ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】   作:梵葉豪豪豪

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 マッシュは意外と種類がある。


17 Los Sitos Enteros ~さよならエジンバラ~

 色々、実に色々あって、さぁ帰る! となった臨海学校。最後はバスに乗る按配だ。

 1組のバスに沙莉寿が向かう中、背後から誰かに声を掛けられ振り返る。一夏だった。

 

「なぁ、沙莉寿」

「うんにゃ?」

「あの操縦者を助けたのってさ、もしかしたら、俺が言ったからなのか……?」

 

 ミント味のアイスキャンディーを口から離し、

 

「あれね、お前の助けようって考え、悪くなかったぞ。だから勝手にやってやった」

「そっか……! すまんす」

「そういうワケだ一夏、んじゃな」

 

 そして沙莉寿はアイスキャンディーを咥え直し、バスに向かう。一夏。確かに彼女はそう呼んだ。呼んだのだ。

 

「……よっしゃ!」

 

 つい人目もはばからずガッツポーズを取った一夏。入学式へ参列する道すがらで彼女とすれ違って一目惚れして以来、ようやく名前を呼んでもらった快挙である。

 ちなみにたまたまガッツポーズを目撃した箒には得も言われぬ危機感が走った。そして通り抜けた。

 

 尚宇宙恐竜の死体が転がるという大惨事を招いたバイパスは交通規制がなされ、バス御一行はルートを迂回する羽目になったが些細なことだろう。

 

 

 日も変わり、ここは学園の食堂。日々の朝食は大切である。マジで。

 

 備え付けのTVで放送される報道番組では、謎の恐竜の死体や自衛隊IS撃墜など連日報道ネタに事欠かない。特に後者は自衛隊を吊し上げ連日叩いている。1年生には身に覚えが有りすぎて何とも言いようがなくて実に困る日々だ。尚沙莉寿と簪は他人事として聞き流しつつホットドッグを囓っている。

 

 報道番組が途中から緊急でニュースを読み上げた。曰く、英国はスコットランドのエジンバラに、空から巨大な生物が墜落し暴れていると。現地の生放送に切り替えられて、夜の街にその生物が捉えられた。

 さながらその姿は沙莉寿曰く、

 

「でけぇオッサンやん」

 

 実際画面に映っているのは、全長推定100mで銀色の肌を纏うどマッチョなオッサンである。しかも胸元の開いた真っ黒なボンデージルックであり、硬質な口周りだけが開いた黒いマスクを被っている。更に8Kハイビジョンの映像が表面のテッカテカなラバーの質感を緻密に再現していた。嫌な高精細である。

 簪も微妙に引きつつコメントしてみる。

 

「そういやこの前の恐竜も空から降ってきたね。最近空が酷い。後その筋の趣味の人と店に風評被害とか」

「その筋に本気でバッシングくるようなおもろい情勢になったら笑ってしまおう」

 

 食堂内ではセシリア初め英国の留学生が色んな意味で悲鳴を上げ、他の生徒は食欲を微妙に減退させ、画面の中の巨大なオッサンは口と乳首からビームをぶっ放して市街が大惨事になっているが、まぁかんちゃんさりーちゃんにはどうでもいいことである。尚一夏の隣りに座っていた鈴ちゃんがちくビームを見て味噌汁を吹きこちらも大惨事と化した。

 

 

 その日、高田馬場にあるとあるレディース専門のブティックに、一人の少女と2人の少年が立ち寄った。沙莉寿とシャル、一夏である。流石に制服を着て高田馬場の往来を闊歩していない。

 迎えるのは店長のオネイサン。ビジネスウーマンって感じで物腰の柔らかい美人さんだ。

 

「いらっしゃいま……あらさりーちゃんおひさしぶり」

「ちわーっす」

 

 手慣れた様子で沙莉寿はカウンターへと足を運ぶ。一夏としては初めて入るジャンルの店におっかなびっくりである。逆にシャルは堂々としている。そういった態度の方が印象が良くなるからという処世術を身に着けているからだ。

 

「今日はかんちゃん一緒じゃないのかしら?」

「相方は今日仕事が抜けられなくなったってさ。で、買い物頼まれたよ。これリスト、とこの予算内で」

 

 沙莉寿がバッグから畳まれたA4用紙を広げ、隣に封筒を置く。現ナマである。日本のISの代表候補生は一介の女子高生が使い切れない程度には給料が高い。

 

「あら勝負下着まであるのね」

「何故に」

 

 誰に勝負かと聞かれたらここの3人は確実に特定の1名を指すであろう。勝負される本人に自覚はないが。

 

「それじゃ、おっけー任せなさーい」

 

 などと人差し指を立ててお任せとなった。その店長は店の奥に引っ込む前に、改めて男衆2人をまじまじと眺める。

 

「それにしても……さりーちゃんも殿方連れ歩くようになったのね。しかもイケメンで片方外人さん」

「僕達同じ学校の友達です。沙莉寿ちゃんとは仲良くしてもらってます。今日は荷物係を買って出ました」

「おやまぁ」

 

 さらっと返すシャルに微笑ましく3名を見やる店長。荷物係の話は本当である。更に対抗して一夏も付いて来てこの面子となった。同じ学校という辺りでニュースに取り上げられたIS学園の男子生徒2人だということに店長は察したが、そこはおくびに出さなかった。彼らは今プライベートなのだ。

 シャルはふと気になって沙莉寿に一つ聞いてみる。

 

「そういえば沙莉寿ちゃん店長さんと知り合いなんだね」

「あぁあの店長? 元レディースの頭やってた人でな、その頃からの付き合いなんだわ。今は引退して去年ブティック開いてんの」

「そっちのレディース? なかなか凄い経歴だね」

「ま、今が良ければいいのさ」

「言えてる」

 

 特に過去は語らない。やたらめったら不良の武勇伝をひけらかすのは格好悪い小物のやることである。

 

 店内をその場で一周して眺めた一夏は、沙莉寿に質問してみた。別にシャルに対抗しようって訳じゃない。

 

「なぁ沙莉寿、こういう店にはよく来るのか?」

「ぶっちゃけ実家に近いんよ。下板橋だし」

「そうなんだー」

 

 改めて、再度一夏は周囲を眺めてみた。決して広くも狭くもない店内に明るく柔らかな照明、意外とゆったりとしたイメージで商品が陳列されている。客層も落ち着いた雰囲気の女性ばかりだ。基本は大人向けが中心だが向こうにはカジュアルなワンピースもある。

 シャルはアクセサリー類を物色していた。幾つか買って行く模様だ。

 

「何かこう、俺の知らない凄い世界なんだな」

「世界は広いやね」

 

 一夏の方を見るともなしに、沙莉寿はしみじみと呟いた。

 

 そうこうしている内に、在庫から商品が出揃い、店長から手提げの紙バッグが手渡された。

 

「はいこれ。そういえばこの先にベヒ美ちゃんが引退してアイス屋の店長やってるから寄っていってね」

「店員じゃなく店長とはまた。……まさかモヒカンのままで接客してないよな?」

「ないない」

 

 想像したビジュアルに沙莉寿がドン引きしつつも、男衆2人を伴って出口へ向かう。

 即シャルがそっと沙莉寿の手を取り荷物を自分から持った。気付いた一夏が出遅れた自分にちょっと悔しそうな顔を浮かべていた。という局面を眺めていた店長は、

 

「青春とは、青い春だ」

 

 と某巨体なプロレスラーの格言じみた言葉を呟き、微笑ましく見守っていた。

 

 

 帰る前に3人はすぐ近くにあったアイス屋に寄り、3人で店舗前のテーブル席に腰かけ小腹を満たした。

 幸いにも例のベヒ美ことベヒーモスカズミ改め花純ちゃんはベリーショートのカワイコチャンだった。ついでに店員はマッシュのイケメンである。

 

 アイスをカップから掬っていたシャルが、ふと朝からずっと気になっていたことを沙莉寿に聞いてみた。

 

「ところで沙莉寿ちゃん外出届出してないよね?」

「え? それいいの?」

 

 一夏が驚くのも無理はない。厳しいと言えば厳しいが、セキュリティの観点からしてこういうのは疎かにするものでもない。

 

「まぁ下りないから勝手に出たよ」

 

 さらっと酷い事実を語る。彼女に済まないと思う気持ちは砂金一粒ほどもない。

 

「下りないってひでぇなぁ……」

 

 一夏としては内幕までは知る由もないため、学園に対し理不尽さだけを感じる他ない。実情は大人たちの非常に切羽詰まった、頼むから大人しくしてくれ的な何かと呼ぶべきであろう。

 

「お役人だって色々大変なのさ。帰ったら一緒に謝りに行こう」

「俺も付き合うよ」

「悪いな」

 

 などと野郎2人からのフォローが入った直後、バッグに入れていた沙莉寿のスマホから着信音が鳴り響いた。

 画面を見た沙莉寿はまったく悪びれずに一言、

 

「あ、大千冬ティーチャーからだ」

「千冬姉……」

 

 着信音が凄ーく怒っているように一夏には聞こえた。錯覚である。

 

 

 尚夕方には、例の巨大生物があらゆる攻撃を跳ね返しIS部隊すら殲滅させていた。更に自爆によってエジンバラという地名は地球上からまっさらに消滅した。

 

 

次回:18 雪羅乱舞 ~ゼロサマーズ・ディザスター~(仮)

 




・サブタイ
 某国の音楽から。何となく。

・宇宙生物
 撃たれると喜ぶ。

・沙莉寿
 下板橋からちょっと下った辺りに乗蓮寺(東京大仏)がある。沙莉寿と千冬は乗蓮寺にごめんなさいした。

・ブティック
 元はコンビニの予定だったが、世界が広がりそうな題材にした。高田馬場はブティックの激戦区。そして人にだって歴史あり。

・次回
 次はあのヒロイン。

 些細な話ではあるが、創作をするにあたって、引き出しがオタクネタしか無いと読者に思われるのは嫌だなってのはささやかながらもある。
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