「ガアァァァ!」
「む……」
ゴジラの放った蹴りを片手で受け止めるも、追撃の間も無くゴジラが離れ空を切った拳に勢いを取られバランスを崩し踏み付けられる。が、尾を振るい弾き飛ばす。
「なる程なる程、混じっていると言うのは中々厄介なものだ……猛者が多かったと見える」
ゴジラの世界の怪獣達はまず硬い。それこそゴジラの十八番である放射熱戦の一撃では倒れない者も数多く居る程に。対して少女の戦った怪獣達はただデカいだけの動物と言っても良い。苦戦など、前世では二万の年月の終わりに少し味わった程度だ。
戦闘経験では向こうが上だろう。
(……しかし、重いなこいつ)
少女の前世は約300メートルの体高に10万トンの質量。対してゴジラは前世バラツキこそ有るものの大体が100メートルで5万トンと互いの大きさを比べるとそれに対し体重が重すぎ、軽すぎる。
それはつまりゴジラの密度は少女の数倍である事を意味する。が、それは前世の話。思った以上に重たかった、それだけ。その程度で負けるなら、星の文明の抹消者を語れない。
「それに、人型では関係ない!」
「!?」
ゴッ!と拳と拳がぶつかり合う。先程ガッツ達がやった再現の様な光景。しかし此方は片方だけが吹き飛ばされる。そう、ゴジラが……。
「が──!ぐぁ!」
ひしゃげた腕を押さえ気合いを入れる様に叫ぶと一瞬で治る。再生能力は前世と変わらず……いや、必要な細胞が少ない人型の分かなり速い。
単純に戦えば泥仕合だろう。
しかし、あの霧はどうやって愚息の体を乗っ取った?
首を傾げる少女はまず単純な疑問を覚える。シャドウミスト如きで、仮にも自身の分身であるフィリウスを乗っ取れるとは思えない。より多く、自分の知らぬ何かが混じっているのだから尚更。暴走させようにも抵抗され弾かれて終わりだろう。本人が余程殺したい何かがあるなら話は別だが明らかに目の前のものを敵と認識しており破壊したい何かが有るわけでもなさそうだ。
「……ふむ」
つまり別の方法を取っているのだろう。
ストレスを感じさせない方法で。
「があ!」
「と……ふっ!」
「ギ!?」
「む?」
ゴジラの正拳突きを交わしお返しに裏拳を叩き込もうとするもやはり避けられる。が、ゴジラがバランスを崩した。
「……ふむ……せい!」
「ぐ!ぐぅ!?」
やはりバランスを崩す。
体と中身が合っていない。反射的に動く体を、中の精神が御せていない。例え暴走だとしても、それならむしろ本能が前に出る分反射的だろうと次の動きに繋げられるはずだ……。
「ああ、なるほど……」
つまり中身は此奴ではない。暴走しているわけではなく、取り憑かれている。簡単に取り憑く方法は、大方精神が自ら寝続けるような夢でも見せているのだろう。
「よし、取り敢えず叩き起こすとしよう……」
「ごあ!?」
接近し拳を振るうふりをして視線を誘導すると足を踏み付ける。反射的に片足を上げてしまったゴジラに足を掛けバランスを崩すと肘を打ち込む。
本来己の武器となる反応も、中身が体を使いこなせてなくては単なる足枷。存分に利用し痛め付ける。そうすれば精神も身を守る為に起きるだろう。
「…………ん?」
と、ゴジラの背鰭が青く発光する。その行為は、少女にも見覚えが有る。成る程、自分の子を取り込むだけあり、有り様は似ているのだろう。
「面白い……!」
少女の背鰭もまた、青白く発光しバチバチ音を立て紫電を迸らせる。
純粋な核エネルギーと細胞その物が強力なコイルという体質を利用し放つ光線。系統が異なる、用途は同じ二つの破壊の一撃がぶつかり合おうとした瞬間……
「わあ……!?」
「──!!?」
シャドウに不意を付かれてのし掛かられたアギラの悲鳴が聞こえ、ゴジラが熱線をそのシャドウに向かって放った。
当たればあるいは相殺し合ったであろう少女の熱線はそのままゴジラを吹き飛ばした。
「ゴジラ!?」
明らかに自分を助けて、しかしそのせいで直撃を受けたゴジラにアギラが慌てて駆け寄る。そして────
「…………そろそろ行くか」
無人島で空を見上げたゴジラはそう呟く。足下の子供が不思議そうに首を傾げた。
「どこに行くの?」
そう声を掛けてきたのは、自分達と人間がコミュニケーションを築く為にやってきた此方の意思を理解してくれる少女。いや、違う。そういう辻褄合わせでやってきた少女の幻影。
足下の子とてそうだ。
「仲間も、家族も、友も……全て失った」
「?何を言っているの?」
「ここでは全部揃う。夜眠れば海の底、朝起きればこの島……俺が欲しいモノが、失いたくなかったモノが全部揃っている……けどそれは俺の記憶から作られた、回り続けるだけの世界だ」
いつしかその姿は十数メートルの恐竜から100メートル近くある巨大な怪獣へと変わっていた。
「取り戻したいと思わなかったと言えば嘘になる。けど、取り戻してみせると躍起になった覚えはない」
怪獣から、人へと姿を変えたゴジラは拳を何もない空間に叩き付ける。
『──────!?』
どこからともなく悲鳴が聞こえ空間に罅が入る。
「ああ確かに幸せだった。感謝しよう……だけどなぁ……失って取りこぼして零れ落として、それでも俺だけが生き残った。俺だけが他の生き残りを見付けた……俺だけが、前に進めたんだ。何時までも同じ所を回っているわけには行かねーよ」
ミシリと亀裂に突っ込んだ指に力を込める。亀裂から黒い靄が吹き出し炎に焼かれていく。
「…………そこは、とても悲しい所かもしれないわよ?」
「悲しくないさ。今の俺には新しい家族が居る。仲間も友も居る。悲しむ理由なんてとうに失せた……」
「…………そっか」
少女の幻影は優しく微笑むとその姿を消した。子供も同様に。
ひび割れた空間が、一部海の底を写したりと絵柄を変えたパズルの様になっていく。
「感謝はするさ……おかげで、漸く全てを思い出せた。だが
溢れ出した炎が、偽りの夢を焼き滅ぼしていく。
「ゴジラ!」
「待て!まだ近付くでない!」
少女が慌てて叫ぶもアギラは土煙の中に倒れるゴジラに駆け寄る。と、土煙の中から手が突き出してくる。
「ちぃ!」
少女が慌てて駆け出す。が、出てきた手がやった事と言えばアギラの頭に優しく手を置くだけ…………。
「ふう……よく寝た」
「…………寝過ぎだ寝坊助めが」
「ん?誰かと思えば懐かしい。過去の一つの母親じゃねーか」
「過去の、一つ……のう…………聞きたい事は多々有るが、まあ…………久しいな、あの程度の人間共にやられたバカ息子」
「お前こそ転生してんならやられたって事何じゃねーのか?なあ、母さん」
もしもシリーズ
もしもゴジラ
「怪獣娘?」
「ええ。嘗て世界中に現れた生物の範疇を越え、しかし幻想種とは全く異なる力を持った者達……怪獣。全て滅ぼされたんだけど、その魂を持つ者達が現れたの」
「神器とは違うんですか?」
「違うわ。彼女達は神の作り出したシステムによる影響を受けていない……でも、名前の通り女性ばかりで、見目麗しいことから愚かしい貴族悪魔に狙われた」
「女の子だけの種族って事っすか!?うはー、ちょー見てー!」
「駄目よ、彼女達をそんな目で見ては……」
「へ?」
「彼女達は身を守るために結束したの。それでも狙ってくる者は後を絶たなかった。女好きのギリシャの男神に、それに嫉妬し呪おうとする女神、どの神話にも類を見ない力を興味を持った北欧、中には神クラスの力を持つ者もいるため単純に戦いたいと迫った帝釈天……でも、彼女達は未だに健在。王が現れたから」
「女王様ですか!?」
「いいえ。怪獣娘の中の、唯一の例外として、その王だけは男だった。そして圧倒的な力を持っていた………幾つもの神話を焼き滅ぼしかけ、コキュートスすら一時的に湖に変えた最強の怪獣。怪獣王、ゴジラ……」
「女の子だけの種族に唯一の男だとぉ!許せん!絶対立場利用してあんなことやこんな事を!畜生!一人だけ立場利用して良いことしやがって!俺だって何時か可愛い眷属と………!」
「話を戻すわよ?禍の団の対策として、怪獣達とも同盟を結ぶことになったの……使者には私が選ばれたわ。付いてきてくれる?」
「もちろんです!例え火の中水の中!部長を守るためならお供しますよ!」
「魔王の妹だと?仮にも一勢力の王に会うというのに謁見にきた使者はたかだか魔王の身内か……嘗められたものだな。使者ならば魔王と言わずともせめて魔王の眷属か最上級悪魔を連れてこい」
「主の為という気概は立派だな赤龍帝。後は実力と知能が足りてれば完璧だ………誰に対して口聞いてんだてめぇ」
「あ?ハーレム?好き勝手?やってるわけねーだろ何言ってんだお前」
「魔王派ねぇ……ようは弱すぎてその座を奪われただけだろ?悪魔ってのは力こそルールってのをてめーらの祖先が作ったんだ。テロなんてやってねーで現魔王の靴でも舐めに行けよ蝿の王」
「此奴は傑作!ただ悪戯に世を混乱させ、何一つ救ってもいないどころか洗脳し、実験で殺す悪党共が英雄を語るか!」
「悪魔なら悪であれ、ね……くだらねー。単なるマザコンの暴走か」
「来いよ黙示録の獣!てめーの相手は俺がしてやる!」