アギラは見回りが終わると机の上に上半身を投げ出しているシン・ゴジラを見付けた。
「シンちゃん、こんにちは……」
「アギ姉……」
「ゴジラは?」
「まだ……元気、ない……」
リトルの祖父母が来た翌日。ゴジラは昨日の夜から元気がなく、朝、リトルが祖父母達と共に田舎に向かったが顔を出さなかった。
「ママ、の……声も、届いてない……」
「……そっか」
アギラは落ち込んでいるシン・ゴジラの頭を撫でてやるとゴジラの部屋に向かった。
「……どこ行ったんだろ…………」
部屋の鍵は開いており、中には誰も居なかった。ゴジラは今日、ピグモンより特別休暇を貰っていたはずだけど……と、考えていると不意にビルがズン!と揺れた。
「………………」
アギラは屋上に向かって歩き出した。
「ぐ、くそ……大人気ないぞ……」
「ああ……打ちのめされて、無視される……素敵」
「だ、ダーリン……」
「ね、姉……さん……」
死屍累々。分裂して幼女達と中学生程のサイズになったデストロイアと恍惚とした表情を浮かべるビオランテ、デッドエンドで終わる映画の主人公達の様に手を繋ぎ気絶したMUTO姉妹。
「…………何これ」
「しょ、傷心中なら勝てると思ったのだが…………」
「八つ当たり混みのバーニングモードでこの通り…………」
アギラの疑問にデストロイアとビオランテが応えてくれる。成る程、状況は理解した。
つまりここにゴジラが居る。周囲を見回すとフェンスの向こう側で足を屋上から宙に投げ出して座っているゴジラが空を見上げていた。
「……ん、しょと……」
「……アギラ?」
アギラはフェンスをよじ登り隣に座る。ゴジラは一瞬だけ視線を向けたが直ぐにまた空を見た。
「……良いの?行っちゃったよ?」
「…………リトルが望んだ事だ」
「…………ねぇゴジラ、そこは危ないからちょっとこっちに」
「あ?」
アギラはゴジラをグイグイ引っ張るとフェンスの中に戻す。そして、よし、と頷く。
「ゴジラ。歯、食い縛って……」
「は?──っ!?」
アギラの言葉にポカンとした瞬間、アギラが腕を引き絞っているのを見て慌てて防御しようとするゴジラ。次の瞬間アギラの頭突きが腹に当たった。
完全な不意打ち、しかし…………
「……痛い……」
「だ、大丈夫か?」
頭を押さえ痛みに涙するのはアギラの方だった。
「……ねぇゴジラ」
「ん?」
「ボクね、寂しいんだ。リトルちゃんが居なくなって……」
「…………」
「ゴジラは、もっと寂しいよね。ボクよりリトルちゃんの事、好きだもん……」
アギラの言葉にゴジラは唇を噛み顔を逸らした。アギラはムッと頬を膨らませ両頬を掴む。
「ゴジラ、ちゃんとボクの顔、見て……話を聞いて」
「聞く必要はない」
「……ゴジラ」
「どうせリトルの事だろ?ほっといてくれ、少しすれば頭も冷える」
「…………ゴジラ、ボクと結婚しよ」
「………………は?」
唐突なプロポーズにゴジラのグチャグチャしていた思考は一瞬で固まった。
「……冷静になった?」
「あ、ああ……」
「よし……」
その言葉に満足そうに頷くとゴジラから手を離さず、続ける。
「ねぇゴジラ、寂しい?」
「…………ああ」
「リトルちゃんが自分より別の人を選んだから?」
「いや」
「リトルちゃんが遠くに行っちゃうから?」
「それも有る……」
「じゃあ、ゴジラが暴れかけた後、リトルちゃんが離れちゃったから?」
「……ああ」
ゴジラが肯定するとアギラはゴジラの頭をそっと胸に抱き寄せ頭を撫でた。
「あの時、昔みたいに頭ん中が怒りに支配された。全部ぶち壊してやりたい、そう思った」
「うん」
「リトルと会った時は、まだ落ち着いていた。ビオランテに会って、ビオランテよりもずっと波長が合う同族の気配が現れて、怒りよりそっちを優先した」
「うん」
「でもあの時、俺は昔に戻ってた。それで、俺は……」
「そっか……怖がられたかも、って不安なんだね」
「…………ああ」
大丈夫、とアギラはゴジラの耳元で呟く。
「リトルちゃんはゴジラの事、嫌ったりしないよ」
「何で言い切れる。そんなの……解らねーだろ」
「だって、ボクはそんな事でゴジラを嫌ったりしないもん。ボクよりゴジラが大好きなリトルちゃんが、ゴジラを嫌うわけない」
「………………」
「ゴジラはどうしたいの?このまま、離れても良いの?」
「…………良くないに決まってる…………俺はもっと、彼奴の傍に居たい。彼奴が育つのを、隣で見守りたい」
その言葉にアギラはうん、と頷きゴジラから離れ肩に手を置く。
「やりたい事が決まってるなら、まずは行動。リトルちゃんが何でお爺ちゃん達に付いてったのか、その理由を聞いてからでも遅くはないはず──ん?」
不意にソウルライザーが鳴る。ゴジラの方だけ、という事は近くにシャドウが現れたわけではないのだろう。
「もしもし?」
『ゴジゴジ!大変です!』
「ピグモン?非常通話まで使って、どうし……──」
『リトルちゃん達が乗った電車がシャドウに襲われています!中にはシャドウビーストの姿も確認されて……兎に角、急いで!』
ゴジラは通話を切る。話の内容が聞こえたのだろう、アギラは心配そうにゴジラを見詰める。
「…………よし、行くか」
「……シャドウを倒しに?」
「そっちはついでだ。リトルの真意を聞きに行く」
「そっか……行ってらっしゃい。頑張ってね」
「ああ……」
ゴジラはアギラの言葉に頷くと屋上から飛び降りた。おそらく同じ連絡を受けたのだろう。下を覗けばシン・ゴジラも飛び出しているのが見えた。後ラドン。
ゴジラとシン・ゴジラが跳ねるとラドンがそれぞれ片手で掴み飛び去った。
「………………」
「あら、アギラ。貴女もしかして兄さんとラドンの関係に嫉妬してるの?」
「嫉妬?何で?」
「………………」
起き上がったビオランテの言葉にアギラは首を傾げた。
「自分の気持ちに早く気付けると良いわね」
「?うん、ありがとう……で、良いの?」