ヤンキー・グラヴィトン・アンファンツ【完結】   作:梵葉豪豪豪

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 今回短いです。

 今回登場させたのはあの漫画で一番好きなキャラだから。最新作でのあのブザマさも含めて愛してしまう。



番外編2:PITFIGHTERS ~Hey, Jack!~

 その病室では、一人の白人男性がウェイトトレーニングを続けていた。ウェイトの付きまくったバーベルを片手で壊れたボディブレードの如く振り回す動作をウェイトトレーニングと呼んでいいかは知らない。

 尚彼が病室でトレーニングしているのは、来日して以降殆どが入院の繰り返しでもはや病室が自室と化しているからだ。

 

「ジャァァァックちゃーん!」

「やー」

「えー……どもー」

 

 そんな男汗臭い空間に全くもって無遠慮に扉を開け放って乱入してきたのは、3名の女子高生だった。沙莉寿・簪の馬鹿夫婦、そしてラウラである。

 

「デカッ!?」

 

 彼の2mを越えるガタイに圧倒されたラウラがつい叫ぶ。骨延長手術で伸ばしに伸ばしまくった取り返しのつかない身長は伊達じゃない。伊達過ぎるんじゃないかという意見は聞かない。

 

 彼の名はジャック・ハンマー。カナダ人。日に二度負……挑んだこともある生粋の喧嘩屋(ピットファイター)である。かつて沙莉寿にぶん殴られて吹っ飛んでも踏み留まれた男だ。

 

「焼き肉食いにいこーぜ」

「私奢るよー?」

 

 沙莉寿が実に直球で誘う。金の余っている簪は全部持つ腹づもりだ。

 一方、彼はイケメンマッチョな主治医から「ちゃんと栄養のある普通の物を摂れ」と厳命されて山盛りのステーキをモニュモニュ食いまくる生活を送っている。しかしながら同じ焼くでもジャンル違いの焼き肉も好きである。眼の前で焼く野生っぷりが堪らない。多分血筋だと述べておこう。

 ジャックのニィ……と吊り上がった笑顔はオールオッケーのサインだった。

 

 尚、ジャックを連れ出す沙莉寿と簪は途中、すれ違ったイケメンマッチョ主治医から親の仇の如く睨まれた。

 

 

 ……という経緯で炭火焼きの焼肉屋で件の4名がテーブルをニ角ほど陣取っていた。銀髪碧髪銀髪の美少女3名は片方に、ジャックが向かいのもう片方を占領している。脚がはみ出る程デカ過ぎる故に必然のフォーメーションと言えよう。この異様な見てくれの集団に一部の店員・客が何事かと振り返る有様だ。

 

 そんな彼らの目前には、赤々とした炭火のシュートされた練炭、色とりどり山盛りの肉、そして生ビールのジョッキがある。生ビールはジャックのみである。ついでに沙莉寿も生を頼もうとしたが店員から丁重に断られた。店だって警察に怒られたくない。

 

 ジョッキを軽々と持ったジャックは、顔を上げ大口を開けた。身体に比して相対的にジョッキが小さく見える。開けた口にそのままビールを滝の如く一気に流し込んだ。

 

「うぉっ!?」

 

 あまりの雑かつ豪快っぷりからラウラが木々津克久絵ばりにビックリしたのは当然であろう。思わずのけぞってしまう。もしかして男って皆こういう飲み方するのかと誤解するラウラ。ついでに彼を目撃した店員もぎょっとしてしまう。

 泡まできっちり全部飲んだ後、無表情に鼻と閉じた口からムフーと荒い息が吐き出される。飲みっぷりが無駄に父親そっくりだと指摘する人はいない。知ってたら言いそうな沙莉寿と簪は実に楽しそうに一連の芸を眺めていた。

 

 などとやっている間に練炭に並べられた肉もそろそろ焼けてきた。4人が最初に取るのは牛タン。焼けるのが早く、厚いとなかなか食い難いので薄目に切られた、あっさり味な肉である。

 食い難いつってんのに一気に箸で掬った6枚程重なって厚くなった牛タンをジャックは豪快に噛み砕いた。タレは忘れた。3人娘は微笑ましく眺めつつ、牛タンを丁寧にタレで纏いパクついている。

 

 次にジャックが分厚い骨付きカルビを数枚摘む。ビスケット感覚でシャキサクと骨ごと噛み砕きながら口に入れた。

 

「待ってくれ」

 

 流石にこれにはラウラも冷や汗を垂らしながら手を掲げ突っ込みを掛けた。隣の簪ちゃん絶賛ハツ齧り中に振り返り聞いてみる。

 

「なぁあれ、骨だ、骨だよな?」

「うんそりゃ骨付きカルビだし」

「食うんか……それでも……!」

 

 理解も納得もし辛いラウラである。一方ジャックは何か問題あるかと言わんばかりの態度で平然と次の骨付きカルビを頬張っていた。

 ジャックの知らないことではあるが、腹違いで口の悪い弟も大猿の歯を食っている。ろくでもない血筋であるのは間違いない。

 

 もはや今更だが、沙莉寿と簪はこういうジャックの芸を肴にして楽しむために焼肉を奢った。肴と言っても前述通りアルコールは店から断られたが。

 

 

 程なく時間は経ち、新しい客も来店する。奇しくも一夏、箒、鈴音のチャンバラトリオだった。店員に案内されている最中、一夏が件の4人を発見した。

 

「あれぇ?」

 

 予想外の人物に一夏が4人をつい指差してしまう。箒と鈴音はクラスメイトと鉢合わせしたことよりも、うわすっげーガタイとジャックについ目が行って引いてしまった。そのジャックは上を向き並々と注がれたジントニックのジョッキを氷ごと一瞬で文字通り流し込んでいた。その奇行に3人は引く。

 

「よっ」

 

 沙莉寿がランプを頬張りつつ、一夏らに向かって手を上げた。一夏にとっては彼女と向かいに座るジャイアントキリングとの関係が気が気でない。ただの飯友という説明に心底安堵する一夏。そういう心境は箒と鈴音には見透かされていた。見透かされているという事実を一夏は多少なりとも真面目に考えていていただきたい。

 

「よし飲むか」

「待てきょーだい酒はよせ酒はよせ」

「はい? ……あー駄目だよ沙莉寿!」

 

 沙莉寿がアルコールのメニューを手にしラウラと一夏が慌てて引き止め簪がシーザーサラダに手をかけ、ジャックはウルテを全部纏めてムニュゴリと重厚に噛み砕いていた。尚ウルテは焼きが足りない。

 

 

 かくして3人もテーブルを合わせて、7名様でやいのやいの騒ぎながら焼き肉の宴となった。ちなみに簪とチャンバラトリオとで別会計としていた。トリオは割り勘だ。一夏と箒は学生、一方仮にも代表候補生というエリートぽい地位にある鈴ちゃんだが懐事情はよろしくない。

 

 そんな中一夏はジャックの頑強で巨大な肉体を憧れの目で見ていた。そういう目で見られても我関せずのジャックであったが。

 

 

 尚女性陣は誰一人ニンニクを口にしなかった。傍目にどうでもいい話だが当人たちには大事なことである。

 




・ジャック・ハンマー
 人生というか存在がコントみたいな男。生き恥を食って生きてる男。

・焼き肉
 もはや語るまでもない料理。いや語るところは多い。
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