ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】   作:梵葉豪豪豪

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20 Les ENFANTS se reveillent ~私の神の手、神の心~

 学園で二学期が始まった頃から、世界では大規模な異変に見舞われていた。空から降る巨大生物が頻繁に出現するようになったのだ。数日に1度の頻度で、その度に都市は破壊され、IS含めた兵器は壊滅し、経済にも悪影響を及ぼしていた。

 ISを擁する国家からは、事態に対処するために篠ノ之博士から更なるISコア、更なる技術を求める声が頻出していった。

 それでも世界は悪意で廻っている。

 

 

 IS学園、沙莉寿と簪の寮部屋にて、沙莉寿、簪、シャルが打ち合わせをしていた。

 彼女らは数日の後に重力子の子供たちの元へと合流し、巨大宇宙生物に対処する。そのためにはこの学園を休学することになる。夏休みに既に皆で取り決めていたプランだ。

 シャルが確認のため説明を行う。

 

「僕たちがやるべきことの一つ、まずは宇宙生物を送り込んでいる何者かの本拠地、月面に潜んでいる宇宙船を制圧する。奴らから技術を奪う」

 

 沙莉寿、簪が頷く。今判っているのは、月の近辺からワームホールを介して巨大生物が送り込まれていること、その中継か観測のために月面に宇宙船らしき人工構造物があることである。

 

「そしてもう一つ、篠ノ之束博士を見つけ出し、抹殺する」

 

 再度彼女らは頷く。これは彼ら子供たちの復讐であり、ケジメでもある。居場所は既に特定してある。

 

「行こう」

「うん、行こう」

「応」

 

 円陣を組む、などという真似まではしないが、ソファに座ったまま、皆親指を立てた。

 

 

 翌日、職員室にてシャルは千冬に、3人がデュノア社へ移るため休学すること、日仏の関係各所への根回し・説得は既に終えていることを告げた。

 

「どうしても今でないと駄目なのか……?」

 

 千冬としては急過ぎて驚く他ないが、巨大生物の脅威を止めるためとシャルから説明を受けても実感が湧かなかった。相手の手回しが良すぎて、自分たちが介在する余地もないことは認めざるを得なかった。

 

「そうか……」

 

 ただそう告げて認める他なかった。

 

 ただ、その時の話が漏れ伝わったのか、3人が休学する、巨大生物と戦うという話が一部生徒に噂として伝わっていた。

 

 

 夕暮れの廊下にて、一夏はシャルに遭遇する。この場には他に誰もいない。

 

「シャル!」

 

 シャルを壁に追い詰めて、壁に両手を突く一夏。いわゆる壁ドンだが、生憎とシャルの方が一夏より身長は高い。どうしても間抜けな構図になってしまう。

 一夏は焦るようにただ問い質す。

 

「休学って、どういうことさ!? 何で……?」

 

 予想はしていたため、シャルは涼しい顔でただ受け流す。

 

「君が気にしているのは沙莉寿ちゃんだろ?」

「あいや、そうだけどさ……でも何でだ?」

 

 図星を突かれた一夏としては認めざるを得ない。そもそもこの場に悪意を持って問い質したい訳ではない。

 

「噂、聞いてるんだろう?」

「あぁ」

 

 夕暮れに映るシャルの顔は美しく、オッドアイの双眼がただまっすぐに、一夏に告げた。

 

「僕たちは天から降るものと戦うんだ。生き残るために」

「でも、何も沙莉寿まで巻き込むことは」

「彼女は元々僕たち側の存在だよ。そして彼女の意思でもある」

 

 そこに一夏の介在する余地はなかったと暗に告げている。

 

「じゃぁね、一夏君。君たちとの学校生活、楽しかったよ」

 

 一夏の腕の中を簡単にするっと抜けたシャルは、後ろ手に手を振り、一夏に別れを告げた。

 一夏は何かを掴むように手を差し伸べたが、ただ、何も掴めなかった。

 

 

 その日グラウンドにて、1機のヘリコプターが降着していた。陸上自衛隊機の出迎えである。この件で少しでも主導権を取りたい日本政府の意地が垣間見える。そこへ向かうは沙莉寿、簪、シャルの3名。また千冬が見送りのため彼女らに付いてきている。千冬がシャルに見送りの言葉を述べるが、ヘリの騒音のため叫ぶような様相にならざるを得ない。

 

「済まんな、授業中だから生徒に見送りさせる訳にはいかん」

「お気遣い、感謝します」

「相手が相手だ、無責任に勝ってくれなどとは言わん。ただ、生き残ってくれ」

「善処します」

 

 校舎の窓からは、多くの生徒がその様子を眺めていた。留学生の中で3人の噂を聞き及んだ者、特に祖国に被害が及んだ者については、心中複雑である。その一人であるセシリアは、どうか無事に帰ってくださいまし、とだけ願った。

 

 千冬は沙莉寿に、

 

「夕立」

「あぁ?」

 

 何も言葉を添えなかった。数瞬の沈黙ののち、沙莉寿はポッキーを齧り、不敵な表情を見せただけで何も変わらずヘリに乗り込んだ。

 

 飛び立つヘリを大勢が眺める。千冬はヘリが見えなくなるまでその場に立ち続けた。

 ただ楯無は、敢えて外を見ないように気を張り続けた。そんな彼女をクラスメイトたちは見透かしていながらも、敢えて声は掛けなかった。

 

 

 ヘリが空港へと向かうその途上、1機の白いISが追いすがり、随伴してきた。一夏の「雪羅」である。

『こちらIS学園の織斑一夏、途中まででも構いません、護衛させてください』

『了解、IS学園、感謝する』

 

 ヘリパイロットとの交信の後、一夏はバレルロールし可能な限りヘリの横に着けた。

 窓から一夏の探していた人、沙莉寿の姿が見えた。お互いに目が合う。

 

『沙莉寿!』

 

 叫んではみたものの声が届く道理ではない。

 沙莉寿が何かを喋ったのが見えた。ISの機能でも声が拾えない。言った本人が何でもないことであったとしても、一夏にとってはいつかは問いてみたい言葉となって残った。

 

 

 数日後、アメリカ合衆国会議事堂にて、下院による会議が催されていた。降り続ける巨大生物への対処、それに伴い篠ノ之束にもっと協力を、と議事から外れた声が次第に広がっていく中で、突然それは起きた。人の形した何かが天井から降ってきたのだ。

 それは首のない丸焦げの死体であり、胸や腹に巨大な杭が何本も突き刺さっている。同時にアクリルの透明な箱も降ってきた。その中には樹脂で満たされ前後に3分割された生首が納められていた。明確に人相が判断できる状態になっている。その表情は、何故かを問うようなものだった。

 マスメディアの中継もある中、議会は大混乱を呈し、あるTVクルーとカメラマンは、杭に書かれた血文字による英文を捉えた。

 

『Dr. SHINONONO is DEAD.』

 

 世界は頼れる悪意を一つ失った。それが良かったのか悪かったのかは、後世の歴史家の検証を待たねばなるまい。

 

 

 そして数年後、世の中が激変しつつも、宇宙開発に携わるようになった一夏は宇宙において、彼女と再会した。

 




 当初頭悪い地雷物件のチートオリ主物として始めたこの作品、当初の構想通り何とか終えることができました。ちなみに響~小説家になる方法~の影響は過分にあります。

 ただ、いざ作っていって判ったのは、自分にはキャラを悪役としてアンチ・ヘイトするのは向かないということでした。
 キャラクタというのは基本的に、たとえ作者が何も考えずに作った産物だとしても、作品世界の中では積み重ねた歴史と思想を持ち、関わる現象や言動には意味があるものだと思っています。
 が、いざ自分がそのキャラをアンチにしようとした瞬間、それはただの喋る書割と化してしまうのです。書割を殴って何が偉いのか。他人はどうなのかは知る由がありませんが、少なくとも自分はそうでした。結果、束は正体の掴めない得体のしれない怪物と化しました。
 作中で主人公に対し一夏が惚れたのも鈴音が突っかかっていったのもそこには自身が積み重ねていった人生による厳然とした理由がありますし、マドカが終始あのような態度だったのも自分の中では理由としてはあります。一夏を突っぱねた自衛隊員だってそこには人生を積み重ねた理由があったワケです。自身の表現力という問題も過分にありますが、難しいものです。

 難しさを抱えつつ、創作を続けていきたいと思います。ありがとうございました。
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