パンドンは一人買い物に来ていた。
もう付き添いが必要な年でもないし、食料の調達に来たのだ。
「んー、これぐらいで良いかな?いや、ゴジラさん達来てから量も増えたし、もう少し……」
「俺がなんだって?」
「ひゃわ!?」
唐突に後ろから掛かった声にビクリと固まる。独り言に応えが有るとつい驚いてしまう。
振り返るとゴジラが居た。このスーパーで売っている鯛焼きを食べていた。
「ご、ゴジラさん……吃驚したぁ」
「悪いな。仕事の帰りだったんだ……持つか?」
「あ、ありがとございます。家大家族でオロチちゃんも食いしん坊なので重くって」
ゴジラの力はグラキを持ち上げている事から知っている。多少気後れはしたがゴジラも今は家の住人ではあるのでご厚意に甘える事にした。
「そういやパンドンは料理しないのか?食材の量をキチンと計れてるし、知識は有るんだろ?」
「お母さんの手伝いをしたくて学びはしたんですけど、やった事はないんですよね…………私ってほら、熱いからただでさえ暑くなるキッチンには近付くなって……」
「そうなのか?」←マントルの中を泳ぎ火山から出てくる怪獣王
「あ、そういえばゴジラさん熱いの平気でしたね」
「まあな……寒いのも嫌いなだけで苦手でもないし」
実際北極の氷の中で活動して潜水艦を破壊し事も有るし。ただ体温が著しく下がると一時的に冬眠する。
とはいえ直ぐに復活出来るがそれは怪獣なら珍しい事でもないだろう。まあ炎属性の怪獣で、というなら珍しいだろうが。
「……ゴジラさんって苦手な属性って有るんですか?」
「怨霊モードだと基本的に無敵だな。物理攻撃は一切効かん。対物シールドと違って一瞬の間もねーし……ただ、守り神みたいな存在の攻撃や体内からの攻撃は効く。まあ口の中から入れられて俺にダメージを与える必要が有るとしたら爆弾だろうからエネルギー吸収しちまえば問題ないけどな」
確かに針とか刃物とか入れて食道辺りを傷付けても即回復させられてそれらは胃の中で溶かされるだろうし、爆弾ぐらいしか有効な手はないだろう。だがゴジラは基本的にエネルギーを吸収する。
戦わなければいけない人間が哀れすぎる。
まあ並大抵の攻撃なら防げる炎の中で一方的に炎弾を撃てるパンドンも人の事を言えないが。
会計を済ませ帰路を歩くゴジラとパンドン。不意にゴジラがパンドンに一つ質問をした。
「ところでパンドンは結局、料理を覚えたいのか?」
「あ、はい……出来れば、で良いんですけどね。何時かは私も嫁に行くわけですし……」
と、少し照れながら頬を掻くパンドン。
「そうか……なら俺が見てやろうか?俺ならお前の熱に対して反応しないし」
「え、良いんですか?」
「世話になってる身だ。家の住人に返せる恩が有るなら返しておきたいしな……幸いな事に今日の食事当番は俺だ。どうせなら好きなもんの作り方教えてやるよ、何が良い?」
「じゃ、じゃあ四川麻婆で……」
「…………解った」
辛いのが好きなのか。リトルやジャッパ達の為にも甘口を別に作ってやらないとな、と嘆息するゴジラ。
オロチ?何でも食えるだろあの子は。
「………………?…………あ」
何やら呆れた様な顔をするゴジラに首を傾げていたパンドンはふと気付く。
自分とゴジラの身長は見上げる程有る。ゴジラは短足ではないし、歩幅には当然差が有るはずだが一度も差が出ていない。
チラリとゴジラの足を見ると少し歩き難そうだった。パンドンの歩幅に合わせてくれているのだろう。
思わずクスリと笑ってしまった。
「?何だ……?」
「何でも……そういえばゴジラさんってジャッパちゃんにパパって呼ばれてますね」
「ああ、何か懐かれてな……」
「ジャッパちゃんのパパなら、私もお父さんって呼んで良いですか?なーんて──」
「良いぞそのぐらい。好きにしろ……」
「……あ、えっと…………またの機会に」