ゴジラは最近変身をし続ける事が多くなった。確かに徹夜にはG細胞を完全に行使出来るその状態の方が向いているが明らかに可笑しい。
まるで寝るのを避けている様だ。ピグモンがそれとなく理由を尋ねても勘付かれてはぐらかされる。ピグモンは嫌な胸騒ぎがしていた。
肉体面は兎も角、精神面に限界が来たのか時折ゴジラが廊下や入り口等で寝ているのを発見し、偶々起きる瞬間を見付けたりする。
その度にゴジラが少しずつピグモンの知るゴジラからズレていく様なそんな感じがする。その身の内に炎が宿り、日に日に熱く、赤くなっている様な……。
「ねー!聞いてるのお兄ちゃん!」
「…………ん、ああ……そうだな」
「聞いて無いじゃん!」
ザンドリアスの言葉にハッと顔を上げるゴジラ。そんなゴジラの反応にプーと頬を膨らませるザンドリアス。
「ライブが中止になるなんて酷くない!?怪獣娘は暫く活動禁止って言うし……」
「ああ、ザンドリアス達はそうだっけ……」
ライブだの写真撮影だのやっている怪獣娘達は上からその様な通達が来たらしい。ゴジラは相も変わらず仕事をしているが。
「犯人はガッツさん何でしょ?そんなのお兄ちゃんがちょちょいとやっちゃえば良いじゃん」
「まあガッツ程度なら楽勝だろうけどあの偽物は多分ガッツより強いだろうからな」
「偽物?」
ゴジラの言葉にザンドリアスの友人であるノイズラーが首を傾げる。ゴジラは『ヤベッ……』と口を押さえるがザンドリアス、ノイズラー、そしてウィンダムの視線が集まっていた。
「……そう言やギターってどうやって弾くんだ?」
「話を逸らしたッスね……まあギターに興味持ってくれんのは嬉しいッスけど……」
「…………すまん、やっぱり今日は帰る」
「ええー!?折角お兄ちゃんだけにでも聴いてもらおうと思ったのに!」
「悪いなザンドリアス。また今度な……」
そう言ってザンドリアスの頭をワシャワシャ撫でるゴジラ。髪が乱れ文句を言うザンドリアスだったが嫌そうではなく、ウィンダムは微笑ましそうに見守った。
「じゃあ、またな……」
「はい…………あれ?」
「どったの先輩?」
「いえ、何か…………?」
ノイズラーに尋ねられたがウィンダムは応えられなかった。何と言うか、ゴジラの雰囲気が可笑しかった。理性的に話していたはずなのに何故か初めて会った時の暴走時や怨霊事件の時のゴジラを思い出した。
「結局ゴジラ先輩が言ってた偽物ってなんなんすかね?」
「うーん……ガッツさんの偽物、とか?」
「確かにアギラさんの証言によると、アリバイが有るそうですしね……」
帰路に就いた三人は先程のゴジラの呟きを思い返しながら話の話題にする。ゴジラが思わず呟いたと言った感じの「偽物」と言う単語。
話の流れからしてガッツの偽物が居ると言う事になるだろう。
「まあそれを直接見ない限り俄には信じ難いですけど…………」
そして、その信じ難い事が目の前で起こった。
ガッツと瓜二つの何者かにガッツがやられ、その何者かが此方に向かってきていた。ガッツは怪獣娘の中でもかなりの実力者だ。そのガッツがやられた。
ウィンダムは既に勝つ事を諦めたがノイズラーはソウルライドに手を掛ける。そんなノイズラーを見てガッツはやはり慌てる事無く一歩一歩近付いてくる。
「──っ」
ノイズラーが思わず一歩後ずさる。その瞬間、建物の屋上から何者かが降ってきた。
「見付けたぞ黒ガッツ!」
「────ッ!?」
「ゴジラさん!?」
降ってきたのはゴジラだ。黒ガッツと呼ばれた、確かにガッツより色が濃い偽物は苛立ち二割恐怖八割と言った顔でゴジラの出現に驚愕していた。
だが、ザンドリアスやノイズラー、ウィンダムは別の意味で驚愕していた。纏う雰囲気が、重苦しい。
燃え盛る炎も煮え滾るマグマも蠢くマントルすらも焼き滅ぼしそうな熱を、怒りをゴジラから感じ、思わず呼吸を忘れる。
「ここ最近の夢見の悪さ、原因はてめーか?」
憎々しげに、応えなければ殺すと語る視線を向けられ偽ガッツは数秒前己が見下していたノイズラーの様に一歩下がり、その瞬間ゴジラが動いた。
「くっ!」
咄嗟にテレポートで避ける偽ガッツ。路面が吹き飛び下を通る配管が姿を現し捻じ曲がり水を吹く。
ゴジラは身を濡らす水を無視してグルリと身体を回転させる。それは上空に逃げたが重力に引かれ落下してくる偽ガッツの腹を捕らえると『くの字』に折り曲げながら偽ガッツを吹き飛ばす。
「うぐっ!?あ──……はぁぁぁ!」
偽ガッツは両手を突き出し光線を放つ。正面から受けたゴジラだったが、無風の草原進むが如く無視して迫る。
「このっ!」
威力を底上げをするがやはり無視。再びテレポートを発動させる。今度は重力に引かれない為にゴジラの後方。一瞬だけ気を逸らせれば良い。長距離移動には僅かな集中力が居る。その数秒さえ稼げれば──
しかし、怪獣の王は待たない。
ハーフマスクが開き中から覗いた口内が青白く発光し、熱線が放たれる。
チャージを一切されていない牽制にしかならない攻撃。しかしそれは怪獣王の世界基準。偽ガッツにはダメージを与える効果すら有る。
「があ!」
「──っかは!?」
ミシミシと偽ガッツの腹にゴジラの右拳がめり込む。
地面を何度もバウンドして吹き飛ぶガッツは迫ってくるゴジラに向かって腕を交差させる。それは、本物のガッツを捕らえた技の予備動作だ。
「ゴジラさん!」
「──!?」
横棒が斜めになった十字架が現れゴジラを閉じ込める。熱線対策か、ご丁寧にゴジラの顔だけは閉じ込めずに。
元はウルトラ族の中でも格闘に優れたレッド族であるセブンを封じる為の技。如何に怪獣王であろうと数秒の時間を稼げるはず。
と、その時ゴジラの背鰭が光る。
「ッチ!」
あの状態で此方に熱線を放とうとしているのだと判断した偽ガッツは慌ててゴジラの首が向けられない位置まで移動する。次の瞬間聞こえた音は熱線が空気を切り裂く音でも着弾の爆音でもなく、ガチン!と歯が噛み合わされる音。
瞬間ゴジラの身体が光を放ち十字架を内側から破壊する。
「死ね」
「──!?………フッ」
「!?が──!?」
ゴジラが指を曲げ鍵爪の様に偽ガッツを引き裂こうとした瞬間、偽ガッツが笑みを浮かべゴジラの右腕から顔半分に掛けて黒い靄が覆う。右手を押さえ蹲るゴジラに対して偽ガッツは追撃か、或いはやられた仕返しをしようと迫る。
が──
「うっ!?」
偽ガッツは頭を押さえ苦しみ出す。そして、その場からテレポートして消えた。残されたゴジラも黒い靄から解放されたがその場に倒れた。
もしも(気が乗れば)シリーズ(化)
ウィンダム、ザンドリアス、ノイズラーの前に現れたのがゴジラではなくキングシーサー。
ウィンダム「キングシーサーさんが瞬殺された!?」
ザンドリアス「何時もみたいに!」
ノイズラー「この人でなし!」
偽ガッツ「……弱」
ゴジラ「……何時出よう」