ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】 作:梵葉豪豪豪
海岸にて午後の全体説明で、それは起きた。予定外の外部の者がこの場にいるのだ。その異様な雰囲気に生徒たちがざわつく。
そのメイド服とウサミミ型カチューシャを着けた成人女性は、千冬にしきりに話たがっている。が、肝心の千冬はあからさまに嫌悪感を滲ませていた。
「貴様何故ここへ来た? ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「何言ってんのちーちゃん、束さんはISの発明者だよIS全体の関係者だよ」
「IS学園の関係者じゃない。いい歳してそれくらいの分別もつかんのか。出てけ」
「ちーちゃん、この束さんが久しぶりに会ってやったんだから少しは嬉しがれよぉ」
彼女こそが、ISを発明した張本人、篠ノ之束博士だ。別に大学院で博士号を取得した訳ではないが、自称が広まり誰ともなしに呼称して、博士。ただ、あまり身だしなみは整っているとは呼べない。着の身着のまま徹夜してそのまま来た、という風体である。事実3徹しているのではあるが。
列の後方にいたシャルが、遥か向こうにいる束を睨む。積年の恨みつらみがどうしても冷静さを奪いかねないが、彼女の眼前に立ちはだかって胸ぐらを掴み上げたい衝動をかろうじて抑え込む。
「あの女が、篠ノ之博士か……」
「おい、あんまよろしくない顔になってるぞ」
「え……うん、そうだねごめん。ちょっとどうかしてた」
沙莉寿に指摘されて、自分が今何を考えていたのか省みて、気恥ずかしさに謝った。今自分ができること考えるべきことを鑑みて、すかっと落ち着いて行こう。シャルはそういう切り替えができる子である。
「箒ちゃん箒ちゃん」
束が自身の妹を呼んだのだが、箒は前に出つつも、目を合わせようとしない。だがそんな様子に気付くこともなく、束は傍らに置かれたコンテナを解放した。積まれていたのは深紅のISである。
「ジャーン! ほーきちゃんにプレゼントォー! 第四世代IS・『紅椿』(あかつばき)! そのスペックは……」
延々とスペックを並べ立てていく束に箒はまともに聞こうともしない。一方、他の生徒らからはやっかみの声が漏れてきた。
「何あれ、身内のえこひいき? ずっるー……」
「そこのモブどもー! いいかい、人類の歴史において全員が平等だった試しなんて一度もないんだよ? 判るアンダスタン?」
「はぁ……」
「身内贔屓を正当化する屁理屈なぞどうでもいい、いいから帰れ」
「ちちちちーちゃん何か今日は激しすぎない?」
千冬が咎めるも、束が懲りているという様子はない。根本的に話が通じていないのだ。
そんな中、ギリギリの心境にある箒は何かを振り絞った。
「私は……いりません」
「ほへ? 何で?」
元から箒の言い分などは勘定に入れていなかったのだ。最初に強請ったのが箒だったとはいえ、箒の心境なぞ最初から理解しようという気は束にはなかった。
「そんなモノ、受け取れません。資格もない」
「そんなこと言わずにさーお姉ちゃんのプレゼントはありがたく受け取ろうよ箒ちゃーん」
「嫌だ!」
そう叫ぶと、箒はその場を駆け出した。千冬としては想定していただけに、咎める気になならなかった。
「箒……」
箒の心境を知っていて、今彼女の涙すら見えた一夏には何もできなかった。安っぽい正義感の入る余地すらない。それが自分の中で悔しさとして渦巻いているが、かといって束に詰め寄るだけの発想が浮かばなかったのは、彼の10代の人間としての限界であろう。
「う~ん束さんは困ったなぁ~」
わざわざ口にする辺りが束という人物を表しているといえる。
一方、4組で一部がひそひそとよもやま話をしていた。具体的には簪と愉快な仲間たちである。
「あーこういうのいるよねいい歳して似合わない恰好するオバサン」
「ウサミミとか喋り方とかもうね、イタイ。年相応に合わせられないって悲惨だよね」
「髪の手入れもスキンケアも全然してないし。こんな大人になったらやーねー」
「そこ! 聞こえてるぞ!」
悪口という物はよく聞こえるものである。簪としては束の真相を聞いたときの意向返しが多少というか結構あったりする。
その束は、並みいる生徒らを眺めたときに、ある一点、ある人物に偶然目を付けた。相手は判りやすい風体である。
「……お前かー!」
束は生徒の間を割って入り、沙莉寿を指差し迫った。あまりの剣幕に周囲の生徒は一斉にその場から離れる。
「お前ー! 束さんお手製のゴーレム送って学園襲わせたらお前に倒されてー! ふざけてるんだよお前! バラシてやるわー!」
かの襲撃事件でISを送ったのは自分ですというカミングアウトをしたも同然であるが、周囲の殆どは彼女が何を言ってるのかさっぱり判らない。千冬は気付いた一人だが、束が生徒に何かやらかそうとしているのでそれどころではない。
スカシ目の沙莉寿は黙って人差し指を束に向けた。
「この天才束さんのメイド服は大気圏突入にも耐えられる耐熱性と耐ビームコーティングを備えてるからね。お前のビーム如き跳ね返してくれるわバーカ!」
大股で歩いてきた束の両足の間に、問答無用で極細のビームが貫通した。あくまで束が想定していたのは荷電粒子であり、相手が勝手の違う15000Kの恒星のフレアであるなどとは夢にも思わなかった。思えという方が無理な相談であろう。
スカートの太もも周りに開いた穴は一瞬にして周囲の生地を蒸発させ、直撃しなかったとはいえ本人の内股の肌を一部炭化させた。ぶっちゃけ大惨事である。
悲鳴を上げて束が恥も外聞もなく転がるのを、周囲は遠巻きに眺めていた。世界の篠ノ之博士というイメージからはあまりに程遠い様に困惑するばかりだ。
「あぁぁああ! 何だお前! 何だお前! 何で束さんに効く!?」
「ベラベラベラベラと……アニメの住人かお前は」
沙莉寿が呆れ顔で突っ込む。そりゃぁ、アニメのような説明台詞などというものは日常では普通使わない。アニメオタク同士の会話でも滅多にやらない。
「くーちゃぁぁぁん!」
束の呼び声とともに、上空から1機のISが現れ、片膝と片腕を着いたいわゆるヒーロー着地で降り立った。以前シャルが語っていた「束の手の者と思われる未登録のIS」が唐突に現れたのだ。
「アイツ殺ってしまえ!」
ISまで投入され明らかに今まさに殺人が行われる現場に、周囲が戦慄し外へ外へと逃げだした。ISは両腕の先からブレードを構えて首を狩る気マシマシで目標へと突貫する。沙莉寿の隣に立っていたシャルは諸々の理由で困惑するが、殺意をぶつけられた沙莉寿本人は漂々としている。そんな四者四様のぽっかり空いた空間の誕生である。
次の瞬間、沙莉寿はニカッと笑うと両手をかざす。直後、周囲が渦巻き状に中心に向かって吸い出される。彼女の手を中心に視界がレンズ状に歪んで見えた。
結果、ISは渦に沿って全身が強引に引き伸ばされかけ、外れた細かい部品や外装が吸い込まれていく。装着していた少女が強引にISを脱いだ勢いで後方に転がり、自身は被害を免れたが、IS本体は沙莉寿の手元に吸い込まれ、レンズの効果で麺のように引き伸ばされたようなビジュアルが見えた。
全てが終わったときには、沙莉寿を中心にクレーターが出来ていた。沙莉寿の向かい合わさった両手の間の空間には既に何もない。
「おおおお前、お前、何をやった! くーちゃんに何をした! 『黒鍵』をどこへやった!」
束だけでなく周囲も一体何があったと騒然となるのは必然である。
「さぁねぇ。玩具くらい自分で探せば?」
束を見下ろす沙莉寿の表情は実にやりきったという感で溢れている。そんな相手に、ISに乗っていた少女・クロエは怯えて絞るようにただ一言、
「悪魔……」
それが精一杯であった。
含み笑いを噛みしめていたシャルがこの現象の正体に気付き、沙莉寿に聞いてみた。伊達に彼女を調べていた訳ではない。尚彼女の隣に立っていて何もなかった自分にビックリしているが、そこは置いておいた。
「あ、もしかしてアレ?」
「やってみたらできた。何事もやってみるもんだな。それと、少しは溜飲下がったろ?」
「そっか……。ありがとう」
ようやく穏やかで快活な気分になれたシャルだった。あらゆる障害をもぶち砕くその精神はやっぱり自分たちに必要なのだ、そう改めて確信した。
ようやくスーパー千冬先生が乗り込んできた。さっきまで乗り込みようがなかったが。
「おい夕立! 何をやった!」
「説明いるか? つーかそこのうるさいオバハン回収してくんね?」
「いるに決まってるだろう。まぁ……何もかもを考慮しても良くはないが、呑んでやるから当面大人しくしてろ」
「ちーちゃぁぁぁん~!」
何せ大袈裟な割につまりは殺人未遂の現場である。とはいえ何を物的証拠にしようというのか。この事態を強引に回収するのが千冬のやれることではある。
遠くから山田先生が泡を食ってこちらに向かって駆けてきた。どうやら災難は続くらしい。
次回:13 They Don't Care About Us ~不可能と無謀と僅かな義侠心~(仮)
・束
自分のことばかりで基本話通じない大人。見かけに関してはごく単純に、ヒロイン補正がなかったらああ見えるというのを書いた。体臭もキツイと思う。撃たれた描写について、当初はロボ○ップの股間撃ちみたいな描写にする予定だった。よく考えたら無理! となって大惨事となった。ジ○ングにならなかっただけまだマシ。
・箒
束に向かって最後の一言を言わせたかった。
・シャル
今回はある意味彼の溜飲を下げただけの回。
・沙莉寿
日本国土全体がグシャッとなるとシャレにならないので自重した。
・アニメの住人か
アニメで説明台詞や説明の独白という演出を確立させた一人である富野由悠季監督だが、実は意外にも自作の小説ではその手法を殆どやっていない。
・次回サブタイ
雰囲気的に野○直子の「風林火山み○もんた」にしようと思ったが踏み留まった。