忘れるな。我等を忘れるな。
我等は英霊。國の為、祖国の民の為その命を散らした者共。
我等を忘れることを許さん。我等の屍の上に築かれた平和の中で、伸う伸うと我等を過去にする事は許さん。
「ガアァァァァッ!!」
「っ!」
「ぐぅ!」
ゴジラの猛攻にギドラとモスラは押されている。元々旧日本軍軍人の怨霊の集合体である彼等にとって、二足とはいえ恐竜の体より人間と大差ない今の姿の方が遙かに扱いやすいのだ。逆に、長年過ごしてきたとはいえ前世の一生とは比べるまでもない程度の期間しか人間として過ごしていないモスラとギドラは対応が遅れる。
「はは!どうしたどうした!?こんなもんかよ護国聖獣!お前等も
『ッチィ!調子に乗りおって、千年竜王、代われ!』
「な!?ま、待ちなさい!」
と、不意にギドラの右肩から伸びている竜が喋りギドラが慌てる。次の瞬間全てを包み込む様な神々しい気配が霧散し、代わりに全てを平伏させる王者の気配がギドラから放たれた。
「おお、毎度毎度リンチに遭う哀れな宇宙の王じゃないか。くく、しかし今回は逆で良かったな?」
「抜かせ!」
ゴジラの言葉に叫んだギドラの口内が光る。それは両肩の竜も同様だ。
『ま、待ちなさ──くっ!』
左首の竜が慌てて叫ぶが主導権を支配されているのか三つの口から雷が放たれる。
「ぐが!?」
「くはは!まだまだ!」
「があああ────!!」
雷撃を浴び叫び声を上げるゴジラ。アギラ達がギドラを止めようとする。が、その前に異変が起きた……。
「ああ!あは、あーはははは!」
「!?」
ゴジラに肉体に纏わり付く雷が一斉にある一方向に向かう。それは軍服と尾に並ぶ、背鰭だ。雷は背鰭に吸い込まれていき背鰭が金色に発光する。
「頭が三つ有ると大変だな?知識を共有出来んらしい…………ガァ!」
「────!」
ギドラのエネルギーを吸収し強化された熱線が放たれる。咄嗟の事で躱すことが出来ないギドラの前にモスラが現れる。
モスラの髪が白銀に染まり着物の模様が変わると熱線を空に向かって弾く。
「…………ほう、それは知らんな。何だそれは?」
「形態変化とでも…………私に統合されているのは、何も貴方が居た世界線だけではありませんので」
「そうか……」
ゴジラは納得するとモスラに向かって駆ける。腕を交差させゴジラの拳を防いだが焼け爛れた皮膚の表面に衝撃が走り激痛が襲う。
「硬いな……これは如何に
「それは貴方が使いこなせていないだけではないですか?ゴジラなら、あるいは可能かもしれませんよ……」
「………………」
ピクリとゴジラの目元が僅かに引きつる。そして、直ぐに獰猛な笑みを浮かべる。
「如何なる牙城も戦艦も、中から壊せば一撃だったな。さて、貴様はどうか……」
「────ッ!」
迫ってくるゴジラの拳を今度は回避するモスラ。一々痛みを覚えていては集中力がいずれ尽きる。一瞬の油断が命取りのこの状況でそれはまずい。
「はっ!」
「くっ!」
ゴジラが足を振るうと足下のアスファルトが砕け散弾の様に飛んでくる。躱そうとしたが全て躱すのは不可能で一部が腕に当たる。
「あぐぅ!?」
「そら捕まえた!」
「放しな──むぐ!?」
腕を掴まれ、引き寄せられ唇を奪われる。接吻と呼ぶにはあまりに乱暴な口付け…………そして、ゴジラの背鰭が光り口内から熱を感じる。まずい!
が、万力の様な力で抑えられ逃げられない!と、その時ゴジラの顔面目掛けジープが飛んでくる。ゴジラは舌打ちするとモスラから手を放し両手をジープに突き刺し二つに引き裂く。
「……ゴジラの体で、好き勝手やらないで……」
と、全身から怒気を放つアギラ。ゴジラはアギラに向かおうとしたが横合いからミクラスが突進してくる。そのミクラスを叩き潰そうと拳を振り上げればその拳にレーザーが当たりその隙に距離を取られる。
かぷせるがーるずの連携に、ゴジラは忌々しげに表情をゆがめる。
怪獣としての記憶を持たない分、彼女達は違和感無く力を振るえる。また、彼女達はここ最近ゴジラを相手に模擬戦をして居たのだ。対応が速い。
「けど、それだけだ!」
対応してくるならそれより速く。予測してくるなら今まで見せた事の無い手を使えばいい。チョロチョロ動く奴が増えた所で敵ではない。
「我を無視するな黒蜥蜴が!」
「──!」
ゴジラの横合いからギドラが突っ込んできた。竜の顎で両手首を拘束され人の顎に首を噛まれ中に直接エネルギーを流し込まれる。
「っ!あああ!調子に乗ってんじゃねーぞ蝙蝠がぁぁぁ!」
「ぐううう!」
ゴジラもまた、傷口からエネルギーを逆流させる。負けじとギドラもエネルギーを送り込み二人を中心にエネルギーの嵐が吹き荒れる。
「皆さん、平気ですか?」
「う、うん…………ねえそれよりモスラ、ゴジラどうしちゃったの?」
「暴走……とは違いますね。前世の記憶の一つ……と表現するのも可笑しい気がしますが、前世の記憶の一つに飲まれています」
「前世の……?」
「はい。思い出した結果なので、気絶させた所で戻るかどうか……」
モスラの言葉に息を呑む三人。しかし、事実だ。モスラ自身、いざとなったら怨霊達が現世に力を振るう為の触媒である彼の身を滅ぼす覚悟だってしている。
「…………待って、一つ?あれはどんなゴジラなの……?」
「戦争で亡くなった方々の怨霊が進化した恐竜の身に宿り、自身の犠牲の上に立つ平和で笑う者達への災禍を願われ神格化した在り方です」
神格化と言うのは解らないが、ふと気になった事を尋ねる。
「それって……リトルと仲良くやっていけたの?」
「恐らくその世界には居なかったのでしょう。私も彼も、幾つもの平行世界の記憶がありますから……」
「…………なら──」
「ぐが!」
アギラが思い付いた事を言おうとした時、叫び声が聞こえる。見ればギドラが口から煙を出し倒れていた。
「
ドゴ!とギドラの腹を蹴り吹き飛ばすゴジラ。しかし、よく見れば肩で息をしているし、所々火傷の痕が見える。徐々に回復しているがその治りは遅い。
「…………皆、ボクに考えが有る。少し、時間を稼いで」
「……解りました。信じましょう」
「任せて、アギちゃん!」
「頼みます!」
と、モスラ、ミクラス、ウィンダムがゴジラに向かう。ゴジラは放射熱線を下に向かって吐き出そうとする。が……
「我を無視するなと言っている!」
ギドラに足を噛まれバランスを崩す。そのゴジラにミクラスがタックルし、熱線は空へと打ち上げられる。
「ぐ、この!」
「アクア・シールド!」
ゴジラが体勢を立て直した瞬間周囲を水の壁が包む。かなりの硬度で拳で破壊出来ない。再び熱線を放とうとするが、その時……
「準備出来たよ、ゴジラを出して…………」
「ッチ!何をする気が知らんが……」
ゴジラは向かって来るアギラを迎え撃とうと拳を振るう。その拳は、アギラを簡単に吹き飛ばすだろう。しかし────
『パパー♪』
アギラが持っていたテレビ通話モードのソウルライザーの映像と聞こえてきた音声にゴジラの拳はピタリと止まる。
「……な!?」
画面に映っていたのはリトルだ。満面の笑みでゴジラを画面越しに見ている。
『お仕事がんばって!速く帰って来て、また遊ぼう!』
ピッと通話が切れる。ゴジラはまだ、固まっている。
「────っ!?何故だ、何故動かん!?我等の身体だろう!?何故だ!!」
「いいや違うね俺の身体だ」
「──!?」
握っていた拳は、ゴジラ自身の腹を思い切り殴り付けた。
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