ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】 作:梵葉豪豪豪
イギリス料理は既に改良を続け、ロンドン五輪以降は見た目もかなり重視するようになってきている。
現在でこうなので、近未来である作中でイギリス料理が~とするのはネタとして無理があると判断。
『俺、筋肉ケ○カスくん!
ヘルスのユウマくんにー!
俺の中にスイカを……てとねだったらー!
殴られたー!』
などと抜かすノートPC上のネットTV番組を見てしまった沙莉寿は、歯ブラシを噛んだまま苦みまくった顔をした。
ここは沙莉寿と簪の同居する寮部屋。起き抜けにこんなモノを見せられた彼女は、画面を指差しながらうんざりとしつつ簪に聞いてみた。尚画面上のこんなモノは路上のチャラ男とガッタイガー!していた。
「お前いつも朝っぱらからこんなモン見てんの?」
「なかなか素敵だよね」
「お前の美的感覚に今疑問が芽生えたわ」
普段TVを観ない沙莉寿にとっては嫌なカルチャーショックである。満面気色な友人のセンスが欠片も判らない。これを観た後で朝食を摂らなければならないというおぞましい事実付きで。とはいえ2日で慣れた。人間そんなものである。
「沙莉寿ー! 開けてくれー!」
突然ドアは叩かれるわチャイムは鳴らされるわのドッタンバッタン大騒ぎがやってきた。もはや爽やかでも何でもない朝となった。
「何だ朝っぱらからうるせー」
開けたら一夏がいた。いやに焦っている。
「なぁ匿ってくれないか? ちょっとうちの部屋で色々とあって……う!?」
沙莉寿は今むっつりした顔で歯ブラシを咥えている。一夏が視線を下ろすと、ブラウスを羽織り……上と下は履いていなかった。そしてドールのような白い肌。尚夜中脱がしたのは奥にいる友人である。
蹴り飛ばされたむっつり君が廊下の天井にめり込ませられつつも垣間見た生えてなさにむっつりのむっつりべくなるかなになったのは沙莉寿のせいだ。後に剣道少女箒(巨乳剛毛)は語る。
朝の教室である。昨日の騒ぎの割にかろうじてクラスが平静を保っていられるのは、千冬の訓練が行き届いた良い傾向である。ということにしておくべきであろう。
そんなガニー軍……千冬先生によるHRのお時間だ。
「さて織斑、お前には専用機が支給されることとなった。理由は立場上語るまでもないことだが察しろよ?」
専用機って何ですかと馬鹿丸出しな質問をしなかった程度には一応真面目に勉強はしたつもりの一夏であった。それに史上初の男性操縦者なのだ。恐らく専用ISには計測機器が山程積まれて重量3割増しとなっている。とはいえ一応質問もある。
「先生、沙莉寿、いや夕立さんには専用機ないんですか? 強いんですしこれから試合もありますし」
「あぁその話な、奴に関してはメーカーに軒並み拒否された。理由は語るまでもないよな夕立?」
「いや別にいらねーし。私が何かした訳でもねーし」
彼女は頬杖をしたまま気怠そうに手を振って答える。その罪の意識のひと欠片もなさそうな態度に、千冬はこめかみを揉みほぐし沙莉寿を睨んで返した。
「そうか成程何かした訳でもないか、よし貴様が今まで倒壊させてきた建物の数を言ってみろ」
「うっせー渋谷の3軒はあんたと自衛隊やん」
「貴様口で勝てないと思って口で自爆テロやる気か?」
「丸井の看板、ISの肩に9番て書いてあった自衛隊のオネーサンがバスバス撃ち落としてたぞ、メッチャ嬉しそうに」
「あれはあんなとこに突っ立ってたお前も悪い。後その隊員は頭の病院に行ったから安心しろ」
日本の防衛は大丈夫なのか。ちょっとどころかかなり心配になってきたクラスメイトである。
そして最初の授業から4日後の放課後。1組のクラス代表を決める対抗試合と相成った。月曜日の入学式から金曜日の本日に至るよう、なるべく迅速に物事を進めた結果がこれだ。山田先生が頑張ってアリーナの予約を押さえた功績とも言える。
しかし一夏の専用機・白式が納品されたのは今日この放課後である。メーカーである倉持技研はここ数日不眠不休で仕上げ、控えめに見てもよくやったと言えるだろう。そもそも入学に間に合っていなかった時点で駄目だという点には皆目を瞑っていた。
更に一夏本人が着込んでのフッティングその他諸々をしなければならないが、時間が押しているので試合しながらせざるを得なくなった。その様子はさながら、
「実にグダグダでアニメ的ドタバタでざまぁ」
「何という心にもないことをマイフレンド」
待機場であるピットにて、簪の個人的な私情の入った毒舌と適当な突っ込みの沙莉寿に、箒の片眉が2cm上がった。更に椅子の背に腹ばいに抱えた沙莉寿とその背に被さる簪の超だらけ……リラックスした態度に、箒は呆れて突っ込まざるを得なかった。多少は怒りも籠っている。
「君、やる気、あるのか?」
「ねーよ」
「……」
一言で終わった。ならいっそ帰れしと言いたくなったが箒は鉄の意志で我慢した。
「俺はやる気あるぞ、沙莉寿! 箒! 鍛え直して勘も取り戻したし!」
いつぞやの朝以来沙莉寿の中で婬者むっつり君と名付けられていた一夏は、ゴツイ白式を着込んでサムズアップしていた。ちなみにISは装着すると物が克明に見える。フルアーマーむっつり君の誕生である。
公平を期すため管制室に篭っている千冬と山田から試合開始の連絡が入る。
「では行ってくるぜ!」
「応! 頑張れ一夏!」
「……」
三者三様というか、沙莉寿は全くノーリアクションのまま。かくして一夏は飛び出していった。この実力的に負けロードを。
「……さて、」
箒は沙莉寿に向き直り、ここ数日ずっと気になっていたことを訪ねてみた。割と真剣である。誰だお前の簪についてはとりあえず無視しておく。
「お前……一夏に気はあるのか」
「ンな訳あるか見て判るだろ」
取り付く島もないというテンプレを見てしまった。
「いやだって……一夏はあれ程お前に構いまくってる感じがするし」
何せ一夏は沙莉寿の名前を何でだって思う位連呼し過ぎでもある。沙莉寿にとっては迷惑以外の何者でもないし、箒にとっては何で他の女に構うしと、お互いが絶妙に噛み合わない。
「私みたいなタイプには男は気安いってだけ。その程度の話だよ。そんなに奴に気があるならとっととヤっちまって体で引き止めとけ」
「う……それはそうだろうなぁとは薄々思ってはいたさ……」
甘酸っぱい恋に恋するサラダな女子高生に竿役おっさんの如き肉食の何かを突き付けられても困る。そして箒の方を全く見向きもしないで語る沙莉寿の態度に箒が若干イラッと来てもそれは仕方のないことではある。
だが試合が始まったので、沙莉寿を放っておいて箒は試合状況を映すモニターを食い入るように見入ることにした。応援したり歓声を上げたり落胆したりとサッカー生中継を見るサポーター並みに忙しい。
一方の沙莉寿と簪は猫の如く重なり合ったままカヌレを食ったりスマホをいじったり、箒とは対照的にひたすらだらけていた。
そして30分後。
「ごめん! 負けた……!」
かくして一夏は帰ってきた。僅差で負けた。相手はプロオブプロなので僅差というだけでも充分とは言える。今日の負け男も明日は狼かもしれないのだ。ついでに白式は何か形が変わっていた。めんどくさい兵器である。
更に10分後、千冬から沙莉寿へアナウンスが入る。セシリア側の準備が整い次第次の試合に移れるのだ。
『よし夕立、オルコットと対戦だ。出ろ』
「うぃーっす」
『それと……撃つな壊すな殺すな』
「やれってフリかそれ」
『ンな訳あるか』
何なんだこの問題児これだから不良は嫌いだと言いたくなった箒だが、怖いので小声で囁いてみた。幸い誰も聞いてはいなかった。
用意されたIS・打鉄を沙莉寿はしぶしぶと装着する。普通はISスーツという特殊なアンダースーツを着てから行うものだが、今そんな物は持ち合わせていないので制服のまま着込むことになる。
打鉄は、言ってしまえば日本製の微妙な機体である。何が微妙かと問われたら大体の項目が特に他機種より優れている訳ではないという実に微妙を体現した代物だ。しかし丸井の看板は撃ち抜ける。
沙莉寿は首の凝りを解しつつ浮遊する。各部スラスターを上下左右と振り動かして正常に作動することを確認した。装着を手伝った簪は打鉄の背中を軽く叩いて快く送り出す。
「がんばー」
「さてさて、とりあえず軽ーくヤってみますかね」
「沙莉寿! 頑張れ!」
「安易に頑張れとか言うな」
一夏の応援は無下にされた。友人とそれ以外との扱いの格差は理不尽な程でかい。
アリーナ中空にて、セシリアと沙莉寿は向かい合う。正直セシリアの機嫌はあまりよろしくない。クラスの揉め事なので、観客席はそんなに人がいる程でもない。男性操縦者目当てが多かったためか、前試合は多少多かった。
「正直あなたのようなバーバリアンは好きになれませんし敬意も持てませんわ」
「随分と直球だなおい」
「一夏さんのように熱く向上心のあるお方と違って、力を持て余す考えナシのあなたは人の上に立ってはいけない存在でありますのよ、お判りですか?」
段々スカシ目になっていく沙莉寿。どいつもこいつも無駄に敵意を振りまいてくる。自業自得とも言う。
「いっそ降参でもなさいませんこと? 負けても恥、逃げても恥ではございますが、少なくとも痛い目には遭いませんことよ?」
セシリアとしては怒らせて判断力を鈍らせ有利にしたい算段ではあるが、相手がブリュンヒルデと互角だったと聞いている以上、できればやり合いたくないという本音も多少はある。多少は。
長~い溜息を吐き、沙莉寿は地表に降り立った。無言で、ISの両腕を解除し放り投げる。更にヘッドセットもむしり取り、そこら辺に放り投げた。終いには脚部を解除して地面へと飛び降り、ゆらりと立つ。残った脚部とバックパックその他は自力でバランスを取って突っ立っている。あまりの謎の行動に、見ていた観客がざわつく。一夏と箒は思わず顔を見合わせ、簪はただにやついている。
某ヒーローの変身ポーズの如く脚を大開きし右手を掲げて、その右手をセシリアに向ける。もし沙莉寿の表情が見えていれば、悪魔の笑顔とはこういうものだ、とその人は語っただろう。具体的にはセシリアとか。
管制室からアリーナ全体に向かって放送が流れる。生徒が滅多に聞かない位千冬が焦った態度で怒鳴りつけてきた。
『夕立やめろ絶対やめろ! 死人出す気か!』
「うっせーぇやボケェェ!」
『客席にいる奴! 全員速やかに逃げろォォー! オルコット! 意地でも遠くに逃げろ! バリア壊してでも逃げろォ!』
「何なんですの何なんですの!?」
突然に逃げろと言われても誰もすぐに動ける訳がない。ただまごつくばかりである。
「死にくされぇぇえー!」
『やめろオォォー!!』
そして彼女の右手から、巨大な光の奔流がセシリアに向かい一直線に噴き出した。いわばビームである。その直径300m超。
ノーコン気味なのか頑張って避けた成果なのかセシリアは蒸発することなく、撃墜されて墜落していった。その向こうにあるバリアは一瞬で蒸発してしまった。
墜落するセシリアを追いかけて、ビームの矛先も降りていく。その軌道上にあった客席その他諸々の施設は丸ごと蒸発していく。
全てが収まったとき、そこにあったのは盛大にえぐり取られた客席と地面、熱とオゾン臭であった。幸いというかたまたま人間は蒸発していなかった。何が起こったかようやく把握した客席の連中は、沈黙の後、悲鳴を上げ泣き出し逃げ出しの阿鼻叫喚と化した。アビィィ。
実にすっっっきりした沙莉寿は、煙を吐いて地面に転がっているセシリアに向かって悠然と歩いていき、右手を掲げた。セシリアには笑顔で迫る彼女の口元が裂けた何かに見えた。
「さぁーて第2射イってみよーかー!」
「やめてとめてやめてくださいましー!」
「何だ駄目かつまらん」
つまらなそうに手を納める。
セシリアの機体は左側面が蒸発し、自身の手足が露出する程になっていた。戦闘継続など無理な相談である。そうでなくとも彼女の心は明後日の方向に折れていたが。
不幸中の幸いなのは、これが放たれたのが太平洋の方向だったことである。もし立つ位置を間違って本州側に撃たれていたら、東京に直撃し経済的にさよならジュ……日本となっていたであろう。
こういう問題児を隔離するためにIS学園を利用した日本政府ではあったが、世の中駄目な物は駄目という言葉もある。
ちなみに、太平洋側に撃たれたことによって、たまたまグアム近辺を試験飛行していた次世代試作IS・シルバリオ以下機密は不幸にも掠めてしまい全身が細切れにされゴミと化した。
「「人間なのか……人間のやることなのか!?」」
何故か全く同じ言葉をハモりながら、一夏と箒は口をあんぐりと開けて戦慄していた。同時に世の中の理不尽さを知った。尚簪は大惨事のアリーナを指差し盛大に笑い転げていた。
『貴様……! とうとうやりやがったなこの野郎……!』
この場でこの問題児に唯一対抗できるかもしれない人物・千冬からの怨嗟の声が放送を通じて響いてくる。煽る新しい矛先を見つけた沙莉寿は管制室の方向に向き直り、人差し指を千冬に向けてちょいちょいと自分のい方へ弾く。来いやってゼスチャーだ。更に舌まで出したクソナメた態度に、千冬のこめかみが音を立てて盛り上がっていく。尚同じ管制室にいる山田せんせぇは既に泡を吹いて倒れていた。
『よーし貴様そこを動くなよ!? 今から向かってやる!』
「いいねー東京大仏戦の決着行くかー!」
板橋区にとって著しく迷惑極まりなかった過去の対決の続きをやろうというのである。アリーナひいてはIS学園崩壊の危機となった。
尚この対決は素敵な用務員のお爺様が体を張って止めて未遂に終わった。
次回:03 簪's baroque ~カンザシ→カーン→カンバーバッチバンザイ~
・○ッ○イガー
あのOPの歌詞が今では隠語に聞こえる。
・沙莉寿
ヤンキーというものは大抵めんどくさい人種である。
・一夏
生えてなさなとこの内側を想像して一夏の零落白液がとか書こうと思ったけどやめた。
・箒
下はそうだろ? と勝手に決め付ける。
・簪
白式についてざまぁ言いたくなる人の筆頭。次回のタイトルは曲名が入っているが判る人は判る程度で。
【挿絵表示】
・シルバリオ・ゴスペル
速攻で退場。後継機は決めていて、名称はシルバリオ・ゴスペルⅡアンダーテイカー。形状は、IS好きな人は多分怒るんじゃないかな……て代物。
・東京大仏
あの辺に出没したキ○ィちゃんのブラジャー着て徘徊していた変態は是非とも不幸になっていただきたい。