「ゴジゴジ、私の恋人になってください」
「………………」
ピグモンの言葉にゴジラは顎に手を当てふむ、とピグモンの額に手を当てる。
「…………熱はないみたいだが、とりあえず病院に」
「面白がって理由を説明しなかった私も悪いと思いますがそんな反応されると流石に傷付きますね~」
何で小説の女達はこんな対応をされても平然としているのだろう、と今まで読んできた小説の登場キャラを思い出しながら先程の唐突な発言の理由を説明する。
「見合い、ねぇ…………そんなの今時あるんだな」
「両親が私を心配してくれるのは解っているんですけどねぇ……ほら、GIRLSってあんまり出会いないし……」
GIRLSにも男性職員は居ることには居るが、怪獣娘の生態に興味持つ研究者が殆どだ。
それに、金山シンヤという男が部下と共にシャドウビーストに向かい大怪我をした日から普通の人間はあまり寄り付かなくなった。
「人間じゃ倒しようがないシャドウの、しかも怪獣娘すら場合によっては危ない相手に挑むとかその金山って男は馬鹿なのか?足を引っ張るだけじゃねーか」
「そう言わないであげてください。シャドウビーストに会うまでは上手く行ってたんですよ」
「相手が弱いからだろ?だから足手纏いも守れた」
「足手纏いって…………」
「シャドウと戦えないなら足手纏いだろ?突っ立ってるだけ……指示だって複数の敵を相手にすんなら邪魔なだけだしな」
「それは……」
ゴジラの言葉に何も言い返せないピグモン。確かに人間がシャドウに何をしようとシャドウにダメージを与えられるわけではない。逆にシャドウは人間にダメージを与えられる。人間がシャドウの前に立つなど自殺行為だ。
「まあそんな奴はどうでもいい。俺はどんな設定でお前の彼氏になればいいんだハニー?」
ケラケラと笑いながらからかってくるゴジラ。ピグモンはしかし大人の女性だ。ムッとする事も焦る事もない。
「告白は私からして、最初は友達から始めたって事にしてますよダーリン♪」
「………………」
「ふふ。まだまだ子供ですねぇ……」
あっさり返され不機嫌そうな顔をするゴジラを見て子供らしいと笑うピグモン。その笑みが大人が子供に向ける、微笑ましい者を見る笑みだと気付いたゴジラの機嫌は更に悪くなりピグモンが更に笑いゴジラが更に…………
タクシーの運転手は、ゴジラの怒気に当てられガタガタ震えていた。
「何だ、意外と普通の家だな。てっきり財政を影から操る黒幕が住んでそうな屋敷を想像したのに」
「ゴジゴ……ユウラが私の事をどう思ってるかよ~く解りました。プイッ!」
さらりと悪人の血を引いてそうと言われ不機嫌になったピグモンはそっぽを向く。
とはいえ、そこまで怒っているわけではないだろう。
「悪かった。機嫌直せ
「はい、良くできました~」
ニコッと笑うピグモン。恋人のフリをするため、お互い名で呼び合う事にしたのだ。
「それでは、お父さん、お母さん、ただいま~」
「お帰りなさいトモミ。その子が例の?」
「はじめまして。トモミさんとお付き合いさせていただいている黒慈ユウラです」
と、ゴジラが挨拶すると出迎えた女性はアラアラと笑った。その奥では男性、おそらく父親がゴジラを睨んでいた。
「君がトモミの恋人だね。トモミの何処に惚れたんだね?」
と、お決まりの言葉を言ってくる父親。
「基本お人好しなのに綺麗事だけでは世界は渡っていけないと理解している所ですね。綺麗事だけほざいて何もしない人間よりずっと好感を持てました」
質問にはアドリブで応える事にした。ピグモンが台本を作ろうかとも思ったが予め用意されていたような回答だとバレる可能性が有るからだ。
「綺麗事、か……綺麗事は嫌いかね?」
「大嫌いですね。ほざくだけなら誰でも出来る。その点ピグモ──トモミは必要なら相手の弱みを握り脅す事も出来る」
「ちょ!ゴジゴ……ユウラ!それは────」
「いや、いいんだ。素直な感想だね……」
「嘘はどうも得意ではないので」
慌てるピグモンに対しゴジラは慌てず飄々と応える。
「この子をきちんと見てくれて嬉しいよ。うちの娘は少し腹黒い所も有るし、怒ると怖いから、長続きしなくてね」
「そりゃ相手に見る目が無いんでしょう。トモミの内面をちゃんと見てれば惚れ続けないなんて有り得ない」
「ブフッ!」
父親とゴジラの会話に入れずお茶を飲んでいたピグモンは思い切り吹き出した。
「そう思うかね?」
「トモミの行動理念は仲間の為、人の為……本当に人間が大好きなんだ。汚い部分をきちんと見た上で、そう思っている。俺とは正反対。だからこそ意識してしまうんですかね……俺は人間の汚い所ばかり見て人間があまり好きじゃない。むしろ嫌っているから」
「汚い部分を見て受け入れる事が出来る、トモミが羨ましい、と?」
「ええ。まあ……」
「しかしその…………相手の弱みを付け込む事に何か思う所は無いのかね?」
「お綺麗な方法を選んで何も救えない偽善者よりどんな手を使っても救う悪人の方が俺は好きです」
「……君はトモミを良く見ているね」
「言ったでしょう?俺は人間の汚い所ばかり見ていると。トモミの行為だって汚い行為だ。人を脅すんだから………でも、それを自分の為に使わず他人の為にばかり使うトモミは、どうにも汚いと思えない」
「…………そうか。そんなトモミでも良いと…………」
と、目を細める父親。
そして一つ尋ねる。
「私達がトモミに、そんな事を止めて欲しいと願っていたらどうするかね?それを続けさせるなら、別れて欲しいと言ったら」
「止めさせません。確かに誉められた行為ではないかもしれない。後ろ指を指差される行為かもしれない。けど、トモミは何時だって他人の為にその行為をやっている。だから、認めろとは言わない。ただ、頭から否定しないで欲しい」
「………………」
「……そうか、これからもトモミを頼む」
「ゴジゴジって私の事汚い女と思っていたんですね~」
「だってお前、上の連中脅してんじゃん。そのお陰でシンは実験材料にされずに済んでる訳だけど」
帰りのタクシーでピグモンはジトーとした目でゴジラを睨むが確かに否定出来ないのではぁ、と溜め息を吐く。
「まあどうしても必要なんですよ。そういうのは…………私は人間が大好きですよ?でも、人間全員が人間の事を想ってはくれないんですからね~」
だから汚い行為を行う奴が居て、対抗する為に汚い手を使う。それだけだ。
「別に良いだろそれぐらい。お綺麗な人間なんて此方から願い下げだ。それに……」
「それに?」
「さっきも言った様に、俺にはどうにも、お前のやってることが汚いと思えない。これは本心さ…………時折これで良いのかと悩んでるみたいだが、断言してやる。それで良いさ。お前が選んだお前のやり方をお前が否定するな。否定されたなら言えよ、俺はお前のやり方を肯定してやるから」
「それは心強いですね…………ゴジゴジ、少し耳を貸してくれます?」
「…………?」
ピグモンの言葉にゴジラがピグモンに耳を近付ける。次の瞬間、頬に柔らかい何かが触れた。それと同時にカシャッとフラッシュが焚かれる。
「…………何だ?」
「お父さんは兎も角、お母さんは鋭いですからね~、先程ラインで本当に付き合ってるの?と尋ねられたので証拠写真を……」
そう言ってラインで母親にキスシーンを送るピグモン。ゴジラはピグモンの勘の鋭さが母親譲りなら直ぐにバレそうだが、と思いながら不意に視線に気付く。タクシーの運転手(独身男性)が物凄い目で睨んでいた。
『あんな写真送ってこなくても、別にお父さんにバラしたりしないわよ。お見合いが嫌なら素直にそう言って』
「あはは~、ごめんなさいです~」
部屋で母親と話しながらニコニコ笑うピグモン。やはり母親にはしっかりバレていたようだ。
『でも、私もお父さんも心配しているのは本当よ?アナタは自分だけが泥を被れば良いと思う所が有るから……貴女の事を、キチンと解ってくれる人に会えれば良いのだけど……』
「この前紹介したじゃないですか~」
『あれは役でしょ?今度は本物を連れて来なさい』
その後他愛ない会話をして、通話を切る。
ピグモンはギャラリーから例の写真を選択する。
「…………本物、か…………」
お気に入り登録しますか?という文字と『はい』『いいえ』の文字が現れた。
──否定されたなら言えよ、俺はお前のやり方を肯定してやるから──
「まあ有力候補ではありますね~。ライバルは多そうですけど♪」
『はい』を押してピグモンは楽しそうに微笑んだ。
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