「ウィンちゃーん!」
朝、元気良くミクラスがやってきた。
「どうしましたミクさん?」
普段から元気な彼女だが今日は一段と元気そうだ。何か有ったのだろうか?
「UGMだよ!UGMが出たんだ!」
「…………UGM?」
何だろうそれは?ウィンダムが首を傾げているとミクラスも伝わっていない事に気付いたのかあれ?と首を傾げる。
「あれ、違ったかな?UGMとか……MATとか……なんかそんなの!」
「全く解らない!」
「ミクちゃん、UMAだよ」
「あれ?そうだっけ……?」
「UMA?」
ユーマとはあのUMAだろうか?何と言うか、ツチノコだのカッパだの言う胡散臭い。
「この辺りに出たんだって!鰐みたいなUMA!ネットで話題になってた!探そう!」
「いえ、でも……私はあまり興味ありませんし。ねえアギさん……」
UMA探しに夢中なミクラスと違いそう言うのにあまり興味の無いウィンダムは断ろうとアギラに同意を求める。が、アギラの目がキラキラしているのに気付く。
「UMA超見たい」
「スッゴいやる気だ!?」
「ここの川に出たんだって!」
「ここ、ですか?見た所普通の人工河川ですが……」
周囲には噂を聞きつけたのかカメラを持った者やボートに乗ったテレビ局と思われる者達が居た。思いの外、信憑性の有る噂なのだろうか?
UMA目撃情報が多発している場所から離れた河原で何かが水面から現れた。
茶色い髪をした、茶色のドレスを着た少女だ。長い髪は水に濡れ張り付き口から大量の水を吐く。その様子は生まれたばかりの赤ん坊が羊水を吐き出している様にも見えた。
少女の腕は両腕を拘束する様に黒いコルセットピアスに繋ぎ止められていた。いや、よく見ればそれはコルセットピアスと違い少女の肌を貫き直接縫い付けている。
「……ぐ、ぎぃ……」
少女はコルセットピアスのリボンを引き千切る。普通なら、皮膚が先に破れそうだが、そんな事は一切起こらずリボンだけが引き千切れて少女の腕に巻き付いていく。
少女は自由になった腕を使い立ち上がると銀色の瞳で周囲を見回す。銀色の瞳は白目に馴染み、傍目から見ると小さな虹彩の目を見開いている様にも見える。
「………………」
そして一点を見詰めて居ると、ズルリと影の様な何かが現れる。
シャドウだ。運の悪い事に、此処等に巣を作ろうとしていた。故に、侵入者に容赦しない。一匹が襲い掛かる、が────
「…………」
『────!?』
ズドン!と踏み潰される。周りに居たシャドウ達は仲間が踏み潰された事に驚愕し、しかし直ぐに敵性体と判断し襲い掛かる。
少女はグルリと回転すると少女に生えていた長い鰐の様にも見える爬虫類じみた尾がシャドウを薙ぎ払う。
『キシャアアア!』
と、そこへ大きな影が現れた。シャドウビーストだ。鳥類じみた顔と翼で有りながら背筋の伸びた人間と鳥類を合わせた様なシャドウビースト。
「………………」
少女は此方を威嚇して来るシャドウビーストを一瞥して、特に興味無さそうに通り過ぎようとする。と、シャドウビーストがその巨体と嘴を使い突こうとして来る。
「!?ガァ!」
それに気付いた少女は嘴を避けるとシャドウビーストの頭を掴み投げ飛ばす。しかし、シャドウビーストはそのまま落下せず宙に止まった。その姿の元である鳥類の様に。
『キエエエエエン!』
「────!?」
シャドウビーストが翼を振るうと大量の鋼鉄の羽毛が散弾の様に降ってくる。少女は両腕を交差させ防御するがシャドウビーストの羽毛は無限に再生するのか一向に攻撃が収まる気配が無い。
少女はギリッと歯軋りし、次の瞬間異変が起きた。
少女の髪が黒く染まり、一部ランダムで赤く染まっている。牙の様な髪飾りが不規則に現れドレスも形を変え、尾と共に黒く染まっていく。
ドレスの一部にも赤が疎らに存在し、先程とは全く別物に見える。
「があぁ!」
『──!?』
少女の赤いメッシュが紫に輝き、少女の口から炎が放たれた。慌てて距離を取るシャドウビースト。炎は噴出速度を増し、細くなっていく。
『──────!!?』
それはシャドウビーストの下半身をあっさり切り裂きシャドウビーストは慌てて少女の背後に移動し止めを刺そうと大量の鋼鉄の羽毛を放つ。
シャドウビーストが最期に見たのはそれらを一瞬で溶かし自分に迫ってくる無数の光だった。
「居ないなぁ……」
「居ませんね……て言うかここ、目撃された場所と大分離れたんじゃ……」
ミクラスが川を注意深く観察し何時の間にか下流に来ていた。人の気配も殆ど無い。
「いやいやひょっとしたら人の気配を感じてこんな奥まで引っ込んでるかもしんないよ?」
「仮にそうだとしてもそう簡単に見付かるわけ…………」
「ウィンちゃん、ミクちゃん……」
「はい?」
「どったの?」
「居た……」
アギラが指差した方向には黒い大きな爬虫類を思わせる尻尾が水面から伸びていた。
「嘘ぉ!?」
「よっしゃー!捕まえるぞー!」
と、ミクラスが黒い尻尾に向かって飛び込む。バシャーン!と水柱が立ち…………
「行き成り何しやがる…………」
「ご、ごべんなさい…………」
顔面をゴジラに鷲掴みにされたミクラスがその場に居た。
「ゴジラ…………」
「お前等も一緒か。何してんだ?」
ミクラスを離してやりアギラ達を見るゴジラ。ウィンダムはゴジラの尻尾を見てああ、と気付く。
「噂のUMAの正体はゴジラさんだったんですね……」
「あ、ユーマ?なんだそりゃ……」
「はい、何でも鰐みたいな尻尾が目撃されたとか────ゴジラさん?」
その瞬間ゴジラがウィンダムの両肩を掴む。突然の行為に戸惑うウィンダムだがゴジラは気にせず、或いは気に出来ないほど焦っているのか一方的に質問をした。
「何処だ、何処で目撃された?」
「え……っと…………これは、多分ゴジラさんの事かと…………」
「違う。俺は今日、同族の気配を追ってここに来た。噂なんかに成るはずがない」
「えっと…………つまりまたゴジラさんの妹さんと言う事でしょうか?」
「だと良いんだが、共鳴しすぎている……それこそ昨日までの自分の匂いに気付けないのと同じ様に気付けなかったほど…………」
「つまり、どう言う事?」
アギラが首を傾げて尋ねる。
「以前俺が分裂した事が有ったろ?あの時、もし回収し損ねた細胞が残ってて、何の生物も取り込む事無く細胞だけで進化してたら?」
「………………」
「俺から分かれた奴らは、怪獣だった頃…………つまりG細胞に支配されてた頃は必ずと言って良いほど俺を求めた。今は人間として転生し、理性がある。だがもし、新たに生まれた同族が理性も何も無かったら………………」
レッドキングはパトロール中に変わった人影を見て足を止める。
身長の高い女だ。それだけで目立つだろうが、何よりもその格好。黒いドレス、赤いメッシュが疎らに混じった髪…………そして、尻尾。怪獣娘だ。しかし登録された怪獣娘にあの様な者は居なかった。
ソウルライザーも無しに変身している。暴走している様子は無いがひょっとしたら大人しい怪獣だったのかもしれない。
ボーッと歩いていた少女が不意にガラの悪そうな少女達の一人にぶつかる。
「…………おい!」
「…………」
「オイ待てよデカ女!」
と、少女の腕を掴み叫ぶガラの悪そうな少女。
「人にぶつかっといて謝罪も無しかよ……」
「止めなってー」
「つーか何その格好、ウケるー」
これは、止めた方が良さそうだ。レッドキングは溜め息を吐きながら歩き出す。
「何とか言えよデカ女!」
「オイお前等!その辺……に────!?」
ガラの悪い少女が少女の足を蹴った瞬間掴まれていた腕がガラの悪い少女ごと振れ、レッドキングの横を高速で何かが通過する。
ドゴン!と音が聞こえ振り向けば凹んだ車にもたれ掛かり口から血を吐いた少女が居た。車の下には黒いラインが有り、車がそこそこ滑ったのが解る。
「…………え?……はっ!?て、てめ!」
呆然として居たガラの悪い少女の一人が掴み掛かろうとして、少女が腕を振り上げる。
「やりすぎだ」
「………………」
レッドキングが腕を掴むと少女の瞳がレッドキングに向く。感情をまるで感じさせない、かと言って機械の様な完全な無感情とも違う、本能で動く動物の目だ。
「うぅ?」
「なああんた等、この場からあの子連れて逃げてくれ。救急車はそこで呼んでもらえると助かる」
「は、はい!」
「さて……おいたが過ぎるぜ未来の後輩!」
周りの人間が避難したのを確認するとレッドキングは脅しの意味も含めて少女の腕を強く握り叫ぶ。少女は腕の痛みではなく、その大声に顔をしかめた。
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