ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】   作:梵葉豪豪豪

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 増田英二の新連載が結構楽しみ。



15 UNDERTAKER 2 ~恒星少女~

 全身からフレアを迸らせ、周囲の空気を燃やして飛翔する沙莉寿は、その勢いのまま「アンダーテイカー」をぶん殴った。とはいえフレアを纏った拳である。アイスクリームをディッシャーで掬うがごとく、目標の壁面がバリアもへったくれももなく巨大な半球型にごっそり消し飛んだ。

 

「はっ! …………はァ!?」

 

 目標に張り付いて斬りつけまくっていた一夏は、衝撃でその場を放り出された。そして殴った直後の眩しい沙莉寿が視界に入り我に返る。あの世から天使になって戻ってきたなどと錯覚するのも無理はない。彼女の尻を眺めつつではあるが。

 

 この好機に、シャルが全員への指示を飛ばした。

 

「全員、援護ォ! 目標の破損個所へ集中的に! 周りの奴は必要最小限に!」

 

 沙莉寿が二撃三撃とぶちかましてくれるのを想定した指示である。皆即座に対応した。一夏は機体に残ったマイクロミサイルを一斉射し、露払いとして目標の小型ミサイルを撃破しせしめる。

 

 「アンダーテイカー」も無抵抗とはいかない。機体からありったけのドローンを放出し、沙莉寿に向けて数機が突貫を敢行する。が、彼女の手前で次々と蒸発し続けた。無駄な抵抗という奴だ。

 

 沙莉寿と「アンダーテイカー」はお互い離れてはど突きの、一人と一機の螺旋を描いた状態で縦横無尽に飛び回る何ともデタラメな軌道を描きすっ飛んでいく。「アンダーテイカー」にしてみれば破損覚悟で本体を叩き付けるしかない。バリアもありIS相手であれば十分対応できるが、今はあまりにも相手が悪い。しかして沙莉寿の殴る蹴るによって問答無用で穴だらけになっていった。

 更にドローンが追いかけ、シャル一同も追いすがる。

 

 ついでに沙莉寿が目標に向かってビームを何度も放出するが、こればかりは絶妙に当たらない。ドローンに向かって撃ちまくりつつシャルはついでに背中越しの簪に話しかけてみる。小癪にもドローンが邪魔で本体まではなかなか届かない。

 

「フレアのビーム当たんないな、よ、と!」

「ノーコンだからね! ノーコンだからね!」

 

 そう答えつつもドローンを撃つ手は緩めない。ただ相手は無駄に堅いのが無駄に腹立つ。

 

「海岸線だ! まずい!」

 

 ラウラの拡大された視界からまさに海岸線が見えた。たちの悪いことに臨海学校で泊まってる旅館のある海岸である。全体が陸地に向かってすっ飛んでいたのだ。

 

 遂には沙莉寿が「アンダーテイカー」の先端部分の中へと突入する。侵入できる穴は幾らでも空いている。中で放ったビームは一周して突端を切り飛ばした。勢いで明後日の方向へ飛んでいく突端。具体的には海岸線へ。

 

 唐突に中央の穴から部品の山が吐き出された。その一つは人体、つまりは操縦者だった。バイザーで目元が覆われて表情は窺えないが、完全に失神している。穴の奥では、フレアを消した沙莉寿がハイキックのポーズを取っていた。つまりは操縦者を本体から蹴り飛ばしたのだ。

 一夏にとってみれば、まさか自分がやりたかった結果を沙莉寿がやってのけるとは思いもしなかった。自分の意を汲んでくれての判断だったのかは彼女に聞いてみないと判らない。でもそうであって欲しいという願望は持ってもいいだろう。

 

「鈴ちゃん! その人の回収を!」

 

 シャルの指示で即座に鈴音が、すっ飛んでくる操縦者を正面から抱きかかえる。バイザーの外れた操縦者の顔を見た鈴音は、人間こうはなりたくないな、とふと小さな感慨を抱いた。

 

 ボロボロの「アンダーテイカー」が、沙莉寿のいる箇所を中心にその巨体を折った。いや、折れた。

 

「全員、急いで離れて!」

 

 シャルが即座に指示を飛ばし、全員それに従った。あからさまにヤバイ何かが始まるのは皆感じ取ったのだ。

 

 巨体が部品を撒き散らし、紙細工のようにひしゃげる。その中心に、点のような何かが見えた瞬間、中心とその小さな周囲の視界が歪んだ。正確には「球状に」ねじ曲がり歪み、光を逃がさなかった。歪んだ視界の端は光が見えない、真っ暗闇である。

 

 それはブラックホールだった。束に対して行ったそれを、再度この地球上で召喚したのだ。

 

 轟音を立てて中心へ中心へと潰れていく目標。回転し、飲み込まれていく。ドローンも道連れと化した。ついでに周囲の面子も引っ張られかけたので、皆が慌てて遠ざかる。

 

「いやぁブラックホールって生で見ると凄い迫力だね」

「あの向こうにマクシミリアンが」

「いやそのネタ古典過ぎ」

 

 などとシャルと簪が呑気に駄弁る向こうでは、今拾ったブラックホールという単語に理解は示したが納得はできないセシリアがいた。世の中駄目な物は駄目という言葉がある。

 

 

 一方、海岸で待機している生徒たちにも、空の向こうからその訳の分からないバトルと末路は見えていた。けったいなことにその向こうから、巨大な何かが飛んでくる。斬り飛ばされた突端である。

 

 即座に号令一下、わらわらと寄り集まった生徒と教員らによる、ありったけの火器による銃撃が開始された。重火器の多くはEOSから、他の者も狙撃銃やらライフルやらロケットランチャーやら果ては拳銃まで、後のことなど知るか馬鹿と言わんばかりに撃ちまくる。銃の撃ち方を習うIS学園生徒の面目躍如だ。

 巨大な破片の表面はデタラメにへこみ、どこまで効いたかも判らないながらも減速し、放物線を描いて海面に斜めにぶつかり回転し、遂には海岸から目と鼻の先辺りに豪快にダイブして垂直に刺さった。海面から見えているだけでも10mはある。これ誰が回収するのでしょうね?

 

 ようやくことを終え、全員が溜息をついた。思わずアヴェンジャーの焼けた銃身に手をついて慌てて転がった生徒がいたのはご愛敬である。

 

 

 あらゆる物が呑み込まれ、一転して静寂が訪れた空間、その中心には、フレアを纏った沙莉寿が浮いている。両掌を向かい合わせ、その中心にあるのは極小の点だった。上下に何かが吹き出している。やがてそれも消滅した。

 

「……沙莉寿?」

 

 近づき問いかけた一夏が躊躇うのも無理からぬ話である。その沙莉寿は、にぃっと勝ち誇った口から溢れるフレアで炎が漏れ出していた。一応呼びかけに応えたのではあるが、出発時に着けていたインカムはとっくに無くなっているし、それ以上に口腔内に空気がないので声は出ない。呼吸していないというえげつない事実に一夏が戦慄していた。

 

 今更ではあるが、彼女は全裸にフレアを纏い輝いている。更に周囲の空気が焼けて炎がバックファイヤの如く発生している始末だ。そういう訳で正視するにはなかなかキツイというか目を焼かれかねない危険がある。ということには関係なく、一夏の両目にずびたーんと2振りの平手が貼り付いてきた。ISのであるのは言うまでもない。箒と鈴音によるお前は見るな攻撃である。彼女たちはそろそろ意中の相手を肉体で攻略すべきであろう。

 

 ようやっとシャルが本部へと連絡を入れる。笑っちゃいけないのだけど笑いながら通信してしまう。

 

「状況終了、状況終了、目標は撃墜しました。全員帰投します。それと服用意してください至急に」

『織斑だ。こちらからも状況は観測していた。あれ撃墜か? 報告は正確にしろ。後服ってどういうことだ』

「失礼しました訂正します。消滅です。服は無くした人いますので至急お願いします」

『……後で報告するように。服は用意させる』

「了解」

 

 正直に報告したらどんな顔するかなぁとちょっとS的な楽しみを噛み締めているシャルを他所に、沙莉寿はとっとと飛んで帰っていた。待ってこのまま旅館に突入するの? と慌てる間もなく、簪が速攻で追いかけ、シャル含め他の連中も続いていった。

 

 

 大分暗くなってきている海岸では、更に上空から光る隕石的な何かが飛んでくる様子が見え、生徒たちが大わらわとなっていた。ちょっと開けた場所にその何かが問答無用で墜落。派手に飛び散る砂と衝撃波に、付近の生徒らが増田英二漫画のモブ顔で吹き飛んでしまう。

 出来上がったクレーターの中心に、タイムスリップした某人型殺戮全裸ロボットの如く片膝を着いていたのは沙莉寿だった。海岸に2度もクレーターを作ってしまった全裸ガールである。そして周囲のざわめきを他所に悠然と立ち上がった。これでも減速はしたつもりらしい。つもりと言っておけば何でも許されるものではない。

 

 直後に上空から沙莉寿の背後へ降り立った者がいた。簪である。ISを解除し、彼女を背後から抱き寄せ、腕を彼女の胸へと回す。汗が、熱の収まり切っていない沙莉寿の白い肌で蒸発した。

 

「オツカレチャーン」

 

 ……と簪は百合百合~な雰囲気に浸り、沙莉寿も満更でもなく彼女の頭へと自身の頭を預けた。

 降って湧いた百合クレーターな何かに周囲は戸惑いつつもほっこりとする。忘れられつつあるかもしれないがIS学園は女子高である。そういう向きな女子の量産設備と化している。文科省ですら想定の外にある世界だ。

 

 残るIS乗りたちも次々に降り立ち、2人を中心に輪となった。裸体を衆目から隠そうというのだ。ちなみに鈴ちゃんは要救護者を抱えて本部へと直行していた。要救護者を渡された教員は金属くさい体臭に引いたがまぁ些細なことだろう。

 シャルは「ごめんね~今彼女服燃えちゃってるんだ、ちょっとの間目逸らしてくれるとありがたいよ」などと周囲に説明している。その代わり自分が撮影された。酷い。

 

 尚一夏はちゃんと円陣の外を向いて沙莉寿の方を見ないようにしていた。が、ISの視界は真後ろも見えるのだ。ついでに録画も対応している。困ったことに隣のラウラも例外ではない。

 

 

次回:16 甘きBLOODSUCKER ~啼き兎~(仮)

 




・ブラックホール
 いつかは文章で表現してみたかった。

・マクシミリアン
 ブラックホールを題材にした昔の映画に登場した赤い悪役ホモヤンデレロボ。オッサンと合体した。

・沙莉寿
 よしバッ○・クラン軍に喧嘩を売ろう。

・鈴音
 彼女が操縦者(イーリス)のどんな顔を見たかは想像にお任せする。

・シャル
 忘れられているかもしれないが金髪オッドアイ美少年である。撮影されない訳はない。

・一夏
 箒「なぁ一夏、何もトイレやシャワー行くときに白式(待機状態)持ち込まなくてもいいんじゃないか? ……録画? 録画がどうしたというのだ!?」
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