「で、俺がお前等の教育係か……」
「よろしく
「頼むぜ、アニキ」
「よろしくね兄さん」
ゴジラは妹達三人を前に疲れた様な顔をする。
「すみません。
「ふふふふ。兄さん、手取り足取り教えてくれるんでしょ?」
「ま、オレはアニキに従うぜ」
申し訳無さそうに、と言うか少し怯えて言うのがオルガ。うっとり頬を染めるのがビオランテ。カラカラと笑って応えるのはスペースゴジラ。
全員ゴジラの細胞を取り込み、その特性を多く出した前世でゴジラの亜種とも言える存在だ。確かに妹と言う扱いは間違いではないだろう。
「けどよアニキ、パトロールってそもそも何すんだ?」
「パトロールはパトロールだ。事件が起きなきゃただの散歩だがな……」
ゴジラの言葉につまらなそうな顔をしたスペースゴジラ。と、その時キキィ!と車を急停止する音が聞こえてきた。事故かと思って振り向けば車の扉が開き小さな女の子が中に引き摺り込まれ車が発進した。
「…………え?」
「起きたね、兄様。でも何てベタな誘拐事件…………」
「…………取り敢えず追うか」
誘拐犯達は現在浮かれていた。この辺りのカメラの位置はしっかり調べてあったし、後で乗り換える車も用意している。多少出費も多かったが身の代金で得られる金で十分元は取れるだろう。
「いやー、上手くいきましたねアニキ!」
「あたぼうよ!俺の作戦に不備は無い……このまま外車でも買っちまうかぁ!?」
恐怖に震え泣き声も上げる事が出来ない少女を前に浮かれる四人の誘拐犯。と、運転していた誘拐犯がバックミラーに写った影に気付く。
「……?……────!?あ、アニキ!?なんか追って来ますぜ!?」
「は!?ま、まさかもう警察が!?」
「よう、停まれ」
「はあ!?」
振り返った瞬間、隣から声が聞こえた。見れば車に併走して黒髪のハーフマスクの少年が居た。
「な、何だてめー!?バケモンか!?」
「………………」
少年は少女と目を合わせると指を右肩から左脇腹まで撫でる様に往復させる。
「……シートベルト?」
少女が慌ててシートベルトを着けると少年の姿が消え、ドン!と車の上に何かが落ちる。
「な、何だ……?ひぃ!?」
そして屋根を突き破って現れた腕がハンドルを掴み操縦を奪う。慌ててブレーキを踏み車が停まった瞬間ハンドルが引っこ抜かれた。
「あ、アニキ!車使えねーよ、どうしよう!?」
「慌てんなまだこっちにゃ人質が…………!」
バギン!と車の後部を貫き現れた大きな手が少女を優しく抱き抱え連れて行く。男達が慌てて外に出ると四人の人影が有った。車の上に乗った先程の少年。少年に良く似た勝ち気そうな少女、大きな帽子を被った理知的そうな少女、緑の煽情的な格好をした少女の四人。
「人質確保したよ兄様」
「よし、んじゃとっとと捕まえるか」
「く、くそ!何なんだよお前等!捕まって堪っかよぉ!」
と、男達は懐から取り出したナイフや警棒を四人に向かって振るい、全て片手で防がれ折れた。
「ありがとうお兄ちゃん!お姉ちゃん!」
会議で手が離せないと言う父親の代わりに兄が迎えに来て帰る少女を見送り、ゴジラ達も帰路に就く。
「「………………」」
そんな中スペースゴジラとオルガは手を繋ぎ帰って行く兄妹の背中をじっと眺める。
思い起こすのは暗く寒い、誰も居ない闇の世界。オルガもスペースゴジラも、年数に違いこそあれ、壊れ行く星から逃げ出したのと、そこで生まれたのと違いこそあれ、前世の一生の大半をあの闇の中で過ごした。
二人は前を歩くゴジラの手を見る。自分達の手より大きく、皮膚が硬い手を……。
「「……」」
「?どうした?」
ゴジラは左右の手を掴んで来た二人に首を傾げる。が、二人は直ぐに手を離した。
「別にぃ?」
「何でもないよ……」
「…………」
ゴジラは離れていく兄妹を見て、それから妹二人を見る。
「別に良いぞ手ぇぐらい。繋いで帰るか?」
「…………うん」
「……じゃあ、お願い」
と、二人はゴジラの手を繋ぎ帰る。
「……あの、兄さん、私は?いえ、放置プレイもこれはこれで…………」
「………………」
誘拐犯から助けてもらった少女は兄が呼んでいたタクシーに乗り家に帰る。と、不意に少女が窓に張り付いた。
「お兄ちゃん鰐!」
「ははは。日本に鰐は居ないよ……」
妹の言葉に苦笑しながら窓の外を見詰める兄。今は橋の上だ。そして、見た。水面から何やら鰐の様な尻尾が突き出しゆらゆら揺れていた。
しかし可笑しい。鰐の尻尾は泳ぐ時に舵となる役目がある為、基本的に横向きに動く。あんな風に縦に伸びる事など有り得ない。何なのだろうか、あれは?