装が違う。
顔の下半分を隠す牙付きのハーフマスクはそのままだが、服装は黒い大日本帝国軍服。着方は何時もの様に着崩しているが完全に別物だ。
前進から黒いオーラを発し、目は白目だ。なのに、その目が自分達を見たと解り全身の細胞が逃げろと訴え掛けてくる。
「…………ヒャハ!」
「────!」
眼前まで迫ったゴジラの手。しかしそれは横から延びてきた金色の竜に阻まれる。
「あぁ?」
不機嫌そうに顔をしかめたゴジラが反対の手で殴り付けようとした瞬間竜の首がうねり投げ飛ばす。
「…………あ」
それは先程の少女の肩の後ろから伸びていた。反対にも同じ様な首が伸びている。
「お久しぶりです怒りの王、大怨霊
「……大…………怨霊?」
少女の言葉に首を傾げるアギラ。と、ゴジラが吹き飛んだ先の瓦礫が吹き飛びゴジラが出てくる。首をゴキゴキ鳴らし、少女を見て笑う。
「誰かと思えば、
「私を知っていますか……」
「知ってるさ
頭を指差しながら自身を物の様に呼ぶゴジラ。いや、違う…………誰だ、アレは。
「その体は貴方のモノではありません。早急に返してください」
と、モスラがゴジラの肉体を使う何者かを睨みながら言う。するとやはりそいつはゴジラの体を使って笑った。
「断る。どうしてもと言うなら、力付くでやってみろ……」
感想お待ちしております