DDD_二次創作_転生?物   作:perry

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五話

「見事な近親相姦物語でした」

 

 何かを吹き出す音は、隣とクレの膝あたりから聞こえてきた。

 

「先輩は『オイディプス王』って知ってます? 中々含蓄のある物語ですよね、ボクも何とかその結末は避けようと行動してきたんですが、結局、一線は越えてしまいましたし。そこでボクは思ったんです。このフザケた物語に引導を渡すには3巻まで待つか、“主人公”を殺すしか無いって」

 

「はあ……はぁ?」

 

 

「だから先輩にはごめんなさいです、さようならー」

 

 そう言うと、クレはテーブル上のナイフを手に取る。クレの言葉を咀嚼する間もなく、彼はナイフを逆手に一回転させると、自身の首の頸動脈へ勢い良く刺す――

 

 その一瞬の動きを俺たち2人は呆然と眺めていた訳である。

 そのこと自体は何ら責められることではないと思う。なにせ、先まで普通に喋っていたのだ。いや、内容的に普通というところに疑問符がつくかもしれないが。

 

 俺たちは一般人。かの妹のような人間止めた反射神経持っている訳でもなく。

 

 ――だが、人間止めたような反射神経を持つ人外が、ここにも居た。

 

 先ほどマリオンへ、かつてない衝撃をもたらしたクレの妹さんだ。

 

 彼女は、自らの手をクレの“自殺”の間に差し込んだ。もちろん、クレの勢いをつけたナイフは物理法則に則って首元へリニアな動き。

 ひぃ、という蚊の鳴くような声が隣から聞こえたが、そちらを見る余裕など俺には無かった。

 そのナイフは彼女の手の甲に吸い込まれ――

 

 

 ――赤、というか白というか。

 

 白、は彼女の脂肪なのか骨なのだろうか。あまり人体に詳しくない俺には分からないが、とりあえず目の前で凶行が行われたことは確かだ。

 見た目地味なのは血があんまり出ていないからだろうか。それとも凶行を起こした本人と被害者があまりにも冷静に見えるからだろうか。

 

「お、おいっ!」

 

 ガタッとイスから立ち上がって、半身乗り出す。

 勢い乗り出すが、かける言葉が見つからず、時が止まったように数秒が経つ。頭のなかが、どうもビジー状態のようで、この状況を俺は全く理解できてない。

 

「いやー、やっぱだめか。主人公は死ねない、そう決まってますものね。ホント、物語って奴は強力な奴だ」

 

 場に似合わない間延びした声を出すクレは、そう言ってナイフを妹の手から抜きとり、近くのナフキンでフキフキ。ナフキンには今のショッキングな情景に対して意外なほど少なく思えるほどの血が滲んでいた。

 

「…ぅ…ぅうっ……」

 

 張り詰めていた糸が切れたのだろうか、ようやく時が動き出すように、妹さんは苦悶の声を漏らす。痛みをこらえるように、手を抑えて兄の膝の上で背を丸めていた。

 

 ――意味が分からない

 

 ――本当に、意味が分からない

 

 ともかく今はクレの妹さんをどうにかするべきじゃないのか、と勢い向こうの席に彼女の様子を見に行こうと身体を傾けると、それを遮るのはクレの声。

 

「ああ、大丈夫ですよ、先輩。どうせなんちゃってナイフです、包帯もこいつは持ってきていると思うので消毒して巻いとけば何とかなります」

 

 その声に答えるように、彼女は懐から消毒液と包帯を取り出してマキマキし始めた。なんか、彼女の顔がニヤけてるのは俺の見間違いか? 見間違いであってくれ。もう俺のキャパシティが限界だ。

 

 ようやくというか隣のマキシム善人一号は勢い良く立ち上がる。ワンテンポというかツーテンポぐらい遅れてる。

 

「な、何ですか今の!? 急に自殺なんて、どういう心境の変化ですか!?」

 

「いや、そうじゃないツラヌイ……ちがう、違わないんだが――なあ、クレ、とりあえず説明してくれるか? それともう先みたいなコワイことはしないんだよな?」

 

「ええ、大丈夫です。もう諦めました。いや、先輩達に会って条件が変わるかと思ったんですが、そうでもないようですし。ええ、説明しましょう……ボクが狂人と思われるのもシャクですし」

 

 もう十分、思ってるよとは口には出せず。横には何が不満なのか口を尖らせているツラヌイと、妹さんがクレの膝に顔を擦りつけているらしい、くぐもった音がマリオンに響く。マスターは今の状況を確認しているかどうか分からないが、こっちに干渉するつもりはなさそうだ。俺も今直ぐ、こんな面倒な場所と人から離れたい。

 さて、とクレは前置きして。口を開いた。

 

「ええっと、そうですね。ボクの妄想?について、話しましたよね?」

 

「おう、お前の転生、物語云々だろう?」

 

「はい、その物語なんですけどね。ボクはこのフザケた物語が大っ嫌いなんです。こんな状況に追い込んだ、ナニかがね。憎くてしょうがない。だから、そういうのぶっ壊そうとずっと思ってました。

 それでですね。まあ、地球破壊爆弾とかアレば、話は早かったんでしょうけど。無いですし、具体的にどうしたらいいのかなぁってずっと思っていたんです。ほら、こういう物語って、主人公がいるじゃないですか。世界を壊せないなら、その主人公を壊せばいいんじゃないか?って思ったわけですね。それで、この物語の主人公ってなんだ?と。第一候補は、もちろんアリカ先輩、あなただったんですが……」

 

 急に饒舌に語り始めたクレの話の内容に、全く処理能力が追いつかない。

 

 え、何? 俺、殺されるの?

 

「いや、でねぇ。ずっと殺す機会――あ、いや、学生中もですよ?――狙ってたんですけど、尽く失敗しちゃいましてねぇ。いやはや、これが噂に聞く世界の意思ってやつなのかと。中二病みたく考え、悩んだこともありましたがね。まあ、この方法はダメだと。この方法だと世界は壊せないと。そう悟ったんです。

 はい、ここまで質問は?」

 

 微笑みながら、そう言うクレの膝からは、くぐもった声とナニか粘着質なペチャペチャという音が聞こえてくる。

 もう、嫌だった。なんだ、これ。

 

 はいはいー!と隣のツラヌイが、要らない元気と共に手を挙げる。

 はい、どうぞと促されたツラヌイは、質問を口にする。

 

「じゃあ、呉さんは先輩のストーカーさんだったってことですか!?」

 

「ふむ、そうですね。ある意味、恋い焦がれてましたね」

 

 そんな嬉しくない告白の後、質問の有無を視線で確認したクレは先の話を続ける。

 また、そんな告白の後、クレの下の粘着質な音が止み、ガルルぅというカワイイ唸り声がこちらに向けられて、背中の毛が逆立つ。

 

 この世界にまともな妹はいないのか。

 

「それで、まあ、その恋に悶々としていた学生時代だったのですが――ガルルゥぅ…――ここで、視点を変えてみようと思い立ちまして。そうだ、主人公っていうのは、この世界の物語の――グルゥルゥ…――じゃなくて、この二次創作っぽいのでもいいんじゃないかと――グゥ――うるさいなぁ」

 

 クレはテーブルの下で、もぞもぞと。きゃっ!とナニかを悦ぶ声が聞こえた。

 

 ――まともな妹はいないのか。

 

「それで、その主人公ってボクじゃないですか。だから、その主人公を殺せば、まあ、この世界も壊れるかなぁって、思ったんですよ」

 

 そう言って、ドヤ顔をクレは晒す。

 

 いや、まあ、話は聞いたがホントにわけわからない話ではある。

 

 しかし彼の中である意味。筋が通っていることは認めなければならない。

 他にも何で、それをこの時点で決行したのかとか、妹さんのアレヤコレヤとか気になる聞きたい事は沢山あるが。まあ、それらはこの際置いといて、彼の行動の論理的な理由は理解できた。

 

 そして思う。こいつはやはり、本当の“悪魔憑き”なのだと。

 

 決定的に“悪魔憑き”が他の一般人と違うところ。それは、彼らが彼らの中だけの“決まり事”を持っていることだ。分かりやすく“強迫観念”と言い換えてもいい。

 それは、それぞれ千差万別である。例えば、ある奴は部屋の中から出たら死ぬという決まり事なんか守ってる。他人に触れられたら解ける、とか。常識人から見れば、噴飯モノでそんな訳はない、合理的に考えてみろと一笑に付すようなもんだ。

 

 だが本人達にとってみれば、それは真理なのである。動かすことのできない、正真正銘の真実、なのだ。

 一般人、常識人はそれが他の人々――社会と一致しているが、それから大きくズレた者達。そういうのが、悪魔憑きなのである。

 これを彼らが狂ってるとか、馬鹿げてると無邪気に笑える幸せを噛みしめたい、切実に。もしオレがそんな“狂った”世界に投げ込まれたら、正気で生きていける自信はない。

 

 そりゃ、それが真理なら部屋から出たら死ぬし、他人に触れられたら絶叫するだろう。そんな“地獄”で暮らしている彼らには敬意すら覚える。

 ま、だからって部屋が宇宙になったりだとか、触れた相手を溶かすとか。そういう人間と共に生きていきていきたくはないが。

 

 それでクレの場合。そんな“地獄”で生きていくのが嫌なのだろう。なんだか妄想に取り憑かれているのが、可哀想にすら思えてくる。いや、俺を殺そうとしてたとか衝撃発言の後だけどさ。

 その脱出方法を、彼は彼自身の“決まり事”の下でなそうとしていたのだ。なるほど、妙に納得がいった。生きている世界が違い、納得はできないが、その中にある論理的行動は理解できる。何分、一般人とは“土台”から違うのだ。行動は理解できなくても、その行動に至るまでの、彼の人間的理性は共有できる。

 

 ……“悪魔憑き”というのは、ホントは歪んでいても強い心を持った人間じゃないか、と思う時がある。俺はのどが渇いたら、コンビニで散財してしまうぐらいには決まり事を守れない。決まり事があったとして、部屋の外に出てしまったら自殺できない。

 

 “そんなことで”自殺する勇気がない。

 

「理解してくれたようで何よりです」

 

 クレは俺の考えこむ表情を見て、そう言った。

 

 しかし、その顔は喜びとかじゃなくて。

やっぱり何だか1つの作業を終えたような、そんな無感動な顔をしていた。

 

 

 

 

「それで、そうだ。ボクを使えるように、という話でしたね」

 

 クレは思い出したかのように、そう口にする。妹さんは一定の満足を得たのか、満ち足りた顔で、クレの腕を抱いていた。

 そうだった、そんな話だった。トマトちゃんから、そういう目的でクレを連れだしたのだった。

 

「先輩、ナニか案とかあったんですか?」

 

「いや、まあ、ここらの地理的な説明とかするぐらいだったが……」

 

「そうですか、なら、ボクに提案があるんですよ。学生時代の友人がですね、ここらのアングラな奴らをまとめていて。今は脱法ハーブとか、そういうのやってるんじゃないかなぁ。彼に会って、話をつければ色々と話も入ってくるし、動きやすくなると思うんですよ」

 

「え、お前そんな奴らと友達なの? そういう奴らとつるむのヤバくないか? だって、お前病院から更生して出てきたばかりじゃん?」

 

「何言ってるんですか、先輩」

 

 そういうクレは胡乱げな目をこちらに向ける。

 

 むぅ、なんか馬鹿にされてる気がする。

 

「ボクは、”オリガの優秀なカウンセリングのお陰で””速やかに退院した”サンプルですよ? そんなの、もしボクが何らかの事件を起こしたとして、ある程度なら隠蔽してくれますよ。

 そういうの全部込みで、ボクを“使える手駒”として使いたいんでしょうね、マトさん。いや、ホント食えないお方だ」

 

 ははは、と笑うクレに俺はどんな言葉をかけていいか、分からなかった。

 

 はあ、マトさんは何とも厄介な後輩を連れてきたもんだ。

 

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