ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】 作:梵葉豪豪豪
スコールとかオータムは平然としてそうだから選外。
花月荘の一室に千冬ら幾人かの教員が詰めて機材を運び込み、簡易の会議室と化していた。
その中には専用機持ちの一夏、鈴音、セシリア、ラウラ、シャル、簪、そして何故か沙莉寿までもが呼ばれていた。
「おいちっふー、この面子じゃ私関係ないだろ、帰っていいか?」
シャル、簪とともに揃って壁に寄りかかっていた沙莉寿はそう問い質す。
「織斑先生だ。お前に関しては目の届く位置にいないと危ないのが半分、もう半分はこれからやることにはお前の力が嫌でも必要になるからだ。是が非でも参加してもらうぞ」
「何だっつーの……」
不満を垂れつつも、しぶしぶとその場に従った。手持無沙汰なのでポッキーを齧ることにした。そんな彼女を他所に千冬から説明が入る。
「お前たちに集まってもらったのは、一口に言えば、ISの迎撃だ。先程、アメリカ空軍の……IS、が軍の統制下を離れて太平洋上を飛び回っている。飛行経路はデタラメだが、確実に日本本土へ近付いているのが現状だ。アメリカ政府から、目標を足止め、もしくは破壊の要請があった。予想到達地点が広いため、現在本土の太平洋側で自衛隊が広範囲に展開している。お前たちにも大使館を通じて個別に要請が届く頃合いだ」
アメリカ大使館から日本大使館を通じ要請があったのが実に1時間前、首相官邸で方針が決定され各国の大使館とIS学園へと伝達されて今に至る。IS学園は訓練に使うISを駆り出しつつ、学園内に残っている専用機持ちにも要請がかかっていてまさに今飛び回っている。お役所仕事を揶揄することなかれ、早いときは早いのだ。
丁度ほぼ同じタイミングで専用機持ちたちのスマホやケータイにも一斉に連絡が届き、各自文字やら音声やらで確認を取った。同じ場にいる殆どが揃って一斉に端末を構える様はちょっとアレである。
結局のところ、現場は何も考えず言われたことをやれ、という話なのだ。拒否や越権行為は見逃してくれない。
「でも太平洋側をISでカバーすると言ってもこの数じゃねぇ……こういうところで仇になるのね」
状況が説明されているホワイトボードを眺めつつ鈴音がぼやく。要はISの数の少なさが有事の際の足を引っ張る結果になっている。散々既存の兵器を上回ると宣伝しておいてこれである。国土の広いアメリカや中国にロシア、オーストラリア辺りなどはもっと切実であろう。結局はどこの軍隊も既存の兵器頼りなのだ。
ただ現時点では、ISを擁する陸自が現在予想される空域を哨戒中の空自をけん制し、この件に出張っているという捩れが発生している。実にめんどくさい話である。
「それで、そのアメリカ軍のISの諸元はどれほどでしょうか?」
これはセシリア。ISはISでしか倒せないなどと言われているが、IS同士なら結局は数の論理であろう。
「……織斑先生?」
「……これだ!」
千冬が人数分の資料をテーブルに叩きつけた。先程からのあからさまに怒気を孕んだ雰囲気に、少年少女が何事かと思いつつも資料を廻して確認する。
ISの名称は「シルバリオ・ゴスペルⅡアンダーテイカー」。そのスペックはあまりにふざけた代物だった。
「つまり何、幅20m、全長300mの巨大な杭、と……?」
「サターンロケットよりも長ぇ!」
鈴音と一夏は狼狽するしかない。巨大な杭である。人型ですらない。
「こんなのISじゃない!」
などとラウラが叫ぶのも無理はない。ラウラが経験上知るISのどの用法とも外れている。こんなものを認めたらISに抱いていたアイデンティティが崩壊しかねない。
「こんなのが時速3400kmで蛇行しまくってるのかー。ブラックバード並とはまた冗談みたいな」
かつての超音速爆撃機SR-71を引き合いに出せる程度にまだ簪は冷静でいられた。呆れてはいるが。マッハ2.7ともなると大気との摩擦熱による高熱も半端ないため、人工衛星から追うのも容易なのだろうとも推測した。
加えて千冬が補足した。
「こいつがな、ISコアに制御されてバリアを纏ってミサイルやドローンで自衛しながら艦艇や都市に特攻……突貫するんだ。その結果は核ミサイルに並ぶ被害だ。奴らは我々が止められるなんて思っちゃいない。都市が壊滅した後で素知らぬ顔して救助に回る気だ!」
既に被害が起きる前提で通達していたアメリカ政府への怒りが爆発し、ついテーブルを殴った千冬である。
尤も、アメリカ軍がISを人型からそれに置き換えることを検討しているとまでは夢にも思っていない。
「バカジャネーノ」
諸々をひっくるめての沙莉寿の適当な突っ込みに、千冬が無責任なこと言うなって目で返す。非常時にポッキー齧りながら言っちゃう辺りが無責任ガールのガールたる所以である。
それまで黙って端末をいじっていたシャルから伝達があった。この場において最も冷静になれている人物だ。
「うちの会社から調査結果が届きました。その機体、操縦者のなり手がいなくて薬物で無理矢理底上げした操縦者を搭乗させていた様です。ですが、まぁ、ラリっちゃって手に負えなくなりました、だそうで」
「バカジャネーノ・パート2」
沙莉寿の突っ込みパート2。世の軍隊において陰謀論の多さのイメージでトップシェアを誇るアメリカ軍ではあるが、ドジこいてやらかしたケースも負けてはいない。勝っちゃいけない。
気を取り直して、千冬が作戦の説明に入る。作戦の立案自体は既に済ませてある。
「では作戦を伝える。目標が我々の担当空域に到達すると予想された時点で動く。3班に分け、時間差を置いて目標に接敵する。第1陣は織斑、オルコットの2名」
「俺……!?」
「先行して足の速い『ブルー・ティアーズ+』にけん引してもらい、『白式』の零落白夜でバリアごと目標を斬り裂き、攻撃の突破口を開け」
「……判ったよ千冬姉! やってやらぁ!」
心情的に一夏には退くという選択肢はない。そもそも他の連中は既に覚悟は決まっている。
「第2陣は情報収集と主力としてデュノア、ボーデヴィッヒと、夕立だ。現場での全体の指揮はデュノアが取れ。夕立はボーデヴィッヒに乗せてもらえ。『白式』が破損させた箇所を重点的に、ありったけの火力を叩き込め」
つまりは学園側からの指示で沙莉寿にビームを使えと言っているのだ。大人も一杯一杯である。否定も肯定もせず沙莉寿は頭を掻いた。
「第3陣は凰、更識が援護を……」
「待った~! ここは束さんに任せるんだよ!」
よりにもよって天井を開けてテンション高く部屋に乗り込んできたのは、束だった。両脚には包帯を巻いているが幸いにもスカートに隠れて見えてはいない。
更に人一人、箒まで引きずっていた。みっともなく床に落ちて這いつくばった箒に対し、あまりの事態に一夏が狼狽する。お互い目が合った。
「箒……!?」
「い、一夏……」
部屋で他の生徒と待機していたところを突然、天井へ引きずり込まれたのだ。天井裏を引きずり回されたため、埃だらけの風体と化している。
当然と言おうか、千冬が束を睨み付ける。周囲も呆れて見守っている。どう考えてもまともな用の訳はない。その束は沙莉寿と目が合うと、無視した。人間それが限界である。
「貴様どういうつもりだ、妹まで巻き込んで」
「束さんに全然いいプランがあるんだよ! 束さんの『紅椿』と『白式』を先頭に立たせるのさ! 何せ! 『紅椿』が絢爛舞踏を使えばエネルギーと燃料の補給が一瞬で終わっていっくんの零落白夜も無尽蔵だよ! 更に! 雨月(あまづき)と空裂(からわれ)2振りの剣が……」
などと2機で無双できるとスペックをひたすら並べていく束。理論上ISのエネルギーは無尽蔵ということになっているがISコアから引き出して本体にチャージし安定した電力で使うとなると話は別である。相応の時間がかかるのだ。またスラスターなどの燃料も別に用意しなければならない。要はそれらが一瞬で済ませられると言っているのだ。更に装甲があらゆる形態に可変するという。実のところそれらは各国の技術者がやれない訳ではない。兵法にも合わず馬鹿らしくてやらないだけなのだ。彼らはヒーロースーツを作っているつもりはない。
しかして諸々の束の説明はカタログスペックの話であり、乗る予定の人の負担や事情など全く考えていない。
諸々を勘案し、沈黙を保った千冬だったが、ようやく重く結論を出した。
「……判った、貴様の提案に乗ってやる」
「千冬姉!」
一夏の非難も他所に、箒に向き直った千冬は、重々しくも説得する。
「篠ノ之、お前にこの決断はつらいことは重々判っているつもりだ。だが今は1機でも戦力が欲しい。この件が終われば奴のISは捨てても構わない。我々は咎めることはしない。頼む、戦ってくれ。日本を、救ってくれ!」
遂に頭まで下げた千冬。心がないまぜになった箒はもうどうしていいか判らない。
そんな箒の右手を、誰かが握った。鈴音だった。もう片方を、一夏が握った。得られたのはささやかな勇気。
「……判りました。やります。戦います」
「すまん」
箒は、ただ前を向いた。千冬が彼女に出来ることはただ頭を下げることだけだった。
「で、束」
「何?」
へらへらしてこの場を眺めていた束を、千冬は束の襟首を乱暴に掴み、荒々しく自身の顔へと近づけた。束には想定外だったようで、冷や汗を流している。
「いいか、貴様が妹をヒーローに仕立てるダシに状況を利用しようと、今更構わない。貴様の仲もこれっきりだ」
「ちちちちーちゃんそこまで判ってるなら」
「だがな、天災を自称するならせめて日本の一つや二つ、自演でなく救ってみせろ」
冷たく言い放ち、同様に乱暴に手を放す千冬。束はその心境がわけわかんないよって顔をしてただ困惑していた。
周囲も状況が呑み込めない中、壁に寄りかかって腕組みをしていた沙莉寿が挙手をして質問してきた。
「おーい、織斑せんせーやーい」
「何だ何かあるのか」
先程の勢いを多少は切り替え、うんざりとした態度の千冬である。ポッキーを咥えている程度の態度は今更咎める気にもならない。
「あのよー、他の生徒はどうすんだ?」
その場にいる専用機持ちの多くがぎょっとした。全く考慮の外だったのだ。大人たちは何か問題あるのか? といった態度だ。
「知らせる訳にはいかないだろう。パニックになるからこのまま待機してもらう」
「で、何も知らせず一晩軟禁か?」
「言い方は悪いが、そうだ」
「おいおい、やるならみんなでやりゃいーじゃん、EOSとか戦力片っ端からかき集めてさー」
「貴様の喧嘩と一緒にするな。多くを危険に晒す訳にいかん」
「あーそう……」
スカシ目をしつつにやけている沙莉寿が、にやけながらも反撃に移った。
「そうか、では意向返しをしてやろう」
「何だと?」
沙莉寿が指差した先、というか隣にいた簪がにやけ面というよりしてやったりの面でスマホを見せた。通話状態のままである。この会議室に入ってからずっと。
「……貴様ら!?」
その通話先は、簪のクラスメイトだ。今彼女らのいる部屋では、全員がずっと盗み聞きし、SNSで逐一他の生徒らに伝えている。こうして現在他の生徒ほぼ全員に話が漏れ広がっていた。
一瞬にして顔を紅潮させた千冬であったが、溜息を一つ二つ吐くと、苦虫をまとめて噛み潰したって表情で2人を睨み付けた。
「……いいだろう。全員参加だ。責任は私が持つ」
結果的に、第1陣が一夏と箒、第2陣がシャル、セシリア、沙莉寿にラウラ、第3陣が鈴音、簪となった。残りの生徒は旅館を拠点としたEOSによる最終防衛ラインとなる。
昼下がりの旅館の駐車場にて、生徒らが大掛かりなEOSの搬入に大わらわとなっている。準備ができ次第、目前の海岸線へと移動し配置に着く手筈となる。倉庫の奥に眠っていた武器弾薬がまさに役に立つ日が来たのだ。尚鍵は簪がワイヤーカッターで外した。
物によってはGAU-8アヴェンジャーなどというどうやって調達したのかゴツイ機関銃まで搬入されている。EOSが複数機がかりで撃つらしい。
その駐車場の一角で、専用機持ちたちは自身のISを整備していた。セシリアは「ブルー・ティアーズ+」に音声で認証コードを入力し、競技モードと呼ばれる枷を解除し、通常機動用モードに戻した。競技ルールに基づく警告がなくなる程度のものではあるが、気分の問題でもある。
隣では、沙莉寿が柔軟体操をしている。体操服は胸周りで縛ってある。殆ど平らな下乳は丸出しなのだが些細なことだろう。ついでに髪は両側面で縛っている。セシリアに乗せてもらうという手筈だ。
そんな沙莉寿がふと思い立ってセシリアに声を掛けてみた。
「意外だな」
「何がですの?」
「お前さん私を嫌ってるものと思ってたけど」
セシリアは苦笑いしつつ指を立てて振った。
「あー……決闘の件でしたら、勝つために煽っただけですわ。結果的に藪蛇でしたけども」
「ま、喧嘩の常套手段だもんな」
「そういうものですわ。私としてはクラスの皆さんと仲良くありたいと思っておりますので」
「そっかー」
そこへ山田先生が泡を食って走り寄ってきた。最初の一報といいといい泡を食うのが得意技になってきつつある先生である。
「ぜい、はー、あの、先程、目標に先行した自衛隊のIS部隊がその、……壊滅しました」
「敢えて奴らに弔事を述べてやろう。ざまぁバーカバーカ」
「お気持ちはお察ししますがそういうのはよろしくございませんことよ?」
次回:14 UNDERTAKER ~爆音のアンサンブル~(仮)
・ISの事情
原作はメカアクション物とかミリタリー物とかいう訳でなくラブコメ物で、アクションもヒーローバトルの延長みたいな物なので、裏事情や背景を何とかしようとしすぎるとめんどくさいことになる。なった。千冬らはあくまで現場でしかない。
・シルバルオ・ゴスペルⅡアンダーテイカー
縦横の比率は30cm定規を縦半分に割った感じ。F○:GをISに見立てて並べると300mの1/12で25m。地盤もろとも都市丸ごと吹っ飛ばし兵器。これでも定義上IS。ISを超えるISの発想は私の頭ではこれが限界。尚原作通りのⅠはこれの観測・乗員・ISコア回収用の随伴機。つまるところⅡは複数ある。
・箒
踏んだり蹴ったり。
・アヴェンジャー
でかすぎて持ちきれない武器は複数機がかりで持てばいいのよメン。
・自衛隊IS
主人公とよく撃ち合い殴り合いして酷い目に遭った人たち。知るかボケェェ死ねやぁああって感じで。