「……とうとう、とうとうこの日が来ました。うう、寒い」
ウィンダムはカイロを手に当てながらはぁ、と息を吐く。始発で来たというのにもう並んでいる。相変わらずここは、人が多い。いや、多くて当然だろう。ここは、戦場なのだ。
「ふふ。今回はあの伝説のネット同人作家、ドロヘドロ先生の初紙媒体による同人誌の発売。何が何でも手に入れて見せます!ヘクチ」
しかし、と周囲を見渡すウィンダム。てっきりエレキングも来るかと思い誘おうとしたのだが、返事はまさかの用事があるだ。用件を言う前に行ってしまった。
「そろそろ移動ですね」
ウィンダムはそう言うと前の列に続き歩き出す。多くの人が動き隙間が空き、割り込む者も何名か居るかウィンダムはその様な事はしない。彼女達はこれから先、目当ての物を奪い合う好敵手であると同時に同志なのだ。
それを心得ている何名かは自分と同様に列を乱さずに歩いていた。
「ええっと、ドロヘドロ先生の販売コーナーは……あ、ここか」
既に多くの人が集まっている。しかし、何か妙だ。中々離れない。本を買えば直ぐ他の場所に回らなければ回り尽くせないというのに。
「あ、あの……写真良いですか?」
「いいよー」
「…………チッ」
「……ん?」
今聞き覚えのある声が聞こえたような。爪先立ちになり覗こうとすると、見知った顔が見えた。ゴモラだ。とある漫画の主人公のコスプレをしている。ショタっ子として人気の主人公だ。そして彼のライバルにして、何かと彼に気を使う言動が多い為カップリングが多いキャラの恰好をしたゴジラが居た。
「……え?」
「あれぇ、ウィンダムぅ……」
そして、ヘドラが。
「ヘドラさん!?ま、まさかドロヘドロ先生は……」
「ボクだよぉ☆」
用事というのは参加すると言う事だったらしい。後、エレキングも別のサークルで売り子をしていた。
「それで、何故ゴジラさんとゴモラさんが?」
「んー、私はヘドランに頼まれてねー。イメージピッタリって……で、もう一人を捜すの手伝ってって言われてゴジラを誘ったんだよ」
「『先輩命令だよー!』とか、ふざけた事抜かされてな」
「でも付いて来るゴジラって優しいよね~。よしよし偉い偉い」
背伸びしながらゴジラを撫でるゴモラ。主人公とライバルが迷宮に落ちた時一時協力する事になった回で、ライバルが怪我を庇いながらモンスターを倒した時のシーンにそっくりだ。周りの客が一斉にシャッターを押す。勿論ウィンダムやエレキングも。
「ありがとうございます」
良い思い出が出来た。と、その時ソウルライザーが一斉に鳴り響いた。
「シャドウ反応!?この近くで!?」
「こんな時に!」
エレキングとウィンダムが驚愕する中悲鳴が聞こえてきた。見ればシャドウが幾つも存在する入り口から挙って入ろうとしてきていた。
「ウィンダム、ヘドラ、ゴジラはこのままここで、私とゴモラは企業ブースに向かうわ」
「は、はい!」
ウィンダムがエレキングの言葉に頷くとエレキングはゴモラと共に駆けていく。壁や柱を足場にしているが人が多くて進み難そうだ。かく言う此方もパニックで……
「ゴジラ、ゴニョゴニョ……」
「ん?よく解らんが、解った」
「ヘドラさん?」
何やらヘドラがゴジラに耳打ちするとゴジラはコスプレ用の剣を持ち今まさに人を襲おうとしていたシャドウに向かって投げつけた。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「なら、さっさと奥に隠れてろ。お前は俺の獲物だ、こんな下らん奴らのせいで、傷つく事など許さん」
「こ、このセリフはぁ!?」
「そう!あの回のセリフだよぉ……!」
敢えて漫画のセリフを出され、混乱より興奮が上にきた女子達。パニックが収まった。
「皆さん!中央によってください!シャドウから、離れて!」
ウィンダムの言葉にシャドウから距離を取る客達。動き易くなった。ゴジラはコスプレ用の剣を構えると赤く発光していく。
「本物の鉄使ってるからねぇ。ゴジラの熱にも多少なら耐えられるよぉ…………ゴジラ、やっちゃぇ」
「燃え尽きろ下等種族共!」
必殺技の完全再現、あちらこちらで歓声が上がった。
「また来ようねぇー」
「二度と行くか」