ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】 作:梵葉豪豪豪
突然だが一夏の「白式」が二次移行した。ざっくり説明すると形と諸元が勝手に変わった。
ついでに機内に表記された名称が「雪羅」(せつら)と変更されていた。めんどくさいにも程がある話である。
一次移行、二次移行とはISコアに搭載されたAIが蓄積された情報を元に自ら最適化を施す現象なのだが、何分勝手なので、整備する側にとってはふざけんな馬鹿な機能として不評の元になっている。
その「雪羅」ではあるが、左腕に荷電粒子砲と爪が追加されていた。
二次移行とはいっても全くのゼロから生み出している訳ではなく、例えば「白式」の表面に残されていた鉛筆描きのマーキングは離れたり近付いたり変形したりしているし、また荷電粒子砲も機構そのものは武器を格納する「バススロット」の中に巧妙に隠されて封印されていた。
問題はその荷電粒子砲であり、ISの命綱であるシールドの電力に直結して大量に消費しながら撃つという勝手を間違えたスーパークソ兵器であることが判明した。自分の脚食うカニじゃあるまいし。所詮機械の考えるアイデアだから馬鹿だね人間に優しくないね! という身も蓋もない統一見解の元、整備系女子らにより専用の大容量バッテリーが追加されることとなった。全会一致の即決である。
……という苦労話を一夏から振られた沙莉寿としては、それはご苦労なことだくらいしか返しようがなかった。安易に頑張れと言って欲しかったか。
とりあえずは平和なIS学園の敷地。グラウンドでは一夏ら1組が授業を受けている。
ここでIS学園についてかいつまんで説明しておこう。
国立で高校というと大学の付属校か高等専門学校(高専)かになって、IS学園が既存のいずれとも当てはまらないため、関係法令を立ち上げた後大学法人に似た体系として設立された。
従って正式名称が「国立高等学校法人IS学園高等学校」という何ともややこしい代物になっている。また独立行政法人なのは外部からの資金を得やすくするためでもある。ついでに国税局と労働基準監督署のお世話にもなるのでズルは許されない。
千冬らは人事院勧告に基づいた給料体系の教職員となるのだ。千冬が教員免許もしくは学位がなくとも教員になれたのは、学校の特殊性故に設置基準で敢えて必須としなかったからでもある。
という背景は特に覚えなくともよろしかろう。ただ千冬が教員としてやっていくために死ぬ程勉強したというのは覚えておいて欲しい。特にラウラは。
突然上空で破裂音が響いた。知る人が聴けば音速を突破した音だと判るが、ともかくその音の主は空気を切り裂きグラウンドへと急停止し、降り立った。地面にこそ直接穴を空けなかったものの、砂埃は盛大に舞い上がった。黒いISである。バックパックが蝶の羽根のような形状を取っている。
「何だァ!?」
四十院神楽とお互いハイキックのポーズで演舞のキメを取っていた一夏は、そのポーズを器用に固定したまま落下物というか侵入者に注目した。
件のISはハンドスピーカーを取り出すと、校舎に向かって叫び出す。どうも好意的な様子ではないらしい。
『織斑一夏ァ! 出てこい! 貴様を殺しに来た!』
「いきなり物騒だなオイ!」
そんなこと言われて平然としていられるのは自身の姉(ゴリラ)くらいしか知らない一夏である。周囲がざわめく中、意中の一夏を見付けたのか、黒いISが向き直る。
『そっちか!』
黒いISがハンドスピーカーを仕舞い、すいーっと地面を滑って1組に近づいてくる。
だがその間に、ゴリ……千冬が立ち塞がる。教師の教師たる毅然としたスタイルである。着ているのはジャージだが。
「そこのお前! ここは関係者以外立入禁止だ、許可がないのであれば出ていってもらうぞ」
千冬を見るなり、バイザーで顔を隠した黒いあいつは、はっと馬鹿にした態度を取り更に肩を竦めて露骨に見下してみせた。
ところで、背後から見た千冬はお尻がキュッとしてカッコイイねと思った一夏とラウラは自重していただきたい。
「何度も言わせるな、私はそこの織斑一夏を殺しに来ただけだ。その後は貴様だ織斑千冬」
「だったら尚更駄目だ。出て行け」
名指しで殺すと言われても動じない千冬は実にブリュンヒルデだった。
それはそれとして一夏が問いてみる。
「そもそもあんた誰なのさ」
「私の名はマドカだ」
黒いISがバイザーを跳ね上げると、千冬を10代に若くした顔がそこにあった。周囲はどよめくが、ぶっちゃけ本人が目の前にいるのでただのそっくりさんと周囲からは見える。
「アンタの妹か?」
いつの間にか千冬の背後にいた沙莉寿が突っ込むが、千冬からは、
「それは断じてない」
一瞬の間の後言い切られた。千冬に心当たりがないこともない訳ではあるが、鉄面皮を被れるのがある意味汚い大人の大人なる所以である。
「千冬姉とで家族2人しかいないんだ、他にいる訳がねぇ!」
という重い過去をさらっと晒け出す一夏はもうちょっと他人の目を気にした方がよろしい。
「貴様らがそう言うのならそうなんだろう」
黒いIS改めマドカは非常に回りくどい言い回しでほのめかし、にやついた。マウントを取った気分にはなれるがおよそ他人に好かれない態度である。
「後それと、さる人からの依頼で銀髪の女をブッ殺しに来た」
「私かぁ!? 何の恨みがあって!?」
ラウラが自分を指差し叫んだ。が、恨みを多く買う方の銀髪、ということでクラスメイトは一斉にラウラ……ではなく千冬のすぐ後ろに立っている沙莉寿の方を向いた。ラウラに全くないとは言わない。
「おいどっちだ」
マドカとしてはクライアントからいい加減な人相しか伺っていないらしい。無駄に困る。
「やるんならゴタゴタ言わずさっさとかかってこいやそっくりさん」
「ややこしくなるから煽るな」
千冬の前に出て腕組みしつつ煽る沙莉寿を諫める千冬。こういう件で彼女へ恨み骨髄の筆頭と言えば即あの人物が浮かぶ。
「……お前、篠ノ之博士の関係者か?」
「ノーコメントだ」
ムッとした態度で言い返すマドカ。そっくりさんだけにちょっと可愛い。
「当たってんのか!」
一夏が特に根拠もなく突っ込む。真実当たっているのが酷い。そこへ沙莉寿が呆れ顔で横槍を入れた。
「何あのオバハンやり返されて根に持ってんのか」
「いや普通根に持たれると思うなぁ?」
谷本癒子が至極真っ当なアンサーを呈した。脚撃たれてIS毟り取られて怒らない人がいたらそれはもはや菩薩の域だろう。
突然マドカの横合いから巨大な何かがぶつかってきた。マドカは直前で大剣をかざし押し留める。巨大な何かは、どこかで見たことのある巨大サーフボードだった。更に上には「十鬼丸」を装着した簪が膝立てして乗っている。
「何だ貴様!?」
「授業中。ウルサイ」
ちゃんと担任から許可を得た上で教室の窓から飛び出してきたのだ。相方とえらい違いである。
箒がどうにも見覚えのあるそれに関して聞いてみる。
「あーそれって臨海学校での……」
「拾った」
「酷い」
当たって欲しくはなかった箒である。ジェノサイドと数の暴力を思い出して、夏なのに寒気を覚えてしまった。
その巨大サーボードならぬドローンと大剣は火花を散らしつつ拮抗していた。
「先に貴様を潰してやろうか」
「やれるものならね」
遂には大剣がドローンを弾き飛ばした。飛ばされたドローンと簪は難なく着地する。
そこへ千冬がいい加減呆れつつも一夏へ指示を飛ばした。
「テロリストだか殺害予告の犯人だかの要求を呑む道理はない。織斑、とっととこいつを倒して拘束しろ。他の専用機持ちもフォローと拘束に廻れ」
「いえっさー」
尚箒は束のISを臨海学校時に既に千冬ら教師陣に預けてあるので専用機持ちではない。皆は事情を知っているだけにその行為には好意的に受け取っていた。なので、援護できないことに忸怩たるものがないとは言えないが贅沢を主張せず大人しく引き下がって見ていることにした。
マドカ・一夏の両者がISを纏って対峙する。マドカはプラモデルでありそうな大剣、一夏は日本刀じみた「雪片弐型」を構えた。結局どちらも斬り合いの近接戦となる。
「私はあの人に私の身柄と引き換えに亡国機業を丸ごと潰された。もう貴様らを殺す以外何も残っていない」
「そんないきなり固有名詞出されても判る訳ねぇだろ!」
一夏の突っ込みもごもっともな話である。マドカとしてはつい心情がポロッと口に出てしまっただけのことではあるが、ちゃんと説明しないと物事が正しく伝わる道理もない。
それはともかく、誰が開始の合図をすることもなく、2人はぶつかった。叩き付け合った剣同士、火花が飛び散る。
「我が『黒騎士』に勝てると思うな!」
「いや黒いけどさ、蝶みたいな恰好してんのに騎士かい」
「やかましいわ!」
一応気にはしていたらしい。
結論を先に述べれば、一夏の辛勝だった。マドカの長大な大剣というリーチの差で剣劇は圧倒され一夏のバリアは大幅に削られたが、懐に潜り込んでの鍔競り合いの最中、左腕に仕込まれた例の荷電粒子砲をゼロ距離かつ予備動作なしで連射したのだ。マドカがくの字になって地面へすっ飛んでいく中、更に追撃で撃ちまくって相手のシールドを全部削った。専用大容量バッテリー様々と言える。
結局ハイスペックに頼ったごり押しで勝った辺り、一夏も箒も微妙な表情にならざるを得なかったところである。とはいえこの件は勝負をしていたのではない。犯人を捕まえるための行動なのだ。
「ふん」
随分と器用に、ISを装着したまま胡坐を掻くマドカ。仮にも年頃の男子の前で、ISスーツのような薄手の物を着たままお股おっぴろげはやめていただきたい。と女子一同は言いたくなった。
「綺麗に負けた。もう好きにしろ」
「いやアニメや漫画じゃないんだからそんな事言われても困るぞ」
一夏が本当に困った。だって君殺害予告した犯人じゃん? と口にしたが彼女にせせら笑われた。とことん見下されている。
そろっとマドカの背後に立った簪が、ISの背面にあるマルイチのツマミを何の躊躇もなく捻った。ガシュッと装甲の一部が開き、ISコアが見えた。こういうものは概ねどれも同じレイアウトと構造である。物理的なセキュリティは案外いい加減なものだ。
「あっ! 貴様何をする!?」
ISコアを掴み引き上げた簪は、そのまま沙莉寿に投げ渡した。
「ほい」
「ほいさ」
ISコアを手のひらに乗せた状態で、手のひらからビームをぶっ放した。遥か上空に光条が向かって行く。当然ISコアは綺麗に蒸発した。
コアからヤッター! という声と腕を水平に広げたガッツポーズを沙莉寿と簪とシャルは見届けた。そういうドラマあったねとは簪。
「あ――――!」
マドカが胡坐を崩し光に向かって手を掲げておたつく。ISコアを抜かれたISはバッテリーで関節は動かせるがそれ以外の機能はダウンする。
「何てことすんだ! 大事なコアだぞ!」
四つん這いのまま沙莉寿を指差して激高し怒鳴り散らすマドカ。対する沙莉寿は平然としたものである。
「ほいすっぱり消えたぞ」
「貴様を真っ先に殺すべきだった……!」
「殺す殺すうるせぇなお前は。所詮あのオバハンの手下だろ、三下の木っ端な不良レベルやん」
「貴様に断じられる程安い過去を送ってはいない!」
誰であっても自分が蔑ろにされるのは嫌なものである。
尚千冬は事情は察するがそれはそれこれはこれでちゃんとISコアを渡して欲しかったぞという威殺す目を沙莉寿に向けていた。
「で、どうするつもりだ? 何ならここの生徒にでもなってやろうか織斑千冬?」
気を取り直し、だらしなく千冬の方を向いてマドカが挑発する。微妙に現実逃避でもある。生徒云々はそうなったらいいなぁという願望が微妙に漏れている。ぶっちゃけアニメや漫画の見過ぎである。公立の教師や校長に一存で生徒の入学を決める権限なぞある訳がない。
「いやお前が世話になるのは警察だ」
「何だと!?」
丁度遠くからパトカーのサイレンが鳴り響いて来た。
こうしてISは分割されて複数のバンに載せられ、マドカはパトカーの後部座席から控えめに言っても縋るような情けない表情で外を眺めながら、警察にお持ち帰りされた。ま、そりゃそーだよなー、とは一夏の弁。
一部の警官は残って千冬から事情聴取を取っている。
暇になった沙莉寿は、ドローンの側面から引き出しをせり出すと、中に保管していた飴玉を取り出した。クラスメイトも我も我もと群がる。
「おいそこ、授業中に物を食うな」
「ちっ」
世の中そう甘くなかったようだ。
そんな中、セシリアとシャルが一連の末路を並んでぼーっと眺めていた。
「結局何だったのでしょう?」
「暑くなったからかな?」
英国やフランスからしたら東京近辺の夏はとってもくっそ暑い。
尚、警察署ではマドカの身元引受人と称する少女が現れたが、マドカ同様身元がはっきりしないため揉めに揉め、遂には乱闘騒ぎになったという。
次回:19 WE ARE THE ~菖蒲の道筋~(仮)
・IS学園
辻褄を合わせてみた。
・マドカ
学園テロリスト。登場前に帰るとこ亡くしたガール。
・恨み骨髄ウーマン
今頃下半身を培養液に浸けて不自由しているであろう。
・ISで胡坐
ISなら座禅しながら浮遊というヤバい案件も実現可能。